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シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>終焉に堕ちた翼竜

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 昏い昏い淀みの底で何かが蠢く。ぐちゃりぐちゃりと不気味な音を立てながら。まるで、何かを探し求めているかのように。
 やがて、こから幾つかの雫が零れ落ちた。落ちた先は覇竜のヴァンジャンス岩山。強力な魔物が跋扈する地として有名な土地だ。
 泥濘のようにねばつく不気味な雫は、地面にべちゃりと叩きつけられて広がっていくが、やがてそこから”何か”が形作られていく。
 不定形のアメーバのようなそれらはずるずると這いまわり、やがて何かが動く気配を感じたようでその方向へと向かってゆっくりと移動した。
 移動した先にあったのはワイバーンの巣。それも成体となってから長い年月を過ごした強力な個体が率いる群れのものだ。なにやらよくわからないが、気に喰わないモノが縄張りに入ってきた。そう感じ取ったワイバーンたちは即座にそれらを排除しようと火を吐いた。
 複数のワイバーンからの一斉放射。これだけ焼けば十分だろう。などと思ったのかもしれないが、炎が消えるとそこには無傷のまま接近を続ける黒い何かが変わらず存在した。
 これにはさすがのワイバーンたちも不気味に感じたようで、更に炎を吐いて焼き尽くそうとするが、”黒”の歩みを止めることは叶わず、少しずつ距離が詰められていく。
 強者としての誇りが退くことを許さなかったが、これほど不気味な存在であれば距離を取るのも止む無し。と、翼を広げようとしたがその時には既に遅かった。
 黒い粘液たちはばっと全体を広げると、近いところにいたワイバーンを一体、また一体と包み込んでいったのだ。翼をはばたかせ、尻尾を振るい暴れるワイバーンたちだが、黒い粘液の拘束力は尋常でないものであったらしく、どれだけ抵抗しても脱することは出来ない。
 やがて、完全に力尽きてしまったのか黒い粘液に包まれたまま動かなくなってしまった。
 このままでは”喰われた”仲間の二の舞になってしまう。本能的な恐怖を感じ取って飛び立つ他のワイバーンだったが、その時捕らわれて動けなくなっていたはずの個体の瞳が妖しく輝いた。
 暫くして、無残にも食い荒らされた無数のワイバーンの死体の近くに、口元を赤く染め上げられた漆黒のワイバーンが数体立ち、満足そうに口角を上げているのだった。


 ローレットの覇竜支部を訪れていた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、フリアノンに暮らす亜竜種からある話を聞いていた。
 なんでも、最近になって覇竜に生息する魔物たちの様子がおかしいという。どこか落ち着きがなく、本来出没しないような場所にも現れており、まるで何かから逃げているかのようだという。
「むむむ……。それは確かに気になるですね」
 気になると言えば、最近になって混沌各地にバグホールと呼ばれる、混沌を破滅に導くという穴が現れ始めた。そして、その混乱に乗じて魔種たちもまた散発的に襲撃を行っているという。
 今回の一件もそんな情勢の中で起きた異変。話を聞いただけでは断定はできないが、終焉に属する者が裏で何かしら糸を引いている可能性が高いと考えられる。
「話を聞かせてくれてありがとうなのです。あとはローレットでなんとかするですよ」
 そう言って情報提供者の亜竜種と別れ情報を集めるべく動き出せば、異変の元凶と思われる黒いワイバーンの存在に辿り着くのにさほど時間はかからなかった。

「状況を説明するです。寄生型の終焉獣に寄生されたと思われる黒いワイバーンが数体、ヴァンジャンス岩山を根城にしていることが確認できたのです。
 この黒いワイバーンは、周辺の魔物や動物を食い荒らしながら滅びを振りまいていて、それから逃げるように魔物も動物も移動しているのです。
 このままでは、黒いワイバーンだけでなく移動した魔物による被害も拡大する一方となるので、皆さんにはこれを討伐して欲しいのです!」
 依頼を受ける事を決めたイレギュラーズはユリーカの説明を聞いて戦いの準備を整えると、ヴァンジャンス岩山を目指すのだった。

