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シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>清水を侵す獣と

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●泉番
 風が鳴いた。
 水が跳ねた。
 微かな気配のざわめきには、幽き命の囁きが伴って。
 母たる水龍は鼻先を天へと向けると、鼻根にぐっと力を籠めた。
 ――厭な気配がした。
 ぐっと脚に力を込め、水へと変じて――跳ぶ。
 キャラキャラと笑いながらくっついていた水精霊たちが置いていかれて不服そうな声を上げていたが、詮無きこと。大きな被害が出る前に水龍は――メファイル・ハマイイムは、確かめねばならなかった。
「獣」
 目的地へと辿り着けば、その姿は水から人の姿へと変じた。
 眼前には亜竜に似て、亜竜とは違う不確かな生命体。
 それを視認したメファイル・ハマイイムはそれを『獣』と呼称した。
 獣――『終焉獣(ラグナヴァイス)』。それは滅びのアークそのもので作られた獣で、この混沌世界へ終焉を導かんとする勢力の尖兵だ。
「誰の許しを得ている?」
 この終焉獣の運の尽きは、メファイル・ハマイイムが浄化している泉へと近寄ってしまったことだろう。
 問いかけは形にすぎない。言葉とともに終焉獣の体は干からび、塵となって風に運ばれた。
「……ふむ」
 少し濁ってしまった泉を浄化すれば、怖かったよ~と言わんばかりに低級の水精霊たちが飛び出してきてメファイル・ハマイイムへと纏わりつく。それを気にせずに少し思案したメファイル・ハマイイムは天へと細い顎を向け――そうしてまた、水へと変じて跳んだのだった。

●白くて柔らかくてびよーんってするやつ
 ごうんごうんごうん。
「おおお……」
 ぽこぽこぽこぽこぽこ。
「おおおおお……」
 白い何かがまるで生き物のように動く様から目が離せない瑛・天籟(p3n000247)は、先刻から『お』しか発していない。
「のう」
「おお……」
「のう」
「……何じゃ、今忙しいんじゃが」
 何度か呼びかけやっと返事が返るが、天籟は鳳・天雷へ顔を向けない。蠢く白い物体に夢中なのだ。
「誰の為に儂が労しておるか。……まあそれは良いとして、いつまでこれを?」
「終わるまでじゃ」
「いつ終わる?」
「わからぬ。たいまぁとやらが止まるらしい」
 ふぅむと顎を撫でた天雷は、目下己がやらされている『作業』へと視線を落とした。ごうんごうんぽこぽこと動く硬質な物体。それは機械と呼ばれる文明の利器で、練達では電気で動くものだ。
 ――そう、電気である。新年だし呑まぬかとひょっこりと顔を見せたのが運の尽き。良いところへ来たと天籟に詰め寄られ、そうして今天雷は『電源』となっていた。
「天籟様、こんにちは。雨泽様からのどに詰まらないよう見ておいてと、ニルはおねがいされてきました」
「ハァイ♪ 来たわよ。チーズを香草で燻製にしたのも合うんじゃないかって持ってきちゃった」
 どうやら天籟に餅パに誘われ断った劉・雨泽(p3n000218)の紹介で顔を出したニル(p3p009185)とジルーシャ・グレイ(p3p002246)の姿に、自動餅つき機の前でしゃがみこんでいた天籟がぷかりと浮かんだ。彼等の後ろには妖精の羽――オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)の姿が見えており、彼女は少し視線を彷徨わせて誰かを探したようだ。
「おうおう、ようきてくれたのぉ!」
 遠い田舎の祖父が孫を迎えるような声を上げ、天籟は訪ってくれたイレギュラーズたちを笑顔で迎え入れた。
 ――その時であった。
 しゃらんと紗が如く『水』が現れた。
 静かに。だが、純然たる力のある、それ。
 それが姿を転じさせ――。
「……ぬっ!?」
 天雷が驚いた。力加減を誤る。
「わしの餅っ!?」
 ぼんっと急に強い動きをした機械が餅を弾き、ぽーんっと宙へと飛んだのを天籟が慌てて捕まえた。
「お母様!?」
「……此処はいつ来ても騒々しい」
 オデットの声に、その人――否、竜種たるメファイル・ハマイイムが長いまつ毛をそっと伏したのだった。

