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シナリオ詳細

【水都風雲録】兵も、民も、この地も――総て、滅ぶべし

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●滅びの道連れ
 居城さえも包み込むような戦の喧噪に、この沙武(しゃぶ)の地を治める沙武 処膳(しょぜん)は、苛立ちも露わに手にした杯を床に叩き付けた。パァン! と破裂音がして、杯は粉々に砕け散る。
(くそっ! こうなったのも、神使共のせいか!)
 高天京の混乱に乗じて、処膳は覇を唱えようとした。その意を受けた、魔種や純正肉腫からなる沙武四天王と呼ばれる将達は、周囲の領地の制圧に成功していた。ただ一カ所、東の水都(みなと)を除いては。
 そして、水都に侵略の手を伸ばそうとした際に、討たれた領主の跡を継いだ娘朝豊 翠(あざぶ みどり)(p3n000207)が神使を頼って以来、処膳の覇道は停滞し、逆行した。四天王は討たれ、奪った領土は奪い返されていった。
 その周囲の領土は、水都と同盟を組んで四方向から一斉に沙武攻略の軍を起こしてきた。沙武はそれぞれの領境に迎撃の軍を出したが敢えなく敗れ、水都とその同盟軍は処膳の統治に不満を抱き蜂起した領民を加えて、この沙武城のすぐそこまで押し寄せている。
「ククク……どうせ滅びを免れ得ぬのであれば、総てを余の道連れとしてくれよう」
 狂気を瞳に宿した処膳は、沙武領内に仕掛けていた術式を発動した。すると、どこからともなく力が処膳の中に流れ込んでいく。そして、処膳の周囲の空間が虚無に呑まれて消滅していった。

●沙武城突入前の異変
 それぞれの領境を突破した水都とその同盟軍は、沙武領内で蜂起した領民を加えながら、沙武城へと突き進んでいた。もう、沙武に水都とその同盟軍を止める力は残っておらず、同盟軍は四方から沙武城を包囲する形で合流した。
 もっとも、沙武城を落とすのは同盟軍には不可能であった。何故なら、魔種や純正肉腫からなる沙武四天王を率いる沙武領主が、そのいずれか、あるいはそれ以上の存在でないはずがないからだ。
 そこで翠は、沙武領主討伐の依頼を出して神使達をこの戦場に呼んだ。神使以外に、沙武領主の討伐は不可能であろう故に。そして同盟軍は、神使達の道を作るべく沙武城内に突入せんと戦う。沙武兵の士気は最早高くないこともあって、同盟軍は城内への進入路を確保した。
(この戦乱も、後はここにいる沙武領主を討つだけか)
 城内に突入する前に、ふと天主閣を見上げながら、天目 錬(p3p008364)は少しの間だけ感慨に耽る。三年前、父を討たれた翠の依頼に応じて沙武四天王の一人を討って以来、錬は幾度も翠からの依頼に応え、水都に助力していた。その結果が、今ここに実を結ぼうとしている。
「うっ!?」
「うぐ……」
 だが、その間に異変が発生した。同盟軍の兵士達が、急に力を喪ったかのようによろよろとよろけ出す。中には、倒れる者さえ出始めた。
「おい! 大丈夫か!? しっかりしろ!」
 イズマ・トーティス(p3p009471)が、倒れた兵に声をかける。だが、倒れた兵はまるで病人のように憔悴しきっていた。そしてイズマ自身も、兵達がこうなった原因をその身で感じ取っている。
 生命力が、わずかではあるが徐々に奪われているのだ。それは歴戦の神使であるイズマにとっては取るに足りない程度ではあったが、普通の兵達にとっては大きな負担なのだと思われた。
「美咲さん、あれ、何……?」
 ゾッとする怖気を感じたヒィロ=エヒト(p3p002503)が、天主閣――のあった場所を見上げ、傍らにいる美咲・マクスウェル(p3p005192)に呆然としながら問いかける。ヒィロの眼には、黒い球体が天主閣を呑み込み、さらに大きく拡がろうとしているのが映っていた。
「いけない! すぐに退避を!」
 危険を看取した美咲が、大声で叫ぶ。それを聞いた同盟軍の兵士達は、我先にと逃げ出し始めた。
 
