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シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>たとえ恨まれ続けるのだとしても

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 神の国は潰えた。
 王国は崩壊し、塗り替えられた日常は舞い戻る。
 遂行者達の墓はサン・サヴァラン大聖堂に作られたらしい。
「――」
 シンシア(p3n000249)は大聖堂の外観をぼんやりと眺めていた。
 イレギュラーズでもあるのだから、やろうと思えば中に入って墓参りぐらいは出来るのだろう。
 それでも不思議と入ろうという気にはなれなかった。
 シンシアが出合った遂行者は――眠りに付くまでを見届けた遂行者は、もう1人の自分とでもいうべき相手だった。
(私と『貴女』は全くの別の人格だった。
 ……うん、貴女の考えたことも、やりきったことも分かる。
 気持ちはよく分かる――でも、違う人格だった)
 だから、お墓にお参りしても不思議ではないのだろう。
 それでも、やっぱりやる気はなかった。
「……だって、私はまだ、貴女のお墓の前でいうべき言葉を持たないから」
 自らの罪と業を背負い、その全てを終わらせて散っていったもう1人の自分。
 パンドラの加護を得ることが無ければ、そうなっていたであろう私自身。
「――私は、自分の罪と向き合い終わってない。
 お姉様にいくら恨まれていても、どこかで仕方のないことだと思ってた。
 でもきっと、それじゃ駄目なんだ。
 私の罪を一番近くで見ていた人と向き合わないで、どうやって向き合うんだろう」
 空中庭園に呼ばれ、結果的にアドラステイアから離脱した。
 血のつながりはなくても、妹として可愛がっていた相手。
 大切な家族のような相手が、根本から敵になったら――それは裏切りだと思ってもおかしくない。
 その上、そんな『私』が事もあろうに親代わりの『ティーチャー』にトドメを刺したとなれば。
「……その恨みは、きっと正当だ。それでも向き合わない理由になんて、しちゃダメだった」


