シナリオ詳細
<尺には尺を>Outpost
オープニング
●ディフェンスライン
イレギュラーズは現在、理想郷と呼ばれるエリアの攻略に取り掛かっている。選ばれし人が幸せに暮らしているその一帯は、神の国が掲げる理想を体現しているかのようであるが、これらが偽物、作り物である事は間違いない。選ばれし人は異言を喋り、ゼノグロシアンに近い性質を持っているが、誰かに操られている様子でもないようだ。
正気に戻そうと加減された一撃、敵と断定して力を込めた一撃の、そのどちらもが思うような戦果をあげる事ができなかった。つまり、倒しても倒しても復活するアンデッドのようなもので、選ばれし人を完全に死滅させるには根本を取り除かねばならないとイレギュラーズは勘付く所である。
時間経過で復活すると言っても、これらを倒し続けなければ先へは進めない。ここにきて物量作戦に対峙する事となったイレギュラーズは思うように進めず、神の国の攻略作戦が遅れている。
ある程度は蹴散らし、イレギュラーズが掌握したと言えるエリア一帯にアウトポスト(前哨基地)が敷かれる事となった。人外じみた、人外そのものでもあるイレギュラーズといえど何十日も休まずに戦い続ける事は健全とは言い難い。交代制の警備のもと、安全地帯を作り出す算段である。
ここでは武器の手入れや食事、休息の他、理想郷を突破するための作戦会議などが主に行われていた。そして、前のめりになりつつある攻略チームは一つの問題事に取り掛かる。
負けるつもりなどはイレギュラーズには無いであろうが、退路の確保は行っておくべきだという意見が出た。臆病風と嗤う者はいないだろう。敵地では何が起こるか予測ができないのだ。冠位魔種を倒したとしても、イレギュラーズが神の国の崩壊に巻き込まれでもした場合、英雄譚とは成り得ないだろう。生きて帰ってくる事、次の戦いに備える事こそがイレギュラーズの勝利であり、ローレットの継続が不可能なほどにイレギュラーズの命が失われた場合、それは敗北という二文字で表現される事になるのだ。
●決戦前夜
やるべき事は山積みである。イレギュラーズが攻略を完了したテュリム大神殿及び、審判の門、レテの回廊周辺も気を抜くと刺客を送り込まれかねない。遂行者や炎獣、ゼノグロシアンと敵方の手駒は未だ膨大な数が残されているのだ。アウトポストの警備に回ったイレギュラーズは各々の判断でこの安全地帯を守らなければならない。
敵地で日を跨ぐ事は気が気ではないかもしれないが、前線で戦っているイレギュラーズが確実に撤退できる場所を確保し続ける事は重要な任務である。360度全方向を敵に囲まれていた状態から始まり、ようやく90度程度は退却ルートを得られたと言えるだろう。
「白騎士様、イレギュラーズどもが……あろうことか審判の門付近で野営を始めたと報告が入っております」
「奴らは既に理想郷にまで侵攻を続けている。何としてでも後方を突き、補給路を断つのだ。炎獣を出せ」
白騎士の一人が手際よく別働隊を編成する。要所の奪還は容易な事ではないが、無尽蔵にリポップする選ばれし人や炎獣、使い捨てのゼノグロシアンを投入し続ければ不可能ではないだろう。
「多くの同胞が奴らの手にかかってしまった。だが恐れるな。彼らが目指した神の国、その理想は私達が受け継ぐのだ。彼らの死は無駄ではない。我らを天より見守ってくれるだろう。征け、審判の門を奪還するのだ!」
ロングソードを掲げると炎獣や人々が、聖地を奪還するクルセイダーのように進軍する。数では負けていないものの、おそらくは惨敗で時間稼ぎにしかならないと白騎士は読んでいた。冠位魔種がどう思っているかはさておき、白騎士はこの戦いに分の悪さを感じている。
人々を導く存在である手前、あのような形で焚き付けるしかなかった。
「白騎士殿、何かお考え事かな? 勇壮な演説に似合わぬ顔をしているではないか」
