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シナリオ詳細

<尺には尺を>君を殺せば終わるなら

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●遂行者達の『理想郷』
 『テュリム大神殿』はイレギュラーズの手により攻略された。
 しかし冠位傲慢は未だその姿を表に出すことなく、イレギュラーズは大神殿の『創造の座』より更なる深層を目指すこととなる。
 幾重にも施錠された深層。そこは遂行者達の思い描く『理想郷』。
 『選ばれし人』と『神の意志を遂行する遂行者』のみが永遠を得られるというその地では、何が待ち受けているというのか――。

●聖樹の安寧
 子供に苦痛を与えたがらない遂行者サク。
 そのサクを遂行者へ導いた存在でありながら、彼の前で子供を『炎の獣』として利用した遂行者ロード。
 赤騎士にも助力させたことでイレギュラーズ撤退の原因のひとつともなった彼を除きたいと願う者は多く、彼らを追って『創造の座』へ踏み込んだイレギュラーズが到達したのはひとつの『理想郷』だった。

 ――穏やかな風の吹き渡る、のどかな風景。
 晴れた空に、大地には柔らかい草が生い茂る。牛や鶏、羊たちの声があって、人里が近いのだとわかる。
 周囲を見渡していると、脇を子供達が駆け抜けていく。彼ら彼女らに病や傷はなく、迷いも苦しみも見えない。
 子供達が駆けていく先――そこには大きく空へ枝を張る白い大樹があって、その根元には少女がいた。
 少女の膝には、大柄な少年が頭を乗せて静かに寝ている。遂行者サクだ。
 そして、サクを寝かせている少女の顔は。

「……ふふ。見覚えがある顔ですか? サクは眠っているだけですのでご安心を」
 現れたのは、白髪の遂行者ロード。敵意を隠さないイレギュラーズがいれば、彼は穏やかに微笑むだろう。
「まあまあ、この度わたしとしては刃を交えるつもりはなく。赤騎士様にも無理を言ってご遠慮頂いたのです。それでも、どうしてもと言うのであればこの平和な景色ごと壊しても構いませんが……わたし達はこの『理想郷』において『殺されても死にません』ので。
 ここは元より我らの領域。わたし達が一方的に都合が良いのは当然の理でしょう」
 既に一度イレギュラーズを退けた事実と、この世界で自分達が敗北することはないという絶対の自信。その二つに裏付けられた傲慢さで、ロードは穏やかな風に白髪を流す。
「さて……わたしは祈りと願いを糧とするもの。どうやらこのサクに強い思いを抱いている方もいるようなので、少し親切心が芽生えまして。……あなた方、この少年を『何』だと思います?」
 ――何、とは。
 少年サクは、アドラステイアの「オンネリネンの子供達」の出身で、子供の痛みを厭う信条を持つ遂行者で。
 今膝を借りているこの少女に瓜二つの、トキという名の少女と強い関係があって。
 これまでにわかっている彼の情報を口にすれば、ロードは肯定して頷く。
「それも間違いではありません。『人間』のサクという少年も、まあ、どこかで生きてはいるでしょう。
 ……ええ、この少年は『人間ではない』。滅びのアークで汚染された聖遺物を核に、わたしの手で『人間サク』の形を与えたもの。
 『聖女トカニエの心臓(セイクリッドハート)』……それがこの『遂行者サク』という存在ですよ」
 イレギュラーズの反応を愉しむように観察しながら、ロードの話は続く。
「わたし自身も、『聖樹アインゾファーの枝』という聖遺物を元にした存在ではあります。この白い樹が聖樹ですよ。ここはわたしの『理想郷』……そして恐らくは、彼らにとっても。
 聖女トカニエの心臓が、どのようにして聖女トカニエから得られたか。ついでにお教えしましょうか」
 わたしは、全てを知っていますので。
 そう語る遂行者は木漏れ日の揺れる柔らかな草原に腰を下ろすと、子供の寝物語のようにそれを話した。