GMコメント

というわけで、今回は覇竜に出現した寄生型終焉獣の討伐依頼となります。
よろしくお願い致します。

●目標
 黒いワイバーンの討伐

●ロケーションなど
 覇竜に存在する、ヴァンジャンス岩山と呼ばれる地域です。
 岩肌を曝け出した険しい山々が続き、ラサの砂漠地帯よりも荒廃しています。
 非常に強力な魔物が点在しているその危険地帯の一角が今回の戦場となります。
 元々はワイバーンの群れが巣を作っていた場所で、ある程度開けている場所なので戦闘に困ることは無いでしょう。
 そこで生活していたはずのワイバーンは後述の終焉獣によって全滅しており、付近の他の魔物も終焉獣を恐れて近づかないため、戦闘に横槍が入れられる可能性も低いでしょう。

●エネミー
・黒いワイバーン×3
 ヴァンジャンス岩山の一角に生息していたワイバーンですが、アメーバ状の寄生型終焉獣に取り込まれてしまいました。
 竜鱗が黒く染まり、力も高まったことで群れの仲間であった他のワイバーンを喰らい、それだけでは飽き足らず周辺の魔物や動物を襲っては喰い荒らし、同時に滅びを振りまいています。

鋭い爪や牙による近接攻撃や尻尾による薙ぎ払いのほか、口からは強烈な炎を吐き出すことが可能です。
爪には毒があり【毒系統】のBSが付与される可能性があり、炎を受ければ【火炎系統】のBSが付与される可能性があります。
また、ワイバーンは【飛行】が可能となっています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <グレート・カタストロフ>終焉に堕ちた翼竜完了
  • GM名東雲東
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2024年01月28日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
レイテ・コロン(p3p011010)
武蔵を護る盾

リプレイ


 ヴァンジャンス岩山と呼ばれる地域は、覇竜領域の中でも特に危険地帯とされる一帯だ。
 細く急峻な山道を歩き続け、イレギュラーズが向かう先は依頼のあったワイバーンの巣。
「見えてきたな。あれが……」
「例のワイバーンの巣だね」
 先頭を歩いていた『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)が何かに気付くと、イレギュラーズは近くの岩陰に潜みながら様子を伺い、情報通りにワイバーンの巣があると『天義の聖女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)も確認する。
「確か、黒いワイバーンがいるんだっけ」
「終焉獣に寄生されて変質したらしいという話だけど……どうやら本当みたいだ」
 巣の様子を伺いつつ『冬結』寒櫻院・史之(p3p002233)が依頼内容の確認を行うと、隣の『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)がその黒いワイバーンの姿を認めたようだ。
「このまま終焉獣が広がっていくのは危険です。なんとしても止めないと!」
「もちろん。流石に竜種が終焉獣に寄生されるとは思えないけど、万が一が起きたら一大事だからね」
 義侠心に燃える『深緑魔法少女』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)がやる気を見せると、『武蔵の盾』レイテ・コロン(p3p011010)もそれに同意する。
 可能性はゼロではないと思えば、それが実現してしまう前に目の前の終焉獣は排除してしまわなければならない。
「射線を遮るものはなし。狙えるか?」
「問題ない。――貴族騎士、いざ参る!」
 傍若無人な振る舞いで周辺の生物たちに多大なる影響を与える終焉獣への怒りを燃やしながら、しかし冷静に状況を見極める『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が問えば、刀の柄を握り構えに入った『策士』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)が静かに答え、抜刀した。