 アロン聖堂――そこはアドラステイア攻略戦の最中に1つの激闘が繰り広げられた聖堂だ。
 聖別と名付けられた聖獣実験の総責任者『ティーチャー』アメリの上層における一大拠点。
 シンシアは聖別対象となる人物を勧誘する実行部隊『宣教師』に属していた。
『勧誘、順応、教化(教育)、選別、投薬』という5段階による入念な洗脳。
 子供達は、聖銃士となるか、喜んで聖獣となり貌の無い天使へと変貌していった。
 シンシアだってそうだ。イレギュラーズとならなければ――或いは、それ以前からある程度の教育を受けていなければ。
 今頃、貌の無い天使となって戦場に散っただろう。
 そんな聖別実験も『ティーチャー』アメリの死により潰えた。
 アロン聖堂もアメリ時代の象徴と呼ぶべき多くの調度品は取り除かれ、質素な建物となっている。
 今もなおアロン聖堂に暮らすのは孤児となってしまった聖別の関係者たちだ。
 聖騎士団や司祭たちにより、俗世への復帰を促されている物の、段階を踏んで築かれた妄信は剥がれるのも時間がかかる。
「何をしに来たの……メリッサ」
 今にも噛みつかんばかりに睨む少女――ファウスティーナへと、シンシアは正面から向き合っていた。
「姉様。今度こそ、姉様と話がしたいの」
 何も、考えなかった。
 ファウスティーナの後ろにいる見知ったいくつかの顔が、固唾をのんでこちらを見ている。
「私を恨んでるんだよね。恨んでくれてもいいんだ。
 それは貴女の当然の権利だ。私が、先生にトドメを刺したから。
 姉様……何をしたい? 私に、どうなってほしいのか教えてほしい。
 私は姉様と一緒に居ることの出来て幸せだった私を知っている。
 友人と仲間たちと、彼女(わたし)の死を見届けた。
 それで思ったんだ――恨まれてもいいから、向き合いたいって」
「――じゃあ、死んでよ」
「それは、出来ないよ……だって、私『達』は、沢山の人を殺した。
 姉様が、私を恨んでいるように、私『達』を恨んでいる人はたくさんいる。
 それなのに、私一人が勝手に責任を取って死んで、その人たち全員にお詫びできるはずがない。
 ――だから、死ぬことはできないけど、死ぬ覚悟で世界の滅びに立ち向かおうとは思ってるよ」
 只管、ただ真っすぐにシンシアは愛しかった人を見た。
 目を瞠る彼女は歯ぎしりをしながら舌を打つ。
「……姉様、私『達』はたくさんの人を殺した。
 その責任は負わなきゃいけない。償わなきゃいけない。
 それは死なんて――そんな安易な手段で、叶えられるほど軽くないんだ」
「……それでも! 私は貴女を許さない! 先生を殺した! 私達を裏切って、イレギュラーズになって!」
「うん……そうだよね。だから――その責任を取りに来たんだ。
 それは私が勝手に決めて償った気になるものじゃないはずだから」
「それなら――」
 深い沈黙の後、ファウスティーナが声をあげる。
 その中身を聞くよりも前に、後ろから声を聞いた。
「なんてことでしょう。さっきから聞いていれば、随分と悲しいことね!
 そんなに憎しみあい、喧嘩をするのなら――わたくしが仲直りをさせてあげましょうか?」