●とある昔噺
 聖女トカニエは、ただの少女であった。
 少し優しく、少し気の強い、少し努力家なだけの少女だった。
 泣いている子がいればその理由を聞いて遊んでやり、怪我をした子がいれば手当てをして痛みを和らげた。
 彼女は殊、子供からの信頼が厚い少女であった。
「トカニエがいれば怖くない」
「トカニエの言うことなら聞く」
 子供達の信頼は、やがて大人の目には「信仰」と映った。神への信仰に優先される少女への信仰があってはならない。
 ならば、どうするか。
 ――少女を『神へ返す』。聖なる供物として神の御許へ返せば、子供の信仰も神へ戻ると考えたのだ。
 ある日、大人達に呼び出されたトカニエは聖堂へ連行され、何の釈明も許されず『神へ返された』。生きたまま、気絶も許されず、折れるほど四肢を押さえつけられ、その心臓を抉り出されたのだ。
 ところがこの心臓は、少女の肉体が息絶えても鼓動を止めなかった。三日経っても、三月経っても腐ることなく脈打つそれは、大人達が虞を成すに十分な『奇跡』だった。
 かくして奇跡の心臓は聖遺物『聖女トカニエの心臓』として聖別され、聖堂で大切に保管されたのである。
 ――後に、この聖堂が集落ごと謎の焼失を遂げるまで。

●『心臓』の目覚め
「――なぜ、わたしがそこまで知っているか。簡単なことです。その聖堂が聖樹アインゾファーを切り出して建てられ、『聖女トカニエの心臓』を聖別した聖職者が『この男』だった。それだけのことですよ」
 まるで他人事のように自らの胸へ触れながら、ロードは大樹の根元でサクに膝を貸す少女を見る。
「ですから驚きましたよ、アドラステイアで少女トキを見た時は。まるでトカニエの生まれ変わりではないですか」
 だから見たくなったのだという。
 もし、転生した肉体(トカニエ)と、転生していない『心臓(セイクリッドハート)』が出会ったら、どのような奇跡が起こるのか。あるいは、何も起こらないのか。
 それが見たいが為に、彼は既に滅びのアークで汚染されていた『心臓』に形を与えたのだと。

 ロードがそこまで話し終えると、少女の膝で寝ていたサクが僅かに呻く。目覚めが近いようだ。
「ああ、そう――サクは、自分が『心臓』であることをまだ思い出していないようですが。あなた方が口を閉ざしても、いずれわたしが全て教えることになるでしょう。
 その時彼がどうなるかは、わたしにもわかりません。聖遺物を核とする遂行者は珍しくありませんが……彼の場合は、ね」
 少なくとも現時点で、彼は自身を人間だと思い込んでいる。
 思い込んだ上で、絶望の底から自己犠牲に近い理由で『遂行者』となり、その役割を務めてきた。
 ――それが、『そんな絶望とは関係なく』『初めから汚染されていた聖遺物』だったと知ったら。
「まあ、お任せしますよ。あなた方は彼の『人間性』に期待したいのでしょう? まだ知りたいことがあれば、親切ついでにこの場でなら答えますとも。アインゾファーは知恵の樹。知る限りの事柄については、『少なくとも』嘘はつきませんので」
 穏やかなはずのロードの笑みは、未だ底知れぬものを感じさせたまま。
 『心臓』の少年はついに目を覚ました。

「どこだ、ここ……、……ト、キ?」
「あ、おはよう! ちゃんと眠れたかな、小さい子以外にあんまりしたことなくて……」
「……。…………!?」
 少女に元気に挨拶されると、サクは数度瞬いて飛び起き少女から離れる。
「あれ、どうしたの!?」
「どうしたはこっち……は? 何……? イレギュラーズ……? 待て、何処だここ。何でこんなとこで寝て……クソッ」
 未だ状況を完全には把握していない様子だが、サクはイレギュラーズの姿を認識すると黒いワールドイーターを生み出そうとする。それを制止したのは、他でもない少女だった。
「怖いことしないでよ! ここは平和なところだよ? 誰も戦わなくていいの! ……そう、だよね?」
 少し不安げにイレギュラーズを見る少女。
 その首筋には、サクとは違う羽根型の痣があった。

GMコメント

旭吉です。
遂行者サクは人間ではありませんでした。

今回はほぼ心情シナリオとなります。
このシナリオでの最終的なサクの結論が、次回の関連シナリオに大きく影響します。
事実を突きつけるのか。優しい言葉をかけるのか。確かな正解はありません。

