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シナリオ詳細

<悪性ゲノム>軍曹の裏切り

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●軍曹はいいやつだった
 僕は男の子だから虫とかへっちゃら、怖くなんてないさ。
 ミミズだってカエルだって平気で触れるし。カメムシは臭いから嫌いだけど、家にゴキが出たってやっつけてやる。
 だけど、アイツだけは苦手。
 だってアイツ、大きいんだもの。
 夜中にどうしても我慢できなくてトイレに起きた時、ガサガサって壁を動いてるの見て漏らすかと思った。いや、漏らしてないよ、本当だってば! でもそれくらいビックリした。
 でも、パパが『あれはいい虫なんだ。悪い虫をやっつけてくれる、いいヤツだ。それよりちゃんと寝る前にトイレに行きなさい!』なんて言うから、怖くても我慢する。いや、トイレじゃなくて、アイツをだよ。
僕は男の子なんだから、虫なんか怖がってちゃかっこ悪いもん。それにアイツ、昼間は隠れてるらしいから見ることもないっていうしね。うん、全然平気平気。
 けど僕は知ってる。こないだパパが夜中に絶叫してたの、寝てるときにアイツが顔の上を這ってたのが理由だってこと。
 あの時のパパの顔は、見たこともないくらい怒ってた。
 いや、怒ってるのとは違うかも、なんかもう今まで見たことない顔してた。まるで別人みたいな顔してた。
 きっとパパも本当はアイツが怖いんだ。だから僕は、パパの分もしっかりしないといけないって思ったんだ。

 だから昼間に滅多に見ないアイツが隠れてるのを見つけたときも、本当は怖かったけど我慢した。だっていい虫だっていうからね!
 棚の後ろから1mくらい脚がにょろっと突きでてるの見て、泣きそうになったけど……。
 こんなの全然隠れてないやって思ったけども――。

●偉くなると悪くなる
「君たち、軍曹は知ってるかい?」
 情報屋の『黒猫の』ショウ(p3n000005)が依頼書を眺めながら発した問いに、イレギュラーズが応える。
「そう、アシダカ軍曹。見た目はともかく益虫で有名な蜘蛛さ。どうやらその軍曹の巨大なやつが、人を襲っているらしい」
 うわあ、それはなるべく見たくないなと想像力豊かなイレギュラーズが顔を歪める。
 ある集落で、一晩のうちに一軒ないしは二軒の家族が全員消失する事件が発生した。家屋に残された多量の血痕から、何ものかの餌食になったとみて間違いないだろうとのことだ。
「最初に襲われた家族の少年の一人が巨大な軍曹を見た、なんて友人に漏らしていたらしくてね。その時点で対処していれば、また違った結果になったんだろうけども」
 依頼書を捲りながら、ショウは残念そうに肩をすくめる。
 消失事件は連日続いて集落の人口がみるみる減少した数日後、ようやくその地方の領主が重い腰を上げ調査に乗り出した結果、5匹の大きなアシナガ軍曹が発見されたということだった。もっとも派遣された兵員も下っ端で、すげなく軍曹に返り討ちに。全滅の憂き目にあいながら、なんとか逃げ延びた一人が持ち帰ってきた情報らしい。彼曰く『アレは軍曹なんかじゃない。もっと凶悪な……そう、大尉とか大佐レベルだった』と。
「家に数匹の軍曹がいたら、半年でその家の害虫は駆除されるというね。このサイズの軍曹が放置されたままだとしたらどうなるか。想像できるかい?」
 多分、野放しのままだと近辺の集落は軒並み襲われるだろう。或いはそれ以上の可能性も。
「さすがに領主も、危機感を抱いたんだろうね。だけども現在の幻想は砂蠍対策に優秀な兵員を割かれて、領主にこれ以上の余力はない。それでローレットに依頼がきたってわけさ。
 集落の残りの住人の避難は完了している。君たちの任務は、軍曹……いや、大佐と大尉の駆除だ。だけども急いでくれ、事態は急を要する。習性が軍曹のままならば、獲物が居なくなったと気付いたら早晩にでも他の集落に狩場をうつすだろう」
 充分に考えられる話である。
「最近活発になっている野生動物の被害急増とこの件が関係あるかは未だ不明だけどね」
 何か思うところがあるのだろうか。最後にショウは、そう付け加えた。