●邪魔な獣
「つまり、荒らし回る終焉獣を退治すれば良い……と」
「……」
 顛末を聞いた天籟が問えば、メファイル・ハマイイムが静かに瞳を閉ざす。肯定だ。
 近頃メファイル・ハマイイムの縄張りにも終焉獣が出ているらしく、それが現れると泉が汚染される上に精霊たちが怯えてしまう――逃げ遅れた者は食べられてしまうのだそうだ。
「吾は余り捜し物は得意ではない」
 泉の側に来そうな気配を感じられるものの、その終焉獣もメファイル・ハマイイムの気配を感じると逃げてしまう。痒いところに手が届かぬと嘆息するメファイル・ハマイイムをオデットは案じるように見上げた。
「お母様。私、お母様の憂いを解いてみせるわ」
 オデットの言葉に、メファイル・ハマイイムが一度眸を閉ざす。
「吾は或れを食してみたい」
 そうして眸を開いたかと思えば、餅を指さした。天籟が大事に育てている白くてふにふにした物体は食べ物だと聞いたから。
 一見、会話は繋がっていないように思える。
 だが。
「ええ解ったわ、お母様!」
 怪我なく早く帰ってきて、ともに餅を食べよう。そう言われたと理解したオデットがパッと顔を輝かせた。
「皆、最短で終わらせましょう!」
「そうね、喉のつっかえを先に無くさなくちゃ、お餅も喉に詰まってしまうものね」
「大変です。天籟様が喉につまらせてしまいます」
 ニルも、お手伝いがんばります!
 ジルーシャの言葉にキリリと眉を僅かに上げたニルへ、天籟は「わしらは餅の番をしとるからの~」と手を振って応えた。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 今年はまだお餅を食べていないので、もちもちしたいのです。

●シナリオについて
 覇竜でも終焉の気配がずっとしているようです。
 メファイル・ハマイイムの縄張りにも出てくるようになった終焉麾下のモンスター。泉に近付かれると精霊たちが怯えてしまうため、近付かれる前に倒して欲しい、とのことです。
 メファイル・ハマイイムが地図上の三箇所に印をつけました。そこには泉があり、線で繋ぐと大体三角……くらいな並びになっています。
 その三角形内の範囲(泉と泉が離れているのでそれなりに広い)内を探索しましょう。何処かに終焉獣がいます。
 覇竜での一人での行動は危険ですが、チームに別れての行動することは可能です。連絡手段はしっかり用意したほうが早く帰れるでしょう。また、森であるため、広域俯瞰はほぼ木しか見えないかと思います。
 探索がしっかり行われて終焉獣を発見すれば、然程労せず倒せます。
 倒したら戻ってお餅パーティをしましょう!

●フィールド『ピュニシオンの森』
 覇竜領域に存在する広大な森です。前人未踏の地とも呼ばれており、R.O.Oではかなりのデスカウントを稼いだ危険な場所です。
 方向感覚を狂わすような代わり映えのない風景に、悍ましい程に多いモンスター。生い茂った草木や存在する植物は名前も知らぬようなものが多く生態系も覇竜領域特有です。

●終焉獣……1体
 メファイル・ハマイイムが地図上の三箇所につけた印を線で結んだ三角形内の範囲でウロウロしています。イレギュラーズであれば3名程度の戦力でも倒せるあまり強くない個体です。
 火力の高い技でえいやー! でいけます。

●お餅
 皆さんが出かけている間に自動餅つき機がお餅を作ってくれます。NPCたちは餅つき機の番をしているので、帰ってきたらお餅パーティです。もちもちしましょう!
 あんこや醤油、ずんだ、チーズ等は天籟が用意しています。おすすめな食べ方がありましたら、食材を持ち込んでくださって大丈夫です。

