シナリオ詳細
<グレート・カタストロフ>破・鎧・進・撃!
オープニング
●鉄帝の戦い
世界崩壊の兆し――いや、それは『兆し』ではない。明確に現出した世界の終わりは、兆しではなく確かな『始まり』であったのだ。
世界はバグ・ホールに食われ始め、Bad End 8を名乗る魔は世界各地にてその足跡を刻み続ける。
ここ、鉄帝は、『全剣王の塔』なる建築物が突如現れ、伝説の王『全剣王ドゥマ』を名乗る魔が、堂々たる侵略の開始を宣言。その勢いは明確に増し始め、塔周辺に圧しとどめられていた軍勢は、少しずつ鉄帝の闘士たちを逆に圧し始めたのである。
さて、そんなさなか、メルティ・メーテリアとソフィーヤ・ソフラウリッテという二人の少女が、全剣王の塔近辺に姿を現していた。
「たしかに、このあたりなのですね」
と、メルティが訪ねる。ソフィーヤはゆっくりとうなづいた。
「はい。破鎧闘士……不毀の軍勢の中でも上位の戦士。
そのうちの一人が、このあたりで目撃されたらしいんです」
ソフィーヤは、幼いながらも天与の魔術の才を持つ術師だ。大人顔負け――もちろん、ローレット・イレギュラーズたちには劣るであろうが――の彼女は、かつての鉄帝の大戦の中で、様々な事情から一時はローレットと敵対し、後にともに鉄帝の解放のために戦った仲であった。
「……ですが、良いのですか? ソフィーヤさん。
あなたは、もう戦う必要はないのに……」
「こう見えても、英雄、を名乗ったりもしたんですよ。あの時のその名は、生贄の別名でしたけれど。
でも、今は……本当に、この世界のために頑張りたいって思ったんです」
のちに、仲間たちとともに一般の生活に戻ったはずの彼女だったが、今は再び、自分の力を世界のために役立てるために、本当の英雄として立ち上がったようだった。当時の仲間たちも、各地で己のやれることを世界のために役立てているらしい。
「だから……」
「ええ。必ず、この世界を救いましょう」
きっと、そのためのキーとなるのは、ローレット・イレギュラーズたちだ。だとしても、一般人である自分たちであるとしても、努力もせず、彼らにすべてを任せていいはずがない。それが、彼女たちの一致する心だった――。
「ですが、破鎧闘士はここで何を――」
「知りたいかね」
そう、声が上がった。メルティ、ソフィーヤの両名が身構える。すると、視線の先には、歯車やねじのような、機械でくみ上げられた人型の異形の姿があったのである。
「お初にお目にかかる――私はド=グ・ラ。グラと呼んでいただいて結構です」
恭しく一礼をするド=グ・ラ。その体には、機械でくみ上げられたような異形の鎧が装着されている。
「破鎧……ですね?」
メルティが言うのへ、ド=グ・ラがうなづく。
「いかにも――破鎧。全剣王様より賜った最強の鎧。
この鎧は、わたしに最強の一刺を与えるもの。斯様に――」
しゅ、と、手にしたレイピアを突き出す。すると、たまたま近くを飛んでいた甲虫の胴体が貫かれ、一刺(クリティカル)のもとに粉砕されたのである。
「……わたしと同じタイプ……いいえ、養殖ですが」
メルティが睨みつけるように目を細めた。
「それがなければお話もできませんか、グラ」
「なんとでも。所詮はもたざる者の嫉妬に過ぎませぬゆえに。
さて、わたしが何をしていたか――ですが。
まぁ、裏道を探っていたのです。我らが塔は、不愉快ですが包囲されているようなものですからね。
我々塔の軍勢が外に出るための道を探っておりました」
「……! まずい、です! この人を放っておいたら、包囲を突破されかねません!」
ソフィーヤが叫んだ。
「このあたりにはバルテンスタンの街があります。一時避難は進んでますが、まだ残されている人たちもいるはずです……!」
「なるほど。では、ここで倒すほかありませんね」
メルティが身構える。すると、くくく、とド=グ・ラが笑った。
「愚か愚か。この軍勢を相手に、まさか突破ができるなどと」
ド=グ・ラがパチンと指を鳴らすと、周囲からド=グ・ラの体を簡易にしたような、機械の軍勢が現れる。それが、不毀の軍勢の一団だと察した瞬間、ソフィーヤが魔術通信の宝珠を起動した。
「ローレットの皆さんに連絡をお願いします! 不毀の軍勢たちです!」
「おや、結局はローレット頼みですか?」
ド=グ・ラがそういうのへ、メルティはうなづいた。
「ええ。あくまで主役はあの人たち、としましょう。
到着の間まで、斬りあい(おはなし)、してもらいます」
メルティ、ソフィーヤが構える――同時、一気に飛び出した。
ソフィーヤより不毀の軍勢が現れたという知らせを受け取った『あなた』たちは、おっとり刀で現場へと駆け付けた。すでにメルティとソフィーヤによる戦いが始まっており、幾ばくかの不毀の軍勢を迎撃できたようだが、まだまだその本隊は健在のようであった。
