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シナリオ詳細

<神の王国>碧も蒼も理想の果てに

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――仔羊よ、偽の預言者よ。我らは真なる遂行者である。
 ――主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ。

 この神託に端を発した天義の一件もひとまずの決着を見ようとしている。
 神託を実現して混沌に神の国を築こうと画策する遂行者とそれらを統べる「冠位傲慢」ルスト・シファー。
 それらは神の国へのイレギュラーズを招待して以後、事態は加速する。
 神の国へと攻め込んだイレギュラーズが辿り着いたのは理想郷だった。
 皆が楽しく、幸福な世界を享受できる世界。
 そこに招かれた人々は穏やかに、安らかに暮らしている。
 この理想郷こそ、冠位傲慢の権能の大部分を占めるという。
 『天地創造』、『生命の息』、そして『知恵と言』の授与。
 まさに神の所業とも呼べるものばかりだ。
「この理想郷内部で創造された生命はそこでしか生きられないといいます」
 『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)は淡々と状況説明を進める。
 ルストはさらに、『聖痕』を授ける事により『知恵と言』……選ばれし力を様々な者に与えた。
 これが遂行者だと言われる。
 ただ、冠位傲慢とはいえ、世界を覆うほどの力は持たない。
 それ故に、遂行者にルストの権能を帯びた聖遺物を各地へとばら撒かせていた。
 聖女ルルが当初より語り続けた『シビュラの託宣』の終末論の如く――世界を塗り潰す計画なのだ。
 無論、イレギュラーズもそれを許さず、その企みを潰してきた。
 神の国への侵攻も一連の作戦の果てにルストを討伐すべく、行われている。
「ルストの権能には綻びがあることが指摘されています」
 傲慢なる彼のこと、全世界へと権能を広げようとしていたが、さすがにその絶対的なコントロールは端にまで目は届いていなかったらしい。
 そこで、離反したイレギュラーズの通達があったのを契機に、『神の国』と『混沌各地』の双方から攻撃を仕掛け、ルストの権能を打ち破る作戦が決行されることになる。
「ルストの権能を打ち破り、彼を外へと引きずり出すことが作戦の目的です」

 今回、こちらのチームは神の国へと攻め入り、遂行者ナーワル、魔種ルニアらを掃討することになる。
「この機会、ずっと私は待っていた」
 遂行者と致命者へ『白竜☆偶像』を布教を、それが叶わねば殲滅をと考えていた夢野 幸潮(p3p010573)だ。
 ようやくと笑う幸潮の後ろで、リドニア・アルフェーネ(p3p010574)もゆっくりと拳を握って。
「やっと、ですわね……」
 リドニアは長らく彼女らの……とりわけ、ナーワルの暗躍を甘んじてみてばかりいた。
 先日の茶会でナーワルの本心が垣間見えたようにも思えた。
 己の……碧熾の魔導書の完成を目指していたはずのナーワルはどこか不満気な印象を抱かせた。
 それは、彼女が何かを悟っていたからかもしれない。
「ルニアとも思いっきり戦えそうね」
 レイリー=シュタイン(p3p007270)もこの機会を逃さず、魔種と対したいと考えていたようだ。
 戦場となるのは、ナーワルがルストの権能によって生み出した理想郷内の公園を思わせる場所。
 自分達は死ぬことがないと声だかに語っていた魔種ルニアだが、今回は先に説明した作戦によって、ルストは自身の権能のリソースを自らへと向けることになる。
「つまり、遂行者も選ばれし人々も、命を落とせば二度と蘇れはしません」
 相手も状況の把握まではできておらず、部下が倒れた地点で察するかもしれない。
 もっとも、遂行者ナーワルはこの状況を見通していた可能性もあるが……。
「相手は茶会の時に会った相手と同じはずです」
 遂行者らは現状、ほとんど身動きがとれぬ状況だ。
 新たな戦力を調達する余裕はほとんどない。
 ナーワルにしても、他の遂行者らから戦力を借りるといった行為は難しいはずだ。
「長らく続いたナーワルとの因縁……ここで確実に終わらせましょう」
 アクアベルに同意したメンバーは、神の国へと赴くのである。


 茶会の時と変わらず、その公園には穏やかな時が流れる。
 ジョエルを始め、子供達は楽しそうに走り回り、鬼ごっこなどして遊んでいる。
「ふふ、いいですわね」
 優雅にティータイムを楽しむルニア・アルフェーネ。
 対面する遂行者ナーワルは浮かぬ顔でカップにも手を付けず、幾度目かも分らぬ溜息をつく。
「そんな態度ばかりだと、私が取り込んで差し上げますわよ?」
「ルニア様は不完全な私を取り込みたいのですか?」
 鬱とした態度でも、ナーワルは不敵な態度だけは崩さない。
 くすりと笑うルニア。
 時間はいくらでもあると、彼女はこの一時を楽しむことに。
 だが、ナーワルは察していた。
 アドラステイアの件からずっとイレギュラーズと対していたからこそ、何かが起こると。
 何せ、相手はここまで冠位魔種との戦いでは犠牲こそ出しはするものの、全てに勝利している。
 だから、例え傲慢の名を冠するルスト・シファーであってもという考えはぬぐえない。
(それに、この聖痕……)
 ここまでは自らの完成の為、遂行者という立場は大いに役立った。
 だが、ここにきて、この聖痕が、遂行者という立場が枷どころか、監獄のようになってしまうとは。
 さながら、今の自身は執行を待つ囚人のようではないか。
「何を考えているのでしょうか?」
 前にいる修道女は暢気に紅茶などおかわりしている。
 この後どんな状況になるか、想像だにすることなく。
「……来ましたか」
 理想郷へと駆け込んでくる多数の足音。
 その中にはきっと、蒼熾の魔導書の後継者も含まれていることだろう。
(ならば、この戦いで完成するしか)
 意を決したナーワルは、無邪気に微笑むルニアと共に、イレギュラーズとの最後の戦いに臨むのである。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 <神の王国>のシナリオをお届けします。
 こちらは、リドニア・アルフェーネ(p3p010574)さんの関係者依頼と合わせ、レイリー=シュタイン(p3p007270)さん、夢野 幸潮(p3p010573)さんのアフターアクションによるシナリオです。

