PandoraPartyProject

シナリオ詳細

脆き翼よ、昊天を喰らえ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「聞いたか? この間村一つが丸々焼かれたらしい」
「俺は街を襲撃されたって聞いたぞ。例の集団……『渡り鳥』だったか?」
「ここ最近、冠位魔種も『ローレット』が倒し続けて希望が見えてきた頃に、何がしたいんた、アイツらは……?」

 昼日中の街角。雑踏から聞こえる声に対し、口の端を歪めたのは一人の男性。
「……『ローレット』が嗅ぎつけたか」
 通りに面するカフェのテラス席で、白と亜麻色が調和した髪を揺らしつつ男は呟く。
 その手には魔導書、背には翼が生えており……どこか緩慢に、しかし愉悦を絡めた興奮を隠し切れぬと言った様子で、彼は笑んだ口元のまま呟いた。
「何れ彼らが真相に辿り着くのも時間の問題だが――」
 男は、先に街の住人たちが噂している『渡り鳥』に属する一人であった。
 尤も、彼は現在世間を騒がしている一派とは何の関係も無い。それに因って自らにも累が及ぶことを確かに良しとしては居らず。
「――しかし、それでは『面白くない』」
 同時に。
 このような騒動が早期に終わってしまうことを勿体ないと思っても居た。
 自らの分も弁えず、無軌道な襲撃を行い始めた同族、そしてその対処に当たる者たち。
 そうした人間が何を想い、どのように行動するのか。これは『渡り鳥』の中に於いて、観察を至上のモットーとする彼にとっては得難い機会であるとも言えた。
「彼らを間近で観察しつつ、しかしこの騒動に関与していると疑われることなく、現況を引き延ばすことのできる方法か」
 都合がいい、と自覚しながらも、男は笑みを崩すことなく。
 暫しの後、カフェを出た彼は封書を購入した後、それを運送屋に託す。
 ――手紙の宛先は、『ローレット』へのものであった。


『――貴殿らが我々に対し疑念を抱いていることは理解し、また同時に我々へその疑念を晴らす機会を与えてくれたことも理解した。
 その上で返答させてもらうが、我々は貴殿らによる一切の干渉を良しとしない。
 喩えこれにより貴殿らが我々に対する態度を確定的なものにしたとしても、我々はこの返答を撤回するつもりはない』

