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シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>臥す滅獣

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 エマージェンシーコールが響く。
 終焉の監視者『クォ・ヴァディス』は危機を叫び、誰もがその対応に追われていた。
 星空の外套を揺らし、南部砂漠コンシレラに急ぐのは『情報屋』のイヴ・ファルベであった。
(……アレは何……?)
 遠巻きからでもよく見えよう。その透き通った肢体に、だらりと頭を垂らした獣。
 転た寝でもして居るかのようにぴくりとも動かないが、その獣が顕現した時点で南部砂漠に点在したオアシスが幾つか滅びたと聞く。
 その一方はラサのネフェルストにも伝わっただろう。獣の動向をクォ・ヴァディスと共に調査を開始し、彼等も多忙を極めている。
 空を見上げれば幾つもの星が降っていた。それぞれは地を叩く。星界獣が『空から落ちてきている』と気付いたのはイヴが巨大な獣に近付いた時だった。
 今は覇竜全土の地を叩きつつある星界獣達もその数を増やし続けて居るのだ。
 西方のクォ・ヴァディスより幾人もが前線に飛び出すことになったのも無理はない。南方の覇竜観測所も状況対応に追われているらしい。
「……大きすぎるよね」
 イヴはぎこちない息を吐き出した。眼前の存在は何か。そんな事が分って堪るものか。
 イヴはこの世界の精霊だ。世界の命運とは流れる水その物。盆に溜った水に対して少女は溢れて流れるが儘に見てきたのだ。
 そんな彼女が相対する世界の滅びとは異常気象のようなものであり、はたまた、遠慮無く土足で踏み荒らす来訪者のようなものでもあった。
「大きすぎるよ」
 それっきりの感想しか出せないほどに目の前には巨大な存在が居たのだ。相棒になったタイニーワイバーンは怯えたように息を吐く。
「おまえも、ごめんね。こんな所に連れてきて。
 ……少しだけ待ってね。我慢して。あいつのことを知らなくっちゃ」
 イヴはまじまじとその獣を見た。何かを糧にして動いているのだろうか。動くにはそれなりのリソースが必要か。
 ……それが今は近くにないからか? もしくは解き放った『誰ぞ』が傍に居なくては動けないのか。
 今動かないというならば今のうちに周辺の避難誘導や、警戒を行なうべきだろう。
「皆に声を掛けて、周辺の被害状況を確認して、避難を促して、それからアイツの情報を――」
「うんうん。分かりみ~。シュクセも同感だけどぉ」
 イヴは勢い良く振り返った。長い耳、幻想種か? ――いや、悪魔を思わす角や尾、翼がある。何者か。
 勢い良く剣を引き抜いたイヴはディルクやハウザーに無理を言って習ったばかりの剣捌きで一度彼女から距離をとった。
「あ、ダメじゃん。シュクセに剣を向けるとか。マジで言ってる? こーんなに可愛いのに?
 は~ん、やっぱり魔女サマの言う通りなのかなあ。砂漠の民、激おこ? 野蛮って感じ? ダメじゃね、挨拶からでしょ」
「……」
「こんにちはは?」
「……こんにちは」
「アハッ、素直~。シュクセだよ。それからねえ、じゃーん、こいつ。マジ鬱陶しいエトムートくんです」
 指差す少女の背後には白い仮面を着けた青年が立っていた。だらりと長い腕を降ろしぶつぶつと恨み言を呟いている。
「こんな何でも無い場所にこんなに大物がいたことは喜ばしいが、王も無茶をする。
 あれだけの騒ぎを起こせば邪魔立ても入りやすいという物。それにしたって、態々森の魔女の力を借りなくとも良いだろうに」
「あ? 魔女サマの術式が最高なんだろうが」
「王はそんなものなくても起こせたではないですか」
「ぶっころ~」
 叫ぶシュクセにエトムートが苛立った様子を見せる。イヴは二人に拍子抜けしながらも距離をとった。
 余りに楽しげに笑うシュクセの背後にレナヴィスカの団員の姿が見えたからだ。
「うそ……」
 彼女達はイヴを見ている。弓を携え、矢を番える。後方へと下がったイヴは彼女達が操られていると本能的に察知した。
「あ、ダメじゃん。脅しちゃあ」
 笑うシュクセに彼女達が弓を降ろしたことから――彼女が操っているのだと直ぐに認識した。
「で、でっか君サマをー、砂漠の散歩してもらいましょ!」
「いいや、クォ・ヴァディスを破壊だ」
「は? 意見合わね~。うざったーい。どう思う?」
 問われたイヴは唐突すぎて「は?」と答えた。何を問うているのか。敵に、そのような――

「ま、いいや。アナタも死ぬもんねー! ごめんね。こんなくだらないこと聞いて。
 じゃ、今からでっか君サマを起こそうと思います。起きたら、アナタも死ぬだろうけど、まあ、勘弁してね。ごめんね~」

 イヴは危険だと察知した。もうすぐ、イレギュラーズが来てくれる。それまで『でっか君』と呼ばれたあの獣を起こさせぬように彼等を食い止めねば――!

