シナリオ詳細
<終焉のクロニクル>戻れない今(かこ)に生きていく
オープニング
●
「……はは、ははは――」
乾いた笑みがこぼれ出た。
黒衣に身を包み込んだ聖騎士たちが、目の前で骸と変わる。
年の頃を見れば20代も半ば以上、恐らくは2度に渡る大戦を乗り越えたはずの聖騎士だ。
それを翻弄するばかりに斬り伏せた金髪の青年――ディラン・クラウザーが向けられる敵意に笑みを刻む。
「やっと……やっと、俺を見たな」
飄々たる笑みを浮かべ、青の瞳で騎士を見る。
純粋に魔種という名の世界の敵へと向けられる敵意。
たった今、同僚を両断した仇敵へと向けられる憎悪。
自分よりも強かった先達が容易く消え去る恐怖。
たくさんの、『俺を見る目』が、心地いい。
「……なぁ、セシル。お前の目には俺がどう映ってる?」
冷たい瞳が戦場へと辿りついたセシル・アーネット(p3p010940)をひたと見据えた。
鳴り響く原罪の呼び声はセシルがディランを救い出せなかった証明のようだった。
「……セシル君」
ぎゅっと握られた手は、フラヴィア・ペレグリーノ(p3n000318)のものだ。
「セシル君が『先生』を倒すのに手を貸してくれたんだ。
だからね、私、頑張るよ。これを最期のお話にするために」
夜のようにキラキラとした瞳でそう言って、フラヴィアが笑む。
「ありがとう、フラヴィアちゃん……」
握られた手が力をくれるような気がして、セシルは改めてディランを見た。
向けられていた視線は酷薄なまでの冷たさを帯びていて、幼馴染が変わり果ててしまったことを証明していた。
「……戦う前に教えて、ディラン。何があって、こんなことになったのか」
「――お前にも分からないだろうな」
苛立つように言ったディランは、語り始めた。
「俺は、妬ましくて仕方ない。父さんも、母さんも、兄貴たちも。
俺に『好きにしろ』としか言わなかった」
「それの何が――」
「騎士学校を辞めた時も、冒険者をするために家を出た時もそうだった。
あいつらは、俺を止めてくれなかった! 何をしようと自由? よく言うよ。
それって、俺にはなにも期待してないのと一緒だろ! そりゃあそうだ。
嫡男も、その代わりになる次男もいるんだ。三男なんてどうでもいいだろうさ」
捲し立てるディランがぎらりとセシルに敵意を覗かせる。
「――お前は、お前だけは、一緒だったのに」
そうぽつりと呟いたディランの声は、複雑な思いが重なっているように思えた。
「……僕、は」
セシルはその視線に息を呑んだ。
そんなふうに思ったことは、一度だってなかった。
兄達も、両親も、セシルのことを沢山愛してくれていた。
大切な幼馴染は同じような境遇で、だからこそ仲良くなったのに。
「ごめんディラン……でも」
自然と、フラヴィアの手を握りしめていた。
「フラヴィアちゃんのことを、傷つけるならやっぱり許せないよ」
ふるふると頭を振って否定をすれば、ディランは短く笑った。
「……お前はどこまでも変わったんだな。そこまで言うなら2人揃って殺してやるよ」
そう笑うディランが剣を構えた。
(『誰かに必要とされたかった』……とは、随分と可愛らしい)
そう胸の奥で笑ったのはマリエッタ・エーレイン(p3p010534)であったのか魔女であったのか。
それは人が誰しも持つ承認欲求という代物だ。
それはきっと、家族からすれば『家柄に囚われる必要はない』という優しさだったのだろう。
だが、それと『期待していないという無関心』は、薄氷の如き差、鏡写しのように近いもの。
(貴族という物は往々にしてそういうものでしょうけれど)
一つ吐息を漏らして、マリエッタは金色の髪を揺らす修道女を見やる。
「……反転による狂気、ではないのでしょうね」