●概要
 戦場は前回来訪した理想郷で、ナーワルの生み出した公園のような空間です。
 理想郷とは『テュリム大神殿』に存在する創造の座より繋がっていた不可思議な階層です。棲まう人々は理想郷と口にしています。『異言』に溢れては居ますが、意志の疎通が可能な者も存在して居ます。
 幸せそうな子供達(一度討伐済みのジョエルも)含め、ルストの権能によって作り出された者達です。
 今回、ルストは自らのリソースを向けており、死んだら二度目はありません。

●敵:ナーワル混成隊
◎遂行者:ナーワル
 20歳、白服を纏った旅人女性。リドニア・アルフェーネ(p3p010574)さんの関係者。
 アドラステイアにて、下層の子供達にファルマコンの教えを説く一方で、潜水部隊を率いてスパイ活動を行わせていました。
 その正体は「碧熾の魔導書(ブレイジング・ブルー)」と呼ばれる魔導術式が形を成した物とのこと。
 自ら未完成だと自覚しており、完成の為に「他者の痛み」と「恐怖」、「憎しみ」を集めています。
 戦いでは、炎を使いこなし、砲弾やモリ、散弾といった殺傷力の高い武器に転じて使う他、閃光、溶岩、雷火、闇炎と炎をベースとした多数の術も行使してきます。

◎ルニア・アルフェーネ
 リドニアさんの姉。魔種。
 『聖痕』を刻印された彼女はナーワルと活動する一方、魔導書である彼女の力を取り込もうと画策しています。
 身体から蒼い靄を発し、底冷えのするような空気を展開して全てを自らの力に変えます。
 加えて、蒼い靄は様々な攻撃に利用できます。

◎選ばれし人×7人
 理想郷に棲まう人々。
 遂行者ナーワルによって再現された者達です。
 異言を紡ぎますが、意思疎通は可能です。
 交戦となれば、イレギュラーズが幸せを壊したと糾弾しながら襲い掛かってきます。

〇ジョエル
 致命者の少年ジョエルを模した存在。
 アドラステイアの聖銃士を思わせる姿をしております。
 刀剣を操る技術はかなり高く、ナーワルによって再編された潜水部隊と率いて襲い掛かってきます。

〇潜水部隊×6体
・影の艦隊(マリグナント・フリート)×3体
 遂行者サマエルの客人、狂気の旅人(ウォーカー)マリグナントの影響で生み出された者達がジョエルに付き従って消滅後、選ばれし人として再度少女の姿として作り出された者達です。
 装備した大砲、高射砲を生かした高火力を活かした攻撃を行います。

・異言を話すもの(ゼノグロシアン)×3体
 こちらは少年を姿をしています。
 近距離戦を得手とし、異言を紡きながら暗殺者さながらの動きで体術、仕込み杖、吹き矢、小型拳銃と様々な戦術で襲い掛かってきます。

〇預言の騎士
 ルスト・シファーの権能によって生み出された馬に跨る騎士です。
 それぞれのタイプによってカラーリングが決まっています。

・黒騎士×2体
 病原菌をばら撒く恐るべき騎士。
 加えて、闇の力を纏ったポールアックスを振るって様々な状態異常へと陥らせてきます。
 闇の力はボール状にして投擲も可能なようで、距離をとっても油断なりません。

・炎の獣×2体
 赤騎士が作り出した存在。今回現れた個体は自分の力を選ばれし者へと乗り移らせたようです。
 今回は燃え上がる仔馬のような姿をしております。
 炎を操るのと合わせ、突進、嘶きといった手段での攻撃も行います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

 それでは、よろしくお願いします。

  • <神の王国>碧も蒼も理想の果てに完了
  • GM名なちゅい
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年12月20日 22時20分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
Lily Aileen Lane(p3p002187)
100点満点
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
夢野 幸潮(p3p010573)
敗れた幻想の担い手
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
蒼穹の魔導書
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺
灰燼 火群(p3p010778)
歩く禍焔

リプレイ


 神の国、テュリム大神殿よりもさらに奥。
 創造の座から先へと進んだ場所へとイレギュラーズは突入する。
 そこは、選ばれし人達が楽しく住まう場所だった。
 うふふ……。
 あはは、はははは……。
 確かに、この場で過ごす人々はとても幸せそうに見える……が。
 メンバー達には違和感しか感じず。
「……質の悪い人形劇を見せられている気分といったところだね」
「……正直、今で十分幸せなもんで。せやから大きなお世話って奴や」
 『血風旋華』ラムダ・アイリス(p3p008609)が本音を語ると、『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)もやんわりとこの場を……理想郷を否定してみせる。
「皆が幸せだけど凍り付いた、夢などない今しかない世界」
『騎兵隊一番槍』レイリー=シュタイン(p3p007270)は確信を抱いて告げる。
 私は死ぬまで夢を持ち、未来で変わり続けたい、と。
「作られた世界……作られた楽園……。そんなモノは……未来を観ないと同じだよ……」
 だから、『人体部位型終焉獣を知る者』Lily Aileen Lane(p3p002187)は宣言する。
 ……壊すね……先に進むために……。

