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シナリオ詳細

<漆黒のAspire>終焉否定のlost chaos Ⅳ:色欲の願い

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●願封じ(がんふうじ)
 人は生きれば何かを願う。
 願ったなにかのどれかは叶う。
 けれどどれかの祈りは尽きず。
 潰えたなにかも再び願う。
 結局願いは渦を巻く。

 願いと願いが反する時、どれかは叶いどれかは消える。
 同じ願いの、違いはなあに。
 違う願いの、同じはなあに。
 やっと見つけた願いの礎。
 人は他人(ひと)ゆえ交わらず。
 交わらぬゆえ心を乱す。
 
 願い続ける困難と。
 邪魔され続ける災難を。
 全て受け入れ眠れれば。
 全て拒んで喰らえれば。
 そんな極みは神にだけ。

 なれば願いを捧げましょう。
 譲れぬ思いを示しましょう。
 だからどうか、その大いなる恩寵を。
 我らが命にお与えください。
 どうか、我らに。
 どうか、我に。

●願いの審判Ⅳ
「今日のお仕事はなあに?」
 つり目の少年が問いかければ。
「今日は特別だよ、『ビス』」
 たれ目の少年が答える。
「どうして?」
「自分じゃない誰かを深く求める色欲の願いだから、っていうのもあるかな」
「あー、特に変な願いだよね。生きてれば願いはいつかぶつかり破り合う。だから他人なんて邪魔なだけなのに。それを求めるなんてさ」
「そうだよね。でも、特別なのはそれだけじゃないんだ。何だか分かる?」
「んー……分かんない」
「答えは、『あの人の願いを叶える』番が来た、だよ」
「あっ、そうなんだ! やっとだね」
「うん。色欲の人と聖母様達が色々してくれたから、やっと鳥かごの外へ出てきてくれたんだ」
「待ちくたびれてもう顔も忘れちゃいそうだった。ママとおねえちゃん、元気だといいなー」
「そうだね。その方がきっと、いい滅びになるからね」

 これまでよりも一段と強く。
 子供達は手を握り合い、歩き出した。


●生きている限り
「アアアァァァ……」
 低くくぐもった声。
 どこか苦しげで、それ故に何かを求めているようなそれは。
 身を隠す倉庫の壁を貫き、皮膚すらすりぬけて、直接心の中の不安へ囁いてくる。
 終焉の気配を纏った廃人共が跋扈するこの場所で。
 確かなものは、握り合うこの手が伝える温もりのみ。
「らてぃママ……みんな、へん。あぶない?」
「大丈夫ですよ『ベビオラ』。……きっと助けが来てくれますからね」
 そういって『ラティオラ』は眼前の子供を優しく抱き寄せた。
 子供のカバンに入った荷物が僅かな音を立てる。
 ふわふわのぬいぐるみ、小さな打楽器、お気に入りの絵本、えがおの写真。
 中に詰まった目一杯のはじめて達は、あの楽しい時間のままなのに。
(どうしてこんな……)
 憂う。
 怨嗟の声は徐々に増え、その距離もどんどんと縮まっている。
 助けが来ると言うは良いが、ではそれはいつ来るのだろう?
 そもそも来る保証なんてどこにもない。
 これまでたまたま自分は助かった。
 それは信仰を抱いたから? それとも他者の不安に寄り添ってきたから?
 仮にそうだとして。
 では神は何故、自分よりも大切にしたいもの達を代わりに奪われるのだろう?
 今も目に浮かぶ三人の子供達。
 零してしまったから、せめて忘れず背負うと誓った笑顔達。
 だがその笑顔が、コートのポケットに忍ばせた温かな手紙が。
 まるで自身を求めるように語り掛ける。

 ――その子にはママやパパが沢山いるのに。
 ――わたし達には会いに来てくれないの?

「アアァァ!!」
 倉庫の戸に何かが叩き付けられている。
 この世にこうもおぞましい呼び鈴があるものか。
 入口は一つ。窓はあるがとても子供を抱えて逃げられる高さではないし、そも外は既に人のための世界ではなくなっている。
 今出ていけば、呻きという異言を唱える者共がその渇きを赤で癒すために尖った牙を差し込んでくるであろう。
 ではこの状況下において。
(こんな、こんな弱い私に、何が……)
 何が出来るというのだろう。
「ん。らてぃママ、ベビ言ってくる。ケンカは、めっ。みんな、仲良く。良い子したら、きっと楽しい。みんな、知らないだけ」
 ああ。
 美しい事をいとも容易くいってくれる。
 もうきっと、何の力も無いのだろうに。
 そしてきっと、何の意味も為せないまま無残に食べられて。
 またきっと、この子は怪物になってしまう。
「……ベビオラ」
 繰り返される疑問。
 何が出来るというのだろう。
 母親でありたい、そんな気持ちがいくらあったって。
 人のためにありたい、そんな事をいくら積み重ねたって。
 一番大切な、守りたいという願いは。
 『私』には叶えられないじゃないか。

――やはり正義のナイこの世界なンテ、ゴミくずである人間なンテ、消してしまうベキだとネェ!!