●処膳との遭遇
 兵達の退避は、概ね成功した。だが、動く力まで喪っていた者は拡がってくる黒い球体に呑まれ、消滅した。
 沙武城全体をすっかり呑み込んだ黒い球体は、なおも拡大を続けている。さらに、それに合わせて兵達の衰弱も酷くなる一方だ。神使達はこの時点では知る由もなかったが、この現象は沙武領全体に及んでおり、もし領内全体を俯瞰出来る者がいれば民が衰弱し、倒れていくのを目にすることが出来たであろう。
 兵達の衰弱の理由は、神使達も身体で理解している。それと、この球体の拡大とが関連していると判断した神使達は、元凶がこの中にいると判断し、球体の中へと飛び込んだ。
 球体の中には虚無の力が満ち満ちており、神使達の存在を消滅させようとしてくる。だが、神使達の中に宿る可能性の力が、それを防いだ。だが、可能性の力とても虚無の力の影響は完全には防ぎきれず、神使達はほんの少しずつではあるが、その生命を削り取られていった。
 それに耐えつつ、無重力であるかのような球体の中を浮上した神使達は、この現象の元凶である処膳と遭遇する。
「業腹な神使共よ、やはり余の元にも来たか……来い! 四天王よ!」
 四天王達が討たれた時点で、処膳も神使の関与は察している。そして、神使達がここに現れるであろう事も当然予測していた。
 神使達の姿を認めた処膳は、自身の周囲に討たれたはずの沙武四天王――蝦炭 成実(えびすみ なみ)、槍賀 咲綺(やりが さき)、夜々 喜元(よよ きげん)、坂上 宮増(さかがみ みやます)、坂下 道源(さかもと どうげん)の五人をこの場に出現させた。
 もっとも、この沙武四天王は、本人ではない。彼らの情報を元に処膳が虚無の力を使って創り出した、レプリカと言うべき存在だ。
「兵も、民も、この地も――総て、余と共に滅ぶべし」
 処膳の告げた事態を阻止するべく、神使達は戦闘態勢を取った。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。
 今回は、拙作【水都風雲録】の最終回をお送りします。
 高天京の混乱に乗じ、覇を唱えんとして水都に攻め入った沙武は、神使達によって四天王と呼ばれる将も侵略した他領も全て失い、逆に四方向から同時に攻め込まれて風前の灯火となりました。
 しかし、この戦乱を終わらせるには、最後の障害である沙武領主、沙武 処膳が残っています。
 しかも処膳は、どうせ滅びるならばと沙武領ごと道連れにしようとしはじめました。
 処膳を討ち、沙武領を救い、この戦乱を終わらせて下さい。


【概略】
●成功条件
 沙武 処膳の討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●ロケーション
 かつて沙武城であった、虚無が支配する空間。
 地面はなく、宇宙空間のように浮遊した状態になりますが、移動や戦闘自体は問題なく行えます。
 なお、周囲を取り巻く虚無の力によってPC側の無効化能力は半減程度に軽減され、PC達は毎ターンスリップダメージを受けます。このスリップダメージを無効化することは出来ません。

●初期配置
 処膳の周囲には、四天王五人のレプリカが侍っています。
 イレギュラーズ達は、処膳達から40メートル以上離れたところにいるものとします。
 密集しているか散開しているかは自由ですが、最初から処膳達を挟撃・包囲するような配置は出来ません。


【敵】
●沙武 処膳
 高天京の混乱に乗じて覇を唱えんとした、沙武の領主です。傲慢の魔種。
 どうせ滅びるのであれば、と、沙武にいるあらゆる者から生命力を奪い取り、虚無で沙武領全てを呑み込む術式を発動させました。
 虚無の力によって、全ての攻撃に【防無】が乗っています。

・攻撃手段など
 刀 物至単
 ?
 ?