GMコメント

●成功条件
・『不毀の軍勢』及び『クルエラ』の撤退(もしくは撃破)

●フィールド
 南部砂漠コンシレラ。クォ・ヴァディスや覇竜交易路にも程近い場所です。
 その地に巨大な終焉獣が座り込んでいます。堅牢な『殻』に身を包まれているのでしょうか。
 少しだけ動いたもののまた転た寝でもして居るようですが……。
 ベヒーモスやアバドーン、もしくはR.O.Oでは『ジェーン・ドゥ』の連れていた『でっか君』に良く似た生物が鎮座しています。
 触れなければ今は動かなさそうです。どうやら何かを糧にして動くようですが……。

●エネミー
 ・『不毀の軍勢』エトムート
 エトムートと名乗る白い仮面のエネミーです。青年……にも見えますが機械染みたフォルムをしています。
 勿論、見付けたのはこの人です。全剣王喜んでたね。よかったね。
 長身を屈めておりだらりと腕を降ろしています。大人しくなった『でっか君』にちょっかいをかけに来たようです。もうちょっと動いて方向転換して『終焉の監視者』の辺り壊して欲しいな、何てことを思って居ます。
 どうやら『クルエラ』のシュクセとはソリが合わないようです。やかましいなと思ってます。後方からの指揮や支援が得意です。

 ・『クルエラ』シュクセ
 ツインテールと悪魔の角と尾、それから翼を有する少女。長い耳があるため幻想種のコスプレにも見えます。
 動物、精霊等々の意志を惑わせ『操る』能力を有しています。武器は巨大な斧です。全戦で戦います。
 エトムートの意思とは別にラサの砂漠を取りあえず荒らし回って置きたい所存。彼女の意思には半分くらい『魔女様』のご意向が含まれているそうですが……。

 ・砂漠の長耳乙女 5人
 シュクセに操られている幻想種です。レナヴィスカの団員が情報収集に訪れた際に操られたようです。不殺で解くことが可能です。

 ・『透明な獣』 5体
 体の中身が透き通った黒い獣です。四足歩行ですが、二足歩行……しそうです。
 知性は余り在りませんがエトムートの指示はよく聞きます。

 ・ベヒーモス(?)
 でっか君とあだ名されている謎の終焉獣です。非常に巨大です。歩けば街が容易く崩壊します。
 地中から現れたせいで周辺オアシスが幾つか滅んでしまいました、が、今は出て来ただけで大人しくしています。
 エトムートとシュクセはちょっかいを書けようとしているようですが。

●同行NPC『イヴ・ファルベ』
 宝石(色宝)が埋め込められた長剣を持った精霊剣士。
 イレギュラーズの皆さんは彼女にとって英雄です。共に戦えることを楽しみにしています。
 ラサの情報屋兼クォ・ヴァディスの偵察員です。皆さんの指導の下めきめき成長中です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <グレート・カタストロフ>臥す滅獣完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2024年01月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
シラス(p3p004421)
超える者
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
すずな(p3p005307)
信ず刄
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

サポートNPC一覧(1人)