 『声』が聞こえる。
 選ばれなかった者の呼び声が。
 『人間』には何も出来ないと。
 期待した『特異』にすら、示されたのは正義など無く、あからさまな嘘であったと。
 理想の為せない世界などと。
 絶望したあの声が。
(私には、皆様のような『選ばれた力』なんてない……)
「ア、アアァァァ!!!」
「ん。らてぃママ虐める、めっ!」
 今にも飛び出しそうなお転婆娘。
 まだ世界を知らないこの子供に、後一つだけ何かを教えられるとしたら。
「ベビオラ」
 腕を掴み、引き寄せる。
 そして今度は、そっと首を掴んで。
「ん、らてぃ、ママ……! くる、しい……!!」
「痛くしてごめんなさい。でも少しだけ眠っていてね……。その間に、私がきっと、なんとかしますから。もしもママやパパが来てくれたら……皆様の言うことを、よく……聞くんですよ……」
 遠ざかる意識。
 その中で子供が見たものは、闇色の魔力がまとわりつく母の笑顔と涙、そして最後の言葉であった。

「元気でいてね」

 ――夢も希望も安心して見せてあげられないのなら。私はこの子のために、私の信じる最善を歩みます。
 ――きっと、皆様にご迷惑をおかけしてしまうのでしょうけれど。
 ――だから、どうかご無事で。
 ――そして、どうか……娘を、よろしく、おねがイ……イたシマス。

 アアァァ……
 アアアアアアアア!
 オアァァ!?


