＜グレート・カタストロフ＞星空より来る毒、シルヴァリィ：Side Red

オープニング

●星降る
　星海獣。
　それは、空に凶星が輝くときに、訪れるとされる災厄――。
　無差別にエネルギーを喰らい、取り込み、進化する、恐るべき終焉に来る獣――。
　それは、ピュニシオンの森に存在する、『ザビアボロス一族の領域』にもまた、その魔手を伸ばしつつあった。
　それは、本来ならば、小さき甲殻類のごとき姿であった。ザビアボロスの領域に落ちた星海獣のうち、その多くは『領域に存在する毒素』によって衰弱、死に絶えていったが、しかし一部の獣は、その死骸を、死にかけた仲間を喰らい、さらに強力、凶悪に、短期間に進化していった。
　やがて、そのうちの一匹が、ゆっくりと身を起こす。さながら蟲毒の壺のなかめいた状況から、今まさに人の形へと成ったそれは、病的なまでに薄い色素と、漆黒のような長い髪を持った女のように見えた。
「う、い、あ」
　それが、ぼそぼそとうなる。まるで出来立ての声帯を試すかのような仕草は、急速な進化による『慣れ』を覚えるようにも思える。やがて、それがすっきりと息を吸い込むと、
「食べる。この地の毒を、すべて」
　そう、言った。知能も獣のそれから一瞬にして進化したと思われる。毒の地より生まれたそれは、今まさに世界を喰らう猛毒となって、この世界に生誕した。

「厄介だな……」
　そう、ムラデンは言う。現在ヘスペリデスとピュニシオン近辺をラドネスチタたちが守護しているわけだが、その眷属の一人から、急遽連絡がもたらされたのである。
　曰く、ザビアボロス一族の領域に、星の獣現る。
　突如として現れ、蟲毒の果てに急速進化したその人型の個体は、周辺の亜竜たちを滅びのアークによって狂わせ、『滅気竜』として自身の配下に置いた。そして、新たなる領域の長シルヴァリィを名乗り、ザビアボロスの領域から零れ落ちようとしているらしいのだ。
「……私、あそこにいい思い出は、ないけど」
　ストイシャが言う。
「お菓子作ってたら、先代に怒られたし。
　でも、お姉さまの、場所だから」
「そうだな。できれば取り返したい。
　ラドネスチタに任せっきりってのもしゃくだものね」
　二人の従者がそういうのへ、ザビーネ＝ザビアボロス――本来の領域の主はうなづく。
「ムラデンは、残ってもよいのですよ。
　お嫁さんが、いるのでしょう？」
「いや、嫁じゃないけど」
　ムラデンが眉をしかめた。
「嫁じゃないの……？」
　ストイシャが言うのへ、
「結婚は、まだ」
「『は』」
　ふひひ、とストイシャが笑う。ムラデンがかぶりを振った。
「それに、そんなことで逃げてる僕は、あいつは好きにならないでしょ……じゃなくて！
　とにかく、僕らで……と思ったけど、正直僕とストイシャは、まだ本調子じゃないんだよね」
「申し訳ありませんが、私も」
　ザビーネが、静かにうなづく。三人は、前回のヘスペリデスの戦いでの消耗が癒えていない。多少はマシになったとはいえ、かつての十全の力を出すことは困難だ。
「そ、それに、眷属の亜竜を使うのも危ない。
　終焉獣？　っていうのに寄生されたり、滅びのアークの影響で滅気竜になっちゃっても困る……」
　ストイシャのいうことはもっともだ。今現状、最も利用できるのは眷属であるザビアボロスの領域の亜竜だが、彼らが敵に利用される可能性は充分以上にあった。
「実際、戦闘能力の高いアドヴァルグとフライレイスの二匹が滅気竜にされちゃったからなぁ。
　ナイトシーカーより、忠心があっていいんだけど、仇になっちゃったか……」
　ムラデンが名を上げた二匹は、眷属の中でも特に強力な種の内の二匹だ。かの群れは、侵略者たるシルヴァリィに果敢に戦いを挑んだが、そのうちの一匹ずつを滅気竜にされてしまい、撤退をしたのだという。
「敵はほかにも滅気竜の群れがいるんだ。どうしようかな？」
「そう、ですね」
　ザビーネが言う。
「領域の中でなら、私は、権能を使って内部の毒素を兵隊にすることができます。
　……本調子ならば、そのまま戦うこともできたのですが。
　今は、おそらく、毒素の兵を維持することで精いっぱいでしょう」
「膠着状態にはもっていけるけど、親玉は倒せない」
「……前の時と、一緒、ね」
　ムラデンとストイシャが、うん、と声を上げた。
『なら、また、みんなに力を借りればいい』
　同時にそういう。二人は長い交流の果てに、人間――ローレット・イレギュラーズたちへの信頼の心を持ち合わせていた。それは、ザビーネも同様に持ち合わせていた気持ちだった。
「……では、彼らの力を借りましょう。
　私たちの、故郷を取り戻すために」
　そういうザビーネの言葉に、二人はうなづいた――。

