PandoraPartyProject

シナリオ詳細

今年はドラゴニアが熱い。或いは、怪しい会員制酒場へ潜入せよ…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●今年はドラゴニアが熱い
「今年はドラゴニアの方たちが熱いと思うんですよねぇ」
 ある寒い日のことだ。
 ラサのとある喫茶店。寒風吹きすさぶ路面に面したオープンテラスで2人の女が話をしている。
 1人はシージ・スキャンパー。
 ラサの一部でカルト的な人気を誇る奇書『馬車とドラゴン』の作者である。
「はぁ。ドラゴニアの? 熱いってなに?」
 温くなった紅茶をストローで“ずこー”っと啜って、エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)は首を傾げた。
「ふふ。それがですねぇ。実はいいところを見つけまして」
 周囲をきょろきょろと見まわして、シージは低く声を潜めた。どうやら誰にも聞かれたくない類の話であるらしい。
 囁くような声音でシージは語る。
「ここから少し離れたオアシスにですね、あるんですよ……ドラゴニアの方たちや、ドラゴンのコスプレをした人たちを集めた会員制の酒場が」
「……へぇ? それはそれは」
「ネタになりそうと思いませんか? お互いに取って、悪い話じゃないでしょう?」
 ちょっとそこに行って取材して来てくださいよ。
 そう言ってシージは、懐から1枚の用紙と1枚のカードを取り出す。
 用紙には“急募! 用心棒求む”の文字が記されていた。
 件の会員制酒場では、現在、用心棒を募集しているらしい。
「それで、こっちのカードは……会員証?」
「伝手を辿って1枚だけ入手したんですよぉ。それ1枚で2人まで入場できるんで、何かの役に立てていただければ」
「なるほどなるほど。こうまでお膳立てされちゃ“エントマChannel”が動かないわけにはいかないね。OK、任せといてよ」
 ばっちり取材して来てあげるよ。
 そう言うとエントマは手を差し出した。
 シージはその手を固く握る。
 握手である。

●怪しいとは思ったんだよ
「えー……会員制の竜っ娘酒場“ドラゴンnight”ですが、調査の結果、違法であることが判明しました」
 シージとの打ち合わせから数日後。
 呼び集めたイレギュラーズを前にして、悲痛な面持ちでエントマは告げた。
 今にも嘔吐しそうなぐらいに顔色が悪い。
「調べるのが大変で寝不足なんですが、それは横に置いておこっか。件の酒場なんですが、裏では人身売買などを生業としているみたいでね、商品の一部を店で働かせているっぽいです」
 “ドラゴンnight”のオーナーは、サウダージという名の獣種の男だ。
 かつては盗賊として名を馳せた悪漢である。その腕っぷしで人身売買組織のトップにまで昇り詰めている。
「得物は自分の爪と、頑強な肉体だってさ。武器はいざって時に折れて頼りないからって理由だそうだよ。【滂沱】と【猛毒】に要注意……ってことまでは判明してるんだけど」
 それ以外はさっぱりです。
 エントマは、わざとらしく肩を竦める。
「ただ、部下の人数は数えられる程度とかなり少ないみたいだね。だから、用心棒を雇おうとしているんだろうね」
 元々、部下の人数が少なかったのか。
 それとも、何らかの事情で部下が減ってしまったのか。
「5人いるらしい直属の部下は【懊悩】や【飛】の付与された格闘戦を得意とするよ。サウダージと同じく、自分の身体を武器とするタイプっぽいね」
 サウダージを含めた以上の6人が、今回の討伐対象である。
「場所はオアシスの畔にある石造りの建物だよ。地下には酒場が、1階が受付、2階にサウダージたちの住処。詳しい内装は広さは不明!」
 潜入して、サウダージたちを討伐……或いは、捕縛しようというのが今回の任務の内容だ。
「このために用意したわけじゃないけど……これ、“用心棒募集のチラシ”と“会員証”ね。会員証は1枚で2人まで入れるから」
 上手いこと、潜入して人身売買組織を潰滅させよう。
 そう言うことになったのである。
「あーぁ、まったく。今年はドラゴニアが熱いって話だったのに、なんでこんなことになるんだかねぇ?」
 明らかに不機嫌そうなエントマだ。
 きっと、日ごろの行いが悪いから、こんなことになるのである。