GMコメント

 SAN値チェック! 蜘蛛やだあああああああ!
 そんなわけで茜空秋人です。
 以下、シナリオ補足情報です。ご活用ください。

●情報精度。
 A。依頼人の情報は正確で、予想外の事はまず起こりません。

●依頼成功条件
 アシダカアーミー5匹の殲滅、全滅

●ロケーション
 20世帯ほどの集落です。住人は全員避難を完了しています。
 平屋の家屋が殆どで、特に大きな屋敷などはありません。
 リプレイ開始(昼夜)はプレイング次第です。

●アシダカアーミー
 基本夜行性で昼間は家屋の物陰などに隠れ、主に夜間に活発に活動するようです。
 軍曹はもともと人に対して臆病な性格ですが、巨大化したことにより人を怖れなくなり、なおかつ狂暴化もしているようです。
 一匹でも交戦が始まると、すぐにガサガサと残り全てが駆けつけてきます。
 機動力、EXA、回避、反応が非常に高いです。
 マーク、ブロック等は二人がかりでないと有効になりません。

・アシナガ大佐
 全長5m

・アシナガ大尉×4
 全長3m

 大佐、大尉ともに
 噛みつき(物至単)【毒】
 抑え込み(物至単)【体勢不利】
 毒吐き(物中単)【毒】

●その他
 相談期間は短めになっております。白紙にお気を付けください。

●アドリブ
 アドリブ描写が用いられる場合があります。
 プレイングやステータスシートにアドリブ度合、『アドリブNG』等記入くだされば対応いたします。

  • <悪性ゲノム>軍曹の裏切り完了
  • GM名茜空秋人
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年10月29日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ディエ=ディディエル=カルペ(p3p000162)
夢は現に
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
サングィス・スペルヴィア(p3p001291)
宿主
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊

リプレイ

●蜘蛛に襲われた集落
「夜行性の蜘蛛と夜に戦うのは流石に遠慮願いたいし、行動するなら昼ね」
「ああ、わざわざ敵が有利となる夜間に戦ってやる義理はない」
 『青き戦士』アルテミア・フィルティス(p3p001981)と『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)の二人の軽口は、イレギュラーズたちの総意でもある。
「大型蜘蛛の魔物はそう珍しくは無いけれど、アシダカグモが人を襲うほど大型化するとはね……。
 元々の性質がそのままなら、確かにここで仕留めないと不味いわね」
「俺の故郷にもアシダカグモがいたが、どこの世界でも軍曹呼びは共通らしいな――まぁどうでも良いか。平和を乱す存在は皆殺しだ。
 光が苦手な敵というのであれば俺の出番だ」
 青き戦士に光の聖剣使いが呼応する。
 今回の敵は夜行性であるという情報を頼りに、日中、目的地の集落を前にしたイレギュラーズたち。
「これといった異常なし。屋外に不審な点は見当たらないわね」
 ファミリアーで鳥を使役し、上空からの索敵を行う『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)。巨大化したアシナガ軍曹――通称、アシナガ大佐&大尉の出現した集落は住人の避難も完了しており、特に目立った気配はみつからなかった。
「それにしても最近の動物や虫の凶暴化……何が原因なんだろうね。早く突き止めたいけれど、まずは目の前の事件を片付けないとね」
 ここ最近、幻想国内で頻出する一連の事件と今回の件、果たして何か関係があるのだろうか……?
「我たちが依頼をこなせば、いずれわかるでしょう」
 同じくファミリアーで使役した鳥で眼下の監視を続けながら『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)が応える。
「しかし蜘蛛か……過去には大きな蜘蛛の魔物の群と戦ったことはあるけれども、ただの蜘蛛まで変異するなんて勘弁してほしいわね」
「サングィス、お願いするわ。対象はもう蜘蛛ぐらいしかいないかしらね?」
『血液量から大まかに逆算は必要だろうがな』
 依頼主より事前に入手しておいた集落の地図に軽く目を通すと、『宿主』サングィス・スペルヴィア(p3p001291)は血液の反応――生命活動を探ることに意識を傾ける。
 呪具『サングィス』のギフト、傲慢の血潮は半径50m以内の血液を感知する。探索範囲が集落外周部から中程まで移ったところで、一軒の古い民家が探知網にひっかかった。
「あの家に、二匹いるわね」
『大きさからして、どちらもアシナガ大尉だな』
「ふむ、二匹か。一匹だけなら文句なしだったのだがな」
「先手必勝、大佐以外なら問題ない。まずは大尉から順次数を減らしていけばいい」
 どうすると伺うスペルヴィアに、そう簡単にはいかないものだなと『夢は現に』ディエ=ディディエル=カルペ(p3p000162)、超弩級の大型重火器を構えた『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の二人が返す。
「剣豪なのに、凄く凶悪そうな重火器だよね?」
「邪剣使い、だ。邪道と、いうならば。刃ではなく、弾丸でも、構うまい」
 ディエの試作型レーザーガン『Z.A.P』に負けず劣らずの破壊力を誇るエクスマリアの『フル・ファイア・フリークス・フュァリアス・フィーバー』。凶悪な武器を携えた火力の要の二人は、軽口を交わしつつも周囲への警戒を緩めない。
 巨大化したアシダカ軍曹の察知能力は不明で、いつ逆に此方が襲撃されるか判らない。ならばここで躊躇して、先手を奪われる愚は避けたかった。
「ここに居るのは間違いないみたいね。蜘蛛は天上裏と奥の部屋に隠れているようだわ。気を付けて」
 無機疎通で簡単な家屋内部の様子を伺ったレジーナが、玄関前に土嚢の遮蔽物を作り身を潜める。
「巨大化していても体の構造は変わらないはず。神経系の複雑な胴体より、まずは脚を落とし動きを鈍らせ削っていけばいいかもしれないな」
 戦闘を予感して、イレギュラーズ全員に聞こえるようにエクスマリアが所感を述べる。
「益虫とは知っているのだけど、見た目は少し苦手なのよね。
 小さくてカサカサ……今回は小さくないから、少しはマシだったりするのかしら?」
 実は美味いと囁かれることもある蜘蛛だが、極限下の美食家にも苦手なモノはあるらしい。囮役の『カースドデストラクション』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)が慎重に屋内に足を踏み入れ、同じく囮役のアレクシアが続く。
 ひっそりと静まりかえり物音ひとつ聞こえない家の中、二人は気配を殺しながら歩を進めた。

