シナリオ詳細
<悠久残夢>報復のサリエリ。或いは、医療棟制圧作戦…。
オープニング
●サハイェル城
サハイェル城。
ゼロ・グレイグヤードを抜けた先にある“魔王”の住まう城である。
「なに? 連中が“ここ”に攻め込んできた……?」
サハイェル城、医務室。
その片隅で爪を噛むのは、青い髪の女性である。
名をサリエリという彼女は、過去に2度、イレギュラーズと交戦し、目的の達成を妨害されている。特に2度目の戦いでは腕を折られていることもあり、イレギュラーズへ向ける怒りは強かった。
「0点……否、見方によっては100点か? わざわざ私たちの本拠地に攻め込んでくるなんて、飛んで火に入るなんとやらじゃないかしら」
そう言ってサリエリは、折れた腕で槍を掴んだ。
治療は既に終えている。ずきずきとした痛みはあるし、十全に動かすことも叶わないけれど、槍は持てるし振るえもする。
ゼロ・グレイグヤードから持ち帰ったゼロ・クールの残骸を使ったギプスは頑丈。そして軽い。
「どちらへ?」
医務室に詰めていた1人……白衣の女性が問いかける。
サリエリは額に巻かれた包帯を引き千切ると、血に飢えた獣のような笑みを浮かべた。
「もちろん狩りに行くのよ。医務室の守りも必要なんでしょう? だったらその役、私が担うわ」
「……でしたら、私も同行します。治療はお任せくだされば、と」
ひっそりと声を潜めて、サリエリと白衣の女の2人は医務室を後にした。
●医療拠点制圧作戦
「医務室……怪我人ばかりのところを襲撃するのは少し気が引けるんっすけど、医療拠点が残ったままだと困るんっすよね」
そう言ってイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は、白紙の上にさらさらとペンを走らせた。
ひどく簡素だが、現時点で判明しているサハイェル城の見取り図のようだ。
その一角……城から少し離れた場所にある、簡素な造りの建物をイフタフは指で何度か叩いた。
「怪我人にはゆっくりと休んでいてもらいたいものですが」
グリーフ・ロス(p3p008615)はほんの僅かに、眉間を顰めてそう呟いた。
サハイェル城はこれから戦場になるのだ。
どちらにせよ、医務室だからと決して“安全”なんてことは無いのだが。
「先に襲撃をかけて抑える方が、被害も軽くできるでしょうか」
「どうっすかね。番人ってわけじゃないっすけど、以前にも交戦したサリエリが医務室の警備に就いたみたいなんで……まぁ、一筋縄じゃいかないかもっす」
サリエリ。
魔王たちの配下の1人で、【滂沱】【致命】【必殺】を付与する槍を携えた女戦士だ。
加えて、今回はもう1人。
サリエリの治療を担当する白衣の女も戦場に同行しているらしい。
「医務室……医療棟と呼ぶべきでしょうか。見たところ、開けた空間のようですね」
「っすねぇ。戦闘するのに支障は無いでしょうけど。目的は戦闘じゃなくって、医療棟の制圧って言うね」
「怪我人ばかりとはいえ魔王たちの配下……抵抗は予想されますか。出来ればそちらにも人手を割きたいところですね」
「サリエリが邪魔っすね。やっぱり」
グリーフは以前にもサリエリと相対したことがある。
イレギュラーズが数人いれば十分に拮抗できる相手だ。だが、どうにも状況の判断が早い相手であったことを記憶している。
「機転が利くと言いますか、目的の優先度をしっかり見極められる方といいますか」
とにかく人を集めましょう。
そう言ってグリーフは、その場を立ち去っていく。
- <悠久残夢>報復のサリエリ。或いは、医療棟制圧作戦…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年12月04日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●医療棟制圧作戦
