シナリオ詳細
<崩落のザックーム>月の翳りに燃ゆる
オープニング
●
ラサの南部砂漠コンシレラ。
その一角、交易路の1つに小さな遺跡が存在する。
中心に小さな泉を持つそこは、行商たちの休息地――オアシスとして利用されてきた。
食料を貯蔵するスペースや、水の濾過器、就寝用スペースも用意されたちょっとした宿場である。
――否、であったというのが正しかった。
イレギュラーズが訪れた時、そこに泉は存在しなかった。
食糧庫も、就寝スペースも焼け落ちてた伽藍洞に零れ火の臭いが鼻を突く。
「……随分と速い再会になっちまったね、イレギュラー」
ストロベリームーンを思わす紅の瞳が爛々と輝いている。
獰猛なる笑みを浮かべた幻想種の女、ディアーナと名乗る彼女は世界の敵である。
滅びの因子を身に宿す者――早い話が魔種だ。
その傍らにいるのは、同じく幻想種のようにも見える何かだった。
心臓辺りには真っ赤な花が咲いているか。
まるで貴婦人に傅く騎士のようにディアーナの手を取っている。
「魔女様が宣戦布告されるんだ。
アタシもあの方の……魔女ファルカウ様の配下たるアタシが応じないってのも無いだろ?
――まぁ、勝手に名乗ってるだけではあるけどね」
「それがこうも早く姿を見せた理由!?」
警戒を露わに藤野 蛍(p3p003861)が問えば、ディアーナは肩を竦めてみせた。
桜咲 珠緒(p3p004426)はふと魔種の手元を見やる。
「……その手に持っている物は?」
ディアーナの右手は軽く握り込まれていた。
それは何かを掌に握っているようにしか見えなかった。
「これかい? これは『滅びへの種』って奴だ。
……魔女様はおっしゃった。人類は森を焼き、踏み荒らしたってね。
世界の均衡は崩れ、滅びに近づくばかり――もう全て綺麗さっぱり終らせて新しく始めましょうってさ。
全てを焼き尽くした後で新しく一本の木を植え、緑を増やして人々の棲まう世界を増やせばいいだろってね。
アタシは感銘を受けちまった……ぜひとも、この世界を綺麗さっぱり終らせてやり直すのなら、それがきっと一番だ」
涼しい顔で淡々と告げたディアーナは拳を突き出し、静かに手を開く。
ぱらぱらと落ちた滅びへの種は沙漠の砂に触れたかと思えば、直ぐに根を張った。
種は芽吹き、急速に成長を遂げ花を開く。
「コイツは大地のマナを吸い上げて土地そのものを枯死させてくれるって代物らしい」
「……花が咲いたようですね」
トール=アシェンプテル(p3p010816)の問いかけにディアーナはニヤリと笑みを浮かべ。
「よく分かってるじゃないか。『滅石花(ほうせき)』って花だ。
コイツが飛ばす花粉で滅びのアークをばら撒くってわけだね。魔女様も人が悪い……最高だ」
トールに答えたディアーナは魔法樹の幹を撫でて笑う。
「……そちらの剣士の心臓にあるのも同じもののようですが」
珠緒の言葉にディアーナは肩を竦めてみせる。
「そう。だからコイツらは『滅石花の騎士(ほうせきのきし)』っつーんだ。
気障な名前だろ? ウィル……気障なだけじゃないってとこ、みせてやりな」
「えぇ、貴女がそういうのなら……その期待に応えてみせようとも」
そっとディアーナの手に口づけた幻想種はイレギュラーズの方を見て、その手に弓を握る。
それはまるで狩人のようにも見える。
「――さて、イレギュラーども。魔女様のご命令だ、世界を焼き尽くせってね……
それなら、アタシも遠慮なく燃えるってこった!」
獰猛な笑みと共に、ディアーナの全身から大量の魔力が迸る。
魔力は闘志と交じり合い、熱を帯びて発火した。
「アタシはどうにも炎の力が強くってね。森の中じゃあちょっと本気が出し辛くて適わないんだ。