 姿を現したのはまるで血に染め上げられたかのように鮮やかな赤い刃を持つ刀身。
 自身が宿す呪いの力を込めた抜刀一閃は、翠の風となって空気を斬り裂きながら鋭く直進すると、正確にワイバーンの一体に命中し血飛沫を上げさせた。
 突然の痛みに驚いた様子のワイバーンだが、すぐにシューヴェルトの姿を見て攻撃されたと悟ると怒りの咆哮を上げ、残る二体と共に猛然と襲い掛かってきた。
「釣れたようだね。それじゃあ手筈通りに。 さぁ、こっちだよ、終焉獣!」
 戦闘が始まり岩陰から飛び出すイレギュラーズ。
 先陣を切るのはレイテだ。蝙蝠の羽を広げて飛び立ち、ワイバーンに向けて自分の存在をアピールすると、縄張りを荒らされたとでも思ったのか、進路をレイテに変更したようだ。
「任せな。……はぁっ!」
 付かず離れずを意識しつつレイテがワイバーンを誘導した先には、先に移動して備えていた義弘がいた。義弘の横をレイテがすり抜けると、拳を慣らす義弘の前に三体のワイバーン。
 ワイバーンは義弘のことなど目もくれずレイテに襲い掛かろうとしているが当然素通りさせるつもりなどない。
 腰を回して力を溜めていた義弘が気合の声と共に全身に力を解放し、駒のように回転しながら拳を振るえばそこはもう暴力の嵐の渦中となる。
 回転しながら幾度も振るわれる拳は、ワイバーンの硬い鱗を打ち砕き三体纏めて地面へと叩きつけた。
「俺は手前の一体を。奥の二体は任せたよ」
「了解。鬼さん此方ってね!」
「はい! あなたの相手は私です!」
 地に墜ちたワイバーンに狙いを定め、史之、ルーキス、リディアの三人がほぼ同時に仕掛ける。
 低空を矢のように飛ぶ史之は、そのまま最も近かった一体に肉薄すると抜刀と同時に一閃。斬り裂くと同時にワイバーンの精神を蝕む力が流れ込み、鮮血と共に紅い稲妻が奔る。
 一方でルーキスはというと、金鎖の意匠に彩られた黒銃の照準を右奥に見えた一体へと合わせていた。
 引き金を引くと共に放たれた霊石を加工した弾丸は、寸分の狂いもなくワイバーンへと命中すると刻まれていた術式が起動。
 弾創から芽が出てきたかと思えば、そこだけ時が速く進んでいるかのように、急速に成長した巨大樹によってワイバーンの体が内側から食い破られていく。
 そして左奥の一体。こちらにはリディアが指先を向けていた。その先端に収束させた魔力を解き放つと、虹の尾を引く彗星が現われワイバーンへと飛んでいく。
 威力としては決して大きなものではないが、星に込められた魔力によってワイバーンはリディアへと狙いを改めたようだ。
「こっちだよ」
 史之、ルーキス、リディアの三人がそれぞれに注意を引くと、散開してワイバーンを引き離す。ルーキスの隣にいたスティアはルーキスを狙って迫ってきた一体に狙いを定めると、蒼く煌めく聖なる杖の先端を向ける。
 滅びからこの混沌世界を守る。その強い意志に反応して杖が輝くと、魔力の刃が放たれワイバーンの鼻先に傷を刻む。
「まだまだ!」
 即座に次の術式を起動させると、ワイバーンの周囲に火の粉が舞う。しかし、ただの火の粉と侮るなかれ。一つ一つがスティアの強大な魔力が込められた劫火である。
 次の瞬間、連鎖的に弾けた火の粉がワイバーンの身体を抉りながら、次々と炎の花を咲かせていく。
「よし。ここまでは想定通りだな」
 仲間たちが上手く先制攻撃を仕掛けることが出来た中でイズマはというと、魔法で戦場の俯瞰映像を見つつ次なる一手のために準備を進めていた。
 夜空を思わせる漆黒の細剣を指揮棒のように振るえばどこからともなく旋律が流れ出し、その勇壮な響きが自身の力を高めていくことを実感していた。
「第二楽章を始めようか」
 自己強化を終わらせれば後は攻撃あるのみ。
 より激しく指揮棒を振ると旋律も呼応して激しさを増して、上空に幾つもの魔法陣が出現する。
 無数の魔法陣からは完全武装した騎士や兵士が次々と現れ、一軍となると戦場へと広がり数の暴力でワイバーンを蹂躙し始める。
 ワイバーンも黙ってやられる訳もなく、それぞれが炎を吐き、爪で斬り裂き、尾で薙ぎ払うことで近付く軍勢を纏めて吹き飛ばしていくが、焼け石に水で後からどんどんと湧いてくる軍勢に押されているようだ。
「これが僕たちの全身全霊だ」
「しっかりと味わえよ?」
 イズマの召喚した大軍勢に紛れて接近したシューヴェルトが大きく跳躍すると、上段に構えた赤刀が漆黒に染まる。注がれた呪詛が獣の形を成し、落下による勢いを乗せた一振りと共に放たれると、凶悪な牙の生えた顎を大きく開きワイバーンの背に食らいつく。