 イレギュラーズは直接来たことのあるメンバーが先導する形で、目的地へと向かう。
 ほどなく一行が至ったのは、公園のような場所だった。
 いつ、敵が襲ってくるかわからないと考える【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は五感を働かせ、さらに鳥のファミリアーと感覚を共有して周囲を警戒していたのだが。
「いるね」
 前方に敵の存在を察したヨゾラの声で、皆改めて警戒心を高める。
「さて大詰め」
 レイリーの一言に、『『蒼熾の魔導書』後継者』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)が感慨深そうに呟く。
「長かったもんですわね。アドラステイアから始まり、この場所に至るまで」
 そんな因縁とはやや距離を置く『騎兵の先立つ紅き備』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)はというと。
「ちっ、我ながらお人好しな話だ」
 前方に見える敵を前に、彼女は舌打ちしてしまう。
 何せ、友人レイリーの手助けにしても、相手は遂行者に魔種と一筋縄ではいかぬ相手なのだ。
「首を撥ねとばしたはずの相手がまた目の前にいるとか……、悪夢以外の何物でもないのだけど?」
 ラムダは確かに、致死者ジョエルの首をこの手で飛ばしたはず。
 にもかかわらず、目の前には選ばれし者としてそのジョエルが他の子供達と楽しく遊んでいるのだ。
 こちらの動揺を誘っているのであれば、……敵の狙いが何かはさておき、効果的であることをラムダも認めずにはいられなかった。
 ジョエルはどうやら、ナーワルが遂行者としての力で再現させたらしい。
 その大元は、「冠位傲慢」ルスト・シファーによるもの。
 ルストは権能の一端を致死者らへと貸し与えていた。
 だが、その力を広げすぎたルストの権能に綻びが出始めており、末端にまで力が行き渡ってはいない。
 だからこそ、今回の作戦で決定的なものとする。
 そうなれば、遂行者らは権能の恩恵に預かれなり、この理想郷内でも倒すことができるようになるはずなのだ。
 奴等が不死じゃなくなったらどうなるのかとヨゾラは思っていたそうだが、まさにその時が今だ。
「……ナーワルやルニアとの因縁、ここでけりを付けないとね」
 ヨゾラに同意したメンバーは、公園に置かれたテーブルでティータイムなど楽しむ女性達へと近づいていく。
 全身タイツの上から白い修道服を纏った『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)はなぜかここまで若干呆けていたようにも見えたが。
「……こほん」
 敵を前に気を引き締める幸潮は己を否定することで体内から湧き出る力を感じる。
 これで、この仮想身体は倒れることなく戦うことができる。
「……来ましたか」
 ナーワルは紅茶の入ったカップを空け、テーブルを子供達に下げさせる。
「性懲りもなく。勝てないとわからないのね」
 くすくすと笑うルニアは本当に何も知らないのだろう。
 その様子は実に滑稽だ。
「とっとと尻尾巻いてお帰りよ」
「世迷言を。今度は逃がしはしませんわ」
 呆れて彩陽が告げるが、ルニアは鼻で笑う。
 いい気になって構えをとる彼女に合わせ、ナーワルもまた従えるジョエルら潜水部隊、そして馬に跨る黒騎士や仔馬の姿をした炎の獣を差し向けてくる。
 彩陽もやはりかと両手を上げて首を振っていた。
「敵の数はこちらの倍。しかも、強力な魔種混じりときた」
 しかしながら、『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)に臆する気など微塵もない。
 なぜなら、この程度も乗り越えられぬようならば、世界を巣食うことなど夢のまた夢なのだから……!
「エレンシア、露払いはお願いね」
 そこで、レイリー目的の敵へと道を切り開くよう託す。
 大切な決戦において、今回の一件には無関係のはずのエレンシアを呼び寄せたレイリーだ。
 それだけ、彼女の強さ、攻撃、精神も強く信頼しているからこそ、レイリーはこの場を託すのだ。
 呼びかけを受けたその友人エレンシアは鼻を鳴らして。
「ふん、自分で言い出した仕事はきっちりこなすさ。レイリー、てめーはケリつける事だけ考えてろ」
 エレンシアもまた、レイリーなら物事をやり遂げると信じており、自身がしゃしゃり出る必要はないと考えている。
 エレンシアができるのは、レイリーの邪魔をするクソザコを始末するだけだ。
「この世に理想郷なんざありゃしねぇよ。幻の理想郷なんざくそくらえだ」
「ヴァイス☆ドラッヘ! 偽りの理想郷を壊すため只今参上!」
 叫ぶエレンシア、そしてレイリーが口上をたれると、やれやれとルニアが大仰に首を振って。
「今あるこの理想郷を否定するなんて……、現実を受け入れなさいな!」
 まるで動じないイレギュラーズに、ルニアは呆れを通り越していら立つも見せ始める。
 ハァ……。
 一方で、このやり取りの間も、ナーワルは溜息を止められずにいる。
 その正体が「碧熾の魔導書」である彼女は己の完成の為、アドラステイアでのティーチャー、その後の遂行者としての活動で、他者の痛み、恐怖、憎しみといった感情を収集していた。
 だが、遂行者となったことで体に刻まれた聖痕によって、ルストと命運を共にするとみられている、本人もそれに気づいたからこそ陰鬱としているのだろう。
「……完成の為に必要な材料かぁ」
 火群は痛みなら死ぬ程用意できはするが、もう慣れっこだと思わず呟く。
 その完成の為、一行はまずルニアから弱らせる作戦を手早く立てる。
 そうなれば、ナーワルが完成、そうでなくとも少しでも完成に近づくはずだからだ。
(完全体の彼女が味方になるか……それとも……)
 Lilyにとっても、これは賭けだ。
 ナーワルはすでにリドニアの説得にも、それほど否定的な態度は見せていない……が、それでも敵対する可能性は十分にある。
(今は、リドニアさんとレイリーさんの負担にならないように)
 作戦としては関係の強いメンバーの目的に追随する形をとるLilyだ。
「では、本題に移るとしよう」
 互いがぶつかるのはもう間近。
 幸潮は仲間と共に臨戦態勢をとって。
「折角の機会だ。盛大に──盛り上げてやろう」
「神に選ばれた私の力、存分に御覧あそばせ」
 全身から青い靄を吹き出すルニア。
 魔種となったこともあるが、選ばれし者となったことで増長する実姉の姿に、リドニアは僅かに顔を顰める。
「姉様……その姿になってまで神に選ばれたとずっと思い込んでいるのですね」
 それでも、ルニアは倒すべき相手なだけ。
 リドニアにとっての本命はあくまでナーワルだ。
「さあ、私達の蒼い物語を終わらせましょう」
 ――蒼穹の魔導書よ。私たちの罪と罰をご覧ください。
 その魔導書の存在をかけた戦いが今始まる。