GMコメント

●ミッション
会員制酒場“ドラゴンnight”に潜入し、人身売買組織を潰滅させる

●ターゲット
・サウダージ
人身売買組織の頭目。何らかの獣種であることは判明している。
腕っぷしが強く、また組織を運営できる程度には頭も回るようだ。
いざという時に頼りないからという理由で、自分の肉体以外の武器を用いない。
またその攻撃には【滂沱】や【猛毒】の追加効果が付与される。

・サウダージの部下×5
サウダージの部下。
サウダージと同じく、格闘戦が主体のようだ。
それなりの規模の組織を運営しているにしては人数が少ない。
その攻撃には【懊悩】【飛】が付与されている。

●フィールド
ラサ。とあるオアシス。
会員制の酒場“ドラゴンnight”。
表向きはドラゴニアや、ドラゴンのコスプレをした人たちを集めた会員制の酒場であるが、その実態は人身売買組織の拠点。働いているドラゴニアやドラゴンのコスプレをした人たちは、お披露目中の商品である。
地下:酒場
1階:受付
2階:サウダージたちの住居
上記の設備は判明しているが、広さや内装などは不明。

また、今回の依頼に際してエントマ(正しくはシージ・スキャンパー)から、以下の2点が提供されている。
・用心棒募集のチラシ:用心棒募集と書かれたチラシ。用心棒として潜入できる。
・会員証1枚:会員証。1枚で2人まで客として入店できる。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 今年はドラゴニアが熱い。或いは、怪しい会員制酒場へ潜入せよ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2024年01月16日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)
指切りげんまん
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ

●高く売れる
 ドラゴニアにはいい値段が付くという。
 とくに若い娘のドラゴニアは相場よりも大幅に高い値段で売れる。
「正直、ちょっと興味あったんスけどねー……ここんところハードな話ばかりでしたし、偶には私がクソオタクってことを思い出させようかと思ったんスけど」
 ラサの砂漠のとあるオアシス。
 会員制の高級酒場“ドラゴンnight”の一室で 『無職』佐藤 美咲(p3p009818)は「はぁぁぁ」と長い溜め息を零した。
「女性と遊ぶお店自体は別に否定しませんが、人身売買というのはいただけませんね」
 美咲の隣に座っているのは、普段以上に美しく着飾った『未来を託す』ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)の姿がある。普段と違う点と言えば、その首には無骨な金属製の首輪が嵌められていることぐらいだろうか。
 首輪から伸びる鎖は美咲の手に握られている。
「ッスねぇ。しゃーなし、仕事、行きまスか」
 そう言う趣味なわけではなく、正しく“仕事”中である。
 溜め息を吐き終わった美咲は、首を回して背筋を伸ばす。
 その直後、ガチャリと部屋の扉が開いた。
「お前か。商品を売りたいって奴は……ふむ? 人さらいの類には見えないが?」
 入って来たのは、高級そうな黒いコートに身を包んだ長身の男だ。
「人は見かけによらないんっスよ。それに、案外こういう人畜無害そうな顔立ちの方が“商品”も警戒しないんス」
「然り。美しい私も、すっかり騙されてしまいました」
 余計な口を挟んだヴィルメイズの脇腹を、岬の肘が打ち据えた。
「……売られるってのに、泰然とした商品だな」
 品定めをするように、男はじろりとヴィルメイズを眺めまわした。