「……以上が、『渡り鳥』否定派からの回答だ」
 過日、彼が属する一族――『渡り鳥』が世界の破滅に関わっているという情報を元に、『ローレット』の特異運命座標たちはその真偽を確かめるとともに、それが真実であった際の討伐も兼ねて赴いた。
 結果としてそれは「半分」が否定された。『渡り鳥』それ自体の関与は在ったものの、それが否定派閥の者ではない……より厳密にいえば、否定派に属する人物を騙った者であるという事実が判明したのだ。
「この依頼結果を元に、否定派の長へと情報提供を望んだ結果が先の返信だ。梨の礫だな」
「………………」
 情報屋の言葉に対し、『赤翡翠』チック・シュテル(p3p000932)は沈黙を以てそれに応じる。
「いずれにせよ、こうなると我々には解明すべき謎が二つ、生じることになる」
「……犯人はなぜ、無関係な『渡り鳥』を自称したか?」
「そうだ。そしてもう一つの謎として、先の依頼で騙られた『渡り鳥』の一員の本物は、今どうしているのかもな」
 チックのほかに集まった特異運命座標の一人が予測混じりに答えた「謎」の内容に首肯しつつ、情報屋は淡々と説明を続ける。
「この課題に対し、此方は先の否定派とは異なる『渡り鳥』の一員とコンタクトを取ってみたが、芳しい反応は得られなかった」
「じゃあ、俺たちはどうすれば?」
「……伝え方が悪かったな。逆説、『芳しくない』反応なら得られた、と言うことだ」
 は? と首を傾げた特異運命座標の一人に若干気まずい表情を見せつつ、情報屋は一枚の資料を彼らに向けて提出する。
「先の依頼でも説明したが――現在、『渡り鳥』は他種族に対するスタンスを否定、肯定、中立の三つに分けて派閥を構成している。
 此度、その内の肯定派閥から声がかかった。曰く彼らは――『渡り鳥』を詐称する団体の拠点、そのうちの一つを突き止めたらしい」
 ……それは、傍から聞く分には吉報に思える。
 が、情報屋は苦々しい表情だ。つまりそう易しい内容では無いと言うことは、この場にいる誰しもが想像できる。
「懸念点は?」
「……向こうがたが提案した内容はこうだ。
 敵組織の拠点には、現在『渡り鳥』が被害を被る理由を記した証拠が存在しているものと想定される。
 この証拠を手に入れるため、『ローレット』の特異運命座標は拠点周辺の敵兵士を無力化して欲しい。その間に『渡り鳥』肯定派は拠点内部に潜入、目標である証拠を確保する算段である、とな」
 聞くところによると、肯定派閥の者たちは『渡り鳥』の中でも少数であり、また正面切っての戦闘は不得手である者も多い。
 このため、陽動を兼ねての戦闘を『ローレット』に託し、その後の情報収集を主たる担当とさせてほしい、と相手方は要求しているという。
「――どこに問題が?」
「……現在、肯定派の長を務めている者はその名をイービス=ブランカテリと言う。
 念のため彼奴に関しても調査を入れてみたが――『渡り鳥』を名乗る者たちが人間種への敵対行動を開始したのがおおよそ一か月前なのに対し、それまでこの男はこの件に対する情報収集を一切行っていない」
 ……成る程、と声を零したのは誰であろうか。
 自らが属する組織が突然他種族への敵対行動を取ったというのに、その他種族との融和を信条に掲げる彼らが何の行動も起こしていないのは確かに怪しく思える。
「今回の件は、肯定派も噛んでいる可能性が在ると?」
「或いは他の理由もあるかもしれんがな。それを伝えようとしない時点で信用は置けん。此方としても独自に情報を集める必要がある」
 言うと共に、情報屋は其れまで手にしていた資料を特異運命座標達に提出する。
 其処には、此度向かうべき自称『渡り鳥』達の拠点と、想定される戦力、また共闘にあたるとされる『渡り鳥』肯定派のメンバーの詳細が記されている。
「敵方の戦力は易しくは無い。此度参加するメンバー全員であたって漸く『確実な勝利』が得られるレベルと言えよう。
 この上で、若し貴様らが『渡り鳥』肯定派のメンバーに情報を総て浚われることを認められないなら、此処から更に情報収集班に人員を割く必要がある」
「……つまり、敵を降した上で別勢力との証拠資料争奪戦にも勝たなきゃならないと」
「前者は必須条件では無いものの、一定の戦果を上げねば得られる情報は限定されるだろうな」
 予想以上に面倒な依頼に対し、顔を覆う、若しくは頭を抱える特異運命座標達。
「精々働いてもらうぞ、特異運命座標。
『お仲間』を一人で死地に追いやってしまうほど、貴様らは薄情でもあるまい?」
 ――情報屋の視線の先。「唯一人でもこの依頼に臨む」と言う決意を瞳に宿したのが誰であるかは、最早問うまでも無いことだった。


「……ルゥト、『お客さん』だ」
 ――然る建物の一室。一振りの剣を手に瞑想を続けていた少年に、一人の男が声を掛ける。
「数は?」
「見える限りでは、八名。武装もしている。少なくとも言葉だけを酌み交わしに来たわけじゃなさそうだ」
「そう」
 抜き身であった剣を鞘に納めた後、少年は悠然と部屋の出口に歩き始める。
 その後、彼は幾つかの部屋を回り、其処で待機していた仲間たちにも襲撃を伝え――気づけば少年の後ろには数十を超す者たちが続いている。
「敵方の目的は?」
「さて。ただ奴さんらは相当な手練れだ。少なくとも勝てると思って臨める相手じゃなさそうだな」
「……それでも、僕たちに退路は無い」
 傍らに着いた男の言葉に対し、少年は思いつめた表情でぽつりと呟く。
 言葉と共に、視線を移したのは今なお自身が担う剣。
 嘗て人間種たちに裏切られた先達が――『渡り鳥』否定派の最初の長が手にしていた、形見の剣。

 ――おお、おお、なんと残酷な。そうは思いませぬか。
 ――我らの同胞を欺いた人間種たちに反旗を翻した彼のお方を、彼奴等は迎え撃つことなく、またしても調略によってその命を奪ったのですぞ!

