シナリオ詳細
<終焉のクロニクル>海中の鯱騎兵
オープニング
●海洋軍人達の要請
海洋、王都リッツパーク商業地区。今は焦土と化したこの地には、影の領域(ラスト・ラスト)に通じるワームホールがある。
Case-Dと称された滅びの概念、その完全顕現を阻止すべくワームホールに飛び込もうとしたイレギュラーズ達の前に、二十数人の海洋軍人達が現れた。
「影の領域とやらにいくんだろ? 俺達も、連れて行ってくれねぇか?」
「世界が滅ぶかどうかと言う瀬戸際で、座して待つような気にはなれませんからね」
そう話しかけてきたのは、海洋軍艦『アンリミテッド・バイオレンス』の艦長ホオジロと、副官ヒョウモンだ。二人は海洋軍の中でも暴力的な危険人物として知られていたが、一方でイレギュラーズ達の助力を得ながらも様々な任務をこなしてきていた。そして、ヒョウモンの言うように、世界が滅亡するかどうかと言う状況で何もせずにただ結果を待つと言う選択肢は、二人にはなかった。
もっとも、海洋軍は海洋軍で、ワームホールを再奪還されないよう出現する敵を退ける任務があるにはある。だが、ホオジロもヒョウモンも、ただそれだけと言うのは性に合わなかった。そんな世界の瀬戸際なら、敵の本拠地に殴り込みをかけて、滅びをもたらす奴等の一人でもぶん殴ってやりたいではないか。
だが、影の領域は魔種をはじめとする強大な敵が多数存在する場所だ。二人の言い分は理解出来るが如何したものかと思案するイレギュラーズ達に、騎士鎧を纏った老騎士が頼み込む。
「この二人も、儂等も、決して貴殿等の足手まといにはならぬ。貴殿等がCase-Dとやらを止める役に立つのならば、足止め役でも、肉盾でも、如何様にも使ってもらいたい。己の命を惜しむ者は、ここにはおらぬ」
訥々と、しかし威厳を以て語ってくる老騎士、海洋軍艦『シーガイア』艦長アモンの言葉には、イレギュラーズ達が拒絶しがたい程の覚悟が感じられた。そのため、イレギュラーズ達は海洋軍人達の要請を受諾。海洋軍人達は、イレギュラーズ達の返答を聞くとわあっ、歓喜に包まれた。中でも、ホオジロとヒョウモンは特に嬉々としていた。
●零落の海にて
ワームホールに飛び込み、影の領域を影の城目指して進んでいくイレギュラーズと海洋軍人達の前に、巨大な海が現れた。
「くせえな」
「そうですね」
ホオジロとヒョウモンがそう言った理由を、イレギュラーズ達もまた感じ取っていた。陸にいてさえ、この海の中から強烈な魔の気配を感じる。
「迂回……は、見る限り無理そうだ。泳いでいくしかないじゃろう」
キョロキョロと周囲を見回したアモンが、そう判断する。イレギュラーズ達も同様の判断を下し、海の中を泳いで進み始めた。
影の城の方へと泳いでいくにつれて、魔の気配が猛烈に強くなっていく。やがて、イレギュラーズと海洋軍人達は、その気配の主と遭遇した。
体長四十メートルはあろうかと言う巨大な鯱の背に、騎士鎧を着込んで馬上槍と盾を手にした鯱の海種の魔種がいる。さらにはその周囲に侍るように、体長十メートルほどの鯱の魔物が泳いでいた。
「ここに来たと言うことは、イノリ様のところに乗り込む気なんだろうな。だが、やらせる気はねぇよ。
俺は、ここを守るオルカ=オーシナス。お前達はここで、骸に変えてやるぜ」
「はっ! 骸に変えられるのはどっちだろうなぁ!?」
「ええ。そうして大言壮語する者ほど、大したことはないものです」
オルカの不敵な言に、ホオジロとヒョウモンがすかさずやり返しながら不敵な笑みを浮かべる。
「儂等を如何使うかは、皆様の判断にお任せする。如何か、上手く使って下され」
その間に、アモンはイレギュラーズ達に耳打ちして、指示を請うていた。
零落の海と呼ばれるこの海を突破出来るか、それを決定づける戦闘が、もうすぐ始まろうとしていた――。
- <終焉のクロニクル>海中の鯱騎兵Lv:50以上完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2024年04月04日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
(サポートPC1人)参加者一覧(8人)
リプレイ
●受諾された同行
Case-Dの完全顕現を阻止すべく、今は焦土と化した海洋は王都リッツパーク商業地区のワームホールに飛び込まんとする、イレギュラーズ達。そんな彼らの前に、二十数名の海洋軍人が現れ、同道を申し出た。海洋軍艦『シーガイア』艦長アモンと、同じく海洋軍艦『アンリミテッド・バイオレンス』艦長ホオジロ&副官ヒョウモン、そして両艦の乗組員から選抜された戦闘要員達だ。