 建物の2階には、薄い壁で仕切られた幾つもの部屋が並んでいた。
 そのうちの1つ、特に広い部屋の中に4人の男の姿がある。
「よぉ、あんたたちか。用心棒をやってくれるってのは……そっちのあんた、腕っぷしが強そうには見えねぇけどな」
 低く唸るような声音で、巨躯の男がそう言った。
 鋭い瞳は、まっすぐに『玉響』レイン・レイン(p3p010586)の方を向いている。
「強く見えないかも知れないけど……“のうあるたかはつめをかくす”、っていうよね……
試してみる?」
 煽るような口調に、部屋の温度が低くなる。もちろん錯覚だ。だが、巨躯の男……サウダージの纏う雰囲気が、一層、剣呑なものになったのは事実である。
「それに……お客さんに圧迫感を与えない、とは思うから……ゆったり過ごせるでしょ……?」
 レインは構わず言葉を続ける。
 まっすぐに、サウダージとレインは視線を交わした。
 先に口を開いたのはサウダージだ。
「少なくとも肝は据わってるようだ。いいだろう。そんで、そっちの2人は?」
「見ての通りだ。“道理の分からねぇ輩”を締め上げるのは得意なんでな」
「旨い酒が飲みてぇだけだ。で、ここはどうなんだ? 旨い酒にありつけるんなら用心棒をやってやっても良いんだが」
 サウダージの問いに答える2人……『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)と、『老いぼれ』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)。どちらとも、とてもじゃないが“カタギ”のような出で立ちではない。
 サウダージは、2人の素性をきっと何かしらの“スジ者”であると予想した。
「……まぁ、いいさ」
 しかし、そのことを追求するような真似はしない。何かの事情があって、広い砂漠を風の向くままに流れているような者など、このラサには掃いて捨てるほどいる。
 2人もきっと、そう言った手合いに違いないと判断したのだ。
「人手が足りてねぇんだ。前はもちっと数がいたんだが……金を持ち逃げしようとしてな。つまり、お前らの仕事は2つだ」
 サウダージは、膝の上で手を組んだ。
 顎を上げ、見下ろすような視線を3人へと向けて彼は淡々と言葉を紡ぐ。
「1つは俺の金と商品を守ること。もう1つが、俺を裏切らねぇことだ。この2つさえ守ってもらえりゃ、俺もお前らも、皆幸せに旨い酒をたらふく飲める」
 いいな? と、その視線が問うている。
「あぁ、理解した。久し振りにヤクザらしい仕事ができそうじゃねえか」
 そう呟いた義弘は、拳をきつく握り込む。

 “ドラゴンnight”は酒場である。
 だが、それはあくまで表向きの話。
 その裏では、誘拐して来たドラゴニアたちを好事家に売りさばく人身売買……所謂、ヒューマンショップを営んでいるのだ。
「酒場とかカフェとか巡るのは好きだから楽しみにしてたのに!」
 地下にある酒場の隅で、『昴星』アルム・カンフローレル(p3p007874)が激怒していた。もちろん、目立たないように声を小さく抑えてだ。
 小さな声で怒鳴るとは、なかなか器用な真似をする。
「人身売買を差し置いてもマニアックな趣きの店な様だけどな」
 『特異運命座標』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)は視線を周囲に巡らせた。薄暗い店内の各所には、赤や青のランプが配置されている。
 その中を歩くのは、薄い生地の衣服を纏ったドラゴニアの娘たちだ。その全員が、怯えたような表情をしていた。
 彼女たちは“ドラゴンnight”の給仕であり、同時に商品でもある。
 酒場全体が、商品の展示場というわけだ。
「ただのコンセプト酒場だと思ってたのに……そ、そっか……」
「一刻も早く解放してやりたいところだが……調査を待ってからだな」
 手つかずのグラスを前にして、2人は小さな溜め息を零した。

 同時刻。
 受付の足元を音も無く擦り抜ける猫が1匹。
 不思議なことにその尾は二又。正体は『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)である。
「ただの会員制酒場なら良かったのだが、人身売買まで絡むとな。流石に捨て置けん」
 受付にいるのは、上等な衣服を身に纏った神経質そうな男である。鋭い視線を走らせて、来場する客、1人ひとりの顔と会員証を確認しているようだ。
 なお、汰磨羈は先にアルムのペットとして入り込もうとしたのだが、残念ながら「ペットの同伴はお断りしています」とあっけなく追い返されてしまった。
 まぁ、表向きとはいえ飲食店なのだ。さもありなん。
「一網打尽にしてやりたいが……サウダージとその部下の配置を確認せなばな」
 声を潜めて汰磨羈は言った。
 ペットの持ち込みが禁止だというのなら、こっそり忍び込めばいいのだ。

