PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<神の王国>汝、罪ありき

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 こんにちは! 偽りだらけの皆さん!

 お茶会は楽しかったわね! あたしは何を話したか、あんまり覚えてないんだけど……
 今日は可愛い子たちと一緒に、海洋というところに来ています。海は良いわね、とても広いし大きいし! でも観光ではありません。此処を神の国に変えるのが任務よ。
 ちょっと“特別なもの”も作ったし、あたしの準備は万全!

 ――なのだけど……

 何故かしら。妙に気乗りがしないのよね。
 どうしてかしら。ルシーア、セネ、わかる? あたしがこの前お茶会を開いた事と関係あるのかしら?
 其れとも“心が足りない”から、センチメンタルになっているだけかしら……?



「海洋に帳が降りてるのは知ってるよね」

 グレモリー・グレモリー(p3n000074)は静かに口火を切った。
 海洋の帳。廃滅病。其れとは別に帳が降ろされようとしているのだと彼は言う。

「遂行者“カルヴァニヤ”。彼女の姿を見たという目撃情報があった。既にある帳をどうこうするとは考えにくいから、其れとは別に領域を作ろうとしているんだろう。いつも通り、子どもたちが一緒にいるのも確認されている。あと、ワールドイーターも」

 今こそ反撃の時だと、グレモリーは言う。
 各地に降ろされんとする帳。これを制圧しきり、そこから滅びに立ち向かえるだけの“可能性”を流入する。其れこそ、広がりつつある“神の国”を崩壊へ導く策だと。
 冠位魔種を今こそ引きずり出し、この遂行者たちとの戦いに決着をつけるのだと。

「皆も知っているとおり、カルヴァニヤは凄まじい力を持っている。彼女が魔種ゆえだろうけど……だからこちらも力で対抗するしかない。下手な小細工は通用しないと見ていいだろう」

 グレモリーは一同を見渡した後、……いってらっしゃい、と。いつものようにいうのだった。



 これは終わった話だが。
 とある女騎士がいた。力自慢だが傘に着ず、さっぱりとした性格だった。
 よく飲み、よく食べ、よく笑う。そうして彼女は、子どもが好きだった。
 自らが女騎士であるから。生き方を変えねば子を持てず、けれど生き方は変えられないから。だから彼女は、子どもを護るために全力を尽くした。

 ある時、彼女は孤児院の護衛の任に就いていた。
 何てことない任務の筈だった。あの泥のようなものが来るまでは。
 生命を余さず喰らう泥の前に、女騎士は――いや、其の場の全員が無力だった。

 女騎士は願った。

 ――まもりたい
 ――まもりたい

 ――こどもたちを

 斯くして数年の時を経て、其の願いは聞き入れられる。
 執念のように残っていた彼女の残滓は、果たして泥の主の「兄」によって掬い上げられたのである。

 女騎士は知らない。
 泥と神の関係を知らない。
 女騎士は知らない。
 ただ、彼女を衝き動かすのは、『子の為に』という一心のみ。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 カルヴァニヤとの最終決戦となります。

●目標
 カルヴァニヤを撃破せよ

●立地
 海洋の街へ続く道です。
 今から向かえば彼らが街につく前に会敵する事が出来ます。

●エネミー
 “遂行者”カルヴァニヤx1
 致命者の子どもx2
 ワールドイーターxたくさん

 ワールドイーターを操っているのは致命者の子どもたちです。
 男児と女児が一人ずつですが、女児の方は何か陶器の壺のようなものを持っています。
 カルヴァニヤは最初から本気で来ます。
 まるであなた達と話し合った事を忘れてしまったかのように。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。


 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • <神の王国>汝、罪ありき完了
  • 天秤は傾かねばならない。誰も譲れない。
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年12月20日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤

リプレイ


「カルヴァニヤ」

 海洋の街へ続く道で、もう何度目だろうか。イレギュラーズとカルヴァニヤは相対した。
 『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はそっと唇を開く。

「ケルゲレンに来た時の事を覚えてますか」
「……?」

 あなたが狙った孤児院があった場所です、と付け足すと、其れで思い出したのだろう。カルヴァニヤは明るい顔をした。

「子どもたちがたくさんいたところね!」
「はい。其処にいたのは、アドラステイアにいた子どもたちです。なぜ引き取っているのか。バイラムという人と契約したからです。“居場所をなくした子どもたちが、自分達が活きる道を探せるよう尽力する”と」
「まあ! 其れはとても素晴らしい事だと思うわ!」
「カルヴァニヤ、わたしもあなたと同じ気持ちを持っています。子どもたちを護りたい。あの時……あの場所で、」

