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シナリオ詳細

<美徳の不幸/悪徳の栄え>その身喰ろうて才を得る?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●その男にある才能は
 幻想領の一画にある、そこそこ大きな町。
 そこには、人物画を得意とする絵描きの青年が住んでいる。
 彼が描く人物画には温かみがあると評判で、それを聞きつけた貴族が試しに描かせたところ、大層気に入られた。
 こうして、低位の爵位を持つ地方在住の弱小貴族ではあるが、スポンサーを得ており、その縁で様々な人物達を描き、納めてきた。
 スポンサーによるの縁から縁で、生活にも少し余裕が生まれてきた。
 そんな折だ。ここ最近になって悩みが生じ始めたのは。
「どうして上手く描けないんだ!」
 所謂スランプというやつである。
 筆を持ち、いくらキャンバスに色を走らせてみても、納得のいく構図どころか思い描く理想から程遠くなる。
 現在、彼は依頼を一件受けていた。スポンサーの紹介で貴婦人の絵画を描いているのだ。
 記憶力に優れた彼の脳裏には、婦人の姿形をありありと思い出せる。だが、彼女の持つ雰囲気等を、自分の腕では表現しきれない。
(このままでは約束の期日に間に合わない……どうすれば……!)
 頭を抱える青年は、気分転換に外へと出かけた。
 その先で偶然見つけた、自分と同じ絵描きの男。自分よりは少し年上だろうか。露店で自作の小さな絵を売っているのを見て、かつての自分と重ねる。自分も昔はあのようにして売っていたものだ。
 過去の自分と重ね、応援の意味でも彼の絵を買おうと思った。
 売っているのは風景画で、港町にて、埠頭から見える沖や戻ってくる途中の船が描かれていた。
 柔らかなタッチで描かれているそれに、ひどく目を惹かれる。
 遠近法もしっかりある。どこを注目してほしいかがよく分かるように計算された構図。
 一目で分かってしまった。この男は才能がある者なのだと。
 ああ、なんという絶望か!
 自分よりも上手い才能を目の当たりにしてしまった。しかも、自分がスランプに陥っているこんな時に遭遇するなんて!
 身の内を焦がす激しい嫉妬。激情。どうすれば彼のような才能を自分も持てるのかという思い。
 ふと、脳裏をよぎる一つの事。
 それを実行するのは狂気の沙汰なれど、才能への嫉妬やスランプ、今すぐに才能が欲しい青年にはもう狂気しか残されていなかったのだ。

 そして、彼は今、キャンパスに絵を描いている。
 思った以上に筆の滑りが良い。構図だって、自分の望む通りに描けている。
 満足する青年の近くでは、露店で自作の絵を売っていた男が横たわっていた。血溜りを床に広げながら。
 青年の口元には血がついていた。怪我をしたわけではないのは見てわかる。
 それが何を意味するのか、想像するにおぞましい。
 青年はそうして、その後も数度繰り返した。
 スランプに陥る度に才能ある者を探して、口元を血で染めて。
 そんな時だ、夜の外出時に『彼女』の姿を見つけたのは。
 月明かりに照らされた『彼女』はとても美しかった。反射した髪も、闇夜の中で輝く瞳も、全てが魅了された。されてしまった。
 青年は『彼女』に願い出た。是非描かせて欲しいと。
 『彼女』が笑う。その答えは――――