「おや、お早い到着ですね」
機械の怪人が声を上げるのへ、
「破鎧闘士……!」
ローレット・イレギュラーズの仲間が叫ぶ。
「いかにも――ド=グ・ラと申します。グラ、とおよびいただいても」
「モグラだかオケラだか知りませんが。
話は無用です。あなたたちの進撃を許すつもりはありません」
仲間の言葉に、『あなた』もうなづいた。武器を一気に抜き放ち、構える。
「皆さん……!」
こちらの到着に気づいたソフィーヤが歓喜の声を上げる。が、すぐに表情を引き締めて、
「ごめんなさい、もう少し、皆さんの負担を減らしたかったのですが……!」
「気になさらないでください。そちらがご無事で何より」
「この連中を倒せばいいんだな。簡単な仕事だ」
ローレット・イレギュラーズの仲間たちがそういうのへ、メルティはうなづいた。
「引き続きお手伝いします。どうぞ、存分に、斬りあい(おはなし)してください」
そういうメルティに、『あなた』はうなづいた。
「く、く、く。簡単とは舐められたもの――では、始めましょうか! 我々の進撃を!」
ド=グ・ラが叫ぶ。同時、配下の不毀の軍勢が、一斉に駆けだした――!
- <グレート・カタストロフ>破・鎧・進・撃!完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2024年02月10日 22時50分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●最強を騙る
「はてさて、強気に出たものですな」
そう、機械の男――ド=グ・ラが声を上げた。
戦場に構えるは、不毀の軍勢。ソフィーヤ、メルティ。そしてあなたち、ローレット・イレギュラーズだ。
「我々最強の軍勢。その中でも特に最強である、我々ド=グ団。
全剣王の信任も厚い、我々最強たる軍勢に、果たして勝てるものですかな」
機械であるド=グの表情は変わらないが、しかし傲慢な自信に満ちているのは確かだろう。不毀の軍勢という者は大なり小なりそうであるが、自身の力という者に絶対の自信を持っているものだ。
「ですが、その力も与えられたまがい物でしょう」
と、メルティがわかりやすく不機嫌そうに言う。おおむね「たおやかな」といってもいい彼女であるが、ここまで明確に不機嫌そうにするのはなかなか珍しい。
「私は、強い人を尊敬しています。斬りあい(おはなし)できるということもそうですが、そこに至るまでに必ず努力を積み重ねているからです。
もちろん、あなたが魔法生物だったとして、だから、と言っているわけではありません。生まれ持ったもの、を否定する気もありませんから。
――あなたは、上位者から与えられた力にはしゃいでいるに過ぎない。
借り物の、まがい物です。そういう者との斬りあい(おはなし)は、つまらないものなのです。まるで、誰かに書かれた台本を返すだけのお人形のよう」
「今日は饒舌だな、しーてーおんな」
ふふん、と『縒り糸』恋屍・愛無(p3p007296)が笑う。
「だが、それだけに君が相当イライラしているのは、僕にもわかるぞ。
とはいえ、僕の予定だと、僕に打ち負かされた君はしーてーおんなをやめているはずだったが……」
「……え?」
メルティが小首をかしげた。む、と少しだけ、愛無がむくれた顔をする。
「……おかしいな。僕の戦い方に感銘を受けて、しーてーおんなをやめているはずだ」
「個人の趣味嗜好はそう簡単には変わらないでしょう」
くすくすと、『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)が笑う。
「彼の者を認めがたいという事でしたら、CT型としては末席(自称)の私が代わりに挑むとしましょうか。
……正直、装備や改造部品は回収してしまいたい所ですが、それらを使える状態のままで倒す事は難しいと思います。回収できたらCTもう少し上げられそうなので、非常に残念ですが」
「なるほど、欠片でも回収したら、お守りくらいにはなるんじゃないのか?」
『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が、くっくっと笑った。
「ほれ、あいつの……肩の歯車のあたりとか?」
「アクセサリーにするには武骨すぎますね。やめておきます」
瑠璃が肩をすくめて見せるのへ、ド=グ・ラは愉快気に笑った。
「よい、よい。その位に強気なほうが、私としてもやりがいがあるという者です。
ああ、強きの特権というものは、自分は強いと思っている愚か者をその力で圧倒する瞬間というものですよ」
「戯け。それは此方のセリフだ」
太磨羈が凄絶に笑って見せる。
「ここは鉄帝だ。ならば、ここは鉄帝の流儀に則っていこうじゃないか。
即ち――"己が力で思い知らせる"!