「う、うわあ……むしろ大きい方が嫌悪感は強くなる。また一つ学んだわ。
 ……あまり学びたくはなかったけども」
 元々広い家屋ではない。探索を開始するやすぐに蜘蛛は見つかった。
「おっきな蜘蛛……覚悟はしてたけど、脚だけでも見た目が怖いね」
 蜘蛛は寝室と思われる一室のベッドの下に隠れていた――隠れたつもりでいた。ベッドの端から不躾に伸びる4本の脚がなければ、上手く隠れていると云えただろう。
 蜘蛛まるでは巨大化した自身のサイズを把握していないのか、身の程知らずに隠れていたのだ。つまり、ある程度予想はしていたが、全然隠れていなかった。
「所詮、虫ね。あまり賢くはないみたいね」
「この間取りだと、ちょっとマギシュートは使えなさそうだけど仕方ないか」
 アンナとアレクシアが動かぬ獲物に狙いを定め、先制の一撃を放つ。ベッドを巻き込みつつ、イレギュラーズの攻撃が口火を切った。

●攻撃を放つや否や踵を返し、脱兎の如く家屋から脱出する二人
「来るわよ!」
 玄関口から転がるように飛び出たアンナの合図とともに一匹、それに続くように二匹目の大尉が陽光の下に姿を現す。
 二人の襲撃に怒り心頭、見事に囮に釣られ出た先頭の大尉の不意を突く形で、土嚢の裏や屋根の上に隠れていたイレギュラーズたちの怒涛の猛攻が集中する。
「袋叩きだ! まずはさっさと倒すぞ!」
 聖剣リーゼロットを構えたハロルドの気合いのこもった一閃。銀色の閃光と化した斬撃が大尉を襲う。
「こんなに大きくなるとあれね。おぞましいと言うかなんと言うか」
 大罪女王の遣い――レジーナの権能、あえて彼女は悍ましい大尉の外見を真似た使い魔を召喚する。
「共食いするがよいわ」
 ガサガサガサ。大尉の形をした使い魔が、咢を広げオリジナルの大尉に襲いかかる。
「これって所謂、生命の冒涜ってやつじゃないの?」
『魔術的な偶然の可能性も0ではないはずだ』
 自然界にあり得ないサイズの軍曹――大尉を目の当たりにし、ついつい吐露したスペルヴィアだが、彼女の攻撃はギリギリの処で避けられてしまう。
 だが、これは想定内、あくまで手数稼ぎに過ぎない。複数人による連続攻撃が作戦の肝だ。
「アルテミア! お願いしますわ!」
「任せてください!」
 スペルヴィアの攻撃を素早く避けた大尉だが、回避先に待ち構えたいたのはアルテミアの蒼い剣。バトンを受け取ったかのように、戦乙女の饗宴が幕を開ける。逃げ場を失った大尉を狙いすましたように全力で切り刻むと、アルテミアは囮役から始まった一連の連携のトリを飾る。
 油断をついた作戦にも恵まれ――まずは一匹。しかし数が増えてからが本番だ。
「すぐに他の蜘蛛も寄ってくるでしょう。その前に移動しましょう!」
 残った一匹を牽制しつつ、地の利を得るべくイレギュラーズはアルテミアが予め目星をつけておいた広場に移りはじめる。

