シナリオ詳細
【水都風雲録】四境攻囲
オープニング
●四正面作戦
「ようやく……ようやく、この時が来ました」
眼前の自軍と、それに対峙する遠方の敵軍とを目にしながら、水都(みなと)の領主である朝豊 翠(あざぶ みどり)(p3n000207)は感慨深そうに呟いた。
高天京の混乱に乗じて覇を唱えんとした西の隣領沙武(しゃぶ)の侵攻によって、父重蕃(じゅうばん)を喪って以来三年。幾度も沙武は水都に侵略の手を伸ばしてきたが、翠はその度に神使達の力を借りることで撃退に成功してきた。のみならず、沙武四天王と呼ばれる魔種や純正肉腫からなる将を討伐したことで、四天王がそれぞれ支配していた南の芽玄(めぐろ)、西の多賀谷瀬(たがやせ)、北の九樹森(くじゅしん)を沙武の支配下から解放することに成功している。
反抗的な領民を複製肉腫とすることで軍事力や生産力を強めてきた沙武であったが、属領の陥落によってその国力は凋落していった。その理由は二つ。
一つは、全ての属領を喪ったことで複製肉腫に変える領民の当てが大きく減少したこと。もう一つは、九樹森の陥落によって精霊種と森の樹々を融合させた人面樹からの収穫ならびに、領外との交易ルートを喪ったこと。
それでもなお、国力に優れる沙武は水都が相手にするには強大な敵であった。そこで翠は、反沙武で同盟を組んだ芽玄、多賀谷瀬、九樹森の国力の回復を待ち、沙武に対して四方向から同時に攻勢をかけると言う策を採った。
芽玄、多賀谷瀬、九樹森との戦線に残る四天王やそれに準じる魔種・純正肉腫が出てこないかと言う懸念はあったが、それは高天京によって杞憂となった。沙武の非道は高天京にもしっかりと伝わっており、距離的な問題で直接援軍を出すことは困難ではあったが、芽玄、多賀谷瀬、九樹森が神使の参戦を要請するべくローレットに支払う依頼料を、全て賄ったからだ。
沙武に備える軍事費に財政を圧迫され、芽玄、多賀谷瀬、九樹森の分の依頼料を捻出する余裕の無かった水都にとって、これは大いなる助けとなった。
幾度も神使に助けられてきた翠にとって、神使への信頼は絶対とも言える程だ。これで、何処の戦場においても敗北はないと、翠は確信していた。それは、沙武四天王筆頭である蝦炭 成実(えびすみ なみ)が大将として出てきた、この戦場においても変わることはない。
●敵大将を討つために
互いの兵士が相争う喧噪が支配する戦場を、イレギュラーズ達が駆ける。彼らを阻止せんとした沙武の兵は、たちどころに蹴散らされた。
イレギュラーズ達の狙いは、沙武の大将である成実の討伐だ。大将である成実さえ討ってしまえば、この合戦の趨勢は決まる。そして、魔種やら純正肉腫やらが名を連ねた沙武四天王の筆頭とあればまず間違いなくその何れかであり、神使以外にそれを為しうる者は存在しなかった。
「それにしても、この兵士さん達……」
「ああ。今までの沙武の兵とは、一味違うな」
敵兵の攻撃を自身へと誘引しているヒィロ=エヒト(p3p002503)が、敵兵に違和感を感じている様子でつぶやく。それに、イズマ・トーティス(p3p009471)が応じた。
ヒィロやイズマほどの実力であれば問題ない程度ではあるのだが、今回の沙武の兵士は妙に手強く感じられた。
「――そうなると、あまり時間はかけていられないわね」
寸時思案した美咲・マクスウェル(p3p005192)が、そう状況を判断した。歴戦のイレギュラーズ達である美咲達にとっては問題ない程度の差ではあるが、水都軍の兵士達にとっては大きな差だろう。敵将の撃破までに時間をかければかけるほど、水都軍の兵士達が苦戦することは容易に想像できた。
幾度となく沙武の兵を退けたイレギュラーズ達の前に現れたのは、術士然としていながらそれに似合わぬ大身槍を手にした、今までに対峙してきた四天王に勝るほどに濃密な魔の気配を放つ女の魔種だった。その周囲には、三体の人型、十体の狼型の何かが護衛であるかの如く侍っている。
「――神使共が来るだろうとは思っていたが、やはりか。こうして戦場で相見えた以上、最早言葉は要らぬだろうよ。さぁ、死合おうではないか。沙武四天王筆頭、蝦炭 成実――参る!」
名乗りを上げた魔種が、大身槍を手に構えた。同時に、神使達も得物を手に戦闘態勢に入った。