イヴ・ファルベ(p3n000206)
光彩の精霊

リプレイ


「R.O.Oに出た化け物じゃねえか」
 天をも衝くそれは未だに居眠りでもするように身を丸めていた。
『竜剣』シラス(p3p004421)はゆっくりと、前を向く。眼前には白い仮面の男、そして如何にもサキュバスでも演じているかのような娘が立っている。
 一方は全剣王率いる存在だと言うが――もう一方は誰か。ヴェラムデリクトか、それとも。軽口を叩く者達を相手にするならば出来る限りの情報を手にしておきたい。
 情報は武器だからだ。シラスの瞳に気付いたのであろう娘が「やだーガン見? 照れちゃうな~」と頬を両手で包み込んでくねくねと身を動かした。
「でっか君サマはまだ寝てるしぃ、お話しする?」
「……でっか君……?」
『信ず刄』すずな(p3p005307)は目を瞠る。山にしか見えないそれは終焉獣だというのか。ああ、こんな所に山など無い。
 砂漠地帯だ。コンシレラに突如として出現した『終焉獣』の親玉に過ぎないだろうか。
「随分とまあ、呑気にお休みになられていますけれど、何やらややこしい状況みたいですね。
 この大きさで暴れられたら大変でしょうし、何とか食い止めないと……!」
 僅かな焦りを滲ませるすずなに「こいつは見覚えがあるのが嫌なところだな」と『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)が肩を竦めた。
 シラスの言う通りR.O.Oで闊歩していたこの『デカブツ』は自由気ままに世界を蹂躙する役割を持っていたのだ。
「だが、考えてみればその通りだ。
 終焉獣がいるのだからこいつだって混沌に、ラサに現れておかしくない。
 ……ただ死に戻りを繰り返して何とか討伐した奴を混沌では見たくなかったね」
 それだけの脅威だった。そこから随分なときが経って冠位魔種を打ち破ってきた。実力は、この巨大な終焉獣にまで届いただろうか。
「んー、でっか君サマのお知り合い?」
「……こっちも聞きたいが、誰だテメーら。あのずっと引き籠ってた奴らの手下か?」
 シラスの問い掛けに少女は「シュクセとエトムートくんですけど~? あ、別口なんでェ」とひらひらと手を振った。
「エトムート、と言いましたか。……結局戻ってきたんですね、仲間まで連れて」
「仲間じゃ無い」
「そう、仲間じゃナイし」
 仲間割れか、それとも元から別の派閥で仲が悪いのか。ある種それは『戦況』に活かす事が出来る情報でもある。
『ただの女』小金井・正純(p3p008000)は眉を寄せてから、シュクセと名乗る娘の周辺に立っているレナヴィスカの傭兵達を見た。
「……それにレナヴィスカの皆さんを操っている。
 さっさと追い払いたいところですけれど、あの大きいのも無視できないし、はぁ。面倒な。とりあえずやることからやるしかありませんか」
「……ああ」
『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)が拳を固めた。苛立ちが滲む。普段ならば晴れ渡るような笑みを浮かべている少女は怒りをその双眸に移し込んだ。
「あ? ンな睨まないで欲しいんだけど~。もーいいや、アナタも死ぬもんねー! ごめんねー!」
 ひらひらと手を振ったシュクセに風牙の声音が震えた。まるで風を受けて揺らぐ風鈴のように声音がブレて苛立ちが包み込む。
「誰が死ぬって? この場で死ぬのはお前らだけだ! 滅びが欲しけりゃくれてやる!」
「え、やばー」
 シュクセがくすくすと笑う声になど構うこと無く真っ直ぐに走り抜けたのは『駆ける黒影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)であった。
 目指すはシュクセではなくエトムート。ただの鉄砲玉でいい。御しやすい脆い相手だと思わせていれば構わない。苛立ちの余りに飛び込んだと思えば良い――そうしてじっくりと相手をするために。
「よォ、どうやらウチのイヴはしっかりと調べてきたみてぇだな。
 っかし、地下にんなでかぶつが、な。こいつを見つけたから、『また来る』ってぬかしやがったのか」
「全剣王陛下は喜ばれましたよ」
「そうかい」
 ルナがちら、と後方を見た。小さく頷いた『光彩の精霊』イヴ・ファルベ(p3n000206)の肩を叩くのは『祝福の風』ゼファー(p3p007625)か。
「さァて。始めるとしましょうか。流石にこんなデカいのを起こされるのは洒落にならないのよねぇ。
 ただでさえ忙しいんですもの、厄介な仕事を増やされるのはノーセンキューなのよ」
 人殺しの術には長けていた。それでも、相手に取るのは肉体が透き通った獣達。それも、理解し、咀嚼し、糧としながら育ち行く獣だ。
「不思議な体だね、透き通って、黒くて……何で出来てるんだろう、その体。確かめさせてよ!」
 ぺろりと舌を覗かせてから『無尽虎爪』ソア(p3p007025)は笑った。ああ、お腹が空いてしまうかも知れないけれど――これはきっと、美味しく無さそうだ。


