シナリオ詳細
朱金メトロノウム
オープニング
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女の子は何でできているの?
フェアリィテイルは夢見がち。いつだって理想をくれるの。
答えは、砂糖にスパイス。
それと――すてきなものばかり。
すてきなもの?ああ、すてきなものね、それはとってもとっても素敵なの。
それは――――。
呪いと、裏切りと、あとは醜い嫉妬(アルバニア)
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私には大好きなものがふたつ。きっと、あの子だってそう言うわ。
ひとつは大好きな幼馴染の、まるで双子のようなあの子。
もうひとつは羊飼いの少年。
片割れだもの、私が好きなんだから、あの子だって同じに決まっているわ。
でも、人間ってひとつだけ。心は半分には分けれないわ。
半分に分けられない、なんて、なんて、辛いでしょう。
そんな時にね、キレイな女の人が私たちにこう言ったわ。
素敵な苹果よ、食べておしまいなさいってね。
あの子には銀色。私には金の色。
女の人が言っていたのよ。これは悪夢の果実(アンブロジア)。見たい未来(ゆめ)を見せてくれる魔法の実。
切り分けることのできるパイの上、できそこなった未来(ゆめ)を見たわ。
おいしいおいしい、あの子と私の未来。
私は羊飼いの少年との恋が叶ったけど不幸になったゆめ。
あの子は羊飼いの少年との恋が叶わなかったゆめをみたの。
そんなのって悲しいでしょう? そんなのってつらいでしょう?
だから、私たち、きめたのよ。恋の叶え方なんてよく考えれば一つしかないじゃない。
私たちはひとごろし。
誰よりも人をあいすることに特化したいきものじゃない。
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「えー……二十歳のオネエサン達が十二歳の少年を襲うというオネショタ案件です。
怖いお姉さんに恋されて、挙句の果てにそのお姉さんが『殺人鬼』ってなっちゃァトラウマもトラウマだと思うんスね。
ただでさえプロフィール時点で俺なら回れ右なんだけど、『恋をかなえるために』ってなっちゃ、ほら、殺人鬼の叶え方は――」
そこまで続けて、『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)は二人の殺人鬼が一人の少年狙うとか中々怖いっすねと呟いた。
「二人の殺人鬼の内に、片割れはユリーカが担当してます。俺の方は仮称で金の殺人鬼。
その対処をお願いしたいわけで、片割れの銀の殺人鬼は羊飼いの少年が仕事中に乗り込んでいくみたいっすね」
なんでわかったか、なんて『事件を調べる担当の情報屋に聞くもんじゃない』なんて鼻をふふんと鳴らして。
実際の所は必死に調べたのだろう――金の殺人鬼の噂を耳にして、雪風が突き止めたのは『銀の殺人鬼が昼に、金の殺人鬼は夜に』。
まるで双子の様な彼女たちは片割れの動きに合わせて同じように殺人を犯すのだという。
「誰かに愛されるってイイコトなのかも知れないんだけどさ、俺は――うーん……まあ、殺されてまで愛されたいかって言うとお断りだよなあ、って」
皆は違う? と首傾げ、雪風はそっと、資料を机へと置いた。
- 朱金メトロノウム完了
- GM名日下部あやめ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年10月26日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談4日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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女の子は何でできているの?