 あぁ――なんて耳馴染みの良い声だろう。
 懐かしくて表情を緩めることができたのなら、どれだけ良かっただろう。
「誰!!」
 振り返りざま、剣を抜いた。
「ふふふふ! その顔、この身体に覚えがあるのではなくて?」
 弾かれるように、眼前にあった光の槍はとんでもなく重かった。
「――誰か! 私の代わりに聖騎士団の処に行って!」
 なんとか反撃の剣を打ちながら、シンシアは構えなおす。
「ふふふふ、それで、結局、この身体って何者なの?」
「……せん、せ……」
「いいや違う! 先生なはずがない。先生は、私が殺した!」
 震えるファウスティーナの声を掻き消すように、シンシアは声をあげた。
「ふふふふ! なるほどなるほど。この身体はこの地で討たれた何某かのものなのね!」
 恐るべきほどに嫣然と、その存在は笑っている。
 ファウスティーナが息を呑む。
「マーガレット、ジェーダ! 皆を連れて下がって!」
 シンシアはそう声をあげるので精いっぱいだった。
「さぁて――せっかくだから、お前たち全員、この子達の下で仲直りなさいな!」
 パチンとソレが指を鳴らす。
 ぞろぞろと姿を見せたのは、プルプルとしたスライム上の何か。
(あの感じ……もしかして、プーレルジールでローレットの皆が戦ったっていう寄生型終焉獣……?)
 その見た目はつい最近、終焉勢力の動きを知って事前情報を入れておきたくて確認した寄生型の終焉獣に違いなかった。
「初めまして、世界の無駄な足掻きの子供達。私はお前達の分類でいう所の『アポロトス』。
 終わりは遁れざる者よ。大人しく受け入れ、終焉獣の下に眠りなさい」
 うすら笑う女――アポロトスが少しだけ後ろに下がり、寄生型終焉獣たちが前に出てくる。
 守りは得意な自信があった。
 それでも、目の前の怪物を相手取りながら、後ろの子たちを守り切れるかは難しいだろう。
(……せめて、皆が来るまで――耐えないと)
 後を任せられる友人や仲間たちを思いながら、シンシアは天に剣を掲げた。
 決死の覚悟を乗せた宣誓の光は終焉の獣たちの注意を引くには充分だろう。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 さっそく始めましょう。

●オーダー
【1】『アポロトス』アメリの撃破
【2】可能な限りの孤児たちの無事

●フィールドデータ
 アロン聖堂と呼ばれるアドラステイア上層の一角です。
 アドラステイアの最終決戦ではイレギュラーズとアメリによる激闘が繰り広げられました。

 現在は多くの宗教的な調度品が取り除かれた質素な建造物です。
 普段は『聖別』関係者を始めとする孤児たちの孤児院となっています。

●リプレイ開始時初期位置

聖堂入り口

イレギュラーズ

敵陣営

シンシア

ファウスティーナ

その他孤児

●エネミーデータ
・『アポロトス』アメリ
 額に角を生やし、漆黒の六翼を背に乗せた修道女を思わせる女。
 深い紅色の髪は腰ほど長く、同色の宝玉を思わせる瞳は昏い輝きを放ちます。
 その手には光の束を槍のようにして握っています。