笑みをこぼす金髪の女――レティシアはマリエッタの視線と問いかけに正面から笑みをこぼして立っている。
「えぇ、あれは彼個人がずっと抱えていた孤独の話です。随分と贅沢な悩みですが」
(……そうですね、私にはあまり分かりませんが)
そう胸の内に漏らしたマリエッタと対称的に、セレナ・夜月(p3p010688)は少しばかりディランの気持ちが分からなくもなかった。
(……わたしのマリエッタと一緒に居たいって気持ちも、少しだけ似てるから)
けれどそこにある違いはあまりにも大きい。
マリエッタと一緒に居るために自分がしてきたことを、これからしていくことを、ディランは選べないままに突き進んだのだろう。
「……どちらにせよ、あなたはここで倒すわ」
セレナはまっすぐにレティシアを見る。
「まぁ――ふふ、それはどうして?」
「世界が滅びなくても、あなたを逃がしたらもっと沢山の悲劇が待ってるわ。
そんなこと、絶対にさせないんだから!」
「そう言われては否定はできませんね」
笑みをこぼすまま、魔種は戦意を増していく。
●
「遂に、その時が来るでごぜーます」
空中神殿のざんげから届いた『凶報』は混沌の混沌の滅びを確信的に決定づけてきた『神託』――Case-Dの『顕現』を示している。
その滅びの概念がこの世界に完全顕現すれば、混沌は勿論の事、混沌に連なる全ての世界も破壊されてしまうという。
加えて、彼女はそれが姿を見せるのは『影の領域』と断定した。
それはつまるところ、『敵陣ど真ん中』ということに他ならない。
「ですが、『ワーム・ホール』が複数生きているのは僥倖でごぜーました」
そう彼女は語った。
終焉から混沌各地に向けて自陣の兵力を送り込めるということは、当然その逆だって成立する話である。
つまるところ、これは――負ければ滅び、勝てば救われる文字通りの『最終決戦』である。
- <終焉のクロニクル>戻れない今(かこ)に生きていく完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2024年04月07日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
――僕はディランの親友なんだ
幼い頃からずっと一緒でいつも遊んでて、何でも分かり合えた。
でもいつからか君の事が分からなくなちゃった。僕はこんなにも君のこと思ってるのに。
向かい合う『敵』はそんな『雪花の星剣』セシル・アーネット(p3p010940)を見て冷たい視線を向けてくる。
「フラヴィアちゃん、僕ディランとケンカしてくるね。
きっと、すごく不格好になっちゃうかもしれないけど。ディランは僕の親友だから止めなくちゃならないんだ」
「――いってらっしゃい」
振り返ることなく言えばそうやって笑う『夜闇の聖騎士』フラヴィア・ペレグリーノ(p3n000318)の声が背中を押してくれる。
固く結んでいた手をそっと放して、セシルは剣を抜いた。
刹那、一気に距離を詰める。『目を瞠る』ディランが映った。
「ディラン! 君はどうして魔種になんかになってしまったんだよ!」
思いっきり結んだ剣はディランの剣を打ち上げ、跳ねるように穿つ。
剣を結ぶ。我流と天義流を織り交ぜた太刀捌きは鮮やかなものだ。
だからこそ、セシルは悔しかった。
――嫉妬なんて必要ない。
「ディランみたいになりたかったのは僕の方だ! 君はすごいんだよ!
優しくて頼りがいがあって僕の話にも耳を傾けてくれた。
僕ができないことをディランは難なくやってみせたんだよ!」
その強さに憧れた。
「僕が強くなりたかったのは、ディランに褒めてもらいたかったからだ!
僕の好きな人を紹介してディランにも祝福して貰いたかったんだよ!