世界の危機にあたって己の命を惜しむものはいないから、足止め役でも、肉盾でも好きに使って欲しいとアモンが語るのを訊いて、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は爽やかな笑顔を返し、深く頷いて歓迎の意を示した。
「久しぶりだな。良いね、覚悟が決まってるじゃないか。この決戦に皆さんが来てくれるとは、非常に心強いよ」
過去にアモン達と共闘したこともあるイズマは、その実力をよく識っている。それだけに、アモン達の同道は本心から心強いと言えた。
そして、世界の危機に座して待てないと言うアモン達の感情も、命すら惜しまないと言うその意気も、イズマにとってはよく理解出来る。何故なら、イズマも同様である故に。
「俺も、パンドラの加護も惜しまない。共に、持てる力を全て尽くそう。そして勝ち取ってやろう、混沌の未来を!」
「海洋の戦士たちの心意気、誠に感謝である! この戦艦武蔵、諸君らの献身に勝利を以て報いよう!!
イズマの言に続いて、大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)が朗々とした声で、感謝と報恩の意志を述べた。その声は力強い響きとなって、聴く者の士気をさらに昂ぶらせる。
「おおーっ!!」
二人の声に、アモン達は歓声と鬨の声が混ざり合った様な叫びで応えた。
その様子を、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は苦笑いを浮かべながら眺めている。
(アモンの旦那といい、アンリミテッド・バイオレンスの連中といい、覚悟を決めるのが早すぎるぜ)
縁からすれば、全員が生き延びた上で、心置きなく祝杯を酌み交わしたいものだと思う。その時には、世界の終焉を防ぐのに貢献した活躍が喧伝されて、これ以上はないほどの箔がついているだろう。
その旨を縁はアモン達に語り、そしてこう締めくくった。
「稚魚の頃から海洋に住んでる身なんでな。偶にはこの海くらい強欲に、何もかもひっくるめて手に入れるのも悪くはねぇだろ?」
「ああ、確かにそうだな。生きて帰ったら、俺達も英雄サマだ!」
「違いありませんね。海洋軍の危険人物と呼ばれた私達が英雄――楽しみでなりませんよ」
ホオジロとヒョウモンが応じれば、戦闘要員達が英雄となったホオジロやヒョウモンの姿を想像し、その可笑しさに耐えきれなくなってゲラゲラと笑った。
愛する夫が談笑する姿をやや離れたところから静かに眺めながら、『暁月夜』十夜 蜻蛉(p3p002599)は物思いに耽っている。その左手の薬指にはめている白金の結婚指輪「月暈」を、蜻蛉は無意識のうちに右手の掌でさする様に撫でていた。
(愛した人の大切な海、大事な人たちを守りたい……ここが最後の頑張りどころです。
いつの間にか、うちにとってもかけがえのない世界になっとりました)
混沌に転移して以来、蜻蛉は数多の想い出を得た。故に、混沌は縁にとってのみならず、蜻蛉にとっても大切な世界となっている。そんな混沌に恩返しをする刻が来たのかもしれないと、蜻蛉は感じていた。
もっとも、蜻蛉はそのために命を落とすつもりは毛頭無い。縁の言う「何もかも」には、間違いなく自分も入っているはずだから。
●魔種と終焉獣との遭遇
ワームホールの中へと入り、影の城を目指して影の領域を進むイレギュラーズ達は、その途中に広がる零落の海を泳いで突破することにした。だが、そこで四十メートル級の鯱に乗った騎士と、その周囲に侍る様に泳ぐ十メートル級の鯱十体と遭遇する。
魔種オルカ=オーシナスと終焉獣アポカリプス・キラーシャーク、そしてその眷属たる終焉獣デストロイ・キラーシャークだ。
「海の中は、やっぱやべーのが多いな……」
『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)も、その巨体に息を呑んだ一人だ。だが、漁師を自認するカイトにとって、海産物の対応は手慣れたものだ。鯱を象った終焉獣を海産物と呼んで良いものであるかどうかは疑問符がつくところではあるが、ともかく。
「いっちょ、釣り上げてやろうじゃねえか!」
自信満々に、カイトは言い放った。カイトがこうまで自信満々であるのは、カイトが漁師であることとは別に、「シャチだろうが鳥の方が強い」と言う飛行種としての海種への対抗意識があった。
(海中故とは言え、これ程の質量の敵はそれだけで厄介極まるって物だね!)