●蝦炭 成実
 沙武四天王筆頭。正確には成実自身ではなく、その情報を持った、虚無の力に拠って作り出されたレプリカです。
 さすがに、オリジナルほど強くはありません(これは、以下の沙武四天王のレプリカも同様です)。
 本物は術士然としていながら大身槍を持っており、その大身槍と爆炎の術を使ってきていました。

●槍賀 咲綺
 緑色の肌の、妖艶な姿をした、植物の精霊種の沙武四天王のレプリカです。
 本物は大身槍の他に、周囲の樹木から生やした槍で神使達を攻撃してきていました。
 また、耐久型のステータスが特徴で、しかも再生能力を有してもいました。

●夜々 喜元
 フクロウの飛行種の沙武四天王。そのレプリカです。
 本物はスピード系のステータスを特徴としており、槍や衝撃波の他、凶兆を思わせる鳴き声によっても神使達を攻撃してきていました。

●坂上 宮増
 純正肉腫の沙武四天王、そのレプリカです。
 本物は、無数の式神を攻撃に防御にと駆使していました。
 また、胸に黒い宝珠が埋め込まれており、宮増の死亡と同時に大爆発を起こしました。

●坂下 道源
 凶相の武者の姿をした沙武四天王、そのレプリカです。
 本物は大身槍を持ち、疾風の如き突きや、衝撃波を放って来ていたりしました。
 また、攻撃力と生命力が高く、回避が低めと言うステータスを有していました。


【その他】
●サポート参加について
 今回、サポート参加を可としています。
 シナリオ趣旨・公序良俗等に合致するサポート参加者のみが描写対象となります。
 極力の描写を努めますが、条件を満たしている場合でも、サポート参加者が非常に多人数になった場合、描写対象から除外される場合があります。

●【水都風雲録】とは
 豊穣の地方では、各地の大名や豪族による覇権を巡っての争いが始まりました。
 【水都風雲録】は水都領を巡るそうした戦乱をテーマにした、不定期かつ継続的に運営していく予定の単発シナリオのシリーズとなります。
 単発シナリオのシリーズですから、前回をご存じない方もお気軽にご参加頂ければと思います。

・これまでの、【水都風雲録】関連シナリオ(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
 『【水都風雲録】悲嘆を越え、責を負い』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5350
 『【水都風雲録】敵は朝豊にあり!』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5958
 『【水都風雲録】敗残の四天王、民を肉腫と為して』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6550
 『【水都風雲録】クリスマスの民 苦しますは闇』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7122
 『<潮騒のヴェンタータ>一角獣の鎧の少女』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8158
 『住まうは醍葉 救うは西瓜』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8242
 『<竜想エリタージュ>運ぶは西瓜 狙うは鯨』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8357
 『【水都風雲録】沙武の礎』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9055
 『【水都風雲録】チョコを献上 領主を変容』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9161
 『【水都風雲録】樹にされし民』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9393
 『【水都風雲録】四境攻囲』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/10656

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • 【水都風雲録】兵も、民も、この地も――総て、滅ぶべしLv:50以上完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年03月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC4人)参加者一覧(8人)

ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
柊木 涼花(p3p010038)
絆音、戦場揺らす
イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)
生来必殺
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

リプレイ

●最後の戦端、開かれる
 豊穣辺境。高天京の混乱に端を発した沙武の侵略は、その侵略に苦しめられた四方からの反攻を以て終焉を迎えんとしていた。だが、沙武領主の沙武 処膳は、滅びるならば諸共にと、領土全体を滅びで包み込まんとする虚無の球体を顕現させる。
 既に沙武城をすっぽりと呑み込んだ虚無の球体の中に進んでいった神使達は、その中で処膳と遭遇。処膳は沙武四天王の複製を周囲に創り出すと、神使い達に告げた。
「兵も、民も、この地も――総て、余と共に滅ぶべし」