君と夜更かしして語り合うあの時間を、もう一度したかったのに!」
「どっちもできたな」
そう言ってディランが舌を打つ。
そんな2人の様子を見ていた『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)はふらりと視線を巡らせる。
この戦場にいるもう1体――その余裕ありげな笑み。
(レティシアは許せない……けど、それ以上に)
ぎゅっと拳を作る。ヨゾラはあの日の責任の一端が自分にあると考えていた。
あの日、自分がもっと違う動きをしていたら――それはあの場にいた全員に言えることであって必ずしも1人の責任ではないが。
「それでも、不甲斐なかった」
魔術紋翼がまるで感情に従うように明滅する。
影の領域へ至り変じたその姿はヨゾラの思い描く完成形・理想形の姿である。
4色に光り輝く四つ星は星空の友達の証。
自身と彼らに背中を押されるようにして、戦場を駆け、魔導書を紐解く。
星空の泥がディランの足元から満ちていく。
「そうなってしまう前にちゃんと家族と話し合えていたら、結末は変わっていたかも知れませんわね……」
既にぶつかり始めている2人へと視線を送り、『願いの星』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は小さくそう言葉に漏らす。
(……いえ、それこそ言っても詮無き事ですね)
ふるふると頭を振って、そのまま視線をフラヴィアへ向ける。
「フラヴィア、気を付けて頂戴ね。危ないと思ったら、一度後ろへ下がって下さいまし。
大事な戦いだからといって、命を粗末にする必要はないのですから」
「ありがとうございます。でも皆さんのお力になりたいので」
微笑み剣を抜いた少女へと笑いかけて、ヴァレーリヤはメイスに炎を燈す。
(お互いに愛はあったのだろう。
彼の親も彼のことを想って背中を押してくれたのかもしれない。
それを拒絶と考えてしまったのが悲劇だったのだろう)
2人のぶつかりあいに視線を送るまま、『伝承を語るもの』ミスト=センテトリー(p3p010054)は走り出した。
「セシルの友だちで天義の貴族……」
彼曰くの『喧嘩』を始めた2人を見やり、『神殺し』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は小さく呟いた。
(どこかで進んだ道が違ったらいっしょに戦ってくれている聖騎士の一員になってたのかもしれないけど……
セシルがそれで『いい』と言っているならぼくがあれこれ言うことじゃないよね)
真っすぐに向き合う2人の下へ、リュコスは進む。
振り下ろされた斬撃を、ディランの間に割り込んで受け止める。
流派の分からぬ斬撃に合わせて受け止めながら、リュコスは視線をあげた。
(強くなりたかった、見返したかった、認めて欲しかった、そんな気持ちが伺える……けど型があるからこそ何度も受けている内に対応できるようになるはず)
元より、リュコスは何度も受け止めてこそだった。
(セシルの代わりなんて言わないけど……キミの想いを受け止めてみせる)
振り下ろされる剣を盾で合わせながら、リュコスは視線を合わせた。
「ここだと『こっち』の方が力が発揮できるんでしょ?
