PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<美徳の不幸/悪徳の栄え>愛と独占欲

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ローレット、襲撃
 各地で異変が起きている。
 そんなものは常と言っても良いこの混沌世界。
 その日も、各地の異変の情報がローレットへと舞い込んでいた。
 そんなある日のことだった。

 ――ドン!

 どかんと称した方が良いだろうか。それともボンと称した方が良いだろうか。――爆発音らしき物とともに、『ローレット』が揺れた。
 依頼を選別していた者、酒場として会話や酒を楽しんでいた者、宿屋としてりようして客室で微睡んで居た者、カウンター奥で書類と向き合っていた者。その全てがハッとした表情で顔を上げた。
 何者かがローレット内へ入り込み、暴れた。
 素早く武器を手にした冒険者たちが応じる。
 だが――強い。
「魔種だ!」
 誰かが叫んだ。
 悲鳴が上がる。
 戦闘に応じられる者はこぞって得物を握る。
 しかし、敵方はひとりではない。次々と襲撃者がローレットを襲った。
「僕は外の人たちを避難させてくる!」
 君たちはローレットのことを!
 劉・雨泽(p3n000218)カウンター内に居る猫のフードやベルディグリの彩持つ同僚たちへと素早く声を掛けて動けば、席を立ったばかりの青髪の有翼の青年――Tricky・Stars(p3p004734)も「俺も行こう」と後を追った。
 ローレットの外は――酷い有様であった。
 あちらこちらで火の手が上がっている。
 王都のいたるところへ同時に攻撃が行われ、人々が逃げ惑っていた。
「……大衆演劇にありがちな状況だ」
 ローレットを避難所に選べない。
 各地で魔種たちが暴れていることを察すれば、王都内の何処も避難所に選べそうにない。
 ひとまずローレットの側にいる人たちを魔種から守ろうと、ふたりは救助活動へと廻った。

●みんな、大好き
 奴隷であったところを救われたアルヴィースは、イレギュラーズが大好きだった。
 運命の人。救ってくれた人たち。
 彼等は自分だけでなく、もっと多くの人々を救う懐の大きな人。
 人々を救うみんなは生命に煌めいて、とても頼もしい。
 ああなんて素晴らしい人たちなのだろう。
 イレギュラーズたちと恋仲になりたい。けれど、どうしよう。全員と結婚したい。どうすればあそこに通う全員と結婚が出来るかな? アルヴィースはいつもローレットを物陰から見つめ、そうして愛を膨らませてきた。
 なのに。
(どうして他の人が来るの? みんなは僕のものなのに)
 冠位魔種の動きにより、他の色欲の魔種たちが王都メフ・メフィートを襲撃せんとしていることをアルヴィースは知ってしまった。
 イレギュラーズが他の魔種のものになるだなんて許せなかった。
 だから、アルヴィースは――。

 ――子供?
 慌ただしくなった周囲に反してぼんやりと佇んでいる子供を見つけ、雨泽が振り返った。
「君、ローレットの冒険者じゃないよね?」
 声を掛けながら駆け戻ってきた雨泽は少年のすぐ傍へと近寄ると腰を屈め、「お父さんやお母さんは?」と問うた。居ないのならば、自分が安全なところへ抱えて行かねばならない。
「お兄ちゃん、優しいね。いつも見ていたよ。……大好き」
 黒髪の少年が振り返り、赤い瞳を愛おしげに細めた。
 頬を染め、愛しさと嬉しさを募らせた表情で、彼は雨泽を見上げた。
(ああやっぱり。『みんな』は優しい。僕を気にかけてくれる)
 少年は嬉しくてたまらなくなった。運命を感じた。まずはこの人だと思った。
「お兄ちゃん、僕と結婚してくれる?」
「君……、っ」
 少年の瞳は怪しく赤く灯り、苦しげに胸を抑えた雨泽は地へと膝をついたのだった。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 王都を襲撃している魔種を退けましょう。