 そして、足元に潜り込んでいた義弘もタイミングを合わせてワイバーンの胴を狙う。地面がひび割れるほどの踏み込みから放たれるのは掌底による打撃。
 竜鱗を砕いてめり込んだその掌打から、ワイバーンに義弘の膨大な闘気が体内に送り込まれ炸裂する。どれだけ強靭な肉体を持とうとも、内側からの破壊には耐えられるはずもない。
 二人の同時攻撃を受けて悲鳴のような叫びをあげるワイバーンだが、それでも戦意は衰えないらしい。大きく体を揺さぶって背中のシューヴェルトを振り落すと、そのまま鞭のようにしならせた尻尾で弾き飛ばし、足元の義弘は強靭な脚で蹴り飛ばしてしまう。
「他のワイバーンは仲間が抑えてる。安心して攻めていいぞ」
「ありがとう、ミサキ。なら……」
 近場の脅威を取り除いたワイバーンが本命である史之へと狙いを定めると、灼熱の炎を吐いて焼き尽くさんとする。
 史之の支援のために顕現していた『刀神』ミサキが周囲の状況を伝えていたところにその炎が迫り、そのまま史之を飲み込んでしまうがミサキの表情は変わることはない。この程度で史之がどうにかなるはずがないと確信しているのだ。
 そして、それを証明するかのように炎が内側から弾け、中から太刀を振り抜いた史之が姿を現した。
 なおも炎を吐き続けるワイバーンだが、史之の放った斬撃による衝撃波が炎を押し返し、逆にワイバーンを切り刻み血の華を咲かせる。
「幾らでも遊んであげるよ」
 史之が引き付けた個体が集中攻撃を受け、他に比べて傷が深いと見るとルーキスは駄目押しの一手を打つ。
 携えた魔導書を開き、そこに記された呪文を唱え魔法を発動したのだ。
 迸る魔力がワイバーンを包むように展開されると、ルーキスが拳を握りしめる動きと連動して内側へと収縮。休息に外部から心身へと魔力が浸透したワイバーンは苦しみ暴れ出す。まるで悪夢に捕らわれた子供の様に。
「空中戦が得意なのはそっちだけじゃないからね」
 一方、リディアが引き付けた個体はというと、リディアとスイッチして注意を引き付けたレイテとドッグファイトを展開していた。
 ワイバーンの爪や牙が命を刈り取ろうとするが、それらはレイテに致命傷を与えることは無い。自身が思い描く”最強”を纏ったレイテの肉体強度は鋼鉄にも勝るのだ。
 爪による一撃を受けつつもそれに怯まずレイテは羽を広げて加速。闘気を迸らせ黄金の流星となると、前後左右のみならず上下の区別すらなくあらゆる角度から打撃を加えていく。
「滅びを齎すだけの悲しい存在よ、今回ばかりは私も容赦しませんからね」
 激しい空中戦を繰り広げるレイテだが、能力的には攻撃よりも守りが得意ということもあって攻撃を受けつつも深手を負うことは無く、まだ治療は必要なさそうだ。
 そして他のイレギュラーズもまた同様で、危険水準に達している者は見受けられない。
 ならば、とリディアは言葉に魔力を込めて呼びかける。あの黒きワイバーンに食い殺された哀れなワイバーンたちに。
 そのリディアの言葉に死霊が反応したのか周囲に死したワイバーンたちの苦しむ声が広がり、それを聞いた黒いワイバーンは呪詛に命を削られたのか苦し気な声を漏らすと態勢を崩し、そこにさらにレイテが打撃を重ねていく。
「イタタ……でも、ただではやられないからね」
 単独でワイバーンを抑えていたスティアが肩口から噛みつかれた。しかし、その直後にワイバーンは驚きの表情を見せてすぐにスティアを口から離す。
 スティアを守る神々の加護が、代行者を傷つける者への報復としてスティアが受けた傷の一部を返したのだ。
 口の中を傷つけられたのか、だらだらと口から血を流すワイバーンを見て、この隙を逃すものかとスティアは聖なる杖に魔力を込める。
 煌めき咲き誇る無数の焔に包まれたワイバーンが、それを振り払いながらスティアへと迫るがそれは悪手だった。スティアが両手で握る杖の先端には、神敵を滅するための刃が伸びていたのだ。
 聖なる輝きに満ちたその刃を一閃、二閃と続けざまに振り抜けば、一撃ごとにワイバーンの肉を斬り裂き骨をも断つ。
「ダ・カーポだ。まだまだ魔力に余裕はある」
 戦場に響くイズマの旋律が最初に戻り、再び同じ音が広がっていく。
 それに呼応するように、二重三重に展開される魔法陣からは次々と軍勢が現れ、戦場全体を飲み込む勢いで広がっていく。
 大規模な魔法は本来それだけ消耗も激しくなるが、予め施していた自己強化によってその負担も軽減されているため、こうして連続で放っても余力が残っている。
 攻め手を緩めることなく、イズマは旋律を奏で続けていく。