ここは砂漠のど真ん中、どうせ全部、綺麗さっぱり綺麗に焼き尽くすってなら――本気でやってもいいって話だろ?」
可視化する炎熱を纏う幻想種の周囲に、炎の身体をした精霊たちが近づいていく。
炎で出来た狼と炎で出来た鳥、それから炎で出来た人型のようだ。
あれらが噂に聞く『魔女の使い魔』だろうか。
「……どうやら、貴女を退けなくては魔法樹の撃破も叶わぬようですね」
珠緒の言葉にディアーナは獰猛に笑うばかり。
「ご明察。さぁ、始めようか、イレギュラーズ。
アンタらとは何度も戦ってきたが、本気でやりあうってのは今日が初めてだ。
こう見えて、楽しみでうずうずしてるんだ――!」
炎を揺らし、魔種は笑う――あの様子では無視など許してくれそうにはあるまい。
●
南部砂漠コンシレラに姿を見せた終焉の獣『ベヒーモス』は未だに小さなお山を作るように蹲ったままだ。
ベヒーモス――通称でっか君の背中より現れた小型のベヒーモス(通称:ちっさ君)達がパンドラ収集器の下へ転移を始めたのも暫く。
まるで酸素のようにパンドラを吸い込み、滅びのアークを吐き出さんとする動き。
そうはさせじとイレギュラーズも奮闘を続けている。
――そして。その最中の事だ。
当の南部砂漠コンシレラとその近郊に位置する終焉(影の領域)への交易路が襲撃を受けた。
その他にも標的となったのは『終焉の監視者(クォ・ヴァディス)』と『覇竜観測所』だった。
襲撃は、火に纏わる精霊のような存在達が関係しているようだった。
それらは魔女の手先――即ち『魔女ファルカウ』の直接的な配下、そしてちらほらと『不毀の軍勢』の影も目につくだろうか。
ベヒーモスを敵勢対象と定めたクォ・ヴァデスと覇竜観測所を襲撃したことは、目的の一端も分かりそうだった。
- <崩落のザックーム>月の翳りに燃ゆる完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2024年02月24日 23時30分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
周囲に充満する焦げ臭さは目の前に燃える幻想種が作り上げた襲撃の余韻に相違ない。
周囲に合ったであろういくらかの建築物は全て灰燼さえ残さず燃え尽きたのだろうか。
「初めから全力でいくぜ」
そう短く告げるまま『竜剣』シラス(p3p004421)は戦場に揺らめく炎の使い魔へと不可視の魔糸を展開する。
無数の糸は炎狼と炎鳥の身体を絡め取り、締め上げる。
留まらぬ攻勢は炎狼と炎鳥の身体に不可視の傷をも刻み付けていく。
同時多発的に繰り出される術式はまるでシラスという男が複数人に渡って存在するかのような圧倒的な手数を作り出す。
「こいつらは俺達に任せろ」
結ぶ言葉は仲間たちへの信頼に満ちていた。
「ひゅぅ、流石は世に聞く幻想の勇者様だ。こりゃあアタシも負けられないねぇ!」
そう笑う声は斬撃を浴びたはずの魔種から聞こえた。
「今までは本気を出せなかったから勝てなかった、とでも言いたげね。
その誤解と傲慢、何度でも打ち砕いてあげるから、かかってきなさいよ!」
肉薄する『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)の挑発にディアーナの視線がその視線と交わった。
「――へぇ、良い冗談だ。だったらアンタらも本気を出してねぇアタシを殺し切れなかったって話になるわけだが?」
にやりと挑発的に笑うディアーナに対して、蛍は聖剣を握る。
(あの気合と気迫……本当に今までとは違うみたい……でも!)
