＜グレート・カタストロフ＞遥かなりしは覇竜の山

オープニング

●神託のときが来りて
　天義決戦を以って冠位七罪の内、『色欲』ルクレツィアを除く六体までもがイレギュラーズに敗退した。
　残るルクレツィアも幻想を巡る三つの争いに手痛い一敗を喫し、混沌は多少の安定を得られるようにも思われていた。
　しかし、そんな希望的観測を嘲笑うように遥かな昔、『神託』の観測した『決定付けられた未来』はすぐそこまで迫っていた。
　絶対的破滅、通称『Case-D』の決定的接近により、混沌各地に世界そのものを崩壊に導くシュペル曰くの『バグホール』が頻発したのである。
　神託の到来、即ち破滅的影響は最早不可避のものとなっており、状況が誰の目にも明らかになったという話である。
　更に悪い事に――そして当然と言うべきか、この世界的な混乱に乗じて魔種達も新たな動きを見せていた。
　神託成就の日に向けて、『滅びのアーク』をかき集めんとする彼等は、これまでの七罪のような『縦割り』の仕事ではなく、全世界を相手に同時多発的に活動を強めている。
　それは冠位に率いられ、或る意味でお行儀良く影響を及ぼした事件とは異なり。
　もっと無軌道で、出鱈目で、一つ一つは大掛かりではなく、そしてどうしようもない程、堂々と大胆なものだった。
　それは或る種の勝利への仕上げを謳う彼等の宣戦布告に他なるまい。
　近い未来にこの混沌は滅びるのだ。恐らく、特異運命座標が何も出来ないのだとしたならば。
　出来ないのだと、したならば。
「つまり、気の長い『神託』の無限にも思われた義務猶予（モラトリアム）が尽きた、と。要するに時間切れ、ここから先が正念場ってそういう事だ」
　ローレットのギルドマスター・レオンは、そう居並ぶイレギュラーズへと語る。
　シュペル曰く、世界各地で観測された次元崩壊――『バグホール』って便宜上呼ぶ事にした――は終末（Case-D）接近による破滅的な影響であるらしい。
　これは魔種が直接どうこうして産まれたものではないらしいが、連中からすれば福音みたいなものなのだろう。
「オマエ達が持つ武器である可能性、即ち『空繰パンドラ』に対して魔種連中は『滅びのアーク』を集めていた。これまでは世界各国の『担当』冠位連中が取り仕切り、それぞれの暗躍でその獲得と混沌の混乱を目指していたんだろうが、今度は違う。見て分かる最終局面を前に、連中はこれまでより大規模かつ無軌道な実に堂々たる宣戦布告をしてきたよ」
　そう……バグホールと合わせて、もう世界中で大きな混乱と被害が観測されているのだ。
「俺達に現状で出来る行動はその対症療法しかないが、少しでも連中の目論見を挫かない訳にはいかない。『その先』は俺も、お偉方も考えるだろうから、一先ずは魔種連中を中心とした事件被害を防いでくれ。宜しく頼む」
　対症療法。なんとも不安な言葉ではあるが、そうだとしても対抗策はこの手の中にある。
　それだけは、確かな事実なのだ。

●遥かなる山より
　バザルト・ベンダバール。そう呼ばれる亜竜種の男がいる。
　『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール（p3p010380）の父であり、覇竜の山々を巡り鉱脈を探す活動をしている男だ。
　その功績は覇竜でも知っている者は多く居るが……『山の守護者』とも呼ばれるバザルトは、今この状況でもあちこちの山を巡っている。
　たとえ世界に破滅が迫っていようと人の営みは続く……つまりはそういうことであるらしい。
　しかしながら、今の状況ではあまり遠くの山で何かを見つけても意味がない。
　そこで亜竜集落に比較的近い場所にて仕事をしているようだが……そのバザルトのいる山にバグ・ホールが開いたようなのだ。
　有望な鉄鉱脈が見つかった場所であり、異変がないかバザルトが確認しに行った後の出来事であった。
　バザルトは鉱夫を集め、坑道内に立て籠もっている。幸いにもこういうときの偽装は完璧なので今のところ見つかってはいないようだが……正直、時間の問題ではあるだろう。
「力を貸してほしいっス。敵はアポロトスと終焉獣……でも、皆とならどうにかなるはずっス」

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●坑道へ向かえ
