PandoraPartyProject

シナリオ詳細

悪因悪果の終着点。或いは、大切なものの敵討ち…。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ドス黒く燃える我が殺意
 傭兵部隊『緋蠍』というクソボケ共は、必ずやこの手で殺さねばならない。
 隠れ家を焼かれ、人生を賭けて集めた大事なコレクションを全部焼かれたあの日から、ピリム・リオト・エーディ (p3p007348)の胸中には、汚泥のようなドス黒い殺意と怒りが渦巻いていた。
 自分がなにをしたというのか。
 ピリムにはそれが分からない。
 ただ、脚を斬ってコレクションしていただけだ。斬って奪ったのは脚だけで、命まで奪ったわけじゃない。まぁ……紆余曲折の末、致し方なく殺してしまった者もいるが。
 『緋蠍』の連中にしたってそうだ。
 その大半は、確かにピリムの被害者だ。構成員には、ピリムに身内を殺された者やピリムに脚を奪われた者が多いと聞いている。
 殺されたのは身内であって、本人は生きているではないか。
 そもそも、身内が死んだぐらいどうしたというのだ。ピリムなど、自分の手で“妹”を殺めたし、妹の方だってピリムを殺そうとした。身内とはそんなものである。
 脚を斬られたからなんだ。
 生きているんだから、別にいいじゃないか。
 むしろ、命まで奪われなかったことを感謝してほしいぐらいである。
 ところが連中、何をどう勘違いしたのかピリムのコレクションを焼いた。目の前で焼けていくコレクションを見て、ピリムが一体、どんな気持ちになったかなんて、ピリムがどれほどの絶望と悲しみを胸に抱いたのかなんて、きっと考えなかったに違いない。
 あぁ、人の心の分からぬ哀れな傭兵たち。
 あんな連中に目を付けられた自分はなんてかわいそうなのだろう。

「と、そのように世界を呪ったところで、クソボケ共の根城が分からないのでは報復のしようもなかったんですよねー」
 暗い部屋だ。
 とある廃都市の廃墟の地下室。蝋燭の明かりに照らされながら、ピリムは上機嫌な様子で壁際を歩き回っている。
「ところが! なんとも喜ばしいことに、この度晴れてクソボケ共の“根城”が判明したんですねー」
 わー、とわざとらしく間延びした歓声をあげて、ピリムはぱちぱちと拍手した。
「はぁん? それが今回のターゲット……貿易会社“蠍商会”ってか?」
「なんと言うか……捻りの無い名前だねぇ。ペーパーカンパニーの名前を凝っても仕方がないわけだけど」
 相槌を打ったのは2人。
 クウハ (p3p010695)と武器商人 (p3p001107)である。
 助力を乞われて集まった2人だが、まぁ、正直なところピリムの言う“報復”とやらにさほど興味は無い。
 興味は無いが、2人ともが口元に酷薄な笑みを浮かべていた。
 仕事が始まるまでに暫く時間はあるが、既に漂う陰鬱な“死”と“暴力”と“流血”の匂いを鋭敏な嗅覚でもって嗅ぎつけているのだ。
「というわけで“蠍商会”……もとい傭兵部隊『緋蠍』の拠点にカチコミましょうー。その結果、連中を皆殺しにしてしまってもそれは仕方の無いことですよねー?」
 そうピリムが言うように、現在3人がいる“名も無き廃都市”こそが“蠍商会”……或いは、傭兵部隊『緋蠍』のアジトだ。
 もちろん、依頼を受けるための窓口は幻想の各地に点在しているが、『緋蠍』たちの巣というものがあるのなら、それはこの“廃都市”ということになる。
 あるのは廃墟と、地下にあるらしい『緋蠍』の居住区。それから、訓練場や執務室ばかり。
 どれだけの血が流れても。
 どれだけの破壊活動が行われても。
 どれだけの悲鳴や阿鼻叫喚が轟いたとしても……。
「まったく、だぁぁぁれも気にしませんよねー」
 仄暗く、歪な笑みを浮かべたピリムがくっくと肩を揺らして嗤った。