それは自らを鼓舞するエール。。
「さぁ、貴女の『全力』でボクを倒せるか、試してみなさいよ!」
展開されている防御術式を削りながら、真っすぐに競り合ってみせる。
「良い度胸だ――たっぷり試してやるから覚悟しな!」
愉しげに笑うディアーナの瞳は満月のように輝いて見えた。
「苦手と仰った遠距離対応に相方を用意されましたか。
連携も含めての全力とあれば、なおの事勝ちは譲れませんね」
同時に動く『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)の視線はぶつかり合う大切な人と宿敵の動きをつぶさに見据えている。
「は、アイツは気障ったらしいのが癪だが、弓の腕は良いんだ。それに――まぁ顔も悪かねぇしな!」
その瞳は世界の行く末も、魔法樹さえも今は映らない。
この場にいる多くの仲間と、何よりも二人、進み続けるためには、ディアーナを好きにさせるわけには行かない。
桜色の髪を揺らすその全身を魔力が揺らめき、やがて落ち着いていく。
天衣無縫の在り方を成した珠緒はディアーナの背後へと回り込む。
(あのデケェ魔法樹とやらを燃やしたいが……目の前にゃ敵多数と。
さぁて、同じ炎使いとして腕が鳴るぜ。燃やされた分、燃やし返さねぇとなァ)
半身に刻まれた術式に緋色の奔流を宿し『祝呪反魂』ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は愛弓を引く。
「其処の騎士様、私と一緒に踊ってくれないでしょうか?
──なーんてな、強制的に付き合って貰うぜ」
天運を塗りつぶし、運命を書き換える災厄の炎が戦場を奔る。
最初の矢を男が穿つよりも前に男が射線を躱す。
「一射だと思ったか? アンタの強み、潰させて貰うぜ!」
2本目の矢はかすり傷、3本目の矢は男の身体の中心を貫いて燃える。
「見惚れてしまいそうな程に力強く、そして焦がれてしまいそうな猛き炎……! これがディアーナさんの全力か!」
やや遠く、仲間との牽制を続けるディアーナを見やり、『プリンス・プリンセス』トール=アシェンプテル(p3p010816)は固唾をのむ。
深呼吸と共に気持ちを入れ替えて、トールは視線を戦場に移す。
オーロラドレスに課されていたリミッターを外し、飽和したエネルギーがリボンとなって輝きを見せる。
そのままに踏みこんだ足、その気配を感じたらしき炎狼と炎鳥、炎人の韋視線がそれぞれトールと交わった。
物語は動き出す。その終わりにはきっと、血と刃、炎に塗れた残酷なる赤き絨毯が砂漠に広がるだろう。
「ヴァイス☆ドラッヘ! 人の夢を護るため只今参上!」
名乗り口上をあげた『ヴァイス☆ドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)はその身に白竜の武装を纏う。
「ファルカウの怒り、以前に別の依頼で聞いたわね。
確かに森に対して人類は酷いことをしてるかもしれないけど……ねぇ。
そのファルカウ様は滅ぼす前に警告とかはしたのかしら?」
真っすぐに敵を見据えてレイリーはディアーナへと問うた。
「は。面白くねぇ冗談だな? さんざん、アンタらはそれを見てきたはずだろ。
その上でそう思うんだったら、それはアンタらが『森の声』に耳を傾けてねぇだけだね」
イレギュラーズの攻勢を受け止めながら、ちらりとレイリーを見たディアーナがそう短く笑って肩を竦めた。
「滅石花……魔法樹ですか。『魔女様』の考えるものは面白く、興味深い。
それでいて効率的……ええ、私──アタシも欲しい代物ね?」
シルクのような柔らかな白、閉ざされた瞳、艶をもって震える口元。
ちらりと覗く『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)の言の葉は刻まれた口元の笑みとは裏腹に棘に満ちている。
「――にしても」
開かれた瞼、輝く金の瞳には真っすぐな悪意が宿る。
「騎士ねぇ。そう名乗らせたのは不運だったわね。アタシ、騎士って大嫌いなのよ」
嗤う魔女の言葉に合わせ、血は踊る。
「――と、死血の魔女が言っているようです、どうあれ貴方達はここで止めさせてもらいますよ。
私達も、炎の扱いには少々心得が付きましたのでね。相手にとっては、十分でしょう?
