シナリオ詳細
<美徳の不幸/悪徳の栄え>思わぬ一手<ウラルティアの忘願>
オープニング
●
幻想『レガド・イルシオン』王国はローレットのお膝元とでも言うべき場所だ。
初めて魔種が姿を見せた場所であり、初めて『冠位』との遭遇を果たした場所である。
冠位魔種たちには『担当』とでもいうべき場所がある。
既に七柱の内の六つが斃れ、始まりの国であり最後の国となった『幻想』を担当するは『冠位色欲』ルクレツィアであった。
彼女の計画はどこか迂遠で狡猾な物が多く、その暗躍は根深い物であった。
特に近年になって影ながら糸を引いた幻想王国への攻撃は三大派閥の揺るがすべく行われた物だった。
だが、それらは幾つかの誤算とイレギュラーズの手により悉くを挫かれた。
今、混沌全土は揺れている。それはルクレツィアの策謀ではあるまい。
バグ・ホールに始まる多くの被害は確定破滅の接近と、恐らくは『終焉』と呼ばれる地からの攻撃だ。
――ならば、彼女はどうするか。
そうシドニウス・フォン・ブラウベルクは考えを巡らせる。
(三大貴族を揺るがして以降、冠位の動きは不透明です。
ローレットの記録によれば、合理とは程遠い。利己的で狡猾で、感情を理解しているようで理解できていない。
そういう手合いの思考というのは、分かるようで分かりにくい)
シドニウスはざっくりと纏めた資料を手放した。
(しかし……事これに至って、彼女が『絶大なる力を持つ大魔種』ならば。
1つ、めちゃくちゃなようでいて非常に合理的な作戦が1つ存在する)
終焉勢力の蠢動は明らかに勢いを増している。
遠く西の砂漠では『災厄』なる存在が目を覚ましたという。
一方の東、冠位との戦いを終えたばかりの天義では町が1つ消え去ったという。
(こうなってくると各国規模でも対応は必要になる。
事実、わが国でも異変は起こっているようですし……ローレットの皆様はフル稼働されているようだ)
ひとつ、深い溜息を吐いた。それは最悪の推測だった。
そして――こういう時の『最悪の推測』とは、往々にして当たるのだ。
(今この国は『手薄』と言い換えられる。
――『冠位』と名の付くほどの魔種ならば、『正面切って王都を狙う無茶を』現実的な形にできるでしょう)
シドニウスはもう一度、深い溜め息を落とす。
離れるつもりは元よりなかったが、今は国元には帰れない。
国元は国元で、別の問題がある。
「唯一の救いがあるとするならば、ここで私が死んでも、テレーゼが国元にいるということか」
そう呟きながらも分かってはいた。
その国元の妹が、もう1つの問題の被害者なのだから。
「……つまり、ここで私が死ぬとかあったら最悪というわけですね」
そう呟きながらも、単に防備を固めるかと言われればそれも難しい。
(固めた護衛が精神汚染を受けて剣を向けてくる可能性がある。
……この情報が確かなら、迂闊に守りを固めるわけにもいかない)
どうするか――いつ来るかも分からぬ冠位の攻撃に対して男は考えを巡らせ続けた。
(情報を見る限り、王城で他貴族の近くにいるのは避けた方が良い。
かといって王城に向かわずタウンハウスで守りを固めたら後が怖い……)
その思考には、イレギュラーズが負けるという勘定は1つとして存在していなかった。
●
「……私にご相談とのことですが」
密かなルートでこっそりとシドニウスとの会合を持ったのは新田 寛治(p3p005073)であった。
「もしも私の想定通りの事態が発生すれば、貴殿は私よりも優先されたい場所があると考えております。
なので、事前に相談、という形を取りました」
「……ふむ、なるほど」