 先程まで笑い声で溢れていた公園は瞬く間に戦場へと化す。
「折角、楽しく遊んでいたのに……」
「私達に……かまわないで……」
 いつの間にか、少年は騎士の武装に、少女は砲撃武装を展開しており、それぞれ攻撃を繰り出してくる。
「えぇ、貴方達の幸せは壊したわ。だって、貴方達はもう生きてないから」
 糾弾と共に仕掛けてくる子供達へと、レイリーは真っすぐその目を見て告げる。
 ただ、それらを一切無視してリドニア、Lily、レイリーの3名は一直線にルニアやナーワルへと向かう。
「おほほほほほ……!!」
 高笑いするルニアは靄を広範囲へと解き放つ。
 底冷えのするような空気を展開し、ルニアはメンバーの体力を奪いつつ自らの力を高める。
 相手は魔種。手強いのは織り込み済み。
 ただ、その力の使い方に、リドニアは姉の考えの浅さを気づく。
「私達にとって、神とは絶対的な物。そう、教えられてきたのですものね」
 だから、ルニアは神に選ばれたと有頂天にすらなっている。
「そうでも考えなきゃやってられなかった。そうでしょ。」
 それを指摘するのだが、ルニアはまるで聞く耳を持たない。
「何を言っているのかわかりませんわ!」
 自分が第一と考えるから、傲慢に付け込まれたのだろうとリドニアは悪態づきながらも姉を見定める。
 絢爛に、唯只管に華やかに。そしてありったけ。
 青と碧を組み合わせた術を呼び動作鳴く発動させたリドニアは、虚空にいくつもの障害物の如き斬撃を置き、ルニアを切り裂く。
 傍についていたLilyはリドニアに肉体再生能力を付与する。
 そのまま、Lilyはレイリーにも同様の能力付与に動いていた。
 傍の二人を、レイリーが盾となって守る。
「私を倒さない限り、指一本触れさせないわ」
 初手こそ、思った以上に素早いルニアに後れを取ったが、これ以上はやらせぬとレイリーが2人を同時に庇うべく身構える。
 チームの目的の為、レイリーは魔種と遂行者の猛攻に耐えるべく守りを固める。
 身を挺することができるのは、後ろにいる幸潮の存在も大きい。
「幸潮、歌と編纂を、遠慮なく盛り上げて」
 レイリーの呼びかけに応じ、幸潮は描写編纂を始める。
 ――私の"万年筆"を此処に。
 ――第四の壁の外より紡がれ語る"世界"を此処に。
 幸潮の手にする万年筆は虚空に物語を紡ぐ。
 ――『敗れた幻想の担い手』改め『夢野幸潮』。
 ――『意思生命体』とは即ち宿願を追う『意思』の顕れ。
 筆が乗ってきたことで、幸潮は口を開き、歌に乗せていた。
(幸潮が背を支えてくれるから期待に応えたい! ……愛してる)
 そのバックコーラスがレイリーにはとても心地よい。
「さぁ、舞台で舞うわよ!」
 握るランスと大盾に力を籠め、レイリーは笑顔で敵へと立ち向かう。

 その周囲でも交戦が始まっている。
 病魔を撒き散らす黒騎士2体に、すでに少年らへと憑依した赤騎士……炎の獣2体も面倒な相手だ。
 素早い彩陽が黒騎士、2体の炎の獣を相手取って。
「……我冀う。その力を奇跡と成す事を」
 どこからこの理想郷に入り込んでいるのか、周囲に揺蕩う死者の霊より力を分けてもらった彩陽は手にする弓矢にその力を乗せる。
 矢を番えて弓を引く彩陽は願う。
 ――奇跡よ起きよ、と。
 放たれた矢は分裂し、黒騎士、炎の獣合わせて4体に突き刺さる。
 刺さる瞬間長く伸びた矢は雷撃を起こし、敵の動きを止めた。
 おかげで、火群は比較的優位に立ち回り、それらを相手取る。
 敵がどういった動きをとるかは不透明な部分もあり、敵を中心として円を描くように移動する。
 己の体を戦いに最適化させた火群は念押しに敵を纏めようと誘いの魔力を充満させて敵を引き付けようとした。
 だが、満足には動けぬものの、黒騎士はその身から病原菌を発していたし、炎の獣も全身を燃え上がらせており、不気味さを漂わせていた。

 ジョエルを始めとした潜水部隊……選ばれし人達にも、メンバーは数人で対する。
 理想郷という名の空間だが、周囲に漂う耳を覆いたくもなる状況だが、ヨゾラはそれを拒否して仲間と共に子供達へと立ち向かう。
(彼らが黄泉返ったのか新しく再誕したかは知らないけれど……)
 見た目だけとはいえ、そう何度も子供相手に斬り合いだの勘弁してもらいたいと、ラムダは一つ息をつく。
 ふぅ……。
 その中で最優先すべきは……潜水部隊の司令塔であるジョエル。
 ラムダはそう判断するが、その潜水部隊が前に出て、ジョエルは合間を縫うように移動して攻撃を仕掛けてきている。
 プロトコル・ハデスを発動し、さらに破滅の魔眼を開くことで自己強化したラムダはジョエルまでの道を切り開いて接敵を試みる。
 まずは距離があることで、ラムダは敵陣へと数多の剣閃を繰り出す。
 堪える子供達に臆する様子は一切ない。
「ただ楽しく生きたいだけなのに……」
 理想郷での生活を享受していた彼らは刃を突き出し、砲撃を放ってくる。
「てめーらの幸せなんぞ知った事か、作られた偽りの命め」
 低空飛行するエレンシアは孤立せぬよう意識して立ち回る。
 大体、他メンバーは相手が決まっていることもあり、エレンシアはそれらを纏めて相手取って。
「リドニアとレイリーの邪魔するんだったら纏めて焼き払うぞ。邪魔しなくても焼き払うがな!」
 宣言した彼女は己に魔神を降ろし、敵の頭上から魔力砲を放射する。
 続き、広域を見渡して戦況を把握していた汰磨羈が子供達へと駆け出す。
 重さの枷を振り払い、絶界・白旺圏で己の限界を越えて出力を高めていた汰磨羈は手近な影の艦隊へ縮地で近づく。
 殺気と闘気を極限にまで込めた赫刃を汰磨羈が叩き込んでいけば、影の如き体躯の子供達は黒い血を撒き散らしながら、他の敵の元へと吹っ飛ばされる。
 それでも、素早く身を起こし、怯むことなく立ち向かってくるからやはり厄介な相手に違いない。
 魔術紋を輝かせたヨゾラもそれらへと巻き起こしたケイオスタイド……彼がアレンジを加えて自分流とした星空の泥を浴びせかけていく。
 早急な撃破を目指すヨゾラは泥を発する手に力を籠めるが、子供達はなおも敵意をむき出し、ジョエルの指揮の元襲い来るのである。


 戦いが始まれば、公園の遊具は破壊されていく。
 ブランコの鎖は切られ、滑り台の支柱はへし折られ、設置された椅子は真っ二つに破壊される。
 どのみち、ここはナーワルが作った空間だ。
 メンバーもそれが破壊されたとて、気にする者は誰もいない。
「…………」
 ナーワルは公園が破壊される様を横目で見ても、表情を変えすらしない。
 人の犠牲すら厭うことなく、己の完成に全てをかけていたはずのナーワルだ。
 満足に動けぬ状況の上、自らが長くないことも察した彼女はこの戦いにすら意義を見出すことができずにいるのだろう。
 とはいえ、生存本能はあるらしく、ナーワルも炎を操って攻撃は放ってくる。
 ただ、ルニアには彼女の攻撃に身が入らぬ様が気に食わず。
「何をしているのですの、まったく……」
 呆れながら、イレギュラーズに対する攻撃の手は一切止めようとはしない。
 Lilyは状況を見ながら、隙をついて攻撃に出る。
 もう一人の可能性を纏い、閉じた聖域に身を置いたLilyはパイルバンカー……執行兵器・薊を打ち込むことで血を流させ、強敵2人を弱らせようとする。
 敵の靄と炎はレイリーがしっかりと防ぎ、後方へと通さない。
(ナーワルが完全体になったらどういう選択をするかしら)
 そのレイリーは時折ナーワルを見て思う。
「…………」
 当のナーワルは戦闘に身が入っていないようだが、ルニアを追い込むことでナーワルが完成したなら……。
 ともあれ、今はレイリーもリドニアやLilyを護るのみだ。
 その隙に、レイリーの陰にいたLilyがパイルバンカーで反撃する。
(卑怯だとしても、適材適所だから……)
 リドニアも、調子づくルニアへと思いっきり武器を振りかぶって。
「姉様。ぶん殴ってでも貴方を止めます。お覚悟下さいませ」
 強かに叩きつけた一撃に、ルニアが怯む。
 まだ余裕を見せるルニアはなおも青い靄を操り、竜巻を巻き起こす。
「こんなに、こんなに、私には力がありますのよ……!」
 魔種となった彼女は侮れぬ力があるのは間違いない。
 レイリーもしっかりと身を固め、その場を凌ぐ。
 ――蠱毒にて生まれし虚無は物語を望んだ。
 ――数多の英雄が己が宿星へ向け走り抜ける姿を。
 その後ろでは、幸潮の歌が響く。
 ――故に私は此処に立っている。
 ――混沌に飲まれ『存在混濁』を引き起こしても。
 ――『私』という姿が大手を振りて話していても。
 語られる詩は耳を傾ければ、幸潮自身について語られることに気づく。
 ただ、ルニアにはそれが耳障りに聞こえていたようで。
「煩わしいですわ……!」
 勝てるはずがないのに、これだけ抵抗して。
 ルニアの心境の変化と合わせ、操る靄もまた色濃く、禍々しい形に変化していた。

 その間に、他メンバーが取り巻きの討伐を急ぐ。
 ルニア&ナーワルの戦況も確認しながら、彩陽は預言の騎士らを相手取る。
 嘶き、炎も纏って特攻してくる獣。
 仲間の回復を受けながらも、彩陽は堕天の輝きでそれらを照らし、動きを鈍らせる。
 幾度か光で照らし出せば、思うように炎を燃え上がらせられなくなった炎の獣もその灯が消えてしまう。
 火群も戦場を回り、預言の騎士に突っ込んで直接押さえつける。
 ほとんど散らばることなく相手できたのは、火群にとっては僥倖といったところ。
「炎の馬がどうしたかな。そんなの年中燃えてる俺に意味はあるのかな」
 そのまま精神力の弾丸を叩き込み、その炎を完全に消し去る火群だ。
 そのまま、火群は黒騎士も相手にし、刹那魔空間に閉じ込めて全身を圧搾、くし刺しにする。
 黒騎士も簡単には倒れず、病原菌を周囲に飛ばしてこちらを病魔に侵そうとしてくる。
 弱ったところで、手にするポールアックスで切り裂くつもりなのだろう。
 確かに、火群もそれらから逃れられずに侵され、足が重く感じることもあったが、すぐに慈悲と無慈悲の連撃で敵を攻撃しつつ、態勢も立て直す。
「殴ってくれるなら、それでもいいよ」
 火群にとって、ある程度傷が深まってからが本番。
 ただ、黒騎士は彼をそこまで追い込むには至らない。
 そいつの夢想で現実をも浸食させていくことで、火群は黒騎士を滅していく。
 事も無げに片をつける火群は一息つき、次なる敵へ。
 彩陽も残る黒騎士に殺陣で攻め立て、力を削ぎつつ距離をとる。
 病原菌から逃れ、仲間からの手当てを受ければ、彩陽は一気に矢を射放ち、弾幕を張る。
 その進撃は止まることなく、黒騎士を徹底的に蹂躙する。
 まさに矢継ぎ早に放たれる矢は、黒騎士は渾身の進撃に耐えられず、体を爆ぜ飛ばして消えていく。
 
 選ばれし人……ナーワルが具現化した子供達とも、別メンバーが交戦を続ける。
 そんな中、指揮系統を乱すべく、ジョエルへと接敵していたラムダ。
 だが、彼を護るべく飛び出す異言の少年がその首を狙おうと刃を振るってくる。
 ラムダは闘気の棘でその少年を貫いて倒し、さらにジョエルへ近づく。
 彼を再度眠りにつかせるべく、その刃を振るう。
 再度、ヨゾラが敵陣を星空の泥で押し流し、影の如き子供達を漆黒に塗り潰そうとする。
 幾度か泥にまみれた異言の少年が1人、また1人と姿を消していた。
 汰磨羈も影の艦隊を纏めて相手取っていて。
「殲光砲魔神を撃つ。射線に注意してくれ」
 誤射を回避する為、汰磨羈は仲間に一声かけてから影の艦隊を殲光砲魔神で薙ぎ払う。
 いつの間にか、異言の少年の姿はなくなっている。
 ジョエルもなんとか小隊を立て直そうとしているが、ラムダがそれを許さない。
 汰磨羈は指示が飛んでいないことを超聴力で確認し、個々で立て直そうとする影の少女らをなおも魔力砲を浴びせかけ、影2体を消し飛ばす。
 残る影の艦隊1体が距離をとって砲塔をメンバーへと突き出すが、エレンシアが攻撃を集中し、連なる雷撃を発した。
 力の高まりもあり、太い電流が公園を走る。
 影の艦隊も砲撃を放ってはいたが、それを汰磨羈が食い止めた直後に電撃が艦隊を焼く。
 光に貫かれた少女は小さく呻いてから消えてしまった。
 気づけば、ジョエルは1人。
「僕は、ただ、安らぎを求めて……」
 2度も作られた模倣の存在が何を思っていたのか、推し量ることは難しい。
 せめて、イレギュラーズができること、それは。
「何回も見た顔だけど……」
 ヨゾラはしぶとい少年の姿をした存在目掛け、神秘の力を極限にまで高めて。
「それも今日で終わりだよ。おやすみ」
 直接、それを彼の体へと叩き込む。
 嗚咽を吐くジョエルだが、なおも踏みとどまる。
 ラムダはその様子に眉を吊り上げるが、すぐ真顔に戻って。
「さて、これで最後ケリをつけるとしようか……」
 接近したラムダはジョエルに直接触れて闘気の棘で貫く。
「そして、オヤスミ……」
 その運命は血の滝のように。
 ラムダは今度こそ、ジョエルの体へと終焉を刻む。
「ああ、うぅ……」
 そのジョエルは自らの滅びを幾度自覚したのだろうか。
 小さく声を漏らし、ジョエルもまた他の子供達の後を追う。
 そんな子供達の姿は、ラムダにも、他のメンバーにも様々な思いを巡らせる。
「あの子たちを使ってボク達の感情ですら完成する為の収集対象だったのかな? やってくれるよ……まったく」
 ナーワルはしたたかに自らの完成させるべく策略を巡らせていた。
 それだけ、頭の回る魔導書であったナーワルだが……。
 彼女もまた、冠位魔種の掌の上だったということだろうか。