 姿かたちは『ティーチャー』アメリと呼ばれる故人を彷彿とさせます。
 光の槍による近接戦闘とそれを無数に分離して射出する遠距離戦闘を行ないます。

・寄生型終焉獣×14
 スライムのような姿をした終焉獣です。
 プーレルジールにて見られた人などに寄生する終焉獣です。
 取り憑かれた人間は戦力が向上し、狂気に駆られているかのようにも見えます。

 本来は16体でしたがリプレイ開始時点で2体ほどシンシアが撃破済みです。

 リプレイ開始時はシンシアの周囲に群がっています。
 判定的には【怒り】によりシンシアにヘイトを向けさせられている形です。

 ただし、怒りが何らかの理由により剥がれると孤児たちに向かって動き出します。
 孤児たちに触れると寄生される可能性があります。

●NPCデータ
・『元宣教師』ファウスティーナ
 10代後半から20代前半、シトリンのような淡い黄色の髪が特徴な女性。
 武器はシトリンの装飾に彩られたマスケット銃です。

『恨んでいる』と公言しているシンシアに守られている状況に葛藤しています。
 心のどこかで助けたい気持ちがありつつも、確かに存在する憎悪に銃口を向ける手が緩んでいる状況です。

 宣教師と呼ばれるアドラステイアの実験部隊に属していました。
 恩師である『ティーチャー』アメリに絶大な忠誠を誓っていました。
 アドラステイア崩壊後は孤児院に変わったアロン聖堂にて孤児となっています。

 アドラステイア時代のシンシアはお姉様と慕っていました。現在は疎遠。
 理由はシンシアがアドレステイアの聖銃士からイレギュラーズになったこと。
 イレギュラーズになってアドラステイア崩壊を手助けしたこと。
 なにより共通の恩師であり、『先生』と呼んでいたティーチャーにとどめを刺したことから来るものです。
 義姉妹の契りを結ぶほどの愛情がひっくり返ったことによる憎悪は未だ相当なものです。

・『元宣教師』マーガレット
 ピンク色、より正確にはヒナギク色の髪の少女。年頃は10代半ばの良きお姉さん。
 宣教師と呼ばれるアドラステイアの実験部隊に属していました。
 ファウスティーナに比べるとかなり現実的。
 今回の勧誘にもかなり懐疑的なようで、孤児たちを纏めて下がっています。

 ヒナギク色の宝玉の嵌めこまれた手甲と脚甲による戦闘もできます。
 とはいえ、イレギュラーズの皆さんやシンシア、ファウスティーナに比べると格落ちします。
 寄生型終焉獣との戦闘になればある程度抵抗しつつも寄生されてしまうでしょう。

・『元宣教師』ジャーダ
 10代前半の翡翠の髪をした少女。
 宣教師と呼ばれるアドラステイアの実験部隊に属していました。
 幼いがゆえに環境への順応が速く、アドラステイア離脱後に環境に甘えてちょっぴり太りました。
 マーガレットと共に下がっています。

 翡翠の宝玉を先端に嵌めこんだ杖を武器とするヒーラーです。
 攻撃手段に乏しく、イレギュラーズの皆さんやシンシア、ファウスティーナに比べると格落ちします。
 寄生型終焉獣との戦闘になれば寄生されてしまうでしょう。

・孤児たち×10
 アドラステイアにおける聖獣実験『聖別』の被験者となった少年少女達。
 戦闘能力もないため寄生型終焉獣に襲われれば瞬く間に寄生されます。

●友軍データ
・『紫水の誠剣』シンシア
 アドラステイアの聖銃士を出身とするイレギュラーズです。
 天義編で自分のIFと対峙、その結末を見届けました。
 自分の犯した罪、犯しえた罪と向き合い、改めて覚悟を決めました。

