PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>雪原に咲き、そして散る

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●白銀の徒花
 ヴァイス=ブランデホト(p3n000300)という男がいる。獣種ながらも人の姿を取れず、しかしその理に腐ることなく、シルヴァンスの一党の者としてヴィーザルの地を駆け回っていた、そんな男だ。
 ローレット・イレギュラーズから見れば、彼はなんとも愚かで、弱々しく、そして珍妙な行いをしていたように見えただろうか。努力はしていた。結果も……ローレットが絡まないところでは出していた。だが、世界の大きな流れ、イレギュラーズの圧倒的な成長の前にはなんとも儚いものであった。ゆえに彼は敗北し、ローレットに微力ながら助力し、その上で、忘れ去られた。ヴィーザルの地で細々と、しかし地に足の付いた生活を続ける彼に、世界がスポットライトを当てることはない。よしんば視線が届いたとして、それは徒花としてのなにか。
 白兎は、白銀の向こうで顧みられることなく世界とともに生きていく……それだけで、良かった。
 よかったはずなのだ。
『本当にそうか?』
 十分だ。部隊を率いて立ち回り、やったことは内紛まがいの行為ばかり。意思を持って動くなんて俺にはもう、無駄なことだ。
『その力を無駄にするのか?』
 無駄じゃなかった。ローレットとの接触がなければきっと、家族のために死んでいった仲間達の復讐は叶わなかった。たとえそれが、ノーザンキングスの内紛にすぎなかったとしても。だからこれ以上は高望みだ。
『いいや、無駄だ。裏方でめそめそと過去を思い返してあの時はよかったと繰り返すのは、魂が腐り落ちている証拠だ。だからその魂の腐り汁を煮詰め、肉体を借り受けて、私はお前に成り代わる』
 白兎は誇りを捨てない。無駄だ、ここで心が負けたらなんのためにこの国は、
『終わりなのだ。終わりがくるのだ。お前が死んでも生きても、その後に』
 …………。

●雪華散る
「ヴァイス……『白兎』と呼ばれた獣種が行方不明となりました」
 情報屋は無感動にブリッジに指をかけ、軽く鼻梁に押し付けた。彼女の目に感情らしき光はない。だが、その事態がどれほどのものか、は語る必要があろうか。
「彼は元々、『ノーザンキングス』の一派として活動しており、鉄帝の事変の折、とあるイレギュラーズの領地に収まったと聞いています。ですが、部下をおいて彼のみが失踪したと。というか――」
 もと次官だった獣種を瀕死の重傷におい込み、消えたと。
「正直なところ、情報が錯綜しておりはっきりと申し上げられませんが……彼は明らかに常軌を逸した能力を得ており、外見もかなり様変わりしていたと。そして、得物も生物的なものに変容していたと言います。つまり」
「寄生されてるってことか」
 情報屋の言葉を引き継いで誰かが応じた。静かに頷いたその表情の硬さはおそらく、哀れみや苦悩ではない。
「強敵である上に情報が少なく、敵の総合力も不明です。皆さんにとって……余り、交流のなかった相手ですから。生死は不問とします」

GMコメント

 そういえばヴァイス君は作るだけ作って活躍の場が無に等しい子だったし、そもそも脅威になった覚えがありませんでしたね。
 というわけで、後腐れがあるとも思えない戦いです。

●成功条件
 ヴァイス・ブランデホト(寄生体)の撃破(生死不問)
 寄生型終焉獣(獣種)の撃破(生死不問)
 アポロトス『???』の撃退
 変容する獣の撃破or撃退

●ヴァイス・ブランデホト(寄生体)
 主にノーザンキングス関連で登場し、その後領地に引っ越した『白兎』と呼ばれた部隊の部隊長。銃器全般に長け、狙撃銃の扱いが特に得手です。また、雪原でもデメリットなく動き回れます。
 瞳からは感情が失せ、生物的なフォルムをした狙撃銃を持っています。この銃は任意に二丁拳銃へと変化することが可能で、全体的な射程に隙はありません。
 手数が多く能力低下系のBSを好んで用い、他の寄生型終焉獣と連携をとって相手の逃げ場を確実に潰すクレバーな戦闘を行います。
 また、全体的に距離を取られた場合、狙撃銃による大砲級の一撃も備えています。