 ――たとえあなたがおぼえていなくても。

「あなたが言った事、私は忘れません。だからあなたとも契約します、カルヴァニヤ」

 きょとん、とカルヴァニヤは瞳を瞬かせた。
 其の表情を見て、ああ、矢張り『覚えていない』のだと――『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)は胸糞悪いという表情を隠しもしなかった。

 彼女は敵だ。

 以上でも以下でもない。仕事のターゲット、ただ其れだけ。其れだけ、なのだけど。
 其れでもコルネリアの中に確かに燃える思いがある。彼女の過去を知ってしまった以上、彼女の根底にある子どもたちへの想いと正義を亡くしたまま終わりにはしたくない。

「……剣を取りな、カルヴァニヤ」
「……」
「言っとくけど遂行者としてじゃない。子どもたちを護る騎士としてだ」
「……何を言ってるの? あたしは遂行……」
「うるせえ、黙って聞け。何を言ってるか判らないって顔もやめろ、そういう気持ちで剣を取れって言ってんだ。アンタには判らないだろうが、アタシはアンタという人間を全部なかったことにして決着をつけたくないだけさ」
「……困ったわ。あなたの言っている事が、あたし、全く判らない。あたしはあたしよ? 其れ以上でも以下でもないわ」
「其れでも君には、前の君があったはずだよ」

 『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)がそっと言う。

「初めましてかな。私はマリア。カルヴァニヤ君、……君はもう十分頑張った。もう休んでも良い、苦しむ必要はない。私のありったけで、君を眠らせよう。そうして君は“前の君”に還るんだ。――コルネリア君。仕事の時間だ!」
「ッ、わかってるわよ!」

 マリアがばちり、と雷の畏怖を鳴らす。一気にカルヴァニヤに向かって解き放ち、拳と共に見舞った。
 更にコルネリアが生命力を一点集中させて弾丸を放つ。マリアが不調を付与したところに、コルネリアの致命の弾丸。しかし其れをカルヴァニヤは両手の剣を合わせて振るい、耐えてみせる。彼女は“遂行者”だ、一筋縄ではいかないのは当然だと二人は気を引き締める。

「――……今日はみんなよく判らない事を言うわね! よく判らないから斬って捨ててしまうけど、いいかしら!」
「良いから来いよ、女騎士!」



 一方で、『この手を貴女に』タイム(p3p007854)と『願いの星』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は子どもたちを見詰めていた。

「――ルシーア、セネ。あなた達も一緒なのね」
「うん。カルヴァニヤ様と一緒に行くって決めたから」

 ルシーアが大事に壺を抱えて頷く。
 そうだ、とセネも一緒に頷いた。

 ルシーアが持っているのは恐らく『神霊の淵』であろう。
 タイムはそう予測を立てる。中には恐らく『カルヴァニヤの生命』が入っているはずだ。

 ――壊さなければならない。

 例え死神と罵られようとも。
 例え怖ろしいと言われようとも。
 其れが、イレギュラーズのやらねばならない『楽園破壊』だから!

 ヴァレーリヤは祈る。
 書曰く。主の御手は我が前にあり。煙は吹き払われ、蝋は炎の前に溶け落ちる。
 そうしてヴァレーリヤが翳した手、すると致命者の子どもたちの背後に、炎の壁がそそり立った。同時にヴァレーリヤのメイスにも炎が灯り、そうして聖なるは宿る。

「――ルシーア! セネ!」

 直ぐにカルヴァニヤは気付き、其方へいこうとする。だがコルネリアが、マリアが、カルヴァニヤが動く事を許しはしない。

「ッ……!」
「悪いわね、アンタの相手はアタシ。子どもたちを助けたいなら、倒してからいけよ」

 ココロが詠唱を紡ぎ、炎の加護をコルネリアに与える。
 唇が震える。忘れよう、そうココロは思う。あのお茶会で快活に笑っていたカルヴァニヤを、今は忘れよう。
 だって、向こうだって覚えていないのだもの。――倒さなければならない敵なのだもの。
 ココロはしん、と静かな瞳で、カルヴァニヤを見た。

「――上等!」

 カルヴァニヤは笑う。そうして両手に持った剣を振るい、コルネリアとマリアを纏めて剣風に巻き込む。
 浮かべた笑みは女騎士としてというより……魔種としての心の高揚に従ったもののようだった。