 イレギュラーズと同等程度の実力を持ちます。
 名乗り口上による怒り付与が可能な反タンク。

 リプレイ開始時点で既に戦闘が開始され損耗しています。
 戦力としても利用する場合は回復しておくほうが無難でしょう。

 ●【寄生】の解除
 寄生型終焉獣の寄生は対象者を不殺で倒した上で、『死せる星のエイドス』を使用することで『確実・安全』に解き放つことが出来ます。
 また、該当アイテムがない場合であっても『願う星のアレーティア』を所持していれば確率に応じて寄生をキャンセル可能です。
 ただし、アレーティアはエイドスほど確実ではない為、より強く願うことが必要となります。

 解き放つことが出来なかった場合は『滅びのアークが体内に残った状態』で対象者は深い眠りにつきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <グレート・カタストロフ>たとえ恨まれ続けるのだとしても完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年02月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
シラス(p3p004421)
超える者
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

サポートNPC一覧(1人)

シンシア(p3n000249)
紫水の誠剣

リプレイ


 質素な調度品や宗教的な色の取り除かれた静謐なる聖堂に陽射しが差している。
 温かな陽光に照らされながら、『紫水の誠剣』シンシア(p3n000249)は周囲を警戒し続けていた。
(――これで、2体目!)
 飛び込んできたスライム型の終焉獣に反撃の剣を払い、追撃に剣を振り下ろせばその個体が塵に還って消える。
(あと、14体……それに)
 視線の先、アポロトスと呼ぶらしい敵はこちらを余裕ありげに見ている。
(……大丈夫、きっと皆は来てくれるはずだから)
 握る剣に光を纏い振えば、終焉獣たちの意識は再びシンシアに集中するだろう。
 シンシアから見て戦場の奥。
 開け放たれたままの聖堂の扉に、影の姿が見えた。
 刹那、終焉獣たちが一斉に何かに絡まったように動きを止めた。
「間一髪だな……シンシアもまだ持ちこたえているみたいだ」
 それは『竜剣』シラス(p3p004421)の放った不可視たる魔力糸。
「――あら、お邪魔虫のようね」
 先制のエビルストリングにくるりと身を翻した女――アポロトスがシラスの方を見る。
「この輝かんばかりの気配……そう、さてはお前達がローレットかしら?」
「そういうことだ。ここからはこっちの番だぜ」
 当然の如く、シラスの手札はただの一度で終わるようなものではない。
 振るう魔力糸の連鎖が終焉獣達の全てを絡め取る感覚を確かに感じながら告げれば、アポロトスが笑みを作った。
「あらあら」
 ゆらりと女がその手に光を帯びる。
 だがそれがシラスへと突き立つことはなかった。
 放たれた血のナイフが戦場を駆け、アポロトスに突き立つ寸前、盾のように再構築された光がそれを阻む。
(墓を用意したんですよね、オルタンシアのも……当人はどうにも元気ですけどね……!)
 それはその身に数多の術式を纏う『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が放つ宣戦布告。
「死血の魔女と踊ってもらいますよアポロトスとやら……
 貴方の役割と成り立ち、目的までダンスついでに聞けたら嬉しいのですが」
「ダンスの招待というには随分と荒っぽいのではなくって?」
 刹那、飛び込んできたアポロトスの光の槍を受け止めるままに、マリエッタは足元から血の槍を一斉に射出して反撃を穿つ。
「死者の肉体を利用したのか、再現しているのか、それとも……いい加減、謎も突き止めたいですね……!」
「わたくしはこの地に残っていた残滓を取り込んで形を成しただけ。この身体が何某の者だなんて、此方も知りたいわ?」
