シナリオ詳細
聖騎士恋物語
オープニング
●
「実は、恋する乙女からお便りが届いたの」
我が物顔で礼拝堂を占拠している『普通の少女』こと元『聖女』カロル・ルゥーロルゥー (p3n000336)。
「どうして呼ばれたのか聞いても良いかな?」
しんと静まり返った礼拝堂のパイプオルガンに腰掛けるカロルは遂行者であった頃と変わらず自由気ままである。
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は困った様子で肩を竦めた。
随分とまあ、意地の悪い顔をして居るが今日の主役は彼女ではないのだろう。
「出歯亀したくて。女の子ってのはそういうのが好きだからね」
「何だか分かった気がするね、スティアちゃん」
「うん、そうだね、サクラちゃん」
顔を見合わせたサクラ(p3p005004)とスティア。その傍で「?」と言った表情を浮かべていたゴリョウ・クートン(p3p002081)は思い出した。
「あー……」
――俺に友と呼ばせてみろリンツァトルテ・コンフィズリー!
――ゴリョウ、あなたを友として呼ぶならば、一つだけ情けないことを願ってもいいか?
……一つ、保留にした返事があるんだ。それに応える相談に乗って貰っても?
「リンツァトルテか」
リンツァトルテ・コンフィズリー (p3n000104)。セレスタン=サマエルの聖盾と対になったコンフィズリーの聖剣の現所有者である。
正当な血統であるコンフィズリーの跡継ぎの青年は、不遇であった時代から長く後輩として慕ってくれる少女に告白されたのだという。
イル・フロッタ (p3n000094)――本来の名をイルダーナ・ミュラトールという聖騎士の少女だ。
天義ではある種『不正義』な出自を持つ少女である。
ミュラトール家の令嬢は旅人の青年と恋に落ち、本来の婚約者から逃げ出すように駆け落ちをした。
そして生れ落ちたのが一人娘のイルだ。元から体の弱かったミュラトール令嬢は早逝し、ミュラトール家の血を引いたイルが残される。
当然ながら『不正義』とも言える出自である彼女はミュラトール家に受け入れられず、父の姓を名乗って過ごしてきた訳だが。
「ルストの関連で神の国に向かうときに何があったとしてもミュラトールの騎士が戦場にいた事は得になるってイルちゃんは敢てミュラトールの騎士を名乗ってたよね」
「ああ、そっか……貴族として、名を上げておきたいなら戦場に息女が居た方が得だものね」
そんな二人の娘は天義貴族ヴァークライトとロウライトの血族に連なる娘である。
ゴリョウは「寧ろそっちの方がいいんだろう?」と問うた。イルの心境が複雑なのは確かだが、彼女がそれを受け入れたのはリンツァトルテの傍に立ちたいからだろう。
「リンツァトルテは貴族だ。イルが『不正義の出自』なんて言われているなら嫁にも出来ねぇ。
幾ら国が認めようとも未だにそう言う偏見がこの国にはあるんだろう? セレスタン=サマエルも苦労してたようだしな」
「アイツも大変そうではあったわよね。……ん? 不正義な家門の男と、その後輩女子? 待って」
カロルは額に手をやってから「思い出したー!」と声を上げた。
――それはカロルとサマエルが遂行者として健在であった頃の話だ。
薔薇庭園で何時もの如く薔薇を一輪差し出すサマエルにカロルは「おまえってなんで花をくれるのよ」と問うた時のことだ。
「薔薇が好きだろう? カロル」
「ええ、聖女ルゥーロルゥーが好きだったものは好きよ。私が好きだから会う度に一輪の薔薇をくれるの? 口説いてんの?」
「とんでもない。カロルは私を好きになどならないだろう。なるのか?」
「ならないわよ、ドM」
目くじらを立てたカロルに「ははは」と軽やかに笑ってからサマエルは向き合うように座った。
誰が許可をしたと臑を蹴り飛ばせば「そもそも、出会い方が違えば私とカロルは愛し合ったかも知れないな」などと軽口を戦うのだ。
「は?絶対無い」
「ああ、実は言っていて気が狂いそうだった。勿論、無い」
「無いけど、何よ? 恋バナ気分」
「私が天義の騎士の真似事をしているのは知っているだろう」
敢てそう言ったのだろう。男の言葉にカロルは頷いた。サマエルはセレスタン・オリオールの名を持つ天義の騎士だ。