 無数の弾丸が戦場を飛び交った。内蔵AIによる射撃補助は的確に行く先を示している。砂嵐をも想わせる強力な所為圧力の弾丸の雨の下を走り抜けて行くのは複数のイレギュラーズであった。
「転た寝中のデカブツには狙うな!」
 声を上げるラダに「寝ててくれよ!」と風牙が祈るように言った。幸いなことに『でっか君』と呼ばれていた終焉獣は沈黙している。その巨躯を起こして利用せんと目論む女と、クォ・ヴァデスの破壊を目論む男が居ると睨むべきか。
「目的は何だ」
「え? デッカ君サマのお散歩でかなァ」
 そんな言葉を軽やかに響かせたシュクセ。そして、何を考えて居るか曖昧であるエトムートを『でっか君』の元へと向かわせやしないと風牙は愁クセに声を掛けた。
「なあ、シュクセだったか? まあ待てよ。滅びの前に少しお話しようぜ。あ、オレ新道風牙。短い間だけどよろしく」
「フーガ? 良い名前じゃーん」
 にこにこと笑った女は軽薄な話し口調と、迚もじゃないが戦いに来たとは思えぬ服に身を包んでいた。鮮やかに燃えた気配を宿す槍を手に、風牙が息を吐く。此処で焦ってはならないのだ。レナヴィスカの傭兵達の無力化を狙うシラスがラダの弾丸の雨の下を駆けて行く。ちら、とイヴを一瞥したすずなが「参りましょう」と囁く声がする。ここでシュクセを食い止めるのだ。
「イヴさんから見てレナヴィスカの皆さんはどうですか?」
「おかしい。操られている」
「ええ。同意見です。見るからに様子がおかしいですし、操られているとかそういう感じですよね。
 イヴさんの手前、斬って捨てるのも憚られますし、無力化で留めたい所! ――安心してください、峰を返して戦う術も心得ていますので!」
 斬り、殺すだけが己の剣ではない。シラスが薙ぎ払えば、それに続き後方に佇む正純とイヴに「任せます!」とすずなは声を弾ませた。
 小さく頷く正純は「イヴさん、力を貸します。一緒に頑張りましょう」と声を掛け、眩い光を放つ。その気配を宿す鏃が着地し、レナヴィスカの娘達の目を眩ませた。
 武器を持っている手を狙う。イヴに教えた無力化の方法に倣うように宝玉剣を振り下ろす。イヴという娘は淡泊だ。情に篤いように見えて、人死にには慣れている。けれど。
(……殺したくない、って願えば、助けられる。すごいな、イレギュラーズ)
 彼らの様に、命を奪うとき、命を守る時を選べるならば、どれ程に素晴らしいだろうか。発展途上の精霊は自らにもっと力が欲しいと願うように剣を握り締めた。
「敵の洗脳効果がどの程度なのかは分かりませんが、気絶か、痛みを与えれば元に戻る、はず!」
「殺さない」
 イヴに頷いて正純は「此の儘鎮圧しましょう」と囁いた。今はエトムートにルナが、そしてシュクセには風牙が張付いている。
 そして周囲を駆け回る透明な獣達と相対するは――
「ねえ、これって大きくなるね。四つ足から他に変わろうとするんだ」
 その爪は鋭く、雷の気配を纏って斬り伏せる。変化を待ってやるほどにソアはのんびりと過ごしていない。
 獣の狩りは俊敏だ。鋭く奪い去り、優しさの一匙も見せることはない。さくさくと『やっつける』事がソアの出来る事なのだ。
 なんたって。
「ふん、少しも美味しそうじゃない」
 唇を尖らす虎の娘にゼファーがくすりと笑った。食欲とは尤もたる感情だ。それに直結しているのだから仕方があるまい。
「然しまあ、此れまたユニークな化け物ですこと。
 ユニークではあるけど、愉しいパーティー向きな恰好じゃあないのが残念ね?」
 どうしたって華やかさには欠けるのだ。エトムートとルナ、そしてソアの立ち位置を確認し、巻込まぬように薙いだ大槍。
 長い手脚をぐんと伸ばして距離を詰める。長い銀髪が柔らかに揺らぎ、その眸が細められた。
「ああ、いやね。成長しようとするのだもの!」
 ゼファーが思わず毒吐けばソアは「立とうとするのは、成長の証なのかな」とぱちくりと瞬いた。
「でも、成長する前に全部『ごちそうさま』しちゃえ!」
 大地を蹴った。獲物を見付けた虎が、狩りを行なうようにソアはその距離を詰めて行く。無駄な緊張など宿さない。ただ、自然体であっても『狩る者』は全てを狩り取ることが出来るのだ。
「さて、鉄帝人だって、話だったか? エトムート」
 ルナがじらりと見詰めればエトムートと名乗った男はその長身を屈めながら「鉄帝人?」と問うた。それから「ああ、それは野蛮な呼び方という事か」と合点が言ったように拳を打ち付ける。
「そもそも王が下に集ったのみ。それが賞賛の呼び名で無いならば『間違い』では?」
 男の長い腕がだらんと揺れている。エトムートは司令塔だ。彼にとっての誤算は獣達を倒す乙女達が居たことだ。
 後方に位置する男が敵前で相対するのはそれ程好ましくは無い事なのだろうか。ルナは冷静に『相手が現在に於ける鉄帝国の人間の思考』とはまた違った考えを有することに気付いた。
(全剣王の頭脳だなんだ言っているが、鉄帝人――とは思って居たが、そうか。
 そもそもこいつらは『鉄帝国』で育ったわけじゃあねえ。その国民性が当てはまるような存在でも無いか)
 全剣王とは何か。『コロッセウム=ドムス・アウレア』の主である事は確かだが――
「王は戦を好み力がある。ならば補うべきだろう。そうして側近になる事を夢見ているからには侮ったりはしない」
「そうかい」
 侮られようが、先に倒れようが構わない。ベヒーモスの元へと向かう事が無いように時間を稼ぐのがルナへ課せられたオーダーだ。
「一つ、教えといてやる。俺ァ、倒れたって構わねぇのさ――なんたって、後ろにゃおっかねぇ美人が控えてっからな」
 弾丸の雨が、降り注ぐ。それは驟雨の如く。叩き付けられては暴れ回った獣を大地へと叩き伏せた。