 先制攻撃を成功させ優位に戦闘を進めていたイレギュラーズではあったが、ワイバーンはもともと生態系の上位に存在する上に、終焉獣に寄生されてより強大な力を宿しており、そう簡単に決着がつくことは無かった。
 ヴァンジャンス岩山が震えるほどの激しい戦いの中で、イレギュラーズもまた傷付き消耗していたのである。
「この辺りで一度立て直さないと不味いか」
「皆さんに戦うための力を!」
 飛翔した三体のワイバーンが上から炎弾を雨のように降り注がせ始めると、イズマはリディアへと視線を向け、リディアもまたイズマを向いて力強く頷く。
 内なる魔力を解放し光を纏うリディアがさらにその力を高め解き放つと、頭上に巨大な魔法陣が出現し春の暖かな日差しを思わせる光が降り注ぎ、心地よい風が戦場を走る。
 その光と風は仲間の傷を癒す聖なる風光。
 リディアに合わせて同じ魔法をイズマも発動しており、魔法陣が幾重にも重なることで治癒が急速に進みイレギュラーズは再び戦う活力を手にしたのだ。
「まずは一体」
 傷を癒したシューヴェルトは、火力を集中させたことで最も弱っている個体へと狙いを定めると、呪いの力を足へと集中させる。
 蒼く輝くその足で大地を蹴れば、瞬きよりも速く駆けることが出来る。その加速のままに大地を踏むことで跳躍。弾丸のように跳んでワイバーンに飛び蹴りを食らわせる。
 肩の辺りに右脚が突き刺さるが、それを力尽くで引き抜くと体勢を崩し落下し始めていたワイバーンに追撃を仕掛ける。
 体を縦に回転させることで遠心力を乗せた踵落としは蒼い軌跡を描いてワイバーンの脳天へと直撃すると、その衝撃で地面へと叩きつけられた。
 軽やかに着地したシューヴェルトが念のために確認するが、頭が砕かれ間違いなくこと切れていると言える状態だ。
「このまま一気に片付けよう」
「あぁ、だが最後まで油断はするなよ?」
 炎を吐いた後、一体は大地へと急降下して体重を乗せた踏みつけをしてきた。
 その衝撃で弾かれたレイテだが、例によって傷は浅くすぐに反撃に出ることが出来る。
 手足に集中させた闘気を乱舞させると、まるで刃物に切られたかのようにワイバーンの黒い体表に赤い線が幾つも浮き上がった。
 そして、その乱撃の中に突っ込んだのは義弘だ。一度右の拳を握りしめ闘気を集中させると、踏み込みと同時に掌打を放つ。
 打撃の瞬間に送り込まれた闘気はワイバーンの体内で爆裂し、打撃と爆裂の二重撃が綺麗に決まる。
「この世界にお前たちの居場所なんてないんだよ」
「まったくだな。さっさと消えて貰おうか」
 ぎりぎりのところで耐えたワイバーンが義弘に牙を突き立てようとするが、後方へと飛び退いた義弘と入れ替わりで前に出た史之が太刀を振るう。
 太刀と牙。金属がぶつかり合うような鋭い音が鳴り響くが、どうやら軍配は史之に上がったようだ。両手に力を込めて振り抜けば、ワイバーンの牙が砕け体も横へと流れていく。
 そうして晒した隙に容赦なく五月雨の斬撃を浴びせ無数の傷痕を刻んでいく。
 致命傷に近い深手を負いながらも、なおも粘り殺意を滾らせた瞳で史之を睨み口の中から炎を溢れさせるワイバーンだが、その動きがぴたりと止まる。
 ワイバーンの胴体には心臓を貫くように風穴が開けられており、その穴を覗いた先には細剣を突き出した体勢のイズマがいた。
 遠く離れたところから刺突に魔力を乗せて狙撃したのだ。
 完全に息の根を止められたワイバーンは口から炎の代わりに血を溢れさせ、大きな音を立てて地に臥した。
「たかが後衛と侮るなかれ、のこのこ来てくれてありがとう!」
 残された一体はルーキスに狙いを定めていた。
 翼をはためかせ加速しながらの突撃はさながら攻城兵器のようだ。直撃を受けて体の軋みに眉を顰めるルーキスだが、この瞬間が好機でもある。
 吹き飛ばされつつも空中で体を捻って体勢を整え霊石の弾丸を込めた黒銃の引き金を引けば、術式が起動し銃口から魔力の輝きが溢れ出す。
 膨大な魔力が収束し超密度の魔力刃となると、ワイバーンが翼を広げて止まろうとしている所に背後から襲い掛かって肩に突き刺した。
 直後、刃を形成する魔力が瞬間的に解放されワイバーンの片翼を消し飛ばす。
「そろそろ終わりにしましょう。スティアちゃん!」
「うん! これでぇえええ!」
 リディアが呼び起こした死霊の呪歌が響く中、駆け出したスティアが聖杖に魔力を込めてその先端に刃を形成する。
 大剣へと姿を変えた杖を渾身の力で振り下ろした直後、その勢いを殺さずそのまま体を回転させて横薙ぎの一撃。ワイバーンの体に十字の傷が刻まれると、その中心に聖なる輝きに満ちた魔力刃を突き刺し込められた魔力の全てを解放する。
 神なる一撃を三度。満身創痍の身に叩き込まれたワイバーンは、断末魔の叫びを上げながら光に飲まれて消滅したのであった。