だろう、メルティ?」
その言葉に、メルティは微笑む。
「ええ……そうでしたね。
鉄帝らしく、おはなししましょうか」
構える。それに、『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)も、静かに声を上げた。
「最強を名乗り、競い合う――のだったら、むしろ応援したいと思っているけれどね。
でも、貴方のそれは、いたずらに人の命を奪うものだ。
生憎私は、つまらない理由で無為に人々を殺める者が好きではなくてね。
お引き取り願おうか」
そう言って、ちらり、とマスクの下の視線を、ソフィーヤへと送る。
「はじめまして。正式な挨拶は、後々としよう」
「はい、よろしくお願いします……!」
ソフィーヤが、その幼い顔を、しかし一生懸命に険しくして、敵を見やる。
「……せっかく、平和を取り戻したんです。世界の終わりなんて、導かせるわけにはいかないんです」
「そうだとも。
……戦友とともに、得た平和だ。多くの人の心が、一つとなった場所だ。
貴方の気持ちもわかろうというものだよ」
ルブラットの言葉に、ソフィーヤもうなづいた。
「……やはり、あなたは」
『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が、静かにそう口を開き、かぶりを振った。
「いえ、以前にもまして、努力をなさっているようですね。
追いつかれてしまいそうです。これはうかうかとしてはいられない」
そういうオリーブに、ソフィーヤは慌ててかぶりを振った。
「い、いえ! 皆さんに比べては、失礼なくらいです……!」
「ご謙遜を。
……老婆心ではありますが、その後、皆さんがどうなされているのか、心配していました。
不要な心配であったことがとてもうれしく思います。あなたの意思と力が、強く眩しいことがうれしい」
ふ、と笑って見せるオリーブに、ソフィーヤは少しばかり気恥ずかしそうに笑った。
「ソフィーヤは久しぶりだね、元気そうで良かった。
……むしろ僕がご無沙汰なんだけどさ」
苦笑しつつ、そういうのは『グレイガーデン』カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)だ。
「みんな、元気なんだね。よかった。本当に。
……せっかく守った国だ。世界崩壊なんてさせるわけにはいかない。
力を貸して。僕も、最大限に、力を発揮して見せるから」
「もちろん、私もですよ、ソフィーヤ様」
『無限ライダー2号』鵜来巣 冥夜(p3p008218)が、やわらかく微笑んだ。
「お久しぶりです、ソフィーヤ様。貴方が守りたいと願う人々を、俺はもう失わせない。
その為にカティアも私も、強くなったのですから!」
力強くうなづく。果たしてその言葉通りだ。多くの修羅場をくぐって、イレギュラーズたちもあのころからさらに、さらに、成長している。この世界を守るために、何度でも、立ち上がり、強くなれる。
「さて、みんな気合十分ってやつスね」
『無職』佐藤 美咲(p3p009818)が、にへら、と笑って見せた。
「しかし、全剣王……よりにもよってこの国で『王』を名乗りまスかねー……。
この国の『王』、皇帝ッスか。とにかく、当代、先代、先々代とその色々とアレじゃないスか?
あ、『当代』と『先々代』が同じってのは、知ってて言ってるんスよ?