●傭兵部隊『緋蠍』
「さて、あなたの頼み通り“あの子”をここに呼んだわよ?」
 暗い部屋で、2人の女が相対している。
 先に言葉を紡いだのは、どこまでも黒い女であった。その表情は、霞がかかったようになっており窺えない。だが、声の調子からきっと愉快な気持ちでいることだけは分かった。
 彼女の名は、ロベリアと言う。
 ピリムに“蠍商会”の潰滅を依頼したのは彼女だ。もちろん、その正体を念入りに隠して……ではあるが。
「あぁ、ありがとう。上出来だ。クソムカデの野郎、悪趣味な脚を焼かれて今頃、怒り狂ってるはずだからな!」
 頭に血の昇った相手ほど、狩りやすい獲物は存在しない。
 左の脚を手で押さえ、怒りと歓喜に肩を震わせている彼女の名はカミーラ・レンティーニ。
 傭兵部隊『緋蠍』のリーダーにして、ピリムとは旧知の間柄である。
 旧知と言っても、決して友人などではないが。ピリムはカミーラの左脚を奪い、カミーラはピリムに左脚を奪われた。
 ピリムの方がどう思っているかは知らないが、少なくともカミーラはピリムのことを怨敵であると認識していることだろう。
「ここはオレたちの拠点……庭みてぇなもんだ。怒り狂ったクソムカデが攻めて来るなら、ここほどに具合のいい狩場はねぇ」
 追い回して、追い詰めて、そして最後にはその命を奪ってやろう。
 その瞬間を想起して、カミーラは狂暴な笑みを浮かべる。
「さぁ、とっと来やがれクソムカデ。お前に恨みを抱く者たちが……『緋蠍』の精鋭30人がテメェの来訪を待っているぞ! 今か今かと首を長くして! 苦痛と絶望を与えてやるぞ!」
 武器は十分に用意した。
 銃も、弾薬も、刃物さえも無限と言えるほどにある。
 機動力を奪うだけの、非殺傷の罠もあちこちに設置している。
 後は獲物が来るのを待っていればいいのだ。
「テメェに引導、渡してやるよ!」
 狂ったような絶叫が、暗く冷たい部屋に響いた。

GMコメント

●ミッション
“蠍商会”(傭兵部隊『緋蠍』)の潰滅

●エネミー
・カミーラ・レンティーニ
https://rev1.reversion.jp/guild/1/thread/4058?id=1586514
傭兵部隊『緋蠍』のリーダー。
蠍の獣種で、性格は非常に狂暴で凶悪。
今回、ピリムに偽の依頼を出して彼女を廃都市へ招いた張本人。
どちらかが死ぬまでやりあう覚悟を決めている。
常にピリムに対して怒りを覚えている為【怒り】が無効。

ガトリング:物中範に大ダメージ、連、失血
ライフル:物遠単に特大ダメージ、ブレイク、致命
スモークグレネード:神中範に封印、不運
手榴弾:神中範に中ダメージ、業炎、飛

・傭兵部隊『緋蠍』団員×30
カミーラ率いる傭兵部隊。
メンバーは殆どがピリムの被害者やその遺族。
性別や年齢は様々。
主に【廃滅】【無常】の付与された剣や銃火器を得物としている。

●経緯が気になる人は以下を参照してください
:https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/5588


●フィールド
傭兵部隊『緋蠍』が拠点としている廃都市。
元々は人口500人ほどのごく小さな都市であったらしい。しかし、何らかに理由により都市は潰滅。その後、『緋蠍』が拠点として利用している。
街並みは幻想によくある都市構造に準じる。道路は整備されており、道路の両脇に2階~3階建ての家屋がずらりと並んだものだ。
家屋の中には、倒壊しているものも含まれており、道路の幾つかは途中で封鎖されている。
また、道路や家屋の内部には『緋蠍』に仕掛けた【石化】【封印】【重圧】効果を持つ罠が存在している。
※噂レベルではあるが『緋蠍』の居住区や訓練施設は街の地下にあるらしい。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
また、成功した場合は多少Goldが多く貰えます。

  • 悪因悪果の終着点。或いは、大切なものの敵討ち…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2024年03月24日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
武器商人(p3p001107)
闇之雲
※参加確定済み※
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
※参加確定済み※
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい
※参加確定済み※

リプレイ

●廃墟都市への侵入
 もはや人の住まない廃都市。
 月の無い夜。夜も遅い時間のことだ。廃墟の1つを、ひっそりと出立する一団の姿があった。
 今にも雨の降り出しそうな、どんよりと重たい湿気た空気が満ちていた。
 陰鬱な都市である。
 そして、都市以上に陰鬱な空気を纏う……撒き散らす女性の姿があった。
「思いつく限りの苦痛と絶望を、可能な限りの刑罰と拷問を、私が与えられるありとあらゆる苦しみをヤツらに……」
 それは白く、長い女であった。
 赤く血走った目をぎょろりと剥いて、目の前に広がる暗闇をじぃと凝視している。彼女の目には、一体何が映っているのか。引き攣ったような歪な笑みが恐ろしい。
 激怒して、怒りが限界にまで達した者とはこういう“得体の知れない”笑みを浮かべるものなのである。
「それが終われば……何としてでも、どんな手を使ってでも、確実に……! ヤツらを殺す!」
 復讐に燃えるその女、名を『夜闇を奔る白』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)といった。
 