だったら今だけ、『涼花』はお休み。ボクが、この戦場を最後まで支えてみせる」
一歩、前に踏み出した『灯したい、火を』柊木 涼花(p3p010038)――■■■は静かに戦場を見る。
長かった銀色の髪は随分と短くなり、読書家だった己の在り方を示すよう気付けばその手には魔導書が握られていた。
やるべきことも為すことも何も変わらない。
ほんの少しの間だけ、涼花ではなく『私』に戻る、たったそれだけ。
紐解いた魔導書が織りなす呪文はいつも使う緋色の旋律によく似ていた。
同じように歌を歌い、術式を展開する。
形が変質した指揮杖を振るい、攪拌した術式が戦場に響き渡る。
(本当に、人というのは複雑で難しい。優しさが人を傷付け、愛が人を苦しめる。
全て全てを人は抱えて生きていけない……そんな被害者がきっとディランなのでしょう)
向き合う少年たちの戦いを見やり、『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は一つ吐息を漏らす。
「でもどうあれ、この世界にもしも、なんてものはない。
彼が進んでしまったのならば、それを終わらせるのもまた私達……そして」
ふらり視線を巡らせる。
そこには修道女めいた衣装の女が立っている。
「レティシア、貴方の歪な信仰を終わらせるのは──この、死血の魔女です」
「ふふふ、あの方への思慕を止める? そのようなことできませんよ」
笑みを刻む修道女の表情はどこか醜悪に見えた。
(嫉妬は人を狂わせる。それは、少しわかるの。
もしも、マリエッタがわたしに目もくれなかったなら――)
ぞわりと胸の奥から溢れる暗い感情は、瞬く間に霧散する。
「――だって、そんな事は無いと知ってる」
胸の奥の黒いものを箒で掃除してしまうように振り払い、『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は笑みを作る。
「まぁ、なんて傲慢な自信なのでしょう」
くすくすと笑う修道女へ、セレナは肉薄する。
「今度はお前に邪魔させない」
廻る血は彼女との絆の証、虹色の光は人々の祈りと願い。
夜守の魔女はそれがあれば戦っていける。
●
「君に恨みはないけど……反転を防げなくてごめんね」
そう言うヨゾラの表情は歪つな部分があった。
心がける笑顔は悔恨と覚悟に揺れている。
循環する二冊の魔導書は巡り、魔力は星空の海を描く。
集束した星の魔力をディランへと肉薄するままに叩きつける。
「防ぐ? なんで? 俺は今最高の気分だぞ?」
爛々と輝くディランの目には確かな狂気が宿っている。
「反転も終焉も滅びもいらない。
これが最後の戦いだ。いつだって物語はめでたしめでたしで終わるものさ」
そう笑ってみせたミストの全身から放つ闘気の糸がディランの身体を絡め取る。
(このままなら――いける!)
眼鏡越しの視界に移る景色はいつもとも違って見える。
踏みしめる足音が普段と違う。慣れ親しんだ『私』の仕草に少しの違和感を覚えた。
展開する術式はコーパス・C・キャロル。
聖体頌歌を歌うのではなく、展開した魔法陣に術式を刻む。
広域を包み込んだ光が数多の傷を癒していく。
「君の剣は強かった……できれば味方として戦いたかったよ」
ディランの剣を受け止めるままにリュコスは短くそう呟いた。
剣の鋭さと重さは間違いなく一朝一夕で得られるものではない。
魔種へと変じる前から――変じた後も、腕を磨くことを疎かにはしなかったのだろう。
振り下ろされる剣に向けて盾を振るう。
勢いの着く前に受け止められた剣が跳ねた。
その刹那、リュコスは盾を十字に払う。
激しい衝撃がディランの身動きを痺れさせた。
「――ディラン!」
セシルはその隙を穿つように剣を振り上げた。
少しだけ視界が揺れる。
本当は、殺したくなんてなかった。
魔種から戻せるのなら、奇跡だって――ううん。
ぎゅっと剣を握りしめる。
「君に誰かを傷つけさせたりしないよ。僕がこの手で、君を!」
それが親友の務めだと、思う。
張り裂けそうな声をあげて、セシルは剣を振るう。