 ……剣を渡された際、共に伝えられた言葉が、少年の心を拉ぐ。
 だが、折れることなく。眼前へと視点を移した彼は、徐々に距離を詰めつつある襲撃者たちを見遣る。
「構えろ」
 ――終ぞ、少年は、仲間たちは、各々の得物を敵へと向けた。
「……。奪われた者の恨み、容易く砕けると思うな」
 或いは、その言葉もまた、己の武器として。

GMコメント

 GMの田辺です。この度はリクエストいただき有難うございました。
 以下、シナリオ詳細。

●成功条件
・一定以上の『証拠資料』の獲得

●戦場
 下記『『昊天喰い』ルゥト』『否定派』のメンバーが襲撃した町、その中に在る町長宅です。時間帯は昼前。
 町内の会議場を含めたその邸宅は一般的なそれよりはるかに広く、また複雑な構造をしております。
『否定派』が迎撃態勢を取っているのは、この邸宅の玄関先にある広場です。この地点に遮蔽等は無く、また地面も均されており、広さの観点から見ても複数名が展開して動きが制限されることなどは有りません。
 本依頼の目標である『証拠資料』は邸宅内の何処かに保管されております。単純に虱潰しに探す場合、相当の時間を要求されることでしょう。

●敵
『『昊天喰い』ルゥト』
 戦場である町を襲撃し、現在は占拠しているグループのリーダー的な存在です。種族は飛行種。外見年齢は十代半ば。
 紅玉が嵌め込まれた剣を主武装として扱い、独学での物理型付与スキルと魔術による攻撃スキルを絡めて攻撃してきます。
 ステータスは全体的に極めて高い反面、下記『否定派』のメンバ―に対する統率力は然程のものではありません。
 人間種との敵対を選択した飛行種である『渡り鳥』否定派に属する存在ですが、その理由は復讐と言うよりも自衛であり、「自身らが人間種により駆逐されぬよう力を誇示する必要がある」と考えたため。
 動機としては未熟ですが、それを成し得るに値する力量を持つ為、事実として彼の目算は正しく成立していると言えるでしょう。

『否定派』
 上記『『昊天喰い』ルゥト』に付き従う『渡り鳥』否定派のメンバーです。数は合計で60名。全員が飛行種です。
 リーダー格である彼に並ぶことは出来ずとも、一人一人が彼に幾らか劣る程度のステータスであるため、仮に彼を含めた全員と本依頼の参加者全員で戦闘を行った場合、辛くも皆さんが勝利を掴めるであろうといった程度に力量が伯仲しています。
 また、戦闘が彼らの優勢で進んだ場合、本エネミーは自身らの内何名かを『証拠資料』捜索班の対策当てることが予想されます。
 基本的な行動は神秘関連の攻撃と支援が主であり、妨害に傾倒した個体は多くありません(ゼロではありませんが)。また、ごく少数ですが物理による攻撃を得手とする者も存在します。
 因みに彼らは自身を『渡り鳥』否定派と名乗ってはいますが、それが真実であるか否かは明らかになっていません。

●その他
『『擬を語る者』イービス゠ブランカテリ』
 本依頼にて下記『証拠資料』の存在を知らせ、またその獲得に動く『渡り鳥』肯定派の長です。一応本依頼では共闘対象。
 人間種との敵対を信条に動く否定派の者たちを止めるために今回、『ローレット』に協力を求めましたが、その動機と現在までの活動に若干の乖離が見られるため信用しがたい、と言うのが情報屋の印象です。
 その能力は隠匿や偽装が主と成ってはいますが、その真偽、また詳細は不明。
 若し仮に本依頼にて『証拠資料』の捜索、獲得を彼に一任した場合、上記成功条件を「最低限」満たした情報が皆さんに開示されます。