●Side Red
「ザビアボロスの領域を奪回したいんだよね」
　と、ムラデンは『あなた』たちへと告げた。
　なんでも彼によれば、星海獣である『シルヴァリィ』とその配下たちが、ピュニシオンの森に存在するザビアボロスの領域に現れたのだという。
　シルヴァリィは、ザビアボロスの眷属亜竜たちを滅気竜へと変え、内部を食い荒らしている、のだそうだ。
「このままだと、外にまで出てきかねない。
　僕はぶっちゃけ、あの場所はあんまり好きじゃないけど。
　おひいさまが育った場所で、僕たちが過ごした場所だ。守りたい」
　そう、彼にしては珍しく、一切の皮肉もなく、まっすぐな言葉でそう告げた。
「私たちは、何をすれば？」
　そう尋ねる仲間のひとりに、ムラデンはうなづく。
「大物はおひいさまが何とかするとして、僕たちが倒したいのは、滅気竜アドヴァルグだ。
　もともと、かなり強力な種類の眷属亜竜だけどね。一匹が汚染されちゃったわけだ。
　ちょっとした雑魚なら、おひいさまの毒竜兵で何とか出来るんだけど、アドヴァルグは別。
　消耗したおひいさまの毒竜兵じゃ対処が難しい。
　というわけで、僕たちの出番ってわけ」
　アドヴァルグは、毒を用いて刃物のようなものを作り上げ近接攻撃を仕掛けてくる獰猛な亜竜なのだという。
「正直、今の消耗してる僕でもまともに戦うのは避けたい。　
　というわけで、キミたちだ。
　正直、キミたちのことは信頼している。やってくれる、ってね。
　嫌味とかジョークじゃないぜ。これは本当だ」
　彼の真摯な瞳を見れば、それは本気だとわかるだろう。そして、それほどに、ローレット・イレギュラーズたちは信頼を積み重ねてきたのだということも。
「まかせてくれ。力になる」
　そういう仲間へ、『あなた』もうなづいた。
「よろしく頼むよ。
　正直、しんどい戦いだとおもうけどさ。キミたちを信じてる」
　そう、彼は笑った。

●毒牙の翼アドヴァルグ
　もう、彼に本来の誇り高き精神はない。
　ただ、滅びに飲まれ、滅びを巻くだけの存在になり果ててしまった。
　毒牙の翼よ、哀れなるものよ。
　彼は狂気に吠えた。
　眼下に、獲物を――『あなたたち』を、見つけたのだから！

• ＜グレート・カタストロフ＞星空より来る毒、シルヴァリィ：Side Red完了
• GM名洗井落雲
• 種別通常
• 難易度HARD
• 冒険終了日時2024年01月29日 22時10分
• 参加人数8/8人
• 相談6日
• 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました！　リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧（8人）