●目標
 『鍵』を壊して『理想郷』を出る

●状況
 『神の国』内、テュリム大神殿の深層。
 白い大樹が枝を張る青空に草原、心地の良い穏やかな風。
 家畜の鳴き声と子供達が遊ぶ景色は実にのどかなものです。
 場に満ちる『傲慢』の呼び声が無条件に不快感を与える以外は。
 (子供達や遂行者達にこの影響はありません)
 呼び声は基本的に頭痛程度の影響です。旅人もいくらか気持ち悪さを覚えるでしょう。

 この『理想郷』の主はロードですが、この世界にいる誰かが『理想郷』の『鍵』となっています。
 その『鍵』を何らかの手段で『壊す』ことで、この世界を脱出できるでしょう。
 遂行者や子供達は『殺しても死にません』。壊すために殺したとしても死にませんが、『壊した』ことにはなります。
 子供達や少女は話しかければ答えてくれますが、遂行者と少女以外は皆異言を話します。

●情報
 遂行者ロード
  30代前半の男。柔和な印象の白髪。聖遺物『聖樹アインゾファーの枝』を核とする。
  この『理想郷』の主。
  聖遺物『聖女トカニエの心臓(セイクリッドハート)』を核に『人間サク』の形を与え、『遂行者サク』を生み出す。
  多くを知るが、遂行者としての最終的な目的は不明。
  彼が知ることであれば、知恵の樹として『少なくとも』嘘は言いません。

 遂行者サク
  10代後半の少年。遂行者の白い制服の外套に薄い泥汚れが残る。
  ワールドイーターを創り出し、意思疎通する能力を持つ。異言を理解し話せる。
  聖遺物『聖女トカニエの心臓』を核とする遂行者ですが、自分では人間だと思い込んでます。
  遂行者としての目的は『間違って生きる苦しみを消すこと』。
  自身も消えるべき『間違い』と認識しており、『間違いの無くなった理想郷』を思い描けなかった。
  少女トキのことは、命が危険に晒されれば暴走する程度には強い思いを抱いてますが、『死なせたくないため』ではなく『必ず安らかに死なせたいため』。

  遂行者であることに疑いはないが、僅かに迷いが生まれつつある。
  助けたいものがあって遂行者になった。
  それができるだけの力を得たが、このままでは『神様』の力になれない。
  信仰を捨てては生きられない。助けたいものも譲りたくない。

  シナリオ開始時点ではまだ寝惚けているものの、何となく違和感を覚えてはいる。

 少女トキ?
  サクと同年代の少女。首筋に羽根型の痣あり。
  意思疎通可能。
  ロードに対しては生徒のように、サクに対しては同年代のように親しげに接する。
  他の子供達も意思疎通は可能だが、異言しか話せない。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。


『壊す』相手は?
誰かが正解すれば『鍵』は壊れます。一人を狙うもよし、全員で異なる選択をするもよし。
何らかの方法で、この世界の誰かに壊させても構いません。

【1】遂行者ロードを『壊す』
『理想郷』の主なら『鍵』も彼であるはず。
聞き出すことはもうありませんか?

【2】遂行者サクを『壊す』
ロードはなぜサクについてイレギュラーズに説明したのでしょうか。
かける言葉はもうありませんか?

【3】少女トキ?を『壊す』
彼女は何故ここにいるのでしょうか。
後悔はありませんか?

【4】その他のものを『壊す』
例えば、誰でもないあの子とか。いかにもな大樹とか。
例えば、その辺りの花一輪とか。

  • <尺には尺を>君を殺せば終わるなら完了
  • 少年は知り、選択するだろう
  • GM名旭吉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年12月02日 16時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
冬越 弾正(p3p007105)
終音
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く

サポートNPC一覧(1人)