 選ばれし人、預言の騎士と倒したメンバー達が続々と一か所に集まってくる。
「お待たせ! 他の敵は全部片づいたよ!」
「……ナーワルとルニアはどうなった?」
 ヨゾラ、汰磨羈は他メンバーと共に、そちらの戦況を確認する。
 その戦線を支えていたのは、Lilyだ。
「私は倒れないです! 仲間を信じているから!」
 恐怖を打ち払い、Lilyは持久戦に臨む。
 傍では、リドニアがルニアへと一気に斬撃、打撃と繰り出し続けている。
 ルニアは涼しい顔で靄を一気に放出してイレギュラーズへと浴びせかけていたが、レイリーが止めて見せる。
「ここは迂回禁止!」
 レイリーはナーワルの炎と合わせてルニアの靄を、後ろの2人には至らないよう振り払う。
 自身が倒れるまでは、誰も倒させない。
 そんな騎士道を見せつけ、レイリーは強敵2人の前に立ち塞がり続ける。
「リドニア殿、貴女みたい夢が叶うまで護るわ」
 凛然と語るレイリーをなかなか突破できず、ルニアは一層濃い靄を吹き出して。
「その意気込みごと、私が取り込んであげますわ」
 ルニアの靄は捉えた相手の体力気力を奪ってしまうようだ。
 だが、レイリーはまるで応えているようには見えず。
「私を倒すまで絶対に誰も倒させない。だから、私は最後まで立つわよ」
 レイリーは鋭いランスの突きで反撃も繰り出し、ルニアの侵攻を食い止める。
「望まれたのだから。愛の竜と、恋の翼に」
 幸潮もまた、そんな彼女を誇らしく見つめて。
「『白竜☆偶像』、汝が美しさは不変だ。其の輝きの見えぬ無知全盲にも広めてやれ。此度も、汝の独壇場よ」
 高らかに歌う幸潮の声がレイリーに、その周囲のLilyやリドニアにも活力を与えていた。
 そこに続々と加わるイレギュラーズ。
 ラムダはすでに交戦していたメンバーに目配せし、煌めく剣閃を繰り出してルニア、ナーワル両名を強襲する。
 汰磨羈もリドニアに合わせ、ルニアを食い止めようと妖刀で切りかかる。
(果たして、彼女が望む通りの決着に出来るか否か──)
 兎に角、全力をもって助力するのみだ。
 ヨゾラもまたリドニアの意向を組みつつ、一旦自分達が駆け付けるまで耐えていたメンバーを星天の願歌で鼓舞する。
 仲間達が続々と駆け付けてきたのを見て、Lilyは身を引き、サポートへと回る。
(後は流れがどうなるか……見守るの、です)
 駆けつけるメンバーにLilyは触れていき、再生の為の活力を与え、強敵と対する態勢を整える。
 だが……。
 イレギュラーズに囲まれ、連撃を浴びる形となったルニアの中で、何かが切れる音が聞こえたような気がした。
「調子に乗るのもそこまでですわ……!」
 一気に怒りを露わにしたルニアはレイリーの突破を避け、後方から仕掛けてくるメンバーに狙いを定める。
 丁度、焦熱の獄炎をルニアへと浴びせようとしていたエレンシアを、ルニアは一気に濃い靄で包み込む。
 確実にエレンシアも彼女へと炎を浴びせかけたはずだと思ったが次の瞬間襲い来る靄に強烈な脱力感を覚えてしまう。
 気づけば、意識を奪われかけており、エレンシアは倒れないよう歯を食いしばる。
 火群もまた程よく体力をすり減らして復讐の一撃でルニアを殴りつける。
 手ごたえは十分と感じていた火群だったが、やはり彼もまた濃い靄に全身を覆われ、運命の力にすがってその身が倒れぬようにと堪えていた。
 これ以上はさせぬとレイリーやラムダが回り込み、倒れかけた2人をフォローするように割り込むと、ルニアも冷静になって一度身を引く。
「かくなる上は……」
 ルニアは傍で心ここにあらずといった形で立ち回るナーワルへと手を伸ばそうとすると、リドニアがその手をはたいて。
「ナーワルの吸収を止めてください。手が付けられなくなります」
 ただでさえ、魔種となった力だけで一気にイレギュラーズ2人を倒しかけたルニアだ。
 これ以上の力を与えるべきでないのは間違いない。
「悪いけど、お断りだよ!」
 ヨゾラがルニアを食い止めようとすれば、Lilyもナーワルを直接抑えてリドニアがルニアへと攻め入る道を作ろうとする。
「行って下さい! ここは私達が支えます!」
「…………」
 さすがにナーワルも煩わしいと感じたのか、雷火を巻き起こしLilyへと落とすが、彼女は必死になって耐えていた。
 さて、ルニアには彩陽がその力を削ごうと堕天の輝きを浴びせかける。
 持前の力もあり、彩陽は相手を封殺して靄の働きを阻害しようとしていたのだ。
 だが、この場はルニアに分があった。
 刹那、靄の動きは止まった。
 ただ、ルニアは魔種としての人外とも思える力で直接、彩陽を引き裂こうとしたのだ。
「私を舐めるのも大概になさいな……!」
 ただ、思うように靄を操れなくなっていたのは事実。
 その力が戻るのを、メンバーは悠長に待ちはしない。
「僕も魔術兼魔術師として……とっておきでぶん殴らせてもらうよ!」
 その正面へと躍り出たヨゾラが渾身の力でルニアの腹を殴りつける。
「がぁ……っ」
「神とやらに『選ばれなくなった』気分はどう?」
 形勢は逆転。
 相手を追い込んだヨゾラが笑顔を見せると、ルニアの視線は虚ろになる。
 ……まさか選ばれた自分が滅びるなど、あり得ない。
「そんな、神は、神は……!」
 神、冠位傲慢ルスト・シファーはもはや、ルニアにまでその権能を広げてはいない。
 イレギュラーズも、ナーワルもその姿を見てそれを確信する。
 無論、リドニアもこの隙を逃さない。
「貴方の後をずっと追っていてた私が、諦めかけたその時に道は開けたのです。貴方を追い越す運命が」
 ゆっくりと歩み寄ったリドニアは握りしめた拳で彼女を送る。
 ――R.I.P chicken(くたばれ。チキン野郎)
 高く、高く。
 ルニアの体が舞う。
 そして、イレギュラーズの視線が集まる中、彼女は地へと落ちた。
「リ……ド、ニ……ァ……」
 最後に告げたのは忌々しいとすら感じた妹の名。
 神に選ばれたと絶頂にいたはずのルニアは、その神に、世界に見放され、哀れな最期を迎えたのだった。