フェアリィテイルは夢見がち。いつだって理想をくれるの。だから――。
夜の帳は落ちる。秋風は膚に冷たく、一層の冷え込みを思わせた。
信心深い教徒たちは皆、神に祈りを捧げ豊穣の季節を感謝の心で過ごすことだろう。
誰も彼もが想いを馳せ、夢を見、時を刻むその闇をぬるりと歩むは『スカベンジャー』ヴィマラ(p3p005079)。闇に溶け込むフードを揺らし、楽し気なかんばせに僅かに疑問を浮かべる。
「殺して思い出を永遠に、ってわけかー、情熱的だねぇー。
殺人鬼としては理に叶ってるのかもしれないけど、なんで『二人』で共有せずに別々なんだろ?」
こてん、と首傾げたヴィマラに「女の子は何時も独り占めしたいもの……と書物で読んだことがあります」と色付く唇に乗せた『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は荷馬車に並べた本の山でも絵空事のように語られる『恋愛模様』を思い浮かべるが如く、夢想して表情を暗くする。
「素敵な恋の物語……と言うには些か昏く、歪んだ感じがしますね。その凶行、阻止しましょう!」
乙女ならば何時か恋に焦がれるのかもしれない。
否、乙女が恋に焦がれることを『混紡』シーヴァ・ケララ(p3p001557)は識っている。
「恋を叶える為に懸命な姿は素敵だけれど、独り善がりな愛程、醜い物はないわね」
独善的であればあるほどに。愛情とはどうして狂気を帯びていくのだろうか。
傍らでにゃあと鳴いた琥珀の瞳をした愛猫は『Shark Maid』Remora=Lockhart(p3p001395)へとするりと寄り添う。
「焦がれる気持ちは過ぎれば殺意となりますか。全く、勉強になります」
「けれど、そうされた少年も気の毒にね……」
マルク・シリング(p3p001309)は深い茂みにどかりと腰を下ろし肩を竦める。やや垂れ目がちの甘い顔立ちに浮かべた柔和な笑みは今は困り顔と呼ぶに相応しいのだろう。
「ええ。実に気の毒だし――実に、不幸と呼ぶに相応しいわ。
大切なものを殺す。思い出は永遠に保存されるものだものね。でもね、それはダメよ」
思い出とは何か。『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は思い出とは先へと進むための糧と定義する。
伏し目がちな乙女の瞳は、実に遠くを見通していた。災禍の鎖を断ち切るが如く、燃え盛る流星の瞳を取り囲んだ睫が震える。
「……甘い、におい。……林檎と、血のにおい。……恋をしている、人のにおい?」
謳う様に言葉にして。絆の一雫を首に揺らして『刃に似た花』シキ(p3p001037)はすん、と鼻を鳴らす。
「好きだから、壊したい。……恋してるから、殺したい。
じゃあ……この人を、斬りたいって、僕の思いは……この人に、恋をしてるから……なのかな」
血潮の色をした眸は不安げに揺れている。仲間たちが口にする通り――その気持ちは。
鼻歌を歌うが如く。ステップはゆるりと。
「あら」
こてり、と首を傾げた女は訪問先の扉は、もうノックしてしまったのかしらとでもいう様にて首をこまねいて見せる。
彼女の向かう先――穏やかなる少年が祈りを捧げる礼拝堂の前では『ひつじさん』が縄で繋がれ、のんびりと佇んでいた。
「こんな時間に女性一人でにどこにいかれるんですのー?」
『悪辣なる癒し手』マリア(p3p001199)の笑顔は常と変わらない。まるで、甘えるかのような声音に秘められた毒の色に勘付いた様に黒衣の乙女は首を傾ぐ。
「愛しい人の許へ」
悪びれることもなく、そう言ったその声音にマリアはゆっくりと死神の魔性を構えて見せる。
「愛、愛ですのー……私にはまだまだ分かりませんがー……。
迷惑を見過ごすわけにはいきませんものー。止めさせていただきますのー……!」
女がひらりと黒衣を揺らしたのは刹那。
未来を刈り取るが如き鎌が月の光を鈍く受けて怪しいいろに輝いて見せる。
ほの灯りのカンテラ受けて、熱を帯びた女の白膚が月下の下に映し出された。
「障害のある恋ほど燃え上がる、なんて言葉があるそうだけれど……貴女もそうなのかしら?」
シーヴァの問い掛けに、金の殺人鬼と呼ばれた女は夢見る様に「素敵な表現だわ」と歓喜した。
くるくると月光を遮る様に揺れたエル・ブランシュ。少女趣味な日傘の奥で、森深く住まう乙女は魔力を切っ先の様に束ねて見せる。
「剣の腕はまだまだ未熟、だけれど良い機会です。此度は私も、前へ出ましょう!」
「――貴女達も『障害があった方が燃えるタイプ』なのかしら」
嘯く様に。女の声音はぞわりと背筋を奔る。
指先で辿る書物の一文字の如く。世界を彩る糧を胸にしてドラマは殺人鬼のおんなと相対する。