(――とっとと終わらせよ。その命)
 処膳の言に、『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)は反吐を吐きそうな程の嫌悪感に駆られた。自分の思いどおりにならなかったからと、領土ごと何もかも滅ぼそうなどとは!
 同時に、彩陽の身体も神速と言える程の速度で動いていた。処膳と複製された沙武四天王の周辺に揺蕩う根源の力を、穢れた泥へと変じてその運命へと塗布していく。突如身体に襲い掛かる、得体の知れない不快感に呻く処膳達を、彩陽はさらに堕天の輝きで照らし出して呪った。
 最早、処膳は生き存えているだけで周囲に害をもたらす存在だ。ならば、速やかに倒さねばならない。その意志は、さらに彩陽の身体をもう一度動かす。先程の輝きに重ねるようにして、堕天の輝きが処膳達を再度照らした。
(四天王が五人、か………)
 沙武四天王と称しながら、処膳の周囲には五人いるという状況に、『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)は首を捻った。だが、咲良はすぐにそれを脇に置く。
(滅ぶからって、死なばもろともは……長い間自分がずっと治めてきた場所だからにしても……)
 それを頭ごなしに否定する気は、咲良にはない。だが、生き延びさえすれば次に想いが繋げられるとする咲良とは、相容れる考え方ではない。ともあれ、このままでは沙武にいる兵の、民の、そしてこの地自体の未来が消滅してしまう。
(――何があったかは、アタシにはあんまりわかんないけどさ)
 ここに至った経緯を、咲良はよくは把握していない。だが、想いを繋ぐべき未来を護るためにもこの戦いを終わらせなければならないことだけは、はっきりと理解していた。
 その思考の間にも、咲良の身体は既に動き出している。咲良は複製された沙武四天王の一人、凶相の武者である坂下 道源との距離を瞬く間に詰めると、拳をその顎に叩き付けて、その身体を大きく跳ね上げた。体勢を立て直そうとする道源の腹に、さらにもう一撃、咲良は拳を叩き込む。道源は身体をくの字に曲げて、かはっ、とむせたような息を漏らした。
「覇を唱えんとして最後は破滅に行き着くのが、何とも傲慢な魔種らしい。だが――だからこそ、お前は負けたのだ。
 兵も、民も、この地も、滅びはしない! ここで潰えるのはただ一人、お前だけだ!」
 処膳にそう返しながら、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)もまた、彩陽や咲良とほぼ同時に動き出している。処膳との距離をやや詰めてから、細剣「メロディア・コンダクター」を指揮棒のように数回振ると、鋭い刺突を放った。
 その刺突からは衝撃波が延びて、虚を衝かれた処膳の鎧を貫き、鳩尾に突き刺さる。
「おのれぇ! 業腹な神使共が、よくも! 貴様等さえいなければ!」
 イズマが発した言葉と衝撃波に敵意を煽られた処膳は、ギロリと目を剥いて、憤怒を湛えた視線をイズマに向けた。 
 続いて動いたのは、『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)だ。
(ようやっと最後の魔種……と思えば、これとはな)
 錬は三年前、沙武が初めて水都に侵攻して以来、水都や近隣の領土に害を及ぼす沙武四天王をことごとく討ち果たしてきた。そして今回、沙武に巣食う最後の魔種を討つ――はずであったが。
 滅びのアークを擁し、世界を滅亡に導く存在であるのが魔種であるから、確かにこの所業はその存在に相応しいと言えば相応しい。だが、こんなものに巻き込まれる側からすれば、たまったものではない。
「道連れは、自分で用意したレプリカで我慢するんだな!」
 魔術剣を起動した錬は、処膳に向けて叫びながら、式符を取り出す。その式符からは豊穣の守護神樹の力を宿した木槍が鍛造され、複製された沙武四天王の一人、フクロウの飛行種の夜々 喜元に深々と突き刺さった。
「アンタにウロチョロさせる気は、ないんでな」
 スピードに優れる喜元に自由に動かれては、戦況を攪乱されかねない。故に、錬は喜元の敵意を自分に釘付けにしようとした。その狙いどおり、喜元は錬に殺意を込めた視線を向ける――が、その身体は彩陽の攻撃の圧によって硬直し、錬を攻撃することは出来なかった。
「滅ぶべし? その願い、叶えてしんぜよー。――滅ぼしてあげるよ、お・ま・え・だ・け☆」
 居丈高に、煽るように、見下すような視線を処膳に向けながら『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が言い放つ。もっとも、今回ヒィロが敵意を煽る相手は処膳ではない。
「複製でも何でも――死ね!!!!!!」
 殺意を宿した緑色の瞳を輝かせ、ヒィロは複製された沙武四天王の一人、槍賀 咲綺を睨み付けた。
 沙武四天王の中でも、咲綺はヒィロにとって憎むべき相手だった。水都領主を反転させようと派遣された部下によって、大切な知己である商人が巻き込まれ、複製肉腫とされた。そして、その部下を追って赴いた九樹森では、人々と樹々が融合させられた森と言う光景を目の当たりにさせられている。そんな相手の姿を取っているとなれば、それが複製だろうと殺意は溢れようというものだ。