いつになったらあの騎士(メイド)との関係に決着つけるんスかあの人は」
くっくっと笑って見せる美咲が、ゆっくりと身構える。
「おっと、話が外れましたね。
まあ、私とてこの国のことはそれなりに知ってるつもりでス。
どんだけめんどくさい国に手を出したか教えてやりましょうか。
この国で、最強を名乗る馬鹿々々しさと、王を名乗る愚かさって奴も、合わせてね」
「おやおや、おやおや」
大げさに、ド=グ・ラが笑って見せる。
「私への侮辱はともかく、偉大なる王への侮辱とは――命知らず、烏滸がましい、身の程知らず――どのような言葉を用いても、その愚かさを語るには足りないものです」
ド=グ・ラが、その機械の指をかちんとならした。すると、配下のド=グ団の機械兵士たちが、一斉に構える。
「では、ではでは、始めましょうか。
我々の、一刺――ご存分に堪能あれ」
「さて、来るぞ」
愛無が言うのへ、瑠璃がうなづく。
「美咲さん、先導をお願いします。
一気に突っ込んで引っ掻き回すとしましょう」
「扇動なら割と得意なんスけどね。ネットとか」
美咲が笑い、
「まぁ、お任せあれ。今は動ける女なんで」
「討伐は、ド=グ団のほうからでよいかね?」
ルブラットが言う。
「なんとも健康的なようだ。見るといい、あの歯車など弾むように回っている。
まぁ、ジョークはそこまでにして、体力は高そうだ。倒すにしても、少々こちらの骨が折れそうだよ」
「リーダーを守られては厄介だ。骨は折れそうでも、さっさと片付けてしまうのがいいだろう」
太磨羈が構える。
「ええ。確かに最強の体力をお持ちのようですが、ただそれだけというのならば、その程度の相手ということです」
オリーブが構える。
「ソフラウリッテさん。メーテリアさん。ここまで戦線を維持していただいたことに感謝を。
お疲れでしょうが、もうしばし、付き合っていただければ幸いです」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ソフィーヤが力強くうなづき、メルティもうなづく。
「ええ。ここからはお話ではなく、斬りあいといたしましょうか」
「……何か違うのかな……」
カティアがそう言いつつ、こほんと咳払い。
「まぁ、とにかく……いこう、みんな!」
「ええ。蓮。貴方はソフィーヤさんを守りつつ、彼女の援護射撃が敵に当たりやすくなるよう、射弾観測を頼みます。
狙う敵はなるべく、最もHPが低くなっている者。
確実に敵の数を減らし、此方が押し切れるように立ち回ります。
頼みましたよ。私の相棒!」
冥夜がそういうのへ、練達上位式の蓮が静かにうなづき、ソフィーヤの傍へと侍る。
「さぁて、はじめましょうか」
美咲がゆっくりと構える。
「いくスよ――ついてきてください!」
叫び、走り出す――それへ、仲間たちが続く! かくして、その疾駆を合図に、戦端は開かれた!
●最強衝突
「さて――」
たん、と踏み込んだ美咲が、目の前にいたド=グ団の一体の顎に掌底を加えた。そいつが体勢を崩した瞬間、足を払って、隣にいたもう一体にそいつの体をたたきつける。C.Q.C。シンプルに言えば近接格闘。
「ああ、体力馬鹿って奴スか。漫画だったら、筋肉だるまで――いや、そっちはパワーがある分幾ばくかマシスかね」
ふん、と鼻を鳴らして見せる美咲――一方、美咲に先導されて突撃したメンバーが一気に行動を開始する。
「さて、一気に振り払いましょうか」
オリーブが声を上げ、手にしたクロスボウを打ち払う。掃射。シンプルなそれは、しかし敵の足を縫い付けるには十分!
「親玉は、クリティカルな回避行動を行えるようですが……あれではいい的ですね。
ソフラウリッテさん、魔術の的代わりにどうですか?」
「え、えーと、がんばります!」
苦笑しつつ、しかし手は抜かない。オリーブにいざなわれるように放たれたソフィーヤの魔術が、足を止めたド=グ団を狙い穿つ。
「なにをしている! さっさと反撃を!」
ド=グ・ラが叫ぶのへ、ド=グ団が如何にかこうにか反撃を行う。機械の腕、それ自体を鈍器のようにした攻撃は、思いのほか重いものだ。
「おっと……!」
カティアがその一撃を受け止めながら、痛みをこらえつつその手を振るう。斬糸がド=グ団の敵をからめとり、ぎり、きり、と甲高い音を立てた。
「冥夜!」
「ええ」
冥夜がうなづき、また斬糸を振り払う。気糸に斬撃は二人のそれと絡み合う様に敵を切り裂き、一体のド=グ団をバラバラに変えて見せた。
「同じ機械の体でも、私の核は奇跡の輝きを持つ。貴方がたとは立つステージが違うのですよ」
冥夜が挑発するように宣言する。果たして、それに乗ったのか。ド=グ団はきちきちと体を鳴らしながら、まさに機械的に暴れまわる。ふるわれる腕は、衝撃波となってあたりに飛散した。それが、イレギュラーズたちの体を強く傷つける。
「おっと、やはり元気は良いようだな。
鉄帝の復興に力を貸してくれれば、良い関係を築けただろうに」
ルブラットが、マスクの下で嘆息する。敵の勢いは激しいが、しかしここで倒れるわけにはいかない。
ぱきり、とその手で宝石を砕く。すると、その内部に燃え盛っていた魔力が、ルブラットの身に、すう、と吸い込まれた。
「ここからが本番と行こうか」
さて、ド=グ・ラをフリーにしておくわけにはいかない。メンバーによる猛追がド=グ・ラを狙うが、しかし最強のCTとは口だけではないようだ。渾身たる一撃を、ド=グ・ラはひらりと避けて見せる。
「やはり、この手合いは嫌いだ。わけわからん避け方やら当て方しやがって。愛くるしい美少女なら、まだ許せるが」
「まぁ、では私は許されているわけですね」
「言うじゃないか、メルティ君」
軽口を掛け合いつつ、愛無、そしてメルティが迫る。二人の合わせる一撃を、ド=グ・ラは奇妙な体勢を取ることで回避して見せた。
「おや、おやおや――追いつけませんか」
嘲笑するようにいうド=グ・ラへ、メルティがぎゅ、と口を結ぶ。
「……ちょっとああいうタイプにムカついてきました」
「やめろやめろ、その怒りのままにしーてーをやめるといいぞ、しーてーおんな」
ジョークを交えつつ、愛無が腕を振るった。ド=グ・ラがそれを跳躍して回避。そのままレイピアを突き刺すが、それがクリティカルに愛無の体を貫く。
「愛無さん――!」
「この程度、だ、しーてーおんな。
それより、瑠璃君、太磨羈君、さぼるなよ?」
「言われんでもな! ああいうのは、凶の気を中ててやるに限る!」
太磨羈が刃を振るった。同時、ド=グ・ラが飛び跳ねる。
「当たりませんとも――」
「『当てる』んだよ、意地でもなッ!」
さんっ、と振るわれた刃が、ド=グ・ラの足をつかむように結界を生み出した。ばじ、と内部で獄を生み出す! 強烈な凶の気が、ド=グ・ラの足を穿った!
「ぬ、う!?」
「瑠璃! 御主も続け!」
「ええ、もちろん!」
瑠璃が、ド=グ・ラをにらむ。それで完結する。魔眼、凶眼、そういったものは、見るだけで対象を呪う、高位の呪式である。
ぐらり、とド=グ・ラの視界が回った。それが魔呪に伴う凶の気が流し込まれたが故だと理解した瞬間、明確にド=グ・ラの腕の動きが鈍るのがわかる。
「もう一発だ!」
「言われずとも――次は斬ります!」
瑠璃が一気に跳躍し、その魔紋から生み出した魔力を以て、刃を生み出した。その刃が、一閃を輝かせる。破滅導く月没の刃は、この時、黄金に輝く機鎧を横なぎに切り払った!
「なんと……!」
べぎり、と音を立てて、破鎧が粉砕される! これまでさんざん此方を翻弄してくれたが、破鎧がなければ、タフな機械戦士に過ぎまい!
「そうそう、ドーピングはいけませんよ。
これで、メルティさんや、私と『タイ』というもの」
瑠璃が、再び構える。
「では――改めて。メルティさんではありませんが、『斬りあい(おはなし)』しましょうか」
その魔眼が怪しく輝くのを、ド=グ・ラは見た。
「よし、順調ッスね!」
目の前にいたド=グ団の一体に、先ほど倒したド=グ団の個体からへしとった機械の指先を突き刺して、美咲が叫んだ。ばぢん、とスパークしたその個体が、がしゃ、と大地に零れ落ちてスクラップになる。
「オリーブ氏、ルブラット氏、一気に押し込むッス!