「私の懇意にして居る家門の嫡男がいる。残念ながらかの国ではその存在が認められなかった不正義の家門だ。
異なった正義ではあったが、研ぎ澄まされた信念を有する彼に片思いをして居る一人の少女がいてね、それも出自が何とも皮肉な事で不正義なのだ」
「ふうん、苦労するわね、この国って」
「ああ。だが、想うのだ。もしも、何の柵もなければ彼は彼女の手を取って幸せになるだろうか? その辺りはカロルが得意だろう」
「そいつらをしらないから何も言えないけど、サマエルはそいつらに幸せになって欲しいのね」
サマエルが口元に浮かべたのは困った様子の笑みだった。露程そんなことは思って居ない『つもり』だったのだろう。
「――まあ、そうなのだろうね」
「と、いう話をしたわ。サマエルもリンツァトルテとイルが付き合うことを望んでるからゴリョウも手伝いなさい。
どうせ、リンツァトルテに相談に乗ってくれって言われたんでしょう? 良いじゃ無い、丁度良い」
ぐいぐいと背中を押すカロルにゴリョウは「しかしなあ」とスティアとサクラを見た。
「うん、イルちゃんに聞いたら『イルちゃんがミュラトール家の令嬢なら身分は申し訳ない』って言われたと言っていたよ」
「あー、リンツさんらしい先延ばしというか……絶対、どうやって返事をすれば良いのか分からなくなってるんだね」
少女二人が探測する様子を眺めてからカロルは「イルはミュラトールに挨拶に行くって行っていたわねえ」と頬杖を付いたまま何気なくそう言った。
「じゃあ、其の儘皆で乗り込んで、リンツさんにプロポーズして貰うのは!?」
「そう言う意味だもんね」
少女二人の言葉を聞いてからゴリョウがゆっくりと振り返った。
視線の先にはセララ(p3p000273)とリンツァトルテが立っている。
「……俺は如何すれば良いと思う……」
「うーん、取りあえずドーナツ食べる?」
「……ありがとう」
「ふふ。そろそろリンツァトルテも『だいすき』! って言わなくっちゃね。冒険には恋愛もテーマであるし。
困ってるならお話なら聞くよ。聖剣だって強い思いがあれば答えてくれるし、心を決めちゃおう!」
溌剌とした魔法騎士にリンツァトルテは視線を右往左往為てから「お手柔らかに」と呟いた。
- 聖騎士恋物語完了
- いいわね、おまえら、リンツァトルテって男を嗾けるわよ!
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2024年02月09日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(3人)
リプレイ
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「イルちゃんが恋を自覚してから4年かな? ようやくここまで……って考えると感慨深いね。
でも、最後まで油断は厳禁! だってリンツさんだもんね。こういう時の詰めは甘そう……」
この場で誰よりも『凜なる刃』イル・フロッタ(p3n000094)の恋愛事情を知っているのは『天義の聖女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)だった。
ベアトリーチェ・ラ・レーテの一件で出会った見習い騎士は聖騎士となり、第一線を駆けるまでになった。
随分と大人びたようにも見える彼女の子供染みた恋は恋愛偏差値が最低位置に存在するお相手が事情なのだろう。
「あれって、駄目な男ってやつよね」
クッキーを囓る『普通の少女』カロル・ルゥーロルゥー(p3n000336)は自身が敵対している際によく見た『正義の騎士』リンツァトルテ・コンフィズリー(p3n000104)の顔を思い出す。顔面は悪くなかったが甲斐性で減点、ルスト様は自己肯定感爆上がりだった、などという評定まで用意されている。
「まあ、そうだね」
実にあっさりと認めたのは『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)だった。本当にルンツァトルテ・コンフィズリーという男は自信が無いのだ。
「色々あった……むしろなさすぎて困った事もあったけどついにここまで!