「終焉獣もずいぶん育ってしまった――しかし一応でも生物なら学習の為の脳は、心臓はあるのだろうか? 生物として核となるものは?」
 呟くラダの言葉にイヴが「ラダ、獣の体の中身、なにもない」とぽつりと呟く。
「ああ、透明だというからには不可視なのだろうか……『伽藍堂』であれど、生命の維持を行なう某かがある筈だ」
 ラダは首を立てば獣は霧散し消え去ったと呟く。透明な獣は一定のダメージを受ければ其の儘溶けるように消えるのだ。
「でっか君自体も『ダメージ』が鍵か?」
 何らかの臓器や生物としての核が判明していれば容易ではあるが、そうは簡単には悟らせぬようにと考えて居たのだろうか。
 倒れて行くレナヴィスカの傭兵達の傍をすり抜けてからすずなが「皆さんの保護を頼みます」と叫んだ。頷くイヴと共に正純はその無事を確かめる。
「お待たせ! さっきの獣よりもあなたの方がずっと良さそう」
 ソアはきらりと瞳を輝かせた。「全剣王って知ってる! 部下がみんなすごい面白い王様ね!」と笑えばエトムートがやれやれと言わんばかりに腕をぐんと持ち上げた。
「それは例外だろう」
「そうかな? そうじゃないかも?」
 首を傾いだソアにエトムートは全ての獣が斃されたことに気付いてから「嫌なことだ」と呟いた。
「『クルエラ』、撤退だ」
「は? シュクセって呼べや」
 苛立った様子で告げるシュクセにエトムートがやれやれと肩を竦める。そう、これでいいのだ。倒しきらなくても良い。
 ゼファーは『でっか君にちょっかいをかける暇』など与えないようにと駆抜けた。
「やんちゃと火遊びは程ほどにして欲しいものね?
 こんなデカいのを起こされちゃ、おちおち夜も眠れやしないでしょうが。つまり美容の大敵なのよ。わかる??」
「それはやばい」
 手を打ち合わせたシュクセは見た目そのものの精神性なのだろうか。ゼファーの言葉に「やだーどうしようー」と叫ぶシュクセをシラスは拍子抜けした様子で見詰めていた。
「色んな意味で圧がある敵だが」
「……ああ、おっかねぇ美人も前に出て来たことだ。相手さんも本気じゃねェ。そろそろ終わりにするか」
 ルナにエトムートは「本気で戦う義理もないだろう」と腕をぶらりと揺らしたまま答える。
「……まったく、いつまでラサにいる気だ。探し物は無事見つかったようだが、そいつを置いてお帰り願おうか。
 それにデカくて強いのが如何に鉄帝好みだろうと、流石にそいつはお前達の手にも余ると思うがね!」
「え~? 置いてったら意味なくない? てか、いいじゃん。隣国のよしみでっ! シュクセはぁ、鉄帝人かっこわらい、じゃないし」
「……」
 ラダはからからと笑うシュクセを見た。後退したエトムートは撤退を行なうつもりなのだろう。司令官が駒を失ったからだというならば合理的な判断だ。
「隣国?」
 シラスが眉を寄せた。「ああ、そうか。魔女様ってなんだよ、深緑でも何かやらかすのか?」と、告げたのには理由があった。
 幻想種のような耳をして居る。シュクセという女がそちらに縁があるのは容易に想像できた。
(そしてツインテに悪魔っ子、小柄で力持ち……特徴が多いな)
 シラスは肩を竦める。おしゃべりな彼女を此処に留めて撤退させるのを目的とするならば容易に達成が出来るか。
 何も此処で倒しきらなくても良いのだ。ただ、情報を得て先を見据えれば良い。
「いや、お前。属性盛り過ぎじゃね?」