 姿を認めたその女に、『ただの女』小金井・正純(p3p008000)の弓を握る手に力が入る。
(覚悟を決めて向き合おうとしているこの所に横槍とは、はた迷惑な。それで、またアメリですか。
 ……本当に、どこまでもシンシアさんたちの足を引っ張ろうとしてくるのか)
 弓を引き絞り、魔弾を作り出す。
「シンシアさん、もう少し頑張って! すぐそこに行くから! 引きつけたままお願い!!」
「正純さん! 分かった――大丈夫。任せて!」
 応じる声を聞きながら、正純は矢を放つ。
 数多の矢が戦場を奔り、シンシアの周囲へと降り注ぐ。
 それはスライム達のみを的確に撃ち抜き、その宿命に更なる不吉なる未来を刻み付けていく。
「ふふん、状況は分かったよ。
 シンシアさんと子供たちのピンチなのね。
 それなら──」
 続けざま、動いたのは『無尽虎爪』ソア(p3p007025)だった。
 その身に纏う魔力はグラヴィティ・ゲート。
「あなた達はこっち!」
 刹那、雷光が走り、雷鳴は後を行く。
 降り注ぐ稲妻は無数の如く、スライム擬きの終焉獣を打ち据えるには充分すぎる。
 撃ち据えたスライム達が弾き出されるようにしてイレギュラーズの近くまで飛んでくる。
「まったく、よくよく事件に巻き込まれる方ですわね」
「――ヴァレーリヤさん」
 顔を上げたシンシアの表情が綻ぶのを見た『願いの星』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は眼前のスライムを殴りつけた。
「迎えに来て差し上げましたわよ!」
「うん、ありがとう」
「正純も言ってましたが、もう少し頑張れますわね!?」
「うん、大丈夫。皆が来てくれたなら」
「その息ですわ!」
 自分へ向かってくるスライムを斬り返しながら答えたシンシアに頷いて、ヴァレーリヤは手をかざす。
「主の御手は我が前にあり。煙は吹き払われ、蝋は炎の前に溶け落ちる――どっせえーーい!」
 メイスへと炎を纏うまま、ヴァレーリヤはシンシアの反撃したばかりのスライムめがけてそれを振り下ろす。
 炸裂と同時、小さな炎の柱が燃え上がった。
「寄生型、か。面倒な相手ではあるが、対処の仕方は、プレールジールでよくわかっている。
 犠牲者は出さない。アポロトスとやらが居ようとも、変わらない」
 静かに敵を見つめ告げるまま『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は戦場を奔り抜ける。
 暗い色合いの金糸の髪をガラス越しに差す陽射しに反射させながら飛び込んだまま、シンシアの周囲へと飛び込んだ。
 黒金絲雀に魔力を籠め、構築した蒼い魔力の爪を振るえば斬撃がスライム型の終焉獣たちに数多の傷を刻み付けていく。
 日差し除けに桜色の傘を広げるまま入ってきた『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は、ちらりと戦場の奥を見やる。
(怖がってる子達を助ける……元宣教師の子達も……)
 シンシアよりもさらに億、そこでひと固まりになっている子供達がそれだろう。
「……行くよ」
 ふわりと桜色の傘を広げて跳躍、ふわふわと移動する最中に影が残る。
 影は一人でにクラゲの形を成して、堕天の宝冠を戦場に齎した。
 輝く黒き光はスライム達の動きを封じ込め、それらを呪っていく。
「シンシア 良ク耐エタ」
 炸裂する範囲攻撃の連鎖を突っ切り『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)はシンシアの傍まで辿り着いていた。
「……皆さんが来てくれるって、信じてたから」
 そう笑う少女の身体には少なくない傷が見えている。
 フリークライは少女に向けて術式を行使する。
 穢れなき無償の愛が傷ついた身体を強烈に癒すと共に、神の加護の如く彼女の身体を包みこむ。
「ありがとうございます……これなら、もっともっと耐えられそう」
「ソレナラ 良シ」
 応じるフリークライはちらりとシンシアの後ろを見た。