●零れ落ちた漆黒
 天義の北には、国土全土に伝わるような強い地脈の流れがある。
 そこに突如出現した神殿『滅堕神殿マダグレス』。
 神殿の奥にはワームホールが開き、終焉の滅びが渦巻いている。
 多くのイレギュラーズ達には、その場所への対処にあたる依頼が出されていたのだが。
「先輩達、急ぐっすよ!」
 『先駆ける狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)がその二つ名に相応しい全力を持って駆ける。
 先日『願封じ』という行事を行ってから、自身の周囲で願いに関連した不可思議な事件が多発していた。
 もしこの嫌な予感が現実に起きるというのならば。
「ウルズさん、待って! 今からそんなに急いだらもしもの時に疲れちゃう……!」
「そうだ。二人がいる町までは『チャド』が連れて行く。だから馬車に乗るんだ!」
 『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)や『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の呼びかけにも答えず。
 ウルズは駆ける。
 彼女が封じた願い――『ベビオラちゃんが幸せになれますように』を胸に抱いて。
 その必死な様相に『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)は、かけるべき言葉を選べずにいた。
(ウルズの封じた願いは分からない。だがおおよその見当はつく。……無茶はするなよ、ラティオラ。ベビオラ)
 そしてもう一人。
 『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)は自身の持つ大太刀『カタバミちゃん』を通して、己が手を見つめていた。

~~~

 まるでかつての事件を彷彿とさせるように、町には薄く闇色の帳が降りている。
 思い起こされる恐怖から逃げ惑う人々の波。
 馬車越しではあるが、イズマはその最後尾に『ルディ』の姿を見た。
(ルディさん、何とか車椅子で動けるようにはなったのか。……ということは)
 恐らくどこかで『フィアベル』も戦っているのだろう。
 その推測はズバリ的中。
 黒い人影に囲まれる中から、力強い叫びと鈴の音が聞こえる。
「僕はルディを……この世界で生きていく人達を守ります! 例え昨日まではそうだったとしても……生者の輪から外れたあなた達を、この先へ通すわけにはいきません!」
 それは仲間達から学んだ確かな決意。理想を為すための決別の意志。
 なれど終焉の影はその数をもって圧倒せんと迫り来る。
 一行はまず目の前で押し潰されようとする命を救うべく、行動を開始するのであった。

GMコメント

●目標(成否判定&ハイルール適用)
 ルディの生存
 ベビオラの生存
●副目標(一例。個人的な目標があれば下記以外にも設定可)
 フィアベルの生存
 魔種の排除
 ベビオラに真実を伝える
 ベビオラに真実を隠す

●優先
※本シナリオは、以前に運用したシナリオ内プレイングに影響を受け制作されています。そのため本シナリオに深い関連性を持つ方がご招待対象となります。
 また合わせてアフターアクションも採用しておりますので、以下の皆様(敬称略)へ優先参加権を付与しております。
・『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)
・『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
・『先駆ける狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
・『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)
・『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)

●冒険エリア
【天義内市街地】
 人々が暮らしていた町並みと倉庫(以後「町、倉庫」表記)

●冒険開始時のPC状況
 出現した終焉獣に対処すべく町へ到着。フィアベルと合流したところからスタートです。

《依頼遂行に当たり物語内で提供されたPC情報(提供者:フィアベル 情報確度B)》
●概要
 天義の北、国中を巡る強い地脈の上に『滅堕神殿マダグレス』が出現。
 神殿の中にはワームホールが開いており、そこから終焉獣などが湧いている。
 そのほとんどは神殿の警備に当たっているが、一部が地脈に沿う形で町へ出没し、住民へ危害を加えている。
 住民を守るため力を貸して欲しい。

●人物(NPC)詳細
【子供達】
 つり目とたれ目の少年達。
 意味深な事をいいつつ終焉獣を操ります。
 とはいえ、現状は良く分からない存在です。
 良く分からないということは、今は何をすべきか判断できない。
 つまり無視して良いということです。

【フィアベル&ルディ】
 「破天曲折の道程:選別、誘引、理想」に登場。
 獣種のイレギュラーズフィアベル(男)が、終焉獣と戦っています。
 ルディ(女)は民間人で、車椅子がないと移動できない状態です。
 現在天義騎士団の手を借り他の民間人諸共避難中。避難の流れに乗る事ができた人々の中では彼女が最後尾です。

 フィアベルは最後にはどんな手を使ってでもルディを守ろうとしますが、基本的には皆様の話を聞いてくれます。

【ラティオラ&ベビオラ】
 「破天曲折の道程:遊戯、正義」/「明日パン(~かった)」に登場。
 事件に巻き込まれつつも何とかここまで生き延びた民間人の修道女と(ラティオラ)と、訳あって彼女が預かっている4~5歳くらいの少女(ベビオラ)です。
 事情により居所を転々としており、冠位色欲の襲撃でローレットの管理下から離れた後、ラティオラの縁を辿って天義の教会に身を寄せていたらまたしても巻き込まれました。
 PC目線では、現状この町にいる事は知っているものの、二人の詳細状況は不明です。

●敵詳細
【特殊終焉獣】
 基本的には黒い人影なのですが、何故か先日ウルズさんが封じた赤いマフラーを首につけ、白いコートを羽織り深いフードで顔を隠しています。
 男は猫背気味で、優先参加を付与した皆さんには「遂行者ダラス」のように見えるでしょう。
 但しウルズさんだけは何か別の方にも見えそうです。
 言葉による意思疎通はできません。
 ※何に見えようとも、あくまで本物ではなく終焉獣なのは直感的に分かります。
 刀を用いた攻撃が主体。
 魔種への道に立ち塞がりますので、引き離したいところです。
 ステータスは高め、EXFも充分にあります。
 最後には必殺の一撃を叩き込みましょう。
 所持スキルは以下。
 ※()があるスキルは()の名前で調べれば効果が分かります。
・瞬燕(覇竜穿撃)
・火之迦具土(クリムゾン・インパクト)
・虹光【変幻10、鬼道15、流血、失血、反動60】
・陰炎【移、万能、怒り、停滞、鬼道25】
・霹靂【移、万能、泥沼、怒り、鬼道20】
・華嵐【痺れ、ショック、鬼道10、AP吸収100、反動60】

【魔種】
 身体中に闇色の線が走った人型。
 苦しそうに呻きながらも大きな太刀を振り回します。
 とはいえ力に慣れていないのか、隙も大きく精度は低いです。
 何故かマフラーをつけた特殊終焉獣以外の終焉獣を狙い攻撃していますが、近づく者は基本的に誰しも敵に見えるようです。
 PC目線では接近し目視するまで分かりませんが、この魔種の背後に気を失ったベビオラがいます。

【終焉獣】
 黒い人型のような個体。
 数は30体+1d??×N回でランダム。
 ??の部分(増援)は参加PC数で変わります。
 ワームホールの影響で増援は無限湧きですが、魔種が放つ滅びのアークの気配に惹かれて集ってくるので、倒れれば追加は来ないでしょう。
 何故か【識別】/【不殺】が無効。
 (正確に表現すれば、攻撃時のみ味方判定になりイレギュラーズや民間人との区別が出来ず。
  体力が1割を切ると黒い血だまりの様に足元へ溶けた後、一定時間で消滅)
 町中をうろつき、抱きついた人々の首裏に噛みつき、寄生終焉獣を埋め込みます。
 寄生終焉獣が埋め込まれた民間人は、リソースを消費しなければまず救えないので、囲まれる前に【飛】を意識しましょう。
(他の願封じ系列登場個体と異なり結構危険です。
 イレギュラーズが寄生された場合、すぐに対処に動いた上で、本人の意志か仲間の協力があれば手掴みで引きずり出せますが、かなりのダメージを負います)
 HPは異常に多いものの、機動力をはじめその他ステータスは低めです。
 ※とはいえ、一般人からすれば全力疾走でも逃げきれるか怪しいくらいの速度です。

【寄生された人々】
 基本的なルールは【終焉獣】と同じ。シナリオ開始時点で既に町に点在しています。
 以下の方法を用いれば寄生を解除できますが、エイドスによる解除は1つにつき1人まで。かつアレーティアを使用する場合も含め、寄生解除はパンドラを消費するので全員の解除はほぼ不可能です。
 望む救いが与えられないのなら、出来る救いを与えるのが最良でしょうか。
 ※【寄生】の解除
 寄生型終焉獣の寄生を解除するには対象者を不殺で倒した上で、『死せる星のエイドス』を使用することで『確実・安全』に解き放つことが出来ます。