 ※探索がスムーズであった場合、此方のパートがもちもちーんと伸びます。

●NPC
 全員お餅パートのみに居ます。

・瑛・天籟(p3n000247)
 亜竜集落ペイトで里長を始めとした民等の武術師範、そして里長の護衛をしているちびっこ亜竜種。
『餅を自動でついてくれる機械』を雨泽から貰ってご機嫌。天雷を電源にしてつきたてのお餅とお酒を楽しみにしています。

・鳳・天雷
 フリアノン近くの集落に棲んでいる放浪癖のある派手な亜竜種。
 派手好き・新しいもの好きな男性。性格も名前も似ている天籟とは好き飲み友。
 新年だし友と酒を呑もう! と会いに来たら電源にされた、悲しき雷属性。

・メファイル・ハマイイム
 竜種。将星種(レグルス)級、本性は30m程の美しい水竜ですが女人の姿を取っています。
 苗字等はなく上記の名前でひとつの名前です。省略は勝手に愛称をつけることなり、機嫌を損ないます。
 人間はか弱く、脆い存在なのであまり触れたくありません。……力加減が苦手です。
 餅なるものを楽しみにしている、餅初心者です。……赤子の頬のような柔らかい餅に触るのはちょっと怖い。弾け飛んでしまうかもしれない……と、思っています。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時に活用ください。
 関係者さんは覇竜の関係者さんでしたら(お餅パートのみ)可能な範囲でお応えします。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <グレート・カタストロフ>清水を侵す獣と完了
  • 天籟「最近の餅は杵と臼じゃないんじゃと。どう食おうか悩むの~」
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2024年01月30日 22時45分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
そんな予感
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

サポートNPC一覧(1人)

瑛・天籟(p3n000247)
綵雲児

リプレイ

●許されざる獣
 ぎゃあぎゃあと鳴く鳥がバサバサと羽音を響かせ飛んでいった。
 鳥ではなく、『此処』ではあれも亜竜かもしれぬ。フリアノンやペイト周辺とは段違いに危険度の高いこの森での単独行動は例えイレギュラーズであろうとも命取り。危険はないかと目視をしようと顔を動かす前に、『おいしいを一緒に』ニル(p3p009185)の隣を歩いていた『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が「大丈夫だ」と告げた。
 エーレン自身に敵意を向けられれば、エーレンのエネミーサーチが反応する。――だが『敵意を向けられれば』の話だ。敵に敵と知られていなくては、敵意を向けられず反応しない。つまるところ因縁がある訳ではない終焉獣が引っかかったとしたら、先に相手にエーレン自身が敵であることを知られている状態となるだろう。
 ふうと『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)が溜息を吐いた。50m以内の生命体の位置を正確に感知できる『天の瞳』は、生命体が多い場所では少なからずの疲労が伴うのだろう。けれどもジルーシャは眉間の間を揉み、少しだけ休めたら前を向く。頬を撫ぜるような気配を感じたからだ。
「ハァイ、こんにちは、可愛いお隣さんたち。アタシたち、この辺りで怪しい『獣』を見たって聞いてきたのだけれど……心当たりはあるかしら?」
 逆さま花弁スカートのような見目にジルーシャの瞳に映る精霊たちは、花の精。朝露の雫に顔を寄せていた下位の彼等からは喜びの気配だけが返ってきた。
 悲しみではない。彼等が危険に晒されていないということは――
「この辺りには居ないみたい」
「では、あちらへ進みましょう」
 ニルが杖で先を示し、エーレンはしっかりと歩いた場所を地図に記した。