　覇竜の岩山に存在する坑道。良質な鉄鉱石が産出するというその場所は定期的に明かりが灯されており、襲撃があるまでは鉱山として正常に稼働していたことがよく分かる場所だった。
　しかし所々に落ちている道具類は、此処で何かがあったということを明確に示してもいた。
　終焉勢力による襲撃。その魔の手は、こうして覇竜にも伸びているのだ。
「ライオリット殿のパパ上が此処に居るのじゃな」
「そういうことみたいっスね。現時点で死人が出ていないのは幸いっス」
　『メカモスカ』ビスコッティ＝CON＝MOS（p3p010556）に『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール（p3p010380）がそう答える。実際、ライオリットの父であるバザルト・ベンダバールの機転のおかげで死人が出ていないとも言えるだろう。立派な人物であるのは間違いないだろう。
「パパ上の危機とあっては見逃せぬ！　それが他人のであってもじゃ！」
「むさ苦しいオッサン達を助けにいくのか？　やる気が出ないぜ……。さっさと終わらせて、女の子のいる酒場に行こう」
「ツンデレておる場合ではないぞ！　縮こまって助けを待つ奴等もそうじゃろう。ゆくぞー！　モスカ魂を見せてやれ！！」
「モスカ魂持ってるのは今回はビスコッティさんだけじゃないかな！　でもそうだな！」
　ツンデレをビスコッティに怒られた『孤独の王』佐藤・非正規雇用（p3p009377）も早く助けたいという気持ちは本当だ。勿論女の子の居る酒場に行きたいのも本当だし、そこでモテるかどうかは分からないがとにかく一刻も早く解決したいという気持ちは一致している。
「そういえば、ライオリット君の父親ってどういう人物なんだ？　何処に隠れてるとか、合流した後は一緒に戦えるかとか参考になるかもしれない」
「親父は昔、道場で師範をしてたりはしたっスけど覇竜の山を一人でふらつくような人っスから……まぁ変な人っスよ。今回は一人じゃないから引きこもってるだけな気がするっス」
「なるほどなー。それは安心材料だ」
　非正規雇用はライオリットに頷くが、ということは１人であれば戦っていたかもしれないということだから、中々にファンキーだ。
「ライオリットさんのお父さんも、鉱夫さん達も絶対に助け出すよ……！」
「そうだね。とりあえずバザルトさんは戦えるらしいし、それよりは鉱夫の安全確保を優先した方が良さそうだ」
　『【星空の友達】／不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン（p3p000916）と『女子力の高い勇者』赤坂 忍（p3p002493）もそんなことを言い合うが、勿論優先度の問題であって全員を助けるつもりなのは当然のことだ。
　だからこそヨゾラは保護結界を使用し攻撃余波での坑道破壊を防ぐのと同時に、暗視（弱）や広域俯瞰、ハイセンスに鳥のファミリアーを用い周囲把握と索敵をすると同時に人助けセンサーで救出対象の位置を把握できるようにもしていた。
　忍も今回は坑道に魔族が出たって聞いてすっ飛んできたが、戦闘要員として警戒は欠かしていない。いつでも戦えるようにしているし、先程蝙蝠型終焉獣の１体にトドメを刺したばかりだ。
「ああ。やるべきことをしっかりやっていこう」
　中衛に居る『特異運命座標』エーレン・キリエ（p3p009844）も頷きながらエネミーサーチとエコーローケーションを軸にして主に蝙蝠やガノヴァの位置を把握するように索敵しながら慎重に進むようにしていた。超方向感覚を活かして脱出時に道に迷わないようマッピングをする慎重さも、中衛ならではと言えるだろうか？
「そういえば覇竜で鉱山というのは聞いたことがなかったが……そりゃまあ当然あるよな。使えるものはなんでも使わないとこの厳しい土地柄では生活していけないだろうし。そんな厳しい環境でもせめて憂いなく生業を全うできるように、終焉など全力で潰していかねばならん。それがイレギュラーズというものだろう」
「頼りにしてるっス」
　エーレンの言葉にライオリットも頷きながら探索を進めていく。
「とりあえず、俺はこのまま音と臭いで探すっス。なんだかんだ言っても、昔から嗅ぎなれた匂いっスからね」