 また、該当アイテムがない場合であっても『願う星のアレーティア』を所持していれば確率に応じて寄生をキャンセル可能です。(確実ではない為、より強く願うことが必要となります)
 解き放つことが出来なかった場合は『滅びのアークが体内に残った状態』で対象者は深い眠りにつきます。
 また、【不殺】を選択しなかった場合の撃破時には『石となり華を一輪咲かせて崩れ落ちていきます』。

●シナリオギミック詳細
【???】
 子供達がエリア全域に展開した特殊な魔力の帳。
 サーチ類やファミリアー等全て無効。
 ジャミングの上位のようなもので、状況把握に役立つスキルの大半が使えない、といった認識で良いかと思います。
 己の目で見て、己の考えで判断し行動しましょう。

●エリアギミック詳細
<1:町並み(戦闘エリアは1km四方)>
 増援が北側から迫ってきている他、逃げ遅れた人々、隠れていた人々、寄生された人々、初期配置の終焉獣が点在しています。
 (手当たり次第襲う感じですので、こっそり裏取り、というような策略的な動きはしません)
 PC達はエリア中央付近で戦っているフィアベルと合流したところからスタート。
 南端最終防衛ラインにルディがいるので、終焉獣がここまで辿り着くなら主目標は失敗と言えるでしょう。

<2:倉庫(300m四方)>
 人が隠れられそうな倉庫でした。エリア北側にあります。
 現在中はボロボロ。魔種や特殊終焉獣はここにいますが、PCは知らないのでザコ敵の対処をある程度すませた=戦線を押し上げよう、というところで気づくでしょう。

<全般(戦闘エリアのみ表記)>
光源:1・2問題なし
足場:1問題なし 2注意
飛行:1・2問題なし
騎乗:1近くまでなら可 2不可
遮蔽:1・2場合による
特記:特になし

《PL情報(提供者:GM プレイングに際しての参考にどうぞ)》
【主目標のために何すればよい?】
 終焉獣を倒し続ける+ベビオラを発見し救助できれば成功です。
 前者は普通の戦闘をすれば良いですし、後者も戦闘をしていれば見つかります。
 捜索行動自体はPCがそういう気持ちを持っているでしょうから、わざわざプレイングでスキルや方針を詳細に指定、とまでは不要です。その分心情があった方がよりお楽しみ頂ける形になるかと思います。
 本シナリオ登場NPCに対して関わりがない場合には、ほぼ通常の民間人救助依頼です。
 ゾンビのように湧く人型に噛まれないよう、全力で戦って下さい。

【特殊終焉獣】
 本物ではありませんが、ぶつけたい思いや言いたい事があればうってつけの存在です。
 必殺で倒した瞬間発火します。着衣はその時燃えて消えるでしょう。

【魔種】
 優先の方々(≒関連シナリオを把握している方)でなくとも、OPを読めばPL目線で中身を推測できるかと思います。
 逃がそうと思えば逃がせるでしょうが、魔種は倒すべき敵です。
 しかもベビオラの救出が失敗した場合、ウルズさんの願いが破れるため依頼は失敗となります。
 意思疎通できない魔種がどんな音を発しようとも、最低でもベビオラは奪い取らなければなりません。

【終焉獣】
 識別ができないので、範囲攻撃が打ちづらい状況です。
 一人でも多くの民間人を救うなら個別で【飛】をしたり倒したりするしかないですが、淡い正義への執着を捨て、PC以外の存在を一気に薙ぎ払うのも手ではあります。
(連発はPCも巻き込んでしまうでしょうが、時折の範囲攻撃ならそのくらいのタイミングは図れそうです)
 民間人に犠牲が出るのを覚悟で行動した場合、その規模に応じて個別に天義の名声へマイナス付与を行います。
 (放置しても助かるような場所にいる民間人も寄生されたら面倒だから皆殺しだー! レベルの極端なプレイングでなければ、あくまでシナリオフレーバーの範疇に収まるような数値付与です。今後のシナリオ参加に不備が出る事は恐らくないのでご安心下さい)

【ベビオラ】
 生まれの特殊性から色々なものが見えたりはしましたが、今はそれの意味を解することが出来ないただの子供です。
 言いくるめても良いですが、彼女が意味を知ることが出来る様になった頃、どうなるかは分かりません。
 本当に願うのならば、己が真実だと信じる想いの全てを嘘無く貫き、命懸けで背負いましょう。

・その他
目標達成の最低難易度はH相当ですが、行動や状況次第では難易度の上昇、パンドラ復活や重傷も充分あり得ます。

  • <漆黒のAspire>終焉否定のlost chaos Ⅳ:色欲の願い完了
  • GM名pnkjynp
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年03月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
彼方への祈り
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
狙われた想い

リプレイ

●悪意の随に
 町に溢れる黒き人型の終焉獣。寄生体に侵された罪無き人々。
 過ぎ去りし日の『もしも』を思わせる光景に『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)は息を呑んだ。
「……くっ」
「大地、分かってるだろうガ……」
「ああ。俺達には救わなければならない人達がいる!」
 急急如律令。魔力に柊の葉を投影した『花術』が、願いを乗せて飛んでいく。
 此岸と彼岸の狭間にて人々へ迫る死を遠ざけ、生を、未来を与えたい。
 それは『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)や『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)も同じ気持ちだ。
「大丈夫か『フィアベル』さん!」
「全く。無謀を承知で駆け出してしまうのは、以前と変わらないな」
「お二人とも、来て下さったんですね!」
 獣種の青年が心強い援軍に振り返れば。
「あたしと同じ瞳をした幼子と幻想種の修道女、見てないっすか!?」
 首根っこを掴み『先駆ける狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)は問いかける。
 彼の首元で約束の鈴がチリンと音を立てる。
「落ち着いてウルズさん……!」
 なだめる『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)もまた、冷静ではあるが胸騒ぎを覚えていた。
(この前の船みたいになっちゃうこと、心配してるんだよね……)
 だからこそ。
 友人の支えとして、彼女はウルズを無理矢理引き剥がし、事情を告げて謝罪する。
「そうだったんですね。でも避難者にそんな人……あっ、もしかしたら――」
 言いよどみ、視線を泳がす。
 堪えた言葉は、誰もが容易に想像できた。
 そしてもし、万が一にも可能性があるのならば。
 黒煙が上がる町並みにおいて、未だ外観の原型を保つ北側の倉庫であるとも。
「助けに行かないと……!」
 ウルズは前を向いた。
 浮かべるは無垢な笑顔。
 行く手を阻むのは、大切な者を守ったであろう『元』天義の騎士。
 邪魔だ、どけ。
 そんな心にウルズが従うより早く『想光を紡ぐ』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)が魔力を込めた衝撃波で道を開いた。
「私は子細を存じ上げません。けれど皆様に強く乗せる想いがあることは分かります。
 なればその想いに後悔の無きよう……助力致しましょう」
(あ、あたし……今)
「ありがとう、マグタレーナさん!」
 フラーゴラが戸惑うウルズの手を引き駆け出せば『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)も続く。
(酷いと言う他ないですね……)
 誰もが何かを守ろうとしている。
 けれど全てに手は届かなくて。
 せめて大切な一つだけはと。
 もがき、苦しんでいる。
 無慈悲な事実が、リディアの心を蝕む。
(至らない自分の力が恨めしい……)
 苦しみ悶えそうになるが、壊れはしない。
 それはかつて彼女の考え方を変えた『決闘』があったから。
 一方で、最初から定まった考えもある。
「申し訳ないけれど、時間も余裕もないの」
 併走する『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)は、自分達の障害となる存在を容赦なく斬り捨てた。
 迸る鮮血に驚きこそすれど、咎める声などありはしない。
 極限に至ったこの状況下に、誰しも『基準や順位』が過ぎっているからだ。
(わたしが決めた中に、あなた達は入ってない。全てを救える救世主にはなれないし、なるつもりもない。それだけだわ)
 先行する仲間を尻目に、イズマは敢えて祝福のハーモニーを奏で。
 それは未だ『人』であるものに、抗う為の一歩を踏み出す力を与えた。
「諦めるな! 明日への希望を信じて、こちらへ走れ!」
 加えて声を届ける。
 同時に五感を研ぎ澄まし、自分自身の感覚を信じて生者を探す。
(願いを、想いを利用する某よ……思い通りに事が運ぶと思ったら大間違いだぞ)
 己の願いは己で叶える。
 救える命は出来うる限り救ってみせる。
 否定を、絶望を誘う環境にこそ、強き鋼の真価が試されるのだ。
「さぁフィアベルさん。また一緒に生を掴み取ろう!」
「はい!」