貴方と魔女が世界の為に世界を滅ぼすというのならば……ふふ、このアタシを滅ぼしてみせなさい?」
ふわりと髪を揺らし、マリエッタは戦場に燻るような黒炎を纏う血の宝冠を作り上げる。
「死血の魔女ねぇ……そりゃあ面白い。干上がらせちまったら悪いね!」
獰猛な魔種が仲間へと蹴撃を叩きこみながらも愉しげに笑っていた。
ひゅぅと口笛の音が戦場に響き渡る。
「森に対して人は大体ひどいことをしている。ぐうの音も出ないな。
綺麗さっぱり終わらせたい気持ちは分かる。
対話より破壊の方が、楽っちゃ楽。故に、世に争いは尽きまじだ」
竜鱗で補強した青き外套に身を包んだ『最強のダチ』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)はそう詩歌でも奏でるように語る。
「――――しかし、勝手に終わらされるというのは、業腹だ。
終わらされる側にも意地ってもんがあるし、そもそもおれはまだ生きるつもりだ。人生楽しくなってきたばかりだってのに!
だから、さっさと倒れて貰うぞ。ディアーナさんよ」
それは聞きようによっては理不尽なものだ。
こちらだって現在進行形でいきなりの滅びという理不尽を受けているのだから、お互い様だ。
「は、そりゃあいい。出来るもんならやってみればいいさ。
その老体でいつまで生きてられるかね――」
だが、相対する魔種の口元には獰猛な笑みが浮かぶのみ。
こちらからの挑戦に対する理不尽などどう見たっありやしない!
●
炎の狼と鳥はその熱を失い綻び消えた。残るは炎で構成される人型の個体のみ。
守りに長け、治癒術式に長けた個体への攻勢は削り切る以外にない。
「よぉ」
シラスは炎人へ肉薄する。
炎人の顔らしき部分がゆっくりとこちらを向いていく。
注意を引けた頃にはシラスは既に極限の集中の中にあった。
「ぶっ殺しだ」
跳ね上がる最高速度。
竜剣の名を冠する魔力の剣が鮮烈の軌跡を描く。
圧倒的な手数と神速の域に達する斬撃の連鎖は炎人の守りを斬りつぶす。
折り重なる斬撃に、炎の身体がばらばらに火花のように咲いて砕けていく。
「ダメ押しといきましょうか」
マリエッタは連撃の終わりを繋ぐように魔力を束ねる。
それは究極たる血の魔術がばらばらに散る火花を消し飛ばし、砕け散る炎人の身体に刺突を穿つ。
内側から侵略する死血の炎が炎人を食らい潰すのにそう時間はかからなかった。
「美しくも堅牢なる乙女と、勇壮なる鷹の乙女――なるほど、麗しき方々を落とせずして男とは言えないだろうな」
「狩人さん、私を狩ることはできるかしら? ねぇ。
毒や痺れでも私は止まらず、呪いや不幸にも私は負けず、弓矢では私は倒れないわ!」
撃ちだされる魔弾に合わせ、レイリーは愛杖を薙ぎ払ってウィルビウスに反撃を叩きこむ。
強かに見据えた瞳にウィルビウスが笑っている。
「は、アンタに落とされるほど安かねぇよ――」
ヨハンナは短く笑み、弓を引き絞る。
その背に負う六枚の翼はその身に流る古の赤き血の証明。
色彩の異なる双瞳が見通す遥かなる未来を現実に写し取るように炎は燃え上がる。
下されし審判の焔は剣となり、剣は敵を縫い留める杭となる。楽園の崩壊を示す剣は十字架の如く燃え盛った。
「ふ、鷹の乙女よ、貴女は実に勇ましい!」
笑みを作るウィルビウスを封ずる紅蓮の十字へ、ヨハンナは走り出す。
「その口を閉じろ!」
戦場に放たれた炎は紅蓮の檻。炎の牢獄は憐れなる囚人を焼き続ける。
「お嬢さん方が守りの要なら、おれは戦場の花をささえる小粋なBGM係ってところだな」
音を纏い、高らかに歌う槍はヤツェクの新しい相棒だ。
戦場に立つ詩人の歌うは心を震わせる音色。あるいは痛みを払う願いである。
「英雄の友としての俺がいる。戦場に輝く英傑として俺達がいる。
滅びなんて受け入れるはずもなく!」
高らかに宣言するヤツェクの鼓舞は戦場に槍の音色と共に響き渡る。