- 【水都風雲録】四境攻囲Lv:50以上完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2024年03月04日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談10日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●水都軍の陣にて
「なるほど理解した。此度の物語は、水都の兵らに代わりて敵を討てというわけだな」
沙武の軍を前にして、今まで水都と沙武が戦い、今回の依頼に至った経緯を『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)から説明された『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)は得心が行った様子で深く頷いた。
「そうだ。頼みにしてるぜ」
「安心せい。我が"万年筆"にて此なる戦場の障害、容易く無かったことと貶めよう」
幸潮の言に頷きながら、錬は幸潮の肩をポンと叩き、信頼を示す。幸潮は自信満々な様子で、それに応じた。
それにしても、と錬は思う。
(水都との縁も、長いものだ)
高天京の混乱に乗じた沙武が水都に侵攻し、水都前領主朝豊 重蕃が討たれてより、三年になろうとしている。錬の水都との縁は、それ以来だ。
(此度も、勝利を掴み取る! 魔種に、豊穣の地を好きにはさせないぜ)
これまで、錬は魔種や純正肉腫からなる沙武四天王と呼ばれる将を何度も討ってきた。今回の敵将は沙武四天王の筆頭と言うが、それが錬の意気を挫くことはない。
「――ようやく、ここまで来たんだな。勿論、勝つよ」
感慨深そうに独り言ちる『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)も、錬と同様の戦意を抱いている。
その戦意を味方の水都兵に伝播させるべく、イズマはスピーカーボムを使って訴えかけた。
「世の理は盛者必衰、驕る者は久しからず。沙武はもう、ここまでだ! 水都の時代を勝ち取るぞ!」
「応ッ!」
イズマの鼓舞に応える叫びが、水都軍の至る所で響き渡る。もうすぐ沙武との戦乱が終結し、平和な時代が到来するとなれば、水都の兵達の士気は高まろうというものだった。
(――わたしは、わたしにできることをするだけ)
これまでの経緯が如何であれ、『灯したい、火を』柊木 涼花(p3p010038)にとっては、それが全てだ。
(歌に、演奏に、ありったけのエールと癒しの力を込めて。戦場へ、頼れる仲間たちへ届けましょう!)
蒼い双眸に決意の光を宿らせながら、涼花は沙武の軍勢を見据えた。
「敵は多く強大なのもいるようだが、だからこそ滾るというもの」
破砕と金剛、二種の闘氣を練り上げてその身に纏う『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)は、ニヤリと唇の端を吊り上げて、笑みを浮かべる。対峙する沙武の軍勢は多数であり、それを率いる敵将は沙武四天王の中でも筆頭格と言う。そんな敵と戦うにあたり戦力が必要――そう聞いたがために、昴は今この地に立っている。
準備は整ったとばかりに、昴は沙武軍に向けて足を踏み出した。それが、神使達が沙武軍に突入する第一歩となった。
●敵将との遭遇
沙武軍を斬り裂くように突き進む神使達は、やがて目標である敵将、蝦炭 成実の前へと到達した。成実の前には、三体の人型、十体の狼型の何か――式神が、侍っている。
「――神使共が来るだろうとは思っていたが、やはりか。こうして戦場で相見えた以上、最早言葉は要らぬだろうよ」
術士然としながら大身槍を手にした成実が、構えを取りながら神使達に告げる。
「罪もない人たち、自分の国の人たちさえも苦しめる魔種――これ以上お前達の好きにはさせない。全て破壊するよ」
『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)の胸の内には、ここに至るまでに仲間達から伝え聞いた、自領の領民さえ苦しめる沙武の非道への義憤がある。その義憤を砲撃として浴びせんとするかの如く、オニキスは魔力砲「マジカルゲレーテ・シュトラール」の砲口を成実へと向けて、告げた。
「確かに神使と魔種が出会えば言葉は不要! 俺達の手柄首となってもらうぜ!」