~~~

 一際強い滅びの気配がする倉庫前。
 立ち塞がる一つの黒い人型は白いコートを投げ捨てた。
 隠すより、示すが有用と至ったか。
 其は確かに侍で。
 其は確かに彼の赤いマフラーを靡かせる。
「……なんで。なんで先輩が……ここに」
 確かに封じたはずだ。
 記憶を消すフリまでして別れ。
 一途でまっすぐだったこの想いをやっと誰かへ向けようとするこの時に。
「今更……ズルいってば……」
 構えは咲々宮一刀流。
「……参る」
 右に出る者無き疾速の一撃は先頭のメリーノを狙うが、咄嗟に飛び上がって回避。
「ウルズさん!」
 その背後、ウルズに迫る刃をフラーゴラが身を呈して止めれば、交わる盾と刀の間に雷光が弾ける。
「メリーノさんは先に!」
「ここは私達が引き受けます」
 フラーゴラとリディアの言葉に頷くとメリーノはそのまま空を行く。
 かつて片翼となり、遂にはその全てを失っても。
 魔力で舞えばその姿は飛行種のそれだ。
「ウルズさん、宜しければ貴方も行って下さい。……私には返さなければならない『借り』がありますから」
 一瞬の戸惑いはあれど、彼をよく知るリディアとウルズには分かったはずだ。
 『其』が『あいつ』の模倣であると。
「あたし……」
「ほら、ベビオラさん達を助けるんでしょ! 早く行った行った」
 ウルズのお尻を蹴ったフラーゴラもリディアの隣に並ぶ。
「……ごめんなさい」
 簡単に封じられるほど柔な想いなんかじゃない。
 それでも選んだから。
 立ち止まる訳にはいかないから。
 ウルズはその場を友に任せ駆ける。
 人命救助のスペシャリストではなく。
 強火の恋に燃え上がる女でもなく。
 ただ一人の子を想う女(はは)として。