●そして男は振るう。『彼女』の為に
 幻想王国城下町にて、町民の一部が暴動を起こしている。店を壊し、物を壊し、まるで全てを破壊せんとして。
 店が多く立ち並ぶその道で行なわれている破壊行動。
 それを行なっている彼等は、皆一様に操られているようだった。目に正気が宿っていない事から、そう考えるのは自然な事だろう。
 騒ぎを聞きつけて仲間と共にやってきたベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は、破壊されている町並を見て顔を顰めた。
「ひどい騒ぎだ」
 思わずぼやき、その後に近くに居た町民の一人を地に沈めた。気絶させただけなので、暫くすれば起きるはずだ。そして気付く。背中に貼られている紙に。
 大きく丸が描かれているだけの紙だった。太い筆で走り書きしたような丸に、画家として「もう少し綺麗に描ければ美しいのに」という感想を抱く。
 到着した彼等に町民達の視線が向けられて、イレギュラーズが構えていると、彼等の後方より、一人の青年が手を叩きながら現われた。それと同時に町民達の動きが止まる。
 見た目は普通の青年のようだった。腰に何か細長い物や円柱の携帯缶を下げている事と、円環に連ねた紙束を片手に持っている事を除けば。
「やあ、ようこそ! 君達がイレギュラーズという奴かな? 『彼女』の邪魔をするという、噂の!」
「『彼女』……?」
 眉を顰める。最近の事から思い当たる事があるとすれば、冠位『色欲』ぐらいなのだが。
 まさかな、と思いつつも、嫌な予感が拭えない。こういう時は大抵当たる事が多いのだ。
 男が大仰におどけてみせる。
「おや、まさか覚えてない? イレギュラーズの一部には『色欲』に借りがあるとかなんとか言っていた奴が居ると聞いたんだけどなあ。此処に居る奴ら以外だったのか?」
 的中した嫌な予感に、ベルナルドは頭に痛みを覚えたような気がした。もっとも、気がしただけなので、実際に痛くなってはいないのだが。
 だが、これで判断材料は一つ出た。目の前の男はおそらくは冠位『色欲』に関係しているのだろう。狂信者の類いには思えず、町民達を操作しているような様子から、魔種であろうかと予測する。
 ベルナルドが目の前の男に集中すると、色が見えた。匂いを視覚的に捉えるギフトの効果だ。
 見覚えのある色に、鼻に僅かに届いた匂い。画家でもある彼にとっては馴染み深いものだった。
 嗅ぎ慣れた顔料の匂い。それを扱うのは。
「こんな騒ぎを起こした奴が同じ職業なのは、どうとも言えぬ気持ちだ」
「へえ、君もかい? 君はどんなのを描くのかな? 僕は人物画が得意なんだ」
「……宗教画だな」
 男の目が妖しく光った。
 そして、ベルナルドを品定めするように視線だけで上から下まで見つめる。蛇のような視線に背中を嫌なものが這う。
 青年が笑う。望んでいた物を見つけたように手を叩く。
「なんて素敵な日なんだ! 喜ぶといい。君も僕の糧にしてあげよう! その身を喰わせろ!! 君の才能を僕にくれ!!!!」
「…………生憎と、やれるものはないんだ」
 同じ画家の男が発した言葉から、彼が過去に何をしてきたのかは想像が付いてしまった。
 湧き上がる嫌悪感を隠そうともせず顔に出して、武器を構える。
 町民達も同時に動き出し、イレギュラーズへと武器を持って迫ってきた。

GMコメント

 年明けからシリアスで開始します。今年もよろしくお願いいたします。
 町の騒ぎを収めるのが今回の目的になります。
 自分でもちょっと気持ち悪いなこの画家(敵)ってなりました。

●成功条件
・町の騒ぎを落ち着かせる事
・画家の青年の撃墜

●敵情報
・画家の青年
 『色欲』を知っている事から、恐らくは魔種であると予想されます。
 腰には絵描きとしての道具を下げており、手には円環に連ねた紙束があります。おそらくこれらを使用して町民達を操作していると思われます。
 ベルナルドさんが画家であり、自分とは違う分野を得意とする事を知って、ベルナルドさんに執心している節が見られます。
 防御力は低めですが、その代わり神秘力がかなり高いです。
 神秘を扱う力に長け、町民を操作する事で自分を守る事に徹するようです。
 戦いの中で以下の情報を得られます。

 凍れる『青』(神・中・扇):成人男性の二の腕ほどの大きさを持つ氷の塊を十数個生み出し、広範囲で周りに打ち出します。【凍結系列】を有します。
 燃え盛る『赫』(神・近・範):標準身長ほどある高さの炎の壁を浮かび上がらせます。【火炎系列】を有します。

 上記二つについては紙を媒体にはせず、空中で描く事で発動する事が判明します。

・操られた町民達×二十人
 画家の青年によって操られている町民達です。操作されている時の記憶はありません。
 それぞれが一般的な武器(鎌や角材、トマトなどの食材)でイレギュラーズを襲ってきます。
 背中に紙が貼られているようです。OP時点では「○」しか発見出来ませんが、「△」「■」といった模様も発見出来るでしょう。
 戦いの中で、「○」が攻撃力に特化、「△」が防御力に特化、「■」が【乱れ系列】のBS無効を有していると判明します。

●フィールドデータ
 一般的な店が建ち並ぶ町中。
 操作されている町民以外は既に避難しており、新たに操作される町民が現われる様子はありません。
 現時点の場所から十数メートル先に噴水広場があり、そこに誘導すればある程度は余裕を持って戦えるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <美徳の不幸/悪徳の栄え>その身喰ろうて才を得る?完了
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年01月27日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

リプレイ


 戦場において、周りを見る事は何よりも大事だ。事実、それをよく知る『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)は、周囲への確認を怠らない。周囲への警戒に、常人ならざる視力をもって臨む。
 彼が戦場の把握に努める傍らで、『アネモネの花束』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は周囲を保護する為の結界を展開する。目前にて狂った笑顔で佇む画家に対する視線は鋭く、そして、憐憫を含んでいた。
(妙な方向に努力してんじゃねえ)
 どうして才能を伸ばす為の努力が人を喰らう事に繋がったのかなど、ベルナルドには想像もつかないし、理解したくもない。
 彼にとって、芸術とは自分と作品との対話である。それが上手くいかずに病む者も多い。だが、そういった己の心との戦いも含めて画家の仕事ではないのか。それを放棄し、あまつさえ堕ちるとは。
「魔種なんてくだらねぇ物になっちまって……馬鹿野郎が」
 低い声で呟いた声は周囲の音にかき消されて、画家に届く事はない。
 『同一奇譚』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)は、ふん、と鼻を鳴らす。そもそも、のっぺりとしたように見える顔に鼻があるようには見えないのだが、兎にも角にも、ロジャーズからはそんな音がしたのだ。
「愉快さを極めた結果が不健全な狂気だと謂うのか。健全な狂気を味わった事のない哀れな青年よ」
 狂気に健全も不健全も無いだろう、と、聞こえていた者達の中にはそう思う者も居たかもしれないが、敢えて口に出すような野暮な真似はしなかった。何せ、ロジャーズというその者自身が狂気の塊のようなものなのだから。
「我こそが貴様の師で在るべきだったのだ。
 Nyahahahaha!!!!」
 横に伸びた口が大きく開き、笑い声を上げる。
 怒声や建物を損壊するような音が響く中で、その愉悦の声だけがハッキリと誰の耳にも届いた。
 顔を怒りに染めて醜悪に歪む画家を、ロジャーズはまた鼻を鳴らす事で挑発した。
 画家がロジャーズを嫌悪でもって見つめる。眉を顰めたまま、唇から必要分だけの言葉を零す。
「耳障りだよ。邪魔をしないでくれるかな」
 神束から用紙を一枚抜き、腰のポーチから筆を取りだして記す。
 それがトリガーなのか。仲間達に誘導されるように動いていた町民の一部が、突如方向転換してベルナルドとロジャーズへと掴みかかろうとする。
 ロジャーズとしては別に受けても構わなかったが引きつける狙いもあり、回避を試みながら誘導していく。目的地は噴水広場だ。もう一人狙われていたベルナルドの方は、『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)がかばいに走る。魔導甲冑に角材を打ち付ける音が響いた。
 もう一度振りかぶろうとする町民の動きに合わせて今度は回避し、ぐるりと町民の後ろに回り込む。
 見えた紙に手を伸ばそうとするのを、気付いた画家が他の町民達を操る事で阻止を図ってきた。
 舌打ちをして距離を取り、町民達の誘導の再開に行動を移す。自由に動くには些か手狭でもあるのだ、この場所は。
「雨が降るように祈ってはみたが、ちと厳しいかもな、これは」
 呟き、牡丹は一瞬だけ空を見上げる。雲一つ無い青空で、とても雨が降りそうには思えない。
 視界に飛び込んでくる、旋回する二羽の鳥。人に指示されるようにして動き回るその姿を見て、すぐに『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)のものだと分かった。彩陽とは違う形での戦場の把握、そして、死角を作らないように鳥達を利用して立ち回っている彼女。
 離れた位置にて陣取る彼女が無防備にならぬよう、注意を向ける。いつでも助けに行ける距離まで移動する途中、『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が苦虫を噛み潰したような顔をしているのが見えた。
(神絵師の腕を喰いたい、みたいな。言わんとすることは分かるが)
 ベルナルドやロジャーズを狙おうとする画家に視線を向けつ嘆息する。画家の方向性が明後日の方向に走っている事に、彼は嫌悪を覚えたのだ。
「けど、腕を食って取り込んだ所でお前自身が変われる訳じゃないだろ?」
 カイトの話しかけてきた声に、画家は首を傾げる。理解出来ないといった顔で彼を凝視する。
「おかしな事を言うね。才能を得られるのだから、変われるだろう?」
「…………まあ、通じるとは思ってなかったけどよ」
 駄目だコレは。
 隠さずに嘆息し、現在の位置を確認する。目的の噴水広場はもうすぐそこで、町民達も今のところ見える範囲では全員こちらに注意を引きつける事に成功している。時々彼等の攻撃を回避ないしは受ける事で、あえて手を出せないように見せていた。
 先程の二人の会話を聞いていた『笑顔の魔女』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)が、まなじりを吊り上げて叫ぶ。
「人の命を奪う芸術を認めるわけにはいかないよ! っていうか、人の腕を食べて絵がうまくなるのもよくわからないよ!」
 その言葉は、イレギュラーズの殆どの意見を収束していた。
「そうだね」
 静かな声で彼女に同意するのは、『冬結』寒櫻院・史之(p3p002233)である。彼は画家に対して思うところを口にした。
「神絵師の肉を食ったら神絵師になれるなんて都市伝説だし、それ以前に、ハイになっていい感じになってると思いこんでるだけなんじゃない?
 酔っ払ってるのといっしょじゃん」
 なんともまあ、辛辣な言葉である。
 画家に贈る手厳しい言葉をもう一つ。
「ベルナルドさんの足元にも及ばないね」
 それは、ある種の起爆剤とも読んで良い。
 画家の体から、瞬時に怒気が膨れ上がったのだから。
 そして丁度、噴水広場に全ての町民と画家とイレギュラーズが到着した。