●成功条件
 アルヴィースの撃破

●シナリオについて
 王都メフ・メフィートに大勢の魔種が現れています。宮殿への襲撃、王都への襲撃、そしてローレットへの襲撃をせんとルクレツィアの命のもと、色欲の魔種たちが暴れています。
 このシナリオの舞台は、ローレット近辺となります。
 ローレットを飛び出した雨泽が魔種と対峙しています、が――。
 Tricky・Starsさんがこのシナリオに参加した場合、雨泽の一番近くにいる=アルヴィースの一番近くにいるイレギュラーズはTricky・Starsさんになります。

●フィールド『王都メフ・メフィート』ローレット近辺
 ローレットからすぐ近くの、左右を民家が挟む道です。
 道路幅は10m程(一般的な車道は4m)なので幻想的には広めな道路と言え、王都の民たちが逃げ惑っています。
 人数が必要とはなりますが、この場に残っている人たちを避難誘導することが前提の上で、この区画を封鎖することも可能でしょう。王都内で避難場所を探すのは難しいことでしょう。人々への避難誘導をする場合は――。

●アルヴィース
 幼い見目の色欲の魔種です。
 雨泽が好きなのではありません。イレギュラーズ全員のことが大好きです。全員と恋仲になって、全員と結婚したいです。その恋路を邪魔する者は許しません。例えそれが恋い慕う相手(イレギュラーズ)であっても。
 他の魔種に取られる前に、ひとりでも多くのイレギュラーズたちと恋仲になり結婚したいと思っています。
「この気持ち、分かってくれないなら……残念だけど、ちょっと痛いことするね?」
 攻撃は色欲の魔種らしく【魅了】【恍惚】【無策】がついているものが多いです。窒息系や不吉系も使えます。
 みんなのことが大好きなので基本的には【怒り】ませんが、チャームした相手(初期状態では雨泽)を奪おうとする人に対してなら【怒り】ます。

・魔種能力『僕を愛して』
 色欲属性の魔種は他人の心のコントロールを奪ったり、感情を増幅したりすることが得意です。彼もまた【魅了】『とは違う』魔種能力としてのチャームが使えます。
 この状態(プレイングは【愛】で通じます)に陥った場合、アルヴィースのことを好きになります。アルヴィースのことを愛おしく思うし、頬が熱くなったり、動機もします。イレギュラーズであれば頭がぼんやりとしてクラクラして何もできなくなる程度ですが、一般人は狙われなくとも運悪く余波で陥る場合があり、愛している人(アルヴィース)を守ろうとします。アルヴィースは一般人のことは好きなわけではないので、彼等がどうなろうと気にしません。
 この判定は、毎ターンランダムでひとり選ばれます。近ければ近いほどかかりやすくなるので『近い人』、優しくしてくれる人が大好きなので『優しい人』が選ばれやすくなります。『愛に対しての理解度が高い』『愛する人がいる』人はある程度の耐性を持ちます。呼び声のように心を強く持つ等の対策を行うことである程度回避できることでしょう。
 また陥った場合も同様に、心を強く持ってその想いを否定(1ターン~複数ターン消費)することで払い除けれます。

※このシナリオに他の魔種は登場しませんので、「他の魔種にぶつける」等の行動はできません。

●劉・雨泽(p3n000218)
 ローレットの情報屋兼冒険者。
 アルヴィースの能力にかかっており、アルヴィースを攻撃できません。(混乱しているため、彼を守ることもしません)恋とか愛とか良くわからない雨泽は、このアルヴィースの魔種能力に対して耐性を持ちません。
 特別に彼に対して何かをする必要はありません。戦闘や救助に専念して大丈夫です。
 この状態から脱却した際は、「王都内の民間人救出」or「戦闘」を選択します。希望があればプレイングに記してください。特に無ければ前者を優先します。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時等に活用ください。
 王都に居る関係者のみ採用可能ですが、救助活動のみになります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それではイレギュラーズの皆さん、どうぞご武運を。

  • <美徳の不幸/悪徳の栄え>愛と独占欲完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年01月26日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

サポートNPC一覧(1人)