斬撃は深く、親友の身体を両断する。
「――ぁ」
目を瞠り、言葉にならぬ声と共に崩れ落ちていく親友を見下ろして、セシルは息を吐いた。
「ディラン……待ってて……全部終わったら、一緒に帰ろう」
零れ落ちる涙を拭って、ふるふると深呼吸する。
そのままセシルは顔を上げた。
「終わりましたか」
マリエッタはその様子を見つめ、視線をレティシアへと戻す。
「フラヴィアさんとセシルさんを貴方の血で汚させるわけにはいきませんからね」
そう笑ってみせたマリエッタの身体がふわりと異質な力を帯びる。
茶色の髪とエメラルド色の瞳、『マリエッタ・エーレイン』のままに茨の冠を被る。
飛び込む足取りに黒鴉の羽根を連れて、マリエッタは一気に肉薄した。
「――オルタンシア、その炎を私に貸しなさい、焼き尽くしますよ。ここで!」
深い、灼熱が如き瞳が弾け、黒い炎を纏った乙女は無限の輝きを振るう。
真っすぐに向き合った視線、セレナは血を廻らせる。
生き物のようにしなる鮮血のリボンが幾つもレティシアを貫いた。
「逃がす訳ないでしょ、あの嫉妬が彼自身の性質だったのだとしても、彼を魔種へ堕としたのはお前の呼び声なんだから。
解り合う機会を奪ったお前を、許す訳にはいかないの」
「あらあら、怖い魔女さんですね」
肉薄の刹那に告げれば、そう彼女は笑っている。
「マリエッタ、セレナ! お待たせ致しましたわ~!」
そんな言葉と同時、レティシアの腹部へとメイスが撃ち込まれた。
強かに撃ち据えたメイスが炎を上げてレティシアの身体を穿つ。
「主にお仕えする身でありながら一体何を……! その悪徳、その身でもって償いなさい!!」
踏み込みなおしたヴァレーリヤの追撃を今度は剣を盾代わりに受け止める。
「ふふふ、私がお仕えしているのはオーグロブ様ですから」
そう笑う表情は陶然と蕩けている。
●
戦いは続く。
「いずれにせよお前たちの起こす悲劇はもうこの世界には必要ない」
飛び込むままにミストが拳を握りしめた。
赤き殺意が乗った拳は牙の如くレティシアへと炸裂する。
「ふふふ、悲劇悲劇と。全くこの方々は」
笑みを刻むレティシアが剣を振るう。
「ぼくはよく事情を知っているわけじゃないけど、破滅を導こうとするのなら……
不幸と悲しみの連鎖をまだこの国で続けるつもりなら……ぼくは全力でそれを止める。
悲しみの続かない世界のために」
正面から剣を受け止めたリュコスは静かにレティシアを見た。
その身に刻まれた傷はもう十分だ。
踏み込んだままに、リュコスは盾を押し込んだ。
レティシアが体勢を崩しかけた刹那、思いっきり横に薙いだ。
「――ボクに任せて」
それは涼花の声だった。
目を伏せて深く深呼吸――揺蕩う魔力に集中する。
連戦の疲弊は傷よりも精神的な物、魔力的な物の方が遥かに多い。
魔導書に魔力を注ぎ込んだ。
朗々と紡ぐ詩は幻想楽曲オデュッセイア。
再現性東京の授業によればオデュッセウスの物語。
英雄の道程示す歌は戦場に活力と勇気を与えるだろう。
それは疲弊した仲間たちも例外ではなく、一時の休息と集中力を齎す。
「悪辣なお前を許しはしないわ」
「そうでしょうね」
レティシアへと手をかざす。
神代より紡がれる術式は虹色の光を帯びる。
するすると伸びた血のリボンがレティシアの身体に絡みつき、そのまま締め上げる。
視線をあげた先にいる彼女が行く道を想う。
(――悪辣を許さない。その言葉は、きっとわたし自身にも降りかかる。
いつかそれと向き合わなくてはいけないけど……)
彼女がの突き進む道は重い。茨が生易しいと言えるほどに。
それは彼女の傍らにあることを選んだ自分にだって言える事だろう。
(――それでもわたしは迷わない)
翳された掌をぎゅっと握り締めた刹那、光は炸裂する。
紡ぐ祈りと呪い、何よりも祝福が修道女の身体に深く浸透する。
そのままセレナは手を伸ばす。廻る血が刃となって駄目押しにレティシアを串刺した。
「……ふふ、このようなつもりではなかったのですが」
魔種は囲まれて笑っている。
その身体には幾つもの傷が浮かんでいた。
「……ディランの仇を打つんだ」
