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シナリオ詳細

<尺には尺を>僕の願った理想郷

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●日常が帰ってきた
 うっすらと目が覚める。まだ眠い目を擦ると、母が『早く起きなさい』と声をかけてきた。
 それを鬱陶しそうにしながら、少年は布団から身体を起こした。
 窓の外をちらりと見る。
 行き交う人々。走る子供。
 眩いほどに日が差した、そこは少年の暮らした村だった。
 焼けて消えてしまったはずの、村だった。
「ああ、そうか……帰ってきたんだ、僕は」

 ある少年と村の話をしよう。
 それは世界中のどこにでもあるような巨大な災厄のおり。首都郊外にあった彼の村は壊滅した。
 復興と称して役人たちが訪れ建物を直し雇用を生み人を流れ込ませることで表向きの復興は済んだものの、少年にとっての過去はもはや戻ってなどこない。
 けれど、少年は耐えた。
 大人たちが言うからだ。
 未来を見なさい。過去に縛られるな。死んだ人は帰ってこない。死んだご両親は喜ばない。
 現実を、世界を、真実を知らぬ子供にとって、大人たちのそんな言葉を信じるしかなかった。
 信じて、耐えた。
 けれど心のどこかではずっとこう思っていた。

 誰も、何も、僕に返してくれてなどいない。

 父を返せ。
 母を返せ。
 友達を返せ。
 学校を返せ。
 日常を返せ!

 ため込まれた感情は硬く硬く凝縮され、圧縮された。
 そして彼は、『星灯聖典』と出会った。
 激しい……それはそれは激しい戦いを幾度もくり返した。
 イレギュラーズと戦い、領地を攻め、帳をおろし、神の国を攻めるイレギュラーズの撃退にあたった。
 それらは悉くに敗北し撤退を余儀なくされ続けたが……。
「グラキエス様は約束を守ってくれた……!」
 少年、洗礼名イルハンの暮らした村は、かつてのまま、全く元通りに『理想郷』の中に作られ、父と母は選ばれし人として新たに作り出された。
 すべてが返ってきた。日常を返してくれた。約束を、守ってくれた。
「ああ、ああ……ほんとうに、よかった……」
 少年は微笑み、村へと歩み出すのだった。
「ここが、僕の理想郷なんだ」

●偽物に価値はあるか
「イルハンという遂行者がいる。彼の住んでいた場所に行ってみたんだが……もう跡形もなかったよ」
 家は建て直され、人は流入し、『少年が暮らしていた村』はもうどこにも面影を残していない。
 この世のどこにもなくなった。そう、死んでしまったのだ。村ごと、すべて。
「だからといって、これは……」
 天目 錬(p3p008364)は理想郷の中に作られた小さな村の様子に、顔をしかめていた。
 そこは少年にとっての日常であり、家族であり、友人たちであり、言いようによっては彼のすべてだ。
「とはいえ、俺たちは先に進まなきゃいけない。まずはここを探索して、情報を集めよう」

 ここは理想郷。ルスト・シファーの権能によって作られた誰も死なない世界。
 人々はもう飢える事も無ければ、殺されることもない。
 日常は壊れることなく続き、永遠が約束される。
 そんな場所に、あなたは訪れた。
 あなたは何を見て、誰に触れて、そして、壊すのか。

GMコメント

●シチュエーション
 理想郷として作られた村を観察し、そして最終的にはすべてを無力化しましょう。

 シナリオ前半では、皆さんは村を自由に見て回ることができます。
 村の住人に話を聞いたり、交流をもったりすることができるでしょう。
 村の住人はイルハンを含めて温厚であり、こちらに対して攻撃敵な姿勢を取る様子はありません。

 ですがシナリオ後半では、村に訪れたイレギュラーズたちを撃退するため『予言の騎士』が訪れ戦闘になってしまいます。
 戦闘の備えをして、村の探索を行ってください。

●フィールド:イルハンの村
 どこか豊穣風の雰囲気がする村です。
 イルハンという少年が中心となり、彼の両親や友人などを再現した『選ばれし人』が暮らしています。
 村は完全再現とはいかないらしく、村の一部分だけが創造されていますが、人々は何ら不自由なく暮らしているようです。