サポートNPC一覧（1人）

リプレイ

●赤の竜と堕ちた亜竜
　すでに戦闘が始まっているようだった。
　上空に飛ぶ滅気竜たちが、人とも竜ともつかぬ異形の戦士たちと戦い、墜とされていく。
「あれは」
　『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス（p3p002007）が、それを見上げながら声を上げる。
「ザビーネのものか？　式神や使い魔のような？」
「その認識で大丈夫。ザビアボロスの一族は本来は使えるんだ」
　ムラデンが言った。
「まぁ、おひいさまは、まだ未熟って言って、ザビアボロスの一族の領域の毒素を利用しないと使えないらしいけど。
　先代はどこでも使えたはずだよ。前の戦いのときは、僕らが抑えてたから使ってなかったんだけどね」
「あれでも、まだ力を押さえられていたほうだったか」
　マカライトが言う。かつてイレギュラーズたちと相対した先代――ハーデス＝ザビアボロスは、ザビーネとムラデン、ストイシャの三竜が全力を以て力を相殺してなお、多数のローレット・イレギュラーズたちの命を懸けた働きがなければ討ち果たせぬほど強力な竜であったのだ。
「とにかく、周りの連中はあれに任せておいて問題ないよ。そこは信じて。
　ただ――アドヴァルグは少し違う。人間は、親衛隊、っていうのかな？　要するに、一族を守るのにも強力で、近い場所にいるような奴らだ。もちろん、亜竜だから竜種の足元にも及ばないとしても、それでも充分に強力な奴だった。それが、滅びのアークでさらに強化されたっていうんだ。」
　弱体化した僕じゃ勝てないかもしれないだろうね、と、飾ることなく本心をいう。
「そんな奴だから、いくらおひいさまのあの使い魔……竜毒兵といえど、アドヴァルグはつらい。今は、シルヴァリィのいる位置から追い払ってもらってるけど、あれをおひいさまたちの戦場に合流されたら不味い」
「へぇ。竜が泣き言をいうレベルですか」
　からかう様に言う『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス（p3p001254）へ、ムラデンは肩をすくめた。
「僕はほかの竜の皆様みたいにプライドは高くないんでね。泣きつけるときは泣きつくよ」
「よく言うよ……」
　『今を守って』ムサシ・セルブライト（p3p010126）が苦笑した。ホントは、今でも悔しくて仕方ない癖に。
「ま、いいですよ？　無敵の竜種でもしんどい相手。でも、滅びのアークがかかわっているなら、それは私たちイレギュラーズの仕事――ってのはさておいて。
　というか、何時の間にあそこのストーカーと、そういう感じの仲に？」
「ストーカー？」
　ムラデンが小首をかしげる。その先には、『ともに最期まで』水天宮 妙見子（p3p010644）の姿があった。うげぇ、とムラデンが声を上げる。
「なんだよたみこ、ストーカーまでやってたのかよ」
「やってません！　やってませんよ！？　いや、ちょっとまって、『まで』ってなに！？　ほかに何かやってたみたいな言い方！」
「いやぁ？　うん、確かにちょっと強引だよなたみこ。わかる。大変だったんじゃん、キミも」
　言って見せるムラデンに、リカは表情をゆがめた。
「同情に見せかけた惚気とかやめてもらえます？」
「……ムラデンさん、前に見た時よりもずっと、雰囲気が柔らかくなりましたね」
　『未来を背負う者』劉・紫琳（p3p010462）が、くすりと笑う。