●寄生型終焉獣(獣種)×5
 ヴァイスの配下であった『白兎』の部隊員です。が、副官に関しては半殺しにしてメッセンジャー代わりに置いてきました。
 基本的には銃とナイフにより戦い、相互に距離を取って一網打尽にならないよう、且つ各々をフォローできる位置取りで戦います。
 銃には【飛】を有する超射程攻撃が含まれ、自分達から大きく距離を引き剥がす、他の強敵にパスするなど嫌らしい戦い方をするでしょう。
 比較的雑魚の部類ですが、HARD基準での雑魚なので舐めてかかればまず後手に回るでしょう。

●アポロトス『???』
 滅びのアークが人間の感情を帯びて顕現した姿です。この場合、ヴィーザル地方で起きたあらゆる悪意にまつわる感情を帯びた存在ということになるでしょうか。
 OP情報にはない(PL情報)ですが、終焉獣の寄生元はこいつです。
 外見はヴァイス達兎の獣種よりも頭身が高く、顔だけは兎ですがその他キメラのように様々な獣の特徴をごちゃまぜにしたような姿をしています。
 滅びのアークを周囲にばら撒く特徴が有ります。
 非常に動きが素早く、低空飛行を常時行います。また、【不吉系列】や【麻痺系列】をガンガンばら撒き、行動阻害主体に立ち回ります。
 この戦闘では勝利だとか敗北ではなく、追い込んだ状態でのイレギュラーズの行動にのみ興味があるようです。
 基礎能力は低くはないため、撤退を狙うにしてもそれなりに準備がいるでしょう。

●変容する獣
 体の中身が透き通っている蒼白い終焉獣です。
 戦闘の中で情報を収集し進化、或いは終焉勢力へと送る役割を担っています。
 そもそも、この個体も情報を多少なり得ている為、戦いのなかで敵味方問わず戦法を学んでいく他、状況判断を重ね行動が弾力的に変化します。
 ただし、極端に強力なスキルや戦法をひっくり返すものがいきなり生えることはありませんので、そこは安心して頂いて構いません。

●戦場
 ヴィーザル地方の雪原。
 吹雪や足場不利、低温など不確定要素のオンパレードです。

●【寄生】の解除
 寄生型終焉獣の寄生を解除するには対象者を不殺で倒した上で、『死せる星のエイドス』を使用することで『確実・安全』に解き放つことが出来ます。
 また、該当アイテムがない場合であっても『願う星のアレーティア』を所持していれば確率に応じて寄生をキャンセル可能です。(確実ではない為、より強く願うことが必要となります)
 解き放つことが出来なかった場合は『滅びのアークが体内に残った状態』で対象者は深い眠りにつきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <グレート・カタストロフ>雪原に咲き、そして散るLv:30以上完了
  • 最後まで、中途半端だ。
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年01月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
金熊 両儀(p3p009992)
藍玉の希望
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘

リプレイ


 『彼』は所詮、誰かの上に立つ器などなかったのではないか。
 くだらぬ小間使いとしての価値しかなかったのではないか。
 それは、本人が最も懸念し、鑑み、折り合いをつけてきた感情であった。そうであったとて、ヴィーザルの平穏を招くのならばそれでよいと。
 だが、この地に長く蟠り続けた逃走の残火は、そんな日和った考えを許すことはないらしい。
「……だから、俺か。俺達か」
「何にしても『都合がいい』。私としてはこの上ない燻り方をしていた」
 クソッタレが。
 そんなクソみてえな言い分に乗っからねえと自分を保てなくなってる、そんな事実に反吐が出る。悪いことをした――なんて言わないでおく。そんな事を口走ったら、あいつが浮かばれねえじゃねえか。
「……まったく、最近見ないと思っていたら。こんなところで何をしていますの。目を覚ましなさい、晩御飯のスープが冷めてしまう前に帰りますわよ!」
「ヴァイス☆ドラッヘ! 只今参上! 勇敢な戦士達を助けに来たわ! さあ、元の場所に帰りましょう!」
「相変わらず、テメェが正しいですよって面構えしやがって。腹が立つぜ」
「まあ! 私達が正しくなかった試しなんてありませんわよ! あったとして、それは法が間違ってる時だけですわ!」
 『願いの星』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)と『ヴァイス☆ドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は、『白兎』と浅からぬ関係……というか、それなり以上に対峙した過去がある。轡を並べて戦うに至った彼らのことを、十分に知っている仲だ。故に、彼女らにとっては癇癪を起こした弟分を引きずって連れ帰るような感覚でしかない。
 そんな態度書きに食わないのだと憤るヴァイスの姿は、正しく癇癪を起こした子供にも似ていた。
「あらあら、見ない間に随分と……全く。なかなかの姿になっているじゃない」
「……なっちまったもんはしょうがねぇっス、未然に防げた訳でもねぇしよ」
「ブランデホトさん達を助けるためにも、切り替えていきましょう」
 『同じ名』を持つ者として浅からぬ縁を持つ『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)からすれば、彼らの現状は見ていて気分のいいものじゃない。それは『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)も同じことで、『そう』なってしまったことを悔やむよりも、助けられるという可能性を求めて戦場に立っている。『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)の表情は見て取れないが、常に倣い、飽くまで一人の兵士として目的達成を第一として得物に手をかけている。「それより、」とオリーブが甲を向けた先に、それはいた。
 獣の特徴を多数混ぜ込んで混沌の極みに至った姿でありながら、大斧を担いだ姿は異様に様になっている。蛇の尾を持つあたり『出来過ぎ』であるが、その異形に即してか、視線の鋭さは本物のそれだ。
「寄生した連中の親玉があいつか。ウサギ達の雰囲気がやべえ感じだし、気を抜いたら喰われかねねえな」
「儂ぁ、新参で縁なんぞ無いぜよ…ほいじゃが、寄生型の終焉獣に縁はあってのぅ? まぁ、なんじゃ、何が言いたいかというと……おまんらは割と嫌いなタイプちゅう事じゃ」
 『簒奪者』カイト・シャルラハ(p3p000684)と『藍玉の希望』金熊 両儀(p3p009992)がその男、アポロトスが一体に向ける目は鋭い。寄生型の終焉獣はすでに多方面で多大な被害を生んでいるが故に、それを生み出す元凶が目の前にいると聞かされれば、平常心でいるのは難しいだろう。
「憎しみ、嫌悪、憎悪! そういうの最高に“イカしてる”って俺ぁ思ってんだ。そういうのを抱えてるンなら、ぶつけてきな……美味けりゃ肉体(さら)まで平らげてやるよ!」
「私はあなたを憎いとは思っていません。ただ、不思議だとは思っています。興味を持たれている、ということが」
「申し訳ありませんけど、何を言ってるかさっぱり聞こえませんわ! 貴方、声の出し方が下手なんじゃありませんの? その体に慣れてないとか!」
 アポロトスの挑発的な言葉に、小首を傾げ『竜域の娘』ユーフォニー(p3p010323)は応じる。負の感情を『喰う』と公言するその異形はまるで肉体を得たことそのものに強い喜びを覚えているようにも思える。だがしかし、ヴァレーリヤは最早そんな計算外の代物に興味はなさそうだ。わざと煽り立てる言葉を選んでいる辺り、変に駆け引きや辛抱を強いられることがたまらないといったふうでもある。
「あんまりそいつを構ってやるなよ。俺にとっちゃ捨て置けねえ相手だからよ、無駄にツバつけられるのも癪なんだよ」
「……兎さん達はそれでいいのね?」
 ブランデホトはアポロトスへの視線を遮るように銃を掲げると、そのままイレギュラーズへと照準する。ヴァイスはそんな姿に憐れみの視線を向けて身構える。まずは彼ら、救うための手はすべて打った。『同じ名』のよしみだ、放っておくのも寝覚めが悪い――白い短剣を構えた彼女の姿は、吹雪と相まってあたかも透明であるかのように思えた。その瞳の鮮やかさを除いては。