寛治はその言葉に首肯しながら視線は次を促すようにシドニウスに向いている。
「寛治殿はルーベン男爵の下に潜入しておられるとか
この予測にルーベンが関わる可能性を教えていただきたい。
……冠位指揮下の魔と同時にルーベンの手先に襲われるのは、流石に避けたい」
「なるほど……それについては間違いなく、ありえない物と判断します。
もしそのような事態が起こって貴方が死んだら、ルーベン男爵が真っ先に容疑者となる。
どうしても気になる用であれば、こちらからそう働きかけておきましょう……働きかけて通用するかは不明ですが」
「……それもそうですね」
寛治の言葉にシドニウスは深く頷いた。
その反応はどこかシドニウス自身の予想を裏付けられたことに対する安堵のように見えた。
●
――そして、事は起こる。
ルクレツィアを筆頭とする色欲の魔種一派は王都にてその牙を剥いた。
幻想王国王城は色欲勢力の攻勢により混乱が生じつつあった。
それでもその守りは幻想蜂起が発生する以前の、随分な有様からは考えられないほどに堅牢になっていた。
イレギュラーズの活躍と、彼らに背を押される形で困難を乗り換えてきた『放蕩王』ことフォルデルマン三世。
彼の求心力は少しずつではあれど上がりつつあった。
それが形となったかのような守りもまた、イレギュラーズの活躍なければ成しえなかった結果に違いない。
闇の帳を思わす鬣と尾を靡かせる黒馬が王城を駆ける。
首無き黒騎士は蒼髪紅眼の少女を抱えていた。
「まさかあの姫様が自ら事を起こすなんて思わなかったね、お母さん」
蒼髪の少女は紅の瞳を細めてにこやかに笑いかける。
声をかけられたのは首無き騎士でも馬でもなく、かといってその視線の先に母と呼べるような女性の姿はない。
精霊種の類で、生まれた伝承がその本に記されている――などというお伽噺的な物であればどれだけ良かったか。
代わりにそこにあるのは1冊の本だった。優しく装丁を撫でる様は、本当に話しかけているよう。
「こういうことはあまり言いたくありませんが……」
シドニウスは思わずそう口に漏らすものだ。
ここからは良く見えないが、先程の発言からすればそれがどういう『本』なのか分かる者もあるだろうか。
「……あは、お貴族様には分からないわ!」
笑う少女は本を優しくなでたかと思えば陣を作りあげた。
「デュラハン、ナイトメア。姫様に送れたら殺されてしまうわ!
アンネリースの名において命じます! あんな貴族の私兵風情、蹂躙して進みましょ!」
魔種の娘――アンネリースは目を瞠り、高らかに声をあげる。
馬が嘶き棹立ちになれば、首無の騎士は剣を掲げた。
- <美徳の不幸/悪徳の栄え>思わぬ一手<ウラルティアの忘願>完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2024年01月26日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「包囲を緩めてはなりません。守りを優先して抵抗を続けるのです。
数的有利はこちらにあります」
シドニウス・フォン・ブラウベルクに統率されるブラウベルクの兵たちは必死の抵抗を続けている。
(――とはいえ、相手は魔種。このままではこちらの分が悪すぎる。
腕利きの将を配備しておくべきでしたが……それを言っても詮無きことですね)
敵の様子をひたと見据えながら、表情を変えずシドニウスは敵を見る。
元より武人としてはさほどの腕もない。泰然として見せることだけが己の出来る事だった。
(せめて何か一手。可能であればローレットがいれば――)
「あははは! こんな雑魚なんて蹴散らしてしまうわ!
