シナリオ詳細
<終焉のクロニクル>碧岳龍と星に降る竜魔
オープニング
●
覇竜領域デザストルに開いた『ワームホール』は亜竜集落『アスタ』の上空に開いた代物だった。
空から降り注ぐ隕石が大地を叩き、ワームホールからは無数に近い終焉の獣たちが溢れ出る。
影の領域に最も近いワームホールから溢れ出す敵の数は相応に多かった。
とはいえ、その戦線は随分と派手なことになっていた。
亜竜集落の住民たちによる抵抗はもちろんのこと、それだけではない。
覇竜領域は文字通り『竜種』の勢力圏だ。
竜の多くは本来、人類圏へ友好的ではない。塵芥に等しいと考える個体の方がはるかに多いのだから。
そんな竜種が終焉と戦っている理由の多くは結局のところ『世界に滅ばれると寝床が無くなるから』程度のものであるのが大半だろう。
「トレランシア氏からの呼び出しときて何かと思えば……どんな心境の変化なんでス?」
佐藤 美咲(p3p009818)は術式を展開しながら碧髪の亜竜種を思わす美女へと問いかけた。
「別に我は変わっていないわ? ただ……長閑な日々を取り戻すためであれば、仕方のないことでしょう」
「もうそろそろ長めの休暇でももらいたいんでスがねー」
そう愚痴る美咲にトレランシアが笑った気がした。
「トレランシア、ありがとう、手伝ってくれて」
「これは目障りな星海獣を蹴散らすため、ただそれだけよ、霊の子」
クウハ(p3p010695)に応じて、トレランシアはそう応じ。
乱雑に手を終焉獣の群れへと向けた刹那、物理的な衝撃が終焉獣を消し飛ばす。
「それでも、ありがとな」
「そうだよ! 世界が滅びちゃったら困るし、トレランシアさんにお手伝いしてもらえるなら百人力だよ!」
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はそう肯定する。
「そう、お前達がそう思うのなら、それでも構わないわ」
緩やかに笑ったトレランシアはただの亜竜種などではない。正真正銘の龍の一角だ。
イレギュラーズとある程度の友好を見せる龍は、人型の姿を取っている。
「そうそう、霊の子。この衣装、動きやすくて助かっているわ」
そう微笑むトレランシアの衣装は動きやすそうなパンツスタイルになっていた。
「あぁ、喜んでもらえたなら何よりだ」
クウハはこくりと応じて。
「まさか竜が人間となれ合っているとはな」
不意に聞こえてきた声に、一同は視線を上げる。
そこにはワイバーンが飛んでいた。
滅びの気配の濃いそれは、滅気竜の類か。
「星海獣だったかしら……」
トレランシアが爬虫類のような瞳をクワと見開いて睨む。
周囲にいた終焉獣たちが、ただそれだけで見られてもいないのに逃げ出した。
「そんなにも我を怒らせたいのなら、殺してやるわ――降りてきなさい」
「ふん、龍の矜持も無い存在――」
言い切る前に、トレランシアが手を伸ばす。
何事か口走った刹那――強烈な重力に引っ張られたようにワイバーンごと星海獣が落下する。
「ぐ――」
たたらを踏みながら立ち上がった星海獣は、硬質化した皮膚と思しき鎧を纏い、竜尾を思わす太刀を握っている。
亜竜種を思わす完全な人型の姿は成体の証拠か。
「だっさ」
けらけらと笑う声がして、新手が飛び降りてくる。
こちらもまた、星海獣だろうか。
「面倒だから、一応、名前を聞いておくわ、星の獣」
「俺の個体名はラスタバン」
竜の尾を思わす太刀を握る個体がそう短く告げる。
「私はエルタよ!」
けらりとこたえたのは、もう1体の方だ。
「だそうよ、人の子――その星海獣2匹は任せましょう」
トレランシアがそう言いっきり、視線をあげた。
視線をそちらに向けるよりも前に、その理由を理解する。
影が落ちる。ワイバーンのような姿をした影――咆哮が続きトレランシアが全身からぎらりとソレらを睨めつける。
「どうやらお前達の手に余りそうなのが他にいるわ」
刹那の内にトレランシアが光に包まれ、本性を露わにする。
美しき碧の鱗をした、すらりとした長い龍が、グンと伸びて空へと舞い上がる。