●誰が為の命か
 止まるを知らない終焉獣。
 その合間を僅かな希望にすがり逃げ惑う人間。
 運命の選別にも終わりの時が近づいていた。
 一行の活躍により多くの名も無き命が救われるが、多勢に無勢の状況において救える最大の可能性を望む戦い方は相応の疲弊と厳しい現実を突きつける。
「ぐああ!」
「くっ、フィアベルさん!」
 イズマは対する相手を光魔術で貫くと、振り向きざまに青い衝撃波を放ち友へ噛みつく人影を遠ざける。
「待っていろ、今助ける!」
 イズマが願いを星に込める間、モカは舞うような格闘技で近づく終焉へ終を与えた。
(二人を早く保護してやりたい。だがフィアベルさんにルディさんがいるように……この場に生きる全ての人々に大切な誰かとの時間があるんだ)
 彼女の願いは『お客様』全ての平穏な日常。
 本当にその願いを貫くのならば区別はできない、してはならないのだ。
「拙いな」
 戦線の乱れ、降りかかる疲労。
 だが裏を返せばそれだけ敵を減らしたとも言えよう。
 大地は取り残された希望が無いかを探していく。
「ぱぱ、ぱぱ……!」
 諦めず探したおかげで聞こえた小さな声。
 瓦礫の下、子供を抱きかかえるようにして庇う男が血を流して倒れていた。
 胸の中で呼ぶ子の喉も枯れている。
「赤羽」
「ああ、やろうゼ」
 大地は急ぎそこへ駆けつけると、陽光の魔力で傷を癒そうとするが。
「……はっ、治療を止めロ!」
 一瞬だけ、赤羽が早かった。
 だが遅かった。
「アアア!」
 突如瓦礫を払いのけ、息子へ襲いかかろうとする男。
 瓦礫の影で首元が見えず、先程まで本当に気を失っていたであろう故に気づけなかったが。
 男は寄生されていた。
「ダメだ!」
 抱きしめるようにして庇う大地の首元に、牙が立つ。
「ぐっ……?!」
 流れ込む不安、葛藤、絶望。
 これまで仲間達の願いに寄り添い希望を灯してきた大地を襲う、可能性を奪われた者の嘆き(のろい)。
 それは他者の肉体を奪い、支配する魔術にも似ていて。
(大地やべェ、俺達の首には穴があル。早く対処しねぇと下手すりゃ持ってかれるゾ!)
「それ、でも……!」
 大地は右手で男の胸に星を押しつける。
(大地!)
「今を生きる人のために、できる事をやるんだ!」
 可能性を燃やし放たれる輝きに、大地の手首の鱗が……男に宿った黒き寄生体が剥がれた。
「よ、し……」
 先日の傷も後を引き、倒れ込む大地。
 そんな彼に這い寄る寄生体をマグタレーナの魔力が消し去る。
「大地さん」
 いつか大切な人と再び廻り会うため、目は開けない。
 けれど絶望に抗う仲間の声は、彼が助けた者の救いを求める声は。
 しっかりとこの耳が、心が見つめていた。
(人を想う優しい方。きっと同じように貴方へ想いを返す者も多い事でしょう)
 マグタレーナが祈りを捧げる。
 星に願いを、救いの未来を。
 生じた魔力は星となって、トランプとなって、彼岸花となって彼の中に満ちていく。
(どのような形であれ、戻らぬ別れは辛いもの。なればせめて寂しくないよう、少しでも長く。少しでも多くの思いを紡ぐ架け橋となりましょう)
 友誼の為、最愛の不死王の為、多くの子供達の為。
 かつて異界で母を全うした女の慈愛は美しく輝いている。