「うーん、何にも反応がないわねぇ」
 敵から自身が認知されていることが前提のエネミーサーチに反応はなく、少し歩く度にニュッと伸びた枝に金色の髪が絡むものだから、『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)の形の良い唇が尖った。
「力が弱かろうが容赦なく土地は汚染していくんだから嫌だよねえ」
 美味なる餅を食べるために頑張ろうと木枝からメリーノの髪を外してやった『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)がそうぼやくが、弱いと言ってもイレギュラーズひとりよりかは強い。
 そしてそれは、この覇竜という危険な土地を闊歩する亜竜たちにも言えること。舐めてかかれば死が容赦なく襲いかかる土地がこの大陸だ。
 ――故に。
「レインちゃん!」
 木々が広げる天蓋を抜けて上空へと飛び上がっていた『玉響』レイン・レイン(p3p010586)が、バキバキと木枝を降りながら落ちてきたことにメリーノが鋭い声を上げた。上空へと身を晒せば、空を飛ぶ亜竜たちのかっこうの的となり、狙われる。桜色の傘を広げてふんわりと浮かび上がり、木々の緑しか見えぬ下方を見下ろしたレインを餌だと思ったワイバーン型の亜竜が口を大きく開けて突っ込んできたのだ。
「あー……そう言えばこういうところだったねえ」
 羽毛の生えた腕をゴキリと鳴らし、ルーキスが笑った。
 さて、露払いといこうじゃないか。

 三つの班に別れたイレギュラーズたちは、それぞれが決めた泉から探索を始めた。最初の内は担当する範囲が広いが、次第に三点の中央へと向かっていくにつれて探索範囲は狭まり、そして敵が逃げようとしても逃がす確率は低くなり――一番時間が掛かったとしても包囲して倒すことが叶う。
 超方向感覚で方角を度々確認し、『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)が進むべき方角を指し示す。他班からのやり取りはファミリアーとハイテレパスで行われるようだが、ハイテレパス持ちが探索に使わずに互いに預けあっている訳では無いから、敵を見つけた時にのみ連絡を取り合う手はずとなっている――が、まだ連絡はない。『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が『凍狼の子犬』のオディールを越しの視界で亜竜との戦闘があったことを確認している程度だ。
「少し、先を見てくるよ」
「気をつけて」
 上空へと飛んでも木々の緑しか見えず、かといって広域俯瞰でも木枝が邪魔で似たようなもの。けれども精霊たちの怯える気配を感じ取り、気を逸らせた。
 メイメイの小鳥がサイズとともに飛び――そして、居た。終焉獣を見つけるとすぐにその場の仲間へと知らせ、小鳥は他班の元へと向かわせる。
 他の魔物や亜竜を連れて行かないようにとゲオルグが気を配りながら向かえば、既にサイズが戦闘を始めていた。オデットの到着に気がつくとすぐに彼女へと支援を飛ばす。
「どちらから、迷い込んできたのかは、知りませんが……好き勝手にされては、困ります、ので。お覚悟、を」
「お母様を困らせるなんてなんて悪い終焉獣なのかしら!」
 オデットとサイズは、妖精を傷つける存在を許さない。
 メイメイもゲオルグも、それは同じ。
 それに、早く終えてお餅パーティをするのだ。
 各自持ちうる全ての力を叩きつけ、ふっくらふくふくな餅の待つところへ凱旋といこう。