「滅びを浴びただけの亜竜風情が、龍を見下ろすとは――身の程を知りなさい」
咆哮が戦場をつんざいた――それは宣戦布告に違いない。
「――ちょうどいい、イレギュラー。お前達の方が食いでがある」
「えーだっさ! 地面に叩き落とされた負け惜しみ~ ぷぷぷ!」
エルタと名乗った方はラスタバンを煽り、こんどはイレギュラーズの方を見る。
「――ざこさんたち~今から私の養分になってね~」
けらけらと――楽しそうに笑うその手には、竜の頭部を模した杖が握られていた。
●
混沌を巡る戦いは遂に最終決戦へ至る。
終局的破滅――『Case-D』は『影の領域』にて顕現する。
空中神殿のざんげはそんな確実かつ最悪の『凶報』を告げた。
影の領域――それはつまるところ、敵の勢力圏ど真ん中にて顕現するということである。
そんな場所に顕現した滅びの概念に至るまでの道を魔種陣営が素通りさせてくれるはずはない。
当然、たどり着くまでに妨害が起こることは分かり切っている。
「ですが」とざんげは言った。
Bad end 8達が広げたワーム・ホールは影の領域との連結点。
大量の兵力を混沌各地へ送り込んできたその『道』は、所詮は道でしかない。
向こうから此方に来ることが出来るのなら、此方からあちらに向かうことだって可能なはずだった。
もちろん、終焉に飛び込むのだから生身であればあっという間にくるってしまう可能性はあった。
しかし、それはざんげがパンドラで確保するという。
そうとなれば、イレギュラーズが乾坤一擲の大勝負へと賭けるのは当然の事であった。
- <終焉のクロニクル>碧岳龍と星に降る竜魔完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2024年04月07日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
「私達はとどのつまり別種。すべてを理解できることは無いのでしょう。
でも、それを問題と思ったことはありませんよ」
雄大なる空を泳ぎ、滅びの気配纏う亜竜を相手どる彼女を見送った『無職』佐藤 美咲(p3p009818)の言葉は短く。
「すべて理解できなくても共に釣りをし、戦うことができる。
最後の戦いもいつも通り行きましょうか」
「そーそー、どうせ負けちゃうんだし、いつも通りすればいーよぉ!」
ケラケラとエスタが笑う。
(これ、誰か一人ぐらい「あ!?負けてないが!?!?」って言ったほうがいい奴でスかね?)
などと思いつつ、美咲は既に戦闘準備を終えている。
「佐藤(美咲)くん、色んな依頼で『助けて』くれて有難う。今日は『借り』を返しに来たぜ。
しかし、俺が異世界に来て心細かった時、同じ佐藤姓を見つけてどれだけ嬉しかったことか……。えっ、偽名?」
うんうんと頷いていた『異世界転生非正規雇用』佐藤・非正規雇用(p3p009377)は思わず目を瞠っていう。
「私の佐藤が偽名って誰から聞きました???」
そんな非正規雇用へと美咲は思わず振り返るものだ。
「そんな些細な事はどうでもいい!! 全てを『佐藤』にしてやる!!」
非正規雇用は妖しく輝く『佐藤』のデザイアと共にフンとポーズを決める。
「……まあ、もう、何が本当か嘘かどうでもいいか。
私はローレットの佐藤美咲、そう言えるだけのキャリアを作ってきたから、もうそれで十分」
いつもの調子の非正規雇用を見て気持ちを入れなおした美咲はこの戦場の誰よりも速く動きをみせる。
自らに強化術式を施したままに降ろした界呪がエスタの身体に権能を降ろす。
「きゃあ! お姉さんったら、いたぁい! もぉ~せっかく作った身体が壊れちゃう!」
杖で魔力障壁を展開したらしきエスタが余波を受けて頬を膨らませていた。
(俺の好みとかは全く関係ないんだけど、パーティの構成や敵の能力を考慮して、エスタを最優先で討伐しよう)
「くすくす、お兄さん、じっと見てどうしたの? あーもしかして、ロリコンさんってお兄さんみたいな人の子というのかな!」
「まるでメスガキみたいなヤツだな……イレギュラーズ、いや、俺の恐ろしさをわからせてやるッ!!