何としてもうまくいって欲しいね。私達も出来るだけの事はしよう!」
拳を固めるサクラに「遂にですか」と頷いたのは『ホワイトウィドウ』コロナ(p3p006487)だった。
「イル様とリンツ様が結ばれるときに立ち会えるとは……。感慨深いものがありますね。
どれだけ、神のお導きに従って助く行いをしようとも、響くことが無かったのですから。今回こそはしっかりサポートさせていただきますよ」
――響いていたのかも知れないが相手が悪かった。コロナは奮闘する乙女の顔を思い出してから、より強く決意をした。
「なーんか心配になって様子を見に来たらこう、なぁ……。
確かにそのまま放置してたら互いに進展が妙な事になりそうだし。仕方ねぇか……裏方、やるか」
それも得意としていると『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が告げればいまいちピンと来ていないような顔をして居た『ひだまりのまもりびと』メイ・カヴァッツァ(p3p010703)がはっと気付いたように顔を上げた。
「メイ、にんげんの恋心ってよくわかんないのですが……。
誰かを特別に思って、誰かに特別に思って貰えるって、きっとすごくすごく幸せなことだと思うですよ」
うんうんと頷いて「恋をする」ということは「誰かの特別」だと気付く。それは何よりも素晴らしい事ではないか。
恋を知らない幼い精霊は瞳を煌めかせ「サポートですね!」と頷いた。
「まぁリンツにゃ相談乗るつっちまったし、サマエルも望んでるってんなら仕方ねぇなぁ!」
「そうよ、サマエルの奴って案外アレで面倒見が良いからね」
世話をされていた側の人間がふんぞり返っているのだから『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)はそうだろうなあと笑った。
「……サマエルさんは彼らの恋を応援してたんだ。きっとセレスタンさんも。
なら私が手伝わない理由はないです。成功後はカロルさん、サマエルさんの話を沢山聞かせてね!」
にっこりと微笑んだ『未来への陽を浴びた花』隠岐奈 朝顔(p3p008750)にカロルは「構わないわよ。面白い話か分かんないけれど」と何かを思い出すように空を見上げた。
幼い子供の様に、何のしがらみもなく過ごしていた。薔薇の花を差し出す彼はカロルにとって何ものにも変えがたい友人であったのだ。
●
「リンツの恋を完璧サポート! 恋愛マスターセララ参上だよ。ボクにまっかせて!」
騎士団詰め所。リンツァトルテは個人的な執務室を宛がわれていた。コンフィズリー卿への謁見ですと顔パスでやってきたのは『魔法騎士』セララ(p3p000273)であった。
楽しげな声音と共に、顔を見せた友人に「セ、セララ」とリンツァトルテが慌てた様に詰め寄った。
「どうしたの?」
「待ってくれ。れ、恋愛……?」
「うん」
「誰の?」
「リンツの」
そっとセララの口を塞いでからリンツァトルテは周囲を見回した。大丈夫、この執務室にはリンツァトルテとセララだ――
「こんにちは」
きょとんとした朝顔に勢い良く仰け反ったリンツァトルテが驚愕に目を見開いている。朝顔の背後から「凄い驚いてるね?」と顔を出したのはスティア。「本当だね」と頷いたのはサクラである。
「み、皆揃って如何したんだ」
「え? ほら、言ったでしょ。きちんとお返事してねって。まだだよね。なんとなーく誤魔化してる」
「出歯亀ってやつよ!」
スティアとカロルにリンツァトルテは頭を抱えた。確かに、堂々たる告白を行なったイルはその後、返事はまたで良いと言ってから戦場に出ていた。
「ご機嫌よう。リンツ様。私からはあまり何かをお伝えすることはないのですが……。
覚えていると喜ばれる記念日というものはあります。イル様のような方はお付き合いを始めた日や結婚記念日、それから誕生日も大事になさるでしょう」
「待ってくれ。話が飛躍していて――」
「大丈夫です。リンツ様の人となりはよく知っています。
朴任務に一生懸命なリンツ様というのも、イル様が惚れた男のまま変わらずいいとは思うのですが。恋は盲目といいますからね……」
頷くコロナにリンツァトルテは誤魔化しきれない現状を察知したようにゴリョウとカイトに助けを求めた。
リンツァトルテが告白をするならばその準備を行なってやるつもりなのである。スティア経由で聞いたイルの好みを教えれば良いのかと当たり前の様に返したカイトにリンツァトルテはゆっくりと後退してから椅子に腰掛けた。
「一体、何から……」
「んー、リンツはイルちゃんをどう思ってる? 自覚して好きっていう気持ちを高めるためだよ。
箇条書きで良いから、イルちゃんの好きなところをいっぱい挙げてみて」
これまで恋愛事とは縁の無かったリンツァトルテ・コンフィズリー。青年はセララからの『難題』に直面して表情を硬くした。
その顔を見て本当に彼は自己肯定感が低く、且つそうした事と無縁であった事に気付く。そもそも、自覚無自覚という段階よりも恋愛に対してのスタンスが『自らの出自故にないものだ』と考えて居るのが問題なのだろうが。
「確認として。リンツァトルテさんは彼女をどう思ってます?
好きな人には完璧な自分を見せて愛されたいのも分かるけど……もし家関係なく共に生きたい程好きなら、有りの儘の貴方を見せてあげて?」
「正直、俺は貴族だ。それもコンフィズリーという家門の。自己の感情や恋愛よりも家を優先するのが……」
朝顔は妙な顔をした。しどろもどろに告げる真面目すぎるきらいのある青年。彼を見ていると知った顔が浮かぶのだ。
(嗚呼、本当に。きちんと伝えてあげたいけれど、これはイルさんが云う事かもしれない。
良いんですよ。打算でしか自分は愛される事はないと思ってても、想い人は弱さすら愛しいから。
……にしても似てますね、セレスタン=サマエルさんと。自己評価低い所とか)
リンツァトルテの父とセレスタンが知り合いだと聞いていたか。幼少期のリンツァトルテはセレスタンとも旧知の仲なのだろうが、コンフィズリーの身の回りにはこうした男しかいないのだろうか。
「確かに払拭されたとは言え、かつて不正義と呼ばれたコンフィズリー。
かたや複雑な家の事情を抱えたミュラトールの結婚。周りから何か言われたりする事はあると思うよ」
リンツァトルテはサクラの顔を見た。ロウライト家の令嬢は家名を名乗ることなくイレギュラーズとして戦って来た精鋭だ。
「偏見は正しいことじゃないけど、間違ってるからって直ぐになくなるものでもないのが現実だ。
でもそんな事いう輩は私が片っ端からぶん殴るから大丈夫! リンツくんもイルちゃんも未熟かも知れない。でも完璧である必要なんてないんだ」
拳を固めてからサクラはにんまりと笑った。どうにもルストにも似たような事を言ったか。あちらは完璧な者を求めていたが故にリンツァトルテとは対照的だが――
「リンツくんだけの力で何とかするんじゃなくて、イルちゃんと一緒に何とかすれば良い。それに私達だっていつでも手伝うよ。
友達の幸せの為に動かない人なんてここにはいないよ。あとは素直に思ってる事を言えばいいだけだと思うよ!」
「す、素直に、か」
どこか困った顔をしたリンツァトルテにスティアがにんまりと笑った。「あんなにイルちゃんが大好きって言ったのになあ」とぐさりと突き刺す。
「イルちゃんって、好きだよとか直接言われるだけでも嬉しいし、リンツさんの事は何だって良いと思うよ。
でもね、多分……、これまでリンツさんの側を離れなかったから、それは感謝を伝えてあげて欲しいかな」
「抱き締めなさいよ」
「あ、いいね。抱き締めて感謝したら良いよ。ふふーん、長年見守ってきた私を信じて!
でも最後は自分の言葉でリンツさんの想いを伝えてあげてね。ずっと待っていたはずだから……」
リンツァトルテはまじまじとスティアを見てから「セララ、少し手伝ってくれ」とがっくりとしながら「考える」とだけ零した。
●
リンツァトルテとゴリョウはさっそく料理を始めた。傍ではメイがお手伝いをして居る。
「ゴリョウ印の食材を提供して気合い入れて話が弾みそうな美味くて華のある弁当を一緒に作り上げてみせらぁ!
――うぉおい! カロルの嬢ちゃん! 食いたいなら別に作るからつまみ食いやめーや!?」
「ん? ああ、これ、おいしい」
からあげをひょいと摘まんだカロルは「サマエルにも摘まみ食いはレディとしてはしたないと言われたわねえ」と呟く。
「そうかそうか」
「……ええ、と」
リンツァトルテの瞳が右往左往としていた。ゴリョウは思い悩む青年を肘で小突いてみる。
「俺と嫁さんの話ではあるんだけどな。基本的に相手の提案に対しては『出来る理由』を先に考えると良いぜ。
『出来ない理由』を考えるとネガい結論に至りがちだからな。イルは良い娘さんだしリンツにとって悪い提案はしねぇ筈だ」
「ああ、だが、良い子だからこそ――」
本当に彼は卑屈な男だ。自信がないのは家門によるものだとは聞いたが、サクラが言う通りに一筋縄では行かぬ関係性にはなるだろう。
不正義と呼ばれたコンフィズリーの当主と、令嬢の駆け落ちの末で生まれたミュラトール家の娘。実にやっかいではある。
「うーん」
自己評価低めなところがなんとも気になると朝顔は困ったような顔をして見せた。リンツァトルテは申し訳なさそうに肩を竦める。
「自分は信じられなくても彼女なら信じられるだろ?