「ワタシとしては殺してでも一緒になりたいってのはなかなか情熱的だと思うけど。
一緒に笑いあえる人がいなきゃー、楽しくないと思うよ」
「楽しむ相手は恋人じゃなくてもいいもの」
ヴィマラが放った怨念の一束。
女の巨大な鎌にぶつかり合って、その隙をつく様にぬるりと動く蒼い衝撃波が女の黒衣を追い掛ける。
んん、と唇尖らせて首を傾げたヴィマラへと「乙女とは度し難い者ですね」とRemoraは僅かに目を伏せた。
カンテラのほの灯り、囁く様に声を震わせて歌姫は氷を持って絡めとる。
「冷たいのに、情熱的ね」
「ええ、けれど、聞きたいのは甘い話ではございません」
唇からぞろりと覗いた牙。会う者、知る者、話す者、Remoraのいのちを形作る知識のひとかけに彼女は見合うだろうかと声震わせて。
「貴女の食べた甘い果実、それは何処から転がり込んだのでしょう?」
「さあ、だれだったかしら。さあ、どれだったかしら」
甘い甘いアップルパイにして食べてしまったのだもの、答えは胃袋の中よ。
おんなは歌う様に夢を語った。饒舌な儘、『為にならない』言葉を口にして。
「貴女によく似た娘はもう先に逝ってるわよ。
ひとりは寂しいんじゃないかしら、一緒に逝かないの?」
「そう――あの子、逝ってしまったの」
淡々と。冷ややかな水を浴びせる様におんなは云った。
シーヴァはそれが女の友情を形作る何かのように思えて、酷く歪な関係性の上で『仲良し』が保たれていることを直に感じた。
「林檎で窒息するお姫様の話をしてあげる――」
そう、イーリンはよく知っている。『神がそれを望まれる』のだもの。
聖なるかな、聖なるかな。巡礼者は密やかに、殉教者は只、乞う様に。
甘い果実で歪む事なき彼女の最後の砦(ちしき)は密やかに審らかれて。
「わたしも溺れられるのかしら」
「さあ?」
「そう、この恋の様に」
焦がれる様に至近に飛び込む黒衣のおんな。殺人鬼の呼び名を欲しい儘にした彼女はころころと笑いながら鎌を振り上げる。
至近距離、イーリンの腕に深々と刺さった刃にラムレイは怯える事無くしかと両の足に力を籠める。
竦む事無く、現状を只見据えて。
おんなはまるで果実を刈り取る様に得物を振るうのだとマルクは感じた。
「君たちが食べた果実は危険なものなのかい?」
「さあ、甘くて美味しくて夢のようなものだったわ」
女の言葉はまだまだバラけている。
「まるでわかりませんのー」
困った様に首を傾いで。厚い癒しの支援の中で悪辣なる乙女は穏やかに微笑んだ。
「美味しいものを食べたら幸せになるはずですのー」
「ええ、『しあわせ』だったわ。少なくとも、恋が叶ったときだけは」
恋は叶ったけれど不幸になった夢を見た。
未来(ゆめ)は甘く、そして蕩けて、けれど、汚泥の様に足を引っ張り竦めてしまうから。
ドラマはううんと小さく唸る。
「けれど、幸福でない恋物語はありふれている」
「そう、だから、わたしたちは願ったの」
女の声は熱を孕む。Remoraが謳う不幸のセレナーデと似て。
どこか、怯えを孕む様に、繊細なままの響きを感じさせながら。
「わたしたちがいちばんしあわせで、わたしたちがいちばんかなしくない、恋を」
「……やっぱり、わかりませんのー」
躍れ、踊れ。
イーリンはステップ踏む様にその瞳に望郷乗せる。
水底の歌姫がそうであったように羨望に焦がれよ、と。乙女を苛む視線の先で、跳ねる様に飛び込む殺人鬼の切っ先が柔肌を切り裂いた。
「恋をするのって、トクベツなんだよねー?」
災いすら寄せ付けぬ。そんな気配に身を揺らし、ヴィマラは首を傾ぐ。
「ええ、そうよ。特別でとっても甘いの。お砂糖に似ている――乙女の必須要項」
「けれど、そんなに『スパイス』は必要ないでしょう?」
書物より産み出す様にして、握る刃は何処か重たく。
ドラマは赤い外套揺らして躍る。
「ちょっぴり辛いものかもしれないわ」
殺人鬼は夢見る様に。唇が紡ぐは、空音。意味をなさない文字の羅列。
「けれど、貴女の恋はここで通行止めだよ」
赤い飛沫は宙を彩る。傷付きイーリンに治癒魔術を与えながらマルクは目を伏せる。
殺人鬼の闘い方はもう分かった。
至近距離、目線を合わせれば恋に溺れる女の笑みが深くなるのが良く分かる。
「これは……恋?」
分からないけれど、そうであるならば『刀』である自分とて、理解できたのかもしれないと。
「あなたは恋をしているの?」
「……きっと、この気持ちは、『そう』でしょう……?」
シキの期待はむくりと膨れ上がる。
只、その言葉に応えるものはなく。恋とは幻想、恋とは一時の夢のような者であることを識っているかのようにシーヴァは手繰る様に旋律奏でる。
刻む音色は乙女の鼓動と似ていて。狂った節奏は何時だってこいごころを思わせた。
「分け合えないのなら、身を引く選択もあったでしょうに」