「ため息もつきたくなるというものだよ、黒騎士殿。我らはレテの回廊……いや、審判の門の段階で奴らを止めねばならなかった。こうも侵入を許している状態で、ぶつけてどうにかなる余力があるとは思えんのだ」
黒光りする鎧を着込んだ男、黒騎士はからかったと思えば苦い表情へと一変する。彼も事の深刻さを正確に捉えているようで、イレギュラーズへの対処に頭を悩ませているのだ。
「それこそ神の奇跡を祈るしかないわけだ。僕の予想では、理想郷もそう長くはもたないぞ。選ばれし人は復活するとはいえ、奴らをどうこうできる力は持っていない」
「上が何を考えているかは知らんが、預言の騎士としてやるべき事をやるだけさ。さあ行こう」
二人の騎士は理想郷の奥へと進み、来るべきイレギュラーズとの決戦に備える。大きな戦いが迫っている事は、遂行者や騎士のみならず、イレギュラーズも感じている。
天義の、世界の命運がかかった一大決戦。その前夜に行われた後方勤務が本作戦の内容である。
- <尺には尺を>Outpost完了
- GM名星乃らいと
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年11月26日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●デイライト
「木漏れ日の妖精が昼間に休むのは変な感じがするのだけどね」
『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が大量の林檎を配り終え、日中の仕事から離れる事となった。クリスタリア領に存在する林檎園からの支援物資は充分過ぎる数を誇っている。
大まかに分けて昼と夜でイレギュラーズは役割分担を行う事となっているが、オデットのように休息期間中もやれる事をやる面々は多かった。
「へへ、オデットさんが眠っている間に基地をカスタマイズしておくからね! 任せといて~!」
『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)はこの手の作業を好むようで、前哨基地の改修計画に勤しんでいる。罠がどうこうと策を張り巡らせているようだが、オデットが担当する夜に物騒なデストラップダンジョンへと変貌していない事を祈るばかりだ。
「流石にここは敵も放棄しかけているみたいだね。目立った敵部隊もいないけど、油断は禁物だよ」
『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は鳥のファミリアーを飛ばし、周辺を索敵する。神の国の総本山、その入口は最も激しくイレギュラーズがぶつかりあった地点と言っても過言ではない。だが、今は見る影もなく敵の損切りによって放棄されたと見て良いだろう。
「統率を失ったゼノグロシアンがちらほら、あとは無謀に攻撃を仕掛けてくる炎獣くらいかな。前者は正気に戻してあげたいね」
「あの人たちはまだ助かるんだよね。ボクも酷いトラップは控えておこう。くくり罠くらいが良いかな?」
「そうだね。ちょ、ちょっと爆薬は配置を考えておいてね!?」
ゼノグロシアンは異言を話す者とも呼ばれる、神の国の尖兵だ。瘴気によって操られている一般人であり、イレギュラーズが救出した事例も多い。戦闘能力こそイレギュラーズに遠く及ばないが、神の国における都合の良い兵士であり、いつでも使い捨てる事のできる存在だ。これを倒す事は容易いが、ヨゾラは確固たる意思で罪なき敵を助けて見せるだろう。
「生きておる者の匂いがする。必死に未来へと足掻こうとする匂いじゃ」
「当端末はこの匂いをオデットさんが持ち込んだ林檎が発生源と観測しております」