 ピリムの集めたコレクション……つまりは、彼女がこれまで斬り集めた誰かの“脚”が燃やされたのは、今から少し前のこと。
 コレクションを燃やしたのは“緋蠍”という傭兵たちだ。この“緋蠍”、ピリムに脚を斬られた被害者や、被害者の親族、友人、恋人などによって構成された集団であるらしい。
 コレクションを焼き討ちしたのも、きっと復讐の一環だろう。もう、まったくもってピリムの自業自得、因果応報の結果であった。
「後生大事に集めてた脚を燃やすなんて、ヒデェ奴らもいたもんだなァ」
「人の趣味とは文字通りに十人十色なのだ。私も嘗てはひとつの部位に執着したものだ」
 『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)と『同一奇譚』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)は、ピリムの悲嘆と怒りに理解を示している。
 当然である。その入手経緯がどのようなものであったとしても、例え余人には理解の及ばぬ悍ましき趣味であったとしても、ピリムにとって焼かれた“脚”が大切なコレクションであったのだ。大切な“宝物”が、他人の手により失われてしまった。
 自業自得、因果応報の結果とはいえ、ピリムが深く悲しんで、怒り狂っていることはまったく正当な権利であり、至極当然な感情の動きなのである。
 やったらやり返される。
 復讐の連鎖は止まらない。
「兎角、友の趣味を冒涜した罰だ。相応の地獄を味わってもらわねば困る」
「よっしゃ! オレも1枚かませろよ商会っつーぐらいだから金持ってんだろ。慰謝料巻き上げようぜ!」
 もしも、復讐の連鎖が止まる時があるとすれば……それはピリムが死ぬか、“緋蠍”が壊滅した時だけだ。

 瓦礫の隙間を覗き込み、石畳を剥がしてワイヤーを取り除く。そんな風にして、仕掛けられた無数の罠を解除しながら進むピリムたちのすぐ後ろを『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)、そして『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)が付いていく。
「……自業自得、因果応報、とは言うが……いや、言うまい」
「狂人に常識なんざ通じる訳ねェわな……奴らの怒りも分からなくはねェが」
 ピリムと“緋蠍”、どっちが悪いのかと言えば……それはまぁ、先に手を出したピリムの方ということになる。では“緋蠍”の連中は悪く無いのか? それも違う。
 彼女たちも“悪い”のだ。
 何が、と言えば……“運”が悪い。
「しかし、妙だね」
 『闇之雲』武器商人(p3p001107)が首を傾げる。
 クウハとエクスマリアが足を止め、視線を武器商人の方へと向ける。
「何が……だ?」
 エクスマリアが問いを返した。
 武器商人は腕を組んだまま、周囲を見回している。
「何が……と言われると、ねぇ? 違和感程度のものなのだけれど、少し様子がおかしくないかい?」
 そう言って武器商人は、視線を前へ。ピリムやことほぎ、ロジャーズたちは罠を解除しながら先へと進んでいた。
 狭い通りにも、大きな通りにも、廃墟と廃墟の間にも、廃墟の中にも、幾つもの罠が仕掛けられているのである。その大半は、トラバサミやワイヤートラップといった行動を阻害する類の罠だった。
「罠が多い割に、どうして誰も出て来ないんだろうねぇ?」
 武器商人が疑問に感じたのはそこだ。
 きっと“緋蠍”の者たちは、ピリムを罠に嵌めたいはずだ。
 だが、罠で殺めたいわけでは無い。
 あくまで罠は、その機動力を阻害するための手段でしかない。なぜなら、復讐とは“自分の手”で行って、初めて意味を持つものだからだ。
「見つかっていない……という可能性、は? さっきまで居たセーフハウスは、マリアの用意していたもの、だ」
「そう言う可能性もあるけれどね。でも、廃墟から出て暫くの時間が経過している」
 今回の仕事、確か情報を持って来たのはピリムであった。
 ピリムは“緋蠍への復讐”として認識している風ではあるが、正確な依頼内容は「“蠍商会”の潰滅」……傭兵部隊では無く、商会の襲撃任務である。
 蠍商会は、緋蠍のカバーカンパニーであるため、結果としては同じことではあるけれど。
「そこはまぁ、いかにも都合がいいとは俺も思ってたけどよ」
「……依頼そのものが、ピリムを釣るための罠、か」
 そう考えれば、廃都市全域に張り巡らされているであろう膨大な数の罠の存在も納得できた。“緋蠍”は、ピリムの襲撃に備えて随分前から念入りに罠を仕掛けて来たのだろう。
 罠だけ仕掛けて、監視を置かないなんてはずは無い。
 監視の目が届かない場所に、罠を仕掛ける理由も無い。
 平時であればいざ知らず、今現在に限っては“全ての罠”がピリムやイレギュラーズのために用意されたものであるからだ。
 その目的が“自らの手でピリムを殺める”ことであるからだ。だから、非殺傷の罠ばかりが仕掛けられている。
「気づかれないように隠れているか……別の狙いが、あるのかもね」
 未だ“緋蠍”の姿は見えぬ。
 武器商人には、それが不気味に思えてならない。