 もっとも、ヒィロが咲綺を睨んだ理由はそれだけではない。もう一つ戦術的な理由として、咲綺が彩陽の攻撃の圧に耐えたことがある。戦場全体を範囲としうる攻撃を持つ咲綺を、自由に行動させるわけにはいかない。
 咲綺はヒィロの視線に触発されたかのように、怒りを宿した視線を向けながら接近して大身槍で突きかかるが、回避の技量に長けたヒィロには掠らせることさえも出来なかった。
「業腹? 業腹はこっちだっつーの、カスが」
 イズマへの言葉を耳にした『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)が、眉をピクリと跳ね上げながら、軽蔑の眼差しを処膳に向けながら吐き捨てる。もっとも、美咲にとってはこうすることさえ勿体なく思う。
 処膳は、武将としては戦を放り出して、領主としての誇りすら投げ捨てて、周囲を巻き添えにして滅びゆくただ迷惑な存在と成り果てている。
(こんな奴のために――!)
 水都は、周辺の諸領は苦しんできたのか。そんな考えが頭を過ぎると同時に、美咲は殺意の刃を創り出して、処膳へと駆け出していた。そして、四連続の虚無ごと処膳を滅さんとする斬撃で斬りつけると、バックステップで距離を取る。処膳の身体には鎧の上から四本の傷が刻まれ、そこからは紅い血がだらだらと流れ出していた。
(久しぶりにこの戦場にやって来たけど、ついにここまで来たのね)
 沙武領主である処膳を前にして、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)はふとそんな感慨に耽った。沙武に攻め込まれていた水都が、決め手を欠いたまま領境で睨み合う膠着状態となったところまでは、イナリも識っていた。それが、もう目の前の処膳を討てば終わるところにまで至っているのだ。
 イナリ自身は、今回は水都の依頼を受けたわけではなく、応援として此処に馳せ参じている。が。
「どんな形であっても、此処に来た以上は、頑張らせてもらうわよ!
 私の一撃は少しキツイけど、せめて成長の糧になるぐらいには耐えきってみせなさい!」
 特殊鋼によって造られた大太刀が、瞬く間に四度翻る。邪道の極みたる殺人剣が、四天王の中で最も手強いと見た成実に四度直撃し、その身体を幾重にも斬り刻んでいった。
(覇権争いに失敗したからって……自分が治めていた土地を消すなんて、どうでもよくなっちゃった?)
 処膳の、言うなれば投げやりな行動に、やはり応援としてこの場に参じた『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は首を捻る。
 しかし、それならそれで引き際くらいは静かにしていれば良いものを、こんなことをやらかすとは。半ば呆れのようなものを感じつつランドウェラは究極の破壊魔術を成実の腹部へと叩き付ける。破壊魔術が命中した場所が、細かな塵へと変じてボロボロと崩れ落ちていった。
「城も、領地さえも虚無に包まんとする狂鬼に挑む各々方! 義によって、助太刀いたす~」
 『クラブチャンピオン シード選手』岩倉・鈴音(p3p006119)もまた、本人が助太刀と言っているように、イナリやランドウェラと同じように応援として此処に参じた一人だ。
 己の思考を研ぎ澄ませた鈴音は、味方同士の連携を強化する支援を仲間達に施した。これで、神使達の攻撃は処膳達にとってより回避し難いものとなるはずだ。
(全てを捨ててでも、戦うつもりだな)
 処膳の行動をそう解釈したのは、『生来必殺』イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)だ。故に、イルマは処膳に対して手加減無用との判断を下す。何にせよ、処膳が如何に覚悟を決めていようとも、覚悟で劣るつもりはイルマにはない。
「既に倒した奴等のレプリカを作ったところで、そいつらのデータぐらい我々も知っているんだぞ?」
 対物ライフルを構えたイルマが、静かにその引金を引く。タン、と言う銃声と共に放たれた弾丸が、成実の眉間に直撃し、吸い込まれていった。成実はその衝撃に身体を大きく仰け反らせたが、すぐさま体勢を立て直す。もっとも、常人ならともかく魔種のレプリカをこの一撃で屠れるとは、イルマも考えていない。ただ、徹底的にその生命を削り続けていくだけだ。
「お手伝い参上っ! だよっ! ヒーラーなら任せて!」
 水都の周辺地域を巡る最後の戦いとあって、応援に馳せ参じてきた最後の一人、『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は、意気揚々と仲間達に告げる。続けてフラーゴラの口から発せられたのは、仲間達を大輪の花として咲かせるための水であり養分である号令だった。
 その号令を聞いた神使達は、身体の中で費やした気力が補われていくのを感じていた。
(一人で終わることもできない、あの愚か者を――今まで苦しめられてきた人たちの分だけ、思いっきりぶん殴ってやりましょう!)
 これまで処膳に苦しめられてきた、水都や周辺の諸領、そして沙武の民のことを想起しながら、その民達に成り代わって処膳を討たんとする『灯したい、火を』柊木 涼花(p3p010038)は、大きく胸いっぱいに息を吸い込んだ。
 そして、竜の咆哮が如き激しい歌声を、虚無で満ちているはずのこの空間に響かせる。涼花の歌声は、厚い竜鱗のような強靱な守りとなって、神使達を包み込んだ。