『メカモスカ』ビスコッティ=CON=MOS(p3p010556)に『観測中』多次元世界 観測端末(p3p010858)は中々に説明の難しいイレギュラーな存在であるが、イレギュラーズとして信頼できる味方である。モスカ一族のデータを元に開発された疑似モスカ体や超次元存在と、混沌世界に生きる一般人からすれば頭が痛くなるほどに複雑なルーツを持つ二人は、周辺の警備を行う。
荘厳な門や柱、ステンドグラスなどに激戦の痕が窺える。しかし、これらの神秘性は全て紛い物であり、倒すべき、破壊すべき邪悪なのだ。
「我の気象データから推測するにしばらくは晴天のようじゃな。敵地での豪雨などは士気に影響する故、ありがたい事じゃ」
「神の国は彼らの理想を詰め込んだもの。都合の良い天候しか選ばないのでしょう」
先程まで目玉の化け物だった少女がロボのモスカのメカモスカ、ビスコッティと歓談を行う。意外と気が合うのかもしれない。
「おい! 暴れるんじゃねえって!」
『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)が負傷者の治療を行っている。牡丹のシフトも夜となっているが、助けを求めている者がいるならばいつ何時であっても牡丹は駆けつけるだろう。牡丹の周辺は、ヨゾラやユイユが正気に戻したゼノグロシアンを治療する野戦病院と化している。言葉遣いは荒いが、多様な方面に手を伸ばしている牡丹の医療プロセスは的確で、万が一にも傷が悪化するような事はない。
「いでででで! だ、だってよ先生!! ヨゾラさんの星がバーンって俺にきて泥が頭にガッてよぉ……!」
「うるせぇ! 死んでねぇんだから感謝しろ!」
牡丹は口うるさい患者の頭を包帯でぐるぐる巻きにしてミイラを誕生させようとしている。
「不眠不休で戦う訳にもいかないからな、アンタも良い所で切り上げて休むべきだ」
『アネモネの花束』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)が空いた仮説ベッドに横になる。休める時に休む、その判断力こそが戦いを決する要因の一つともなるのだ。そして、ベルナルドのコンサートはまだその時ではない。
騒がしい野戦病院とは対照的に、『群鱗』只野・黒子(p3p008597)が担当する事務作業は寡黙を極めていた。警備時間に抜けはないか、物資は足りるか、敵襲があった場合の優先行動など一つひとつを綿密に詰めて行く。裏方としての仕事に対し、黒子ほどストイックなものもそうはいないだろう。
「夜明け前やシフトの切り替え直後の気の緩み、私が奇襲をかける立場ならその時間帯になりますが」
「くかー……はっ、寝ておらん、寝てお……寝て……寝てた!!!」
ガトリングガンに寄りかかっている頼もしい警備員を見つめる黒子。気を張り詰めすぎる事もかえって疲労を招く事になる。敵地ではなちょうちんを(たぶん出していない)だすビスコッティのような豪胆さもまた必要なものだ。
「今の所は人員も余裕がありますので。ビスコッティ様が休まれても支障は出ないはずです」
「気遣いに感謝する。じゃが、我は食が要らぬ身。その分は働かなければならんな。巡回に戻るぞ」
ビスコッティはユイユと行動を共にする事にした。ヨゾラが慣れない罠設置アシスタントと化しており、へとへとになっているのだ。
「ユイユ君……間に合わせの基地にしてはやり過ぎじゃないかな!?」
「いや〜、悪巧みの時間は楽しいよねぇ〜! あれがピッタリハマればもっと最高だと思わない?」
残存する敵よりもユイユの仕掛けた罠の方が多いかも知れない。観測端末や黒子がしっかりと確認してくれてはいるが、ビスコッティも念を入れる事にした。
「炎獣も救えるやつがいたりするんだけどよ、この辺のはダメだな。時間が経ちすぎて人間性の欠片も残っちゃいねえ」
牡丹が大体の治療を終え、小休止しながら語る。天義国内を騒がせた予言の騎士や遂行者との戦いでは、炎獣はまだ変化しきってはいないものだった。しかし、神の国を守る炎獣は完全な獣、理想に仇なす敵を容赦なく狩る魔獣となっている。