そう告げると同時、非正規雇用は一気にエスタとの距離を詰める。
「えぇ~ライオンさん、もしかして私に触りたいの? やっぱり変態さんだ~」
肉薄の刹那、非正規雇用は斬撃を叩きこむ。
(んー、やっぱりトレランシアさんは頼りになるなぁ。
簡単に星海獣を叩き落とすなんて! 私も頑張ったらできるようになるかな?」)
余裕ありげな龍と2体の滅気竜の戦闘の気配を感じながら『天義の聖女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は星海獣を見やる。
(それはそれとして任されたら相手はきっちり倒さないとね。私達も日々成長しているってことを見せないと!)
起動したセラフィムから天使の羽根が舞い散った。
ネフシュタンを立てるように持ち、スティアは前へと進み出る。
祈りを魔力に。天穹は空に浮かび、刃をラスタバンへと打ち下ろす。
「よそ見をしていて良いの? さっきみたいに不様な目に合うかも知れないよ。
それとも私の相手をするのが怖いのかな?」
強かに貫いた意志の刃、駄目押しの挑発に、ぎらりと星海獣の瞳が怒りをみせる。
「……見え透いた挑発だな――だが、乗ってやる!」
分かりやすく激昂したラスタバンが跳躍、真っすぐにスティアへと飛び込んできた。
張り巡らせた魔力障壁は竜尾を思わす太刀の連撃を美しく抑え込む。
「最近は多忙で依頼に顔を出せていなかったが、流石に世界が危ないとあってはな」
ゆらゆらと天へ伸びる煙管を銜える『勇者と生きる魔王』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)はほぅと伸ばした煙の行く先をを見送った。
飛び交う数多の生命は星海獣らや滅気竜、竜種、挙句の果ては無限の如く降り注ぐ隕石。
こうしてみればなるほど正に『世界の危機』だ。
(折角掴んだ奇跡を、世界崩壊という外的要因で失うのは納得がいかん)
さらりと視線を移した先で、『魔王と生きる勇者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)は不思議そうに首を傾げている。
「んー……元いた世界を危険に晒す存在だったおじさまがいうと、不思議な感じがする」
「……そうか、今のルアナにしてみれば、吾輩は人の世を脅かす存在であったな」
まぎれもない事実、グレイシアは静かに応じた。
「だってわたし、魔王を倒して世界を平和に、っていう存在だったし……。
魔王って、人を滅ぼしてなんぼ、な存在だと思ってたよ。この世界のラスボス? みたいに」
『世界を滅ぼす』魔王と『魔王を倒し世界に平和をもたらす』勇者。
そんな2人が宿命から解き放たれ、一緒に暮らしていけるなんていう『奇跡』は起きたばかり。
そんな奇跡もあって、記憶の全てを取り戻したルアナはだからこその疑問を抱いている。
「吾輩としては、それこそ『世界に生きる生命の為の平和』のため行動していたんだが……襲われる人からすれば、そういう認識になるのも致し方なし、か」
ルアナは人の総意による勇者だったからな……なんにせよ、人を滅ぼしてリセットという考え方は、元より吾輩とは相容れんものだ」
「記憶をすべて取り戻して、改めて話してみると勇者と魔王双方で認識に隔たりがあるような……」
「その辺りは、またゆっくり説明するとしよう。さて、そろそろ始めるとするか」
グレイシアの言葉を受けたルアナがこてりと首を傾げれば、おじさまは煙管を燻らせるままだ。
「そうだね、私達はもう、勇者でも魔王でもない。
この世界に生きるただの人。ただの人として、世界の危機を救うため、がんばろう」
「ふたりの世界に入っちゃってさぁ、犯罪の臭いがするんだけどぉ?