●蟲に相応しい戦場
 蠍は音に敏感だ。
 櫛状枝(ベクチン)と呼ばれる、振動を感知する専門の器官を用いて、蠍はその全身で“音”を聞くのである。
「前に3人、後方に3人……頃合いだ。やれ」
 暗くて湿った場所だった。
 囁くような声は、カミーラ・レンティーニのものだ。
 火薬が爆ぜる音がしたのは、カミーラが指示を出して数瞬後のことである。

 突如として地面が揺れた。
 否、地面が砕け散ったのだ。ひび割れた石畳から、紅蓮の炎が噴出している。
「っ……おいおい、マジか!?」
「嗚呼! 度し難い連中だ!」
 地面が砕けた。ことほぎとロジャーズが、足場を失い地下空洞へ落ちていく。
 地面の下に……地下に潜んでいたカミーラたちからすれば“天井”に、爆弾が仕掛けられていた。そして、ピリム達がばらけた隙を突いてそれを起爆させたのだ。
 ロジャーズとことほぎは、既に地下へと落下した。真っ暗な地面の底に吸い込まれ、もはや姿も形も見えない。
「これはー……」
 ピリムも、直に地の底に落ちる。
 クウハがこっちに手を伸ばしているが、あまりにも距離が遠すぎた。
 空に向かって、手を伸ばす。
 ピリムの指が、虚空を掻いた。
 遠くなる空を視界一杯に眺めながら、ピリムは地面の底の方へと落ちていく。

「……笑っていた、な」
 地面に空いた大穴を眺め、エクスマリアがそう呟いた。
 確かにエクスマリアは見たのだ。地面の底に落ちながらも、ことほぎやロジャーズ、そしてピリムが嗤っていた瞬間を。
「笑っていたねぇ。クウハ、人がわらわら出てくるかもしれないから、広域観測よろしくねぇ」
「あぁ。いや……観測するまでもねぇわ」
 クウハが大鎌を肩に担いだ。
 いつの間にか、3人は敵に囲まれていた。剣を手にした傭兵たちに。銃火器を手にした傭兵たちに。周囲をぐるりと囲まれていて、もう逃げることも、進むことも出来そうになかった。
 今までどこに隠れていたのか……いや、きっと地下へ続く隠し通路か何かがあるのだ。爆発の騒動に紛れて、地下から地上に出て来たのだろう。
 あぁ、なるほど。まるでそう言う蟲か何かのようである。
「“緋蠍”の連中か。オマエ達の恨みはよくわかる。だから女子供は見逃してやる」
 緋蠍の構成員には女性が多い。
 傭兵たちを睥睨しながら、クウハは告げた。大鎌を、面倒くさそうに足元に降ろしてこれみよがしに溜め息を吐いた。
 だが、傭兵たちは何の反応も示さない。怒るものと思っていたが、存外に冷静であるらしい……クウハはそれが楽しくなかった。
「……なんてヌルい事言うとでも思ったか? 悪の芽はキッチリ摘んどかねーとな」
 大鎌を、両手で掴んで後方へ振る。
 何も言葉を発しないなら、せめて悲鳴を上げてくれ。そう思いながら、クウハは傭兵たちに向かって斬りかかる。