 イレギュラーズの戦いは順調そのものと言えた。
 シンシアの周囲へ行こうとする寄生型終焉獣たちはシラスや正純を始めとする攻撃で調子を崩している。
 そこへソアの雷霆による引き剥がしが入ったことは更に大きい。
「あはっ、亀さんみたいだねえ」
 ノロノロと動き出すスライム達の様子を見やり、ソアは再び雷雲を呼ぶ。
 再び降り注ぐ雷霆の雨がせっかく稼いだスライム達の距離を再びこちら側に引き寄せる。
 ニヤリと笑みを浮かべるまま、虎は獲物を喰らうべく動き出す。
 弾き飛ばされた結果、近づいてきたスライムの一体へと炸裂する自慢の爪。
 乱れ咲く斬閃がスライムを斬りつくせば瞬く間に滅びのアークに還っていった。
 ソアはその終わり、事ここに至ってなお躊躇する様子を見せるファウスティーナを見た。
「シンシアさんはずっと一生懸命だよ。
 あなた達のことが大切じゃないならこんな戦い方しない。
 どうか向き合ってあげて欲しいな、お願い」
「……それは」
 ぎゅっと銃を握る手に力が入ったように見えた。
 ヴァレーリヤがちらりと背後を見れば、そこには躊躇っている様子のファウスティーナの姿がある。
「……何をモタモタしていますの! 放っておいたら、シンシアも子供達も殺されてしまいますわよ!
 貴女も、シンシアも、一緒に暮らす家族のために、幸せに生きて欲しいから銃を取ったはずでしょう!?」
「幸せ、に……私は……でも、あの子は私達を裏切って――」
「シンシアだって、貴女の大切な人を殺したくて裏切ったわけではないと、本当は分かっているのではありませんの!?」
「分からない……分からないの……」
「シンシアはどうですの!」
 渾身の力を籠めて叩きこむメイスを握る手に力がこもるのは、その様子がもどかしいからだ。
「私も、姉様と一緒ならに生きていれるのなら、それが良かったよ。
 でも……この世界の神様が知らないのが、私を呼び出したんだ。
 気づいたら呼ばれてて、それで恨まれるのなら……もうどうしようもないよ。
 先生は……そうしないと、皆を守れないって分かったから」
 押し寄せるスライムを斬り降ろしながらシンシアが答える。
「こう言ってますわよ!?」
 答えは、まだない。
「何があっても…絶対助ける…怖いかも知れないけど…僕の側から離れないで…ね…」
 戦場の奥へと辿り着いたレインは子供達へと声をかけた。
 応じる子供達に背中を向け、桜色の傘を閉じて天井に向けた。
「…チェインライトニング…」
 放たれた鎖状の雷は戦場を迸る。
 電撃が音を立て、蛇のように蛇行した鎖状の雷は一帯のスライムに炸裂。
 刹那、雷光は戦場を白く染め上げた。
 閃光を伴う雷霆はクラゲのようにふわりと浮かび上がり、触手でもって檻を作り出す。
「どうやら、あれで最後のよう、だ」
 エクスマリアは寄生型終焉獣の生き残りへ視線を向けるままに跳び出した。
 一気に肉薄するままに、その手に魔力の剣を作り出す。
 踏み込みの勢いに任せて振り抜いた横薙ぎの一閃より始まるブルーフェイクEX。
 小柄な体躯を駆使してより速く、紡がれる蒼の軌跡が最期の一匹を完全に消し飛ばす。
「死体寄生トイウヨリハ滅ビノ記憶トシテ故人ノ姿デアロウカ。
 我 墓守。ソノ姿偶々得タコト君ノ罪デハナケレドモ。死者 姿 利用許サズ」
 レンゲの口づけを受けたフリークライは改めてアポロトスを見やり推測を口に出す。
 全身から溢れ出す夥しい量の滅びのアークは『人外』の証明だ。
「――ふ、ふふふふ。面白いことをいうわ! お前達はどちらにせよ滅びるというのに。
 何をどう使おうと別に良いのではなくて!」
 背後で、ファウスティーナが息を呑んだ気配を感じ、フリークライは術式を展開した。
 それは機械仕掛けの神による救済的解決。
 辻褄などなくとも仲間たちの受けた傷を瞬く間に癒し切る。
「勝手に終わってろよ、お前らと心中する義理なんてあるわけないだろ」
 極限の集中のなか短く告げ、シラスは手を寄生型終焉獣の方へ翳す。
 生成された無数の光球が一斉に炸裂し、聖堂を強烈な光で照らしつける。
 狙いの絞った光は蛍火のように一瞬のこと。
 またたきのような連鎖はいくつも連なり、その都度どうしようもないほどに終焉獣を消し飛ばしていく。
 弾くように間合いを開かんとするアポロトスを追うマリエッタの手には赤の光。
「ちぃ、鬱陶しい魔女ね――その槍、わざとわたくしに合わせてるわね!?」
「えぇ、無限光の名を関した、私の新しい血の魔術ですのでね」
 鮮血を思わす赤い光は新たなる血の魔術。
 至近距離で叩き込む血の光が無限の光となってアポロトスの身体に幾つもの傷を作り出す。
「シンシアさん大丈夫? 助けに来たよ。
 あのアメリを名乗ってるやつを退けて、とりあえずこの場を乗り切ろう。
 後ろの子達も、とりあえずそれでいいよね?
 シンシアさんよりもこっちの方が恨んでるかもだけど、今は喧嘩できる余裕ないから」
 続け、正純は視線を奥に向けた。
 ファウスティーナからの答えはないが、その更に後ろの子供達は仕切りに頷いている。
「……ありがとう、正純さん」
「気にしないで……行こうか」
 笑みをこぼして、正純は残りの終焉獣を仕留めるべく矢を放つ。