錬もまた、成実の言を首肯しつつ、成実を討伐する意をはっきりと示す。
「……国を文字通り食い物にしたなれの果てが、これ?」
呆れ混じりの冷ややかな視線を成実に向けながら、『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)は問うた。もっとも、美咲は成実に対して回答を期待しているわけではない。
「言葉は不要とか……泣いて謝っても許されないって、わかってるみたいね!」
愛用の包丁を手にしながら、美咲はそう言い放った。
「いいねいいね、言葉は不要だなんて手っ取り早くて。それじゃ……迷惑ヤロー達の筆頭、さっさとくたばれ! アハッ!」
成実の言にうんうんと深く頷いてみせながら、『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は緑色の左眼を煌々と眩く輝かせる。沙武四天王には、親しくしている商人が企画したイベントを潰されかけたり、肉腫に感染させられたりと、迷惑どころではないレベルで巻き込まれている。ならば、ヒィロが沙武四天王を「迷惑ヤロー達」と評するのも、当然のことであった。
●行動を束縛されし、人型式神
「まずは、貴様から死んでもらおう!」
先手を取ったのは、成実だ。神使達の数を減らすべく、最も脆いと判断した幸潮を中心に、爆炎で神使達を包み込む。だが、幸潮は深手を負いこそしたものの、倒れることはなかった。
「何、だと!?」
「必ず殺すという強き意思持たぬ攻撃など、我が"万年筆"には届かんよ」
手応えはあったはずだと驚愕する成実に対し、悠然とした笑みを浮かべながら幸潮が告げる。
「まず、足を止めるよ」
成実にやや遅れて、オニキスが迫撃砲を撃った。敵の中心に着弾した重力弾は、敵全体を巻き込むように重力術式を展開する。重力術式によって発生した強力な重力場は、成実や式神に傷を負わせただけではなく、その動きを大きく鈍らせた。
「くっ――行け、自由、正義、運命、爆雨!」
ギリ、と歯を軋ませながら、成実は式神達を神使達にけしかけようとする。だが、人型の式神三体が動くよりも、その三体の押さえを担う神使達の動きの方が早かった。
「さぁ、来なよ。弱者の正義は所詮ただの自己満足だって、力尽くで教えてやるよ!」
ヒィロの視線が、正義と呼ばれた式神を捉える。その視線に抗えなかった正義は、敵意満々の様子でヒィロの方に向いた。
(さすがに、素早い――でも、私達が上回ってみせる)
同時に美咲が、成実に先手を取られたことに歯噛みしつつも、それを上回る俊敏さを得るべく疑似瞬間移動の準備を整える。さらに、自身にそして幸潮と昴に、戦闘を最適化する支援を施した。
(頼んだわよ、二人とも)
幸潮も昴も、気力の消耗が激しい技を有している。故に、二人の気力の消耗が抑えられれば、継戦能力も向上し、勝利を掴める可能性もより高くなるはずだと、美咲は判断していた。
イズマは神秘力を遮断する破邪の結界を展開し、さらに自身を強化する。
「自由、か。俺達はお前達を討ち取って、水都の自由を掴むぞ。さぁ、かかってこい!」
そして、指揮棒であるかの如く細剣「メロディア・コンダクター」を振るい、最後にヒュッと鋭い突きを自由と呼ばれた式神に向けて放つ。その刺突から真っ直ぐに放たれた衝撃波に穿たれた自由は、身体に備わる多数の砲塔を残らずイズマへと向けた。
「水剋火。ここは、基本に忠実に行かせてもらう」
五行のうち水行に拠る追撃刃を生成した錬は、運命と呼ばれた式神の方を向くと、式符から豊穣の守護神樹の力を宿した木槍を鍛造した。
「豊穣の怒り、青龍の枝の槍だ。有難く喰らっておけ!」
錬が告げたとおり、木槍は豊穣の魔種への怒りを示すかのように勢いよく飛翔し、運命に深々と突き刺さる。運命は大剣を構えると、攻撃されたのを許せないと言わんばかりに、その刃を錬へと向けた。
ようやく反撃に出た式神達のうち、自由はイズマに接近すると、その身体の全ての砲塔から零距離射撃を敢行。しかし光条は破邪の結界によって全て消滅させられ、イズマに到達することはなかった。
脚から光の刃を伸ばしてヒィロを奇襲した正義は、それでもヒィロに傷を負わせることは出来なかった。初見殺しさえも通じなかった時点で、正義がヒィロの敵たり得ないことは誰の目にも明らかとなった。