●潜入捜査と大捕り物
 2階の1室に美咲が閉じ込められていた。
 正しくは「この部屋で大人しくしていろ」と言われただけだが。
「出品者だからって、そう易々とは信用してもらえねーッスよね、そりゃ」
 そう言って美咲は、ローテーブルに視線を落とす。テーブルの上には、酒瓶と空のグラス、それから料理の皿が幾つか。
 ヴィルメイズの出品者ということで、それなりにもてなされてはいるようだ。もてなされているからと言って、信用されている風ではないが。
「ヴィルメイズはどうした?」
 ソファーの上でだらける美咲に、誰かがそう問いかけた。
「ん? あぁ、汰磨羈氏っスか」
 声の主は1匹の白猫。汰磨羈である。
「ヴィルメイズさんは地下酒場に連れて行かれちゃいましたよ。幾らの値段が付くか査定するんだそうで……その間、ここで待ってろって言われたっス」
「そうか。まぁ、実際に付いた値段よりも大幅に安い額を報酬として提示するつもりだろうな」
「それで私の同行は断られたんっスね。納得……にしても、警備が手薄っスね」
「鼠1匹通さない……には程遠いな。猫の手も借りたいという奴じゃないか?」
 くっくと笑って、汰磨羈は視線を扉の方へと向けた。
 ガチャリ、と扉が開いて、レインが顔を覗かせる。
「やっ……ほー」
「見張りを付けるって言ってたけど、レイン氏だったんスね」
「人手不足も極まれりだな。だが、おかげで随分と動きやすい」
 汰磨羈は人の姿に戻ると、テーブルの上から魚のフライを摘まみ上げる。それを口に運びながら、視線は壁の方へと向いた。
 2階にある部屋は全部で8つ。
 これから2人で、8つの部屋をすっかり調べ尽くしてやろうと言うわけだ。

 ひどく場違いな男である。
「よぉ、あんたもサウダージの仲間か?」
 会員制の高級酒場に似合わぬ風貌。延びっぱなしの髪に髭、身に纏うのは埃と土とに塗れた襤褸布。
 バーテンダーは、少し眉間に皺をよせバクルドの姿を頭のてっぺんから足元までを眺めた。
「用心棒ってのはあんたか。俺ぁ雇われのバーテンダーだ」
「……ここがどんな店か知っててバーテンやってんのか?」
「さぁな……俺ぁ、酒を作って提供してやれと言われてるだけだ。そして“その通り”にしてる。ここがどんな店かなんて知らねぇよ」
 バクルドの前に酒のグラスが置かれた。琥珀色の澄んだ酒精をひと口舐めて、バクルドは席を立ちあがる。立ち去っていくその背中に向け、男は言葉を投げかけた。
「平和が一番だ。そう思うだろ?」

 地下酒場の入り口に男が2人。
 1人はサウダージの仲間。もう1人は義弘だ。
「人身売買なんかやってるわりに他所から警備を仕入れてんのか。随分と不用心だが」
「仕方ねぇのさ。数人が組を裏切りやがった。裏切者がどうなったかなんて野暮なこたぁ聞くなよ」
「想像に難くねぇな」
 義弘が視線を巡らせる。
 見える範囲にサウダージの部下は合計3人。1人は義弘の隣に、もう1人はフロアを巡回していて、最後の1人はヴィルメイズを連れて上客たちの間を回っている。
 値段の交渉だろう。
「……良く目立つな」
 サウダージの仲間は全部で5人いると聞いていた。受付にいた1人を含め、居場所が確認できているのは全部で4人。
 最後の1人とサウダージの姿だけが見当たらない。

 立てば芍薬、座れば牡丹。歩く姿は百合の花。
 と、そのような言葉があるけれど、今のヴィルメイズはまさにそれだ。
「うわ、あれってヴィルメイズ君!? み、見違えたよ、ははは」
「売られている者の態度じゃないな。いや……まぁ、いい値段で売れそうだとは思うが」
「買って……なにをどうするんだろうね? 色んな趣味の人がいるもんだ」
 しゃなりしゃなりとフロアを進むヴィルメイズの様子を遠目に眺め、アルムとプリンが言葉を交わす。
 ヴィルメイズが歩けば、その後に大勢の視線が続く。ランウェイを歩くモデルか何かのようであり、簡単に言うと“非常にひと目を引いている”のだ。
「しかし、売り買いの交渉はしていないな? 商談は別の場所で行うのか?」
 気づかれぬようにフロアを見回し、プリンは「はて?」と首を傾げた。