サハイェル城より、ほんの少しだけ離れた場所が此度の舞台だ。
「医療棟制圧か。異界かつ敵陣とは言え、治療施設と負傷者への攻撃は少々気が引けるんだがな……」
『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)を先頭に、『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)と『忍者人形』芍灼(p3p011289)、『いつか殴る』Lily Aileen Lane(p3p002187)が駆ける。
「あちらも、傷ついた者を癒そうと仲間を慈しむ概念を持たれているのですね。あるいは、再利用程度のものかもしれませんが」
「……確かに、城を攻める以上その様な施設があるなら積極的に制圧せねばならぬのは同意でござる」
医療棟というぐらいだ。
当然、その場所には大勢の怪我人がいるのだろう。怪我人を治療するための非戦闘員が控えているのだろう。
「というわけで、それがし頑張って働くでござる!」
各所で響く喧噪を無視し、芍灼が走る速度をあげた。
「運が無かったと諦めてもらう他ないか、此方とて消耗は御免だからな」
「えぇ。プーレルジールの滅びを遠ざけ、ラトラナジュと過ごした、彼女が守った混沌を守るためですから」
医療棟までは1本道だ。
だが、マカライトたち3人の目的は“医療棟”へ辿り着くことではない。
「やや! 人影が!」
「あぁ、いたか。さて……“知り合い”と一戦しないとな」
そう告げて、マカライトが刀を抜く。
まっすぐに見やる視線の先には、2つの人影があった。
1人は槍を手にした青い髪の女性。もう1人は、白衣を纏った細身の女性。
医療棟を守るべく、戦場に出たサリエリと、医療棟の女医の1人だ。
「……見た顔ね」
ひゅん、と槍を振り抜いてサリエリはそう呟いた。
「前は槍をお腹に突かれた……今度は負けないのです……」
まっすぐに向けられる純粋な敵意と怒りの視線を受け止めて、Lilyが胸の前で拳を強く握る。
「だから、私の今出来る全力で貴方を倒します!」
それから、Lilyはパイルバンカーを身体の横に構えるとサリエリたちの方へ向かって、1歩、足を踏み出した。
マカライトたちが、サリエリと会敵している頃。
少しだけ後方では、別動隊が動き始めた。
「制圧先が医療棟……つまり俺達の行く先には白衣の天使が待ち受けてる可能性が高い。おっと、わかるぜ。男な可能性があるとかそもそも人型かも怪しいとか言いたいんだろ?」
『狂言回し』回言 世界(p3p007315)の軽口に、答える者は誰もいない。
「いいんだ、観測するまで夢は無限大なんだから。まあ俺は別にナースは好きでも嫌いでもないんだが」
世界の視線が、右に左に彷徨った。
視線の先では、俯いたまま暗い表情を浮かべる『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)がいた。
「いつもなら、建物はまもるもので、誰かのケガをなおす場所は大事にするもの……でも、だからこそ。敵の医療棟は、壊さないといけない、ですよね」
「……怪我人を気遣う心優しさで終焉と滅びを止められるなら、どれだけ良かったか。滅ぶわけにはいかないのだから戦ってでも打ち勝つしかない」
ニルが表情を暗くしている理由は誰にもよく分かる。
口では厳しいことを言う『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)だが、怪我人や死者が出ないに越したことは無いと思っている。
それと同じぐらい、医療棟の制圧が重要な任務であることも、イズマは……世界やニルも、理解していた。
「なんだか、コアのあたりがぎゅうっとしますけど……戦わないと、かなしいことは、減らせないから」
ニルはそう言ったけれど。
噛み締めた唇に血が滲む。
「皆、振り落とされるなよ!」