ね、ナイトメア! デュラハン! さぁ、蹂躙しなさい!」
馬が嘶き、騎士が剣を振るわんとした――その刹那の事だった。
どこからともなく飛来した無数の矢がナイトメアとデュラハンに襲い掛かった。
「きゃぁ!?」
小さな悲鳴を上げたアンネリースはデュラハンの陰に隠れて当たらなかったのだろうか。
「ようこそいらっしゃいましたお姫様……と言う感じやね。
とはいえ、こっから先に進ませんし、思う通りの行動にはならへんと思うよ。覚悟してくださいませ?」
それは『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)が放つ魔弾。
天を穿てと、天に輝く最も明るい星をも穿て。と、祈りを込めて作られた矢を以て放つ魔弾が魔物達の動きを封じ込める。
「相手のペースに飲まれるな! 意思を強く持てば狂気に打ち勝てるぞ!!」
続けざま、ブラウベルクの兵たちを鼓舞する声が響く。
それは鮮血の鎌を構える『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)の声だった。
(まさかテレーゼさんにあーだこうだ厄介な事がある中でお兄さんの方も戦場に晒さられるとはね……)
短く息を吐きながら、サイズは気持ちを立て直す。
「テレーゼさんの目が覚めた時に実兄が死んでたら、相当目覚めが悪くなるだろうし、守らないとな……」
「ありがとうございます」
後ろからその声を聞いたらしいシドニウスの声。
「立て続けに死なれるのはきついだろうからな」
彼女が最も信頼していた軍師の青年を思い起こしながら、サイズは改めて前に視線を送る。
「まったく、シドニウス卿も間が悪いと言うか、運が無いというか」
続ける『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は眼鏡の位置を整え、こちらの姿に気付いた男に言う。
「まったくですね」
頷くシドニウスから視線を魔種の少女に向けた。
(今回は背後関係を考えると、シドニウス卿は『偶然巻き込まれた』以外の何物でも無いでしょう。
せめて居合わせたのが私で幸運だったくらいは、言わせて差し上げなくてはね)
「まずはナイトメアを潰して機動力を奪い、ついでデュラハン、アンネリースと参ります」
小声でシドニウスへと作戦と提示すれば、彼も頷いてみせる。
「私兵の方々にはシドニウス卿の直衛に専念いただきたい」
「そちらの方が合理ですね」
こくりとすぐさま頷いたシドニウスと目配りすれば。
「万一我々が突破されても、戦って勝とうと思ってはいけません。逃げてください。
それが不可能な状況なら、シドニウス卿を逃がすための時間を稼ぎなさい」
改めて私兵たちへも指示を与えれば、身動きのとれぬ騎士から離れたブラウベルク兵たちが後退していく。
「シドニウス、この貴族騎士が来たからには安心して自分の身を守りたまえ」
後退していくブラウベルク兵たちとのすれ違いざま、『策士』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)はシドニウスへと声をかけた。
「ええ、感謝します」
「ちょうどいいわ! 自分から道を作ってくれるなんて!」
短く頷いたシドニウスが下がっていくのを見やり、愛馬へと跨れば、そんな声を聞いた。
「そうはいくか!」
刹那、シューヴェルトは一気にアンネリースの眼前へと駆け込んだ。
「誰!」
「さて、そちらが宣戦布告したならこちらもそれに応えるのが道理だな。
シェヴァリエ家の名において助太刀に来た!
ここに宣言しよう! あのような町娘と騎士風情、この貴族騎士が成敗する!」
棹立ちになった愛馬から放たれた蹴りが強烈にナイトメアに炸裂する。
「ねぇ、お母様、聞いた? 貴族! また貴族だって!」
アンネリースがそっと本を撫でて呟いたかと思えば、激情を露わにする。
「アンネリース、そろそろ目を覚ましたらどうだ? 君の母親はもう……」
静かにシューヴェルトはアンネリースへと告げる。
「知ってるわよ、そんなこと。目を覚ます? 元より覚めてるわ。
死んでるから、なに? ねぇ、それを私に言って何がしたいわけ?