　他にも鉱山だから有毒ガスに注意する意味もあるが……今のところ問題は無さそうだ。
　しかし、ライオリットはそれだけでは終わらない。なんとこの坑道で採れる主要な鉱石も確認していたのだ。
　パニックルームが物理的にふさがっている可能性を考えてのものだ……掘削が必要になったときに、狙うものが決まっていた方がライオリットのギフトである「エンブレイカブル」で掘りやすくなるからだ。
　隠蔽されて単純にわかりにくい場合に備えて、MASTERも使用できるようにしてきていた。
「ぬおおおおおどーーーけーーー！！！！」
　まあ、歌唱混じりの絶叫（棒読み）で坑道に突っ込み、蝙蝠共の注意を引くことを最優先に動くビスコッティが大分注意を引いてくれているのも蝙蝠終焉獣を引き付ける役に立っている。
「坑道は入り組んでおるじゃろうから、突数を減らせるに越したことはないしのう！」
「言ってる間に早速……！」
　襲ってくる蝙蝠終焉獣に『晴夜の魔法（砲）戦士』マリオン・エイム（p3p010866）が糸切傀儡を放ち、エーレンが仕留める。
　ちなみに今日のマリオンは女性モードで後衛に参加であるが……鉱山の坑道だから松明やカンテラとかで、灯りは灯してると思うけれど、もしかしたら終焉獣やアポロトスが消したり壊したりしちゃってるかも?　と。そう考えカンテラを用意してきていた。
　更に時間の余裕があるなら、カンテラから坑道の消された松明とかに火を移して灯して行くつもりでもあったし、実際１つ２つ消えている明かりもあり、そこを再度マリオンが点灯させていた。
「蝙蝠の終焉獣ってことは何処かで蝙蝠を取り込んだのかな？　まあボクも蝙蝠なんだけど……うん、流石に親しみとか感じないね」
　蝙蝠終焉獣の姿を思い出しながら『盾役』レイテ・コロン（p3p011010）もそう言うが、実際人を襲う終焉獣に人を守るレイテが親しみを感じるはずもない。両者の在り方は真逆なのだから。
「……もし終焉獣のエコロケがボクのエコロケの周波数と同じだったら、発声して聴く周波数変えないと物凄く五月蝿い状況になると思ってたけど……そこは安心だったかな」
　蝙蝠終焉獣の超音波がレイテのエコーロケーションとは違う技であることも関係しているのかもしれないが……あるいは終焉獣とは交わることはないという証であるのかもしれない。
（奴等の超音波、僕等でもきつい……早急に倒して助けに行かないと……！）
　何度かの戦闘を経てヨゾラはそんな考えに到っていたが……つまりはそういうことなのだろう。
「それは兎も角、急いで鉱夫さん達を見つけないと」
　そうしてレイテはエコーロケーションと透視で、索敵や鉱夫達の捜索を担当していた。もし坑道が暗闇でもエコーロケーションで周辺環境は『視える』ものの、映像的な確認が必要な場合もあると考えバイザーの暗視機能も併用していたが……その結果、何人かの反応が一致した。
　周りと比べ一見違和感のない場所……見つけた。パニックルームの扉だ……！

●終焉獣を駆逐せよ
「フン……ガタガタ震えてみっともないな。戦闘は俺達で充分だから、おとなしく隠れていろ」
「ローレット・イレギュラーズ、鳴神抜刀流の霧江詠蓮だ。よく生きて持ちこたえてくれた。佐藤はこう言っているが実際それが一番安全だ。必ず全員生きて返すのでもう少しだけ頑張って気を確かに持っていてくれ」
　そんな非正規雇用とエーレンのコンビ芸もあり大分弛緩した空気が漂っていた。具体的には非正規雇用が後からフォローを貰う芸人枠だと認識されたのだろう……ツンデレが分からずとも芸人は世界共通だ。
「我である！」
　ビスコッティの元気な挨拶も、まとめて１つの漫才の流れであるかのように扱われた……掴みはOKというやつだ。
　そして、こうしているのには１つの理由がある。それは……こちらに急速に向かってきている敵がいるからだ。
　恐らくは蝙蝠終焉獣を使うことでパニックルームの位置を特定したのだろう。ヨゾラのファミリアーが迷いのないその動きをしっかりと確認していた。
「来る……！」
「ガノヴァがいつ来るかが気がかりじゃったが……早速か！」
　ビスコッティの言う通り、こちらにやってくるのは蝙蝠終焉獣、そして亜竜種の男にも似た『アポロトス』ガノヴァの姿。