●同じ姿と変わった姿
 地上へ降り立つメリーノは、今にも崩れそうな倉庫を見渡す。
 激しい戦いの跡。切り刻まれ倒れた人だったもの。
 どれもこれもが冷たくて、彼女の世界にはよく見えないものだ。
 そんなゴミ山の中に、二つの見知った赤い色が見えた。
 一つは汚れを取り払ったように綺麗で。もう一つはひどく冷え、くすんでいる。
「ア、アア……」
「……そう、それがあなたの答えなのね。『ラティオラ』ちゃん」
 メリーノが改めて刀を抜けば、対するそれも同じように。
 同様に魔力を身体に付与していけば、また真似をする。
「ねえ。おまえが欲しかったのは、弱い者を守る力だったんでしょう?」
 魔種は答えない。
 最早人間的会話は難しいが正しいか。
 構わずメリーノは刃の煌めきに乗せて続ける。
「『べビオラ』ちゃんを、他の誰かじゃなくて自分で守りたかった。
 守られてばかりだったから、守るための力が欲しかったのよね。あなたは弱いから」
 大太刀が描く軌跡はまるで舞踊。
 ありとあらゆる方向から迷い無く魔種を傷つけていく。
 さりとて魔種も魔種だ。
 願いを、想いを注いで翻り得た力で、不足する経験を補い反撃。
 メリーノはそれを必要最低限だけ打ち払い、痛みの演技もせずに言葉を重ねる。
「でもね、それは殺して、奪うためのものだわ。
 だからきっと。お前は最後にお前の大切なものを壊してしまう。力ってそういうものよ」
 弱いという理由にすがって、未来の希望から目を逸らした。
 最善という偽善を盲信したのだろう。
 いつだってそうだ。
 力は何かを犠牲にして成り立っているというのに。
 弱い者は本当の犠牲も顧みず力に手を伸ばす。
「ずっと聞いていたでしょう? それでいいのか、おまえがすべきことはそれなのか」
 きれいなものは好きだ。
 おいしい食べ物は好きだ。
 けれどそれは自分の為ではなく、どこかで生きているはずの大切な妹のため。
 もう自分にはほとんど分からないけれど。
 送られてきた写真には似た想いを持つ女が映っていたはずなのに。
「なのにおまえは間違えた。だからここでおしまいなの」
 人間がニンゲンのフリすら出来ないなら、それはもうバケモノでしかない。
 型を確殺自負の殺人剣に切り替え臨む中、ウルズが到着する。
「ラティ、オラ……?」
 現実は時を刻む。例え思考が取り残されようと。
 何故メリーノ先輩と同じ刀をあの修道女が振るうのか。
 折角迎えに行くと決めたのに。
 消えた過去ではなく、生まれゆく未来に愛を注ぐと決めたのに。
「なんで魔種になっちゃったんすか……ラティオラ抜きでどうべビオラを育てればいいんすか!」
 そうだ。
 愛しの我が子は?
 そうして魔種の背後で倒れているベビオラを見つけた時、ウルズは全てを理解した。
「そっか……ベビオラの為か」
 全ては子のために。
 希有な運命で同じ子へ血を分けあった女。
 同じ想いを持つ女。
 なのにまた、自分は追いかけ。
 そして『置いていかれる』側だ。
「……あたしきっと母親に向いてないよ? なのにこんなの……ヒドいじゃん」
 言いながら拳を握りしめる。
 ベビオラが幸せになれるように。
 もうその願いを叶えられるのは。
 この先の未来で、彼女の血を分けた母親で居られるのは。
 自分しかいない。
「……分かった」
 想いは確かに封じ、ケジメをつけた。
 そんな今ならば、彼との苦く甘い記憶は苦難の私を支えてくれるだろうか。
「うあああああ!!!」
 穿つように放つは暗殺の発勁。
 抉れば、朱が咲く。
「アアアアアア!!?」
 己が友に伝えた戒めが甦る。
 思い出を殺さぬため。
 生者は生きて、心を燃やす。
 灯った炎は消しちゃいけない、と。

~~~

 一方リディアとフラーゴラも、激化する影との戦いに傷が増えていた。
「まだまだだよ……!」
 圧倒するような太刀筋を、フラーゴラは獣種の反応力をもって凌いでいく。
 両者は一歩も譲らないが、守り手は攻め手から見れば一手遅れるものだ。
「しっ!」
「フラーゴラさん、危ない!」
 左足を軸とした一回転から放たれるは蹴落とすような一撃。
 完全にフラーゴラの後頭部を捉えていたそれを、リディアが剣の柄で殴り落とす。
「……」
 もう何度目か。
 不自然に動きを読まれた事を警戒してか、距離を取った影。
「……よもや、卑怯などとは言わないでしょう?」
 告げるリディアも想像以上に『彼の動き』を取る存在へ気を引き締める。
(この終焉獣は決して本人ではない……だが違いはきっと『本人ではない事』だけ)
 願いの力と、本人の残したマフラーを触媒にこの姿を為しているのなら。
 一挙一投足の違い無く『あいつ』になる、そんな確信が彼女にはあった。
 それはそうだろう。一体誰が、どれだけの覚悟で封じた想いか。
(でもそれなら好都合。彼女の想いが強ければ強い程、この幻は本人そのものとなり。
 そして、本人そのものであればあるほど。私には戦いやすくなるんだから……)
 リディアは心に頂いた意志を幻想として纏う。
 それは生き残りたいと願ったあの日の想いが、成熟したものだ。
「……虹光」
「光の剣よ!」
 光を冠した剣戟の一合。
 大切な者が奪われる事を恐れ、それ故に獰猛となった月光。
 全ての人々に救いを与えるため、正義を背負って輝く陽光。
 どちらも信念と、血の滲むような努力の末に得た力。
 世は結果が全てだ。そこに勧善懲悪などないけれど。
 時には信念を貫ききれないような困難に立ち向かいながら。
 想いを、日々を重ねた今なら見える、超えられる。
「言ったでしょう! もう間違えたりなんかしませんと!!」
 咆哮と一閃。
 リディアに押し返され怯んだところをフラーゴラが体当たりで突き飛ばし体制を崩す。
 正々堂々、一対一の戦いでは絶対に生まれなかった隙。
 けれどそれがウルズの、他の仲間達が求める救いへと繋がるはず。
「これが――!」
 守りたい。強くなりたい。
 淡いヒロイズムの先へ導いてくれた貴方は、沢山の人を泣かせながらも貴方で有り続けることを貫いた。
 年長者面して言葉を残したくせに、結果も見ずに風のように流れていってしまった。
 そんなひどい男には、迷わないと決めたあの日から研ぎ澄まし続けた鋭い一撃を贈ってやるのだ。
 「貴方の背に追いつき、貴方と同じ場所で剣を振り、その先に至らんとする……女の剣です!!!」
 深紅に燃える双眸のリディアが放つ渾身の一撃。
 それは翠色の焔揺らめく牙となって、影を穿つ。
「はぁはぁ……どうだ」
 力を使い果たしたリディアは倒れ込む。
 遠のく意識はあの決闘と同じ状態。
 けれど違うと言えるのは、地へ伏せ弱さと悔しさに嘆くのではなく。
(見たか、活き餌侍。『今回は』私の勝ち……ですからね)
 強さと己が剣の道の有り様を、空へ伝えられたからだろう。


●真実の温もり
 フラーゴラがリディアの、マグタレーナが大地とフィアベルの治療を進める中、終焉獣をあらかた片付け避難民を助けたイズマとモカも倉庫へ到達。
 眼前の真実に心が揺らぐ。
「何故その選択をしたんだ! べビオラさんを一人で残す気か!?」
 イズマの憤りにも魔種は答えない。
 それはメリーノ達との戦闘に集中している故か。
 もしくは限界が近い証左か。
「こうなった以上……やるしかないだろう」
 モカも心に沸き立つ憤りを何とか押しとどめ、倒れたままのべビオラを指し示す。
 ウルズが必死に手を伸ばすが、どうやら満身創痍の魔種が意地で食い止めているようだ。
「そして教えてあげるんだ。あなたの周りには、たくさんのママやパパがついていると」
 モカの言葉に、イズマも深く頷いた。
(……きっとこれは貴女が最善と信じた選択。ならば俺は尊重しよう)
 イズマは駆け寄ると、仲間達を避け魔種へ停滞の魔術をかける。
「俺達を見ろ、ラティオラさん!」
「ア、ア……」
「そこだ!」
 続いたモカは、気が逸れた隙をつき得意のアクロバットで魔種の懐から転がり込むと、倒れているべビオラを抱き上げる。
(よし、まだ息はある!) 
 無事を確認すると、掴みかかる魔種の手を払いながら出来る限り優しく投げ渡す。
「ウルズさん!」
 声に、宙を舞う子供に、手が伸びた。
「べビオラっ!」
「アアァ……!」
 どちらも傷を負い、血にまみれながら。
 抱きとめたのは、ウルズの方。
 ダラスから、ラティオラから。
 歪んだ魔種達から託された命に、罪はないと信じさせてあげられるのは。
 あたししか居ないじゃないか。
 そう理解するのは。
 託されたと信じる事は……傲慢なのであろうか。
「もう、おやすみなさいな」
 べビオラが確保され、モカも飛びのいた。
 イズマの魔術も加わって、魔種にはもうメリーノの太刀を躱す手段はない。
「良い夢を」
 もう手は繋げない。繋がない。
 翻る五閃は気づきも与えぬ早業で。
 繰り返す五閃は一度目の痛みすら消し去るほど正確に。
 泡沫の夢は、楽しかったあの日々は写真の中で永遠に眠るのだ。
 命、儚く。