現実を見て、何かいいことがあるっての? むかつく……貴族なんて、どいつもこいつも大っ嫌い」
すとん、と少女から表情が消えた。
それは竜にとっての逆鱗、虎にとっての尾であったのだろう。
(妹さんの件でも大変なのに、こっちでも巻き込まれるなんて散々だな。
でも、妹さんも待ってるんだ、ちゃんと守って帰さねえとな)
遠く後方に下がるシドニウスを見送り『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)は表情を失った娘を見る。
アンネリースの無表情は、それそのものが強い怒りに支配されている証拠。
(……それに、ユリーカさんの事も気になる)
きっと無事だろう。ただ、彼女を思うだけで愛銃を握る手に気力が漲るというものだ。
「なんにせよ、なるべく早く済ませるしかなさそうだ」
(ニルは、かなしいのはいやだから。
テレーゼ様のお兄様……シドニウス様も兵士のみなさまも、まもりたい。
少しでも……傷つくものを、なくしたいのです)
ぎゅぅっと愛杖を握りしめる『おいしいを一緒に』ニル(p3p009185)は魔種の少女を見やる。
「……アンネリース様」
「なによ」
「どうして、傷つけるのです?」
「なにって、姫様のお願いは聞かないといけないから。
それに、貴族って嫌いなの。ねぇ、お母様」
そう呟くままにアンネリースがそっと手に持つ本を撫でる。
先程までの無表情から一変、慈しむような、憐れむような、悲しむような。
複雑な感情の混ざった声と表情だった。
「アンネリース様の本は、なんだか……よくないかんじが、します
アンネリース様のたいせつなもの、なのでしょうか?」
ニルの問いかけに、アンネリースの空気が凍り付いた。
「……なに? そうよ。これは私のお母様よ!」
「……お母様……? その、本が……?」
「えぇ、そう。この本の装丁は私のお母様! 腐った貴族に生きたまま剥がされたお母様よ!
ふふ、ふふふ、そうだ。姫様の為にも、アイツを探すためにも進まなきゃ!
ローレットだったかしら? 邪魔だてするのなら蹂躙するだけ!」
その双眸に狂乱を抱き、アンネリースが絶叫する。
「蹂躙して進むなんて、ずいぶん甘く見られたね。
そう簡単に抜かせはしないし、誰も殺させはしないよ。
兵装起動。砲身展開。……迎撃開始」
続けざまに戦闘態勢を整え終えた『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)が言う。
「インフィニティモードに移行。マジカルジェネレーター、フルドライブ。バレル接続――固定完了」
大出力魔力砲の砲身を魔種へと固定し、照準は定まる。
「ターゲット、ロック。ジカル☆アハトアハト・インフィニティ―――発射(フォイア)!」
ナイトメアめがけて放たれた砲撃は闇夜を斬り裂く流星となって戦場を翔け抜ける。
それはナイトメアのみならず、その背に跨る騎士を――そして魔種の少女を丸々飲み込んだ。
アンネリースの傷は――見当たらぬ。恐らくはデュラハンが庇ったか。
「むかつくむかつくむかつく! ローレット! 姫様に怒られちゃう!」
頬を膨らませて魔種の娘が不貞腐れていた。
「デュラハン! デュラハンったら! 何を止まってるの! さっさと動きなさい!」
弾丸の雨に晒され身動きのとれぬ自らの騎士に叫んだ少女は舌を打ち、魔術を行使する。
「もういいわ! 全員ドロドロに溶けてしまえばいいの!」
離れた毒々しい可視化した呪いが汚泥のように広がっていく。
「不吉から麻痺に致命。毒出血と混乱もオマケとな。
フゥン……混乱と必殺以外『敗れた幻想の担い手』たる我にゃ効かねえな」
それを真っ向から受け止めたのは『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)である。
「混乱は行動が制限されるから仕方ない。我が意志を我自身が舵を取らぬのは癪だが仕様が故にしょうがない」
シリアスとは程遠いギャグをぶちかまし、幸潮はくるりと筆を振るう。
「必殺は言わずもがな、EXFの不倶戴天の宿敵。必ず殺すって言われたら死ぬしかねえしな、と。
だが所詮『その程度』。不吉による我が行いの妨害は『絶対に』あり得ない。
見ろよこのFB-20を。しかも麻痺致命による抵抗低下を踏まえたって抑え切れるぜ?」
此処は物語であると『舞台定義』を消えぬよう重ねながら、幸潮は悠々と語る。
アンネリースの表情は先程までの爛々とした狂気とも変わっていようか。
●
「うぅぅ……デュラハンったら、貴女。良いわ、貴女の懺悔を赦すわ!