ならまずはそこをちょっとだけ優先すりゃ良い。自分が! とか自分から! とか無理する必要はないのさ」
ゴリョウは安心しろと笑う。セララの瞳がきらりと輝いた。「素直になろうよ」と微笑む。
「あんまり心配するなよ。見る感じファッションはよっぽどガチガチにならなきゃミスらないだろうから。
メンタル面とシチュエーションとかそこら辺の話だろうな。……なんかゴリョウが告白の練習相手やってくれるみたいだし」
ぎぎぎぎと頭を動かしたリンツァトルテに料理を終えたゴリョウが立ち竦んでいた。
「――告白の予行演習の相手役として呼ばれたけど何で俺なん!?
いやまぁ女性相手にやってるのを万が一でもイルに見られたら致命傷だし仕方ねぇ、のか?」
「うんうん。そうだよ。準備ができたら告白台詞を予行練習で言ってみよう。
ゴリョウさんのことをイルちゃんだと思って練習だよ。イルちゃんだよ。イルちゃんなの。ね?」
目の前には細くなったゴリョウと、その化生などを用意したセララが居た。どこがイルなんだと言い掛けたリンツァトルテに「心を込めて」とセララは微笑んだ。
「いや」
「だめだよ。心を込めてね! 聖剣を起動できるぐらい、大好きって気持ちを込めて!
ゴリョウさんが思わずときめくぐらいに好きって気持ちを込めて! イルちゃんだよ! 目の前に居るのは!」
恋に落とさないとと力説するセララにリンツァトルテは無茶振り過ぎると叫びそうにもなった。
ミュラトールの屋敷にやってきたスティアとカロルはいそいそとイルを確保していた。
おしゃれを手伝いながら、時間稼ぎをするのが今回のオーダーだ。練習中の場面に出くわしたら大事件が起こる。
そう、先程の様子をカロルは思い出してから「最高でしょ」と思わず吹き出した。何故か、女装したゴリョウが頭に過る。
コロナは化粧を施しながら「可愛らしいお洋服にしましょう」と提案した。
「グラオ・クローネも近いですし、恋する乙女のコーディネートは今考えていてもいいでしょう。
勝負服は初めて見せるように。一目みてドキッとさせれば勝ちですからね」
「イルちゃんは普段そんなにお化粧してないから自然な感じのさりげないメイクにしておこうね。
これだけでも結構違うからね! うん、可愛い可愛い! とっても似合ってるよ!」
にこにこと笑うサクラは決戦使用だね、と薄い桃色のリップグロスをひいてやった。
「これでリンツさんを誘いに行こうね! ルルちゃんも私もお洒落して見守っておくからね!」
――そう、スティはあくまでもサプライズにしたのだ。イルが何時ものようにリンツァトルテを誘いに行く。
そんな普段通りのやりとりが此処にはある。「先輩、少し時間はあるだろうか」と彼女はどきどきとした様子で呟いた。
「何、拗ねた顔してんのよ」
「え? 恋の成就が近いなぁって考えると嬉しいような、寂しいような変な気持ち……。
取られちゃうような感覚になるのかな? なんだか不思議だね」
「は? 私が居るのに?」
カロルは胸を張った。「お前等纏めて愛してやるわよ」と言い出す不遜な元聖女にスティアは「ルルちゃんの自信をリンツさんに分けてあげてよ」と揶揄うように言った。
●
時がやってきた、リンツァトルテは言ってくるとイレギュラーズへと告げる。
「リンツさん。メイは、メイの大切な人に感謝もだいすきも言えないまま、二度と会えなくなってしまったですよ」
いつだって傍に居てくれると思っていた。それが当たり前だったから――メイは俯いてからぎゅうと服の裾を握った。
「メイにはお家の事とか、建前?とかよくわかんないです。でも。『貴方を想う人』は『貴方にとってどんな人』ですか?」
どうか後悔しないで欲しい。リンツァトルテは頷いた。朝顔は「贈り物をしましょう」と微笑んだ。
「指輪じゃなくても、想い人とお揃いは嬉しいし……自分の事を考え贈ってくれるなら、道端の石すら宝物になるから。
2人には色んなモノを沢山贈り返し合って欲しいなって」
「その、向日葵さんは」
「え? ……ああ、はい。あの人は約束を守ってくれると信じてる。でも……それはきっと死後で、彼との未来なんて無い。