●戦場は広場に
 ――ガサッ。ガサガサ。ガサガサガサッ。
「おいでなすったわ」
 ファミリアーの監視で蜘蛛の援軍に気付いたレジーナが、警告を促す。
 現れたのは二匹の大尉、さらに一回り大きい躯の大佐。
「さらに嫌悪感酷いのがきたわね。
 はぁ……現実逃避はここまでにしておきましょう」
 嫌悪はサイズに比例する。大佐を目視し改めてそう認識をしたアンナが、その進路を阻むように向かう。
 攻勢に手数をかけたいが為、大佐の足止めは多くて一人まで。それ以上の人数を割くのはあまり望ましくない。
 醜悪さを纏った5mのアシナガ蜘蛛に顔を背けたくなりつつも、アンナは小柄な身体一人でその行く手を阻むのに成功した。

 大尉がイレギュラーズの攻撃を避ける。躱す。防ぐ。回避する。反応速度と素早さが異常なのだ。
 それ故、イレギュラーズの基本戦術は一点突破に絞られていた。攻勢の手を緩めることなく単体の回避力を削っていくしかない。序盤の数手を犠牲にしてでも手数を稼ぎ、回避に疲れたところでようやく有効打が期待できるからだ。
 それは、蜘蛛が増えても変わらない。
「これだけ大きなアシダカグモに囲まれると、流石に威圧感が凄いわね」
 新たに増援を迎え都合24本の脚を持つ蜘蛛群に、攻撃の手を休めることなくアルテミアが洩らす。
「はははっ! 良いじゃねぇか! それでこそ倒し甲斐があるってもんだぜ!」
 ハロルドが容赦なく聖剣をブン廻す。聖剣の加護を纏い蜘蛛からの攻撃にも反撃を与える彼は臆すことなく率先して蜘蛛の矢面に立ち、光る斬撃を飛ばす。使い勝手の良い閃光は、余力を残す必要を深く気にすることなく放てる。それがハロルドの戦闘狂たる戦い方に一役かっていた。
「ふむ、蜘蛛風情が少しばかり大きくなったからと図に乗っているようだが、大佐や大尉なぞ笑わせてくれる。せめて、大将くらいには出世してから我(ボク)らに挑むべきであったな。
 ククク、我が(ボクの)黒死の力にて屠ってやろう!」
 ディエの邪気眼が疼き、中二力と暗黒魔王力が限界まで高まる。
 手番を遅らせ機会を待ち続けていた火力の要が、満を持して放たれる。
「我が(ボクの)力、その眼に焼き付けるが良い!」
 剣魔双撃――初見殺し、一度しか通用しないディエの奥の手。オーバーキルな破壊力が大尉を押し包む。
 これで二匹目――。
「ククク、二階級特進しても所詮中佐。我が(ボクの)敵ではなかったな」

「(これだけ多いのですから、脚の一本や二本)多少減っても構わないわよね。うまくいけば蜘蛛の動きも制限できるかもしれません!」
 クリティカル! アルテミアの攻撃が連続で決まった! 銀の長髪をたなびかせまるで踊るように繰り出される剣先が、ぞわぞわと悍ましい蜘蛛の脚を切り裂いていく。
 それを受け、大尉は身を震わせると四方に多脚を振り回し暴れ狂う。
 その巨躯に巻き込まれ、エクスマリアが潰されそうになる。
「危ないっ!」
 魔術障壁を展開したアレクシアが間に飛び込み、身を呈してエクスマリアを庇と重い蜘蛛の一撃を、難攻不落の城壁の如く、ものともせずに受けとめた。
 一見すると小柄な魔法使いだが、その外見に騙されてはいけない。かっては冒険者に憧れる病弱な少女だったアレクシアだが、今では未だ病弱ながらも仲間を護れる一人前の冒険者だ。
「……マリアさん、大丈夫ですか?」
「すまない、感謝する。さて、やってくれたな。蜘蛛だというのに悪いが……蜂の巣となって貰おう、か」
 アレクシアが城壁なら、エクスマリアは砲門だ。クールに吐かれた台詞の陰に、純白のテンガロンハットから伸びたマリアの金髪が炎の様に揺れ、静かに怒りを顕わにする。
 フェアウェルレター、『F.F.F.F.F.』が奏でる耳を劈く発射音。ゼロ距離からの弾着が、大尉に別れの言葉を刻みつけた。
「さよならだ……」