 怒気を隠そうともしない画家を相手するのは自分では無い。
「残念ながら、俺は画家さんじゃなくて彼らを相手させてもらうよ。
 町の人達! こっちに来ると良いよ! この寒櫻院 史之が相手だ!」
 名乗った彼の言葉によって、町民達の注意が彼に向く。わかりやすいぐらいの怒りが叫びとなって響く。
 近付いてくるのを見つつ、飛びながらロジャーズに声を掛ける。
「それじゃ、いこうか、ロジャーズさん」
「誰に命令している!」
 言葉だけでは怒っているように思われそうだが、全くそれはない。どちらかというと、傲慢にも、というのが似合う。ロジャーズは史之のカバーに入る前に、瑠璃に声を掛けた。
「さて、貴様! 成果はなんとする!」
「安心してください。彼等の背中は全て確認済みです」
「上々! となれば、皆に伝えるのだな!」
 機嫌良く笑う口元。
「ええ、そうですね」
 問題は、どう伝えるかであるが。仕方ないので、口頭で言うしかないだろう。
 彼女だけに苦労はさせまいと、彩陽が口を出す。
「俺も大体は見えてるから補助は出来るよって」
「助かります。では、まずは見えた『○』から――――」
 瑠璃が使役した鳥達を通じて見えたものを彩陽に伝える。
 己の立ち位置から方向を確認し、彩陽が声を張り上げ、仲間達に該当する町民達の位置を伝える。
「カイト! 右手に立つ女の人!」
「わかった」
 星の雨の名を含めた氷の戒めが、彩陽に言われた位置に居る女性を襲う。それは彼女だけでなく他の町民達にも及び。
 範囲内に居るイレギュラーズに影響を与えぬように選別しており、おかげで仲間達も動きやすい。
 町民達という大事な駒を黙って見ているほど、画家も優しくは無い。
「邪魔だよ」
 短く吐き捨て、筆を空中にて走らせる。
 筆の先についた色は青。慣れた様子で描く大きな円。その中より出でしは、数十個の氷の塊。
 時間差を付けて広範囲に打ち出されたその氷は、イレギュラーズを容赦なく襲う。
 ヴェルーリアがその中を掻い潜る途中で、一つを貰い、その部分が凍る。当然重みの分だけ移動は脆くなり、時間差で襲ってきたものを更に受ける事になった。
 短く呻く彼女は、自身を含めた、同じように攻撃を受けた仲間達へ癒しを分けた。
 衝撃でふらつきそうになった足を地面へと踏ん張る。笑いそうになる膝を叩いて叱り飛ばす。
 仲間が戦いやすくなる為の最適な行動をとらんとせよと、足を踏み出した。
 彩陽が一つ一つ、指示を出す。戦場において仲間の位置を把握し、背中の模様を知った町民達と一番近い者へ告げる。
 彼の視界に入る、一つの影。屋根を走るその姿はベルナルドその人。
 画家が使う氷の攻撃が屋根に向かって放たれる。
 ベルナルドを守る為、画家に突進して邪魔をしようと試みる牡丹。彼女の動きを察知したベルナルドが「今はいいから、町の人を頼む!」と叫べば、数秒の沈黙。だが、すぐに彼の意に反する言葉を飲み込み、代わりに「わかった!」と返した。
「しかし、こいつらの紙のやつ、どうにか書き換えれねえか!?」
 考えられる中でやれそうな術といえば、上塗りの加筆だ。
 だが、彼女の考えは画家によって一笑に付される。
「書き換えなど出来るものか! この特殊なインクは再現出来ない!」
「ちっ」
 特殊なインク。つまりは、それも彼の力の一端か。根拠とするにはやや説得力に欠けるが、推測の一つとして考えに入れる。
 仕方ないので別の案を考えようとして、噴水に気がつく。
「試してみるか!」
「牡丹! 後ろ!」
 襲いかかってきた一人の攻撃を避け、服を掴む。噴水の深さは子供が落ちても問題無い。
「実験に付き合ってもらうぜ!」
「は……?」
 間抜けな声を上げたのは誰であったか。
 背中から噴水に投げ込まれた町民が水飛沫を上げて噴水に落ちる。
 衝撃でか別の要因かは分からないままに気絶したその者の背中から、紙が剥がれた。水の上で漂う紙。インクが紙と共に流れ出て行く。
「一応成功だな!」
 助け出し、地面に横にする。冷たい水の中で服から濡らしてしまったのだ。後で風邪を引かせないように世話せねばなるまい。
 その実験を、町民との戦いの合間に眺め見ていた史之が「うわぁ」と眉を顰める。
「思いついても普通やる?」
 秘技を用いて一人を沈め、その体を飛びながら運ぶ事で、その者が戦いに巻き込まれないようにする。
 先程まで共に居たロジャーズを見ると、彼女から伸びている触手が、町民にカウンターとして叩き込んでいた。
 大丈夫か尋ねようとした史之だったが、ロジャーズなので心配は無用そうだと悟るのだった。