運命は錬に対し大剣を振るったが、ヒィロほどではないにせよ回避の技量に優れた錬にとって、その一閃はあまりにも大振りに過ぎた。
十体の狼型式神、爆雨は、背中の砲塔から炎の弾を次々と放ち、神使達を炎で包み込まんとする。これによって、涼花、昴が負傷。既に負傷している幸潮も被弾したが、必殺の気迫のない炎の弾は何発命中したところで幸潮を倒すことはなかった。
「此は文にて語られし物語である――我がここに居る事がその証明よ」
自身のもたらす治癒の力を強化した幸潮は、涼花、昴と自身に纏わり付いている炎を存在していなかったかのように消滅させる。
「この"物語"は斯く在るべし――我には、その方が好ましい」
さらに幸潮は、強化した治癒の力で以て、涼花、昴と自身を癒やした。完全に無傷、とまでは行かなかったものの、三人が受けている傷はほとんど掠り傷と言うところまで癒えていった。
「随分と大きな得物を振り回すじゃないか。一撃の威力に、余程自信があるのだろう。
私も、一撃の威力ではイレギュラーズ中最高と自負する武技を有していてな。相手をしてくれよ」
隆々とした体躯に満ち満ちて、溢れんばかりの闘争心を漲らせながら、昴は運命に襲い掛かった。闘争心に委ねた昴の身体が、次々と拳や脚を繰り出して、運命の姿が酷く歪むまで殴打を繰り返していく。
一連の殴打を終えた昴は、運命に相当のダメージを与える一方で、美咲の支援が入っていたとは言え相応に気力を消耗していた。だが、その昴の身体を、女神の寵愛と祝福が如き歌声が包み込んでいく。
(誰も倒れさせない、というのもヒーラーとして譲れませんけれど――夢野さんや三鬼さんを気力切れになんて、させたりしません!)
その意志を込めた涼花の歌声を聞いた昴の身体に、渾々と気力が湧き起こり、満ち満ちていく。まるで、先程の武技で気力を全く費やさなかったが如く。
「これは、ありがたいな」
ぐっと拳を握りしめながら、昴は笑みを浮かべた。元よりこの武技を出し惜しみするつもりなどなかったが、ともすれば延々と使い続けていられそうだと、昴は感じていた。
●傾きゆく天秤
「こんな弱いの一体だけじゃボク全然満足できないから、『つ い で に』お前も相手してやるよ。ほら、遠慮せず殺しにきていいよ?」
正義だけでは物足りないと、ヒィロは視線を成実に向け、その敵意を煽り立てる。並大抵の挑発であれば抗えたであろう成実だったが、ヒィロの視線には抗いきれずにあらん限りの敵意をヒィロに向けた。この瞬間、戦闘の趨勢は決まったも同然となった。
成実は時折、正常な判断力を取り戻すものの、すぐさまそれを察したヒィロによって元の木阿弥に戻された。
その間に、まず爆雨が美咲、オニキス、イズマ、錬の範囲攻撃によって一掃された。爆雨も炎の弾で涼花や昴に傷を負わせはしたものの、幸潮による癒やしの前では何の意味も無い結果に終わった。
狼型の式神が殲滅された後は、人型の式神も各個撃破されていった。運命も、自由も、正義も、抑え役となった神使にまともに傷を負わせられないうちに、ただ一方的に攻撃されるだけだった。その中でも、特に昴のずば抜けた威力の武技がその速度に貢献したこと、その武技の発動は美咲と涼花の支援があってこそと言う事実は、特筆すべきであろう。
それと並行して、成実はヒィロに深手を負わせることには成功していた。そこそこの頻度で、成実はヒィロに直撃を命中させていたのだ。だが、ヒィロに深手を負わせた瞬間が、成実にとっての「詰み」であった。
「アハッ☆ いーっぱい血を浴びて、気持ち良くなっちゃった☆ そろそろ、本気出すね? すぐ壊れちゃったらつまんないから、頑張ってね?」
自身の血に塗れた顔で、ヒィロがニコリと笑う。その笑顔にゾッとするものを感じた成実だったが、もう如何することも出来なかった。
接近戦を仕掛けてきている美咲や昴を大身槍に巻き込んで深手を負わせたとは言え、物理神秘何れの攻撃も無効化するヒィロへの攻撃を強いられながら他の神使達から集中攻撃されるともなれば、如何に潤沢な生命力を有する魔種と言えども、ただ討たれる運命が待っているだけだった。
●沙武四天王筆頭の、最期
常人ならば幾度死んだだろうか。それ程の傷を負いながらも、なお成実は生きていた。だが、術士然とした装束の大部分は既に深紅に染まり、喘ぐような呼吸は虫の息と思わせ、大身槍を振るうどころか杖にせねば立っていられないと言った態では、最早死に態でしかなかった。
あらゆる攻撃が通じない相手への攻撃を強いられ、攻撃の対象を変えることもこの場から逃れることも許されないことへの、憤懣と絶望。それらを表情に浮かべながら、成実は大身槍をヒィロ、美咲、昴に振るう――が、やはり大身槍は、美咲や昴に傷を負わせたもののヒィロを傷つけることはなかった。そしてそれが、成実の最期の足掻きだった。
「さすがに、四天王筆頭と言うだけあってしぶといな。だが、そろそろ終わらせるぜ」
式符から鍛造した、五行相克の循環を象った斧を手にした錬は、五行の循環により発生した魔力諸共、その刃を成実に叩き付けた。致命傷を避けようとした成実の、鎖骨から肋骨を一気に断ち切った手応えを、錬は感じた。そして片方の肺腑を縦に斬り裂かれた成実は、ゴボッと大量の血を吐いた。
「俺も続くぞ! お前も、お前達沙武の時代も、もう終わりだ!」
イズマは「メロディア・コンダクター」を手に、三度ほど剣先を成実に向けて刺突する。すると三つの衝撃波が発生し、その全てが成実の鳩尾に突き刺さった。身体を「く」の字に曲げた成実だったが、大身槍を支えにして如何にか体勢を立て直す。
(私も、攻勢に回るべきでしょうか?)
(ああ。美咲と昴の癒やしは、我に任せておくがよい)
この状況で攻勢に回るかどうか迷った涼花は、幸潮の方を見ながら思念で会話する。そうして幸潮の返事を得た涼花は、次に歌うべき歌を決めた。
熱く激しく、それでいて重苦しさを感じさせる歌声が、響く。この歌を聴いて、ラサの熱砂の嵐を思い出した神使もいるかもしれない。
「う……ぐうっ……」
だが、神使達にとってはそれだけであっても、成実にとっては吹き荒ぶ熱砂の嵐をまともに浴びたように感じられた。身体が、そして喉が灼け、声を出すどころか呼吸さえままならない感覚が成実を襲う。
「今のは何も無かった、と──さぁ往け英雄共、"後"の事は気にするな」
その間に、幸潮は涼花に返事したとおり、美咲と昴の傷を癒やしていた。これで、仮に成実がもう一度攻撃を仕掛けてきたところで、美咲も昴も可能性の力を費やすことなく耐えられるはずだ。
「助かる――それじゃ、行くか」
幸潮の癒やしに礼を述べた昴は、全身から溢れ出さんばかりに闘争心を昂ぶらせる。そして、その闘争心に身体を委ねた。闘争心の導くままに放たれる拳が、脚が、何度も何度も成実の身体に叩き付けられていく。その度に、昴の拳が、脚が、返り血で紅く染まっていった。
「お前はある意味幸運だよね。祖国が滅ぶのを見ずに死ねるんだからさ――アハッ☆」
「私は美咲・マクスウェル――沙武(あんたら)の『死』よ。地獄に堕ちても、覚えてなさい」
強烈な、強者としての圧を纏いつつ、ヒィロが嘲弄混じりに成実の敵意を煽り立てる。ヒィロの圧を受けた成実は、それを受け流すことも出来ず、敵意と同時に注意力をもヒィロの方に向けてしまう。それは、同時に動く美咲に対しての致命的な隙となった。
死神が死を告げるが如く名乗りながら、美咲は虹色の瞳で成実の周辺の事象・概念を「視」た。そして、視えた境界の悉くを包丁で斬ることで、成実の生命を絶つ斬撃と為さんとした。
「美咲さん、やった!?」
「少し、足りなかったわね――本当に、しぶとい!」
止めを刺せたか尋ねたヒィロの問いに、美咲は苦虫を噛み潰したような顔で応えた。手応えは確かにあったが、成実の生命にはあとわずかに届いていなかったらしい。
だが、成実にとっては死の瞬間がほんの数瞬後に延びたに過ぎなかった。
「マジカルジェネレーター、フルドライブ。バレル接続、固定完了。超々高圧縮魔力充填、百二十パーセント」
ヒィロと美咲が成実に仕掛けている間に、オニキスはインフィニティモードに移行して、「マジカルゲレーテ・シュトラール」の砲口を成実に向けていたのだ。
「ターゲット、ロック。マジカル☆アハトアハト・インフィニティ――発射(フォイア)!!」
極太の眩い光条が、砲口から流星の如く迸る。光条は成実の胸部に突き刺さり、大穴を開けて貫通した。
「殿……申し訳、あり……」
主君への謝罪を最後まで述べることも出来ずに、成実は仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。
成実が斃れたことで沙武軍は総崩れとなり、この戦場での勝敗は早々に決まった。
「皆さんのおかげで、多くの兵達が無事に生還出来ました。本当に、ありがとうございます」
成実に率いられていた沙武兵は手強く、水都領主朝豊 翠(p3n000207)は水都兵の犠牲をある程度覚悟していた。だが、神使達の活躍によりそれがごく少数に留まったとして、深々と頭を下げながら心からの感謝を告げた。
成否
大成功
MVP
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。
水都軍は損害軽微な状態で戦場を突破し、沙武領内に突入しました。
芽玄、多賀谷瀬、九樹森の軍も、損害は出しつつも同様に沙武領内に突入しています。
水都軍の損害が軽微であったのは、皆さんが大成功された賜物です。
MVPは、正義と同時に成実をも抑え、その自由な行動を阻害した点をポイントとして、ヒィロさんにお贈りします。
それでは、お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。
今回は久々となる拙シリーズ【水都風雲録】のシナリオをお送りします。
大分久しぶりになりますのでこれまでの流れをザックリと説明しますと、豊穣の辺境にある領地水都は、魔種や肉腫を四天王たる将としている隣領沙武の侵攻を幾度か受けてきましたが、その度に神使達の力を借りて退けてきました。その際、神使達の活躍によって沙武に占領された芽玄、多賀谷瀬、九樹森も解放されています。
そして今回、水都の領主翠は、かつて沙武に占領されていた芽玄、多賀谷瀬、九樹森との協力態勢を作りあげ、ついに四方向からの沙武討伐の軍を起こしました。
皆さんは、その主攻である水都からの侵攻軍に加わり、敵将である蝦炭 成実を撃破して下さいますよう、お願い致します。
●成功条件
蝦炭 成実の死亡
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
水都、沙武の国境付近の平原。時間は午前、天候は晴天。
地形は平坦で、遮蔽になるようなものは存在しません。
また、環境による戦闘への補正はありません。
●初期配置
成実の周囲に3体の人型の召喚獣が低空飛行しており、さらにその周囲を10体の狼型の召喚獣が固めています。
イレギュラーズ達は、成実から10メートル以上離れていれば、その配置は自由とします。
●蝦炭 成実 ✕1
沙武四天王筆頭であり、今回の沙武軍の大将です。元は人間種の魔種です。
四天王筆頭であるだけに、能力は全般的に極めて高い領域にあります。
さらに、その統率能力によって戦場にいる全ての敵にバフを与えています(ので、成実が長く戦場にいればいるほど水都軍の兵は苦戦を強いられることになります)。
・攻撃能力など
大身槍 物至範 【識別】【邪道】【鬼道】【出血】系BS複数
爆炎術 神遠域 【識別】【邪道】【鬼道】【火炎】系BS複数
獄炎の槍 神超貫 【邪道】【万能】【鬼道】【火炎】系BS複数
BS緩和
統率 戦場にいる全ての味方が強化されます。
●自由
成実が召喚している、3体の人型式神のうちの一体です。
背後に複数枚の翼を有しており、さらには各部に複数の砲塔があります。
・攻撃能力など
光の剣 神至単 【弱点】【邪道】【出血】系BS複数
光の銃 神遠単 【弱点】【邪道】
竜翼 神特特 【識別】【弱点】【変幻】【邪道】
背中の翼を自律行動する武器として射出します。超遠距離までの任意の対象を攻撃します。
攻撃対象を絞ることで【邪道】の数値と威力を上げることが可能です。
砲塔一斉射 神特特 【識別】【万能】【弱点】【邪道】
砲塔全てからの一斉射撃を行います。対象は自由の前方にいる超遠距離までの任意の敵です。
光の盾
BS緩和
【毒】系BS、【混乱】系BS無効
飛行
●正義
成実が召喚している、3体の人型式神のうちの一体です。
肩に扁平な飛行機がくっついているような姿をしています。
・攻撃能力など
光の両剣 神至範 【弱点】【邪道】【出血】系BS複数
光の銃 神遠単 【弱点】【邪道】
光の仕込剣 神至単 【弱点】【変幻】【邪道】
爪先部分から光の剣を発生させながら蹴りつけます。特に初見においては【変幻】の数値が極めて大きくなります。
光のブーメラン 神遠単 【弱点】【邪道】【出血】系BS複数
飛翔体射出 物or神超貫 【弱点】【万能】【邪道】【出血】系BS複数