「アツいだけでは、壊すだけでは、何も変えられないのよ!」
黒髪を靡かせ、蛍は真っすぐにディアーナを見据えた。
桜色に輝く魔法陣を幾重にも重ねるガントレットと聖剣の輝きが蛍の身体を包み込む。
「今更、何も変えやしないさ――全部ぶっ壊して、一からやり直すってんだ」
「それじゃあ、意味がないっていうのよ!」
自らの守りを重ね、蛍はディアーナへと言葉を重ねる。
「――そうかい? ならホントに無駄か試してみるか?」
獰猛な笑みのまま、ディアーナが体の力を抜いた。
全身から溢れる炎が揺らめきを収めていく。それはまるで嵐の前の静けさのようだった。
「アンタ、言ったな。今まで本気を出せなかったから勝てなかったって。
違う違う。その逆さ――アタシはね、待ってたのさ。
アンタらみたいにアタシの枷を外してくれる連中をな!」
蛍を見ていた爛々と輝く月のような瞳が戦場を映し出す。
「――さぁ、余燼も残さず焼き尽くしてやるよ、死なねぇように覚悟しな」
重なった戒めが炎に燃えつくされた刹那、蛍の身体は後方に吹き飛ばされた。
「重い――でもこれぐらいなら! えっ!」
砂埃をあげながら踏みとどまる蛍の眼前、月がそこにあった。
戦場を吹き飛ばさんばかりの砂埃が上がる。
炎を纏った拳が、脚が、壮絶な力を乗せて範囲内のイレギュラーズへ突き刺さっていく。
最後の一撃、珠緒の眼前にディアーナの脚がある。
「ここまで2人で来たんだ、珠緒さんはぼくが守る!」
振りぬかれた脚めがけ蛍はガントレットを叩きつけた。
幾重もの魔法陣が重なる防御障壁が硝子細工のように砕け、蛍の身体を痛撃となって叩きつける。
「ひゅぅ、健気なことだね! 最高だ!」
「――ありがとうございます、蛍さん。攻撃はお任せを」
笑みをこぼすままに珠緒が剣を振るう。
その手に握る藤桜剣は誓いの証。
数多の戦闘経験を経たがゆえに辿り着いた珠緒の到達点。
刻む終ノ太刀がディアーナの防御術式を通り抜けて傷を刻む。
「これはそちらももう見飽きたかもしれませんが――此度は一味違いますよ」
撃ち込んだ砲撃の如き斬撃に打ち出されるまま、ディアーナの身体が吹っ飛んでいく。
「へぇ! 面白い芸をするじゃないか!」
オーロラドレスの輝きは撃ち抜かれた身体に残る痺れも足のぐらつきも呑みこんでくれる。
「前回は男姿でしたが今回はとっておきのドレス姿でお相手いたします!」
啖呵を切ると共に、トールはディアーナめがけて駆け抜けた。
燐光が示す軌跡の果てに結ぶ剣撃へディアーナの防御術式が合わさった。
刹那、ディアーナが纏う炎が散り散りに消し飛んだ。
「は、やってくれる! そう来なくちゃなぁ!」
(――輝剣よ! 僕の道を示せ!)
踏み込む。シンデレラの進むべきを示すようにオーロラの輝きが戦場を真っすぐに照らし出す。
「良い一撃だね!」
笑みを浮かべたディアーナが体勢を立て直し、トールの剣を握りしめる。
「――やっちまいな、ウィル」
直後、戦場を貫く魔弾が戦場を迸る。
●
魔種の本気の攻勢は遺跡を紅蓮の炎に包みこんだ。
戦いは激しさを増しながらも続いている。
「同じ騎士でありながら僕とは真逆の幸運体質、羨ましいことこの上ありませんね……!」
トールは迸る魔弾の射線を読みながら、一気にウィルビウスへと肉薄する。
「積極的に使いたくはないですが、こちらの呪い(不幸)で打ち消せるなら試してみる価値はある――!」
ウィッグが解け、銀髪の輝きが滅石花の騎士の瞳に映り込む。
天色の瞳が交わり、ウィルビウスの足元がもつれた。
飛び込んだまま振り下ろす斬撃が斬光の軌跡を残しウィルビウスの身体を両断する。
「ねぇ、私達が無視したっていう警告ってなにかしら!」
持ち前の堅牢さを駆使してレイリーはディアーナを抑えながら問う。
「おいおい、本気かい、嬢ちゃん? だったら大樹の嘆きは何だ?