本当は彼が彼のまま転生してと願いたいよ。けど……そんなの無理だって分かってるんだ。
それでも私は約束が叶う時まで、ずっとこの想いを抱えて引きずっていくよ」
この世界は死者の蘇生は出来ない。だからこそ叶わぬ恋なのだと朝顔は知っていた。リンツァトルテは「君に幸あらんことを」と目を伏せる。
「ええと」
「応援してくれたからこそ、だ」
リンツァトルテが柔らかに微笑めば、カイトが「言うな」とその頭をぽんと叩く。
「行けるか? まあ、どう接したら良いか解らないって悩みもまま悪かないが。
たぶんだけど、最終的には『素直で飾らない本心』ってのが大事なんだと思うんだ。俺は。
弁舌で仕事するタイプに言われちゃ説得力も無いだろーが。上手くいくようにおまじないをしといてやるよ」
「有り難う。これで失敗したら笑ってくれ」
ゴリョウの料理があれば胃袋は掴めそうだとリンツァトルテはどこか気が抜けたように笑った。
ピクニックにしよう、弁当は用意しているとリンツァトルテに誘われたイルは困惑していた。
先輩の手料理(※ゴリョウの手料理)まで着いて来たのだ。さて、どうするべきか。料理をするのは乙女の役割ではないかと混乱している。
(……はっ!)
メイはリンツァトルテとイルがぎこちない様子であったならば猫さん達を嗾けると決めて居た。
だが、なんということだろうか。「ああああ!」と叫ぶメイに慌てた様子でカイトが振り返る。猫たちが勢い良く飛び込んでいくのだ。
「待って! 待って、戻って来て! ムードもへったくれもなくなっちゃうです!」
慌てて呼び掛ければ徒党を為した猫たちがぴたりと止まって「え? 駄目?」と言った顔をする。そろそろと猫を回収してから『後学のため』にこっそりと覗くメイは「上手くいきますよね? ね? ね?」ときらきらとした瞳で問うてくる。
「大丈夫大丈夫」
出歯亀隊のスティアとカロルにメイはこくこくと頷いた。小声で応援するサクラに『上手くいったらパーティーだ』と準備をするゴリョウの姿がある。
リンツァトルテは小さく息を吐いてから彼女の名を呼んだ。
「……イル、その」
「はい」
「前に、伝えてくれただろう? あの時、俺はまともに返事を返せていなかったから」
「あっ、その、大丈夫です。私は気持ちを知って頂けていればそれだけで嬉しいので。先輩を困らせたいワケでもないですし。
ただ、ミュラトールの者として先輩に並べ立てたらなあと思ってます。それだけ許して頂ければ!」
慌てた様子で立ち上がったイルをリンツァトルテは見ていた。薄い化粧と可愛らしいワンピース。脳裏にゴリョウ(女装の姿)が浮かんだのは気のせいではない。
「……イル、そんな事を許す必要も無いんだ」
「え、ええと」
「何があったって、俺が不正義の家門だと言われていたって、君は何時だって俺の傍に居てくれただろう。
それだけでも君は俺を助けてくれていたんだ。俺は何時も鈍くて、本当に気持ちを返す事が遅れてしまったのだが――」
リンツァトルテはネックレスをそっと取り出してイルに差し出した。朝顔のアドバイスを聞いて、桃色の石のネックレスを選んだのだ。
その目映さが――彼女の瞳に良く似ていたから。
「これからも、傍に居て欲しい」
「……リンツ!!!!」
がばりと顔を出したセララが声を上げた「もっとちゃんと言って!」と。驚いたイルはぱちりと瞬く。
リンツァトルテは口籠もっていては聖剣も発動できないとの言葉を思い出してから一度心を落ち着かせて――
「君が好きだ」
ただ、その一言だけを吐き出した。喜びに飛び付くイルと「やったあ!」と叫び近寄ってくるスティア。
その様子を眺めてから朝顔は己の胸に手を当ててそっと笑みを浮かべていた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ベアトリーチェ(天義編1)の時からずっと見守って下さり有り難うございました。
リンツァトルテが前を向けたのは、ルスト戦で出会ったイレギュラーズのお陰です。それから、これからの彼等も努力を重ねることでしょう。
アフターコンフィズリーはどうなるでしょうね!