「さて、この先――悪い子は通行止めだぜ」

 『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)は『俺』――もとい、『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)、そして『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)と共にワールドイーターの群れを迎え撃つ。
 神鳥の加護を己に降ろし、夢と記憶を喰らう緋鳥の群れを放ってワールドイーターの群れをこちらに引き寄せる。
まるで黒い雲のように群れていた、頭蓋と背骨だけのような形の異形が、ぎょろりと紅いカイトを見据えた。

「おーおー、お怒りだぜ」
「お前がそうしたんだろ」

 青いカイトが構える。
 スティアが福音の鐘を鳴らす。其の音にぐらり、と骨の異形は惹かれるようにスティアを見る。

「こちらもお怒りみたいだね」
「だからお前が……はあ」

 遊ぶように言うスティアに、青いカイトは溜息を吐く。

「……どうして歪んでしまったんだろうね」

 スティアはコルネリアと剣を交えているカルヴァニヤをちらと一瞥する。
 ――護りたいという想いは、本物だったはずなのに。魔種になってでも護りたかったものを護れない、その矛盾に気付いてはいるのかな。

「さあな。魔種になったら心がどうなるのかなんて、魔種になってみないと判らない」

 向かって来るワールドイーターの群れ。
 青いカイトが手を翳すと――雨がにわかに降り注いだ。其れは氷獄の雨だ。零下の雨が降りしきり、一瞬にして周囲を凍土に変え、ワールドイーターを凍りつかせて、次の一降りで撃ち砕いていく。

「陽の鳥、月の鳥、触れる事汚す事誰も能わずってな!!」

 喰い付いてやろうと向かって来るワールドイーターを、次々と紅いカイトは避けてみせる。其れは黒い空を飛ぶ赤い一羽の鳥にも似ている。

「……うん。いこう!」

 頭を振るって弱音をはたき落としたスティアが呼ぶは、魔性の呼び声。亡霊の慟哭は曇天の場に響き渡り、次々とか弱いワールドイーターたちは其の呪いの前に朽ちていく。

「……一体一体は大したことないな」
「ああ。だが数が厄介だ。一気に削っていこうぜ!」
「うん! 私とカイトさんが引き付けるよ、だからカイトさんが其の隙に……ん? あれ?」

 そう言えばどちらも『カイトさん』だ。
 どうしよう、と首を傾げるスティアに、二人のカイトは顔を見合わせて笑った。

「やっぱりややこしいよな、『俺』」
「そうだな。だがまあ、面白いよな。『俺』」



「なあ! 本当に覚えてないのか、アンタ!」

 コルネリアが銃弾を放つ。
 カルヴァニヤは其れを避けもしない。びす、と肉体に突き刺さる弾丸を物ともせず、剣を大地に突き立て、一気に大地を剥がしてコルネリアとマリアに岩塊として吹き飛ばして来る。

「私が!」

 一声短くマリアが言うと、彼女はまさしく光の速さで跳んだ。燃えるような緋色の雷光がばちばちとうねっている。緋色の弾丸は岩塊に一瞬で接敵すると、其の麗脚で土と石の塊を粉微塵にした。

 其の間にもコルネリアとカルヴァニヤはぶつかりあう。
 カルヴァニヤの剣戟は、一撃一撃が大振り。だけれど其れだけの威力があり、まともに喰らえば小さな奇跡をも砕き、更に傷を負いかねない。
 其の為にココロがいる。コルネリアとマリアの体力を頻繁に回復させ――其れでもコルネリアは小さな奇跡を既に輝かせ、ココロはお守りに持っていた清水を使ったが――継戦可能な域にぎりぎり留めている。
 そしてマリアも、コルネリアの攻撃に合わせて一撃一撃を積み上げていく。
 弾丸と光が舞う。剣戟の甲高い音が其れ等を蹂躙するが如く響く。

 ――其処に割り込んでくるのは、まるで顎を閉じるが如き黒い雨。

「……んぐ……っ!?」

 カルヴァニヤがふらついた。其の隙を逃さず、コルネリアが銃弾を撃ち込み、マリアが一撃を叩き込む。

「この黒雨――青い方のカイト君か!」

 カイトは背を向けたまま、ひらり、と手を振った。
 あくまで俺はワールドイーターの抑えで、其処にカルヴァニヤが『入ってきた』から巻き込んどいた、とばかりに。

「まったく、粋な事をしてくれるね」
「褒めるのはあとよ、マリア。……来る」

 カルヴァニヤが剣を持った。
 両手に持った剣を、まるで両手剣のように一つに持って。

「どうして邪魔をするの」


「どうして邪魔をするの」


「あたしは」


「あたしは、子どもたちのために――」


「……子どもたちのため? 違うわ、預言書の……預言の、通りに……」


「う、あ、ううう、あ、ああああ!!」




 其れは獣の咆哮。
 其れは猛る狂気の迷妄。

 カルヴァニヤには判らなかった。

 気付けば自分は遂行者だった。預言書が全て正しいのだという。ならばそうなのであろう。カルヴァニヤはだからそうした。

 カルヴァニヤは覚えていない。

 お茶会、と彼らは言っている。
 した覚えはある。だが何を語り合ったのか、どうしてだかまったく思い出せない。

 カルヴァニヤは、だから。



 だから、ぜんぶこわしてやろうとおもった。



「ルシーア!!」

「は、はい、カルヴァニヤさま」

 致命者の子どもが、カルヴァニヤの声に応じて壺を開ける。
 口の広い其の壺の中身は、遠くからでもよく見えた。

「――……なんだ、あれ」

 最初に口を開いたのは紅い方のカイトだった。
 其れは濃い桃色をしていた。
 其れは肉色をしていて、新鮮な桃色の断面を晒してなおも脈打っていた。
 其の持ち主の性格を写し取ったかのように、どくん、と強く脈打ち、少し凹み、また脈打つ。

「……しん、ぞう?」

 ココロが信じられない、とカルヴァニヤを見た。

「そう。あれがあたしの心臓。あたしには由来する聖人も、聖遺物もない。だからあたしは、あたしたるもの――心臓の半分を壺に入れたの。そして其れをあなた達に見せた以上、もう返すつもりはない」

 カルヴァニヤが剣を振る。
 まるで竜巻のような旋風がコルネリアとマリアを捕らえ、其の膚に傷をつけていく。

「死んでもらうわ――」



「どっ、せぇぇーーーーい!!」

 ワールドイーターの群れを突っ切り、小さな奇跡すら輝かせて、ヴァレーリヤが致命者の子へと突っ込む。
 炎は聖なるかなと輝きて、子どもたちに畏怖を覚えさせる。

「カルヴァニヤが本気を出したっぽい気配がしますわ! ……まあそうでしょうね、自分の心臓をさらけ出したのですもの……!! タイム! 合わせますわよ!」
「判ってる! ああもう、ワールドイーターがうざったい……!」

 タイムは周囲を飛び回る骨の怪物をかわしながら、子どもを挟んでヴァレーリヤの反対側へ回る。
 ワールドイーターが彼女を狙って口を開く――其の時。焔の花弁が舞い、ワールドイーターを貫いた。

「……!」
「大丈夫! ワールドイーターは私たちに任せて、タイムさんとヴァレーリヤさんはあの壺を!」

 スティアだった。
 更に仕掛けて来ようとするワールドイーターに、紅い方のカイトが深紅の鳥をけしかけて注意を引く。
 其処に青い方のカイトが白い雨を降らせる。其れは優しい色をしているが――余りにも清らかに“過ぎた”。全てを汚れと見做し洗い流す、災いにも似た雨が、紅いカイトが引き付けたワールドイーターたちを押しながし、消し潰す。

「さあ! もう一発、喰らって行きなさい!!」

 ヴァレーリヤの方が動くのが早かった。先程振り抜いたメイスの勢いをそのままに、一気に致命者の子へと距離を詰める。

「セネ!」

 メイスの炎と打撃を喰らったセネの身体が吹き飛ぶ。
 ヴァレーリヤは唇を軽く噛み……けれども、と声を張り上げた。

「タイム、今でしてよ!!」
「う、ああ………あああああ!!」

 ごめんね、だとか。
 許さないで良いよ、だとか。

 幾らでも子どもたちに伝えたい言葉はあったはずなのに、タイムの口からこぼれ出たのは咆哮であった。
 一気にルシーアへと、其の手に持った壺へと距離を詰める。其の手には魔力で創造した剣が一振り。
 ルシーアは其れを見て取ると、壺をぎゅっ、と抱き締めた。其れはまるで、生を共にすると誓うかのよう。
 そうして其の誓いごと――タイムの剣の一降りが、ルシーアの身体を両断し、壺を大地に強かに叩き付けた。