●あちあちもちもち
「何故動いている?」
「理屈はわからぬ」
 お留守番組の竜種と亜竜種は、ぽこぽこ動く白く柔いものの観察に忙しい。ほこほこと上がる湯気と電力となっているひとりの苦労の下、生き物の様に蠢くそれをずっと眺めていた。
「ただいま、お母様!」
 オデットが逸る気持ちで元気に扉を開ければ、気配を察知していた
「ただいま、ちゃんと倒してきたよ」
「森ってちょっと疲れちゃうわぁ。だって木しか見えないのだもの」
 それにピュニシオンの森はイレギュラーズひとりでは倒せないような危険な敵が多く居るし、その相手をするのも大変だ。オデットの後に続いて入ってきたメリーノとルーキスは、亜竜が多くてくたびれたと溜息を吐いた。
「皆……怪我が少なくてよかった……」
 レインの言葉にこっくりと頷いたニルは、他の班の皆の怪我も見て回る。果敢に前へと出てオデットに攻撃がいかぬよう戦っていたサイズが一等怪我をしていたが、帰るまでに《絶気昂》で治癒したのだろう。大丈夫そうだ。
「おう、おかえりじゃ。もう食べられるぞ」
 雷のももう良いぞと声を掛けられた天雷が脱力してから肩を回せば、そそそとジルーシャが近寄った。
「天ちゃんもお疲れ様。とってもおいしそうなお餅になったわね!」
「儂の苦労の成果じゃ。美味に違いないぞ」
 ふふんと自信満々の笑みに吹き出せば、それじゃぁ何から食べようかと各々餅と調味料との睨み合いから始まる餅パーティ。天籟が用意した、あんこや醤油、ずんだ、チーズ。天雷が用意した、海苔。メイメイが託していった明太子。それじゃあ他のイレギュラーズたちはと、期待の籠もった視線が向けられる。
「つきたての餅はダイコンが美味って聞いたことがあるなあ」
 ルーキスは大根を持参したようだ。おろして餅と絡めるのだと聞いて、ニルとメイメイが瞳を輝かせた。
「お餅にのせると、ジーク様やメイメイ様のようです」
「めぇ。ジークさまとおそろいです、ね」
「ゴマで目を作るか」
 早速ふわもこ羊の『ジーク』を呼び出したゲオルグも加わった。
「私はチョコとバナナを持ってきた」
 薄く伸ばした餅に包んで食べれば、きっとデザートにぴったりだ。後から食べようとゲオルグが告げた途端に咲いた笑顔に、エーレンも破顔した。何をどう食べようかと話し合う時間はとても楽しいものだ。
「わしは醤油が好きじゃ」
「シンプルに美味いよね」
 天籟の言葉にルーキスが顎を引き、餅に乗せた大根おろしの上に醤油を垂らす。
「お母様はどう……お母様?」
「……。餅との距離を測りかねている」
「距離、ですか?」
 思わずきょとんとしたメイメイが首を傾げた。
「柔らか。吾に耐性が無く、弾け跳ぶであろう」
「ふふ、メファイル・ハマイイムさま、柔らかなもちもちは弾けたりはしません、から大丈夫です、よ」
 微笑ましげに微笑ったメイメイへ「真か」と返したメファイル・ハマイイムは餅に触れてみんとそろりと指先を伸ばし――。

 ――パァンっ!!

 急激に力を一点集中されてしまった餅は儚く弾け、メイメイの目はまぁるいお餅よりもまんまるになったし耳はぴょんっと持ち上げられた。メファイル・ハマイイムが力加減が本当に苦手であることを良く知っているオデットとゲオルグの表情は「ああ」と言ったところだろうか。缶に穴を開けたりもしているのだ、箸も折ってしまうかもしれない。
「何事じゃ!」
「天籟様、おもちがはじけました」
 音に驚いて飛んできた天籟へとニルが見たままのことを告げれば『意味が解らない』と言いたげな表情を向けられた。
「……弾けてしまいました、ね」
「吾が器用な竜ではないばかりに」
「気にしないで、お母様」
「……オデットが『あーん』してみるとかどうだ?」
 エーレンの言葉に、オデットが名案だと瞳を輝かせ――チラと伺い見た。メファイル・ハマイイムは、きっと『あーん』が解らない。
「お母様、私が食べさせてもいい?」
 口を開けてくれさえすればとオデットが告げるとメファイル・ハマイイムが顎を引き、パッと表情を輝かせたオデットがメファイル・ハマイイムの分の準備も始めた。
「畏れながらメファイル・ハマイイムに申し上げる」
「よい」
「餅が初めてであれば、最初はあえて何もつけずにつきたてをそのまま召し上がっていただきたい。米の甘味と香りが一番楽しめる食べ方ゆえ、餅のあるところで生まれ育った俺からお勧めする次第だ」
 豊穣や練達の食べ物だが覇竜でも広まることは良いことだ。聞けばこの眼前の竜は長く生きてはいるが人の食べ物を全然知らない様子。気に入ってくれると嬉しいと心から思い、エーレンが滑らかに紹介した。
「……なればそうしよう」
 助言を頂戴する。降りる睫毛はエーレンへの目礼、ついでオデットへと向けられる視線が「そのように」と告げていた。
「初心者は一気に量を口に入れないようにね」
「天籟様も、小さく丸めて食べてくださいね」
 ルーキスが見た感じ、本物の初心者はメファイル・ハマイイムだけだろうか? 解っておるとニルへと返した天籟も、ジークのために小さく餅をちぎるゲオルグも、その点しっかりと心得ており、「あち……あち……」と頬張るレインも元より小さめだ。
「さて、私は調理をしようか」
 つきたての餅を磯辺でひとつ頂いたルーキスがそう口にすれば、甲斐甲斐しくジークへときなこ餅を食べさせていたゲオルグも袖を捲り、エーレンも立ち上がった。
「なんと、調理を?」
 天籟が驚く。厨房を使えるとは告げていないから、餅への味付けができる調味料の持参をするだろうと考えていた。
「あー……俺も調理器具は持ってきたが、火元は……ないな」
 エーレンが頬をかく。彼が作ろうと思っていたずんだやあんこは元より用意されているため、追加で調理する必要はなさそうだ。
「わしはのー、厨房は立ち入り禁止とされておっての……」
 何処かの家に借りられないか聞いてくる、と天籟は飛んでいった。