 残るは遂行者ナーワルただ一人。
 ここまで呆けたまま戦っていたはずのナーワルの瞳に少しずつ光が灯る。
 この戦いでも、取り巻きやルニア、イレギュラーズの負の感情や痛みを集めることができていたはず。
 実姉を倒したリドニアは、ナーワルへと問いかける。
「『蒼熾の魔導書』後継者として、アルフェーネ家の名において貴方を自由にします」
 その体を完成させて、もう一度考えてくださいとリドニアは告げる。
 ナーワルがどちらの見方であれば得なのか、と。
 ただ、ナーワルは首を振る。
「もう、遅いのですよ。何もかもが」
 アドラステイアで一度は倒れたはずのナーワルは、遂行者に拾われ、ルストへと謁見した。
 その際に、『神霊の淵』の契りを交わしたのだという。
「私の命は、神……ルスト・シファーと共にあります」
 確かに、今の戦いでナーワルという魔導書は完成に近づいたのだろうが、まだ足りない。
「ナーワル。貴方に聞きたいわ」
 本当は完成体に至った彼女に問いたかったが、レイリーはこの場でその意思を確認する。
「貴女の夢は何? 私はその夢を応援するわ」
 敵であっても夢は叶ってほしい。
 その上で止めるのが私の偶像だとレイリーは話す。
 そこで、願うなら、完成に至りたいとナーワルは本音を吐露する。
 ならば、リドニアもまたその意を組み、おそらく彼女が願う最後の軌跡……PPPを発動させようとする。
「聖痕があるであろうナーワルに対して、聖痕の消滅を願う」
 彼女は神へと願う。
 命を賭け、目の前の仇敵を巣食わんことを。
 歩く災厄であろう対の魔導書の生存を。
「でも、それは悪い事でしょうか? 彼女がこのまま消えるのは、私たちの罪なのです」
 固唾をのんで、この場のメンバー達は成り行きを見守る。
 リドニア、そしてナーワルがどうなるのか。
 ……………………………。
 ……………………………。
 ……………………………。
 何か起こるかもしれないと期待して皆がナーワルを見つめるが、待てども待てども、何も変化は起きない。
 ナーワルの体に刻まれた聖痕もそのまま。
 リドニアはその事実に、声を上げずにはいられない。
「彼女の罪を贖罪せねばならないのです。だから今くらい、答えなさいよこの野郎! 罰なら、これから幾らでも受けるのだから!」
 混沌の神は無情だ。
 リドニアの声に耳を傾けることはなかった。
 それを見届けたヨゾラが2人へと進み出て。
「リドニアさんがナーワルの聖痕解除を奇跡に願うなら」
 本当なら、彼女の奇跡が叶えばよかったのだけど。
 ヨゾラもまたPPPの発動を試み、ナーワルの聖痕除去を狙う。
「僕は『僕が叶ってほしい願いを叶える』願望器であり……仲間の願いは叶ってほしい。理由はそれだけだよ!」
 ……………………………。
 ……………………………。
 ……………………………。
 状況はやはり変わらない。
 リドニアは小さく首を振る。
 ほんの僅かでも、可能性があるのなら。
 彼女は心のどこかでそう考えていたはずだ。
 だが、その体の聖痕は色濃く刻まれたまま。
 それだけ、冠位魔種の呪いは強かったのか、それとも……。
「一つ、頼んでもいいかしら?」
 ナーワルは最後にイレギュラーズへと願う。
 その身の炎を燃え上がらせ、最後の戦いを挑ませてほしい。
 仮に魔導書が完成したところで、聖痕が消えることはもはやないだろうが、せめてその可能性に賭けたいのだと。
「敵対するなら、倒すまで、です!」
 Lilyもそうだが、それがナーワルの望みなら、叶えるまで。
 彼女の本意を叶えられぬのであれば、せめて集めているものを少しでも。
 これ以上なく炎を燃え上がらせたナーワル。
 ようやく笑みを浮かべるナーワルと対する火群だが、やはり自分のスタンスは変えられず。
「恐怖? 憎しみ? ……そんなの燃やされちゃってもうとっくに分かんなくてね」
 生憎とナーワルの希望は叶えられそうにない。
 だから、なんの感慨もなしに、決着をつけようと火群もまた体から焔を噴き出す。
「『俺と一緒に何度でも燃え死んで貰うよ』、ね?」
 渾身の力を叩き込む火群。
 一度パンドラを砕いている彼だが、恐れを知らずに飛び込み、ナーワルと炎で勝負に挑む。
 ただ、ナーワルの炎はやはり強い。
 火群がしばし耐える間に、汰磨羈が叫ぶ。
「もう少しだ。踏ん張るぞ!」
 魔種との戦いの後であり、皆疲弊が大きい。
 なんとか状況を立て直そうと、汰磨羈は号令を上げ、水行のマナを凝縮させて汞手を放ち、仲間達の気力を少しでも回復する。
「ここが正念場だ! 誰も倒れさせないよ……!」
 ヨゾラもまた星天の願歌を響かせ、個々に熾天宝冠を降らせて癒しを与えていたが、その彼へとナーワルが迫る。
「貴方達には責任を取ってもらいますよ」
 最後の最後で、収まりがつかなくなった炎。
 ナーワルは惜しみなくヨゾラへと浴びせかけてくる。
 炎の温度が高まり、閃光にまで昇華させたナーワルはヨゾラの体を強く灼く。
 さらに、リドニアに対して、今度は炎に闇を混じらせて漆黒の炎を放出し、リドニアの体を焦がす。
 ヨゾラもリドニアも、瞬く間に収集器から零れ落ちたパンドラをつかみ取り、ナーワルへと再度立ち向かう意思を見せた。
 未完成のナーワルですらこの力。
 正直、完成体の上で戦ったならどうなったのだろうとレイリーは胸の高まりを抑えられない。
 できるなら、白竜の舞台へと彼女を誘い、全力で踊りたかった。
 ナーワルと共に、このつまらない世界を創った傲慢な愚者の絶望、怨嗟を聞けたなら、どれだけよかっただろうか。
 しかし、それはもう叶わないと知ったからこそ、レイリーも異質な炎を操るナーワルを力尽くで食い止める。
 変わらず、幸潮もまたレイリーを支えて。
 『描写強調』レイリーの後光。
「そして一つ。私の教義を紐解こう」
 ――幸せとは得るものでも、失うものでもない。
 ――欲しいと望み向かう事そのものが何人たりとも侵せぬ幸福の権利。
 ――人を恨みても何も進まない。
 ――行き詰まったのなら天を仰げ。
 ――何処までも広い白藍の空が汝らを導こう。
「――苦難と悲劇の末たどり着く、大団円へ」
 死力を尽くすメンバー達を、幸潮もまた力を振り絞って支援する。
「どれ程強い相手やとしても、味方と力を合わせれば倒せない敵はないんよ」
 彩陽もまたアンジュ・デシュでナーワルを照らし、幾度も矢を……穿天明星を射放ち、相手を食い止めようとする。
 ラムダもここぞと切り札を切り、鋭い剣閃でナーワルの首を狙う。
 手応えはあったが、切り裂くには至らない。
 続くエレンシアが焦熱の獄炎でナーワルの体を包み込む。
 長引く戦いもあり、気力が尽きかけたエレンシアはなおも、滅刀でその体を大きく切り裂く。
「…………こ、れで……」
 満ち足りたようなナーワルの表情に、リドニアは手を伸ばす。
 だが、あと一歩、リドニアの手は届かず。
 ナーワルはその場で全身を自らの炎で燃え上がらせた。
 
「これで……終わった、かな」
 ナーワルが倒れたことで、彼女の作った公園もまた姿を消す。
 そこはまた黄金の草原へと姿を変えていた。
 ナーワル、子供達。もしかするとルニアも。
 幸潮はこの言葉を贈らずにはいられない。
 ──今は眠るがいい。次なる生は自由なる意思の元にあらん事を。
 次こそ、彼女達は本意を叶えることができるだろうか。
 敵としてまみえた相手であったが、イレギュラーズは銘々に思いを馳せながらも、倒すべき敵……冠位傲慢との交戦の為に先へと進むことにしたのだった。

成否

成功

MVP

リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
蒼穹の魔導書

状態異常

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)[重傷]
【星空の友達】/不完全な願望器
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)[重傷]
流星と並び立つ赤き備
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)[重傷]
蒼穹の魔導書
火野・彩陽(p3p010663)[重傷]
晶竜封殺

あとがき

 リプレイ、公開します。
 MVPは魔種ルニアを倒した貴方へ。
 ここまで長らく積み重ねた戦いの上での決戦。
 最大限配慮させていただいた上での結果であることをご了承願います。
 今回はご参加、ありがとうございました。

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