チャンドラ・カトリ(p3n000142)
万愛器

リプレイ


 遂行者ロードにより、長閑な『理想郷』で語られる真実。
 その内容に、イレギュラーズの多くは衝撃を受けることとなる。
 そして、その真実を未だ知らない本人へ告げるかどうかの選択も迫られていた。
 今まさに、不安げにイレギュラーズに問いを投げている少女への答えも。
「貴女はトキさん? トカニエさん?」
 そんな彼女へ直球に問うたのは、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)だった。
「え、と……どっちも私、かな……? 名前はトカニエだけど、トキって呼ばれることもあるよ」
 訝しげに答える少女。このトキによく似た少女は、まさに『トカニエ』だったのだ。
 その事実を確認すれば、『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)の中でも納得がいった。
(現実のトキ殿は、サク殿にとってそれなりに特別な存在、心(ハート)を揺さぶるもの。そして『トキ』が『聖女トカニエ』の愛称でもあったならば、『彼』と『彼女』は分かちがたいものだろう)
「トカニエ、って……どういうことだ?」
 そして、その名に全く覚えのない少年が一人。
 先程まで彼女の膝で寝ていた遂行者サクは、まだ目の前の少女に混乱していた。頭を抑えて苦しそうですらある。
「お前は、トキ……、トカニエ……? わからねえ……気持ち、悪い……」
「大丈夫!? ここは苦しいことは、」
「その声で喋るな!! 『アンタ』はトキだけど、トキじゃない……こんな気持ち悪さ、あいつに感じたこと、なかった……っ!」
「大丈夫か、サクさん。話をして整理しよう」
 頭と同時に胸を押さえながら『トカニエ』を拒絶する彼のことを案じつつ、イズマが声を掛ける。そして、他の仲間達にも視線を向けた。
 ――真実を、話してもいいかと。
 彼らと関わった機会の少ない『お母さん……』冬越 弾正(p3p007105)と『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)は、その判断を残りの仲間に委ねた。
「確かに、サクを余分な悩みから解放したいとは思ってたけど……そのためにロードをボコボコにしたいって思ってたけど……!」
 こんな方向性の、こんな形では望んでいなかった。『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)はやりきれない気持ちを吐き出したが、答えは他の仲間達と同じだ。

 今、この場で。偽りのない真実をそのまま、自分達の口から伝えようと。


「聖遺物……オレが、『聖女トカニエの心臓(セイクリッドハート)』?」
 イレギュラーズの話を聞いたサクは、しばらくまともな言葉を返せなかった。真偽を確かめるようにロードを見ても、他でもない彼がイレギュラーズに伝えた話だ。彼が否定することはない。
「だ……って、記憶、あるんだぞ? アドラステイアも、その前も……人間、として……」
「その辺りは恐らく、あなたの元になった別の『サク』か、『心臓』の主であるトカニエの記憶が混ざったものでしょう。気になるなら、この『トカニエ』から話を聞いてみては?」
 何でも無いことのように提案するロードに、当の本人から拒絶された『トカニエ』は気まずそうにサクを見る。
「トキ……とは……呼ばない方がいいのかな……。トカニエ、君は……ロードとサクのこと……どう思ってるの……?
 君は人……? それとも他の何か……なの……?」
 『玉響』レイン・レイン(p3p010586)が問うと、彼女は努めて笑って答えた。
「ロードさんは物知りで、この平和な世界を作ったすごい人! 
 サク……は、なんか……懐かしい感じはあって。サクにとっては、多分この感じが気持ち悪い……のかな」
 サクの様子を気にする『トカニエ』は彼の機嫌を損ねていないことを確認すると、追加で「私は自分では人間のつもりだけど」と続ける。
「私の心臓が聖遺物、って聞いても……よくわからなくて。聖女なんて言われても……最期に『声』が聞こえた、くらい?」
 どんな声かとレインが訊ねれば、答えたのは『トカニエ』ではなくサクだった。
「『死ぬな』、『生きろ』、『復讐を』……か?」
「そうだけど……何で知ってるの?」
「……記憶がある。どこで聞いたか、誰の声かも覚えてねえけど……ああ、これが『記憶が混ざってる』ってことか」
 『トカニエの記憶』を、『体験』として覚えている――己が『心臓』であることの証明に自嘲が溢れると、『消えない泥』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)は、しっかりと彼の名を呼んだ。
「サク。お前は、お前だ」
「わかんねえよ。どこまでがこのオレで、どこからがオレの知らない『サク』なのか、どれが『心臓』の記憶なのか。形も『心臓』も他人のものなら、『オレ』は誰なんだよ!!」
「どうでもいいんだ、そんなことは。元が何であろうと関係ない。お前は今、ここにいる自分を認識できているだろう?」
 マッダラーは、自分は泥人形だと改めて言う。体が二つに分かたれようと、意識が飛ぼうと。『ここにいる自身』を『自分』が認識する限りは、『マッダラー=マッド=マッダラー』という存在は『ここ』にあるのだ。
 それと同じだと伝えた上で、マッダラーはサクの羽織る外套を手に取る。初めて会った時、マッダラーの分裂体が彼を庇った際に付いた泥汚れが、まだそこにあった。
「この時から、お前は変わっちゃいない。俺がお前を救いたいと思った気持ちにも関係ない。お前が泣きそうな顔をしていたから、俺が手を伸ばしただけだ」
「したことねえっての、そんなツラ……」
 本人に自覚が無くとも、マッダラーはあの顔を忘れたことはない。その時に抱いた思いがあったからこそ、こんな場所まで衝き動かされてきたのだから。