「じゃああん! きつね力うどんなのよぉ!」
 ほんの少しならと貸してもらった厨房で作ってもらったうどんの器を掲げ、メリーノは嬉しげに笑った。炭水化物と炭水化物のカロリー……えっなんですかカロリーって? 急に解らなくなっちゃった……な、悪魔の食べ物だ。
 だが! 運動したから大丈夫! 森の中いっぱい歩いた!
 えっ、運動量が足りていない? 後からすれば大丈夫!
「わしもこれは好きじゃ」
「うむ。腹持ちが良いよな」
 天籟と天雷の辞書には元よりカロリーという単語はないのだろう。ふたりは豪快に食べ、メリーノとうどんに合う薬味談義に花を咲かせた。
「僕は……あんみつ。作ってみた……」
 果物と生クリーム、あんこと寒天。持ち込んだそれらを小さく丸めた餅と混ぜたレインがよかったらと甘味が好きそうな者たちへと勧めた。
「あんことお餅……お腹膨れる……」
 元より餅は少なめにしているが、けれども双方とも腹に溜まるものだ。
「美味いか、ジーク」
 ジークのキラキラお目々に催促されてあんみつを食べさせたゲオルグ自身も匙を口に運び、満足げに頷いている。熱いお茶が欲しくなる……と思ったところで、レインがお茶も差し出してくれた。
「あんみつ、わたしは大好きです」
「メイメイ様の『おいしい』ですか?」
 頬に手を当ててはいと頷いたメイメイは、先刻までは甘辛醤油、きなこ、ずんだと楽しんでいた。そこから満を持しての明太チーズ餅と、チーズと餅の伸び伸びを楽しんでいたものだから……しょっぱいものを食べると甘いものが食べたくなっていたところだったのだ。
「ふふ、おいしいです」
「辛いのも……ある……」
 事前に本を読んできたレインは、鞄にたくさんの調味料を詰め込んできていた。辛い味噌だとか、それから薬味となる紫蘇だとか。色々あるのだとゆっくりと話せば、メイメイの瞳がまた輝いた。
(みなさま、幸せそうです)
 静かに食べているサイズも、賑やかに食べている面々も、皆美味しそうに餅を食んでいる。その姿にニルが瞳を細めていると、うどんを食べ終えた天籟が飛んできた。
「ニル坊、食べておるかの」
「はい! バターと醤油のお餅も、ずんだやきなこのお餅も食べました!」
 おにぎりみたいに具材を変えて色んな味を楽しめるのは同じ米だからだろうか。不思議で、あれもこれもと食べたくなる。
「今は何を食べておるんじゃ?」
「チョコのをいただいています」
「じゃあわしも」
「……天籟様」
「ん」
「雨泽様の分を持って帰ってもいいですか?」
「うむうむ。では、みなの土産の分も作ろうか」
 パッと表情を明るくしたニルを見て笑った天籟は「雷の~!」とジルーシャとともに海苔チーズ餅を食べていた天雷を呼ぶ。
「アラヤダ、天ちゃんってばまた労働の時間なの?」
「みなの土産のためじゃ。雷のを借りるぞ」
「それならアタシが食べさせてあげるわ♪」
 口は動かせるでしょうと微笑んだジルーシャも天雷とともに餅つき機の前へと移動し、なればとエーレンも立ち上がる。
「つく段階からよもぎを混ぜてよもぎ餅にしたい」