「……少し、予定と違ってしまった、な」
「まぁ、構わないさ」
 前衛をクウハに任せ、エクスマリアと武器商人は近くの家屋へ跳び込んだ。分断されたピリムたちの安否が気にかかるが、焦っても事態が好転するわけもないのだ。
 そもそも、周囲を囲む傭兵たちをどうにかしなければ探しに向かうことも出来ない。
「これなど、使えそうじゃない、か?」
 なので“どうにかする”ことにした。
 手始めにエクスマリアは、部屋の隅から空の缶や木箱、陶器の壺などを搔き集めた。小さな両手で抱えたそれらの“ガラクタ”を見て、武器商人はにやりと笑う。

 銃声が鳴り響く。
 何度も、何度も、断続的に響き続けた。
 暗い地下の空間を、マズルフラッシュが明るく照らす。あっという間に、辺りは硝煙と火薬の匂いで一杯になった。
「仕留めろ! クソムカデ以外に用はねぇ!」
 暗闇の中で誰かが叫んだ。
 その声の主がカミーラであることは明白だ。だが、彼女の居所は分からない。
「復讐の為に集ってくるか! 有象無象の蛆のように! あぁ、なるほど復讐は死体を孕むのだ。それとも死体こそが復讐の苗床か? 正しく、貴様等こそが次の宝と謂えよう!」
 カミーラの指示に従って、傭兵隊は行動している。連携の取れた動きである。傭兵たちはロジャーズを囲み、四方八方から絶えず鉛弾を浴びせかけている。
 そう易々と、ロジャーズが倒れることは無い。そもそも、傭兵たちの攻撃がロジャーズに集中していること事態が、彼女の狙い通りであった。
「――Nyahahahaha!!」
「嗤ってる場合かよっ!」
 ロジャーズの影に隠れて、ことほぎが叫ぶ。口の端から紫煙をたなびかせながら、ことほぎは虚空を“握り潰す”ような動作をした。
「うぁ……あ、頭がっ!? あがっ!?」
 暗闇の中で悲鳴が上がる。
 それから、骨と肉の潰れる水音。1人分の銃声が減った。頭を潰され、死んだのだ。
 鮮血と、脳漿、頭蓋の欠片が飛び散った。
「お前らは私怨だろーがこっちゃ仕事でな、情の入る余地なんざねーんだよ」
 ことほぎが怒鳴る。
 その髪も、顔面も、返り血で真っ赤に濡れていた。

 百足の中には、天井にぶら下がったまま飛ぶ蝙蝠を捕食する種が存在する。
「クソムカデぇぇぇぇええええ! 降りて来いよ! そこに居るんだろ!」
 眼下で吠えるカミーラを、天井にぶら下がったままピリムはじぃと観察していた。
 無表情である。
 冷静なわけでは無い。ただ、怒りが臨界点を超えただけだ。その言動から、ピリムの大事なコレクションを焼かせたのが、カミーラであることは明らかであった。
 復讐はする。必ず殺す。苦しめたうえで、惨たらしく殺す。それは確定事項である。
「……弾幕が途切れない。面倒臭いな」
 確実に、カミーラを殺せる瞬間を。
 その時が来るのを、ピリムは今かと待っていた。

 銃声が止んだ。
 弾切れだ。
 舌打ちを零したカミーラが、空になった弾倉を地面に投げ捨てる。暗闇の中で、弾倉が跳ねる音が鳴った。
 その音に紛れて、ピリムは天井を蹴飛ばした。
 重力に引かれて、白く長い身体が落ちる。
 否、疾駆したのだ。ピリムは真下に向かって空を駆け抜けた。
「っ……そこか! クソムカデ!!」
「ぁぁぁぁああああああああああ!! カミィィィィィラァァァアアアアア!!」
 弾切れになったガトリングを投げ捨てて、カミーラはライフルを手に取った。
 銃口がピリムの眉間を捉える。
 引き金が引かれた。撃鉄が落ちて、火花が散った。
「ちぃっ!?」
「いっ……ぎぃぃいいいいい!」
 カミーラが舌打ちを零す。それと同時に、ピリムは意味を成さない奇声を吐いた。
 カミーラの弾丸は、ピリムの口端から頬にかけてを引き裂いた。裂けた頬から、白い歯と長い舌が覗く。
 対して、ピリムの振り下ろした刀はカミーラの持つライフル銃を半ばほどで断ち切った。
「死ね! 死ね! クソムカデ!」
「死ぬのは貴様だ、カミーラぁぁ!!」
 カミーラはピリムを。
 ピリムはカミーラを憎んでいた。恨んでいた。殺したいと思っていた。
 そんな2人が相対したのだ。
 復讐の連鎖は、どちらかが死ぬまで終わらない。