『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)が大きな台車を引いている。
血の痕が残った無骨な台車だ。きっと、怪我人や死人の運搬に使われていたものだろう。
だが、今現在、台車に乗っているのは生者たちである。
イズマや世界、ニルを台車に乗せたまま牡丹が城の庭を駆けているのである。
「70点っ!! いい線いってるわ!」
当然、台車を曳いて猛スピードで駆ける牡丹は良く目立つ。戦闘中だったサリエリは、器用にマカライトの鎖を回避し、牡丹の前へと回り込む。
槍が振るわれた。
低い位置を、鋭い穂先で薙ぎ払う。
台車の機動力の全ては牡丹に依存している。つまり、牡丹の脚を傷つけてしまえば、台車はもう走らない。
サリエリの判断は正しかった。
「攻撃が届いたとしてもオレは硬い、オレは無敵だ!」
だが、牡丹の覚悟がサリエリの予想をほんの少しだけ上回った。
膝から脛までを深く抉られながらも、牡丹は走るのを止めなかったのだ。足を血で真っ赤に濡らしたまま、医療棟へ向かって走り続けたのだ。
「っ……足は止めねえ!」
彼女は、一瞬だってサリエリの方を見なかった。
後ろを振り返ることも無かった。
背後で地面の砕ける轟音が鳴り響く。地震でも起きたみたいに、足元の大地が大きく揺れた。Lilyのパイルバンカーが、地面を叩いた音である。
サリエリが回避際に放った槍が、Lilyの頬を深く抉った。
その光景を、牡丹が目にすることは無かった。
●傷を負わねば戦えない
鉄条網。
有刺鉄線をコイル状に巻いて張り巡らせた簡易防衛線の名称である。
医療棟の周囲、下草に紛れ込ませるように張られていたのがそれだった。有刺鉄線とはいえ、大した長さも鋭さも無い。足に巻き付いたところで、大して深い傷も負わない。
だが、それが足に絡まれば、当然走る速度は落ちる。
牡丹の脚に棘が刺さって、傷つける。鉄線が刺さったまま駆ければ、肉は裂けるし、血は溢れる。
「おいおい、止まれ! 血ぃ出てるぞ!」
荷台の上で世界が叫んだ。
だが、牡丹は止まらない。まっすぐに遥か先の医療棟を見据え、怪我など意にも介さず走り続けているのだ。
「時間をかけちゃバリケードが敷かれる。既に動ける連中が、抵抗の準備を始めてる!」
加えて、サリエリたちにもこちらの作戦は露見しただろう。
つまり、時間をかければかけるほどに状況は不利になるということだ。
「バリケードだけか? 他に障害物は?」
「……窓も封鎖されているのです」
世界の問いに答えを返したのはニルだった。
飛ばした小鳥の目を通し、医療棟の様子を観察しているのだろう。
怪我人ばかりという割には……否、怪我人ばかりだからこそ、医療棟にいる者たちは自身の命を守るために、急いで拠点の防衛を固めたのであろう。
「っ……仕方ないか」
時間をかけている余裕は無い。
牡丹の脚に負担をかけてでも、医療棟に急ぐべきだ。
「おおらああ、カチコミだああ!」
鉄条網に脚を引き裂かれながら、牡丹は空へ咆哮をあげた。
医療棟正面。
世界とニルの目の前には、10人ほどの男たちが並んでいる。身体中に包帯を巻いた者もいれば、松葉杖を突いている者もいる。
半死半生といった無残な有様だ。
いつ死んでもおかしくないような重傷者もいる。
「おい、怪我人は引っ込んでろよ」
「抵抗するつもりのないひとへは攻撃はしません」
世界とニルはそう言うが、当然、誰も聞き入れない。
いつ死んでもおかしくないから、彼らはここで死ぬことに決めているのだろう。少しでも仲間の生存確率を上げるために、捨て石になることを選んだ者たちなのだ。
「脅威になりそうな奴は遠慮なくサックリいくが」
見たところ、満足に動けそうな者は1人もいない。
だが、楽に倒せそうな者も1人もいない。
精神が肉体を凌駕した決死隊……骨の折れる手合いである。
扉の外で轟音がした。