「とても良いことだと思います。お嫁さんは大切になさってくださいね」
「嫁じゃないけど？」
　ムラデンが驚いた顔をした。
「なんでみんなそういうんだ？　結婚はまだしてないって！」
「『まだ』」
　『雨夜の映し身』カイト（p3p007128）が目を細めた。
「なるほど。『きいていたとおり』だ」
「ちょっとまってよ、何を聞いてたんだよ！」
　慌てるムラデンに、カイトは肩をすくめる。
「なるほど、本当に聞いていた通り――と、あまりからかうのもよくはないか。
　さておき、今回の敵は星の獣に穢された仲間だ。
　空より破滅が来たる――ってのはよくある『物語』（はなし）だ。
　だが、『物語』は『物語』（くうそう）だからこそ、よくあるべきで。
　『現実』に持ち込んで来るのは、マナー違反だ」
　す、と目を細める先に、空から飛来する何かがの姿があった。直線的なシルエットは、一振りの刃をもイメージさせる。全身これ刃、といった形状をした異形の亜竜（ワイバーン）は、
「アイツがアドヴァルグだ」
　少し辛そうに、ムラデンは言った。随伴するように飛び降りてきたより身軽そうに見える三匹の異形の亜竜である。
「滅気竜か……どうやら、さすがにすべてをザビーネに何とかしてもらうわけにはいかなかったようだな」
　マカライトが言う。とはいえ、もとよりこの数は想定内である。不測の事態が起きたわけでもないわけで、この間、戦いを続けているであろうザビーネ、ストイシャ組は、順調に戦闘を継続しているのだろうことはわかる。
「ほかのところに迷惑はかけてられないね」
　『昴星』アルム・カンフローレル（p3p007874）が、静かにそういった。
「この場に星海獣はいないとしても。君たちは、その犠牲者だ。
　俺は、星海獣のことをよく知らない。けど、知らないといけないと思う。
　そのためにも、この場所は、奪還しないといけない」
　決意を胸に秘めつつ、アルムは続ける。
「……ムラデン君。眷属を倒すのは」
　一度目ではなかった、と、アルムは言おうとした。それを、ムラデンはかぶりを振って止めた。
「うん。まぁ、いい思いがあるわけじゃないよ。
　でも、キミたちにお願いしたんだ。大丈夫。気にしないで」
「……」
　その様子に、妙見子はわずかに表情を曇らせた。
「強がりばっかり……」
　その言葉は、誰の耳にも届かない、妙見子のもどかしさの発露でもあった。
「わたし達も一緒に戦うから」
　『夜守の魔女』セレナ・夜月（p3p010688）が、少しだけ優しく笑って、言った。
「まったく、誰かさんに聞いた通り！
　大丈夫よ、『わたし達』に任せて。
　ええ、信頼には応えるわ！
　夜守の魔女、セレナ・夜月が、終焉を打ち払って見せる！」
「まかせてくれ。力になる。
　……まだまだ超えられてはないけど、な」
　ムサシが、笑った。ムラデンも、にやり、と笑って見せる。
「そう簡単に超えられてもしゃくだよ。
　ふん、けがすんなよな、ムサシ！」
　身構える――その炎の闘気は、まさに竜のそれか。弱体化していたとしてなお強力なそれを合図に、イレギュラーズたちも一斉に構える。
「さて、誰も死ぬんじゃないですよ！　特に新婚の二人は、子供の顔見せるまでは！」
　リカがそういうのへ、ムラデンが叫んだ。
「まだ新婚じゃない！！」
「結構面白い方だったのですね」
　紫琳がくすくすと笑う。さておき、アドヴァルグは此方の戦意を感じ取ったかのようにほえた。そして、すぐにその身をぎゅう、と縮こまらせると、刹那、爆発するように飛び込んできたのである――。