●エネミー
・白騎士アンナフル
 バフ能力に優れており存在しているだけで戦場内の味方全員を強化することができる。
 固体戦闘能力もそれなりに高く、白き槍を装備し高い格闘能力を持っている。
 イレギュラーズが村へ入ったことを察知し、排除するべく駆けつける。
※彼が号令を行うと村の『選ばれし人』たちは武器をとり戦うようになります。

・『回帰悲願』イルハン
 かつて失われた日常を取り戻せると信じ星灯聖典に忠誠を誓う豊穣出身の少年。
 黒髪のショートヘアにラフに着崩した和服を好む。
 聖骸布を多く下賜されているため超人的な戦闘能力を持ち、空想を一時的に具現化するという子供ならではの戦闘方法をとる。
 天目 錬の領地を自らと同じ運命を辿らせようと襲った際に防衛されたことで、因縁が生まれている。

・『選ばれし人』
 この村の住人達です。戦闘能力は見た目以上にはあるようで、油断は禁物です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <尺には尺を>僕の願った理想郷完了
  • あなたは何を見て、誰に触れて、そして、壊すのか。
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年11月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
柊木 涼花(p3p010038)
絆音、戦場揺らす
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺
陰房・一嘉(p3p010848)
特異運命座標

リプレイ


「これが、例の村……っスか」
 『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は立ち止まり、どこか和風の建築物が並ぶ村の様子を眺めていた。
 村人がたまに姿をみせこちらを見つけるも、特に話しかけてくるでもなくどこか幸せそうに過ごしている。
「こんな平和なら、本当ならオレ達が手を出さずに見過ごしたい所なんスけどね……。
 でもここも放っておくとロクな事にならねぇのは、何となく目に見えてる。
 罪悪感が無いといえば嘘になるっスけど、やらなきゃどうにもならねぇよな」
 すべてはルストの権能によって作り出されたものだ。
 放置すれば、それだけで滅びのアークの増大を招くことだろう。犠牲なき平和、というわけではないのだ。
 はあ、と『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)がため息をつく。
(かつてあった「日常」を追い求めた結果がこの風景ってとこか。
 居なくなった人や崩れ去った物を思い起こせば、違和感は幾らでも湧いて出る。例えどれだけ似た様な光景を作っても。
 ……気持ちは痛いほど分かるかな。「あの時」が欲しい、戻りたいと言う事柄は)
 マカライトにだって、戻りたい過去や取り戻したい人がいないわけじゃない。過酷な世界に生きていたのだ、その気持ちをわからないなんて、とてもではないが言えない。
「だが……慈悲を受けるには度が過ぎた」

 通り過ぎる風は穏やかで、『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)は思わず目を細める。
「これは……まさに彼だけの理想郷、と言った所だね
 これが何者も害す事なく作られ、続いてくなら彼の自由だと言ったけども……僕らと彼らは敵同士。
 日常を得る為にそれ以上の日常を破壊させる訳には行かないよね」
「ああ、その通りだ……」
 『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)がこくりと頷いて返した。
 ここにある日常は、ルストの権能によって作られたもの。魔種の力が今なお世界を汚染している証左であった。
「偽物にも贋作にも価値はある。それは職人として俺も否定はしない。
 だがここに閉じこもってたらお前はこの村以上に価値があるものに絶対に出会えないんだぜ。
 イルハンの若さでそれは勿体ないと思うがな」
 いまはまだここにいない少年に向けて、錬はぽつりと呟いた。
 そう、まるでこの村は……。

 じゃり、と砂混じりの土を踏む。
 『奏でる言の葉』柊木 涼花(p3p010038)の眼前に広がるのは、理想郷の村だった。
(ここにあるすべてを憶えていきましょう。
 わたしが守りたかったものと、きっと同質なものを。
 わたしにできることは、きっとそれだけだから)
 そう、これは誰かが願って作られた、歪ながらも幸福な理想郷。
 そうあれかしと、誰かが。
「イルハンの村……こういう所だったんだね……」
 『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は傘を広げ、イルハンの願った村の様子を眺める。
 豊穣の空気を感じさせるこの光景に、思わず目を細めてしまいそうになる。
「村の人も……のどかで……柔らかい空気が流れてる……。
 イルハンは……ここを……こころにずっと持ってて……大事にしてるんだ……。
 僕等が入り込むこと……ごめんね……」
 きっと壊すことになる。
 そうと分かっていても、踏み込まないわけにはいかなかった。
 それがさだめなのだから。世界を守る、そのためには。