●小さい身体で聳え立つ巨壁
 幼女といっても差し障りない、10歳の頃より成長していない身体。対するは全長5mに及ぶアシナガグモ――大佐だ。
 しかしアンナの小柄な身体は一歩も引くことなく、大佐の動きを頭から抑え込んでいた。
 ハイ・ウォールーー聳え立つ巨壁。
 大佐の神速な挙動に追いすがり、徹頭徹尾、アンナは大佐が後ろに抜けるのを赦さない。蜘蛛の巣にかかった獲物の如く逃げられない大佐、そしてアンナは蜘蛛の巣の主。まるで立場が逆転していた。
 苛立つように暴れる大佐。前脚でアンナを縛し、そのまま巨躯で伸し掛かる。
「負けないで!」
 アレクシアの花を象ったブレスレットが聖なる光を発し、膝をつき体勢を崩しながら大佐に抗するアンナを優しく包み込む。
「頑張りなさい」
『案ずるな、我がついている』
 対価を支払ったスペルヴィアの契約に従い変容した呪具『サングィス』が、アンナの血液に干渉し、内から彼女の負傷を大きく癒す。
「華麗でもなければ優雅でもない。醜悪なのに、力押しだなんて……」
 二人の支援を受けたアンナは立ち上がり水晶の細剣を強く握りしめる。
 憧憬の水晶剣――アスピラムを片手に踊るように大佐に反撃する。剣から零れる水晶の光が華麗に煌めき、光の数だけ大佐が切り刻まれた。
「ダンスの相手としては不足だらけね……!」

「待たせたな!」
 喊声をあげたハロルドが、大佐の眼前に躍り出た。四匹目――最後の大尉を打ち倒し、イレギュラーズがアンナに合流したのだ。
「もう、遅いわよ!」
「悪い、もう安心していいぞ!」
 持ち堪えきったと安堵するアンナに軽口で応えると、ハロルドは序盤から終始一貫振りぬいてきた聖剣を迷うことなく大佐の脚めがけて振り下ろす。
「蜘蛛の脚とか、ほんと触れるのも嫌なんだけど」
『そこは諦めてくれ、契約者殿』
 スペルヴィアも前衛に出ると脚に触れ魔力を送り込み、内部からの破壊を試みる。
 少しでも大佐の動きを鈍らさんと、レジーナから回復を受けつつ蜘蛛の脚へと猛攻を続けるイレギュラーズたち。
 ディエの撃つレーザーが。
 アルテミアの振るう蒼剣が。
 アレクシアの発する聖なる光が。
 一本、また一本と脚を傷つけ蜘蛛の自由を奪っていく。
 蝋燭が滅する直前の最後の輝きではないが、血と体液にまみれた大佐が意地汚く悪足掻く。
「往生際が悪い……」
 エクスマリアの重火器が唸り声をあげると、暴れる巨躯の命の灯を文字通りに掻き消した。

●戦い終えて
「突然変異の原因を探っておくか」とアシナガグモの死体を調べるハロルドだったが、結果は芳しくなかった。戦いによる損壊は激しく、元の状態を探るのは困難だったのだ。
 最初に巨大軍曹が出現したとされる家の調査も空振りで、ハロルドは苦い顔をして戻ってくるはめになる。
 曲がりなりにも探偵事務所を営むハロルドを以ってしても、特に怪しい痕跡は見つからなかった。ただ犠牲者の子供を含む一家――往時の生活臭が色濃く残る痕跡を前に、ハロルドの心情は推して知るべくもない。
 アルテミアは大佐の体液をサンプルとして採取し、ローレットに提出した。
 後日、自然ではありえない、人為的な操作の跡がみられると判明することになる。
「まあ……今回の事件も、きっと厄介事の前兆よね。
 今後も無事に乗り切れると良いのだけど 」
 アンナが事件を締め括る。
 ――まだこれで終わるはずがない。
 イレギュラーズの心は一つ、皆が今後を思い憂うのだった。

 Congratulations!
 イレギュラーズの活躍により依頼は達成された!

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
悪性ゲノムはまだまだ終わりません。
またご縁がありますように。

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