劉・雨泽(p3n000218)
浮草

リプレイ


 小さく息を飲んで胸を抑えて息を呑んだ劉・雨泽。『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)はその姿を見た瞬間に彼の名を呼び、そして駆けた。
「……あれ、お兄ちゃん」
 少年が微笑む。嬉しそうに、愛おしそうに。
 会いに来てくれたんだねと微笑むその姿は無邪気で年相応に見える――が、苦しげに膝をついた雨泽の姿を見れば、彼が『只者ではなくなった』ことが見て取れる。それこそ、大衆演劇にありがちな展開だ。
「その顔、覚えがある。君は奴隷の役から降ろしたはずだ。何故そこに立つ? 何故自ら自由を捨てた?」
 少年――アルヴィースと雨泽の間に立ち、隙無く身構える。
「そう。お兄ちゃんが僕に自由をくれたんだ。奴隷じゃなくなった僕には自由がある! お兄ちゃんたちと結婚する自由も!」
 話が通じない、埒が明かぬ、とStars――稔は思った。
 すぐさま襲ってこないのであれば、眼前の少年への優先順位が下がる。
「雨泽君、大丈夫か? 動けるようなら離れた方がいい」
 雨泽は苦しげに、病に罹ったようだとStarsへと自身の状況を伝えた。急な発熱と動悸、発汗、目眩――此等はアルヴィースを視界に入れると強くなり、彼から目が離せなくなる。熱病の類だろう、と。
「雨泽!」
 その時、誰かの声が響いた。稔と同様にローレットを飛び出した、他のイレギュラーズだ。
「雨泽、どうしたの! しっかりして!」
「雨泽さん!?」
 昨年の秋の記憶は未だ新しい『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)が悲鳴じみた声を上げ、『I LOVE♡イレギュラーズ』ルーキス・ファウン(p3p008870)とともに駆けてくる。ジルーシャよりも先に声を掛けた『最強のダチ』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は彼等が駆けていくのを見て雨泽は大丈夫であろうと判断し、それよりも……と周囲へと視線を向けた。逃げ惑う人々が、まだ此処にはいる。
「……疫病の類か? 厄介だな」
「いや、これは色欲のチャームだろう」
「それじゃああの子も魔種なのね!?」
 全員の視線が向けられ、アルヴィースはにっこりと笑った。沢山のイレギュラーズたちが自分へ会いに来てくれて、視線を向けてくれるのが嬉しい。
「やっぱり僕たち、相思相愛だったんだね! ああ、早く皆と結婚しなくちゃ!」
「結婚って何言ってんの……? 誰かの知り合い? ん? 皆と結婚? マジで言ってる?」
「魔種の戯言だ」
「あぁ、色欲の魔種だっけ。じゃあ、遠慮なく攻撃してもいいよな」
 理解が追いつかない表情で告げた『つばさ』零・K・メルヴィル(p3p000277)が駆ける速度を緩めずにアルヴィースへと向かう。
「イレギュラーズのお兄ちゃんが僕へ真っ直ぐ向かって来てくれる……!」
 頬を染めて喜ばれることに思わず顔を顰めた零の後ろでは、『玉響』レイン・レイン(p3p010586)が桜色の傘を掲げて機械仕掛けの神による『解決的救済』を齎した。
「これで……どう? 動ける?」
 周囲に居る転んで怪我をしている子どもや、逃げようとしつつも何かが始まったと気にかけている一般の民たち。彼等と雨泽へと癒やしを与えて問えば、怪我をしていた子どもは頭を下げる母親らしき女性に手を引かれ、駆けていく。
「雨泽は離れた方が良さそうだな。ついでに避難誘導を手伝ってくれ」
「ヤツェク先輩! あたしも行くっす!」
「おう、助かる」
「はいはーい、市民の皆! ここは危ないから離れるっすよ!」