鵜来巣氏とカティア氏は、回復サポート!」
「お任せ、だ」
ルブラットがその手を振るうや、毒を塗布した暗殺針が一気に解き放たれる。ド=グ団の一体に突き刺さったそれが、生命の灯を喰らうかのごとく内部を腐敗させ、物言わぬ機械の人形に変貌させる。
「ローレル君、そちらだ」
指さすのへ、オリーブがうなづく。手にしたロングソードを振るえば、目の前の機械人形が寸断されて大地に転がる。
「これで、こちらは完了です。さぁ、あのモグラに一泡吹かせに行きましょう」
オリーブの言葉に、カティアはうなづく。
「ド=グ・ラ、だけどね……!
ここから回復支援に専念するよ。みんなは気を付けて」
「カティアも、気を付けて。
さぁ、行きましょう」
冥夜の言葉に、カティアが、そして仲間がうなづく。果たして視点を動かしてみれば、虎の子の一刺を失ったド=グ・ラが、必死の反撃を続けているのがわかる。確かにそれはイレギュラーズたちに傷を負わせるのには十分な威力を持ち合わせていたが、しかし先ほどまでの十全な状態に比べれば、明らかに性能の低下を見せていた。
「さて……こちらもここからが全力だぞ、ド=グ・ラ」
太磨羈が、にぃ、と笑って見せた。
「たしかに、御主は強いよ。破鎧を失ってなお、我々は全力を以て相対せねばならん。
……だが、破鎧の力に聊か頼り過ぎたようだな!
こういう時こそ、地力がものをいうというものだぞ!」
太磨羈が一気に踏み込む。斬撃が、ド=グ・ラの体を傷つけた。
「む、う、ん!?」
悲鳴のようなうめきとともに、ド=グ・ラが飛びずさる。前述したとおり、そこに最強の一刺の面影はない。
「おのれ……だが、私はただではやられはしない!」
レイピアを鋭く突き出す。それが周囲の魔力、そして空気を取り込んで、強烈な魔力渦を生み出した。貫通するような強烈な一撃を、オリーブは刃で受け止める。
「……破鎧におぼれず、この系統を極めなかったのが敗因ですね」
「ええ、ええ。
グラ様程の実力者が偵察役とは。全剣王の塔は余程、戦力不足と見えます」
おべっかとも挑発ともとれる冥夜の言葉に、ド=グ・ラは答えない。
「最強を騙るのは結構。
でも、そういうやつは、だいたい咬ませなんスよ」
美咲が肩をすくめて見せた。
「貴方の実力そのものには敬意を払うとも。これは本当だ」
ルブラットが言った。
「だが……この世の害となるのならば、切除させてもらう。
こう見えても、外科手術は得意でね」
「ぐ、うううっ!!」
悔し気な呻きとともに、ド=グ・ラは駆けだした。レイピアをめちゃくちゃに振るうそれは、もはややけっぱちのそれといえるだろう。
「やれやれ。僕は最強には程遠いが」
愛無が、声を上げる。
「「飢えている」という点においては他者の追随を許さない。
不味そうな相手ではあるが背に腹はかえられぬ。
喰い散らかすとしよう。
幸い、充分に腹は減っている。
君が減らしたのだぞ、ド=グ・ラ」
ぐわり、と、愛無がその手を振るった。ド=グ・ラの、右手、レイピア、そしてその腕からの半身が、愛無の爪に、影に、ばぐん、と飲まれた。
えぐれる――その通りに。
「な、ぐ、く、くぅ……!」
ド=グ・ラがうめき、残る腕で反撃を試みる――だが、それを止めたのは、太磨羈の斬撃だった。す、とそれが振るわれた瞬間、ド=グ・ラの首が切り払われ、そのまま勢いよく後方へと吹っ飛ぶ。胴体のみが数歩進んで、そのままぶっ倒れた。ワンテンポ遅れて地面に落ちた首、その機械部品がカタカタとなる。
「私は……最強の……」
かたん、と音を立てて、それが動かなくなった。
「最期までそのような夢を見られたのならば。
幸せだったのかもしれませんね?」
瑠璃が肩をすくめた。
いずれにしても――それが、戦いの終わりを告げる言葉であった。
「……! やっぱり、本当の英雄はすごいですね……!」
ソフィーヤが称賛の声を上げる。オリーブはかぶりを振った。
「いえ……ソフラウリッテさんと、メーテリアさん。お二人のおかげでもありますよ」
「そうだね。
……また、一緒に戦えたこと、うれしいよ」
カティアが、傷の痛みを押しながらそういうのへ、ルブラットがかぶりを振った。
「おっと、無理はいけない。
簡易なものだが、応急処置を行っておこう。
ついでに瀉血はどうだね。健康になる」
「……それは、後日にしましょう」
冥夜が苦笑する。