~~~

「ん、んん……」
「あ。おはようベビオラ」
「うる……ママ? うるママ、大変。みんな変で、らてぃママが――」
「うん、知ってるよ。でももう大丈夫。らてぃママが悪い奴を全部めっ、ってしてくれたからね」
「ん? ……めっ、なの? 仲良くは? らてぃママ、いない?」
「らてぃママはね……ベビオラともっと、仲良く、したかったから……頑張ったん、だよ……?」
 もう、止められない。
「うるママ……痛い?」
「ぐすっ、ねぇベビオラ……あたしと一緒に暮らそ? あたし、ママ頑張るから。らてぃママの事も、一杯一杯お話して、初めてのこと、もっともっと教えてあげるから……!」
 何とかそこまで告げて、強く強く抱きしめる。
 絶対、離したりしないと。
 そんなウルズの背中越しにはふらママ、もかママも見えた。
「じゃあワタシは人形の作り方、教えてあげる」
「それなら私はカクテル……はまだ早いな。ミックスジュースの作り方にでもしようか」
 曇り無き想いの言葉には、温もりが強く宿る。
 決して平和とは言えない日々の中でも、子供は経験を、大人の差し伸べる想いを受けて成長していく。
 守り抜けたものは決して多くはないけれど。
 それでもこの小さな命、一つ一つに無限大の価値と可能性があるとリディアは思う。
(貴方を超えたこの剣で……これからも自分なりの正義で誰かを救ってみせますから)
 そんな様子にマグタレーナは零す。
「もしも彼女がこの光景を見られたならば……きっと喜んでくれたでしょうね」
「あァ、そうだナ」
 彼女に肩を借りる大地――赤羽は、ベビオラ達から少し離れた場所を見つめながら。
「ありがとウ、ごめんなさイ、娘をよろしク……」
 死霊術師の言葉が止まり、視線がゆっくりと空へ向いていく。
「……間に合わなくてごめん。だが約束しよう。貴女が守ったあの子の未来は、俺達が導くよ」
「僕もできる限りのことをします」
 イズマが、フィアベルが頷きあって。
 やがてその視線は、次なる戦いへ向かい飛び去るメリーノに重なった。

 こうして平和を取り戻した一行は、終焉を打ち破ったその先に次なる日常の約束をした。
 場所はウルズのワイナリー。
 皆で笑い、皆で楽しみ、皆でゆっくりと……真実を伝えていくと。

成否

成功

MVP

メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
狙われた想い

状態異常

赤羽・大地(p3p004151)[重傷]
彼岸と此岸の魔術師
リディア・T・レオンハート(p3p008325)[重傷]
勇往邁進
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)[重傷]
母になった狼
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)[重傷]
狙われた想い

あとがき

冒険お疲れ様でした。

今回封じられた願いは色欲という扱いではありましたが、大きな枠組みにおいては「誰かを愛しく思う心」が問われたのかと思います。
結果はご覧の通りですが、皆様の想いと行動によって、天義の多くの命が救われております。
本当にありがとうございました。

パンドラについて、エイドスをお持ちの皆様はリプレイ内外で一人誰かを救っています。
また、アレーティア単体での祈りも今回は成功です。
そのため、関連プレイングをされている皆様は、戦闘以外にもその分のパンドラを消費していますのでご了承下さい。

MVPは最期まで彼女を見守り続け、痛み無くおくって下さった貴女へ。

それでは、またお会い出来ることを願いまして。
ご参加ありがとうございました。

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