 大きく手を振って『持ち帰る狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)が声を張り上げ、「ほら、こっちのステージの方が、絶対に熱いぞ! おれ達の所へこい!」とヤツェクも声を上げながら雨泽を引っ張った。
「あ! お兄ちゃんをどこに連れて行くの!?」
 零からの手厚い『愛』を受けて嬉しそうに瞳を細めていたアルヴィースが気がついた。彼の中ではもう『自分のもの』であるイレギュラーズが連れ去られることは許せないことだ。
「僕とお兄ちゃんはもう恋仲なんだから! このお兄ちゃんだって、そう!」
「……くっ」
 アルヴィースの瞳が怪しく光り、零が息を呑む。動きが乱れたその隙に、アルヴィースは禍々しい力をヤツェクへと向けた。
 ――だが。
「アタシの友達を奪われてなるものですか」
 ヤツェクの前に立ったジルーシャがその身でその攻撃を引き受け、彼を淡く包む魔力障壁と破邪の結界がアルヴィースの力を弾いた。
「お兄ちゃんを返して!」
 しかしアルヴィースも怯まない。連続で放たれた力は矢張り雨泽を連れて立ち去らんとするヤツェクへと向けられ――ルーキスが前へと出た。
「……これは奇遇ですね。イレギュラーズ愛ならば俺も負けませんよ」
 そのまま踏み込み、これより先には行かせないとマークする。
 そして、おもむろに。
「これは常に持ち歩いている愛読書です」
 ルーキスは『イレギュラーズ・レコード』を懐から取り出した。
「そ、それは……!」
「おや。やはり知っていますか、これを」
 イレギュラーズ・レコード。そこにはイレギュラーズ達の活躍の歴史が記されている。しかし一般の市場では手に入らない激レア本であり、イレギュラーズマニア垂涎のバイブルとも呼べる書物なのである。
 悔しそうな表情となったアルヴィースに、ルーキスは確信した。矢張り彼はこの本を持っていない、と。
「この場のイレギュラーズと俺は仲間同士の信頼という『愛』で結ばれている。君の向ける薄っぺらい『愛』の入る余地など無い!」
 ルーキスがイレギュラーズ・レコードをチラつかせながら余裕ぶった表情をした。流石称号まで変えてきた男、やることが違う。
「そもそも俺と君には決定的な違いがある。それは『俺がイレギュラーズ』で『君はそうじゃない』ということだ。俺はイレギュラーズを愛するが余り、自らもイレギュラーズとなった男……愛の熱量が違う。イレギュラーズ愛において、残念だが君に勝ち目は無い!」
 その場に雨泽が残っていたら「ルーキスってそうなの?」と聞いてきそうなところだが、彼はヤツェクとウルズとともにこの場からの脱出が叶ったようだ。他の仲間たちはルーキスのこの発言が演技であると気付いてくれているはずだ。……そう、だよね? 少し不安だが、きっとそうだ。ツッコミが入らないから、そうに違いない。
 ――ルーキスが気を引いている。その間に自身へ《ソリッド・シナジー》、《SSSガジェット3.0b》、《全覚ノ奏者》の付与を終えた『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は、アクロバティックに民家の壁を蹴った。
「あなたの愛ってファン心理みたいなものなのかしら」
 愛の形は、きっと人それぞれ。それでヴァイスも良いと思う。ただし、他者に迷惑をかけなければ、の話だ。近付き過ぎない距離を保ちながら獄門より来たれし禍の凶き爪で切り裂けば、アルヴィースが驚いたように瞠目した。
 幕が降りきるのはまだ先だ。
 けれども悲劇で終わらせぬと、Starsは駆けつけた仲間たち、そしてアルヴィースを見据えていた。