『証拠資料』
 現在『渡り鳥』否定派が人間たちに襲撃を掛けた理由が記されているとされる資料です。内容は幾つかの書類を纏めた複数の冊子型。
 戦場である邸宅にある程度分散した形で存在している為、これを総て見つけることは至難の業でしょう。
 状態は秘匿されているというより保管されている形であるため、非戦スキルによる探知は「ある程度」有効です。最低限の保護はされている模様。
 本依頼にてPCの皆様が取得した『証拠資料』の数に応じて、次回以降発される依頼の難易度が上下します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。



 それでは、ご参加をお待ちしております。

  • 脆き翼よ、昊天を喰らえ完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2024年03月11日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
※参加確定済み※
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
耀 英司(p3p009524)
諢帙@縺ヲ繧九h縲∵セ?°
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
そんな予感
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
Kyle・Ul・Vert(p3p011315)
風の旋律

リプレイ


 ――それを、「間違いだ」なんて、面と言えるほどの正しさは持っていなかったけれど。
「それでも、僕は。
 そんな強引なやり口が、コトを解決させるとはあんまりないと思うんですよね」
 目標である邸宅に潜入した時点で、戦闘は即座に開始された。
 踏み入った特異運命座標らを追いやる言葉はおろか、素性を問うことすらしない。姿が見えると共に得物を、或いは術技を行使してきた飛行種の一群に対し、『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)は訥々と、独り言ちるように言葉を零す。
 敵方が既に戦闘態勢を整えていたように、ベークらを含めた『6人の』特異運命座標らもまた、備えを講じ終えている。
 三種の自己付与を掛けた彼の身体は硬く、その上からつけられた傷もまた即座に癒される。舌打ちをする『渡り鳥』達へと、降り注ぐのは「眩い音」。
「ふむ、僕はこの問題に着手するのが初めてである以上、言及は避けるが……」
 五感をシャッフルするような旋律の奔流。『風の旋律』Kyle・Ul・Vert(p3p011315)が後方にて奏でるバイオリンの音色は、直接的なダメージこそ低くとも、それに伴う状態異常を如実に効果させている。
「さりとて、知らぬ存ぜぬを貫き通す心算も無い。
 分からないなりに知り、感じてみることにするよ。君たちが何を知って何を考えて何を言うのか」
「――――――くだらない」
『渡り鳥』へと掛けた言葉、Kyleのそれを唾棄するように、敵方の少年が撃ち放った魔術による「砲撃」を、一人の細剣がかろうじで撃ち落とした。
「僕たちが何を望むか? 君たちへの報復だ。君たちへの復讐だ。
 それに耳を傾けるというのなら、嗚呼、君たちは今すぐにこの場で死ぬべきだ」
「……何とも、理不尽な理屈だ」
 細剣の担い手は、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は、痺れる腕を無視して、彼の少年――ルゥトと呼ばれるリーダー格に言葉を叩きつけた。
「街を心配して来てみればこれか。『渡り鳥』は偽りの理念を掲げる嘘吐きな一族なのか?」
「『総ては、誰かの助けと為る為に』か。
 それを否定するつもりはない。だが、そうした結果返されるのが恩義ではなく仇で在るのならば、僕たちはそれを否定することも吝かではない」
 ……今日までに在る『渡り鳥』が、他種族の裏切りによって殺された過去。それを暗に語ったのであろうルゥトの言葉に、イズマは訝しげな表情を浮かべた後、かぶりを振った。
 単音しか鳴らない楽器。一色しか塗られぬキャンバス。彼の感情探知はそうした結果を――「怒り」そのもののみを見出した結論を、ただ受け入れることしか出来ない。
「……どうしようもなく」
 会話の最中にも、戦闘は続けられる。
 或いはその逆か。「どちらを主軸に置くか」によって観点が変わるこの状況下に於いて、少なくとも『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)は前者の側であった。
「憎いのね。『ニンゲン』が。若しくはそれに加担する飛行種(わたしたち)が」
「その通りだ羽無し。ヒトの定義を彼奴等に定める同族よ」
「だから復讐をするの? 奪われたものを奪い返せないからと、同等のものを奪おうとするの?」
「それ自体が目的ではない。僕たちの目的は、これ以上が奪われぬよう、この行いを彼奴等に対する抑止力とすることだ」
「一先ずの筋は通っているわね、けれど……」

 ――言葉に反して、貴方の瞳は怒りに染まっているわよ?