なになに? どーいう関係なのぉ? そんなに2人の世界にいてだいじょぉぶぅ?」
エスタといったか、幼女のような姿の星海獣がケラケラ笑う。
「大丈夫だよ! そんなことより、ねぇねぇ、わたしと力比べしようよ!」
ふわり笑ったルアナが一気に距離を詰めた。
「えぇ~こわぁい! 嫌なんだけど!」
ケラケラ笑うエスタが魔術を展開するよりも前、既にルアナの剣は振りぬかれていた。
「や~ん! こわ~い!」
魔力の顎を構成した斬撃はエスタの魔法陣を貫通しその肉体へと傷を入れる。
「はぁ? ざっけんなよ」
刹那、同じ存在から聞こえたとは思えないドスの効いた低い声がした。
「まぁいいわ。全員吹き飛ばしてやる!」
底冷えするような冷たい声をあげるエスタを非正規雇用が抑え込む。
「――邪魔を!」
杖を握りしめた『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)は確かにその声を聞いていた。
「もしかして、あれ全部、演技だったり……?」
個体差が強すぎるが、そもそも星海獣と言えば幼体に至っては甲殻類のようなよく分からない物も多い。
「……どうあれ厄介な相手ではあるけれど、仕事は果たさないとね!」
握りしめた杖に魔力を籠めて、希望の乙女は自身へと強化術式を展開していく。
慣れ親しんだいつもの術式から始まり、纏う魔術はそれぞれ乙女の在り方を示すもの。
(トレランシアさんは覇竜での祝勝会以来、だな。
親友のクウハとトレランシアさん、そして見知った人達とも戦えて、誇りに思う)
空を見上げれば、その龍が滅気竜を相手と戦っている様が見える。
深呼吸をしてから『君を護る黄金百合』フーガ・リリオ(p3p010595)は気持ちを入れなおす。
これは世界を救うための――そして世界を守るための戦いだ。
誇りといえばこの場に立っていること自体、誇るべきことだった。
すでに戦いは始まっている。
フーガはもう一度呼吸をしてからトランペットの演奏を始めた。
今はまだ致命傷になるような傷はあるまいが、それを理由に油断するわけには行かなかった。
「トレランシアに任されたんだ、情けないところは見せられないな」
漆黒の大鎌を構えた『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)は小さく笑みを作る。
「さて……俺らを養分にするんだったか?」
挑発的に笑みを刻んだクウハが奏でるは幻罪の呼び声。
ソレに染められることを望んだ猫の笑みが哀れなる犠牲者の意識を絡め取る。
「やってみろよ、それともできないのか?」
「はぁ?」
ぴくりとエスタが頬を引きつらせる。
「あー、悪い悪い。こう言うんだったか?『ざぁこ』!」
「――後からほえ面かくなよ!」
ぎらりとエスタの敵意がクウハを見た。
●
裂帛の気合が乗った刃が落ちる。
竜の尾を思わす太刀の斬撃は毒性を帯びて幾重も結びスティアの障壁を削らんとしていた。
「この程度? この程度じゃ私もトレランシアさんも殺せないよ!」
挑発をひとつ、ギラリとラスタバンの目に怒りの色が覗く。
イレギュラーズでもトップクラスの堅牢さは生半可な火力では削り落とすことなどできない。
「えい」
何となく、小突くように撃ちだしたネフシュタンの先端がラスタバンの腹部辺りに突き刺さる。
「小癪な!」
続く激情が男の太刀筋を酷く単調なものに作り変える。
「おいおい、これで本気か? 大口叩いておいてみっともねぇな」
クウハはそう言って笑う。
「は、はぁ!? 見てなさい! そっちこそ今にその大口塞いであげるわ!」
額に青筋を浮かべていそうなブチギレ具合はいっそおかしいくらいだ。
掲げられた竜頭の杖が空に魔法陣を描き、雷霆を纏う紅蓮の炎が戦場に降りる。
それはクウハを丸々飲み込み――「きゃははは!」とエスタの笑い声が響く。
「おいおい、判断が速すぎるだろ」
クウハは敢えて呆れを籠めて笑ってみせた。
女王たる繚乱の環を纏うクウハの身に神秘の術の一切はまるで意味を持たない。
「は、はぁ!?」
エスタの声を無視して、クウハは漆黒の大鎌を真横に一閃。
空間が斬り裂かれ、亀裂から黒き泥が溢れ出し、逆にエスタを呑みこんだ。
「理解らされてまスねぇ……これもまた様式美、でスかね」
エスタの様子を見やる美咲はそんな感想を抱く。