●四天王、壊滅
 神使達は、四天王に対して抑えを置き、最低限の数を削りながら、処膳を討つと言う戦術を採った。
 彩陽、イルマが成実を狙い、それにイナリとランドウェラも同調する。いくら四天王筆頭格のレプリカとは言え、四人から集中攻撃されてはたまらず、成実が最初に斃れることになった。
 味方全体への支援能力を有していた成実がいなくなったことで、戦況はさらに神使達の方へと傾いていった。時を置かずして、錬と戦っていた喜元と、咲良と戦っていた道源もまた斃れた。
 残る四天王は咲綺と宮増のみとなったが、この二人はヒィロに手玉に取られ続けている。
 その間、美咲とイズマは処膳と交戦を続けていた。処膳の攻撃を引き受け続けていたイズマの傷は、さすがに少しずつ深くなりつつあった。
 それでも、この時点でイズマさえ深手を負っていないのは、涼花、鈴音、フラーゴラの三人がかりによる癒やしの成果であると言えた。

「前菜だけじゃ、物足りないなー。本気を出すことも出来ないよ」
 躍起になって攻めかかるも攻撃を命中させられない咲綺と宮増を、ヒィロはつまらなさそうに煽る。
 浅からぬ傷を負い、血をドクドクと流してこそヒィロの本領は発揮される――すなわち、「本気を出せる」――のだが、相手が咲綺と宮増だけとなっては、ヒィロに「本気を出させる」のは不可能だった。
「まぁ、いいや。そっちは領主のポチで、ボクは美咲さんのペット。どっちのご主人様が強くて偉いか、ボクの隣の特等席で指を咥えて見てるがいいよ」
 嘲るように言うヒィロは当然、美咲の勝利を確信している。滅びを前提としている処膳に、この先もずっと生きてヒィロを飼い、愛でてくれる美咲が負けるはずはないのだ。
「あー、命懸けで戦ってる美咲さんをこうして見てるだけで、イケないとこがアツくなっちゃうよ。これが、生きるって実感なんだね☆」
 ウットリと、蕩けた表情で言うヒィロ。かくして、ヒィロは美咲の戦う姿を堪能しつつ、処膳が斃れるまで咲綺と宮増を釘付けにし続けるのであった。