●復讐の終わり
「次から次へと鬱陶しいな!! いい加減、先に進みてぇんだがっ!?」
 何人目かの傭兵を斬って、クウハが叫んだ。鎌も、顔も、血に濡れている。荒く肩を上下させているのは、いい加減、疲労が蓄積してきたからだろう。
 何人仲間を殺られても、傭兵たちは道を開けない。後退しない。
 この場でクウハたちの足止めをすることが、傭兵たちの仕事だからだ。
「ふむ、カチコミするなら景気良く吹っ飛ばそう」
 なので、武器商人は“強引に”傭兵たちを後退させることにした。
「最近我(アタシ)、爆弾作りに凝ってるんだよねぇ……ヒヒヒヒ!」
 傭兵たちの足元に、金属の缶や陶器の壺が転がった。缶や壺には、火の着いた縄が繋がっている。
 火薬と油の匂いがした。傭兵たちの優れた嗅覚は、それが手作りの爆弾であると看破した。
「伏せろ! 爆発するぞ!」
 傭兵が叫んだ。
 その声に反応し、何人かの傭兵が地面に伏せた。
 地面に伏せて、そして次の瞬間には目や鼻、口から血を流して息絶えた。
「射程に捉えさえすれば、連撃、追撃で徹底的に、磨り潰せる」
 エクスマリアだ。
 
 轟音。地響き。紅蓮の炎が、地下空間に落ちて来た。
 地面が揺れた衝撃で、カミーラの手からグレネードが転がり落ちる。姿勢を崩したカミーラの腹を、ピリムは躊躇なく蹴り上げた。
「くっ……なんだってんだ、このいい時に!」
 地響きの原因は、武器商人の爆弾だ。なお、使用された火薬は緋蠍の仕掛けた罠の一部を流用したものである。
 当然、そのようなことをカミーラは知らない。
「あぁぁぁぁしぃぃいいいいいい!!」
 ピリムが地面を這っている。
 地面を這うようにして、疾駆した。
 引き裂けた頬から唾液と血液を撒き散らしながら。
 血走った目で、カミーラの顔を凝視して。
「来いよバケモノ! ぶっ殺してやる!」
 カミーラが、ガトリングを拾いあげる。
 カミーラは、嬉しそうに笑っていた。やっと、ピリムに復讐を遂げられるのだ。喜ばずにはいられない。
 銃弾がばら撒かれる。
 銃声が鳴り響く。隙間なく、弾丸の雨が降りしきる。
 ピリムは脚を止めなかった。
 腕を、背中を、肩を……頭と心臓以外の部位を余すところなく撃ち抜かれながら、ピリムは駆けた。
 心臓が鼓動を止めなければいい。
 脳髄が思考を止めなければいい。
「あはぁ……やっと届いたぁ」
 一閃。
 ピリムの刀が、カミーラの脚を切断した。

 暗闇に、粘ついた水音が響く。
 暗闇の中に、血と、脂と、臓腑の匂いが漂っていた。
「おっと、いたいた。無事だった……いや、無事じゃねぇか」
 そう言ったのはことほぎだった。
 緋蠍たちを始末してから、ずっとピリムの行方を捜していたのだろう。
 やっとのことで発見したピリムは、一心不乱に何かを刀で切り刻んでいるようだった。
 何か……ことほぎには、それが“何か”は分からない。
 ただ、肉の欠片であるように見えた。
「貴様、残念だが燃えた脚は戻らぬ」
 ピリムは泣いていた。声を零すことも無く、とめどなく涙を流していた。
 そんなピリムを慰めるように、ロジャーズがその肩に手を置く。
「だが、貴様、この世にはより美的な『脚』が在る筈だ。足が残っている者から文字通り収穫してやると宜しい」
 傭兵たちの遺体であれば、その辺りにいくらでもある。
 まだ手付かずの“脚”を持つ者など、混沌世界を探せば幾らだっている。
「だが、今は泣くがいい」
 刀を振る手を止めたピリムは、黙って地面を見つめていた。
 笑っているのか、泣いているのか、それとも何の感情も抱かぬような顔をしているのか。
 それを知るのは、ピリム当人以外にいない。

成否

成功

MVP

武器商人(p3p001107)
闇之雲

状態異常

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)[重傷]
同一奇譚
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)[重傷]
復讐者

あとがき

お疲れ様です。
無事にピリムさんの復讐は果たされました。
併せて、長く続いた復讐の連鎖も途切れました。
依頼は成功となります。

この度はリクエスト&ご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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