アポカリプス・キラーシャークのあまりの質量を、『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)は脅威と感じている。だが、それを理由に臆しているわけにはいかない。それが、この混沌が滅亡するかどうかの瀬戸際と言うならば尚更だ。「数多異世界の冒険者」の名にかけても――。
「何とか、押し通らせて貰おうか!」
そう叫びつつ、カインは片手剣「魔極ラストサバイバー」を鞘から抜いた。
「ぶはははッ! デカブツの群れたぁ、相手にとって不足なし!」
大柄な身体さえ小さく見える巨体を前にして豪快な笑い声を上げるのは、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)だ。恐れも怯みも何ら感じていないかのようなその剛毅な笑いは、仲間達の緊張を解し、勇気づけた。
「わしも老いても鮫じゃから、の?」
鮫のように――と言うよりも、鮫そのものとして自信満々にニヤリと笑ったのは、『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)だ。普段は鮫とはうって変わって温和で優しい、おっとりとした性分の潮だが、シャチの姿をした終焉獣を前にして、海中最強クラスの捕食者の海種と言う対抗意識が出たようだ。
「試してみるかの?」
相手を誘うように、あるいは試すかのように、ニッとした笑みを見せながら、潮は問うた。
●イレギュラーズ達の攻勢
「海洋では識らぬ者はいねぇ、十夜 縁だ。俺を倒せば、お前さんの名前もちったあ上がるかもしれねえぜ?」
自身の海洋での名声を材料に敵意を引こうとしながら、縁は青刀『ワダツミ』を横薙ぎに振るった。ワダツミの刀身からは水流が放たれて、オルカへと突き進んでいく。
「下らねぇな。お前達を倒せば、世界は滅びるだけだろ? それなのに、俺の名なんか上げて如何するんだよ?」
オルカはその水流を盾で受け止めつつ、水流を受けて縁に敵意を向けるアポカリプス・キラーシャークを宥める。そして、自身は縁の言うことなど気に留めてもいない風に返したが――その視線は、縁の方をずっと向いていた。
「そっちは、頼んだぜ!」
自身をロボットにしたような姿となったカイトが、デストロイ・キラーシャークの排除にかかろうとする軍人達に、普段とは違う機械的な声で叫んだ。
すると、海中であるにもかかわらず上方から純白の羽根がはらはらと舞い落ちて、海洋軍人達の背中に翼を創り出す。さらに、零落の海の水流が、海洋軍人達を後押しするかのように流れ出した。
(神翼獣さまも、水竜さまも、こっちの海でも加護をくれるんだな)
終焉の地の海でも加護をくれる大いなる存在達に、カイトは心から感謝の念を抱いた。
カイトが海洋軍人達に加護をもたらしている間に、アポカリプス・キラーシャークとオルカは大波の如き瘴気のブレスと竜巻の如き渦潮で、縁を攻撃していた。縁は、ブレスの方は回避したが渦潮の方は避けきれず、重くはないが傷を負う。
「なるほど――海洋で識らぬ者はいない、と言うのは伊達ではないようだ」
「そっちこそ、さすがは魔種ってところだな」
縁の回避の技量は、決して低いものではない。それでも攻撃を直撃ではないとは言えしっかり命中させてくるあたり、オルカの技量は相応に高いのだろうと縁は判断した。
「少し、遠いか……待っていてくれ、リオン」
普段とは違う、ありありと指揮者を思わせる姿となったイズマは、蒼いワイバーン「リオン」の背で、自分の中に壮大な音色を響かせる魔術を行使する。そして海中のオルカとアポカリプス・キラーシャークに停滞の呪術を仕掛けようとするが、海上からではやや遠い。
やむなく、イズマは海上にリオンを待たせてから海中へと飛び込み、下へ下へと潜りオルカ達を射程に捉えてから、停滞の呪術を発動させた。途端、オルカ達の動きはまるで周囲の海水が凝固したかのように、極めて鈍いものとなる。
「ぐっ、おのれ……!」
オルカは上を見上げ、歯噛みしながらイズマを睨み付けた。
(倒れたら帰ってこれる保証はないから、少しでも耐え凌げるようにせんとな)
影の領域は、紛うことなき敵地だ。しかも、常の手段では至る事の出来ない場所である。その上で戦場が海中とあっては、戦闘不能者が出た場合に無事に連れて帰れるとは限らなかった。故に、潮にとっては何よりも戦闘不能者を出さないことが第一だ。