 まともに戦える沙武四天王がいなくなったことで、ヒィロを除く神使達は処膳に対して攻撃を集中し始めた。
「想いや未来まで、虚無に飲み込ませたりなんてしないんだから!」
 確かに、この場には虚無の力が溢れている。しかし、これを沙武領全体にまで拡げさせる気は、咲良にはない。咲良は、低くかがみながら処膳の懐に入り込むと、下から打ち上げるように処膳の鳩尾に拳を叩き込んだ。
 海老のように身体をくの字に曲げて上へと浮いた処膳の頭に、すかさず咲良はハイキック。その衝撃に頭を揺さぶられた処膳の意識が、一瞬飛びかける。
(あとの四天王は、ヒィロはんに任せとけばええな)
 四天王は全滅したも同然と判断した彩陽が、咲良に続いて動く。
(もろたで。派手に跳ね飛ばしたるわ)
 ドカッ!! 魔力によって流星の如き加速を得た彩陽の身体が、処膳を轢いた。咲良の蹴撃で意識が飛びかかっていた処膳は何らの対応も出来ず、グルグルと身体を回転させながら弾き飛ばされる。
(もう一回や)
 さらに、来た道を戻るようにして、流星の如く突き進む彩陽の身体が処膳を跳ねる。最早、処膳は神使を攻撃するどころではなくなっていた。
「最後はお前一人なんだ。猛き者も滅ぶ時だ、潔く塵となり消えていけ!」
 護符を破り捨て埋め込まれた術式を発動したイズマは、処膳との距離を詰めると、その身体に掌を押し当てた。イズマの掌からは、完全かつ無限の光が止まることなく迸り、処膳の姿を覆い隠さんばかりに包み込んでいく。一度では足りないとばかりに、イズマは二度、三度と光を掌から迸らせ、この光を処膳に浴びせ続けていった。
 この光をこれほどまでに放つには多大な気力を消耗するのだが、護符の術式により気力の消耗が皆無に抑えられているため、イズマはこの後も、術式が効いている四十秒にわたって、この光を処膳に放ち続けた。
「ヒィロ、そのまま、残りの四天王をよろしくね。さくっと片付けて、三日は遊び倒すよ!」
 美咲はヒィロにそう声をかけると、手に殺意の刃を顕現させた。そして、周囲の虚無ごと処膳を滅するが如く、その刃を幾重にも振るっていく。のみならず、中段に殺意の刃を構えると、そのまま真っ直ぐ刃を突き出し、処膳の左胸に突き刺した。
「気に入らない格上に『真っ直ぐな一撃』を入れるの、サイッコーだわ!」
 快哉を叫ぶ、美咲。同時に、殺意の刃が消える。するとその傷口から、プシューッ! と勢いよく鮮血が噴き出した。
「道連れとは、一人で死ぬ勇気もないんだな? せめて貴様一人で地獄に堕ちるがいい」
「そうだ。俺達に、道連れに付き合う気は無い。一人で虚無に還るんだな!」
 処膳の真正面から、イルマが対物ライフルを構えて、静かに引金を引く。その間に、錬は処膳の横合いに回り込んで、式符から五行相克の循環を象った斧を創り出した。
 銃声の音が響き、銃弾が美咲の刻んだ傷に飛び込み、心臓に深く突き刺さる。その衝撃に処膳はクワッと目を見開いてイルマを睨み付けるが、注意がイルマへと向いた刹那の隙に、処膳の脇腹に錬が斧の刃と共に、五行循環のエネルギーを叩き込んでいた。
 胸から噴き出す血の勢いはますます激しくなり、処膳は口から血を吐き出した。さらに、爆ぜた脇腹からもダラダラと血が流れている。それでも、処膳はイルマや錬の言葉を拒絶するかのように、倒れることなくなお立ち続けていた。
(ここからが、本番ですね。誰も倒させませんし、誰の気力も尽きさせません)
 ヒィロを除く全員が処膳と対峙することになり、戦況は有利になったかのように見えた。だが、癒やし手としてはここで油断する事は出来ない。処膳に攻撃が集中すると言うことは、それだけ多くの人数が処膳からの反撃を受ける可能性があると言うことでもあるからだ。
 涼花は改めて気を引き締めると共に、再び竜の咆哮が如き激しい歌声を響かせる。その歌声は神使達に、厚い竜鱗のような強靱な守りを再びもたらした。

