PandoraPartyProject

シナリオ詳細

◯◯◯のママさん会

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●霜月を前に
 前日、元気の良い赤ん坊がその村で生まれた。
 中々の難産だったということもあり、母親はすっかり疲弊しきった様子であったが。しかし胸元で眠る我が子を見れば微かな活力が湧いてくる。
 村の衆はいずれも母親の事を幼い時より知っていただけあって、それはもう毎日が祭りのように祝っていた。
「めでたいなあ、めでたいなあ。あの子に良い夫が出来ただけじゃなく、あんなに可愛らしい赤子が産まれるとはねぇ」
「でも今は旦那様が『砂蠍』とかいう盗賊と戦ってるから村に来てるだけなんだろう? 騒動が終わるのがいつか知らないけど、帰るとなったら寂しいね」
「なぁに! そん時ぁ俺達がたまに遊びに行けばいいんだ! なんたってここは都市から近い方なんだからな」
 老父が村から見える山を見上げる。
 村の東側に見える大きな山とは違い、反対の西側にある山はありがたいことに小さい。他の辺境村に比べれば、徒歩でも半日で都市へ行ける村人は恵まれている方だろう。
 つい先日は何やら大山の方で騒ぎがあったようだが、それも数日で落ち着いている。
 やはり都市部から来てくれるギルドや領主の使いの者達が何とかしてくれるのはありがたい。

 そんな事を想いながら。また村の奥から聞こえた赤ん坊の泣き声ににっこりと微笑んだ。
「元気の良い声だ。確かムスメっ子だったか? ありゃきっと都市の方じゃ歌姫になれるかもしれんぞい」
「可愛い声よねえ」
 傍らに立つ老婦もまた同じく笑顔を浮かべて頷いた。
 と、その時だった。
 彼等は早朝の村をのんびり共に散歩していたわけだが、不意に赤ん坊の泣き声が『一つではない』事に気が付いた。
「……はて、気のせいか?」

 ────直後。彼等は恐ろしい物を目の当たりにする。
 山の方からザザァと風に揺られた木々に残る葉が波打った瞬間、その中から黒い影が砂嵐のように舞い上がったのだ。
 なんだあれは、と目を疑う老夫婦は次いで恐ろしいその声を耳にした。
  ”オギャー” ──と。

●誰も行きたくない
 ので、敏腕を自称する『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)にその依頼の斡旋を任されたのは自然の成り行きだった。
 真面目な性格がこの時ばかりは災いしたと彼女自身は思うだろうか。
 否、意外にも彼女はその依頼をクールに受け取り。そしてイレギュラーズに来て貰う事が出来た。

「今回の依頼主は幻想南部に点在する都市の領主からの物です。
 内容は都市から近い山で大量発生した魔物の殲滅。皆様にはこれと併せて麓村の人間を避難を手伝っていただきます」
 彼女は涼しい顔でそんな事を言った。
 集まったイレギュラーズは慣れた様子で続きを促す。
「未だ麓村が襲われるには至っていませんが、それも数日で状況は一変するでしょう。
 皆様が急いで行っても、場合によっては到着した時には襲われる寸前なんてことも……臨機応変に対応する事が求められます。
 さて、件の魔物ですが戦闘力は殆どありません。個々はともかく集団で来られれば押し倒されるくらいはするでしょうが」
 ふむ、と首を傾げた誰かが声を挙げる。
「相手は群体か」
「その通り。実は一月ほど前にローレットが一度は駆除した魔物でもあります。
 これは非常に繁殖力が強く、植物型ということも相まって有効打となるのが【必殺】と【火炎】の二点しか無い事が厄介さの肝でしょう」
「面倒な相手だなー、何かBSの気配はないのか?」
 ミリタリアの体がピタっと止まった。

「……ミリタリアさん?」
「い、いえ。なんでもありません……そうですね。BSとしては……えーと…………」
「ミリタリアさん?」
「は、はい! えーとですね、この魔物なのですがその……特性としてですね。主に人間や動物に寄生して、寄生先から体力を奪いながら胞子を生むんですが」
 その瞬間。集まったイレギュラーズの誰かが凍り付いた。
 どこかでそんな話を耳にした事があった。そしてその時、彼は逃げた。
 まさか。
 その場の一同の視線がミリタリアへと集中した。
「……この魔物の眼を直視したり、寄生されると。特殊な催眠洗脳状態となって混乱……みたいな感じになってですね。それを守ってしまうようなのです
 自分の赤ん坊だと思い込んで、母熊のように……」
「やべえぞキノコだみんな逃げろおおおおおおおお!!!!」

 ブリーフィングは解散となった。

GMコメント

 少し難易度が高いのでご注意下さい。
 ちくわブレードと申します、皆様宜しくお願いします。

 以下情報。

●依頼成功条件
 キノコの殲滅
 麓村の村民を無事に避難させる

●麓村の避難
 今回は村人の避難も必要となります。
 リプレイ開始時はOP冒頭の直後となりますので、避難させる事は可能とします。
 避難先は村の直ぐ近くにある【小山】まで。村から200m程度しか離れていない為、上手く誘導に成功すればその分だけ前線(村)へ戻る事が可能です。
 人数や役割を確認して分担する事が求められるでしょう。
 なお、今回領主は『天災』と判断して村人の避難先や衣食住を保障するとの事。
 これ以上は都市部で大規模な被害が発生する可能性もある為。皆様には麓村を防衛ラインとして、特例として【村を焼く】行為が許可されています。

●その名【バブルテングダケ】
 秋も半ばを迎えようとしている頃、いつかの毒キノコは更に数を増してやって来る。
 山中を駆け回る小さな妖精なんて言われていたが、寄生された者の悲惨な姿にドン引きしてモンスターの一種として登録されている毒キノコ。
 毒キノコ達はそれぞれ「おぎゃー!」とか「ばぁぶー!」という鳴き声を出しながら大人の膝までしかない小駆を活かして、軽快に、素早く飛び付いて来る。
飛び付かれて直ぐ引き剥がす事が出来ないと、たちまちに下腹部に溶け込むように根を一気に張り巡らせ寄生して来るので注意が必要。
寄生されてしまうと2ターン後には「この子は私の子よぉ!!」と、たとえ男性であっても例外なく溢れ出る母性に身を任せてキノコを守るようになってしまう。
これは自身に寄生していないキノコに対しても同じであり。また、寄生された後は僅かに体力が減ります。
 唯一の対抗策は【火炎】。つまり火で燃やしてしまえば引き剥がしたり正気に戻す事が可能です。
 (よほどクリーンヒットしない限りは味方からの攻撃や行動でもBS火炎になる心配はありません)
 しかしそれでもダメージは負う物。多少の火傷を取って名誉を守るか、名誉を捨てて毒キノコのママになるかは皆様次第。
 尚、キノコは火を使わずとも物理で殴って破壊してから最終的に燃やしてもOKとします。

●情報精度A(B)
 不測の事態は発生しません、恐らく皆様が予想する酷い事以上にはならない筈。

 以上。
 皆様のご参加をお待ちしております。

  • ◯◯◯のママさん会完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月02日 23時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
ジョセフ・ハイマン(p3p002258)
異端審問官
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
沁入 礼拝(p3p005251)
足女
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹

リプレイ

●嵐から逃げろ!
 腰を抜かす老夫婦は口々に、東の大山から飛び立った小さなモンスターらしき群れを見て叫び声を上げた。
 空に響き渡る悍ましき鳴き声はまるで赤子のよう。凄まじく冒涜的な存在に見えてしょうがなかった。
 きっとイレギュラーズが1000人必要なくらいの邪神が目覚めたに違いない。
「この世の終わりじゃああああ……!」
 当ても無く逃げようとする翁。
 しかしそれを呼び止める声が大音量で夜空に、その場に轟いた。
 否、次いだその言葉は呼び止める類では無くその逆。

【「────私達は領主様からの依頼を受けてきたローレットの者です、
  皆様の村には現在モンスターの群れが近付いています。速やかに屋外へ出て誘導に従い逃げて下さい。
  また、ご安心を。皆様の事は領主様が保証下さります他、迫るモンスターも命を奪う程の存在では……」】

 『足女』沁入 礼拝(p3p005251)の冷静な声が、夜の中天に響く冒涜的な声を掻き消した。
 務めて安堵させるように、外に出た村人達が思考停止に陥らぬように配慮し語る彼女は避難を促し続ける。
 その声音か、或いは領主の使いで来たローレットの名が効いたか。いずれにしても一切の混乱を招いていないのは流石と言えるだろう。
「皆さん落ち着いて、西の小山に向かって急いで欲しいのです!
 村の代表者の方がいるなら私の所へ来て松明を! 他の人を誘導してあげて下さいなのです!」
「足の悪い老人や子供がいるなら俺の所へ来てくれ。馬で移動させる」
 村の端から村人が遅れぬよう、逐一声を駆けながら『くれなゐにそらくくるねこ』クーア・ミューゼル(p3p003529)が駆け抜ける。
 明かりを手に軍馬を示す『紅獣』ルナール・グルナディエ(p3p002562)もクーアに協力して避難誘導に尽力する。
 人の動きは良い。ここまで数分かからずに、村人達は速やかに村から逃げ出して行った。
 ルナールの下に二人の老夫婦に手を借りて来た女の姿が。
「ローレットの御方……! どうかこの二人を連れてってやって下され!」
「ああ、わかった」
 彼は直ぐに前方で誘導に駆け回るクーアを呼び止めた。
 老夫婦は控えめに見ても長く走れない、護衛が必要だった。そして……赤ん坊を抱いている母親は馬に乗せるにしても支えが必要だ。
 恐らくは母子共に出産を終えて日数が浅いのだろう。ルナールは母親を馬へ乗せると自身も上がり、手綱と共に母子を抱える。
「少し揺れる、しっかり抱いててやってくれ」
「お爺さん達も私から離れない様にしてくださいなのです」
 互いに声を掛け合い、そして視線を交わした後に移動を開始する。
 彼等がその場を後にした村には数瞬の静寂と夜闇が降って包んでしまう。

 そこへ点々とした火花が散った直後。大きな焔が村の中央付近で燃え上がった。
 浮かび上がるのは絶望という名の【秋の収穫祭】へと立ち向かいし勇者たちの姿……! 彼等の名は、イレギュラーズ!

●熱戦!烈戦!超激戦!!
 『異端審問官』ジョセフ・ハイマン(p3p002258)は深い溜息と共に焚火へ木材を投げ入れた。
「いやはや全く、悍ましくも罪深い菌類よ……品行方正清廉潔白愛され系ジャスティスとしては許せぬ存在」
「故郷の森を思い出すなぁ。大根とかもよく走ったよ。こっちの茸は爆発はしないみたいだけど、ずいぶん変な性質を持っているんだね」
 同じく焚火を大きく、人が焼けそうな勢いに調節する『特異運命座標』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)もまた応じる。
 傍らには、索敵するまでもない程の大群となって迫る茸に怯えているファミリアーの姿がある。
 既に『バブルテングダケ』は村の端から押し寄せてきている。一部は彼等の頭上を飛び越し、恐らくは避難誘導に尽力している礼拝達の方へ流れて行くだろう。
 それを阻むのが彼女達の役目だ。任せて問題無い筈である。
「傍から聞くとふざけてるけど、正直えげつねぇ話っス。
 だって見たろ? 内容を聞いた途端ダッシュで逃げたヤツいるんスよ」
「なんて、なんてオソロシイきのこなんだ……ドウリで皆がイライ内容を聞いてスグに逃げるワケだよ」
「私キノコのお母さんになんてなりませんから! 絶対!」
「私も勿論、ママになるのは御免だ! 仲間がママになるのも……特に礼拝殿は個人的に親しき仲であるので……うぅ」
 『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)、『運を味方に』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)、『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)の三人は焚火の近くで首を揃えて頷き合う。
 満場一致でキノコのママになりたくない。そうだろう、自分を失うのは誰だって怖い。真理である。
 だがジョセフは必死に否定しながらも縦や横に首をぶんぶんしていた。礼拝とのこれまでの思い出が茸と共に天秤へ置かれ、シーソーさながらにグラグラ揺れている。

 後方で何やら炎が渦巻く音が響き渡った。
 しかしそれっきりな所を見るに、避難時に遭遇した敵は上手く退けられている様子。イグナートは安堵した。
「ところで気になるのは、アレって食えるのかな? アジにはちょっとキョウミがあるんだけれど」
「……お腹、壊しちゃいそうですが」
 シフォリィは手の松明を揺らして首を傾げる。毒茸というからには食べてもよくないのでは、と。
「試しに食べてみても面白そうッスけどね、あー……そろそろこっち来そうだな」
 夜闇を突き破って村を駆け回るのは無数の小さな影。
 葵は視認できる距離になったと同時に呼吸を整え、戦闘態勢に入る。
 火を背に、仲間を隣に、愛と正義をかけて勇気と共に。
「茸のお母さんにはならないですが……でも一応、覚悟だけは決めておきます……!」
 開戦と共に決意するシフォリィの覚悟は果たして守られるのか……!



 キックオフである。
「っしゃ!!」
 音すら置き去りにして放たれる必殺シュートが渦を巻き、黒い閃光が複数の衛星を伴って着弾した。
 瞬間、斑にエネルギー弾が爆ぜて周囲の茸ごと粉砕する。
 まずまずの戦果に葵は手元へ戻ったボールを構え頷く。相手は脆い、当てれば砕ける脆弱な菌類である。
「気をつけて、まだまだ奥から来てる!」
 手近な木々に警告を促されたウィリアムが叫ぶ。
 建物の陰から飛び出して来た小さな敵をシフォリィの魔剣が華麗な剣技の下に切り伏せる。
「はッ! やぁー!」
 次いで飛び掛かって来る茸傘を撫で切りに、回転切りに際し横合いから飛び込んで来た円らな瞳へ踵(ヒール)を蹴り入れた。
 まだ若い少女には理解し難い赤子という存在。
 シフォリィは逃げようとする足の代わりに剣を振る。
 剣戟は彼女を映すかの様に、美しく、気高く、一撃一撃を正確に茸へ叩き込んでいく。
(……!? 多い、気が……)
「だぁー!」
「ちゃーーーん!」
「「ま゛ぁ ー ま゛ぁ ー」」
 刹那。味方もそれどころでは無かったか、シフォリィに群がって行く茸の集団を見逃してしまう。
 列になり束になり、一丸となり飛び掛かって来た茸を前にして彼女は。斬り損ねた相手に抱き着かれる事を許してしまったのだ。
「っ!?」
 何らかの適正を感じ取ったのだろうか。次々と自分を狙って来る茸達の群れを見てシフォリィは息を飲んだ。
 勿論、躊躇いも無く焚火の中へと飛び込んだ。
「ばぁあぶぅぅ!!」
「はぁ、はぁ……私、絶対茸のお母さんになりません!」
 燃え移る火に肌が焼けるジリジリとした痛みを覚えながら、彼女は魔剣を構え直して叫んだ。

「向こうは持ち直したッスか……だったらこうだな」
 目の前の敵を蹴り飛ばした後、葵は射線を変える。
 シフォリィの方に集中しているならば是非も無い、彼女へ向かう中で彼女の手が届かない者を狙えば良いのだ。
「む? なんだ、こっちにも集まっているぞ……!?」
 ジョセフの悲鳴が彼に不測の事態を告げる。
 目の前に迫って来た敵を辛うじて薙ぎ払い、退けるジョセフは明らかにシフォリィ並みに敵を集めていたのだ。
 寄生型植物、毒茸。『バブルテングダケ』。
 これらが標的を見分けているのは、或いは彼等が母体とするに相応しいか、”寄生に慣れている”者だった。
 しかしそんな事は意識していなければ気付きもしない。それ所ではないのだから。
「何か、ヤバくないかな! 抑えきれないぞ!」
 四方八方から飛び込んで来る茸を薙ぎ倒し、爆裂の気を右拳に集中させたイグナートがジョセフのサイドをフォローする。
 が、それも数撃てる手段ではない。直ぐに消耗戦を悟った彼は気を静め、自ら肉薄して拳によって粉砕しにかかった。
 乾いた砂の塊が爆ぜる音が連続する。
「──『エクスプロード』!!」
 前衛として押し寄せて来る茸の中へ飛び込んだウィリアムを中心に、巻き起こる爆風は容易く茸を吹き飛ばして蹴散らす。
 更に一発。
「ばぁぶーー!」
 二発。
「まんまー!」
 三発。
「びゃあああんまぁぁい!!」
 悍ましい叫び声を上げる敵が一挙に押し寄せて来ては彼に吹き飛ばされる。
 だがそれも果たしていつまで保つか。
(これは……過去の報告より、数が多いんじゃないか!)
「ノオオォォォ!!」
「は……ちょ、ジョセフ君! ……うわ!」
 振り返れば茸に押し倒されているジョセフの姿が目に入り、ウィリアムが駆け寄ろうとして茸ブロックされる。次いで押し倒される。
「「『エクスプロード』ッッ!!」」
 二発の爆発によって吹き飛ぶ茸達。
 だが、そこへ飛び込んできたのは新たな悲鳴。

 『手数』が少ない。加えてこのままではある懸念が現実となるだろう。
 対処が早く、各々が完全に洗脳される事は防げても。無視できないダメージが蓄積しているのは間違いない。
「…………」
 そんな時。
 ふと気付けば無言で茸に囲まれている中にシフォリィが立ち尽くしていた。
「……? 取り付かれたなら早く火に飛び込むッスよ!」
 気付いた葵は最悪の展開が脳裏を過ぎった。
 彼は見た。彼女の両手が茸を引き剥がす事に使われていない事に。
 僅かに丸くなった背中の向こうで、腹部を腕で護る少女は呟いた。
「私は……私は……」
 振り返った彼女は……。

●~大ピンチ~
 炎渦巻く村へ戻る最中、ルナールはつい先ほど倒した茸を振り返りながら思い出した。
「寄生されると自分の子として守ってしまう、か……寄生されたら素直に一度焼かれよう」
 一方で礼拝は悩まし気に腹部へ手を添えて首を振った。
「私の規格は人間に近しいですけれど生殖機能はついていないのです……だから興味が無いと言えば嘘になりますが……茸のママは嫌です」
 やはり嫌なモノは嫌だ。
 礼拝と共に頷き合いながら、彼等は道中の茸を瞬殺しつつ村へと足を踏み入れる。
「ばぁぶー!」
「こちらへ流れている敵が少ない、という事は残った仲間のおかげか」
 瞬時に伸びる、暗い血液の刃が円らな瞳ごと両断する。
 さて、そうして向かった前線ではどうなっているか。

「───そっちに逃げたシフォリィ殿を捕まえてくれー!」
「はい?」

 礼拝が首を傾げたのも束の間、不意に建物の陰から飛び出して来た影に向かって反射的に『マジックフラワー』を撃ち込んでしまう。
「しまっ……ぁあ……!」
「マ゛ン゛マ゛ァァアアア!!」
 まるで油へ火を注いだ時のように、空気が一瞬で燃焼されると共にシフォリィの全身が焔に包まれる。
 そして同時に。断末魔の冒涜的な声が辺りに木霊した。
「シフォリィ様、寄生されていたのですか……?」
 礼拝はすぐさま火傷だらけの彼女と前線へ移動しながら癒しの光を当てる。
「状況は?」
「ジリ貧ッスね」
 葵はルナールへ端的にそれだけ答えた。
 目の前の茸へシュートを決めた彼が指を差した方向へ視線を映せば目に入る、先程シフォリィに母虎の如く襲われたジョセフが茸に覆われている。
 駆け寄るウィリアム。爆風が敵を退けるも、後続の敵に今度は彼が囲まれて、救出のためにジョセフプロードが炸裂していた。
 葵もいよいよ体力が限界なのか。肩で息をしてボールを蹴り飛ばしているようだった。

 傷がある程度癒えた頃。シフォリィは言った。
「そう言えば……目を見たらダメなんでしたね」
 彼女の目の前では遂にウィリアムが寄生されてしまっていた。それは取り付かれてしまったからではない。
 事前の情報屋が示していた言葉を思い出す。言われてみれば瞳を直視すると洗脳状態になると言っていた気がした。先ほどのシフォリィも同じ理屈で魅了されたのだろう。
「ばぁぁぶぅぅ……!」
「この子は……絶対に守る」
「とーうなのです!」
「~~!?」
 と、ジョセフを助け出したばかりに巻き添えを食らってしまったウィリアムは、横からエクストリーム放火が飛んで来て火達磨にされる。
 現れたのは、何やら目が据わっている”ぼむねこ”クーア。
 一体どこへ行っていたのか、と誰かが問うと彼女はそれに対して。疲弊してピンチに陥っている仲間を見渡してから淡々と語った。

「村に火を放ったのです!!」

 全然淡々としてなかったし彼女が両手を仰いだ瞬間に村のあちこちから火柱が上がった。
「……ふ、ふ……なんだあれは。あんなのに飛び込んだら、私は……くひっ、き、ひひっ」
「ジョセフ様……?」
 目の前から飛んできた茸を握り潰しながら笑うジョセフに首を傾げる礼拝。
 そんな彼女の視界を横切るのは赤い光だ。
 ウィリアムはその正体を知っている。見たことがあるかどうかは、ともかく。
「これは精霊……! 火の精霊が手伝ってるのかい?」
「沢山放火してたら出て来たのです」
「何にせよ、これでスコシ助かるよ!」
 追い詰められていた状況が一変、巨大な炎の渦の中心に陣取るイレギュラーズは再度の攻勢に出る!

●~ピエトロモンサンミシェル・ファイヤー
 業火にじりじりと焼かれる肌の痛みを無視して、イグナートの裏拳が茸をバラバラに吹き飛ばす。
 既に一度ママとなってしまった事を悔いながら。瞳を見ない様に目をきゅっと閉じたシフォリィが半ば自棄気味に叫ぶ。
「私があなた達のママになります! 私の子になりたい子はこちらに来なさい!!」
「「ま゛ぁ ー ま゛ぁ ー」」
「わ、わっ……うぐ、くぅ……っ! 私ごと、燃えて貰います!」
 業火へ身を投げるシフォリィは一筋の涙を流していた。
 そこへ同じく飛び込むウィリアムが彼女の後を追って飛び出してくる。
 地面を転がり鎮火する二人の上を跳んで身投げするイグナート。飛び出して地面を転がるイグナートを飛び越えて炎の中へ身投げするルナール。
 誰も彼もが、残存魔力が尽きて松明もロストした者であり茸に寄生されかけた者達。
 次々に焔の中へイレギュラーズが飛び込んで行く光景を村人が見たら、間違いなく地獄だと思うだろう。
「ぜぇ……ぜぇ……何てひどい戦いだ……」
「ままぁ~!」
「うっ、しまった」
 次の瞬間クーアに放火されてギリギリ正気を取り戻すウィリアム。
「……んー、相変わらず燃費が悪い」
 襲い来る茸を二刀の曲刀で貫き、うんざりした様子でルナールは焦げた衣服を擦る。
「ゴメンよ……アツイのはガマンしてね! ゼンブ、燃えろォ!」
「くひぃッ!? なんと、甘美な苦痛……ふひ、ひ、ふひゃはははははっ!」
 周囲が焔に巻かれていても次々襲って来る茸は空からも舞い降りて来る。炎に包まれ倒れるジョセフのように、茸にやけに狙われる者が二人もいるからだろうか。

 まさに混沌とした戦場。
 そんな戦場を最も駆けていたのは実は前衛ではない。
「はぁ、はぁ……っ」
 汗なのか。仲間の涙なのか。
 礼拝はそれをふと考えながら、手を伸ばしてその視界に映る者へ癒しの光を贈った。
 それは時に、仲間へ火花を見舞う事もある。
 時には仲間ごと吹き飛ばして業火へ投げ込む事もする。
「ジョセフ様……!」
 空気が異様に乾燥してきたせいか、声も掠れる。しかし彼女はその手を伸ばした、いつの間にか再び茸に魅入られてママと化した審問官を救うために。

「あっ、ダメです、ママになったジョセフ様も辛いです燃やさなきゃ」
「ふぉおおお……!!」

 ボボボォゥ、と。マジックフラワーによって着火された彼はよく燃えたという。

 ────────
 ────
 ──

 ……どこか遠くで鬨の声が鳴った、朝陽が射し込み始めた頃。全ては終わった。

「やれやれ……散々な目にあった。暫くキノコは見たくないな……」
「ミギにおなじだね……」
「…………」
「あの、誰かお着換え持ってたりしませんか? しませんよね……」
「ぅ……ひっく、ひっく……ぁあ……っ」
 ある者は煙草が消し炭になってるのを見て項垂れ、ある者は火傷の痛みに動けず、またある者は遠い目でぼんやりしている。
 そしてある者は今にも服が崩れ落ちそうなのを危惧して着替えを探し、またその横では膝に黒焦げの審問官を乗せてただただ泣き続けていた。

 朝日を眩しそうに見上げる葵はクーアと共に村を見渡した。
 茸もろとも、何も残っていなかった。
「満足なのです……ふふ」
「……そっか、そういや村を燃やしてもいいつってたしな。パンデミックも阻止できたし結果オーライッスね」
 葵は隣に立つねこを見ない様に努めた。なんか一人だけ元気が良さそうだった。
 とりあえず彼は仲間を一通り見回してから背伸びする。


「もう……帰ろうぜ」


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

皆様の活躍によって、バブルテングダケは来年まで出て来ないでしょう……!
依頼は成功です、皆様お疲れ様でした。

またのご参加をお待ちしております。

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