そのためにも、潮はゴリョウを中心とした味方に、戦闘不能に陥るか如何かの瀬戸際で踏み止まり、耐え凌ぐ力を湧き起こさせた。
「ぶははっ、こいつはありがてえ! さあ、俺達は取り巻き共を蹴散らすぜ!」
「「「おおーっ!」」」
ゴリョウは潮の付与に感謝を示しつつ、自身の肉体を強化し、さらに物理的な力を遮断する結界を展開した。そして、海洋軍人達を率いて、デストロイ・キラーシャークの排除にかからんとする。その号令に、海洋軍人達は意気揚々と応えた。
海洋軍人達は、ゴリョウの指揮に従ってそれぞれがデストロイ・キラーシャークへと仕掛け始めた。さすがに軍人だけあってか、練度だけで言えばデストロイ・キラーシャークを遥かに上回っており、それがゴリョウの指揮下にあることで通常以上の力を発揮するのだから、十メートル級の終焉獣を相手にしても互角以上の戦いを繰り広げていた。
海洋軍人達に攻撃され、それに反撃したことで、デストロイ・キラーシャークの位置は散り散りとなっている。カインはその中から、殲光砲魔神の射線に複数のデストロイ・キラーシャークを巻き込める位置を見出し、移動していた。
(向こうの負担を軽くするためにも、こっちは出来るだけ手早く片付けないとね)
射線を示すかのように掌をデストロイ・キラーシャークへと向けると、カインは魔神――あくまで、その一部分にすぎないが――を、自身の身体に降臨させる。一部とは言え魔神の魔力は膨大であり、カインの身体を破裂させてしまうかと錯覚するほどだ。
その魔力を、カインは掌から放出した。海面方向から海底方向へと迸る魔力の柱が、三体のデストロイ・キラーシャークの身体を易々と貫いていく。その身体から流れ出る鮮血が零落の海を赤黒く染めていくが、まだまだその生命力は旺盛な様だ。
「誰も倒れさせへんよ! ここまで来たんやもの。守り通してみせます! ――此処に、聖戦の意を示さん!」
縁と同じウィーディーシードラゴンの海種の姿となった蜻蛉は、まず正義の始まりたる言霊を発して、周囲の仲間達の身体に戦う力を漲らせる。そして、生命の樹の権能を自らに顕現させ、自らがもたらせる癒やしの力を強化した。
愛する者と同じ姿になりたいと願った故のこの姿を取るには、可能性の力を余計に費やしてしまう。だが、蜻蛉も――そして、カイトもイズマも――それを厭うことはない。その分力をより発揮出来るのであれば、覚悟の上だ。
(――きっと大丈夫。この大舞台、綺麗に舞ってみせましょう)
薬指に月暈をはめた左手をギュッときつく握りしめながら、蜻蛉は意を決した。怖くないと言えば、嘘になってしまう。だが、愛する縁にとって、そして自身にとっても大切な海洋の為に尽くせるのならば、本望だった。
「準備は出来たよ、武蔵」
海上では『武蔵を護る盾』レイテ・コロン(p3p011010)が、戦闘を最適化する支援を、武蔵に施していた。レイテはこの後、敵が武蔵を狙ってきたなら、盾となってその攻撃を受け止めるつもりでいる。
「うむ、ありがたい。――それにしても、流石の巨体であるな、まるで捕鯨のようだ。だが、零落の海であろうと何処の海であろうと、この武蔵の砲撃で切り開く!!」
零式水中聴音機によってオルカとアポカリプス・キラーシャークの位置を把握した武蔵は、「九四式四六糎三連装砲改」の三連三基九門の砲口を、全て海中のオルカ達へと向けた。
「何処にいようとも、逃がしはせん!」
砲撃の轟音が響くと同時に、砲弾が海中を突き進む。本来なら水の抵抗で速度が落ちるはずであるが、砲弾は武蔵の殺意を体現するかのように速度を全く落とすことなく、次々とオルカに命中していった。
●ゴリョウの搦め手
「そろそろだな。頼んだぜ!」
「ええ、行きますよ」
発光した上で存在感を醸し出すゴリョウに、デストロイ・キラーシャークは寄って集った。だが、その牙は物理障壁に阻まれ、ゴリョウを傷つけることはない。
上手くデストロイ・キラーシャークを周囲に誘き寄せたところで、ゴリョウは頃合いと見てヒョウモンに声をかけた。すると、ヒョウモンはすすす、と後退してゴリョウから距離を取り、ゴリョウが預けていたパンツァーファウスト型クラッカー「アシカールパンツァー」を、デストロイ・キラーシャークの密集地帯に向けて構える。
ドドォーン!!!