●新時代の到来
 処膳は、強力な魔種ではあった。しかし、やはり熟練の神使十二名を相手にしては、多勢に無勢。しかも、時折彩陽の攻撃の圧によって、自身の攻撃を阻害されたのも処膳にとっては痛かった。
 それでも、イズマのみならず、負傷を覚悟で接近戦を仕掛けた美咲、錬、咲良に深手を負わせた――が、そこが処膳の限界であった。神使達の被害がそれで止まったのは、何より涼花をはじめとする三名の癒やし手が、生命力のみならず気力の面でも仲間達を支えたのが大きい。その中でも、癒やし手としての自負と責任感から、状況に応じて様々な調子の歌声を使い分けた涼花の活躍は、獅子奮迅と言えるものであった。
 遂には処膳が討ち果たされると、ヒィロが相手していた咲綺と宮増も、虚無の空間諸共に消滅した。そのため、神使達は突如空中に現れ、引力に引かれてそのまま地面に落下するかのように思われた――が、形容しがたい不思議な力が働いて、神使達の身体は重力が軽減されたかのようにゆっくり、ゆっくりと降りていき、沙武城の跡地に降り立った。
 何故こんな不可思議な現象が発生したかは不明だが、虚無による消滅から救われた沙武の大地からの感謝なのではないか、と言う説が囁かれた。もっとも、その説が正しいかどうかを証明する手段はない。だが、多くの人がその説を信じた。

 処膳が討たれた後の沙武は、水都領主である朝豊 翠(p3n000207)が治めることとなった。沙武との戦いで翠と水都が果たした役割はそれが認められるほどに大きかったし、何より他の芽玄、多賀谷瀬、九樹森は処膳の侵略によって占領されていたこともあって疲弊著しく、自領の復興で手一杯で沙武まで治める余力は無かった。
 さらに言えば、新たに沙武を得たと言っても、沙武の国内もまた処膳の苛政によって酷く疲弊している。そのため、翠や水都からすれば、沙武を復興させる責任を新たに負ったようなものでもあり、それが可能なのは翠や水都だけと言うことでもあった。
 それでも、これまでの苦難を超えてきた翠ならば、沙武復興と言う難題もきっと成し遂げられるだろうと神使達は信じている。もちろん、そのために必要な依頼があるならば、喜んで手を貸すつもりだ。
 ともあれ、こうして、処膳の野心に端を発し、周辺諸領を巻き込んだ戦乱は、終焉を迎えた。そして、翠と水都を中心とした同盟による復興と平和の時代が、これから始まろうとしていた――。

成否

成功

MVP

柊木 涼花(p3p010038)
絆音、戦場揺らす

状態異常

美咲・マクスウェル(p3p005192)[重傷]
玻璃の瞳
天目 錬(p3p008364)[重傷]
陰陽鍛冶師
イズマ・トーティス(p3p009471)[重傷]
青き鋼の音色
皿倉 咲良(p3p009816)[重傷]
正義の味方

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。
 皆さんの活躍により、処膳は討伐され、沙武の侵略に端を発した戦乱は此処に集結致しました。
 そして、この【水都風雲録】シリーズも、PPP終了前に無事に完結させることが出来ました。
 GM業務から離れていた期間などあり、結果およそ3年の長期間に渡る運営となりましたが、未完とならずにホッとしております。
 そして、完結まで休み休みながらも走ってこられたのも、それぞれのシナリオに参加して下さった皆様のおかげです。本当に、ありがとうございました。

 ただ、水都や周辺諸領がこれから迎える復興と平和の時代がどうなるかは、現在進行中の最終決戦次第となります。その勝敗次第で、復興と平和が続くのか、混沌の滅亡に連動して諸共に途絶えるのかが変わってきますが、今はまだそれを知る由はありません。
 神使の皆さんが最終決戦で勝利し、復興と平和の時代が続くことを、私は願っております。

 MVPは、皆さんの生命力、気力の両面を100を超える奇跡と様々なスキルで支えた涼花さんにお贈り致します。
 それでは、お疲れ様でした! そして、ありがとうございました!

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