●滅気竜迎撃
「さぁて、どうする？　皆？」
　ムラデンが声を上げる。敵の数は四。内、トップエースはアドヴァルグだ。残りの三匹は雑兵（といっても、魔に堕ちた亜竜だ。『雑魚』ではない）ではあるが、それゆえにアドヴァルグを狙わせてはくれないだろう。
「ええ。まずは周りの滅気竜から。しかし、アドヴァルグの足を止めないわけにはいかないでしょう」
「その辺、そっちのストーカーさんにお願いしますよ」
　紫琳の言葉に、リカが妙見子をさしていう。
「ムラデン坊やもちょうどいいんじゃないですか？　夫婦最初の共同作業でもしてらしたら？」
「ちょ、ちょっと！？」
　妙見子が慌てるのへ、ムラデンはむー、とうなってから、
「まぁ、確かにたみこと僕ならいけるだろうね。でも、もう一声ほしいかな？」
「では、私が」
　紫琳が手を上げた。ムラデンがうなづく。
「よし、決まりだ。ほら、しゃっきとしな、たみこ！」
「うう、よし！　もういつも通りです！
　さぁ、手を、ムラデン！　行きますよ！」
　ムラデンの手を握り、妙見子が駆けだす。妨害しようとする滅気竜を、紫琳の銃弾が貫いて止めた。
「このまま、攻撃にうつります。お二人の邪魔をしない程度に」
「ああ、そうしてくれ」
　わずかに苦笑しつつ、カイトが言った。
「しかし……こういう時はライスシャワーかブーケを降らせるべきなんだろうがな。
　俺ができるのは、しのつく雨を降らせることだけだ。
　……六月の花嫁ってことで勘弁してくれ」
　軽くジョークを交えつつ、しかしその瞳はまっすぐに世界の脅威を見据えている。かざした手から力がほとばしり、やがて大地から黒い雨が、天に向かって降り注ぐ。
「滅びや災厄は『お前達の専売特許にはしてやらない』。上からも下からも浴びせてやるよ」
　ぐずぐずと降り注ぐ雨が、三匹の滅気竜を貫いた。ぎお、と悲鳴を上げつつも、しかし本能的なものか、アドヴァルグを守るようにイレギュラーズたちに襲い掛かる。
「やれやれ、変な忠心はあるんですから、こういうやつらは！」
　リカが立ちはだかり、振り下ろされたかぎづめを受け止めた。ち、と舌打ち一つ、わずかに零れた血。
「……ストーカーの結婚式を、なんでわたしが血を流して演出してるんですかねぇ？」
「世界のためだ。腐りなさんな」
　マカライトが、斧槍をたたきつける。滅気竜の内一匹の背の翼を切り裂いた。
「それに……婚姻結ぶ前に実家が奪われたってのは、締まらないだろうしな」
「なんか好きかって言われてる気がするぞ、たみこ！」
「えーえー、言わせておきましょ！」
　アドヴァルグと戦いながら、二人が喧々諤々と声を上げる。
「仲いいのね」
　くす、と笑うセレナ。
「さて、こっちは容赦はしないわ。早いところ、式には参列してあげないとね。
　マリエッタ。エーレイン。わたしに力を貸して」
　セレナが祈るようにつぶやくと、その心の内に何か温かいものがあふれるような気がした。力を貸してくれるそれの温かさを感じながら、セレナはその手を掲げる。放たれた魔力が、中空で無数の『牙』となって、マカライトが切り裂いた滅気竜に食らいついた。
「ごめんなさい。あなたは何も悪くない」
　ぐ、と手を握った刹那、牙が、『千喰杭殺』の魔杭が、まさしく大地に杭打つように、滅気竜を縫い付けた。そのまま、大地から降り上がる雨が、ぼそぼそとその肉体を解体していく。
「さて、あいつにかっこ悪いところは見せられない！」
　ムサシも叫び、突撃する。輝くレーザーブレード。咆哮とともに突撃するそれは、地をかける狼であるか。
「ふ――ッ！」
　呼気とともに、ブレードを振り下ろす。斬撃が、頂点から滅気竜をたたきと落とした。ぐえ、と悲鳴を上げる滅気竜が地に落下する。激しい振動とともに、しかし立ち上がった滅気竜を、狙ったのはリカの雷撃だ！
「こちらの優勢となれば、息つかせませんよ！」
　ふるわれる刃が雷を伴って四方八方寄り切りつける！　瞬／断！　雷は斬撃とともに体をえぐり、滅気竜の焼き／斬り捨てる！
「いいペースだ、妙見子君と紫琳君、ムラデン君も無事！」
　戦場俯瞰し、回復手を務めるアルムが叫ぶ。アドヴァルグと戦う三人も、無傷とは決して言えないが、戦闘不能に陥るほどではないようだ。三体もの滅気竜をひきつけたリカのほうが傷は深いかもしれないが、しかしそれもここまでであろうか。
「よし。仕留めるぞ」
　マカライトが声を上げ、斧槍をたたきつける。合わせるように放たれたムサシのレーザーブレードが、最後の滅気竜を切り伏せる。
「……ごめんよ」
　アルムが静かにつぶやくのへ、カイトがかぶりを振った。
「気に病むな」
　彼らもまた被害者であるといえた。だが、今は心を痛めて足を止めているわけにはいかない。
「行こう。早く終わらせてやることが、せめてもの情けだ」
　カイトの言葉は、まさに真実である。もう戻れない。苦しむのならば、その苦しみを終わらせてやることしかできないのだ。