 小さな蜘蛛が地下に大きな部屋を見つけた。
 壁は厚く、調度品はどれも高価なものばかり。だが、鋼鉄の扉には厳重に鍵がかけられており、部屋の壁面には鎖を繋いでおくためのフックが設けられている。
「……必ず助けるからね。サニーは……戻って、おいで」
 その蜘蛛は、レインの召喚したファミリアーだ。蜘蛛の目を通して確認した限りでは、部屋の中には3人の少女が捕らわれている。
 当然、その全員がドラゴニアだ。
「売り物保管庫……なのかな」
 そう呟いて、レインは背後の扉をノックした。
「はーい? 出番っスか?」
 返って来たのは、美咲の声だ。

●サウダージのシノギ
「俺ぁ昔から人に恵まれねぇ性質なんだ。あの細っこい野郎が手引きしたんだろ?」
 書類の束を脇に抱えて逃げようとした汰磨羈の前に、2人の男が立っている。1人はサウダージ、もう1人はその仲間だ。
「こんばんはだ、サウダージ。竜っ娘の次は、猫娘なんて如何かな?」
 3階の廊下は狭く、窓も小さなものばかり。
 逃げられないと悟った汰磨羈は、腰の刀を引き抜いた。

 地下の酒場に銃声が響く。
「はーい、客も店員も全員フリーズっスよー」
 美咲である。美咲は数回、天井に向け銃弾を放った。
「物証の会員証も処分NG。殺さずに無力化できまスが……死ぬほど痛いっスからね」
 弾倉が空になった銃を投げ捨てた。どうせ拾った拳銃だ。雑に扱っても問題はない。

「ガサ入れか! 人手が足りねぇってのにタイミングが悪い。おい、お前はそこでじっ、と……あ?」
 銃声にいち早く反応を示したのは、サウダージの仲間の1人だ。
 連れていたヴィルメイズを壁際の方へ押しやろうとしたところで、彼は違和感に気が付いた。手首から先に感覚が無いのだ。
「な……んだ、こりゃ?」
 男の手は、すっかり石になっている。
 きつく握っている鎖の先には、何も繋がっていなかった。
「亜竜種と遊びたいなら、私が朝まで寝かさず“遊んで”差し上げますよ〜フフフ……」
 首元をさすりながら、ヴィルメイズが嗤う。
 美しい笑み。それゆえに、ひどく恐ろしい。

「ガサ入れだ! なにやってんだお前ら、さっさと取り押さえろ!」
 そう叫びながら、1人の男がバクルドの肩を強く掴んだ。
 だが、バクルドは動かない。
「なにって、契約にあるタダ酒を嗜んでるだけだが?」
「だったら契約通り、用心棒の仕事をしねぇか!」
「あぁ、契約通りならその通り従うさ。『契約』通りならな」
 グラスの酒を飲み干すと、バクルドは近くのテーブルを蹴り上げた。
 数人の客を巻き込んで、テーブルが床を転がっていく。転がりながら棚や鉢植えを巻き込んで、出入口の扉の近くに瓦礫の山が出来上がる。
 これで男はもう逃げられない。否、逃げられないのは男だけじゃない。
 地下の酒場にいた客たちも、そのほとんどが逃げ場をすっかり失っていた。
「契約が違ぇだろ? この程度の酒が旨いってんなら随分と足元見てくれたもんだな?」
 バクルドの義腕が、男の胸倉を掴む。
「酒ぇ!?」
「下手な尾を踏んじまったな。それに旨い酒がねぇんじゃ、もうこうする他にねぇよな?」
 容赦なく。
 顔面に叩き込まれたバクルドの拳が、男の鼻の骨を砕いた。