「あ。なんか、平気そう」
「よかったっす!」
「距離を取ったのが良かったか」
 民間人たちと離れたヤツェクとウルズは雨泽が正常に戻ったことへ息を吐いた。追手はない。つまり、ヤツェクの目論見通り、アルヴィースの相手を仲間たちが上手くやってくれているということだ。
 ウルズ等の傍には今、あの路地に居た民間人たちが大勢居り、一様にみな不安そうな表情をしているから、ウルズとヤツェクは意識して笑みを見せて『大丈夫だ』と少しでも彼等の心を軽くしようとしていた。
「避難先に悩むっすね」
 ウルズの言葉にヤツェクは顎を撫ぜた。首都に住まう友人たちが経営している宿や酒場を脳裏に思い浮かべ――いいや、駄目かと首を振る。『ローレットでさえ』襲撃を受けたのだ。一般的な家屋ではあっという間に蹂躙されるであろうし、いつ襲われるかわからない場所で息を潜めて過ごさせるには民間人へのストレスが大きい。
「町から出た方が安全っすか?」
「もしくは付きっきりでおれたちが守り抜く、か」
「……でも」
 ふたりの会話に雨泽が口を挟んだ。
 あの道の区画――仮に入口と出口として。その双方に誰かが立って逃げ惑う人々が来ないようにしなくては、今こうしている間にもあの場を逃げ惑う民間人は通り続け、いつまでたっても避難は完了したとは言えない。
「じゃああたしは片方を受け持つっす」
 戦っている先輩たちの力にはなれない? そんなことはない。民間人の被害と言う憂いを無くすことこそが一等の助力であることをウルズは理解し、受け持った。
 残る片側はどうするかとヤツェクと雨泽が話し合い、執着される可能性を考慮しヤツェクが受け持つこととなった。
「人々を任せられるか?」
「任せて。僕は情報屋だ」
 君たちこそ、任せたよ。
 ヤツェクも、ウルズも。為すべきことを成す戦いへと身を投じたのだった。