 ――ぱりん。


 小さく壺が割れる気配がする。

「あ」

 末期の声を上げたのは――カルヴァニヤ。



 銃を持つ手が重い。
 コルネリアは着実に降り積もるダメージを感じていた。

「――はは、流石は遂行者といったところか……なかなか骨が折れる相手だね……!」

 謳うように言うマリアも傷だらけだ。大技を使えないように立ち回ってはいるものの、本気を出したカルヴァニヤの一撃は、まさに一撃必殺といって良かった。
 喰らえば恐らく、膝から崩れ落ちる。掠めても酷く痛み、余波で小さな傷が増える。
 幸いだったのは、カルヴァニヤの戦法がただ剣を振り回すだけ、という単純なものだった事だろう。思えば彼女は剣技というものはなかったように思う。

「――力馬鹿かよ」

 コルネリアは思い出すとおかしくなって、は、と笑った。
 ならいいさ、アンタは馬鹿で、アタシは悪党。三流にもなりゃしない配役だが、他の一流がどうにかしてくれる筈だ。

「こわす。こわす。ぜんぶこわす」

 どす黒い狂気に包まれたカルヴァニヤは、止まる事を知らない。
 マリアが光の速さで肉薄する。緋色の雷光はどす黒い中でなお輝き、カルヴァニヤと撃ち合う。
 其の隙間を縫うように、コルネリアの弾丸がカルヴァニヤの身体を穿った。

「奴はもう大技を使えない」
「そのようだね! 何より……其の理性ももう、ないかもしれない」

 狂気に呑まれたカルヴァニヤは、ただ剣を振るだけの怪物と化した。
 ――かに見えた。
 其の時、マリアの頭の中に見知った声が割り込んできた。丁度其の怪物から、急激にどす黒い気が抜けていく瞬間の事であった。

 ――マリィ、聴こえますかしら!?

 ――壺を壊しましたわよ!

「ああ」

 膝を突いたのは、

「……判ったよ、ヴァリューシャ」

 カルヴァニヤだった。



 『神霊の淵』。
 これには遂行者と関係深い物品が入れられる。即ち、遂行者の命の核そのものである。
 魔種から遂行者になったカルヴァニヤは、其の心臓の半分を『神霊の淵』に入れていた。これを核として、神の国を下ろそうとしていたのだ。

 ――けれど、そうはならなかった。
 命の核、即ち壊されれば遂行者は命を落とす。其れは例え魔種としての力を解放したカルヴァニヤであっても例外などではない。
 露出する事で強くはなれても、其れは文字通り『心臓を曝け出す』事に他ならない。だから、……カルヴァニヤは、負けた。

「……ああ……」

 気付けばワールドイーターたちはいなかった。致命者の子の鼓動も感じられなくなっていた。

「――負けたのね、あたし」
「そうよ」

 タイムが言う。見下ろしている。何かを堪えるような顔で。
 カルヴァニヤは穏やかな顔でゆっくりと瞬きをする。

「ねえ」
「なに?」
「わたしには夢が沢山あるって言ったわね。その夢に、あなたの夢も加えるわ」
「……え?」
「これからも、子どもたちを護っていく。……いずれわたしが死んでも、また違う誰かが夢を引き継いでくれる。其れが広がったら、子どもたちが笑顔でいられる世界が出来るわ。いいでしょ?」

 タイムはあくまで凛とカルヴァニヤを見下ろしながら言った。
 ……カルヴァニヤは、笑った。

「そうね、……それは、とてもいいことね…… ……ねえ、悪党さん」

 そうして次にみたのは、コルネリアだった。

「何よ」
「あなたの弾丸で、わたし、死にたいわ」
「……もう死んでンじゃないの?」
「……。まあ、そうなんだけど……なんだか恰好つかないじゃない。だから、ね? おねがい」
「……ったく、人をボロボロにしといてよく言うわ」

 言いながらも、コルネリアは福音砲機をカルヴァニヤに向ける。

「――ああ」

 カルヴァニヤは天を見上げた。天使の梯子が曇天を縫い、大地に降りて来ていた。

「……“遂行者”だなんて。ひどい人生だったわね」


 銃声。



 遂行者カルヴァニヤは死んだ。
 一緒にいた子どもたちを一度も護れず死んだ。
 自らの心臓さえも護れず死んだ。

 ただ――彼女がどうやって『生きた』かは、イレギュラーズたちだけが知っている。

成否

成功

MVP

コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤

状態異常

マリア・レイシス(p3p006685)[重傷]
雷光殲姫
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)[重傷]
慈悪の天秤

あとがき

お疲れ様でした。
カルヴァニヤは二度目の死を迎えました。
けれど、きっと悲しむ必要はないのでしょう。
ご参加ありがとうございました。

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