肩にくっついている扁平な飛行機のような飛翔体を射出します。
質量兵器としての攻撃と、光の刃を生やしての攻撃の二通りの攻撃パターンがあり、前者は物理攻撃、後者は神秘攻撃となります。
光の盾
他の2体の人型式神の持つ光の盾よりも強力で、特に神秘攻撃に対する防御力を大きく向上させています。
BS緩和
【毒】系BS、【混乱】系BS無効
飛行
●運命
成実が召喚している、3体の人型式神のうちの一体です。
長大な砲を持ち、背中に光で出来た翼が生えているかのような姿をしています。
・攻撃能力など
大剣 物&神近範 【弱点】【邪道】【出血】系BS複数
刀身に神秘力の光を展開し、その光で敵の装甲を切り裂き刀身自体の質量で叩き斬ります。
そのため、物理攻撃と神秘攻撃の両方の属性を持ちます。この攻撃を無効化するためには物理攻撃と神秘攻撃の両方の無効化が必要です。
光の砲 神超貫 【万能】【弱点】【邪道】
掌打からの光 神至単 【変幻】【防無】
掌底を叩き付け、そこから敵を貫く光を放ちます。
光の盾
BS緩和
【毒】系BS、【混乱】系BS無効
飛行
●爆雨
成実が召喚している、10体の狼型の式神です。3体の人型式神よりは戦闘力は低めです。
背中に多数の炎の弾を放つ砲塔を載せています。
・攻撃能力など
光の剣 神超単 【移】【弱点】【邪道】【出血】系BS複数
高速移動しつつ、口から横の方に向けて光の剣を生やします。そして、敵とすれ違い様に斬りつけます。
炎の弾 物遠範 【識別】【変幻】【弱点】【邪道】【火炎】系BS複数
背部の砲塔から、無数の炎の弾を雨の如く放ちます。炎の弾は着弾すれば爆発し、周囲にいる敵を炎に包み込みます。
【毒】系BS、【混乱】系BS無効
●【水都風雲録】とは
豊穣の地方では、各地の大名や豪族による覇権を巡っての争いが始まりました。
【水都風雲録】は水都領を巡るそうした戦乱をテーマにした、不定期かつ継続的に運営していく予定の単発シナリオのシリーズとなります。
単発シナリオのシリーズですから、前回をご存じない方もお気軽にご参加頂ければと思います。
・これまでの、【水都風雲録】関連シナリオ(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
『【水都風雲録】悲嘆を越え、責を負い』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5350
『【水都風雲録】敵は朝豊にあり!』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5958
『【水都風雲録】敗残の四天王、民を肉腫と為して』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6550
『【水都風雲録】クリスマスの民 苦しますは闇』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7122
『<潮騒のヴェンタータ>一角獣の鎧の少女』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8158
『住まうは醍葉 救うは西瓜』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8242
『<竜想エリタージュ>運ぶは西瓜 狙うは鯨』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8357
『【水都風雲録】沙武の礎』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9055
『【水都風雲録】チョコを献上 領主を変容』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9161
『【水都風雲録】樹にされし民』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9393
それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。
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