せいぜい、私の盾になって死ぬまで私を庇いなさいな!」
アンネリースが叫び、廃滅の香りのする高濃度の泥が戦場を浸す。
腐食するそれがイレギュラーズに向けて流れ込んでいく。
「こんなもの――!」
サイズはもたらされた猛毒を払うように鎌を構えた。
その刃が鮮血の色を宿す。振り上げるように放たれるは使い慣れた鮮血の刃。
膨張し獣の顎を思わす形状へと再構築された斬撃がナイトメアの身体に食らいつく。
「もう一度だ!」
振り抜いた勢いのまま、上段で構えなおして撃ちだした斬撃は戦場を迸り、ナイトメアの身体を呑み込んだ。
「これが変な方向へ特殊耐久を振り切った面白い奴のブッ刺さりかたって奴だ。
ある種ふつくしいだろ? HAHAHA」
幸潮はそれをさらりと受け流して軽く笑い飛ばす。
「なにを言ってるのかよく分からないけど、お姉さん?が私の嫌いな部類だってことは分かるわ!」
「HAHAHA、結構。苦手と思われるのなら本望だ」
筆を振るうままに描き正す『混沌朗吟』の筆さばき。
「この『物語』は斯く在るべし──我には、その方が好ましい」
仲間たちの在り方を肯定する筆は軽やかなもの。
「アンタが何をするにせよ、こっちのやることは変わらへんのよ」
彩陽は這いよる毒がその身に触れるのを無視して矢を番えた。
ナイトメアとデュラハンの後ろに隠れながら放たれる魔術は強烈な毒性を帯びている。
ならばやることは単純だ。引き絞った剔地夕星に番えた穿天明星には魔力が籠められている。
「我冀う。その力を奇跡と成す事を」
王城の一角、周囲にある死者の霊はそれほど多くはなかった。
幻想たる国の源にて集められた霊力を矢に。希う奇跡を放つにはそれで十分だった。
広域へと伝播する雷陣と絶対零度を纏う魔弾が魔物たちの身体を縫い留める。
「――貴族式格闘術『蒼脚』!」
その刹那を縫うようにシューヴェルトはナイトメアに向かって走り出す。
すさまじい速度で肉薄したシューヴェルトはそのまま蒼い炎を纏う脚から蹴撃を叩きこむ。
呪詛を纏う脚から放たれる蹴撃を受けたナイトメアが身体の動きをぐらりと緩めた。
「生きたまま剥がされた……だったか。たしかにそりゃあ酷い話だ」
飛呂はアンネリースの言葉を振り返りながら銃口をナイトメアへと向けていた。
「聞く限りじゃあ、確かにこの国ではそういう酷い貴族も少なくないらしいけど」
同情する思いがあるのは嘘ではない。
再現性東京出身のただの学生には縁遠い世界だ。
想像するのも些か難しい。
「でも、シドニウスさん――さっきの貴族の人とは別の人だろ?」
「あいつが誰だって知ったことか! 誰だろうと貴族なんて同じなんだから!」
叫ぶアンネリースも視野に収めるまま放たれたのは蛇神の神秘を利用した毒手の弾丸。
けれどその狙いはアンネリースにあらず――ナイトメアの身体に突き刺さる。
浸透する神経毒は馬の肉を柔らかく、弱く作り変える。
「ニル!」
「――うん!」
絶好のタイミングを継ぐニルが走る。
握りしめた愛杖にはあらん限りの魔力が籠められる。
「かなしいを無くすために……行くのです」
杖の先端に幾重もの魔法陣を展開したニルはそれを思いっきりナイトメアへと叩き込んだ。
受けた毒に鈍った身体に叩き込まれた痛撃のフルルーンブラスターに、ナイトメアがぐらりと横にたたらを踏んだ。
そこに続く機動魔法少女の砲撃は再度の最高火力砲撃。
「超々高圧縮魔力再充填、完了。ターゲット、ロック――これで沈めるよ」
オニキスは内燃機関を燃やし、マジカルゲレーテ・シュトラールの砲口へと魔力は束ねられた。
「マジカル☆アハトアハト・インフィニティ―――発射(フォイア)!」