ぽつりとつぶやいて、セシルは剣を構えた。
「ふふふ、あれは自らの意志でそう選んだのでは?」
「……それでも!」
握りしめた剣に全霊の力を乗せて、セシルは剣を薙いだ。
続くままにマリエッタが動いている。
「――オルタンシア、もう一度行きますよ」
真影血華が黒炎を纏う。「聖女使いが荒いわねぇ」などと聞こえた気がした。
輝かしき血の輝きを纏いし大鎌がレティシアの剣を『迂回』して心臓を貫いた。
「僕の甘さも不甲斐なさも! ここで清算させてもらう!」
続けざま、ヨゾラはレティシアへと肉薄している。
「ふふふ、甘さ、不甲斐なさ。そう思い詰めることもありませんよ。
彼だって喜んでいたではありませんか」
醜悪に笑うレティシアの懐へと潜り込むまま、ヨゾラは魔力を束ねた。
魔術紋翼が鮮やかに光を放ち、展開する光は天の川のような長大にして壮大な魔力を描く。
「――夜の星の破撃(ナハトスターブラスター)!!!」
渾身の極撃がレティシアの身体に痛撃を叩きこんだ。
「どんな硬い守りも、叩き壊してしまえば無いのと一緒ですのよ!」
ヴァレーリヤは踏み込むままにメイスを振るう。
「――どっせえーーい!!!」
渾身のフルスイングに追撃のめちゃくちゃな軌道を描く連撃を叩きこむ。
壮絶極まる衝撃はレティシアの身体をがくりと揺らす。
「やはり聖職者というのはこうでなくては」
「あなたと同じにされてたまるものですか!」
笑うレティシアにヴァレーリヤは真っすぐに啖呵を切る。
「……やれやれ。困ったものですね」
溜息を零したレティシアは剣を構えなおし、それを地面へと突き立てた。
魔力が衝撃波を起こし、戦場を席巻する。
「これ以上付き合っていては本当に死んでしまいますよ」
そう笑った女がその場から大きく跳躍し、影の領域奥深くへと逃げて行った。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
さっそく始めましょう。
●オーダー
【1】『信じる者は冒すべし』レティシアまたは『空虚な』ディラン・クラウザーの撃破
●フィールドデータ
影の領域の内部の一角。
非常に薄暗く滅びのアークの気配が蔓延しています。
滅びのアークに満ちた湖の淵で戦闘を行ないます。
遮蔽物などは特にありませんが、周囲では終焉獣と聖騎士団の戦闘が行われています。
皆さんは2体の魔種の撃破に注力してください。
●エネミーデータ
・『信じる者は冒すべし』レティシア
オーグロブの力に心酔する修道女です。
魔種です。属性は嫉妬。
豊富なHPに加え、神攻、防技、抵抗、命中の高い神秘タンクヒーラー。
癒しを与える詩魔術の他、魔力を帯びた剣技を用います。
攻撃では【凍結】系列、【鬼道】、【暗闇】のBSを用います。
パッシブとして【巧妙】、【棘】、【乱れ緩和】、【不吉耐性】を持ちます。
・『空虚な』ディラン・クラウザー
セシルさんの関係者で、天義貴族クラウザー家の三男坊。
魔種です。属性は嫉妬。
物攻、命中、EXA、反応の高い物理アタッカー。
天義流の【堅実】、【防無】、【乱れ】系列の剣。
我流と思しき【スプラッシュ】、【痺れ】系列、【凍結】系列のBSの剣を用います。
その他、格闘能力も優れ【飛】なども多用します。
●友軍データ
・『夜闇の聖騎士』フラヴィア・ペレグリーノ
元はアドラステイアで『オンネリネンの子供達』の部隊長を務めていた少女。
傲慢編での経験を経て、聖騎士になりました。イレギュラーズと同等程度の実力を持ちます。
比較的タンク寄りの物理バランス型。
●『パンドラ』の加護
このフィールドでは『イクリプス全身』の姿にキャラクターが変化することが可能です。
影の領域内部に存在するだけでPC当人の『パンドラ』は消費されていきますが、敵に対抗するための非常に強力な力を得ることが可能です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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