 塵のようになって、滅びのアークがとけていく。
 霧散したアークの出所は寄生型寄生獣達。
 残るアポロトスはイレギュラーズの攻勢により絡め取られている。
「それで、アメリを名乗るお前は何? この都市で、あの子、アドレの家でなんのつもり?」
 正純は静かにアポロトスへと矢を向けた。
「なにって――わたくしはアポロトス。終焉の使徒以外の何物でもないわ。
 この都市? よく分からないけれど――滅びは遁れざる者よ?
 どうせ全て滅ぼすのに、何をしようと勝手ではなくて?」
「――そう。それなら私も、ここでお前を完膚無きまでにすり潰す」
 正純は静かに弦を弾いた。
 それは魔弾ではなく、微かに響く夜明けの音色。
 頼りなく光る星々の呪い。
 舌を打ったアポロトスめがけ放つ星光の一矢がその身体を貫き、滅びのアークが溢れ出す。
 ソアはそんなアポロトスめがけて飛び込んだ。
 咄嗟にソアの方を向いてきたアポロトスがそれを受け止める。
 跳躍から繰り出す強襲は動き出す雷の始まり。
「あなた達はどうしてそんなに世界を滅ぼしたいのかな」
「滅びは遁れざるものよ。わたくしからしたら、どうしてそうも抗うのか、理解できないわ」
「……分かってたけど、やっぱり理解できないや」
 そのまま、ソアは身体のバネを利用して一気に攻めたてる。
 尽きる事無き虎の爪がアポロトスの身体を散々に切り刻み、大量の滅びのアークを流出させる。
 絶対的な連撃の切れ味はアポロトスの身体にどうしようもない致命傷を与えていた。
「さて、ようやくですわね!」
 ヴァレーリヤは再び炎壁を構築すると、アポロトスめがけて飛び込んでいく。
 轟々と燃え盛るメイスの炎は目の前の敵を確実に打ち倒すべく。
「子供達のためにも、貴女には消えて貰います! ――どっせえーーい!!」
「――なんて馬鹿力かしら!」
 腹部へとめり込み、滅びのアークに変えたメイスの一撃に表情を歪めたアポロトスが体勢を崩す。
「せっかくです、もう一発、喰らって行きなさい!」
 そのまま、力任せにもう一度。
 ありえない軌道を描いたメイスがアポロトスの身体を削り、滅びのアークが霧散する。
「お前の元になった誰かしらについては、よく知らない、が……
 今此処に居るお前は、酷く不愉快で、有害な存在、だ」
 続くまま、エクスマリアはアポロトスを見た。
 藍方石の如き瞳に映る人ならざる亡霊にも似つかぬ紛い物。
 空間が捻じれ、構築された魔空間の内側で串刺しに貫いて見せる。
「滅びに抗うなんて……どちらが有害なのかしら」
「亡霊以下の紛い物は、疾く消えるが、いい」
 小さな呟きに耳を貸さず、エクスマリアはその手に魔力を帯びる。
 黒金絲雀の手袋を触媒に作り出すはアウイナイトにも似た深い蒼で作られた蒼剣。
 其が描くは栄光の終わり、破滅閃く月光の剣。
 天運に味方される連閃は蒼の軌跡を描いて幾重も重なり、死に体のアポロトスへと更なる罅を付け加えていく。
「…あんまり…この子達の気持ちを…乱させないで…
 この世界のものじゃないから…この世界のものに擬態してるんだろうけど…
 誰も食べさせない…殺させないよ…」
 戦場を迸る数多の光の反射を抑えるように傘を開いたレインは子供達を隠すように身を躍らせる。
 ふわりと浮かび上がる半透明のクラゲはふわふわと揺蕩うままに優しい光を放つ。
 心身を癒す光と音が戦場を包み込み、コーパス・C・キャロルが響き渡る。
「ファウティーナ 自ラノ心 従エ。
 憎ム良シ。助ケタイ良シ。
 ドチラモ君ノ心。ドチラモ大切。
 シンシア 助ケネバ 君 憎ムコトスラデキナクナル。
 憎ム為助ケル。ソウイウ道モ在ル」
 フリークライはアポロトスと視線を合わせたまま、背後に感じる視線へと声をかけた。
「私、は……そうだ。私は、先生を愛していた。
 いつも、私を見てくれたあの人を殺すなんて、そんなの……でも!」
 何かを口ごもるように言った直後、銃声が響いた。
 放たれた銃弾はフリークライの背後から真っすぐに伸びてアポロトスを撃ち抜いた。
「は――今更、こんなものが何になるのかしら!」
「――いいや、十分だ。無駄かどうかはその身で確かめてみな」
 嘲笑うアポロトスの声を塞ぐようにシラスは駆ける。
 効かないといえど、注意が逸れた。
 その隙はシラスが動くには十分すぎる。
(人間並みの知性を備えていることが逆に悍ましいな。
 言葉は通じるが、話はまるで通じる気がしない……そういう意味では魔種よりも異質だぜ)
 刹那の内に、その意識は零に至る。
 目を瞠るようなアポロトスの動きが酷く遅く見えた。
 奴が手に光を束ねる――それよりも速く握りしめた魔力の剣。
 圧倒的な手数から撃ちだされる魔力の斬撃がアポロトスの身体を大きく斬り裂いた。
 半身が滅びのアークに代わり散っていく。
「この様子では持ち込んだこれもあまり意味はありませんでしたね」
 マリエッタはそう言って懐から死せる星のエイドスを取り出した。
 寄生された人々を確実に救う効果を持つそれだが、イレギュラーズの奮闘もあり寄生されてしまった子供はない。
「……或いはアメリ、貴方はどうですか? この力をどう思うのか試せるうちに試しておきたくはありますからね」
「そんな小石、何の役に立つかしら」
「それは良かった。私もPPPは嫌いですので……それに近いエイドスも使わないで済むのなら都合がいい」
 マリエッタは再び死血の光を槍のように振り抜いた。
 連鎖する血のダンスは赤き光を纏い美しく聖堂に舞っている。
 最早断末魔さえも残る隙は存在しない。
 ただ、朽ち果てるようにその身体が石に代わり、一輪の花を咲かせて砕け散った。
「あぁ、私も……私も、もう同罪ね……」
 消えていく花を見ながら、ファウスティーナが小さく呟く声がした。
「私は……私も先生を殺した」
 そう呟く声は、どこかそれで納得しようとしているような――そんな色がした。

成否

成功

MVP

ソア(p3p007025)
無尽虎爪

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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