 依頼の目標であった黒いワイバーンを三体全て倒したイレギュラーズが、暖かな光に包まれた。
「皆さん、お疲れさまでした!」
 激しい戦いで消耗した仲間を癒すべく、リディアが魔法を使っていたのだ。
「ありがとさんよ。とりあえず周囲に終焉獣の気配はなさそうか?」
「うーんと、見える範囲にそれらしいのはいないかな」
 拳を握ったり開いたりして調子を確かめつつ義弘が問えば、最も視力に優れるルーキスが眼を凝らして周囲を見渡し答える。
「終焉獣は完全に死んでいるみたいだよ」
「寄生した宿主と同化して一蓮托生になっていたっぽいね」
 死体が残った二体のワイバーンを調べていたスティアと史之も続く。
 全てがそうとは言えないが、今回現れた寄生型はどうやら対象の体奥深くまでに侵食し肉体を完全に掌握した上で、身体機能を向上させていたようだ。
「弔って埋める……とかはしない方がいいよね?」
「そうだな。彼らもそう言っている」
 死体をどうするか。レイテの言葉に答えたシューヴェルトには死したワイバーンの感情が流れ込んでおり、弔いを望んではいない事を感じ取っていたのだ。
「では、この死体は俺たちで有効活用させて貰おう」
 残された課題は黒いワイバーンによって棲み処を終われた周辺の魔物だ。
 放置すれば別の場所で人里を襲う可能性もあり、出来れば元に戻って貰いたい。と、考えていたイズマは死体を餌にしてしまおうと考えたようだ。
 仲間たちはその考えに賛同すると、全員で後処理を行ってからローレットへ帰還するのだった。

成否

成功

MVP

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女

状態異常

なし

あとがき

寄生型終焉獣に寄生された黒いワイバーンは無事に討伐されました。
アフターケアもされていたので、脅威が去った事をしって元々付近に生息していた他の魔物たちも戻ってくるでしょう。
お疲れ様でした。

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