放たれる光芒は人々を守り、悪を討つべき流星の瞬き。
超常の火力を有するそれは最早生物に向けるには過剰とさえいえた。
尾を引く光芒の終える頃、ナイトメアの姿は跡形も残っていなかった。
「まずは第一工程を終了。では早速、次に取り掛かりましょうか」
寛治は直ぐに状況を整理すれば、銃口をアンネリースへ向けた。
作戦は既に決まっている。ここまでに予定外だったのはアンネリースの怒りが露わになったことぐらいだろう。
それにしたって、作戦の遂行にはなんの影響もなかった。
放たれる疾く抜き、疾く放たれた銃弾は強かにアンネリースを狙い放たれる。
当然の如くそれを庇うようにデュラハンが前に躍り出た。硬質な金属音が響く。
「流石に重装騎士ですか……ではこちらは」
放たれるは不可能を捻じ曲げ、運命を裏返す至高の銃撃。
庇うという宿命上、躱されることなどありえない。
重装備の間を穿つ複数の弾丸がデュラハンの身体を貫いていく。
「硬いなら上から何度でも切り刻んでやる!」
続くようにサイズはデュラハンめがけて刃を振るう。
サイズ本体たる鎌が鮮血の色濃く輝きを増していく。
巧妙にして堅実なるその斬撃は二匹の鮮血の獣を作り出す。
戦場を翔ける直死の咆哮が響き渡る。
●
「此なる『万年筆』を止めるには今を正しく認識し、固き意思持て突き進まんとせねば無為と還る。
さぁ、瞳を開けろ。汝産みし母、何処に在り。まさか──汝に似つかぬ其の人革張本ではあるまいな?
語り、紡ぐ幸潮の万年筆。
アンネリースより語られた彼女の母は、その身に似つかぬ人革張本に外ならぬ。
「不愉快だわ、不愉快だわ! ねぇ、お母様! どうしてくれようかしら!」
激情を露わにする娘の存在を混濁させる問いかけがアンネリースを縛り付けた。
(――だったら)
飛呂は短く銃口をアンネリースへ向けた。
放つのは鉛を奏でる楽団の如き弾幕。
戦場を丸々一掃するが如き弾丸はデュラハンとアンネリースを取り囲むように雨あられと降り注ぐ。
それを躱し、受け流さんとするべく動くさまはさながら恐怖に踊る劇の演者に見えるだろうか。
その弾丸の一発がアンネリースの手に向かい――咄嗟に本を庇うようにして身を躍らせた。
「きっと、アンネリース様にもかなしいことがあったのです。
でも、ニルは――ニルの周りでかなしいことが起きてほしくないから、アンネリース様を倒すのです」
ニルはまた渾身の魔力を杖の先端に籠め、デュラハンめがけて肉薄する。
放たれた魔力の塊が純粋な破壊力となってデュラハンの鎧を破砕する。
内側に見えるのは、人の身体ではない。
黒いもやもやとしたそれは魔力か滅びのアークであろうか。
「図体が大きくても守りが硬くても関係ない――壊れかけなら、なおさら。
マジカル☆アハトアハト・インフィニティ―――発射!」
そこへオニキスの砲撃は留まることなく放たれた。
剣を構えたデュラハンの動きは防ぐというより砲撃その物を断ち切らんとするかのよう。
「――出来るものなら」
全身全霊、フルパワーで放つ砲撃が剣を振るうデュラハンの身体を呑み込んでいく。
「――残るは貴女だけですが」
寛治が静かに向けた銃口の先、アンネリースはぎゅっと本を庇うように抱え込んでいる。
「……うぅぅ! 分かったわ! もう分かったのよ! お母様を壊されるよりはマシだわ!」
恨みがまし気に睨め着けてくるまま、じりじりと下がったアンネリースはそのまま一気に王城の外方面へと逃げ去った。
「……どうやら終わったようですね」
「シドニウス卿」
後ろから声をかけられてそちらを見れば、敵の逃げ去った方角を見るシドニウスがいた。
「皆さんのご協力と出会えた幸運に安堵するところですが……元より、預かっている防衛地点です。