視界に表示される戦況をつぶさに観察しながら、一気に距離を詰める。
エスタの肉体のうち、動きの鈍った個所を検索、銃弾を寸分の狂いもなくそこへとぶちまける。
そのままなおも距離を詰め、握り締めた義手で思いっきり殴りつけた。
「ぎゃぁ!?」
食い込む銃弾、作り上げられた弱点を的確に撃ち抜いた拳にエスタの悲鳴が上がる。
「この佐藤、追い詰められてからが本領発揮よ!!」
高らかに宣言する非正規雇用が刀を手に高らかに告げる。
獅子の威風を抱き、咆哮と共に闘志全開、その手に握る刀に渾身の力を籠めて斬撃一閃。
彼のA級闘士の超人的な攻勢に匹敵する『暴』がエスタの身体を壮烈に斬り裂く。
複数の斬撃に先程からエスタの上げる声は演技の欠片もない。
「むかつくむかつくむかつく! お前ら全員、死んじゃえ!」
夥しい攻勢にエスタの激情は収まるところを知らぬ。
「――――」
口ずさむ『何か』は竜の語る言葉。
「竜の魔法を受けて耐えられるはずもないんだから!」
そう叫ぶままに、宙に浮かぶ魔法陣から閃光が瞬いた。
「これが竜語魔法? この程度で、竜語魔法を語らないで!」
ぎゅうと握りしめた杖、ヴェルーリアは真っすぐにエスタへとそう告げる。
竜は格好いい。竜は強い。
土台からして『力』に差があるぐらいの、そんな相手だ。
希望の乙女は、その姿になっても恐怖に負けず、狂気に堕ちないような――そんな人間になりたかった。
その竜が放つ魔法が、攻撃が――『私たち一人さえも倒せない程度』の代物なはずがない。
これまでの道のりさえも穢されるそんな気がした。
恐怖を払い、肉体を再生し、竜語魔法を嘯く脅しを無為に帰す。
「――今が攻め時だよ! 私達なら、勝てるよ!」
希望の喚声に続くように、突撃の意を示すトランペットは鳴り響く。
それはもちろんフーガの演奏である。
日向の百合が奏でる音色は荒ぶる魂に木漏れ日の安らぎを与えるだろう。
「回復ならおいらもいる。迷わず攻めてくれ」
その言葉の通り、フーガは演奏を開始する。
響き渡る音色は福音を思わす美しさを秘めている。
たとえ幻想なのだとしても、その音色がもたらす癒しは比較的に深い傷を負った仲間を癒していく。
「ねぇ、おじさま。メスガキってなに?」
ルアナが首を傾げて問えば、おじ様は渋い顔をする。
なんとなく、聞いちゃ駄目なんだな、と察しは付く。
「まぁ、いいか。別に!」
思い直せば後は早い。ルアナは肉薄と同時にエスタへ向けて剣を薙いだ。
三閃たる猪鹿蝶、果てしなく巡る斬撃の連鎖を受ける星海獣の鱗が剥がれていく。
「ルアナの教育に悪い、早めに手を打つべきだろう」
効かれた遠野本人は煙管を燻らせ、ふぅと息を吐いた。
引き絞った弓が放つ矢は帯びた魔力を受けて黒き顎を形作る。
翻弄する黒獣の顎はエスタの走行を荒々しく食い破り、削り落とす。
●
「はぁ、はぁ……ずっとおちょくりやがって……」
気持ちを持ち直したのか、ラスタバンが舌を打つ。
「うーん、でも、もう遅いんじゃないかな」
スティアはネフシュタンに魔力を注ぎ込んだ。束ねた魔力は再び空に天穹を描く。
蒼光の翼は刃となり、ラスタバンを貫いてその動きを誘う。
「何の話だ……」
「食いでがある、だったか?」
ラスタバンへと肉薄するままにクウハは笑う。
「……何? 貴様、さっきまでアイツと――」
「あぁ、あれならもう死んだぜ」
笑みを刻むままに言えば、ラスタバンが目を瞠った。
「食えるもんなら食ってみな。腹を壊しても知らねえがな!」
その身に纏う金環の権能、王者たる百花の環はラスタバンの刃を通すことなどありえない。
「ま、そういうことでスよ」
そう告げるままに美咲は銃に弾丸を込めた。
たっぷりの神秘を詰め込んだ弾丸を、距離を詰めるままにばら撒く。
「くそ、使い物にならんやつめ!」
「2人で連携とか出来るのならまた別でしょうが、それが出来なかった時点でそっちの負けです」
舌を打ったラスタバンへと、美咲は淡々とそう告げ、銃弾を撃ち込んだ。
「攻めは最大の防御!! 死中にこそ活路はあるんだッ!!」
くわっと目を見開き、獅子の獣面を険しく。
非正規雇用はラスタバンめがけて肉薄する。
ラスタバンが竜尾の剣を以て防がんとするのを真正面から合わせ、全霊の斬撃を叩きつける。
「ぉぉぉぉぉ!!!」
ラスタバンが咆哮を上げる。
「ただの餌どもが――どいつもこいつも!」