「しかし、こうなると、全剣王ってのもなかなか追い詰められてるんじゃないスかね?」
美咲が言うのへ、瑠璃がうなづく。
「ええ。どれだけ大口をたたこうとも、彼の策はこのように、すべて無力化されているわけですから」
「うむ。
いかに最強を謳おうとも、私たちを止められるものではない。それをいずれ、教えてやろう」
太磨羈が、力強く笑うのへ、仲間たちもうなづいた。
「で、しーてーおんな。どうだ。
そろそろ、戦い方を改める気にはなったか」
愛無がそういうのへ、メルティは笑った。
「いえ、まったく」
「この頑固者め。まあ、いい。いくら意地を張ったところで、僕が君に勝ったことは変わりない。
僕は、君に、勝ったからな?」
そう言って見せるのへ、メルティは、むぅ、とほほを膨らませた。
「でしたら、ここで一つ、お話し合いでもしましょうか?」
「おっと、血の気が多いと見える。
二人とも、瀉血をしたらどうだね」
ルブラットが肩をすくめるのへ、仲間たちは笑って見せた――。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
不毀の軍勢の目論見は除かれました――。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
全剣王の塔周辺での戦いです!
●成功条件
すべての敵の撃破
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
全剣王の塔の周辺調査を行っていた、メルティとソフィーヤの二人の少女。
観測された『破鎧闘士』を探っていたのですが、二人は当の破鎧闘士と遭遇してしまいます。
破鎧闘士の名は、ド=グ・ラ。最強の一刺を与えるという破鎧を付けた機械異形の彼は、全剣王の塔を包囲する鉄帝闘士たちの『包囲の穴』を探していたようです。
彼らを好きにさせてしまえば、包囲を突破され、付近の街に多大な損害が発生してしまうでしょう。止めなければなりません!
作戦決行タイミングは昼。作戦エリアは、荒野。戦闘ペナルティなどは特に発生しないものとします。
●エネミーデータ
破鎧闘士ド=グ・ラ ×1
人型機械異形の怪人です。不毀の軍勢の中でも、強力な存在である『破鎧闘士』と呼ばれる存在で最強の一刺(CT)を与えられています。クリティカルによる絶対命中、絶対回避を恃みとした戦いを行ってきます。(その分、基礎能力値は低めになっています)
厄介な相手ですが、ある程度ダメージを与えられれば、破鎧が破壊され、CTを激減させることができます。なるべく速やかにダメージを与えて、無力化してやってしまうのがいいでしょう。
不毀の軍勢ド=グ団 ×10
不毀の軍勢の一般兵たちです。この集団は、特に簡易量産型ド=グ・ラみたいな外見をしています。
不毀の軍勢といえば何らかの能力に秀でた存在なのですが、彼らは最強の体力を持ち合わせています。つまり、HPが多いのです。
その他のパラメータは標準的ですが、HPが多めで倒すのに少してこずるかもしれません。一気に高ダメージを与えて、さっさと葬ってやりましょう。
●味方NPC
ソフィーヤ・ソフラウリッテ
カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)さんの関係者さん。かつて鉄帝の大乱に翻弄された人でもあります。
いわゆる遠距離術師タイプで、神秘属性の長射程攻撃で皆さんを援護してくれるでしょう。指示などがなければ、主に不毀の軍勢を狙って戦います。
メルティ・メーテリア
ラド・バウ闘士。斬りあい(おはなし)大好きなちょっと変わった人。
ド=グ・ラと似たようなCTタイプなので、ちょっと機嫌が悪いです。向こうはまがい物ですからね。
特に指示などなければ、不毀の軍勢を狙って戦ってくれます。主役は皆さんなのです。
ソフィーヤ、メルティ両名に言えることですが、戦闘不能にはなっても死亡はしません。なので、ある程度自由にさせても問題はないかと思います。(うまく指示を出して使ってやれば、もっと良い戦果を挙げるかもしれません)
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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