「ムラデン、無事か！？」
　ムサシが駆けだしながら叫ぶ。ムラデンが、ふん、と鼻を鳴らして見せた。
「見てのとおり！　余裕！」
　とっさに振り払った手から放たれた炎が、アドヴァルグの刃のような毒液を受け止めた。
「僕はいい！　たみこと紫琳のほうを見てやって！」
　先ほども言ったが、三人は無傷というわけではない。アルムが速やかに二人を介抱するのへ、ムラデンが後方へと飛びずさる。
「ムラデン、そのまま援護に回ってくれ！」
「けど……！」
「俺たちにとっては、お前も守る対象だ！
　後は任せろ！　俺はあのときよりもっと強くなったからな、少しは追いつけてると……思いたい！」
　叫ぶムサシへ、ムラデンはうなづいた。
「……かっこ悪いとこ見せんなよ！　たみこもいったん下がれよな！」
「いいえ、こちらはまだまだ、ですとも！」
　妙見子がほほ笑む。
「師匠も来ましたからね！」
「うっさいですよ、ストーカー！」
　リカが笑いながら飛び込む。アドヴァルグが振るう、刃のような毒のそれを、二人が受け止めた。
「なんか今日のリカちゃん、咬ませっぽくないです？」
「いえいえ、輝いておりますとも！」
　二人が力を合わせて、一気にアドヴァルグを押し返す。一方で、セレナがパチンと指を鳴らした。降り注ぐ牙杭が、ず、ず、とアドヴァルグに突き刺さる――だが、アドヴァルグはそれを振り払い、再び咆哮を上げた。
「くっ……さすがに、強い……！」
　凶暴にほえるアドヴァルグ、乱雑に放たれる、レーザーめいた毒のブレスが、イレギュラーズたちの体に深い傷をつける。
「……！　まったく、これも滅びの影響か！
　ここだけで済む話じゃないんだろうな……！」
　カイトが痛みに顔をしかめながら、つぶやく。そうだろう、滅びの影響は、ここだけではすむまい。世界中が、危機に瀕しているのだ。だったら。
「ここで負けていられる余裕はないってことだ。
　昔は俺も鈍らを自称してたりしてたんだが――多少は、研がせて貰っちゃ居るんだぜ？」
　ぱちん、と指を鳴らした。とたん、アドヴァルグの左翼が、赤の結界にとらわれた。激痛。極寒と爆発する血に、アドヴァルグがバランスを崩す――。
「このまま縫い付けます！」
　紫琳が再び、銃弾を放った。足に一発。さらにもう一発。アメイズ・グラヴィティ・ヴァレット。ぐにゃり、とその足元の重力場が乱れ、アドヴァルグが体勢を崩す――。
「とどめを！」
　ムラデンが叫んだ。
「……！　さしてやって！」
「ムラデン……！」
　妙見子が、わずかに目を伏せた。彼にとって、眷属の亜竜とはどういう存在だったのだろうか。先代に付き従い、その後はザビーネに付き従うことになった彼らは、厳密にはムラデンの部下とか眷属というわけではない。それでも、同じ場所で生きたゆえの気持ちは存在したのではないだろうか、と思う。
「……」
　彼の気持ちが、解るような気がした。彼が、悲しんでいる、そんな感覚があった。
　だから、妙見子はムラデンの手を握ってやった。そうすることが、正解な気がしたのだ。ムラデンは、少しだけ強く、それを握り返した。
「とどめを、刺す！」
　受けたのは、ムサシだった。レーザーブレードを、十文字にふるう。
　斬。撃。十字に切り裂く光を背に、武蔵は叫んだ。
「爆・燦！」
　同時、炸裂するエネルギーが、アドヴァルグを爆散させた。それが、まるで墓標のように、爆炎を空に巻き上げる。
「……」
　ムラデンが、ゆっくりとそれを見上げていた。妙見子が、強く手を握る。
「ムラデン。ほら。あなたの悲しみを、私にも分けてください」
　つよく、強く。
「半分こです。これから……一緒に生きていくんですから……」
　そう、妙見子が言うのへ、ムラデンは少しだけ悲しそうな顔をして、うなづいた。
「……あの亜竜はさ。前から結構、おひいさまよりのやつでさ」
「うん」
「馬鹿だね。さっさと逃げてしまえばよかったのに」
「ムラデン君……」
　アルムが言った。
「……祈りを。
　それから……滅びを必ず防ぐことを約束するよ。
　滅びのアークに侵されてしまう人が、これ以上出ないように」
　アルムの言葉に、ムラデンはうなづいた。
　空に、命の炎が上がっていくようだった。
「……何をいちゃついて、と思いましたが」
　リカが肩をすくめる。
「リカちゃん、空気は読めますので。ま、ひとまず良しとしましょう」
「ああ。防ぐべきは、倒すべきは、世界の破滅だ」
　カイトがうなづく。
「せっかくつないだ絆だ。滅びなんかに、壊させはしない」
　マカライトの言葉に、紫琳がうなづいた。
「ようやく、この覇竜の地に、平和が、未来が芽生えたのですから……」
　空を見上げる。無数の滅気竜は、ほどなく姿を消した。ザビーネ、そしてストイシャのチームも、見事に作戦を完了させたのだろう。
「……帰りましょう。
　皆に、報告しないとね」
　セレナの言葉に、ムサシはうなづいた。
「帰ろう、ムラデン」
「……ああ」
　ムラデンは、うなづいた。
　かくして、仲間たちは、帰路へとつく。
　帰るべき、場所へと。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

　ご参加ありがとうございました。
　今はただ、静かに。