 どくんとひとたび鼓動が跳ねたのなら、甘い痺れが身を満たす。は、と吐き出した吐息は熱さを孕み、頬に意識してしまうほどの熱が思考をじわりと侵食していく。
 ――恋は毒薬。
 過ぎたるそれは、人を狂わせ、死へさえも至らせる。
(……この感覚、知ってるわ)
 熱い息を吐き出したジルーシャの視界に、ベルディグリの彩が陽光を受けてキラリと煌めいた。縋るように握りしめた手に伝わるのは石の冷たさだろうに、熱持つ体にはそれがじわりとした温もり――まるで彼女と手を繋いだような高揚がもたらされた。
(……ふざけんじゃないわよ)
 色欲の魔種とは、なんて存在なのだろう。
 気持ちを操ることを得手とする彼等。
 しかし、そこは踏み込んではならない場所だ。
「……俺が愛するのはただひとりだ」
 先に『アルヴィースからの愛』を振り払った零は、まっすぐに告げた。
 彼にもまた生涯をともにしたいと願う愛する人が居て、本来無い筈の寿命を友人に頼んで延ばしてもらった。彼女を喪わないように、彼女の剣であるために、強くなった。
「愛は力づくで得られるものじゃない!」
 幸せにする覚悟。そして相手の幸せには自身も含まれるのだと理解して、ともに幸せになる覚悟。思いが通じ合うという奇跡にも等しい巡り先にある慈しみと、未来をともに望むその先の形のひとつが結婚だろう。
 それがお前に出来るのかとアルヴィースへと問えば、彼は首を傾げた。彼の中では結婚=幸せだから、『イレギュラーズはアルヴィースと結婚した時点で幸せ』なのだ。
「相手の気持ちを無視して自分の物にしようなんて一番やっちゃいけないことだろ! そんなの、お前を奴隷にした奴らと変わんねーだろうが!」
 Stars――虚も叫んだ。
「無視、していないよ? だって皆、僕のこと好きでしょう?」
「虚、無駄だ」
 人情に厚い虚と違い、稔の心は凪いでいた。自己愛に満ちている彼は揺らぐこと無く《葬送曲・黒》をアルヴィースへと奏でる。
「憧れ……は……いいと思う……。でも……近すぎて……何も見えなくなってない……?」
 レインの問いに向けられるのは、赤い無垢な瞳だ。
「それとも……君は……誰にも理解されなかったの……? それ程……周りを遠ざけたの……? 君が……欲しい愛は……僕達じゃなくて……君の、親からのものなんじゃないか……って……僕は思うんだけど……」
「……親?」
 ポツリと小さく呟いたアルヴィースは首を傾げた。
 奴隷の身であったアルヴィースはもう、そんな存在は覚えていない。奴隷時代は愛されたいという思いよりも救われたいと思う気持ちでいっぱいで、救ってくれたイレギュラーズたちに憧れた。毎日見つめて見つめて――それがいつしか恋心へと変わったのだ。
「それって、僕と家族になってくれるってこと?」
 ああ、矢張り魔種。言葉が通じない。レインの言葉も『結婚してくれる』と受け止めて微笑んだアルヴィースをぼんやりと眺め、レインは《メルトフレア》を放った。もしかしたらそれが、彼の生存本能なのかもしれない。人の心は矢張り複雑なグラデーションで、陸を揺蕩うようになった期間の短いレインではまだ計り知れないのかもしれない。
「ふふ、こんな人形に愛されたいだなんて、相手をもっと見なさいな。人形は愛でるものだし、そうでなくても一方的に愛してほしいなど叶うはずもないでしょう?」
 距離を保ち続けているヴァイスは、一度もアルヴィースへ恋心をを抱かずに済んでいる。少しだけ、人形の私が恋をしたらどうなるのかしらなんて気になりはするけれど、人形であるヴァイスにとって愛とは向けられるものであり、愛する側ではないのだ。……抗い、愛を叫んだ仲間たちへ向けた視線に僅かな憧れが宿っていたとしても。
 アルヴィースに対峙するイレギュラーズたちはみな、アルヴィースの『愛』を否定した。そんなものは愛ではない。結婚を力づくでしようとするな。お前を愛してなんていない。
「どうして……? どうして酷いことばかりを言うの?」
 イレギュラーズの言葉と攻撃に傷つき、次第にアルヴィースは悲しげな表情となっていた。愛し合えれば幸せになれるのに。沢山のイレギュラーズと結婚したいのに。それが叶わない。
「それは……君が皆を本当に大切とは……思っていないから……」
「アンタのそれは……ただの真似事だもの」
 連撃を叩き込んだレインに続いてヴァイスが切り裂き、アルヴィースの動きを更に阻害せんとジルーシャが金眼を煌めかせる。
「しっかり受け止めろよ、俺達の気持ち」
 折角奴隷の身から助けたのにこんなことになって悲しいと虚が叫んでいる。けれど魔種への救いは倒すことでしかないと知っているから、稔も虚も為すことはみなと変わらない。全力でぶつかって倒すのみ、だ。
「独りよがりのそんなもの、俺は愛だなんて認めない!」
 一緒に幸せになりたいと、ずっと愛し続けると、零は愛しい人へ聖夜に誓った。
 ――愛は、此処にある。
 この胸のうちにだけ、ある。
 誰かに支配されて覚えるものであってはいけないのだ。
 神域の手数を武器たちがアルヴィースを穿ち、とどめと放たれるは赤き闘志。愛にも似て、愛ならず。焼き尽くす熱は同じかと、アルヴィースを包み込んだ。

(抱きしめてやっても良かったのだが)
 アルヴィース――魔種は、零の必殺の一撃の元、その姿かたちも消えて無くなった。ふうと溜息をついた稔は胸の内の虚の揺れる感情の気配を感じながら、アルヴィースが居た場所から視線を移した。
「先輩たちー!」
 戦いを終えた気配を察したウルズが駆けてくる。レインやヴァイスが仲間たちの治療をしているのを見てとるや、そのサポートへと廻った。
 イレギュラーズたちはまだこの地で戦わねばならない。
 救助すべき民間人たちが沢山いることを理解している。
 ひとまずの休息を終えたら……彼等はまた戦場へと繰り出すことだろう。

成否

成功

MVP

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ

状態異常

ルーキス・ファウン(p3p008870)[重傷]
蒼光双閃

あとがき

白いTシャツに『I LOVE♡イレギュラーズ』が似合いそうなルーキスさんに笑ってしまいました。
どの愛も素敵でしたが、MVPは愛を沢山籠めてくれた方へ。

お疲れ様でした、イレギュラーズ。

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