「良いの~。あれはわしも好きじゃ」
「ニルもお手伝いしたいです!」
「そういえば、ゆー坊は餡を包んだよもぎ餅が好きらしいぞ」
 天籟から『おいしい』情報を聞いたニルはやる気にぎゅっと拳を握ってエーレンへ「がんばります」と告げ、エーレンが破顔した。
「……あのね、お母様」
 オデットはメファイル・ハマイイムに餅を運びながら、他の地域にも滅びが近づいてきていることを告げた。そしてそこへオデットも向かって戦っている。
「お母様に逆縁は大罪だと言われたから、私、絶対に生きて帰るわ」
 餅をもごもごと食むメファイル・ハマイイムは何度か迷う仕草をし、それでも力加減にとても気を使いながらオデットの頭へと手を置いた。
「わたしのお友達にもレグルス竜がいるのよぉ」
 あなた達は母娘なの? そう口にしたメリーノへ、初めてメファイル・ハマイイムが視線を向ける。メリーノの友人の竜は赤くて可愛くて、そして生意気! こぉんなお顔をするのと真似してみせれば、心当たりがあったのだろう。メファイル・ハマイイムが「ああ」と言葉を零した。
「ねぇ、おもちを伸ばす勝負をしない? 長く伸ばせたほうが勝ちなの!」
 メファイル・ハマイイムがそっと目を閉ざす。彼女は争いごとを好まぬ竜だ。故に、はいっとオデットが挙手をする。
「お母様の代わりに私が! 見ていてお母様、私、勝つから!」
「負けたほうが次のお餅を持ってくるパシリ役をやるのよ!」
 メファイル・ハマイイムに良いところを見せたいオデットは餅を頬張りびよんと伸ばし、メリーノも負けじとあちあちはふはふしながら頬張った。
(よかった、オデットさんが楽しそうだ)
 彼女のためにと張り切っていたサイズはのんびりと餅を食み、そこに溢れている笑顔を見守っていたの。
 片付け方面をルーキスがちょくちょく見ていたからか、土産の餅が出来る頃にはすっかりと片付いていて、みな腹を満たしたまま気持ちよく帰ることが叶う。たっぷりとお餅をもちもちして満たされた羊のジークはまぁるくお餅みたいになって寝付いていて、覗き込んだレインとメリーノがほっこりとした表情となった。大きな音や声に気をつけて帰ろうね。
「何か異変があったらまた呼んで欲しいな、覇竜は良いところだしね」
「うむ、その時はよろしく頼む!」
 ルーキスは帰宅したら家族とまた餅を楽しむらしい。旦那にもよろしくの~と天籟は手を降って見送った。
「天ちゃんは本当にお疲れ様ね」
「儂等の時間はまだこれからじゃ」
「アラ。それじゃあアタシもご相伴に預かっちゃおうかしら♪」
 残った年長者たちは、餅を肴に宴へと。

成否

成功

MVP

エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

状態異常

なし

あとがき

おもち、もちもち!
もちもちもちもちもちもち!

(ノ)•ω•(ヾ)

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