猛烈に眩い光が周囲を照らし出し、轟音が一帯に響き渡った。するとデストロイ・キラーシャークは滅茶苦茶に泳ぎ回り、ある個体は次々と衝突し、ある個体は仲間に牙を突き立てて食らうと言った地獄絵図が、次々と繰り広げられた。
これは、デストロイ・キラーシャークがアシカールパンツァーによって聴覚と視覚を潰されたためだ。それでいてゴリョウの匂いは覚えてしまっていたため、匂いだけでゴリョウを攻撃しようとして、大混乱に陥ってしまったのだ。
程なくして、デストロイ・キラーシャークは全滅した。
●魔種への集中攻撃
残りの敵がオルカとアポカリプス・キラーシャークのみとなると、イレギュラーズ達はオルカを先に撃破するべく攻撃を集中した。
「武蔵の全霊を、受けるがいい!!」
九四式四六糎三連装砲改の九門が、立て続けに火を噴いた。ドォン! ドォン! 轟音と共に、幾つもの砲弾がオルカを狙って突き進む。
「ええい! 相変わらず上から、鬱陶しい奴め!」
オルカはその砲弾を盾を掲げて受け止めようとする。だが、立て続けに襲い来る砲撃の前に、一撃一撃の威力まではしっかりと殺しきれず、強かにダメージを受けることになった。
「大丈夫、今日は縁さんと一緒やし……怖い事あらへんの」
「……やれやれ、仕方のねぇ嬢ちゃんだ」
「好いた男を守れんようでは、女がすたるって、言うやない? なんて」
「――最後くらいは、格好つけたかったんだがねぇ」
愛する人を庇い、気遣いの視線を向けてくる縁に、蜻蛉ははっきりと言葉に出して大丈夫だと応える。そして、オルカによって深手を負った縁の傷をを、蜻蛉は永久の愛で以て慈しみ、癒やしていった。
肩をすくめて呆れたように言う縁に、蜻蛉は悪戯っぽい微笑みを返す。その微笑みに縁もフッと笑みを浮かべると、すぐさま漆黒の大顎を創り出し、オルカへと放つ。大顎はオルカの肩口にガブリと食らいつくと、騎士鎧など存在しないかのように牙を深々と突き立ててその肉を食い千切った。
「一気に行くぜ!」
縁の攻撃の上にさらに畳みかけようと、カイトは「三叉蒼槍」を振るい、騎士鎧の隙間を狙ってその穂先をオルカに突き立てる。猛禽が獲物に突き立てる嘴の如き一撃に、オルカは朦朧とし隙を見せてしまう。
続けてカイトは、一端オルカから距離を取ると、神速でオルカへと突撃した。再度繰り出された三叉蒼槍は、防御もままならなかったオルカの騎士鎧さえ貫いて深々とその身体に突き刺さる。
「僕も続くよ! 出来れば、さっさと片付けたいとこだよね」
長々と戦っていても得るところはないとの判断から、カインもまたカイトに続く。カイトが三叉蒼槍を引き抜いた直後、カインが喚んだ魔空間が、オルカをその中へと呑み込んだ。オルカは散々全身を圧搾され、串刺しにされたが、カインの攻撃はまだ終わらない。
オルカが魔空間から排出された刹那を狙って、カインは究極の破壊魔術の術式を構築し、放った。立て続けに攻撃され、魔空間から出てきたばかりのオルカはその魔術に対応出来ず、胸に直撃を受けた。騎士鎧はグニャリと砕け、ビキビキ、と深くひび割れる。
「ひとまず、仕切り直しと行こうかのう。取り巻きは倒れたが、まだまだ油断は出来んわい」
「ああ、ここからが本番だ。滅びを齎す奴等を叩き潰すぞ!!」
残る敵の数は、二。だが、その二体こそが、本当の脅威。潮の言うように戦況は決して油断出来るものではなく、イズマの言うようにむしろ本番はこれからなのだ。
ならばと、これから予想される激戦に向けて潮は味方全体を立て直す号令を放ち、味方の態勢を整える。その号令は負傷者の傷を癒やし、気力を身体のうちに湧き起こさせた。
それに合わせるようにして、イズマは神秘を纏った歌声を響かせる。その歌声は、潮の号令によって湧き起こってきた気力を、さらに漲らせた。