 メリーノの言葉に対して、少年は何も応えない。それこそが、即ち答えだということ。
 苛烈な攻防に反比例するかのような静かな会話に、しかし割り込んだのは。
「……力を誇示する必要があるから。ならもう、十分目的は果たせてるのに」
「………………薄鈍色」
「君たちは、これ以上、何をするつもりなの?」
 Kyleの音、イズマの音、それに続く三つ目の音。
『赤翡翠』チック・シュテル(p3p000932)の歌声がセカイを満たす。時にその身を挫き、時に翻弄し、『渡り鳥』達をかき乱す明確な脅威である彼へと、ルゥトもまた静かな声で返した。
「『奪い返す』」
「……え?」
「多くの同胞が命を奪われた。そうさ、それを否定するつもりはないし、それを奪い返すことなどできはしない。分かっている。だがそれでも」
 僕たちには、唯一つだけ『奪い返せる』ものが残っている、と。少年は呟いた。
 それが何かを問い返す暇は無かった。前線を張るベークとイズマによる誘引を抜けた敵が、チックを含めた後列に攻撃を届かせてきたためだ。
 反撃を、若しくは負傷に対する援護を。対処に回る者たちの中で、戦場を眇めた瞳で見ていた『悲嘆の呪いを知りし者』蓮杖 綾姫(p3p008658)が、小さく独り言を漏らす。
「『動かされている』感は拭えませんでしたが……全く」
 気づいたのは、この段階に於いて恐らく彼女一人。
 ――この戦いには、恐らく作為が絡んでいる。