大樹の憤怒は何だ? アポロトスの一部だってまぁ、似たようなもんだね。
警告をアンタらがただそう暴れるだけの敵と認識してきただけさ」
「……そうだとしても。 勝手にライン決めて、それを超えたら一発アウトとか理不尽よ! そんな理不尽、私は壊してみせる!」
そう告げるレイリーへ、ディアーナは「こりゃ平行線だね」と肩を竦めて呟いた。
「闘いはここからだ。まだ終わらない、終わらせない。簡単に落ちたりなんてつまらないだろう?」
ヤツェクは歌うように仲間たちへと問いかける。
朗々と語り、槍の音色は少しばかり早い凱歌を奏でた。
詩人の語りと共に紡がれる頼もしき言の葉はまるで戦場に立つ軍神の如く。
「――ここからは俺も参加させてもらうぜ」
そう呟くシラスの姿はディアーナの死角に潜り込んでいた。
フィンガースナップと同時、小さな魔力の火が上がる。
それは無数の光球に姿を変え、一斉に炸裂。
「――ぐっ!?」
弾けるようにディアーナの身体が衝撃に湾曲すると同時、その身に宿る炎が消し飛んだ。
「これだけで終わるとは思わないよな?」
「そりゃそうだろうね!」
背後より繰り出す攻勢は竜剣。
竜の暴威を思わす魔力撃の連鎖がディアーナの防御術式の上からその身体に複数の傷を入れる。
「隠し玉も見せていただいたことですし――こちらもお見せしましょう」
続けざまに珠緒は愛刀へと手を添えた。
「磨き上げし剣の、全てを此処に」
開かれた瞳にはただ斬るの一念のみ。
天衣無縫の心得より放たれる斬撃は文字通り珠緒の切り札だ。
力業による渾身の発展形。
轟き、駆ける砲撃の如き魔力斬撃が桜色の閃光をもってディアーナの身体を呑み込んだ。
「――チッ、マジかよ」
幾重も、幾重も重ねるように放たれる閃光の斬撃はディアーナの守りを意にも介さない。
確かな舌打ちが、その意味があったことを教えてくれる。
「守るべき信念と愛する人がいる限り、ボクは絶対貴女に負けない!
魔女様とやらと一緒に、首を洗って待ってなさい!!」
蛍は剣を取り、もう一度そう宣誓の声をあげる。
「――は、そりゃあ面白い。確かに、アンタを殺し損ねたのは事実だからねぇ。
良いねぇ――殺せるもんなら殺してみな」
「ここで仕留める……アンタは此処で燃え尽きな――」
刹那、ヨハンナは矢を打ち出した。
放たれる炎の矢がディアーナの身体を絡め取らんと鷹のように翼を広げて走り出す。
目の前に立つは魔種、この世界の癌とでも呼ぶべき存在。
新たなる混沌法則の内側に落とし込むべく、鷹は鳴く。
「――肉を切らせて骨を断つ、ってな」
ここまでに重ねられた痛みを全てお返しするように、燃え盛る炎がディアーナの身体を呑み込んだ。
「――ッ」
不意にディアーナが舌を打つ。
「ガス欠か。ちぃとばかし暴れすぎたね……」
一つ息を吐いて、ディアーナの全身から炎が失せていく。
「悪いねぇ、イレギュラーこっちは一旦弾切れらしい。ついでに言うと――アンタラの何人かもそうみてぇだな」
笑みを刻む魔種の言葉に一部が表情を険しくする。
「それに――魔女様の使い魔どもとの連戦してのアンタらの方が不利なのは事実。
どっちにしろ、アタシの作戦目標は失敗だ……」
そう肩を竦めた魔種は改めて「仕方ないから退くとするか」と短く舌を打った。
「……さて炎で焼き尽くすのがいいでしょうね」
消えゆく背中を追わず、マリエッタはその手に血の斧を構えた。
炎が揺らめく血斧を叩きこんだ樹が軋みを上げる。
(……意趣返し…なんてのもありますが。
ここで潰えた想いが世界に還ってまたやり直せるよう……少し、祈ってあげますよ)
砕け散りゆく樹を見上げていたマリエッタはそっと目を伏せて祈りを捧ぐ。