 壮絶な殴り合いだった。
 義弘と、サウダージの仲間の1人は、激しく拳を打ち合っていた。
 殴打に次ぐ殴打。
 破壊に次ぐ破壊。
「離れてろ。下手に巻き込んで怪我をさせたくねえからな」
 転がっていた客の1人を足で隅へと押しやりながら、義弘は腰を低く落とした。床を両の足で踏み締め、鋼のごとき拳を背後へと引いた。
「必殺技でも出す気かよ!」
 義弘が“溜め”の姿勢に移行した瞬間、男は弾かれたように跳び出した。まるで弾丸のような速度だ。その手が……鋭い貫手が義弘の胸部を深く抉る。
 否、抉ったかのように見えた。
 だが、違う。
「が……ぁ?」
 確かに鮮血は散った。
 義弘の胸部から血が散った。男の貫手は、確かに義弘の胸部を抉った。
 抉れたのは、皮膚だけだ。
「……うぇ」
 代わりに男が血を吐いた。
 血と胃の中身をぶちまけた。
「俺の所はオンナとクスリの売り買いは御法度でな、そういう輩は締め上げる事になっている」
 貫手が胸骨を砕くより先に、義弘の拳が男の腹部を撃ち抜いたのだ。

 酒場から少女たちが逃げ出して行く。
 逃げる少女たちを止める者は誰もいない。受付に立っていた男は、既にアルムとプリンによって縛り上げられているからだ。
「無関係なら逃げて貰うけど、加担してる側なら容赦しないよ!」
 どさくさに紛れて逃げ出そうとした客を捕まえアルムは告げる。
 無関係の店員であれば逃がしてもいいが、悲しいかな“ドラゴンnight”の関係者たちは、全員が「人身売買」の存在を知りながら、知らぬふりをしていた者ばかり。
 当然、逃がせるはずがない。
 やがて、すっかり辺りが静かになった。ドラゴニアの少女たちは逃げて、客たちは地下へと追いやられたのだ。
 けれど、しかし……。
「うっ……わぁっ!!」
 静寂はほんの一時だけ。
 天井が砕け、傷だらけの汰磨羈が降って来た。白い髪を血で濡らした汰磨羈は、器用に空中で身体を捻る。
 そして、スタン、と。
「危ないな! 床ごと打ち抜く奴があるか!」
 床に着地し、頭上へ向かって怒鳴るのだった。

「他にも仲間がいるのか。おい、回復させんのは反則じゃねぇか?」
 アルムの治療を受ける汰磨羈の姿を見て、サウダージはつまらなそうに鼻を鳴らした。
 汗と血と埃に塗れたサウダージの皮膚には、無数の鱗が張り付いている。それも尖った硬質な鱗だ。
「お前は『違法』だと調べがついてるから、ダメだ」
「あぁ?」
 サウダージの前に立ったのは、ほんの子供である。
 だが、子供とは思えないほどに強い意思を秘めた目をしていた。
「ドラゴニアの人達をどうやって集めたか、どこにやったのか。言わないなら、言う気になるまで殴る。気絶するまで殴る。起きるまで殴る。言うまで繰り返す」
「あぁ、そっか……こういう奴もいるよなぁ」
 サウダージは質問に答えない。
 代わりに、血に飢えた獣のような笑みを浮かべた。
「どうせ店は終わりだ。暴れるだけ暴れてやるのも悪くない」
 なんて。
 自分の“運の悪さ”を呪いながらも、彼は最後の戦いに臨む。
 
 サウダージたちが馬車に乗せられ運ばれて行く。
 時刻は夕暮れ。
 オアシスに残ったのは、半壊した“ドラゴンnight”と、すっかり埃に塗れたイレギュラーズだけだ。
「助けた人達……大丈夫かな。早く……気持ちが……普通の生活ができる様になるといいんだけど」
 ドラゴニアの少女たちは、もう遠くへと逃げただろう。
 彼女たちの未来を想い、レインは静かに目を閉じた。


成否

成功

MVP

ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)
指切りげんまん

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
サウダージのシノギは潰され、捕らわれていたドラゴニア娘たちも無事に逃げ出しました。
依頼は成功となります。

この度はご参加ありがとうございます。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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