「……見張りが殆ど居ないのは幸運だったな」
 邸宅の玄関前に在る広場にて戦闘が行われている最中。
 邸宅の内部に潜入して、本依頼の目的――証拠資料の獲得に動く、三つの影が在った。
「裏を返せば、その分戦力は陽動している方々に向かっています。
 長引けば彼らの被害が深刻化する恐れがありますよ」
「分かってるよ」
『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)の言葉に対し、ひらひらと手を振って応えたのは『諢帙@縺ヲ繧九h縲∵セ?°』耀 英司(p3p009524)である。
 そして、もう一人。
「やれ、彼らの側が心配ならば付いてあげてても良かったんじゃないかな?」
「……私たちの目的は、あくまでも資料の奪取でしょう?」
 必要以上に戦闘に注力する必要は無い、と返したマリエッタに対し、肩を竦めたのは『渡り鳥』肯定派の長……イービス=ブランカテリである。
「君達ならば、彼ら全員を倒した後、悠々と資料探しに移れると思っていたんだけどね」
「難しいな。こっちはなるべくアイツらを殺したくない。不殺を前提とした戦いだとどうしても戦法が制限される」
「それはお優しい」
 苦笑いを浮かべたイービスに対して、英司とマリエッタは自らの胸中に在るもう一つの懸念――即ち「イービスが此方を妨害する可能性」をおくびにも出さずにいる。
 自らを人間種たちとの融和派と語る彼の言葉には裏が多く、その信用の無さから監視を含めて英司らが彼と同道することになったという理由を、眼前の飛行種は何処まで察しているだろうか。
 ともあれ、激戦を極めている陽動班の功績も含めて、三名による資料の捜索は順調に進んでいる。
「見つけた」
「こちらもです。資料と言うよりは、此処に居た『渡り鳥』の誰かによる日記のようなものですが」
「彼らの状況が分かればなんだっていいさ」
 最低限施された鍵は英司が開け、マリエッタが透視を介して隠された小部屋などを発見する。その上での取りこぼしをイービスが丹念に見つけ、拾い上げていく。
 それ自体は確かに問題ないのだが――こうした捜索の部分を除いて、特異運命座標の二人は二点だけ行動方針に穴があった。
「資料はもう十分か?」
「総数が分からない以上、何割ほどかは分かりませんが、やはり全貌を把握するにはそれぞれの資料の内容に『隙間』がありますね」
「もう少し回収したいところだが……」
 一つは時間。事前に広いと言われていた邸宅全てを捜索するには現在の彼らの人数は少なく、これに加え彼らは資料探索の上に合間合間の解読と隠蔽工作まで行っている。
 無論それが捜索の片手間で在ろうとも、数十秒から数分を要することは自然であり、そうした行動の細かな積み重ねがタイムロスとなっていることは否めない。
 そして、もう一つ。
「……イービスさん、資料はこれで全部ですか?」
「勿論。服でも脱いで見せようか?」
「……いえ」
 事前に怪しいとされていたイービスへの対策が心もとない点である。
 確かにマリエッタと英司は彼の動向を監視するべく共に行動していたが、その動きを把握する方法が乏しかった。
 彼が資料を回収してくる。或いはこの捜索班が回収した資料をまとめ上げる。そうした所作に感じる微かな違和感を咎める手段を、彼らは具体的に有していなかったのである。
 英司の側はこれに対するハイセンスやスリ等の非戦能力も備えてはいたが、イービスの隠匿能力はそうしたスキル頼りな警戒の上を行ったらしく、彼にはこれを捉える手段が見つからなかった。
「……向こうが落ち着いて来たな」
 邸宅入り口の戦闘は収まりつつある。それが何方の勝利によってかが判別できない以上、味方が壊滅的な被害を受けている可能性も在るのであれば。
「戻りましょう。イービスさんは……」
「私は撤収させてもらうよ。生憎戦闘に適した身ではなくてね」
「……そうですか。それでは戦場とは別の出入り口まで護衛します」
「有難う。……それとも、信用が無い、と言うべきかな?」
 苦笑いを浮かべるイービスは、しかし言葉だけでも感謝の意を表する。
「どのように受け取って貰っても。ただ、これだけは信じて欲しいのですが。
 貴方のおかげでよりもっと渡り鳥の深淵を探れること、感謝していますよ、『イービス』」
 無垢の中に嫣然を含めた、矛盾したような笑顔で笑みを返すマリエッタに、彼は一瞬目を丸くしたものの。
「……君は、僕と似ているね」
「具体的には?」
「嘘つきだ」
 会話の最中、辿り着いた邸宅の出入り口にて。
 マリエッタは、くすりと再び笑みを浮かべた。
「私は、嘘はつきませんよ」
 その瞳の金色を、すこしだけ歪ませて。
「昔ほんの少し、自分を騙していただけです」