その前に、世界を救わなくては。
GMコメント
リンツァトルテとかいう頭の硬い男は困ったものなのです。そう言う意味合いのノーマルです。戦闘はありません。
●成功条件
リンツァトルテさんの告白を成功させてやって下さい。
●シチュエーション
天義国内です。安全です。大丈夫です。お天気な日です。
それなりに自由に動き回れます。プランニングなども立てて頂いて大丈夫です。
イルを呼び出してお弁当でも持って行って話をしようかと考えて居るようです。リンツァトルテは料理がそれなりに好きです。
また、イルはミュラトール家に居ますので、そちらに訊ねていってイル側の気持ちを聞いて頂いても構いません。
カロルは出歯亀していますので何処へでもついていきます。
●出来る事って?
・リンツァトルテのお悩み相談や応援
・イル側にアクションをかけておしゃれのお手伝いなどなど
・カロルと遂行者達の思い出を話す
・カロルとリンツァトルテとイルの出歯亀をする
・その他、天義国内の何処かしかに行ってみる(NPCを連れて行くことも可能です。内容次第では出来ない可能性もあります)
●NPC
・カロル・ルゥーロルゥー
引っかき回している犯人です。遂行者達との思い出話を口にしながらリンツァトルテとイルの出歯亀をして居ます。
特異運命座標ではありませんが、特異運命座標と同じ力(パンドラ)的なものが体に宿っているため、空中庭園使えそうじゃね?と思い始めた今日この頃ガールです。
好きなものは恋バナ、薔薇、紅茶。好きな顔面はルスト様、イケメン。ノリが軽くて明るいアッパータイプな女の子です。
出歯亀を一緒にしても良いですし、思い出を聞いて頂いても構いません。
・イル・フロッタ
本名はイルダーナ・ミュラトール。人間種と旅人の間に生まれた不正義の娘。出自はOPをご覧下さい。
まあまあ酷い理由でミュラトール家に呼び戻されました。正式にミュラトール家の養女となるようです。
天義編最中にリンツァトルテに対して公開告白(TOP『神の門』)を行なってからお返事待ちをして居ます。
一度シャイネンナハトに声を掛けたら「イルがミュラトール家の人間になれば身分は申し分ない」と濁されました。煮え切らない先輩のことがそれでも好きです。
イルと行動し、デートに備えて準備をして頂いても構いません。
・リンツァトルテ・コンフィズリー
コンフィズリーの聖剣の所有者。セレスタン=サマエル・オリオールの盾の対を手にしておりそれなりに親交があったようです。
騎士団の先輩のオリオール卿がああなったことは残念でなりませんが、彼の心も背負って生きて行くと決意しています。
自己肯定感がめちゃくちゃに低いです。コンフィズリーの不正義と呼ばれた『罪』を背負っていることがその理由です。
今はその罪もなくなり聖騎士として、活躍していますが自らは人に後ろ指を指されて生きてきた為、誰かに愛されることが打算ありきだと考えて居るところがあります。
イルに対しては好意的ですが、今まで素っ気なくしたこともあり、今更どう接したら良いのか分かりません。
皆さんはリンツァトルテに
・デートプラン
・告白の返事の仕方
・どうやって接すれば良いのか
を教えてやって下さい。
※コンフィズリーの不正義、って?
天義きっての名門貴族であったコンフィズリー家が没落した事件です。国内でもその詳細は伏せられていました。
真実といえば、王宮の在り方を怪しんだシリウス・アークライトの存在を危ぶんだ王宮の魔物(アブレウ)はシリウスを暗殺しようとしました。
偽の任務に誘き出され、事が怒らんとしたときに時の当主イェルハルド・フェレス・コンフィズリーは兵を引連れてシリウスを逃がしたのです。
王宮内のスキャンダラスな事項(魔種が内通していることや不正や不正義など)を露見させないために自浄は求めず事を起こすべきでないと判断していたイェルハルドをその場で処刑しました。
それ故に、彼の起こした事件は『相当な不正義である』と囁かれ家門は没落。長らく理由も知らされず不正義の烙印を押されたリンツァトルテは聖騎士の一員でしたが半ば迫害された状態で育ってきたのです。
比較的自由に遊んで頂けるシナリオです。リンツァトルテの背中をどうぞ、押してやって下さい。
宜しくお願い致します。
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