「彼らを助けるだけじゃ終わらない……魔種を討たないとね」
ヨゾラが悲しみと怒りに満ちた顔で決意する。人の命を弄ぶ悪魔、理想や信仰を利用し、ゲームのように事を進めるあの男を討つまではこの戦いは終わらない。
「その為には腹ごしらえも大事だぜ!」
オデットの林檎に加えて、牡丹の隠れ家からも提供された無数の物資が食卓を彩った。牡丹本人は在庫処分や賞味期限が近い等と言うが、これらが今回の決戦に向けて心血注いで準備されたものである事は誰もが知る所だ。
「これだけあれば、普段の遠征よりも豪華な食事かもしれませんね」
観測端末が小さな口で鶏肉を頬張る。元の姿の場合、どのような捕食光景となるのか想像もできない。
「マズい飯ってのはそれだけでやる気が失せちまうからな。どっさり食ってガンガン働かねえとな」
「牡丹様は物資搬入から負傷者の治療まで働き詰めですので、ここで仮眠を取るべきでしょう」
まだまだ動くつもりでいたが、シフトスケジュールの鬼からの提案であれば断れない。既に寝息を立てているオデットやベルナルドに続いて、不満そうに横になった。
●ミッドナイト
見知らぬ場所での夜とは落ち着かないものだ。夜警に付く事になったイレギュラーズは程々の時間に目覚める。
「昼間は綺麗に見えた建物も、夜になると不気味よね」
オデットが周囲を見渡す。前哨基地に焚かれた火や、発光するベルナルドに牡丹といった光源がオレンジ色に神の国を照らす。敵は今も悪巧みをしているのだろうか。他のイレギュラーズは最前線でまだも戦っているのだろうか。様々な思いと共に、早めの夜食を取った。
「よう、アンタのとこの林檎の世話になってるぜ。こいつはデッサンにも使えるしな、大したやつなんだ」
「林檎なんて描いて面白いの? あなたならもっと複雑なものを描くべきでしょうに」
「風景画もそうだが、人物画だって全ての始まりは一つの丸から練習するものなのさ。そして、練習には終わりがない」
オデットがベルナルドのスケッチを覗くと、寝起きの手慰みとは思えないほどに完璧な描写が其処にはあった。
「それではそろそろ夜警を始めましょう。日中に数回小競り合いが起きたので、ほぼ安全とは思いますが」
黒子の一言でそれぞれが気持ちを切り替え、仕事モードへと移行する。
敵の消耗は明らかであった。前哨基地を襲撃せんとする敵部隊は、上空より偵察するオデットやベルナルドに即座に発見され、先制攻撃によって崩壊する。指揮官不在な上に人員も足りない、負け戦の特攻兵を相手にしているようで気分が悪い。
「楽な夜勤だが、これは弱い者いじめだな」
「こんな数でオレたちに勝てると思ってるのか? 向こうの狙いは何だってんだ?」
牡丹が引き付け、ベルナルドが不殺の一撃で昏倒させ、基地へと運ぶ流れ作業となっている。戦いに飢えたバーサーカーには物足りない仕事だが、この退屈な戦い一つ一つで命が救われるのであれば文句を言う者はそういないだろう。
「それこそ、牡丹様が準備された在庫処分に似たものでしょう」
「ザコを使って時間稼ぎなんてだせぇ話だぜ。さっさと黒幕をぶん殴ってやらねぇとな!」
部隊とも言えない烏合の衆を三部隊ほど片付けた所でひとまずの仕事を切り上げる。念入りに索敵しても敵影は見当たらず、これより先に進むと理想郷や未踏破エリアに踏み込み、偵察の域を超えてしまう。
「ここが決戦場になる前に、一般の方々を天義に帰す必要があるわね?」
「えぇ。冠位魔種との戦いになれば安全なエリアなどはここを含めて無くなります。天義も安全とは言い難いですが、少なくともここよりはマシでしょう」
ユイユの罠やビスコッティのガトリングガンに護られてはいるが、戦い慣れたイレギュラーズはともかく一般人が神の国で一夜を過ごす心労はとてつもないものだ。早急に対応する必要がある、と黒子は判断し天義国へ保護を求める文書をしたためる。