世界が魔力の砲を撃ったのだろう。
天井から埃が零れて、ベッドの上の怪我人たちが不安そうな顔をする。中には武器を手に取り、外へ出ていこうとする者もいた。
「君、その物資の山は」
慌ただしくフロアを移動するスタッフの1人をイズマが呼び止める。スタッフが押す台車には、薬品や包帯が山と積まれていた。
「あぁ、先生。痛み止めです。これを打てば戦えるからと、怪我人の皆さんがおっしゃるので」
「……そうか。では、俺が預かろう。君は重傷者たちを奥の部屋へ避難させてくれ」
スタッフの手から台車を受け取ったイズマは、山と積まれた薬品のパッケージに視線を走らせた。
所謂、劇薬の類だ。
一時的に痛みや恐怖を麻痺させる代わりに、身体に大きな負担をかける代物だ。場合によっては、投薬したが最後、命を落とす危険もある。
それだけ、敵も必死ということだ。
台車を押して、イズマは人気のない方向へと歩いて行った。
誰も見ていない場所で、薬を処分するためだ。
「薬も設備も全て壊せる。医務室は無力化できる。それでも……まだやるか、サリエリ」
これ以上、不要な死者を増やすつもりか。
その場にいないサリエリへ、イズマは語り掛けるのだった。
マカライトの刀が虚空を薙いだ。
サリエリは左手だけで槍を振るうと、刀の軌道を強引に逸らした。
「お互いそろそろうんざりしそうだな? サリエリ‼︎」
じゃらり、と鎖の鳴る音がする。
刹那、サリエリは後方へ跳んだ。サリエリを追う黒い鎖を旋回させた槍で弾き退けながら、あっという間に数メートルほど後方へ。
激しく動き回っているが、サリエリは必ず医療棟を背にしているし、イレギュラーズ4人を視界の中に納められる位置に立っている。
「貴女風に言うなら、100点……と言ったところでしょうか」
右腕を怪我しているというのに、よく戦うものである。
グリーフはじりじりとサリエリの方へ距離を詰めた。医療棟を守るためには、これ以上、後退出来ないはずだ。
サリエリ自身もそれを自覚しているのか、身体の後ろに槍の先端を隠すような構えを取って、グリーフの足元へ視線を落とした。
足の運びを見れば敵の動きが分かる。
「侮れません。とはいえ、それに臆し、譲るつもりはありません」
その判断力を、観察力をグリーフは利用した。サリエリ自身も気づかぬうちに、彼女の視線はグリーフに固定されている。
だから、Lilyの接近を察知するのが遅れた。
パイルバンカーが、サリエリの右肩を抉る。
浮遊し、足音を消した状態で急接近を果たしたLilyによる不意打ちは、確かにサリエリに手痛い傷を負わせたのである。
「ぐ……また右っ……!」
右腕を狙われるのはこれで何度目だろうか。
その度に、同行した白衣の女がサリエリに治癒の術をかけていたのだが、今はそれも期待できない。
「卑怯かも知れない……それでも勝つのです」
少しだけ申し訳なさそうな顔をしてLilyが言った。
敵を相手に何を言っているのかと、サリエリは思わず笑ってしまった。
「80点ね。ウィークポイントを狙うのは、戦いの常套手段ですもの」
抉れた右腕を無理に捻った。肉と血管の千切れる音がして、サリエリの肩から血が噴き出す。噴出した血がLilyの顔に降りかかり、白い髪と肌を朱に濡らす。
「うっ……!?」
「あと20点足りない分の代償がこれよ」
鮮血に目が眩んだ瞬間、Lilyの腹部に激痛が走った。
サリエリの蹴りが腹に叩き込まれたのである。
Lilyの身体が宙に浮き、旋回する槍で指先から肩、胸部にかけてを斬り刻まれた。仰向けに倒れるLilyの顔面を踏み台にしてサリエリは跳躍。
つい一瞬前までサリエリの立っていた位置を、黒鎖の獣が通過する。
「60点」
獣が地面を深く抉った。
飛び散る土砂を浴びながら、サリエリは視線をマカライトへ向ける。
「合格点だな。悪いが追試はなしだ」
白衣が血に濡れていた。