「……平和なんよな。何処まで行っても」
 争いの気配が無いことを確認して、『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)は息をついて呟いた。
 壊す覚悟はある。
 だから、平気。平気だ。そう誰に聞こえるでもない小さな声で呟いた。
「此処が、理想郷と言う物の、一つの形であるのは否定しない。
 だが、万人にとって、理想郷に足り得ない。
 唯、それだけの話だ」
 慰めようとしたのか、それとも独り言なのか。『特異運命座標』陰房・一嘉(p3p010848)がそんなことを口にした。
 彩陽は肯定するように頷いて、村へと歩いて行く。
 そう、これは万人への理想郷なんかじゃない。

 だって今もなお、不快な呼び声は響き続けているのだから。


「オレは空から警戒しておく。村人との交流は任せてもいいか」
 一嘉はそう一言口にすると、魔法をかけふわりと空に浮かび上がった。
 任せたよと手を振り、彩陽たちは村へと歩き出す。
 彩陽が最初に見つけたのは、村で日向ぼっこをする老人だった。
 どう話しかけたものかと咳払いしてから、『こんにちは、今は何を?』と彩陽は話しかけてみた。
「やあ、どちらさまかな。今、ルスト様に祈りを捧げていた所でね」
「ルスト……様」
 突然出てきた不穏なワードに、しかし老人は不自然さをまるで見せない。産まれた頃からそうだったとでもいわんばかりに頷いて見せる。
「一緒にお祈りをしていくかい?」
「いや、先を急ぐから……」
 と丁寧に断りを入れ、彩陽たちは村の奥へと進んでいく。

 カインは村の様子を観察しながら、ふむと小さく呟いた。
「何か分かったことでも?」
 マカライトの問いかけに、まあねと返すカイン。
「簡単に見るだけでも察せる事はある、ということさ。
 村の一部分だけと言う不完全な世界だと言うのに人々に不自由は無く満ち足りた物であり、その中心は当然あの遂行者、イルハン。
 彼からすれば、その村の一部分のみこそが己の知るかつての元通りの村、自分が望んだすべて、という事なのかもね。
 ならば当然、その世界の核はその彼に強く関連する何か、なのだろうってね。
 あるいは彼だけの理想郷なんかでなければ……と思うのは栓無き事だね」
「『彼だけの理想郷』……?」
 言葉をそのまま返すマカライトに、聞いてみればわかるさとカインは気さくに応じてみせる。
「いやぁ、ここはのどかで、暖かくて、良い村だね――理想的、と言える程にね」
 声をかけたのは外をふらふらと歩いている女性のひとりだった。
 見慣れぬこちらを訝しむ様子を見せながらも、「ええ、どうも」と小さく返す女性。
「名前を聞いても? 俺はマカライトというんだが……」
「ああ」
 と、女性はにこやかに微笑んでくる。
「私は『イルハンの母』でめぐみといいます」
 ほう、と目を細めるマカライト。よもやこんなところをふらついているとは思わなかったが、思わぬ収穫だ。
「今後はどうするつもりなんだ?」
「今後? そんなものはありません。ここには永遠があるのですから、永遠に生きるのですよ」
 なんだそれは。とは、問い返さなかった。
 見るからに歪だ。洗礼名である『イルハン』で息子を呼ぶこと。永遠に生きるということだけを目的に生きていること。これでは彼らは実質、生きていないのも同義だ。

 涼花が村を散策していると、子供たちが美味しそうにパンを食べている様子が見えた。
「こんにちは。少しお話をいいですか? 例えば……好きな食べ物だとか」
「好きな食べ物? そんなものはないよ。ルスト様がお恵みになったパンを毎日食べるんだ」
 にこにことしながら応える少年の様子に、明らかな歪みを見た。
「お父さんとお母さんは、おしごとは……?」
「していないよ。ここは理想郷だもの。必要ないんだ。考える必要もね」
 すっくと少年が立ち上がり、その圧力に思わず涼花は後じさりする。
 気付けば子供たちが集まり、涼花を囲んでいた。
「ここはいいところだよ」
「永遠に生きていけるよ」
「ルスト様がそうお創りになったからね」
「あなたもそうしなよ」
「あなたもそうしなよ」
「あなたもそうなりなよ」
「――ッ」
 不気味さに思わず身をのけぞらせ……そして、葵に素早く手を引かれた。
 背に隠すように葵が立ち塞がる。
 子供たちはその様子に疑問を覚えるでも、調子をかえるでもない。
 どう声をかけたものだろうかと葵は少しだけ考え、そして咳払いをする。
「なあ、この村はどこにあったんだ。どういう村なのか、教えてくれないか」
「「…………」」
 子供たちは顔を見合わせ。
 そして、異口同音にこう言った。
「「ここはルスト様がお創りになった永遠の村だよ」」
 葵はその回答に、ひとまずの得心を得た。
 そして同時に、こうも考える。
 イルハンという少年は、本当に『これでいい』のか?