「この海は俺達がもらうぞ。押し通る!」
「そうじゃな。ここで行く手を阻まれておっては、海の者の名が泣くというものじゃよ」
「そうだ! そのとおりだ!」
イズマの叫びに合わせた潮の言に、海洋軍人達の、特に海種達は大いに奮い立った。
●決着の後
集中攻撃を受けたオルカが倒れれば、アポカリプス・キラーシャークは最早脅威とは言えなくなった。敵意を向ける相手をゴリョウへと誘導されれば、牙をゴリョウの聖盾に受け止められて、噛み千切ることも出来ずに無為な時間を過ごす。
「ぶはははッ! 豚一匹を一口で喰えねぇたぁ、随分とお上品じゃねぇか! アポカリプスの名が泣くぜ!」
ゴリョウに嘲笑われている間にも、アポカリプス・キラーシャークは他のイレギュラーズ達や海洋軍人達から集中攻撃を受け続ける。こうなると、勝敗は決まったも同然だった。程なくして、アポカリプス・キラーシャークは騎手であるオルカや眷属のデストロイ・キラーシャークの後を追った。
敵の全滅を確認すると、海中で戦っていた者達は一度浮上し、海上のイズマと武蔵と合流する。
「やったな! お疲れ様だ」
「海洋の戦士達よ、見事だった!」
「イズマ君達も、お疲れ様」
イズマと武蔵の労いの言葉に、カインも労いの言葉を返す。
「いやー、本当にやべー奴だったなぁ」
「うむ。じゃが、誰も倒れなくて、何よりじゃわい」
「ほんまに、そうどすなぁ」
魔種と巨大な終焉獣と言う敵の脅威をカイトが敵を振り返ると、そんな相手にもかかわらず海洋軍人も含めて戦闘不能者を出さなかったことに、潮と蜻蛉はホッと胸を撫で下ろした。
「お疲れさん」
「お疲れ様だせ」
「お疲れサマじゃな」
「お疲れ様だな」
「お疲れ様です」
縁、ゴリョウ、アモン、ホオジロ、ヒョウモンは、ゴツンと拳を合わせて、それぞれの健闘を称え合った。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。
皆さんの活躍により、影の城への行く手を阻む魔種オルカと終焉獣アポカリプス・キラーシャーク&デストロイ・キラーシャークは排除されました。
MVPは、海洋軍人達の統率に加えて、デストロイ・キラーシャークの早期の排除に貢献し、オルカに戦力を集中させるのを早めた点をポイントとして、ゴリョウさんにお贈りします。
それでは、お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。
PPPもいよいよ最終盤、最終決戦ですね。と言うわけで、今回は<終焉のクロニクル>のシナリオをお送りします。
アモン、ホオジロ、ヒョウモン達と共に、敵を全滅させて零落の海の安全を確保して下さい。
【概略】
●成功条件
敵の全滅
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●ロケーション
零落の海、海中。
自前で水上行動、水中行動を可能にするスキル・装備を用意していない場合、戦闘を行えるだけの最低限の装備は貸し出されますが、判定にマイナスの修正を受けます。
また、この海中はほの暗いため、中距離以遠の遠距離攻撃はその距離に応じて命中にマイナスの補正を受けます。
【敵】
●オルカ=オーシナス
アポカリプス・キラーシャークと共に、零落の海を守るシャチの海種の魔種です。属性は傲慢。
騎士鎧に馬上槍と盾と言う武装で、馬上槍から竜巻のような水流を放って攻撃してきます。
アポカリプス・キラーシャークに乗っている間は、その巨体が遮蔽として機能するため、白兵攻撃以外のオルカへの攻撃は命中に大きなペナルティーを受けます。一方、オルカからはアポカリプス・キラーシャークを離れて白兵攻撃を仕掛けることはなく、乗ったままの遠距離攻撃に徹します。