戦場に立っているとはいえ、彼女は元々、医療棟のスタッフだ。さっきまでだって、戦闘により消耗したサリエリの治療に従事しており、自ら戦う様子は一切、見せなかった。
だが、戦えないからといって、容易に討てるわけではないのだ。
「……またでござるか」
手の中で剣をくるりと回して、刃を濡らす血を払う。そうしながら芍灼は白衣の女性を観察していた。
何度も斬ったし、その身を毒で侵しもした。
傷はすぐに治されて、毒はすぐに除去された。今ではこうして、ダメージを与え続けながら、足止めするので精いっぱいだ。
止めて居なければ、サリエリの治療をされる。
「倒すべきは終焉の獣やそれに与する者のみ」
白衣の女性はまっとうに“人”だ。
だが、優秀なヒーラーである。
「罪無き者を敵ごと殺す気は無いでござるよ!」
再び芍灼が斬りかかる。白衣の女性は恐怖に顔を青ざめさせて、けれど芍灼の剣をまっすぐにその身で受けた。
きっとそれも、すぐに治療されるのだろう。
殺さないでいようなんて考えでは、いつまで経っても彼女を倒せはしないのだろう。
「致し方なし……それがし頑張って働くでござる」
彼女が限界を迎えるまでの10数分、芍灼はそれを繰り返すことになる。
“倒れないことによる戦い”があることを、この日、芍灼はきっと誰より理解したはずだ。
●現実的で効率的な戦いの結末
斬っても、刺しても、倒れぬ者が世にはいるのだ。
腹部を貫く槍の柄を、グリーフは両の手で掴む。
「もう、終わりにしましょう」
グリーフが告げた。
瞬間、サリエリの足元が揺らぐ。
視界が揺れて、猛烈な吐気に見舞われる。爪先から少しずつ、身体が泥になって溶けていくかのような耐え難い悪寒が、サリエリの背筋を粟立たせた。
もはや逃げることはできない。満足に動くことも出来ない。
「……0点」
だからサリエリは、奥歯に仕込んだ薬を噛んだ。
一時的に痛みや恐怖を麻痺させる劇薬。
医療棟でイズマが人知れず処分したのと同じ薬だ。サリエリはそれを服用することで、強引にグリーフの拘束を解いた。
槍を振るう。
サリエリの腕の筋肉が千切れた。グリーフの腹部に亀裂が走った。
「っ……!」
異変に気付いたマカライトと芍灼が駆ける。だが、サリエリの槍の方が速い。満足に動かない右腕でマカライトの顔面を打つと、その脇腹を槍で抉った。
命を燃やし尽くすかのような猛攻。
それを止めたのは、Lilyであった。
「死せる星のエイドスよ応えて……、サリエリを……ううん、医療棟さえも壊せられる火力を!」
モーターが唸る。
Lilyの構えたパイルバンカーが赤熱する。
「1発だけで良い……全ての力を込めて、執行兵器・薊……稼働限界を超えて貫け!」
サリエリはそれに気が付いた。
マカライトを蹴り捨て、Lilyに向かって刺突を放つ。
地面を踏み砕くほどの強い踏み込み。だが、刹那にサリエリの体勢が崩れた。
サリエリの足元に、グリーフが腕を差し込んだのだ。
僅かに軌道を逸らした槍が、Lilyの右腕を貫いた。
それと同時に、Lilyのパイルバンカーがサリエリの腹部に風穴を開ける。
怪我人は多い。
だが、幸いなことに死者はいない。死の縁に立つ彼らを、世界が治療したからだ。
「中の連中は非難を始めたみたいだな」
バリケードに封鎖された正面入り口を見据え、世界は告げる。
「1人助けた所でと思わなくも無いが、徳を積んでおけばいい事あるかもしれないしな。帰り道で100GOLDくらい拾えたりするかもしれん」
「……はい」
ニルは首肯し、短杖を掲げた。
杖を中心に、膨大な量の魔力が渦巻く。
景色が歪むようだった。荒れ狂う魔力は暴風と化し、塵や落ち葉を舞い上げる。
「物は、しっかり破壊します……ここを取り戻しても無駄だと見切りをつけられるくらいに」
そして、ニルは魔力の渦を解き放つ。
それはまるで、濃緑色のヴェールのように医療棟を飲み込んだ。壁が砕け、窓ガラスが割れ、重力に逆らうように瓦礫が浮き上がる。