時折、ユイユの仕掛けた爆薬が轟音を鳴らしたが、疲労困憊な者が起きる事はなかった。起きている者は元気かと言うとそうでもなく、不安と緊張で眠れないといった雰囲気の方が強いものである。
「それじゃ、そろそろコレの出番かね」
ベルナルドが持参のギターを取り出して微笑んだ。
「これも仕事の一つに勘定してくれて良いだろ、黒子?」
「普通に考えれば音でこちらの位置を敵に知らせるようなものですが。敵の殲滅を確認しましたし、メンタルケアの面からも容認できる事柄でしょう」
「そう来なくちゃな。あぁ、アンタらもそうカチコチにならなくて良い。こんなのは崇高な芸術でもコンサートでも何でも無い。子守唄の代わりにでも聴いて、眠くなってきたら勝手に眠ってくれ。退屈させるつもりはないけどな」
ベルナルドは天義に伝わる伝統的なメロディーに、多少の陽気なアレンジを加えた。それは故郷を想うしんみりとした空気が、暗いものにならないよう即興の手心である。聞き慣れた音程、聞き慣れぬ改変のどちらもが心を楽しませ、緊張が和らいでいく。
「生きて帰ったらよ、本格的な場所でベルナルドの演奏を楽しめるかもしれねえぜ。しかもタダでな!」
牡丹がとんでもない事をさらっと言う。
「おい、ちょっと待て……天義の大ホールなんて借りたら赤字じゃねえか! 芸術家ってのは収入も安定しないんだぞ!」
「そうですね。本依頼が魔種絡みの厳しい戦いである事を考慮しても、ベルナルド様に支払われる賃金ではマイナス分が大きいでしょう」
起きて来た観測端末が計算し、そう言うと周囲に笑いが起きた。本業は画家なのだが、彼らから求められるのであればベルナルドも無下には断らないだろう。そして、牡丹の用意した干し肉や硬質化したパンなどを頬張る極貧生活が待っている事を想像すると、思わず自身も笑ってしまった。
「やあ、盛り上がってるね。寝袋の中で張り詰めてるのが馬鹿らしくなって起きちゃったよ」
日中のシフトに入っていたヨゾラがもそもそと起きる。見れば過酷な前線とは思えない、賑やかな宴が開かれている。クリスタリア領の林檎や牡丹の物資は次々と胃に放り込まれており、これは残量の確認が必要だなと少しだけ冷や汗をかいた。
「く、黒子さん。これはコントロールしきれているのかい?」
「正直に言うとペースが速いと思いますが、ここで何日も暮らす事自体が戦闘の長期化、不味い傾向にあるので。そろそろ決着を付けねばと私も肝が据わりましたよ」
黒子が牡丹を見れば酔っ払って食い過ぎている人々をびんたしている。ベルナルドにひどい公約を掲げさせた彼女もまた、宴を開いたベルナルドによって食料危機のお返しを受けている。なんという呪い返しであろうか。
「3時間後のメシ、8時間後の睡眠、それに一喜一憂する匂い……これこそが人じゃ。人は守護らねばならぬ」
「悲しいのより、楽しい方が絶対良いよね」
気付けばビスコッティ、ユイユと勢ぞろいし、賑やかなムードは収まりを知らない。
●闇を越えて
「どうしたの? オディール……そうなのね」
凍狼の子犬がオデットの元へと寄り、何かを察知したようだ。ユイユのトラップを奇跡的に潜り抜けた炎獣がこちらへと向かってきている。この情報はイレギュラーズ同士のアイコンタクトにより、瞬く間に共有された。
正気に戻った人々に笑顔が戻った矢先の出来事であり、警戒態勢へと移行する事はとても心苦しいものだ。ベルナルドは演奏や似顔絵会を切り上げるべきか、多少の葛藤があった。
「私は少しだけ夜の散歩をオディールとしてくるから、無償の催し、頑張っててね」
厳格に行動を優先付けるのであればベルナルドの催しは下位に位置づけられるものだが、今日は違う。この心のケアは必要不可欠なものであり、中断する事はできない。観衆から気付かれないように黒子やビスコッティ、ヨゾラや牡丹が離れていく。この場をベルナルド一人に押し付けるつもりだ。
「もう少しだけ楽しみたかった気持ちもありますが、これが仕事なのでしょうがないですね」
「はっ、オレはやかましくて気が狂いそうだったからな。気分転換に夜の散歩も悪くねえぜ」
仮設テントエリアから離れる時、牡丹はベルナルドに銃を模したハンドサインで撃ち抜く。せいぜい楽しませてろ、面倒事はオレたちに任せてな、という意思を込めて。これはこれで損な役回りを押し付けられたものだ、と周囲に悟られないように了承のサインを返す。
「なあなあベルナルドさん! 次はおれ、おれを描いてくれよ! とびっきりハンサムに!」
「バカ言うんじゃないよアンタ! アンタのジャガイモみたいな顔を陶器のように描かせたらベルナルドさんが詐欺罪で断罪されちまうよ!」
炎獣たちは負傷し、ほぼ瀕死のような状況である。激戦地となっている理想郷の辺りでイレギュラーズと交戦した残党だろうか。そのような状況でも、最期の時までイレギュラーズと敵対する悲しき生き物だ。血を吹こうが足を折られようが、神の国に尽くす駒。
「夜だろうが木漏れ日の妖精はガス欠知らずなんだからっ!」
オデットの放つケイオスタイドが次々と炎獣に襲いかかる。圧倒的にして無尽蔵な妖精の魔力の前には炎獣も近付く隙すら見出す事ができない。
「本当は君たちも助けたかった。あの基地の暖かな光の中に迎えてあげたかったよ、ごめんね。せめて、君たちに星を見せよう」
ヨゾラが星の泥を生み出し、哀れな生き物を呑み込む。彼らの死を何時までも忘れず、何処までも背負っていこうと心に決める。
「我は人間の盾じゃ。お主らが人間に噛みつくというのなら、我を通してもらおうか」
何とかして前哨基地へと辿り着こうとする炎獣をビスコッティが阻み、牙や爪を受け止める。
「安らかにとは言えないけれど、次は良い時代に生まれて来るように祈っておくわ」
オデットの魔力が生み出した陽光、ヨゾラの魔力が生み出した星光、その何方もが不思議な輝きを放つ。この世ならざる美しい光景を眼に焼き付け、炎獣はその生命を終えた。
「くそー、完全に封鎖したと思ったんだけどなあ。どこから抜けて来たんだろう?」
ユイユが自作のトラップマップを見つめる。ゼノグロシアンを巻き込まないようにはしたが、炎獣が通りそうな狭い通路、獣道などは網羅したはずだ。どこかで敵に出し抜かれている事はユイユにとって中々に悔しい事実であった。
「これは想定外でしたね。オディール様には助けられました。基地に戻り次第、彼らにしか知り得ぬルートを想定して、警戒範囲を再調整する必要がありますか」
「そのような事なら我に任せよ。我は半時間もあればすべて治る、長期戦に向いた壁じゃ」
「その上、睡眠もばっちりでしょう」
観測端末が割って入る。しっかりとビスコッティのうたた寝を観測していたようだ。
「あ、あれは日差しのぽかぽかが気持ちよくて……ちょっとだけじゃ! 意識はあった! ちょっとだけ!」
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
●目標
【必須】前哨基地で働く
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
審判の門 前哨基地
イレギュラーズが確保した野営地です。
休めればOK程度のテントや寝袋が置いてあります。
●敵
炎獣 数不明
ゼノグロシアン 数不明
●その他情報
攻略エリアなので敵の数はそう多くないと思われます。残党や、奪還部隊がちょっかいをかけてくる事が予想されます。
残党処理や迎撃、前哨基地の改善作業や警備、正気に戻した人の保護などに従事して下さい。
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