ここは我々が守っておきましょう。皆さんは別の戦場へ向かわれてください」
「……分かりました」
その言葉を聞いて、頷きあったイレギュラーズは走り出す。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
MVPはオニキスさんの超火力へ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
予定外でしたが<ウラルティアの忘願>外伝です。
いきなりの王都急襲ということで、うっかり巻き込まれちゃいました。
●オーダー
【1】『重なる失愛』アンネリースの撃破または撃退
●フィールドデータ
幻想王都『メフ・メフィート』に存在する幻想王城の一角。
奇襲を警戒しているのか、比較的広く戦場を取っています。
遮蔽物などが存在しないのも同じ理由でしょうか。
●エネミーデータ
・『重なる失愛』アンネリース
色欲の魔種、銀髪紅眼の少女。年頃は精々が10代前半です。
その手には人皮装丁本を携えています。
快活で町娘めいた思考回路を持つ一方、『人皮装丁本を母と呼ぶ』など、狂った面も見受けられます。
範囲攻撃を主体として【毒】系列、【不吉】系列、【混乱】系列のBSを与える魔術を行使します。
・デュラハン
いわゆる首無騎士のデュラハンです。
ナイトメアに跨り、騎乗するアンネリースを守る盾兼アタッカーとして行動します。
アンネリースが倒されるか撤退を決めた時点で撤退します。
片手で黒い大剣を握り、自範相当範囲への斬撃を用います。
主に【出血】系列と【致命】系列のBSが予想されます。
・ナイトメア
黒い馬のような姿をした夢魔の一種です。
エネミー2人の乗馬として戦場を駆け巡る一方、この個体そのものも魔物として戦闘行動をとります。
嘶きには【麻痺】系列、【混乱】系列のBSを与える可能性があります。
また、物理的に突進や足蹴りなどの戦闘も行うでしょう。
●友軍データ
・『蒼羽潜影の策士』シドニウス・フォン・ブラウベルク
幻想王国では比較的良識派の貴族。護衛対象兼友軍の大将です。
個人の武勇こそさほどですが、統率力に長けた智将タイプ。
テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)の実兄でブラウベルク家の現当主。
民衆やイレギュラーズへの対応を妹に任せ、普段から王都で貴族に向けた渉外対応を行なっています。
皆さんへの評価は非常に好意的です。
現行するシナリオ<ウラルティアの忘願>シリーズでは依頼人としても登場しています。
あちら側のシナリオで敵の思惑に乗らないために王都に残っていたらうっかり巻き込まれました。
・ブラウベルク私兵×10
ブラウベルク家のタウンハウス守備兵です。
シドニウスの指揮下、魔物を抑えるために行動します。
信頼できる戦力ではありますが、狂気に刈られることを警戒して動きが多少鈍くなっています。
●参考データ
・ブラウベルク子爵家
幻想南部の肥沃な穀倉地帯『オランジュベネ』の幻想貴族です。
遠い昔、幻想建国の頃アナトリアと呼ばれていた一帯を収めていた氏族の分流。
同じく分流のオランジュベネ家の当主イオニアスが反転して起こしたクーデターをイレギュラーズの活躍で鎮圧しました。
皆さんの功績で鎮圧された地域なのでオランジュベネは皆さんに開放されています
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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