また、オルカは【怒り】を受けたとしても、アポカリプス・キラーシャークからは離れずに乗り続けることを優先します。【怒り】を与えた対象がオルカの攻撃の射程から離れた場合、オルカの受けている【怒り】は自動的に解除されます。
●アポカリプス・キラーシャーク
オルカの乗騎となっている終焉獣(ラグナヴァイス)です。体長40メートルの巨体を誇ります。
その巨体故に回避はマイナスの域に入っていますが、その分尋常ではないレベルの生命力を有しています。
噛みついたり瘴気混じりのブレスを吐いたりしてくる他、猛烈な突進によってその質量自体や巻き起こされる水流の圧を叩き付けることで、敵を攻撃してきます。
その威力に対して、生半可な防御技術は意味を成しません。また、あまりもの巨体であるが故に【封殺】も無効です。
さらに、オルカが乗っている間は【怒り】に対して高い耐性を有しており、【怒り】状態になったとしても回復判定に有利な補正を得ます。
●デストロイ・キラーシャーク ✕10
アポカリプス・キラーシャークの眷属たる終焉獣です。アポカリプス・キラーシャークを護るかのように、その周囲に侍っています。
アポカリプス・キラーシャークほど巨大ではないとは言え、体長は10メートルほどあります。
回避はあまり高くはありませんが、攻撃力と生命力は高めです。
攻撃手段もアポカリプス・キラーシャークと同様ですが、デストロイ・キラーシャークからの攻撃に対しては、防御技術はある程度の意味を持ち得ます。
【友軍】
基本的に、戦闘にあたってはイレギュラーズの指示を受け入れてくれます。例えそれがどんなに無茶な指示であったとしても、今回敗れれば世界が消滅するため、それを厭うことはありません。指示は、イレギュラーズ達の1人が出せば十分です。
もし複数のイレギュラーズから矛盾する指示が出たり、誰からも指示が出なかった場合は、GM判断で適当に動かします。
この友軍を如何使うか次第で、戦闘の行方は左右されることでしょう。
●老騎士アモン
海洋軍艦『シーガイア』の艦長です。騎士鎧に身を包んだアンモナイトの海種で、今回は艦を降りて、陸戦要員と共に終焉の影の領域に訪れています。
ステータスは、防御技術とHPが高めで回避と反応が低めとなっています。
●ホオジロ&ヒョウモン
海洋軍艦『アンリミテッド・バイオレンス』の艦長とその副官です。ホオジロがホオジロザメの、ヒョウモンがヒョウモンダコの海種です。
海洋軍の中でも暴力的な危険人物として知られていましたが、一方で様々な任務をイレギュラーズ達の助力を得ながらもこなしてきた強者でもあります。
二人とも攻撃力が高いのですが、ホオジロの方が一撃が重く、ヒョウモンの方が手数で攻め立てるタイプとなっています。
●海洋軍兵士 ✕20
『シーガイア』『アンリミテッド・バイオレンス』両艦の乗組員から選抜された、命知らずの戦闘要員達です。
選抜されただけあって、士気も高く、能力的にもそこそこ戦えます。
【その他】
●『パンドラ』の加護
このフィールドでは『イクリプス全身』の姿にキャラクターが変化することが可能です。
影の領域内部に存在するだけでPC当人の『パンドラ』は消費されていきますが、敵に対抗するための非常に強力な力を得ることが可能です。
●サポート参加について
今回、サポート参加を可としています。
シナリオ趣旨・公序良俗等に合致するサポート参加者のみが描写対象となります。
極力の描写を努めますが、条件を満たしている場合でも、サポート参加者が非常に多人数になった場合、描写対象から除外される場合があります。
それでは、皆さんのご参加をお待ちしています。
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