イズマが仕掛けた妖精爆弾に誘爆し、そこかしこで悲鳴があがった。
どこか遠くで、女性の悲鳴が木霊する。
建物も、ベッドも、薬品も、医療器具も、何かもが破損しただろう。人を救うための設備を、ニルたちはその手で瓦礫に変えていく。
そうしなければ、仲間が死ぬから。
死人がさらに増えるから。
分かっていても、辛いのだ。敵対しているからと言って、敵対勢力の全てが悪人なわけではないのだ。
戦争とは、そういうものだ。
物陰からニルを見つめる影がある。
手にはボウガン。
震える手で照準を付け、人影はトリガーに指をかけた。
けれど、しかし……。
「オレはニルみてえに甘くはねえんだよ」
その眉間を、燃える1枚の羽根が撃ち抜く。
人影は……片目の潰れた1人の男は悲鳴もあげずに息絶えた。
男の息の根を止めたのは牡丹だ。
その脚からはだくだくと血が流れ続けている。
「良かったのか?」
そんな牡丹の背後から、イズマが姿を現した。
イズマの手は、腰の細剣にかかっている。きっと、牡丹と同じことを考え、実行するつもりだったのだろう。
「辛い役目を任せちまったからな……だから、ま、あいつん優しさを無碍にするやつはこっちでトドメを刺してやるさ」
瓦礫と化した医療棟の前にニルが立ち尽くしている。
そんなニルの肩にイズマの手がかけられる。
「患者は生きてるのも多いよ。今から治療に当たれば救える命もあるだろうけど……どうする?」
まだ出来ることはあるのだと。
イズマはそう言っているのだ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
サリエリおよび少数の犠牲者は出ましたが、医療棟は無事に制圧されました。
依頼は成功となります。
この度はご参加ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
こちらのシナリオは「<伝承の旅路>墓所破り。或いは、ゼロ・クールの葬送…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/10300
●ミッション
サハイェル城医療棟の制圧
●エネミー
・サリエリ
青白い肌の、どこかぼうっとした女性。魔王たちの配下の1人。
マイペースな性格をしており、他人の言動やシチュエーションに点数を付ける癖がある。
【滂沱】【致命】【必殺】を付与する槍を武器として携えており、現在は医療棟の警備任務に当たっている。
右腕を骨折しているようだ。
・白衣の女性
サリエリに同行している魔王たちの配下の1人。
白衣を纏った物静かな女性。
医療棟のスタッフらしく、体力の回復や状態異常の治療に関する魔術を行使する。
●フィールド
『サハイェル城』医療棟。
城から少し離れた敷地内に存在する医療棟。
医療棟の周辺は空き地になっており、視界を遮るものなどは存在しない。おそらく、有事には野外病院として利用するために設けられた空間だろう。
イレギュラーズの進行ルートにサリエリと白衣の女が待ちかまえている。
医療棟の広さは、ちょっとした体育館ぐらい。
中にどれだけの怪我人が収容されているかは不明。また、怪我人とはいえ敵対勢力の者であるため多少の抵抗が予想される。
何らかの手段を用いて、医療棟を制圧することが今回の依頼の目的となる。
●サハイェル城攻略度
フィールドが『サハイェル城』のシナリオにおいては城内の攻略度が全体成功度に寄与します。
シナリオが『成功』時にこの攻略度が上昇し、全体勝利となり、プーレルジールにおける『滅びのアーク』が減少します。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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