　SSSガジェット3.0bと彗昴で下準備をしていたライオリットは、軌道カタパルトとDragonsongでバフをもりもりにしていく。
　一手遅れてでも戦闘準備を完璧にしていくのは、仲間がいてこそだ。
（幸いにも早急に何かする必要のある人はいないっス……！）
　これは大事なことだ。何かあれば鉱夫たちを連れて行くつもりだったが、幸いにも緊急の対応が必要な鉱夫はいない……バザルトのおかげだろう。
「こいつらを倒さないと鉱夫たちが安全に脱出できない。手早く倒させてもらうぞ」
　エーレンはそう宣言すると蝙蝠終焉獣の群れへと先んじて接近していく。
　そうして放つ初撃は鳴神抜刀流・衰滅之手引『散華』。敵集団の長所の「要」を一瞬で見抜き、すれ違いざまに斬り抜け戻っていくその一撃は、初撃としては申し分のないものだ。
（超音波攻撃は鉱夫たちにはキツかろう、速やかに殲滅する必要があるな……）
「バザルトさん、よろしくね！」
「任せなぁ！」
　ヨゾラはバザルトにそう声をかけながら星空の泥を放ち、バザルトの豪快な一撃が蝙蝠終焉獣に命中する。
　非正規雇用とエーレンによる統制も効いているのだろう、ヨゾラは鉱夫たちがパニックになっていないのを見ていたが……この調子であれば、不測の事態にはならないだろう。あとはしっかりと守り切るだけだ。
「誰も倒れさせないよ……！」
「うん、その通りだ」
　レイテは名乗り口上を響かせ、盾になるべく前に出ていく。盾役として攻撃を引き受けるのが今日のレイテの役割だが、誰も死なせるつもりなどありはしない。そして幸いなことに、蝙蝠終焉獣はそんなにタフではない。戦況はこちらに非常に有利に進んでいる。
「まずはこの一撃で……！」
　だからこそ、マリオンの殲光砲魔神が何の憂いもなくガノヴァを撃ち抜きかなりのダメージを与えていく。このまま撃てなくなるまで撃ち続けるつもりのマリオンだが、それは忍たちの奮闘のおかげでもあったのは確かだろう。
「とにもかくにも、僕にはH・ブランディッシュがある。思いっきり……ぶっとばす！」
　シュバルツソードを振るう忍のH・ブランディッシュが蝙蝠終焉獣に命中し、ビスコッティのTM-LG2・紋花からぶちまける赤潮が蝙蝠終焉獣たちを引き寄せていく。
「助かったぜ。集めた蠅を叩き落とすのは任せろ」
　そうして非正規雇用の八岐大蛇が放たれれば、ライオリットが摧嶽を放ちトドメを刺す。残ったガノヴァにもエーレンの鳴神抜刀流・太刀之事始『一閃』がトドメを刺すが……まあ結局のところ、鉱夫たちの速やかな救出とケア策を徹底できていた時点で、この戦いに負けは無かったと言えるだろう。
「いやあ、おめぇさんたちのおかげで助かった！　ライオリットも……立派になったもんだ！　ハハハハハ！」
「親父も相変わらずっスね……」
　言いながらもライオリットもバザルトも嬉しそうで、鉱夫たちも助かった事実に歓声をあげているしビスコッティも混ざって歓声をあげていた。
「戦闘やバグホールの余波で坑道が崩落したりするかもだし、敵を倒しても坑道を出るまで油断は禁物だね」
「うん、バザルトさん達連れて脱出し終わるまで気は抜かないよ」
　マリオンとヨゾラもそう囁き合うが、実際に帰るまでが戦いだ。此処で気を抜いて怪我人が出た……ということなど、あってはならないのだ。
「さあ、避難誘導するよ！　落ち着いて行動しよう！」
　レイテも先導するように鉱夫たちを連れて歩くが、ここで導入に消えた明かりを再点灯してきたのも活きてくる。
　やはり人は暗い環境に不安を抱くものだ……それを修復できたのは、速やかな避難誘導の助けになっていた。
　そうして無事に外に出ると、その眩しさにエーレンは眼を細めて。
「ふざけやがって！　お前らのような腰抜けが、俺より飲めるわけがないだろ！！　最初に潰れたヤツの奢りな！！」
「よーし、言ったな！　飲むぞ！」
　非正規雇用が元気になった鉱夫たちと飲む約束をしていた。なお、非正規雇用の奢りになったらしい。
　あと何故か全裸だったので捕まった。こんな世の中でも平和な光景を作り出せるのは……ある意味で、得難い才能なのだろう。
　願わくば、そんな日々が続くことを祈るばかりである。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました！