PandoraPartyProject

シナリオ詳細

デパートでお仕事!~魔法のかまど

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●それはある日のこと
 幻想のとある商店街の一角。その名を轟かせて久しいデパートメントストア『キノコノサトー』。
 小規模ながらも数々の強敵を社会的に負かしては束の間を得ていた彼等だったが、開店から約四カ月にして再び新たな難題が降りかかって来たのである。
「売り上げが止まったか……」
「それも、各店舗の『本店』における前年度売上と比較して15%低い模様です」
 深夜のデパート屋上で集まった商会幹部達は眉間にしわを寄せて唸る。
「やはり店と店の幅が狭いのか……?」
「いやどうだろう。それをクリアしてくれたのが開店時に協力してくれたローレットのイレギュラーズ達だったはずだ」
「”スタンプラリー”……か。あれはよかったな、二ヶ月連続で想定の数倍の利益を生んでくれた」
「未だにスタンプを利用する客は多いよあれは! 王都の主婦層はほぼ必ず足を運んでくれているくらいだ」
「では一体何が原因なのだ……」

 低迷する売上。皆目見当が付かない改善点。会議なのに酒を持ち込んだせいで回らない頭。回る目。
 幹部達はぐぬぬ……と唸りながら酒を煽った。
「……インパクトは充分。客の動きの操作も完璧。と、なれば後はやはり……」
「やはり、なんだ?」
「あまり言いたくないのだがね」
 幹部に混ざる小太りな貴族は胸元の薔薇のブローチをきゅ、とハンカチで磨いてから顔を上げた。
「各店舗にしかないような物が不足しているのでは? つまり、そう」
「『名物』、か……!」
 支配人の貴族が眼を見開いて叫び、周りの幹部達もそれに続いて立ち上がる。
「ならば数値が低かった店に特別ボーナスと共に名物製作を頼もう。やる気を引き出すのだ」
「良い考えがある、更にその店舗に合った器材を揃えるのはどうだろう! 近頃は練達の商人を捕まえやすい、何か良い物が見つけられるかもしれない」
「素晴らしい! 皆の者、明日からはそれで行くぞ!」

●そして後日
 ギルドローレットに訪れた貴族の男はイレギュラーズを前にこう言った。
「実は慣れない機械を押し付けた店舗の人間が次々に倒れてしまって困ってるんだ」
「毒を盛られた次は自爆か……」
 『キノコノサトー』といえば数か月前にも依頼して来た商会の名だ。あの時は毒を盛られた事で開店日に必要な人員が足りなかったと言うことだったが。
 貴族の男、キノコノサトー商会支配人は事の顛末を語った。
「幾つか練達から面白そうな機械を仕入れてそれを基に何かできないかと頼んでみたのだ、
 ふわっとしているかもしれないが。何分どの店も職人気質だったものでね、この手のは各々に任せた方が早い……
 のだが、だがだが。いやはや過労で倒れてしまうとは恐ろしいな職人は」
 どうしようもない話だった。
 というより何を作ろうとしたらそんな事になるのだろうか。
「では今回も店舗のヘルプということに?」
「いやそれはそうなのだが、まあ少しだけ特殊な仕事になるから説明しておきたくてね。
 君達へのオーダーは先任者たちが復帰するまで……そうだな。『二日間パン屋になって貰う』ことさ、それもガッツのある人にね」

 ──曰く、それは ”魔法のかまど” なのだという。
 新規にデパート参入した鍛冶屋には各種金属をより良質な物にする魔術炉を備えた物を、イタリアンレストラン(?)には極上のパスタが茹で上がる炉を。
 そしてパン屋には焼けるパンに様々な効果が現れる炎を。そうして各々に試しにかまどを使わせてみた結果、なんと全員倒れてしまったのだ。
 それは何故か。
「魔法のかまどには『使用者の想い』を籠める事で熱量や香り、果てには味にまで影響する機能があるのだ。
 例えるなら……私が憎しみを籠めて、かまどの扉に填められた水晶へ触れれば。それだけで中の物は苦味と脂っこさが増す
 ほんのり優しさを籠めればそれは微かな甘みとふんわりさを、深い愛を籠めれば宇宙を感じさせる」
「いや宇宙て」
 いや宇宙て。
「怒りは辛味を、熱き波動は物凄い火力をもたらす。中々面白く、ただのクロワッサンを焼くにしてもバリエーションが豊かになる
 これを使わない手は無いだろう……尤も、その際にその想いは『消える』。感情が消滅するわけではないが、体力と精神力を消費するような物だと思ってほしい
 君達イレギュラーズはタフだし、何より以前の仕事ぶりは素晴らしかったからね。またお願いしたい」

 支配人の男はトン、と。卓上にバスケットを置いた。
「とりあえず参考に食べてくれたまえ。それは私の今日までの努力と汗と涙の想いを籠めた食パンだ」
 食べてしまったイレギュラーズは物凄い塩気の強さに噴き出した。

GMコメント

 ちなみに愉悦を籠めると長年寝かせたワインの様な味わいになる。

 以下情報

●依頼成功条件
 試運転も兼ねて二日間パン屋としてかまどを使用しつつ乗り切る

●魔法のかまど
 練達製の魔法のかまど。科学的観点と魔術的機構を合わせた試作品。短所は必ず誰か一人が気力とか体力を持って行かれる。
 焼き加減すらかまどにパンを入れた人次第なため、一度に大量に焼こうとすると失敗した時の被害が大きい。
 主な使い方(焼き方)は。焼くパンを入れた後に扉を閉め、扉中央に填め込まれた水晶へ想いを籠めるだけ。
 コツは籠めたい想いのエピソードや記憶、または歌や気合いで注入。※
 中々厄介ではあるが、色々な味も焼き加減もそれはそれで店に並べると面白いかも知れない。

●二日間のパン屋さん
 皆様には一日目、二日目とパン屋としてお仕事していただき。どうにか店主不在の店が潰れない様にしてください。
 何なら皆様ならではのアイデアで盛り上げるも、淡々と仕事をこなすでも問題無いでしょう。
 該当職のクラス、エスプリの方は魔法のかまど以外にも【普通のかまど】で普通のパンを並べる事ができます。

※迷った時のプレイングの書き方
(例【魔法のかまど】
  「俺の熱き想いをこめてぇえええ!!」
  ちくわブレードのちくわブレードはサイリウムではなく、刀剣武器のちくわブレードだ! という気持ちを水晶へ叩き込みます。
  or過去のちくわ戦争での武勇伝を瞼の裏に映して……等々

 アドリブ等歓迎の方はプロフィールステータスシート下部の通信欄にて
 その旨を記載していただければリプレイにてやり取りが盛られるかもしれません。

 以上、宜しくお願いします。

  • デパートでお仕事!~魔法のかまど完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年11月06日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
マナ・ニール(p3p000350)
まほろばは隣に
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
Q.U.U.A.(p3p001425)
ちょう人きゅーあちゃん
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
ビス・カプ(p3p006194)
感嘆の
椎名・美由紀(p3p006697)
真のメイド喫茶ガール

リプレイ

●さくせんかいぎ!
 未だ陽が出ていない、夜の残滓漂う街中。
 かつては物珍しく人目を引いていた大きな建物も朝露に濡れる様は、それだけで随分と街に溶け込んだ気がして来るというものだ。
「今回は倒れてしまった方々の代わりに、二日間という短い期間ですがパン屋さんをお手伝いしに来ました……!」
 というわけで、夜明け前のエントランスにてイレギュラーズは支配人と改めて顔合わせをしていた。
 初々しくぺこりとする『まほろばを求めて』マナ・ニール(p3p000350)に支配人は両手を広げて喜ぶ。
「こちらこそ頼むよローレットの諸君方、また今回も他には頼み難い仕事だからね」
「サトーさんおひさしぶりー! たのしいデパートをまもるため、またまたさんじょう! デパートふっかつたい! リターンズ!☆(ゝω・)v」
 早朝から元気に電光色豊かに制服へ着替えて準備万端な『!!OVERCLOCK!!』Q.U.U.A.(p3p001425)が受付カウンターに立つ。よく見れば以前彼女が用意した時のままの様に思えた。
 今回の仕事では残念ながら『パン屋』となるため受付台の出番は無いが、こうした元気の良さがこれからこなす任務に必要となるだろう。
「またお世話になります! それで……実は売上アップに繋がるイベントを皆で考えましたが、いかがでしょう?」
「ほう! またイレギュラーズの妙案という奴かね? 是非聞かせて貰おう」
 再会を喜び、『白金のひとつ星』ノースポール(p3p004381)が切り出した話に支配人は耳を傾ける。

 早朝のデパートは以前の開店当時とは変わり、慌しさの消えた落ち着いた空気が流れている。
「きのこのさとー商店さん……まだ来たことがなかったですね。無事に終わりましたら改めて赴くのもいいかもしれません」
 『灰かぶりのカヴン』ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)は建物中央を吹き抜けに工事している者達を傍目に、ほぅと息を吐いた。

●パン屋さんいちにちめっ!
「やあやあ、うさぎのパンやさんだよ。会心の出来映えはないけど失敗もしないことに定評のあるうさうさだよー」
 何とも縁起の良さそうな(?)口上と共に『感嘆の』ビス・カプ(p3p006194)は胸元にマッスルなポージングのイラストが入ったエプロンの下に白い制服を着て、棚へパンを並べて行く。
 今日、メインとなるパンは既に裏側(バックヤード)の奥にある厨房で今も作り続けられている。
 ビスが空になった台車と共に、店と裏側を隔てる一枚の扉を開けただけでも様々な『朝の香り』が漂ってくる。
 熱気立ち込める奥では既に作業を終えた者の姿。
「これでよし! 後は開店してからかな!」
 台車へトレイを納めたノースポールは汗を拭う。
 彼女が作ったパンは今日から行う企画において”名物パン”となる品の一つ。彼女がエントリーするのは自身が変身した本来の姿でもある『シマエナガパン』である。
 トレイに所狭しと並べられた小鳥達はまだ焼かれてもいないのに、充分に愛らしさの伝わるデザインとなっていた。

「よぉしやってやろうじゃねぇか……! こんな時のための、このギフトだしな!」
 『今日も元気にフランスパン』上谷・零(p3p000277)は音速の五倍くらいのスピード(気持ち)で次々とフランスパンを生成しては店内へ出す籠へ差し込んでいく。
 マグナムおばさんのパン屋先輩店員はそれを見て口が塞がらない。
 無限にフランスパンが出て来る、もうそれだけで戦力である。
(これだけで今日の利益凄い事になりそうだなぁ)
「ギフトじゃライムの形にならない……それなら自力でやるまでだ」
「? 何か作りますか」
 先輩店員が零に歩み寄る。
「実は、イヌスラの形を再現できるパンのレシピとかないかなって悩んでて」
「それでしたら。丸みを帯びて可愛い形に作りやすい物がありますよ」
 先輩店員は作りかけの生地と材料を手元へ持って来て、零に差し出しながら首を傾げて見せた。
「クリームパンです」

 所変わり、厨房奥の冷蔵室では『特異運命座標』椎名・美由紀(p3p006697)が壁に貼られたレシピを頼りにサンドイッチを作っていた。
 朝は主に主婦達に混ざって訪れる、幻想を駆ける男達もまた一仕事する前に軽食を買いに来るのだ。
 当然、数はそれなりに必要となる。
 美由紀はそれを念頭に入れて黙々と作業を進め、ついでに開店前に必要な材料の把握に努める事にする。
「あとでミディーセラ様の調理が済んだら火をお借りしましょうか。
 朝は軽めの惣菜と揚げ物を揃えて、それからフードコート沿いの他店から届く焼き物等の軽い検品も含め下処理を……」
 たゆん。と、エプロン姿で駆け回る彼女は小さな鼻歌混じりにテキパキとこなしていくのだった。

 『灰銀狼はパパを目指す』ウェール=ナイトボート(p3p000561)はこねられる度にもっちりと形を変える生地を見据える。
(女装やコスプレをせず、ちゃんとした制服でパン屋のバイトができるなんて滅多に無いだろうし、全力を尽くすか)
 そのうちに出来上がるはオーソドックスなロールパン。材料に変わりは無く、見た目も普通そのものである。
「そろそろ上の階がオープンしまーす!」
 ベルが二度鳴らされると共に先輩店員がぱたぱたと駆けて来る。
 ウェールの周りで作業していた仲間達もそれぞれかまどへ向かい。作業を一段落させようとする動きが見える。
「もしよければ、マナさんの抱えてるそれと一緒に焼いてくれるか?」
「魔法のかまどが空いたみたいなので、そちらで焼こうと思いますが……いいですか?」
「丁度いい。俺はこれから例の『名物パン』を作ろうと思ってたからな、そちらは任せるよ」
「はい、頑張ります……!」
 トレイを受け取ったマナがこくりと頷いたのを見送り、彼等は別れる。
 作業台に残った粉を手元の魔石で除去したウェールは材料粉へと手を伸ばした。
(ああ……そういえば以前にも、こうしてあの子を思い出しながら作った事があったな。あの時はシュトゥルーデルだったか)
 先ほどまでと同じく、記憶を巡らせる。
 彼の息子、梨尾との生活。我が子と別れてから幾度と想う。彼は今美味しい物を食べれているだろうか。笑顔で、日々を幸せに送れているだろうか。
 例え普通のかまどだろうとそうでなかろうと、心を込めて作るパンは温かい仕上がりになるものだ。
 人を想い作る食べ物は相応に質もまた変わる。
 さて、さて。傍らの硝子ケースに詰められた各種餡や栗とさつま芋の角切り、ウェールがこれから作るパンはどんな味がするのだろうか。

 デパートのオープンと同時にあちこちで鳴らされるベルの音。
 上階から聞こえて来る、朝一から足を運んでくれた客への感謝の声と鬨の声。
 人の入りは以前と比べて緩やかな方ではあるが、しかしその動きは全く違う。店先に出て来ていたノースポールとQUUAは感心の声を漏らした。
「人の『流れ』が決まってるんだ……!」
 最初こそ物珍しかったデパートも人々の日常の一部となれば、店を巡る客達も無駄のない動きと回り方になるのは必然。
 決まった商品と決まった店を行ったり来たり。なるほど、客が求めている物が無ければじきに見向きもされなくなるのは道理か。
「イレギュラーズとはまた違った形での戦い。経営というものも大変そうですわ」
 ペタペタと店先でチラシを貼っているミディーセラは小さく頷く。
 チラシを貼り終えたら次は店頭へ試食台を置き、持って来たパンを一口にカット。頃合いを見て指を軽快にパチリと鳴らす。
「いえーい!ヾ(≧▽≦)ノ マグナムおばさんのパン屋さん、今日は珍しいパンがでてきてるよー! いらっしゃいいらっしゃーい!(щ゜д゜)щ」
「?!」
 突然ダイナミックにクロワッサンが手裏剣の如く飛び交い、店内のバスケットへスポポポーンッと収まっていく。
 先輩店員その他お客達の視線がQUUAへ釘付けになる。色んな意味で。
「いらっしゃいまーせー! うさぎのたれみみでご注文お伺いしまーす!」
 次いで元気の良い声と共に炸裂するご注文はうさみみですか。
 いつもと違う雰囲気のパン屋にフロアのあちこちから客達が集まり始める。
(ナイスです……!)
(じゃあぼくは裏に戻って焼き始めるね、打ち合わせ通り終わったら呼ぶよ)
(はい! 私はこの勢いでお客さんを集めちゃいます!)
 小さくサムズアップするノースポールへ同じくきゅっぷいするビスは厨房へと戻って行く。
 見送るノースポールは両手にサイリウムを持って、電子ペットを起動させると深呼吸。気合いを入れた彼女は店先で声を張り上げた。
「さぁさぁ! 今日から2日間限定でイレギュラーズ考案のパンが登場! 一番売れたパンはレギュラー商品として販売されるかも!
 試食品もあるので、ぜひ見て行ってくださーい!」
「朝の忙しいときの、炭水化物のお手軽摂取にとても便利! 出来立ての『フラッカリー』もよろしく!」
 シュバッと出て来た零は脇に抱えたトレイに乗せたカップを店頭のサンプルケースへ入れる。
 細長いカリカリの棒菓子にも見えるそれは、彼のギフトにより造られた特製のフランスパンだ。見た目とは裏腹に、カリッとした触感の中に微かに芯がふわりとした食感が売りだと先輩店員お墨付きの札が添えられる。

「あら……美味しそう! それにとっても可愛いじゃない?」
「ほお、面白そうだな」
「イレギュラーズだって? ローレットの人か!」
「売り上げが一番良かったパンが選ばれるのね~、おいしそうねあの繋がってるパン」
「なんかあのクリームパンでっけぇ……」
「でけぇ……」

 人の巡りが一定だった所に生じる小さな人だかり。それらは次第に大きくなっていく。
 店頭へ並んでいるのは、普通のかまどで焼いたイレギュラーズ企画の『名物パン』。しかし数が少ない事に首を傾げる客へ、ノースポールは試食のパンを差し出す。
「これから、特別な魔法のかまどで焼いた物が出て来るんです! もし気になるなら普通の物と食べ比べても、試食して見てもいいですよ!」

●魔法のかまど
 かまどを閉じた瞬間浮かび上がる魔術めいた紋様、装置後部から噴き出す蒸気と出力を示すメーターが機械らしい音を立てて起動の声を挙げる。
 仰々しいかまどだなぁと思うビスの傍ら。ミディーセラは水晶へ触れながら首を傾ける。
「想い。想いですか……かまど……そう、かまど。この前、旅人さんから面白い話を聞いたのです。
 食べるために子供をおびき寄せたものの、油断してかまどへ押し込まれて焼かれてしまった魔女のおはなし」
 何処かで聞いた物語を思い出しながら彼は静かに目を閉じる。水晶へ流れ込むのは諦観とやるせなさ、ちょっぴりの怒りだ。
 ……出来上がったのはミディーセラ特製の中華まんに似たパン。
 もちもちの生地を割った中にはしっとりとひき肉と豆腐と茸とが中身に詰め込まれている。熱々の方がウリとなるだろうか、店の保温ケースへと入れられた商品は店へとマナに持って行って貰う。
 その、味は。
「……概ね思ってた通りの出来栄えですね。材料とは別に深みがある仕上がりになったのはかまどのおかげでしょうか」
 続いてかまどへ専用のプレートに乗せたパン種を入れたビスが戸を閉める。
「うさぎパンがんばれー、目指すは成功だー」
 応援してる。
 めっちゃ応援してる。ちょっとぐだっとしつつも込める思いは変わらない。
 この激励が届いた人へ失敗知らずの運気が巡って来る事を願う、その気持ちは確かに火となり炉となる。
 そして焼き上がるうさぎパン。応援の気持ちが火力をも向上させたか、ほんのりついた焼き色は彼の毛並みに似た茶色だ。
 愛らしいウサギはどこかにっこりしているようにも見える。味は不思議な事に、ほんのり塩味なのだが時々甘い味がするようだった。
「お客様からオーダーでーす!」
 そこへ、数人の客から受け取ったと思しきカードを手にノースポールが入って来る。
「えーと、まずは……」
 今回、支配人へ提案した企画は二つ。
 客からの要望兼注文として、彼等の話を基に魔法のかまどでパンを焼く事。
 イレギュラーズの作ったパンを客が評価し、それによりキノコノサトー限定名物商品を選抜する事である。
 これに支配人はモノは試しの精神でGOサインを出したわけだが。

 ────────
 ────
 ──

「失恋の味がにがしょっぺぇぇええ……!?」
「初恋って甘いレモンの味なんだ……」
「武勇伝がこんなにふっくらとする意味とは、なんだこの五重塔」

 感想は様々。行き過ぎた感情は相応の極端な味になるらしい。
 会計を担当するマナはそれを見送りながら「うーん」と悩ましげに腕を組む。
「なにかいい方法は無いでしょうか……」
「それなら客からの注文時に受けたパンに込めるモノの内容を並べれば、何か対策が取れるかもしれない」
 焼き上がったばかりの名物パン候補『秋の味覚!箱パン』の入った籠を手に、ウェールがマナの隣でお金の入ったケースを先輩店員へ渡す。
 彼が作ったパンは秋の味覚攻めとして用意した、さつま芋や南瓜の餡を詰めた小さなパン種を6つ繋げた物だ。
 食感もさることながら、目を引くのは小さなパンを千切る事が出来る点か。
 彼がそれを意図したかはさておき、購入した客達の中ではそれで喜ぶ者は出た様である。
 ウェールのパンは甘過ぎず、しかし尾を引く味だとか。ふんわりとした生地の中に込められた物はどれも好評だったようだった。

 ──
 ────
 ────────

 イレギュラーズのパン屋さん。初日の手応えは中々の物だった。

●ふつかめっ!
「今日もがんばりましょう!」
「「おー!」」
 初日を終えた翌日の朝。
 オープンのベルが鳴り響く中、イレギュラーズは結束を新たにしつつ今日という日に臨むのだった。
「先に説明した通りだ。各々、前日で見聞きした事に加えてマナと作ったこのメモを見てイベントに参加するという客へ声をかけていってくれ」
「きゅーあちゃんも今日はもっとがんばるよー!ヾ(≧▽≦)ノ」
「お前は昨日結局最後は倒れてただろ……」
 零が言う通り、実は初日の閉店時には数人体力切れを起こして倒れている。
 だがそれも含め打ち合わせ済み。前日の反省点を踏まえ対策をしてきていたのだ。
 感情の籠め方から始まり、簡単な例を添えて。店先には既に魔法のかまど使用時の注意や解説が記された紙が貼られていた。

 ────「すいませーん!」

 早くも店に客の声。
 前日に各自で宣伝し続けた甲斐があったのだろう。
「私から応対します……!」
「魔法のかまどの用意と、パン種をみんな並べよう!」
 マナとノースポールに続いて一同が動き出す。
 今日は主に客自身が魔法のかまどを使用する方が増えるだろう、前日セーブしていた者達は朝から全力だった。

 アイスティーを傍らに、美由紀は水晶へ触れて目を閉じる。
「私が込めるのは……」
 『愉悦』。
(……世界の何処にでも転がっているものですが、えてして人はそれに気づけないのですよね? 
 この依頼だけでも……ああ、まず毒を入れられたんでしたっけ? 愉しいですね。どれだけの恨みを買ったのでしょう? そしてその恨みを買うまでにしたことは? 裏でヤクザな人たちが動いてたりするのでしょうか。ああ興奮してしまいます。
 今度だってそう。このような怪しい機械……偶然送られてきたのでしょうか? それとも必然? この愉悦だらけの世界に愛を込めてこのパンを作りましょう)
 本来の意味を超越した別の何かの感情を炸裂させる彼女の表情は果たして善性なのか。
 よもや誰も想像できまい、ただのパンを焼くだけで特に意味も無く邪悪なオーラを漂わせているとは。
 ちなみにキノコノサトー商会はとってもクリーンな商会組織なので視聴者は安心して欲しい。
 それはそうと、美由紀が仕事の隙を見て焼いてみたパンの仕上がりは。
「……なんでしょう、これ。うっ……!?」
 一口でほろ酔い、二口で目眩を、食べきった頃には千鳥足で倒れてしまうのであった。

「……なにやってんだ、あれ」
 イヌスラパンの補充に駆け回る零は密かにそう思っていたとか。


 ───結果として、二日目は大成功を納める事となった。
 決め手は魔法のかまど以外にも力を入れた商品があり、同時に各自が宣伝を心掛けた事が良く効いたらしかった。
「お疲れ様ァ!! よくやってくれたよアンタ達ィィ!!」
「誰ー!?」
 いきなり抱え上げられて悲鳴を挙げる零。
 丸太の如き剛腕に逞しい顔つきの老女、『マダム・マグナム』とは彼女の事である。
 彼女は腰のベルトから引き抜いた大きな紙をバッサと広げると、野太い声で告げた。

「アンタ達、全員採用だよォ!!」

 一同は唖然とするかもしれないが、よく考えてみて欲しい。
 このイベント企画、実はそもそも商品価格による差を省いて見るなら、在庫の材料と照らした上で日に作れる個数を各位に均等に分けるしかない。
 だがこれが『完売した場合』。売り上げはそこで打ち止め、つまり満点となるのである。
 天井知らずとはいかないのがパン屋の世界。
 意外な展開かも知れないが、これは全員がそれだけ頑張った結果なのだから当然である。

「ありがとねイレギュラーズ!! あたしも鼻が高いよォ!!」

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ウェール様、マナ様の提出した調査書はデパート経営陣に渡され。
今回のイレギュラーズが運用してみた結果から算出された課題点を、のちに練達企業へ挙げられたとか。
皆様のパンはこれから日替わりで『イレギュラーズ作! 名物パン』として、数量限定として店頭へ並ぶとか。
今回のケースに応じてデパート全体にまた違う波風が出て来ているようです。また何かしら依頼が出て来るかも知れません。

十二分以上の働きに支配人は大満足。
皆様も各々の役割に加えて宣伝やパン作りを並行するなど、とても良い動きが出来ていたと思います!
文字数の関係で反響や皆様の細かな場面を描写出来なかったのが惜しいですが、皆様一様に輝いている仕事風景だったと言えます。
なので今回の依頼は大成功。お疲れ様でした!

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