 イルハンの家はすぐに見つかった。
「ああ、なんだ……君か……なにしにきたの」
 畳の上でごろんと横になったイルハン。そのだらけた姿に、錬とレインは虚を突かれた気持ちになっていた。
 少なくとも、今まで何度も殺し合いをしてきた錬にとっては意外そのものだ。
「こんにちは……初めまして……。
 優しい村だね……。村の案内と、少しの、話し相手になってもらってもいいかな……?」
 先に口を開いたのはレインだった。
 対して、イルハンはゆっくりと身体を起こす。
「僕は……レイン……君の名前は……?」
「ああ、僕は『イルハン』」
「本当の……名前は……?」
「本当? なあに、それ。僕は『イルハン』だよ。だよね、お父さん」
 振り返って声をあげるイルハン。すると家の奥から父親らしき男性がにこやかに現れた。
「ああ、そうだとも。イルハン。もうすぐご飯の時間になるから、準備をしておきなさい」
「ああ、わかったよ、お父さん」
 それから他愛のない話をした。
 毎日こうしてごろごろしてすごしていること。それが永遠に続くのだということ。仕事もしない。学校にも行かない。家族と友達と一緒に毎日だらだらとして過ごすのだという、話。
 あまりにも歪な状態に。錬は思わず顔をしかめる。
「ルストの権能によって創られ、都合良く動いている存在だという自覚はあるのか」
「自覚……? なあに、それ。必要ないよね、こんな場所じゃ」
 あはは、とイルハンは笑った。
「イルハン。お前は……」
 言いかけて、しかし言葉は遮られる。
「悪いが、もう時間だ。白い鎧の騎士が村へやってきた。村人も集まり始めている」
 空からおりてきた一嘉が着地し、そう告げてきた。
「戦う準備をしろ。迎撃だ」