倒れ行く滅びの大樹に祈る魔女の姿はいっそ絵画のように美しかった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お待たせいたしました、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
魔女様が世界を滅ぼすらしいので世界を滅ぼしに来ました。
●オーダー
【1】魔法樹の破壊
【2】『砂穴の苺狗』ディアーナの撃退
●フィールドデータ
南部砂漠コンシレラの一角、小さな遺跡の中心部。
本来は交易路として行商らのオアシスとして利用されています。
しかし今や水は干上がり、人々の設置した人工物は燃え落ちています。
遮蔽物などはなく、視界は良好。唯一の影は大きく成長した魔法樹です。
●エネミーデータ
・『砂穴の苺狗』ディアーナ
元が幻想種の魔種です。属性は不明。
ストロベリームーンのような赤色の瞳と髪が特徴的です。
かつて奴隷商に誑かされ、魔道に堕ちた幻想種。性格は傲慢でありながら策謀的。
今回は魔女様のご命令であると同時に遠慮が不要なので全力です。
無視すると当然の如く暴れまわって魔法樹の破壊を阻止してきます。
退けなくては魔法樹の破壊など夢のまた夢です。頑張って撃退しましょう。
溢れる魔術的な素養の全てを肉体強化に用いた肉弾戦による近接戦闘を主体とします。
今回は前回までとやる気が違うのか、全身から溢れる魔力が炎に変質しています。
現在までの戦闘で以下のような攻撃を行なっています。
物神攻、命中、EXA、防技が極めて高く、反応、抵抗がそれに続きます。
炎刃脚:目の前にいる敵を魔力を籠めた脚で刈り取るように蹴りつけます。
神近扇 威力大 【業炎】【体勢不利】【痺れ】
炎飛脚:足元を強烈に踏み抜き、戦場を駆け抜け対象を蹴り飛ばします。
神超単 威力中 【移】【崩れ】【飛】【業炎】【紅焔】
炎震脚:足元を強烈に踏み砕き広域へ振動を与えます。
物自域 威力中 【崩落】【泥沼】【停滞】
炎武:目の前の敵に向けて連続した猛攻を叩きこみます。
物近単 威力大 【邪道】【堅実】【追撃】【体勢不利】【紅焔】【自カ至】
以上の攻撃に加えて、全力相応の隠し玉も存在すると思われます。
・『滅石花の騎士』ウィルビウス
滅石花(ほうせき)を埋め込まれた、強力な不毀の軍勢です。
そこにいるだけで尋常じゃない滅びのアークをまき散らします。
気障ったらしい台詞を吐く狩人であり、魔術師。ディアーナからはウィルと呼ばれています。
神に百発百中(命中)の腕と幸運(CT)を願ったと語ります。
なお、CT型の宿命ですがその分FBも少々高めになっています。
その矢には【毒】系列や【痺れ】系列、【不吉】系列、【呪殺】の力が籠っているとも語ります。
基本的にディアーナが効率的に動けるように補佐を行ないます。
その他、狙えそうなイレギュラーズは確実に狙ってきます。
・『魔女の使い魔』炎狼
滅びの魔法樹の周囲に揺蕩う炎で出来た精霊のような存在です。
炎で出来た狼の姿をしており、反応速度と近接戦闘に長けます。
・『魔女の使い魔』炎鳥
滅びの魔法樹の周囲に揺蕩う炎で出来た精霊のような存在です。
炎で出来た鳥の姿をしており、EXAと範囲攻撃に長けます。
・『魔女の使い魔』炎人
滅びの魔法樹の周囲に揺蕩う炎で出来た精霊のような存在です。
炎で出来た人の姿をしており、タンクヒーラーのように魔法樹を守るように行動します。
・滅びの魔法樹×1
『滅びへの種』より芽吹き、花を咲かせた魔法樹です。
土地を枯死させ、バグ・ホールが開きやすいように調整する能力を持ちます。
その成長の大元はパンドラや大地そのもの支える魔素的なもののようです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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