「―――――っ」
 戦闘は時間の経過とともに推移していく。即ち特異運命座標らの優勢から、『渡り鳥』側の優勢に。
 時間経過にして十数分だろうか。戦闘開始時は60と言う数を有する彼らも、今となってはその多くを減じており、且つその十分の一と言う数でありながら未だ誰一人倒れていない特異運命座標らがどれほど驚異的であるかを理解出来ぬものは恐らく居ないだろう。
 それでも、先に言った通り。「状況は『渡り鳥』の側に優勢」なのだ。
「もう一度、だ……!」
 二次行動を絡め、回復に注力するKyle。戦闘が進むにつれ、その行動を攻撃から回復主軸にシフトさせた彼が居なければ、戦闘はもっと早期に終了していただろう。
 回復を施された対象はチック。彼のみならず、パーティの後衛陣はベークやイズマの挑発を抜けた『渡り鳥』達による攻撃で少なからぬ傷を負っている。
 敵の数と言う脅威を甘く見積もっていた。これが特異運命座標達が現在の状況に追い込まれた要因の一つだろう。
 なるほど確かにベーク達による敵の引き付けは強力であり、大多数はこれに掛って彼らの側へ向かうだろうが、問題はその能力の対象とする『分母』が余りにも多すぎることだ。
 殊に60名、またその力量が本来特異運命座標らがフルメンバーであたって漸く対処できる程度のものであるというならば、怒りの状態異常に掛る数はどうしてもほころびが出る。それを掛け続けるとなれば更に難易度は上がるだろう。
 また、その挑発を抜けるとして数は五名か、或いは多くて十名か。精々その程度の数であっても、防御に対する姿勢をほぼベークらに任せていた特異運命座標らにとっては十分な脅威である。
 何しろ、挑発役を除いた彼らの大多数は自己回復を有していない。イズマとKyleが他者を支援する回復を有してはいるものの、その対象はあくまでも単体に限られる。
 特異運命座標らは良く戦い、良く耐えた。しかし、結果として軍配が上がるのは恐らく『渡り鳥』の側だった。
「……綺麗事を言うつもりはないの あなた達がしたいのは復讐」
 膝を地につけ、メリーノが咳き込みながら呟く。
 パンドラは死に瀕した身体を既に持ち上げ、その上で再び拉がせた。次は無い。それでも。
「けれど。騙され奪われたのはあなた達が浅慮で愚かで弱かったからだわ」
「……! キサマ、」
「よせ」
 戦うことのできない身体に剣を振り上げた同胞を、少年は、ルゥトは緩く手を挙げて止めさせる。
「あなた達が襲ってきた中には、あなた達より弱いニンゲンも沢山いたでしょうね」
「……何が言いたい?」
「過去にお前たちから奪ったニンゲンとお前達、何が違うのかしら」
「……馬鹿げたことを」
 とん、と肩を押される。
 立ち続けるだけの力を持っていなかったメリーノは、それに抗することも出来ず、ゆっくりと身体を地に横たえる。
「違っていなかったら、お前たちは再び僕たちから奪うだろう?」
「……。そう、思う?」
 会話の最中で、『それ』を理解したのはKyleだった。
(これは、これは)
 最初に気づいたのは、戦いの最中、聞こえた感情の音色。
 怒りはそこに在った。「復讐」と言う言葉も、彼らはどれほど口にしたことだろう。
 けれど、その感情と、上辺だけの言葉は繋がっていなかった。逆説――彼らが抱いている怒りは、「復讐」に向けられたものではなかったのだと。
(とても、とても――)
 理解した。出来てしまった。彼らは最早、奪うという行いで自らの脅威を示さねば、自分たちが再び搾取されると定義しきってしまったのだ。
 奪うものに興味は無く、ただその行いに因って示す惧れが、自分たち以外の種族が手を出しにくくするという醜くも確かな現実。
 それに縋ることしか、もう出来なくなってしまった。そんな彼らを――それでも、と。
「……恨みを晴らすなら、然るべき事実を明らかにしようよ」
 ベーク同様、攻撃を寄せ続けたイズマが、呟く。
 その負傷は後衛陣よりも重篤だ。幾らかが挑発を抜けたとはいえ、やはり攻撃の大多数を受け続けたのは彼らである以上、それも当然ではある。
 だが、瞳に宿る意思は消えず、彼は未だ、対話と言う選択肢を棄ててはいない。
「君達の同胞は、自らが恨みを生み出す事を望むのか? それともこの町の人が君達に何かしたのか?
 君達の行動は、君たちから搾取しようとする者たちに対しては抑止力として働くだろう。けれど、今の君たち同様、奪われたが故の報復から来る諍いを呼ぶ理由にもなり得てしまう」
 なればこそ、先ずは言葉を、と。
 イズマは語り掛ける。対し、ルゥトは自身の背後を振り返った。
 其処には倒れ伏した――けれど、命を奪われることなく、唯意識を失っているだけの、自らの同胞の姿。
「お前たちの意図は理解できる」
「なら」
「けれど」ルゥトは、かぶりを振った。「僕たちに、『それ』を選ぶ猶予は、もう無いんだ」
 言葉に質問を返すよりも、響いたのは鬨の声。
「……時間切れ、ですねー」
 魔術で構成された仮初の武器に全身を貫かれたベークが、繊手を振るってそれを破断させるとともに肉体を賦活させた。
 パンドラの消耗。盾役である彼を含め、これで潜入班を除く全員がパンドラの行使を余儀なくされている。
「そろそろ撤退したいところですが、邸宅のお二人はまだかかりそうですかね?」
「誰が、逃がすか……!!」
 言葉を返したのは別の『渡り鳥』である。宝石の魔術媒体から光を出だした男の鳩尾を、しかし得物の柄尻で以て強かに打ち無力化させたのは綾姫。
「……既に皆様が言っておりますが。自身が『奪う者』に成った自覚はおありで?」
「ああ」
 味方は態勢を整え、退却の準備を整えつつある。
 倒れた者を誰かが抱え、そうでないものは敵を牽制しつつ。未だ十数名が残る『渡り鳥』と特異運命座標らの間で、彼女とルゥトだけが唯直立して視線を交わす。
「その道を選んだならば、正々堂々だろうが卑怯千万だろうが。
 たとえどのような最期を迎えようと受け入れなさい」
「……先達の教えのつもりか?」
「どちらかと言うと、『仕損じた者』からの助言ですかね」
 私は嘗て、『あちら』で最期を迎え損ねたので。そう零した綾姫は彼に背を向け、他の仲間達と同様に撤退し始める。
「……ルゥト」
 そうして、最後に交わされる言葉。
 喧騒の只中、呟かれた言葉はなぜかよく通る。同じ『渡り鳥』同士の二人は、その刹那だけ、彼我が敵であることを忘却した。
「……おれは、君達にも、怖れの感情を向けられて欲しくない」
「それは、俺たち以外の『渡り鳥』に言ってやれ」
「え?」
 疑問の表情を浮かべたチックに対し、ルゥトは武器を降ろしながら小さく言った。
「俺たちはこれからも人間種たちへ襲撃を繰り返す。
 それに対し、今日のように直接的な対処にあたるのか、それとも『その原因』を解決するのか。それはお前たちの勝手だ」
「――――――」
 それは、恐らく眼前の少年から、同族を殺さなかったチックらに向けた唯一の厚意。
 一度だけ小さく頷いたチックは、そうして綾姫の後ろに続く形で撤退を迎える。
「追うか?」
「いや」仲間からの問いに、リーダー格の少年は否定を返した。「必要ない」