「覚えやすいっしょ。覚えて貰おうと思ってぇ、シュクセとエトムート君です」
 逆さのピースサインを見せる『悪魔っ子幻想種』に風牙レテートの欠片をぎゅうと握り締めてから息を吐いた。
「お前は何だ」
「魔女サマのしもべですけど」
 ぱちくりと瞬くシュクセに「撤退しろ」とエトムートが告げる。「いやだ」と拒絶する辺り彼等は仲が悪いことは明らかだ。
「魔女ファルカウサマは全剣王と違って、救いのために行なっていらっしゃるから! だから、デカブツはこっちにくださいな」
「……ファルカウ」
 ぎり、と奥歯を噛み締めた。レテートの巫女『クエル・チア・レテート』はファルカウを護る事を夢見ていた。
 そんな彼女の決意や信念をも蔑ろにするように『ファルカウを名乗る魔女』がでっかくんと呼ばれた終焉獣を欲しているか。
「差し上げられないと言えば?」
「んー、第二ラウンド?」
「……そうですか。ならばあなた方には恨みはありませんが斬らせて頂きます」
 すずなが地を蹴った。鋭くシュクセに肉薄する。魔女のしもべと名乗った娘が避けるがシラスは見逃さずシュクセに拳を叩き付けた。
 は、と息を吐く音がする。肉にめり込む拳を避けようとしたか――しかし、叩き付けた結果に「はあー? シュクセの肋がやばたんですけどー!?」
 彼女の叫ぶ声にエトムートは「だから撤退しろと言った使い魔」と渋い声音を漏した。
「あーあ」
 腕をぶらりと揺れ動かしてからシュクセは後方に下がる。
「深追い、する?」
「……衣装のセンス以上に性格も中々困った子ですこと。出来ればさっさと諦めて帰って欲しいわね、此のバッドガール」
 嘆息するゼファーに「覚えたかんな、槍女」とシュクセが舌をべえと出した。何て呼び方をするのだと肩を竦めたゼファーの傍で正純が弓を引き絞る。
「では、遠吠えなどは程々に。あんなものが現れた理由くらいは置いてって下さいます?」
「魔女サマが起こしたからじゃん!」
「我が王だが」
「は? 魔女サマだが!?」
 舌戦を繰り広げる敵二人に正純は矢を放った。ひゅ、とシュクセの頬を擦った矢に女が拗ねたように唇を尖らせる。
「またね」
「二度と来るな」
 吐き捨てたルナに「来るな、あれは」とラダは肩を竦める。残された巨大な終焉獣は未だ眠りに就いたままだ。
「でっか君……」
 すずなはその名を呼んだ。そう呼ばれていた終焉獣は地を踏み締め、ずんずんと進んでいったか。
「……ベヒーモスの動力はなんだろうな。候補としては『人の死』……それか――」
 世界に増え続けるバグ・ホールか。滅びの気配に感化されて動き出すというならば何れは目覚める可能性がある。
「……にしても。リヴァイアサン程で無いにしても大したデカさね。
 此れが目を覚ましたとして、どうやって片付けるのやら。今から考えるだけでも大分頭が痛いわね?」
 嘆息してからゼファーは目を伏せた。刺客から狙われる続けるのは確かであろう。クォ・ヴァデスの本拠地とて防備を固めながらもこの終焉獣の対処に急がねばならないか。
「……イヴさん、怪我は?」
「ないよ。大丈夫、でも――」
 見上げた先、その獣が立ち上がり動き出すまでの間に何が出来るのか。
 イヴはそればかりを考えて居た。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。でっか君……。

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