「御託は終わりだ、細かい駆け引きは好きじゃねえ。とっとと」
「――終わらせるっスよ!」
 アポロトスが翼を震わせるのに一瞬先んじて、葵は二本の氷柱を敵陣めがけ蹴り飛ばす。それぞれ逆方向に飛び込んだそれらは、『白兎』隊員をそれぞれ貫き、その場に縫い付ける。行動阻害の成否は五分以上だが、この機においてそれは十割の効率を叩き出した。
「いいねぇ、走ってるぜ、敵意が。だけど俺としちゃあお前らだ」
「そっちから来るなら好都合じゃ。加減は苦手じゃからなぁ、覚悟せいよ?」
「ハハッ、調子乗ってやがる!」
 両儀の激しい敵意に中てられたか、アポロトスは真っ直ぐ彼の間合いへと飛び込み、その運命を捻じ曲げんと試みた。狙い過たず、否、動き出す前のカイトとオリーブをも巻き込んだことで、一挙三名もの運命を非ぬ方へと歪めにかかった、というわけだ。が、戸惑いを隠せぬ両儀とオリーブをよそに、カイトは平然と変容する獣に挑発を仕掛けにいっていた。効いてないのだ、全く。
「そうだな、調子に乗らせてもらうぜ! 主に時間稼ぎをな!」
「~~~~~!!」
 獣はカイトの挑発にあっさり乗り、前肢を振り回し彼を追い回す。だが、状況に適応しきれていない個体がその回避能力を上回る攻撃精度に追いつくことは難しかろう。出来るとすれば、決定的な運の良さ、若しくはカイトの運が歪められる可能性だが、今のそれには預かり知らぬことだ。
「他のメンバーの位置がわかっていれば、自ずと位置を判別できます。自分にとってこの状況は」
 オリーブの言葉はほぼ、真実だ。寒冷地に於ける適応力という点のみでいえば、彼を超えるイレギュラーズはこの場におるまい。葵が手始めに足止めした面子から目を離さなければ、十分全員を捉えられる。
「……そいつぁ結構だ」
 だが、風がひときわ強くなった一瞬を縫って、銃弾はあろうことか視界の外から飛来した。兜を強かに叩いたそれは実弾ではなく強化ゴム弾だが、こと甲冑に対しての振動・衝撃力は無視できない。
「居場所がわかってても見えねえだろう、弾丸(タマ)はよ。お前さん達目掛けて撃っちゃいねえからな。そして、もう一発――」
『主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え』
 ブランデホトの射撃姿勢は見えていたはずなのに、死角から撃たれた。その事実にオリーブが戸惑いを覚えるより早く、祝詞はメイスに装填され、一条の炎と化して戦場を駆けた。
 吹雪を貫いて飛来したそれを紙一重で避けたブランデホトが闇雲に銃を撃つが、そのままでは当たろうはずもない。されど、軌道を変えて襲いかかった弾丸は祝詞の発生源であるヴァレーリヤに向き直った。すわ直撃かと思われた瞬間、黒い弾丸は白い大盾によって弾かれた。
「思い出して! 貴方達の力や誇りを、そして大事な仲間を!」
「居場所がわかっていれば、足止めくらいは出来ます! 助けたいから……!」
「――そういう物言いが腹立つってんだよ」
 レイリーの言葉が響き、次いでユーフォニーが訴えかけるように術式を以て『白兎』の動きを止めようと立ち回る。が、吹雪の中を跳ね動くブランデホトと部下達の連携は見えていてもなお捉えがたい。そして、両儀が足止めしている位置からでもアポロトスの術技は容易にイレギュラーズを捉え得る。妨害を受けながら、彼らを白銀から引きずり出す難度はあまりに高いように思えた。
「でも、やっぱりあなた達は寝坊助さんだわ。本当に大事なことが見えていないもの」
「…………」
「息遣いひとつ、身動ぎひとつあれば十分ですもの」
 ヴァイスの言葉への返答は沈黙だった。が、一瞬の逡巡を示した息遣いが確かにあったのだ。アポロトスの撹乱を逃れたレイリーとヴァイスであれば、その違和感に気付かぬ訳がない。
「ヴァレーリヤ殿!」
「視えておりますわ! 鬼ごっこの次はかくれんぼですの? 全く!」
 レイリーの合図にあわせて放たれたヴァレーリヤの一撃は過たず兎達を襲い、その所在を詳らかにした。総じて戦場を優位に引き寄せていた彼らはしかし、少しの綻びで形勢を覆されんとしていた。
「何じゃあ、ちっとも効いてる気が……」
「そりゃあそうだ! 空振ってばかりだぜデカブツ! もうちょっと慌てふためく顔を見せてもらいたいモンだぜ!」
 そして、『こちら』も状況が動きつつあった。両儀の攻勢は実際のところ苛烈で、全て馬鹿正直に受けていれば、相応の傷は与えられただろう。だが、慮外に大振りになった動作は大きな隙を生み、反撃に飛んできた大斧の一撃は横薙ぎに胴へと打ち込まれる。気を抜けば両断されかねない勢いで、だ。
「自信家でいるならもう少し、俺と戦うってことに真剣にならなきゃあなァ? あっちこっちに意識が行ってて中途半端に見えるぜ!」
「おまんの方こそ、飛び回ってばかりで踏ん張りが足りん斧で、儂を蹴散らせるとでもか……?」
 地に足をつけ、踏ん張りつつも耐え忍ぶ両儀。低空を飛び回り、しかし彼を押しのけられないアポロトス。ギリギリのところで決着がついていないのは、そのスタンスの違いにあった。
 だからこそ、その挑発は的確であり且つ、