「ないわ」
ぴしゃりと言った女の言葉。ああ、それこそ、憐れとおんなを思わぬことへの確かな感覚に似ていて。
シーヴァの形の良い唇が音造る。
「でも、自分大好きで身勝手な貴女の思考――アタシは、好きよ」
あいするならば、不殺(ころさず)なんて、狡いかしらと嘯く如く。
振るわれる切っ先を受け止めて、ドラマがくるりとその身を翻す。
シーヴァの一撃が飛び込むそれを追い掛けて、イーリンは至近距離で女の体を引き倒した。
「神は貴女の恋の成就は『望んでいないわ』」
「知っているわ、かみさまはいつだって残酷だもの」
乙女の声は熱を孕む。
恋。愛。感情の形。
口にすれば、どこまでも歪で、どこまでも素知らぬそれ。
「……ああ……でも」
至近距離。錆び付いた赤い瞳が克ち合った女は笑っている。
恋を謳う、赤いルージュの唇は熟れた苹果のようではないか。
地面に広がった黒衣の上で白い膚を伝った血潮は天空を飾る星々の如ききらめきを帯びているように見えて。
マリアにとって『癒し甲斐』のある姿に変容した恋に生きたおんなは「でも?」と首傾ぐ。
「一回しか、殺せないのは……つまらないな。
……さっきまで……あんなにドキドキして、楽しかったのに」
シキの刃が深く女のこころまで貫いた。
ねえ、知っているかしら、恋って言うのは何時しか悪い夢の様に醒めて思い出に変わってしまうのよ。
そう、それはちょうど――
「ごめんね、金の殺人鬼のお姉さん。…僕のこの気持ちは、恋じゃなかったみたい。……さよなら」
――今みたいに。
「……道が血だらけだったら驚いてしまいますね?」
月明りの下に、残されたそれ。物音で羊飼いの少年が此処へと来る前に処理を行いましょうとドラマはゆるりと顔を上げた。
寒ささえ感じる秋風の名からでは茹だる様な血潮のかおりも気付いた頃には攫われるだろう。
死者を弔うならばと銀の女の傍らに眠らせてあげたいと願ったシーヴァは難しいかしら、と目尻を下げて。
「おねーさんたちと出会っていたならば別の思い出があったのかもしれないけれど。
血腥い思い出を抱いていかないで済むのならばそれがいいのかもしれないねー」
死者の気配を膚に感じるのは常の事。
ヴィマラの言葉にRemoraは苹果を食べた二人の殺人鬼を思い、茫と浮かぶ月を見上げる。
「私に魔法は届かねど、いつかを夢見る乙女なら……苹果の在り処を知りたいわ」
「殺人鬼に苹果が力を与えたのか、果たして」
調査をしてみたいな、と呟く言葉は少し冷たい風に乗せられて攫われた。
小屋から出たところで、もふもふとした『ひつじさん』が少年の服を口にむしゃりといれて齧っている。
困惑した彼の許へとマリアはへらりと笑う。
「あらあらまぁー、見ていてくださったんですのー? ありがとうございますですのー……!」
事なきを得る。そんな夜。
空想の様に『ドラマ』の様に物語は静かに閉じる――けれど。
残されたのは甘い苹果の気配だった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
この度はご参加ありがとうございました。
金と銀。二つの果実は音もなくころころと転がっていきます。
その先に――いつしか気づけば。
悪魔の絵本(ピルグリムテイル)の第一幕はこれにて閉幕。
その夢に焦がれた方へと少しだけ魔法をかけて置きました。
それでは、また、夢でお会いしましょう。
GMコメント
菖蒲です。
鉄瓶ぬめぬめGMとの連動です。やめぬめって略すとゴロよくないですか?
二人の殺人鬼のおねえさんから、ショタ(12歳ですが)を守ってあげて欲しいのです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
・羊飼いの少年にこの顛末は知らせないで下さいね。人知れずイレギュラーズの皆さんは少年を救うのです。
・少年は羊たちを小屋に戻して隣接する礼拝堂で礼拝をしています。人知れずですが、羊たちは臆病者なので物音で逃げだしたりするかもしれませんね。
・殺人鬼のお姉さんは
1、小屋(礼拝堂)へ向かう一本道
2、礼拝堂前
3、礼拝堂の中
と1→2→3と順を追って迫っていきます。何処で待ち構えるも特異運命座標次第です。
●金の殺人鬼
金の苹果を手にしたおねえさん。まるで夢を見ているかのように夢見がちです。
どことなくネガティブな雰囲気ではありますが、彼女自身はまごう事なき殺人鬼です。
獲物は大きい鎌。未来(ゆめ)を刈り取る死神のような、そんなおねえさんです。
その性質上、だれから苹果を貰ったのかは分かりません、けれど、きっと――誰かから。
どうぞ、よろしくおねがいします。
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