シナリオ詳細
<グレート・カタストロフ>ティーカップの向こう側
オープニング
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ル・スペルの街はファウ・レムルにも程近く、かつてアドラステイアと呼ばれたアスピーダ・タラサにも隣接した場所だ。
バグ・ホールの顕現だけではなく何らかの封印が解かれた恐れがあるという旨は騎士団始め天義上層部にまで届いていた。
「って、訳で私って事」
胸を張ったのは天義建国にも携わった聖女(処刑済み)兼遂行者(浄化済み)の『普通の女の子』であるカロル・ルゥーロルゥーであった。
自らを聖女ルルと名乗って居た彼女はイレギュラーズの尽力により、嘗て心を通わせた聖竜を自らの核として奇跡を身に宿してただの少女として過ごす『余生』を手に入れた。と、言えども性格は遂行者の頃とは然程変わらない。
ベースとなった聖女ルゥーロルゥーの所有した聖遺物『頌歌の冠』が泣いて居るぞと言わんばかりの性格の『キツさ』を隠す事無く教皇シェアキムに「おまえが座ってんなら私が行ってきてやるわよ。はい、お駄賃」などと無礼な言葉を吐き出した五分後のことである。
「シェアキムが小遣いくれるって言ってたわ。後でシュークリーム買いましょう。あれ、美味しかったのよね」
遂行者でも聖女でもないような口ぶりでル・スペルの街の視察兼敵勢対象の撃破の任に着くことにしたらしい。
当人の口ぶりはこうだが本音の所は「人様の国で何を暴れてんのよ、それは私の役目だ」というのっぴきならない自我と「まあ、イレギュラーズが困るんなら手伝うわよ、ついでに遊ぼう」といった欲求によるものなのだろうが。
「んじゃ、シェアキムから聞いた事確認しとくわね。
ファウ・レムルの街は消滅したわ。まあ、何かのエネルギーなんでしょうけど。アドラステイアにも近かったから余り住民がいなかったのが幸いね。
どうして消滅したのか、ってのがまず焦点。予測するに……何かが封じられていた可能性はあるわよね。
なんでって、それだけ変なエネルギーってことでしょ。もし何かが『目覚めた』んならその被害がもっと広がる可能性があるものね」
出来るだけ避難の誘導をして置きたいというのが聖女心なのだと言った。
「それと、まあ、アスピーダ・タラサは無事であって欲しいのよね。あれ、遺産みたいなもんだし」
友人であった遂行者アドレのことを思い出してからカロルは「湿っぽいのはなしだわ」と首を振った。
天がひっくり返って、地に落ちてくるわけでも無いだろうけれど、人々は生きている。平等何て言葉は何処にもないだろうけれど、生きる事には罪はない。
カロルは「やり方が嫌い」とだけ言ってから出立の準備を整えた。此度は巡礼の聖女として――つまり、シェアキムの名代として向かうのだ。
遂行者のコートを脱いだ『普通の女の子』は嘗ての聖女ルゥーロルゥーのように装ってから『聖女らしからぬ顔』をした。
「さあ、行くわよ。私、この世界を思いっきり楽しまなくっちゃならないんだからね。
何か滅ばれたら困るでしょ。取りあえず、大冒険してマスティマとサマエルに自慢してやるんだから!」
●
潮騒の気配を感じさせたル・スペルにやってきてからカロルは「ははーん」と呟いてから周囲を見回した。
冬の気配が濃く、昨年の厳冬の名残があるかのように皆とは氷の気配がする。氷を割って進むことに長けた海洋船などの往来は見られていたのだろうがバグ・ホールや近隣のファウ・レムルの件で現在は貿易船の影も無かった。
「まあ、人が居ないのは大凡あれってことでしょう」
指差す先には中央広場があった。本来ならば冬の時期でも美しく咲く花が見られたはずだが、その場所にはバグ・ホールがでかでかと鎮座している。それは人が触れてはならぬ気配がした。触れることは即ち死に直結する。
巫山戯て触れた街の男がいたそうだが、彼は最早帰らぬ人になった。その恐れからか広場に近付く者は愚か、人影も疏らとなっている。
「聖女様が来てるのに、まったく寄り集まることもないくらいだものね」
不遜に告げたカロルは「まあ、私聖女じゃないんだけど、そういう事が言いたいんじゃなくってぇ……」と呟いてから肩を竦める。
その刹那、何かが横切った。
「うわ」
思わず後ずさったカロルの足元に、何かがぶつかった後が開く。球体状の力が吐き出されたのだろうか。
「何、何なの? え、こわ……」
ぎょろりと眼球を動かした精霊は『アポロトス』と名乗った。彼女からは森の気配がする。
「……おまえ、何?」
カロルは引き攣った表情でそれを見た。精霊、とは呼べない。終焉獣、と言うべきか。それでも混ざった気配の気味は悪い。
それは人の姿ではある。柔らかな緑色の髪を持った『森の気配』のするそれをカロルは「遂行者に似てる」と言った。
人の負の感情エネルギーと結ぶつき、産み落とされたのだろう終焉のエネミー。大樹の気配にも良く似たそれは一歩踏み出した。
「どうして」
「は? こっちが聞きた――」
カロルの頬をひゅ、と擦った力の欠片。カロルは「滅びのアークじゃない。知ってる知ってる。ご近所ってかんじ」と呟いてじらりと見た。
「おまえの飼い主が誰か分からないけれど、ルスト様より顔面が良くないなら私の勝利よ。ばあか」
胸を張ったカロルはべえと舌を見せる。そこに聖痕はない。
ただの少女を前にして、アポロトスと名乗った精霊がからからと音を立てて笑った。
「ファルカウさまとともに、おわりにしよう」
ファルカウ、と呟いてからカロルは「良く分かんないけど、とっととどっか行きなさいよ!」と叫んだ。
「それか、おまえが人語有してるってんなら情報置いてって貰うわよ!」
その言葉に反するように姿を見せたのは『終焉獣』によって肉体を動かされたル・スペルの子供達と――蒼白く澄んだ獣達であった。
- <グレート・カタストロフ>ティーカップの向こう側完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2024年02月05日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
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「うーん、森の気配っていう事は深緑由来の終焉なんでしょうかね。
それはまた天義までわざわざご苦労さまと言いますか何と言いますか」
「結構遠いわよねえ」
踏ん反り返っている『普通の少女』カロル・ルゥーロルゥー(p3n000336)の傍に立っていた『夢見大名』夢見 ルル家(p3p000016)は満足げな彼女をまじまじと見た。
遂行者の衣服を脱ぎ捨てて、ただの少女らしくはなったが僅かばかりは戦うための力も残されていると言うべきなのだろう。
そんな彼女が持ってきた『面倒な案件』を前に「キャロちゃん、以前みたいな力はないだろうから気をつけてね!」と声を掛けたのは友達としての気遣いだ。
「心配してくれてるの?」
「勿論。女の子が傷つくのはヤだからね! 私はイレギュラーズだから大体治るからノーカンで!」
彼女がムッとしたのは気のせいではないのだろう。どこか拗ねた様子の彼女は敵を前の前にしても常の通りの調子を崩さない。
「ルル〜。シェアキムと仲良さそうで羨ましいんだけど。私まだ緊張して上手く喋れないんだよね」
「可愛いところもあるもんね。茄子子。おまえってもうちょっとガツガツ系かと思ってた」
マイペースなのはもう一人。『虚飾』楊枝 茄子子(p3p008356)もだ。その場でくるっとターンをして宿敵から友人になった関係性でも二人は特段気にして等居ない。恋に恋するお年頃のカロルに何気なく声を掛けた茄子子は「ってわけで世界滅びると困るんだよね。まだ私の人生始まったばっかなんだもん」とアトロポス達を睨め付けた。
「そういえば、テレサからルルちゃん氏の話題を聞いたこと無いんスけど、こうやって話ししてると納得出来まスね」
「ん? 何? テレサが私のこと嫌いって話?」
「い、いや……なんというか……ルルちゃん氏の中には『世界に対する希望』があるんスよね。私らとは違いまスよ」
テレサと比べれば押しが強く、溌剌としている。何も憂うことなく振る舞うからこそ明るく、そして未来とは決して暗いものなどではないと考えて居る。世界に失望をしていないのだ。
『無職』佐藤 美咲(p3p009818)は両手を前にし首を振ってから、一先ずは迫り来るカロルを押しとどめた。ぐいぐいと距離を詰められてしまえば、彼女は突き詰めて話し始めて止まらない。そんな場合ではないと言い含めてから戦場となる周辺の人払いを行なっておこうと進言した。これ以上、『ル・スペル』に下らぬ問題が発生しても困る。
「カロル様とおでかけするの、なんだか不思議な感じがします。カロル様の『おいしい』はシュークリームですか?」
「美味しいわよ。アドレが教えてくれたの。ニルも食べましょ。あれ、倒したら」
「はい。一緒に食べるの、ニルはとってもとっても楽しみです」
アドレから教えて貰った。その言葉だけで『おいしいを一緒に』ニル(p3p009185)は温かな気持ちになった。アドレが好きだったのならば、そのおいしいを知っておきたい。屹度、彼は何処か困ったような顔をして「食ってみなよ」なんて言うのだ。
朗らかな気持ちとは対照的にアトロポスと相対することになる。頬を掠めた攻撃にルストの方が顔が良いと指差すカロルを諫めてから『天義の聖女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はぽつりと呟いた。
「今回の件はファルカウさんが関わってるんだね……眠ってから何があったのか、これからわかったりするのかな?」
カロルの手を握り締めて前へと行かぬようにと止めたのは彼女の性格が良く分かっているからだ。猪突猛進型の聖女様には困ったものでもある。
「それにしてもルルちゃんってこういう時も顔を気にするんだね。
マイペースと言うか、なんというか……でも顔面なら私も負けてないからね」
「おまえも美人よ、スティア」
「えへへ」
そういう話だったのだろうかと『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)はぱちくりと瞬いた。
「こんな時でも冠位傲慢の顔の良さを基準にできるんだから、カロルってホント逞しいよね。そういうところ嫌いじゃないよ。
まあでも、危ないから前に出すぎないようにね? みんなが心配するんだから」
「私もおまえのことが嫌いじゃないけど、でも私がほっぺたシュッってされたからドツいてもよくない?」
雲雀に不服ですと言いたげなカロルに『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)は「だめよ」とカロルの頬をつんつんと突いた。
「ルルちゃん、前線はわたしたちがするから、ちょっとだけ後ろにいてね。でも勝手に帰らないでね!!!
ルルちゃんにもちゃんとお仕事してもらうんだから! ねえ、聞こえてるわよねぇ、聞いてなーいって言わないでねぇ!」
「だって出られないなら……」
もう、相変わらずとメリーノは頬を膨らませた。本当にマイペースだ。そんなところも彼女らしい。
「ルル。シュークリーム、だぞ」
「……分かったわよ」
こくりと頷く『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はゆっくりとアトロポスを見た。
「街の住人に寄生させた、か。滅びだの、終焉だのと大仰な言葉を使いながら、随分と下卑た真似をしてくること、だ。全く以て、度し難い」
「言葉がなくては対話が出来ません」
アトロポスの一体、グリーン・アイズは静かに言った。
「対話をしたいと望むのは其方でしょう。パンドラの使徒」
レッド・ノウズが静かに言った。その声を聞いてから答えたのは――「まあ、適当なこと喋るなら口がない方がマシだけどね!」――お口が少々悪すぎる聖女なのであった。
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「さて、救出から最優先に、だ。人に寄生して、というのを見過ごすわけには行かないからね」
「ええ、分かったわ」
早速救助側に向かおうとするカロルをちらりと見てから雲雀は微笑んで見せた。随分と彼女の扱い方が分かった気がするのだ。
「こういう時こそ見せてよね、聖女パワーってやつ!」
「……んふ」
後方で待たせるならば彼女に役割でも与えてやれば良い。前線へと向かう雲雀、続くのはスティアとエクスマリア、メリーノだ。
「ルルちゃん、待っていて頂戴ね!」
メリーノはグリーン・アイズとレッド・ノウズを一瞥しながらも暴れ回る住民達を救うべく走る。二人が動き出すよりも早く動いたか。ならば、と美咲も動き始めた。
仲間達が救出を行なうならば、敵を食い止める役割のものも必要となる。雲雀とのアイコンタクト、それから直ぐさまにレッド・ノウズへと意志の魔力を放ったスティアはネフシュタンの杖先に魔力を込める。
「こっちだよ!」
「何か知らないけれどさ、集団自殺なんてされても困るし。ファルカウ様ってやつに言っときなよ。迷惑なことしてないで1人で勝手に死ねって。
――はい、お前らの存在がムカつくから今日から目に付いた森を燃やしていきまーす。お前らのせいです。あーあ」
淑やかな声音と、穏やかな魔力と共にレッド・ノウズの意識を奪い去るスティアとは対照的に鋭いナイフで抉り取るように茄子子は言った。
その強かな声音を耳にしながら、真っ直ぐグリーン・アイズに飛び込んだのはルル家だった。
「更に強くなった私に惚れないでよ、キャロちゃん!」
唇を吊り上げ、地を踏み締めてから一気に駆抜けて行く。きらめく真珠(スピカ)。その煌めきはルル家の思うが儘に叩き付けられる。
「どうして」
「なーにが『どうして』ですか! こっちのセリフですよ! まだまだこれから始まるんですよ!
ファルカウだか何だか知りませんが、そっちの都合に巻き込まないで下さい!!」
ルル家が知っているファルカウは『森の大樹』だ。友人達の故郷に関連する大樹に何があるのかは定かではない。
「あとその目……友達のマネみたいで腹が立つんですよ!」
「……しらない」
首をふるふると振ったグリーン・アイズ。その姿から遁れるように駆けたメリーノは打ち倒した住民をカロルへと投げ寄越した。
「後は宜しく!!!」
出来る限り命は奪わぬように。彼等とてこうして戦うことは本意ではないはずだ。だからこそ、手にしていたのは『救いの欠片』だった。
奇跡も、未来も。へったくれもないほどに。この世界ではそうしたものは『起こり得ない』とされている。それでも、効果があったのは星の少女の願い由縁か、それとも――この事象にはまだ手を伸ばす余地があったからなのだろうか。
懸命なる願いは、彼等の命を救うに相応しい。人々の姿を見れば、ニルの心がちくりと痛んだ。
(ニルは、寄生型終焉獣が、とってもとってもだいきらいです。
プーレルジールで助けられなかったゼロ・クールのみなさま……助けたかったのに、壊すしかなかったひとたち。
……思い出すと、コアのあたりがぎゅうってなります)
ゼロ・クールは生き物ではない。だからこそ、内側までそれが巣食えば巣食うことが出来ない事もあっただろう。
秘宝種であるニルにとって、それはどれ程に辛い事であっただろうか。ただ、希望の星は手にしていた。
(プーレルジールのときのように、ステラ様にもらったちからで、ひとりでも助けられるなら――ニルはたくさんたくさん祈りを込めるのです)
カロルに任せることで彼女に負担がないかどうか。ただ、それだけを気にしていたのは彼女の事もまた、守るべき存在であったからだ。
「ニルは……寄生型終焉獣のせいで、これ以上かなしいおもいはしたくないのです」
グリーン・アイズの瞳がぎらりと動く。緑の髪を揺らがせたそれは森の気配を宿し、木々を思わす木の葉を漂わせた。
エクスマリアは無力化した住民達をカロルに預けてからカロルと目配せし、グリーン・アイズに向かい合った。
何が来たとて物ともしないように自らの『最大火力』を叩き付けることこそを目的とする。
「怒ってる? ねぇ怒ってる? ほらかかってきなよ。こっちこっち」
カワイコぶることもない。ミスリードを誘うように茄子子はこっちだよ、こっちだよと声をかけ続けた。
ならば――美咲はグリーン・アイを進ませぬようにと食い止めるだけだ。ぎらりと鋭い光を宿した刀を手にルル家が距離を詰める。
合流したからにはそれを打ち払うだけである。流石に八名のイレギュラーズと直接的に相対すればあちらの分が悪い。
(まだ目覚め立ての精霊って感じでスね)
その印象をゆめ忘れる事勿れ。どうして眼が覚ましたのかーー事情を知らねば倒せぬ。
ならば、聞くためにとグリーン・アイズを打ち倒し、レッド・ノウズとは向き合う事を選んだ。
「封印を解かれたひとたち、なの? バグ・ホールと関係があるの?
フォルカウ……? あなたたちは一体誰、なの? どうしてこんなかなしいことをするのですか?」
ニルが声を掛ければグリーン・アイズを喪ったばかりのレッド・ノウズはどこか所在なさげに振る舞った。
「……」
「一つずつ聞いてみようかしら。ファルカウ様はいまどこにいるのかしら?」
メリーノは返答があるのかは賭けだった。それは壊れたスピーカーのように決まった言葉を繰返す可能性がある。
だが、目の前に立っていた『赤いの』――レッド・ノウズは「ファルカウ様は、森に」と囁く。
「森……? おまえたちはファルカウ様を信奉してるのね? どうしてそうなったのかしら、どんなことをされたのかしら?」
「そうあるべきだった」
「そうあるべき……? お前たちに昔の記憶はあるのかしら?」
レッド・ノウズの言葉は当を得ない。メリーノが眉を顰め、雲雀は困った様子でレッド・ノウズだけを見詰めている。
「ファルカウ様はどんな素敵なことをして、お前たちを幸せにしてくれるのかしら」
ぴくり、とレッド・ノウズは動いた。その仕草に「いけない」と雲雀が告げる。滑り込むようにスティアが走った。
レッド・ノウズから放たれた魔力を受け止めて唇を噛む。カロルがスティアと呼ぶ声に微笑みを返してから「どうしたのかな」とスティアは問うた。
「森を燃やし、我らが同胞を殺したのはお前達だ。パンドラの使徒よ!」
その鋭い声音と共に焔が顕現する。ルル家はその言葉の意味を理解した気がした。森――迷宮森林の大樹ファルカウ。その森をやむを得ない事情で燃やしたのは冠位怠惰との戦いの際だったか。
それを怒り続けているのか。戦いに濡れた世界に絶望した『ファルカウ』の凶行だというのか。
「どうにも、事情(ワケ)ありっぽくていやでスね」
美咲はぼやく。その人実が見据える先を追いかけるように雲雀は「それ以上は教えてくれなさそうなのが問題だけれどね」と眼を伏せった。
呪いを帯びた輝きを宿した血潮が剣の如く作り上げられていく。狙うはただ、眼前に存在する敵の首。
それ以上の対話など見込めないことをエクスマリアは気付いて居た。藍玉の眸が見据えた先へ――茄子子が惹き付けたレッド・ノウズを斬り伏せた月光の剣は鈍い色を宿していた。
森の気配が霧散する。幻想種であれば誰もが感じた事のある隣人の気配だ。はたと目を瞠り息を呑む。
(ファルカウさん――魔女ファルカウ……この世界での貴女は……)
スティアはぎゅうと拳を固めた。異世界で共に旅をした魔女は、この世界では敵なのだ。
その途方もない事実が横たわっていることが、どうしようもない程に苦しくもあった。
●
「さ、寄生された人たちから死せる星のエイドスで寄生体を取り除いて、それから休ませてあげないとね。
後片付けは俺がやっておくから、みんなはシュークリーム食べに行くなら行っておいでよ。
……あ、でも後でちゃんと払うから俺の分一個テイクアウトよろしくね! ……何? カロル、変な顔をして」
倒れた住民達の様子を確かめていた雲雀は凝視してくるカロルに気付いて困った様子で肩を竦めた。
彼女が何を云いたいのかを察したようにメリーノは「まさにルルちゃんって感じねえ」と肩を竦める。
「え? おまえも行くのよ。皆でやれば早いじゃないの。美咲、おまえももうちょっと働きなさいよ。カロリー減らしとく感じで」
「へ!?」
随分と働いたのにと言いたげな美咲が肩をがっくりと落とした。カロルはといえば雲雀やメリーノを連れてシュークリームを食べに行く気満々なのだ。
「いや……今日は随分と働きましたし……少ない無職の貯金から捻出して2、3個食っちゃおうとおもったんスけど……」
「え、マジで太るわよ。血糖値やばくない?」
「私は『もう一人でも良いかな……』派なんで多少の体系変化は誤差なんスよ。
これは色恋沙汰無縁勢の特権っスねー。……いや、血糖値とかコレステロールとか健康のことを言われるとそれはそうなんスけど……!」
困った顔をした美咲に「動けばちょっと罪悪感減るわよ!」とにまりと笑う。
「良いわよね?」
「はい。カロル様にお任せします。ニルもおてつだいをしてからシュークリームを食べますね」
カロル様は可愛いも覚えました、と付け足したニルに「良い子ね」とカロルは頭をわしわしと撫で続ける。
余りにも嬉しそうな元聖女に「そうだね、それじゃ、お手伝いから!」とスティアはえいえいおーと拳を振り上げた。
それこそが聖女の在り方だ。いつもの日常に戻れるようにという願いを込めて作業を行なうスティアを眺めてから不思議そうな顔でルル家は『死せる星のエイドス』を眺めた。
「これってこっちでも使えるんですね……。それとも、使えるようになったんですかね……?」
「事象的に使えるようになった、じゃないの? こんなこと、起こってなかったしね」
じいと見詰めたカロルにルル家は「成程?」と首を捻る。
「うーん、それはともかくとして帰りにシェアキム殿のお小遣いでお茶でも飲んで帰ろっか!
多少予算オーバーしても領収書切って出したら補填されるよね!
キャロちゃんにも領収書の切り方を説明しよう! これはいくらお金を使っても補填される魔法だよ!」
にたりと笑ったルル家に「なぁるほど。さ、全員揃ったわ。行きましょう」とカロルも悪い顔をする。
「え? シェアキムの金じゃないの? それ。違う? 国家予算なら良いけどさ」
シェアキムに迷惑掛けちゃだめでしょ、と言いたげな茄子子の視線にカロルは答えない。シュークリームの店といえば、何処があったかと思い出そうと頭を捻っているようだ。
「あ、ルルちゃん。イルちゃんが美味しいお店を教えてくれたし、早く行こー! こっちこっち」
手を引いたスティアにカロルはうきうきとした様子で歩き出す。
「ああ、持ち帰りと別に、此方でも食べていこう、な」
エクスマリアの提案を受け、カロルは思い切り購入するつもりのようだ。
「シュークリームって美味しいよね。私も大好きなんだよね!
ルルちゃんはカスタード派? それともクリーム派? 両方って線もありそうだけど……
私はどちらかと言えばクリームかな? カスタードも嫌いじゃないけどね!」
「私はカスタード。バニラビーンズってのがしっかりめのやつ」
「うんうん。じゃあ、今度一緒に作ってみる? わいわい皆で作ったりするのも楽しいかなって思うし」
「良いわよ。美咲に鱈腹食わせて太らすから」
ぎくりと肩を跳ねさせた美咲にカロルは楽しげに笑う。
「帰りにはシェアキムにもシュークリーム買っていってあげよっと。喜んでくれるかなぁ。えへへ」
普通の乙女の顔をして、そんな風に笑う彼女を肘で小突いたカロルは「おまえの恋が叶うの楽しみだわ」と囁いて。
――余談だが、シュークリームを手に戻ったカロルは「領収書ってやつをルル家が教えてくれたのよ」と言い訳をしたそうだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
カロルが生き生きとしていてとっても楽しそうです。
GMコメント
●成功条件
敵勢対象の撃破
●フィールド
天義、東方。ファウ・レムルの程近い街『ル・スペル』。
バグ・ホールが近く注意が必要となる場所です。街並みは白き港町といった風情です。雪がちらつく頃合いです。
カロルは『巡礼の聖女』を名乗ってこの街へやってきました。冬だという事もあって街の人々はあまり出歩いては居ない様子です。
街の内部に当たりますが、特に中央広場にはバグ・ホールが存在するために人の出入りは無さそうですが……。
●エネミーデータ
・『アポロトス』グリーン・アイズ
緑色の瞳を三つ持った精霊です。カロル曰くは『森の気配』がするそうです。
寄生型の終焉獣を生み出す力を有しているようです。後衛です。人語を有しています。ある程度の意思疎通は可能なようです。
緑の髪を持った女性の姿をして居ますが、その元になった対象は誰なのかはわかりません。静かに佇んでいます。
・『アポロトス』レッド・ノウズ
まん丸の鼻を持った精霊です。カロル曰くは『森の気配』がします。
狂気を伝播させる能力を持ちます。前線で戦います。人語を有しています。ある程度の意思疎通は可能のようです。
燃えるような赤い髪を持った男性の姿をして居ます。その元になった対象は誰なのか分かりません。からからと奇妙な笑い方をします。
・『寄生型終焉獣』に寄生された街の人々 10名
プーレルジールと同じように終焉獣に寄生された人々です。
本人の意思とは別に痛みなど無視をして体を動かされているようです。不殺で対応する事で寄生解除の可能性があがります。
一般的には殴る蹴るなどの暴行を繰返します。
・【寄生】の解除
寄生型終焉獣の寄生を解除するには対象者を不殺で倒した上で、『死せる星のエイドス』を使用することで『確実・安全』に解き放つことが出来ます。
また、該当アイテムがない場合であっても『願う星のアレーティア』を所持していれば確率に応じて寄生をキャンセル可能です。(確実ではない為、より強く願うことが必要となります)
解き放つことが出来なかった場合は『滅びのアークが体内に残った状態』で対象者は深い眠りにつきます。
●同行NPC『カロル・ルゥーロルゥー』
普通の女の子よ、わるい? なんて行ってますが聖竜アレフの力と持ち前の『聖女』技能で支援型ヒーラーの風情です。
まあまあ戦います。まあまあ自衛もします。と、いってもそこそこです。
割りと性格的にはっきりきっぱりしていますので危なくなったら普通に撤退します。
「は? 恐いじゃないの、何なのあれー!」と叫べるタイプです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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