「悪い、待たせたな」
 陽動班が撤退して数分の後、マリエッタと英司が彼らに合流する。
 恐らく、二人も撤退の最中幾らか『渡り鳥』の対処に追われたのだろう。少なからぬ傷を負った彼らへと、最初に問うたのはチック。
「どう、だった?」
「多くを回収、とは行きませんでしたね。見つけられなかった資料も多く、またイービスさんによって掠め取られた部分も少なくないでしょう」
「とは言え、事の発端程度は集められた。詳細な説明は……戻ってからだな」
 両者の視線の先は、最低限の応急処置を施された仲間の姿である。
 実際、先ずは治療を行うべき状況なのは間違いない。頷いた仲間たちは適当な人里へ向かって移動を開始する。
「奪われた者達と失った者。終わらぬ悲劇の輪舞ですね」
「……止めて見せるさ」
 移動の傍ら、冷然と呟くマリエッタの独り言に対し、言葉を返したのは英司である。
 その身に追うた傷は、『陽動班の撤退後に自らルゥトの前に身を晒して言葉を掛けた』、英司が自己を顧みず取った行動の対価。

 ――誰にも利用されるな。望むものを得るために。

 探索の傍ら、見つけた資料を最低限ながら解読した英司が、「このような行動を取らざるを得なかった」彼に、どうしても伝えたかった一言。
 それが、彼ら『渡り鳥』の心の響くかも分からないのに。幾多の傷を負うことも覚悟の上で。
「自暴自棄になって、破滅を求める貴方も嫌いではないですけど」
 視線だけを向ける英司に、マリエッタは微か、痛ましいものを見るような悲しい笑顔で囁く。
「その途中で倒れては、格好がつきませんよ?」
「『最期』まで立ってろってか?」
「ええ。『最後』まで」
 嘗ての貴方のように。そう続けるマリエッタに、頭をがしがしと掻く彼は絞り出すように答えた。
「……仮面がイカし過ぎたのさ」
 本当の自分なんて、こんなものだと。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

メリーノ・アリテンシア(p3p010217)[重傷]
そんな予感

あとがき

ご参加、有難うございました。

PAGETOPPAGEBOTTOM