行かれるままに振り上げた竜尾の斬撃が描く軌跡には軌道の概念さえ失せている。
文字通りの『はちゃめちゃに振り回した』剣の軌跡は予測できないがゆえに幾人かの身体に傷をつけた。
「こういう時の為においらたちがいるんだ」
フーガはそう誇らしげに笑ってみせる。
居寤清水を呑み干し、神秘を纏い、静かにトランペットを吹き鳴らす。
神秘との親和性を増したその演奏は戦場に仮初の聖域を形作る。
美しき聖域に立つ仲間たちの傷が、受けていなかったが如く、瞬く間に強烈に癒えていく。
高められた魔力による希望の力が戦場を包む疲労感を溶かしていく。
「突撃!」
ヴェルーリアの声が戦場に響く。
希望の喊声が戦いを終わらせるために戦場に響く。
それと同時に、展開された魔法陣から一斉に跳び出した小人たち。
可愛らしい三頭身の小人は皆可愛らしくデフォルメされたヴェルーリアにも似ている。
その子たちはいっせいにラスタバンへと肉薄すると、純粋な物量で星海獣を押し流す。
「私はもう勇者じゃないけど、わるいやつを懲らしめることには変わらないよね!」
踏み込むままにルアナは呼吸を整える。
霊樹の大剣が纏う聖気と同調するままに、巡る斬撃の軌跡は雷光の如く。
振るう斬撃は多重にブレる。
影の如く三閃の一つがラスタバンの装甲を荒々しく削り落とす。
「……そうだな」
応じるグレイシアとてそれは同意だ。
魔王の肩書を降ろした今、掴んだ奇跡をこれから先まで続けていくのなら、為さねばならないことは決まっている。
引き絞る矢に魔力を束ね、ただの人は魔王の如く強大なる魔獣の顎を矢に乗せた。
爆ぜる矢が戦場を迸り、ラスタバンを呑みこみ、断末魔の叫びが寂しく響いた。
「お前達も終わったようね」
そう笑う声がしてそちらを向けば、滅気竜の首根っこを掴んで引きずるトレランシアの姿がそこにあった。
彼女の言葉から想像するに適当に放り投げられた2体の滅気竜も既に倒されているノダロウ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
早速始めましょう。
●オーダー
【1】『竜尾刀』ラスタバンおよび『竜頭』エスタの撃破
●フィールドデータ
覇竜集落アスタのワームホール付近の一角です。
大量の終焉獣や星海獣、滅気竜などが飛び交っています。
●エネミーデータ
・『竜尾刀』ラスタバン
鱗が硬質化したかのような鎧と竜の尾を思わせる太刀を持つ亜竜種風の星海獣です。
傲慢で人を見下しがちな性格。龍を相手に侮辱した挙句に地面に叩き落とされる当たり、意外と未熟な様子。
刀を駆使した物理戦闘を主体とします。
主に【毒】系列、【出血】系列、【致命】のBSを使用します。
また、【スプラッシュ】や【弱点】を用います。
・『竜頭』エスタ
竜の鱗を加工したかのような魔女服に身を包み、竜の頭を思わせる杖を持つ女の子の亜竜種風の星海獣です。
だいぶメスガキちっくな性格をしています。
杖を用いた神秘戦闘を主体とします。
主に【火炎】系列、【痺れ】系列、【恍惚】などのBSを用います。
また、【鬼道】【防無】などを用います。
・滅気竜×2
非常に濃い滅びの気配を纏ったワイバーン型の滅気竜です。
非常に強力な個体です。基本的に龍体を取ったトレランシアと正面からぶつかっています。
放っておいても問題はありません。というより、下手にヘイトを取って星海獣との戦いに介入されないようにした方が無難です。
●友軍データ
・『碧岳龍』トレランシア
自らを山麓の化身と自負する竜種、種別は将星種。
覇竜編ではイレギュラーズと比較的友好的な関係を築きました。
比較的に穏健派で荒されない限りは亜竜や人類にも敵意を見せません。
曰く、山は普段は動かないものでしょう? とのこと。
一方で若い頃にはバリバリの武闘派でもありました。
当シナリオでは滅気竜2体で竜種相当近くまで強力になった滅気竜を相手に戦うほか、権能で皆さんの支援をしてくれます。
皆さん相手には話しかければ穏やかにお話してくれますが、戦闘面ではあまり言うことは聞いてくれません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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