 死の匂いを弥増す結果を招いたと言える。


「滅ばせやしない! この世界も! 貴方達も! 私達が戦うために貴方達にいてほしいのよ!」
「引っ張り上げたきりで、死んだっきりの奴を見ちまった後に、俺達にまた戦えってか! いいぜ、『お前達と』戦ってやらぁ!」
「いちいち頑固っスねアンタ等! 前よりも頑固になってねえか……?」
「意思が固いのは喜ばしいのかもしれませんが……そんな思いのまま、力に飲まれないで。負けないで……!」
 レイリーの叫びに苛立ち混じりに返し、銃弾をばら撒くブランデホト。部下たちとの連携で一同を一箇所に集め、以てアポロトスの術技に巻き込もうとしたその企みは悪くなかった。だが、寄生を受けてなお本来の気質が抜けなかった男は、終焉獣が寄生によって奪ったと思った本質、その表出がゆえに隙が生まれた。そうでなければ、『彼女』の接近など許すまい。
「あんまりわがままばかり言い続けるのもスマートじゃないわ? 不満があるなら、すっきりするまで話し合わなきゃ。ね、あなたもそう思うでしょう?」
 ヴァイスの声が耳元に届いた。その事実に振り返ったブランデホトはしかし、一撃を受け止め明らかに怯んだ。かけられた「あなた」は自分ではない――!
「目を開けたまま寝るなんて器用ですわね! 寝ながら飲むために、そのやり方を教えなさいな!」
 馬鹿げている。
 ヴァレーリヤの主張は冗談めかしているが本気が二分ほど混じっていた。だから馬鹿馬鹿しい。耳を傾ける価値などなかったのだ。それに耳を傾け、反応してしまった時点で……ブランデホトの首から上は一瞬、霞んだ。
「あと二人!」
「一気に畳み掛けた上で、アポロトスを!」
 意識を失ったブランデホトを脇に置き、イレギュラーズたちは未だ意識の残る『白兎』へ向き直る。両儀を退けたアポロトスはしかし、同じく獣を退けたカイトに行く手を阻まれ互いに睨み合う。互いに最善手を持たぬまま正面からぶつかり合う状況は、どちらでなくとも激しいストレスをもたらすものだ。相手の戸惑い、躊躇いを糧としているようなアポロトスには特に。
「追い込まれない俺達がさぞや口惜しいだろうなあ、残念だが生憎、自前の技術以外でミスる事がなくてな!」
「お前が寄生させた連中はもうこっちのモンだ、いつでもあの終焉獣は剥がせるもんでな……時間切れってやつだぜ!」
 葵の放った氷柱を皮一枚で避け、カイトを退けられぬ状況。さらにはイレギュラーズ全員を向こうに回しかねず、獣は学習する前に消滅した。
「あの役立たず共が……つまらねえなあ! もう少し戸惑うところを見たかったのによ!」
「……もう一度聞きます。私たちに興味があるんですか? それはどうして?」
「『無駄だから』だよ、小娘。終わるモンを救うだの守るだの縋りついてびいびい泣きわめくガキ共がここで踊るのが面白くねえ」
 アポロトスはそう言って己の額を指さした。自分そのものが、この地であるような口ぶりだ。
「これ以上なにかしようったって無駄っスよ、名無しの――」
「『フレトニクス』だ。名無しじゃねえ……次あったらお前から食い散らかしてやるよ」
 アポロトス――もとい、フレトニクスは葵を憎々しげに見やると、吹雪一つとともに姿を消した。
 獣の遠吠え、その残響を残して。

 そして、『白兎』は。
 イレギュラーズ達が持ち寄った奇跡を糧に、その生命を繋ぐことに成功する。
 運命を糧に救おうとする強い決意はしかし、救いの欠片がその肩代わりをしたことで最小限の消耗に落ち着いたといえる。
 果たして一同は救ったのか、見逃されたのか、先延ばしにされたのか。今はまだ、測りかねる。

成否

成功

MVP

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽

状態異常

金熊 両儀(p3p009992)[重傷]
藍玉の希望

あとがき

 お待たせいたしました。見事に『白兎』全員の救出が成功しました……が、分からないことも増えました。

PAGETOPPAGEBOTTOM