「理想郷を破壊するイレギュラーズどもよ、正義の鉄槌をうけるがいい! 我が名は白騎士アンナフル! ルスト様によって創られた予言の騎士なり!」
 立て村人たちよ! 白騎士アンナフルは吠えるように号令を放ち、それをうけた村人たちは手に手に武器を持ち広場へと集まっていた。
 飛び出してくる村人に威嚇するようににらみ付ける葵。
「怪我したくねぇ奴はこっから離れろ! いいって言うまで家から出るんじゃねぇぞ!」
「黙れ! 貴様等この理想郷を破壊しにきたんだな! 殺してやる!」
「チッ、聞く耳もたずか……!」
 それならばと速攻で白騎士めがけてフロストバンカーを放つ。魔力によって作り出された氷の杭を蹴り出す葵必殺のシュートである。
 が、それを受けたのは白騎士を庇った村の男性だった。
「ぐあっ!?」
 動きを封殺され武器を取り落とす男性。
 カインははあとため息をついた。
「村人が邪魔すぎるなあ」
 できれば後回しにしておきたい所なのだ。白騎士さえ倒せば村人は烏合の衆、のはず。すくなくともバフをばらまかれるのだけは辞めてもらいたいところなのだが。
「だったら取り除くしかない、か」
 神気閃光を放つカイン。剣を振り込んだことで放たれた白き閃光が村人たちを切裂き、次々に消滅させていく……かと思いきや、思いのほかに頑丈だ。
 殺気だった目を向けてくる村人たち。それを鼓舞する白騎士アンナフル。
 白騎士アンナフルはといえば、カインに反撃すべく馬上から飛び降り剣を大上段から振り下ろしてきた。
 『ラストサバイバー』を上段に翳して剣を受けるカイン。
 直後、空を飛んでやってきたとおぼしきイルハンが大量の槍を生成して飛ばしてきた。
「――ッ!」
 涼花がギター演奏による治癒の魔法を施すことでカウンターヒールを実行。カインの受けたダメージを取り戻す。
「イルハンをいじめるな!」
「イルハンの邪魔をするな!」
 子供たちが手に鎌や包丁を持って襲いかかってくる。
 それを払いのける必要があると分かっていながら、しかし涼花は歯噛みした。
(ただ先へ。
 ただの日常を壊すために、力を求めたわけじゃない。
 でも、今はそうするしかないから。
 こんな言葉が出てくるのだって自己満足でしかないけれど。
 ――ごめんなさい)
 心の中で唱え、歌に『神気閃光』の力を込めて解き放つ。
 直後、イルハンめがけてマカライトのチェーンが飛んだ。
「感想はどうだ」
「何?」
「他人の住む街を滅ぼそうとして、嘗ての自分と似た境遇の者を作り出しかねない【災害】として暴れた後に出来た『自分の想像通りの村/人形劇場』の感想を聞いてるんだよ」
「――ッ」
「永遠に変わらない姿を見続けて未来を投げ出すってのは、堪えるんだよ」
 チェーンが編み上がり、一対の鋭角がある巨大な狼の頭部を作り上げ食らいつく。
 イルハンは大量の剣を生成してそれを迎撃。飛び退くように民家の屋根へと着地する。
 が、その直後に放たれたマカライトの鎖がイルハンの足に巻き付き地面へと引き倒した。
 一方で、白騎士へと攻撃を開始するレイン。
「少しだけ動けなくなるけど……ごめんね……」
 村人はカインたちがなぎ払ってくれた。その間に一斉攻撃を仕掛けるのだ。
 レインが傘を翳し、くるくると回すと海月のような幻影が大量に生まれては白騎士アンナフルへと飛んで行く、接触した瞬間に爆発する海月の幻影に、白騎士アンナフルは激しいダメージを受けていた。
 一嘉がイルハンへと振り返る。
「お前は、奪われた大切なものを取り戻す為、見知らぬ誰かの、大切なものを奪った。お前の大切なものを奪った相手、そいつ等だけから奪ったのなら、お前は『復讐者』だったろう。
 だが、目的の為、無関係な者達から大切な者を奪った。今のお前は、唯の『略奪者』に過ぎん。
 『略奪者』の犠牲者達が、心の底からこう叫んでいるだろう。「大切なものを。幸せだった日常を返せ」とな」
「違う! 奪われたのは僕だ! 返してもらうのも僕だ! そのために戦って何が悪いんだよ!」
「心では納得できないだろうな。それが容易く出来ないからこそ、人々の争いの歴史は、何時までも終わりを迎えないのだから」
 そう言いながら一嘉は白騎士へと直行、強烈な拳で白騎士を殴り飛ばす。
 直後に、彩陽の矢が白騎士の膝へと突き刺さった。
 矢に込めた『アンジュ・デシュ』の術式が爆発し、周囲の村人たちが苦悶の声を上げ始めた。
(進んで殺すつもりはないけど戦う意思は相手にもある。なら、それに応じないのは失礼やから。相手にも覚悟がある。こっちにも覚悟がある)
「なら……お互いの意地で戦うだけ!」
 村人たちは『かくあれかし』と創られたものにすぎない。見た目に騙されては、いけない。
 そう覚悟を決めて放った第二の矢が、白騎士アンナフルの脳天を貫いていく。
 それを見て、錬は改めてイルハンに向き直った。
「恐らくここで倒しても権能の力で蘇るんだろう。
 だがその度にお前はまた喪失を経験する事になる。『蘇るからいいか』なんて考えるようになったら終わりだぞ?」
「黙れ! ルスト様が――グラキエス様がくださったこの理想郷を馬鹿にするなよ! 壊したのは、奪ったのはお前たちだ!」
「平行線だな。だったら――」
 瞬間鍛造した斧で斬りかかる錬。
 同じく生成した斧で斬りかかるイルハン。
 二人の攻撃が幾度も交差したところで、イルハンの胸が盛大に切り裂かれた。
「大丈夫、だ、僕等は、死なない……はは……僕等は、永遠なんだ……!」
 仰向けに倒れ、そして、消え去った。

 もうそこに、誰も残っていない。
 騎士も、村人も、イルハンも。
 彩陽はそっと手を合わせ、仲間たちもまた思い思いに目を伏せ、そして村を立ち去っていく。
 解り合えないのだ。そう、確信を抱きながら。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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