 だいぶ町民の数も減った。
 使える手駒が少なくなってきた事に、画家は少なからず焦りを覚えているようだった。先程までの怒りに満ちた表情はどこへやら。今は焦りを顔に浮かべている。
 自分の手持ちが減ったのを感じて、カイトが画家に視線を向ける。
「てかこーんな大挙してエキストラ用意出来るなら他の事に活かせよ――って言いたくなるの俺だけ?
 ま、町民巻き込んだ時点で何にも同情もクソもないし、やろうとしてる事が可笑しいんだよな?」
「うるさいうるさい!」
 疑問を呈しただけなのに、相手側のなんとまあ余裕を失っている事か。
 画家の赤くなった顔を離れた所で、使役している瑠璃が薄く笑う。
(まあ、変わるなんて事は、どだい無理な話、ですね)
 強いものを食べて力を得るといった理屈は原始宗教に確かに存在していた。
 だがそれは大概冗談の類であると思っていたのだ。
 彼女なりの言葉で言うならば、『神絵師の腕を喰うと絵が上手くなる』というものは。
 襲ってくる町民達の数が減った事で、地面に降りたベルナルドの筆が走る。
 頭の中で描いたそれを現実に。
 翼を持つ聖女が祈り、恵みの雨を降らせる絵画が空中に浮かび上がった。
 それを見た画家が、先程までの怒り、焦りも忘れて、感嘆の声を上げる。
「おお……なんという……! やはり君の肉が欲しくなったよ!」
「こいつは研鑽を詰んだ俺だからこそ描ける作品だ。お前さんにゃ真似できねぇよ」
 一刀両断。
 前髪から覗くベルナルドの黒き目に浮かんでいるのは、画家としての矜持。
 それは決して触れさせぬ。自分が自分である為のものだから。
 憤慨する様子の画家が何かを叫ぶ。今の自分には、そんなもの雑音にしか聞こえない。
 走る。爆発のような速度で。彼を守る為の町民は、仲間達が既に地面へと沈めている。
 だから遠慮無く殴れた。彼の全力でもってぶつけた、光の攻撃。
「あ、がっ……」
 至近距離でそれを食らい、きりもみするように吹っ飛ぶ画家。
 腐っても魔種らしい。地面に落ちて転がっても、なお立ち上がらんとする。
 舌打ちする近くで、ロジャーズが手を叩く。
「さて。貴様、肉が欲しいのか。私の肉を貪ると好い。
 私の生徒も実に『うまく』咀嚼してくれたのだ。貴様も咀嚼が可能だと思うが」
 そう言って伸ばしてきた触手を口元へ運ぼうとするが、恐怖を感じた様子の画家が触れずに下がる。
 それを見て、面白くないとばかりに鼻を鳴らす。
 カイトが離れた所から画家に向けて力を飛ばす。何を、と画家が言う前に、頭の中がくらくらと揺れた。何だコレは。
 自分に何かを施した男が、ひどく魅力的に見えてくる。支配されそうな画家を見るカイトの目はひどく冷たくて。
「才能が簡単に手に入ったら誰も苦労しねぇのよ。
 それは大概『努力がないから』こそ、迷惑極まり無い代償が付いて回るってことで。
 ――ずいぶんと高い『勉強代』になったかな?」
 ここまで来れば、あとは残りのイレギュラーズの内、動ける者がやるだけだ。
 前に飛び出た牡丹が、左手に力を込める。
「あばよ、他人の才能に溺れて自分の絵を忘れた大馬鹿野郎!」
 牡丹の握りしめた左手が絵師の男の腹に打ち込まれる。片翼で飛び回りながら突っ込んできたものを受け止めきれず、男の体が再び宙を舞った。
 そこへ、冷ややかな視線を携えた彩陽が弓を構える。放たれた矢は狙い違わず、絵師の心臓を射貫き。
「芸術は人を楽しませるものやろ。もしくは人の戒めになるものやろ。それから外れたお前はさ、こうなるしかなかったんよ。ほな、またね。次は来世で。あるか知らんけど」
 言葉は届いただろうか。
 地面に倒れ伏した絵師の男は、既に事切れていた。
 残った町民達が気絶し、倒れていく。
 仲間達が介抱する中で、ベルナルドは地面に伏す男をしゃがんで見下ろす。
「背中の雑な走り描き。最期にあんな物を遺す為に描いてきたんじゃないだろ。
 喰らわずとも、俺がお前の描きたかったものを継いでやる。せめて安らかに眠ってくれ」
 そうして、開いたままの画家の目蓋を、閉じた。

成否

成功

MVP

火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

状態異常

フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)[重傷]
挫けぬ笑顔

あとがき

お疲れ様でした。
魔種に堕ちた画家は倒す事が出来ました。
MVPは、広く戦場を把握し、画家にトドメを刺した貴方へ。

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