 サクとマッダラーの話が進む頃、一部のイレギュラーズはロードに話しかけていた。
「知恵の樹っていうならこっちの質問を曲解したりはしないでね! こういうタイプは無駄に含みを持たせたり質問の意図とずれた答えで煙に巻くと相場が決まってるんだから!」
 アクセルが憤慨しながら確認すると、ロードは微笑んで「お望みのままに」と返すばかり。
「親切心から俺達にサク殿へ真実を伝える機会を与えたと言うが、本当にそうなのか? ……いや。俺には知的好奇心を満たす為に善意を方便に使うマッドな親友がいて。人の心へ土足で踏み込み弄り倒す手口が似ているというか……」
「奇遇だな弾正。俺も別に胡散臭い身内を思い出したりはしていないが、ロードは例え弄ぶつもりがなくとも結果としてそうなるタイプに見えてな……」
 弾正とアーマデルも彼の態度に懐疑的である。特にアーマデルは、ロードの纏う雰囲気がどうにもその身内を思い出させてますます複雑な心境なのだ。
「知的好奇心……まあ、皆無とは言いませんが。知らないまま次の戦いを迎えてしまうよりはよかったのでは?」
「そういう態度が腹立つって……ああもう、こうなったら質問攻めにさせてもらうから! ロードがサクを今の姿にしたって言ってたよね。それって、ロードを倒してもサクが消えたりはしないの?」
 アクセルが詰め寄るように問えば、ロードは実にあっさりしたもので。
「聖遺物を穢して聖痕を与える権能はルスト様のものですからね。彼自身の要因以外で消えてしまうとしたら、ルスト様の消滅くらいかと……まあ、ルスト様は実質的に不死なる方なのですが」
 穏やかに答えるロードに得体の知れないものを感じながら、弾正は気になったことを訊ねる。
「聖痕はルストの権能……じゃあ、サク殿の聖痕とは異なるトキ殿の『羽根型の痣』は何なんだ?」
「あの痣もルスト様の権能の内ですが……遂行者ではない『理想郷』の内のもの、『選ばれし人』の印と捉えて頂ければ」
 恐らくここまで彼の言に嘘はないだろう。弾正はもうひとつ訊ねた。
「その『選ばれし人』に、貴方はあの聖女たちを選んだということだな。聖女やトキ殿、サク殿への執着は遂行者の使命ではなく貴方だけの感情だろう。聖遺物を元にした貴方にも心がある証左だ。
 二人が苦しむ姿を見て、感じる事はないのか? 貴方はサク殿に命を与えた親だろう」
「……親。そう、なりますか」
 その言葉がよほど予想外だったのか、ロードは驚いたように目を開いていた。
 少し考えて、ロードは順を追って答える。
 まず、サクは自身が既に遂行者と言える聖遺物『心臓』であると知らぬまま、遂行者となることを望んだと。
 『人間』と思い込んでいたサクが遂行者に救いを見出したのは、『自分達の存在自体が間違った歴史だった』と知ったから。その間違いを直せる力が、遂行者なら手に入ると。
 神の意志の遂行者は決して楽な道ではない。それを聞いた上で、彼は――楽ではないなら、自分にしかできない、と。
「サクが苦しむのも、トキが嘆くのも、それがサクの選択です。裏切りは死あるのみ。ならば、遂行者としての道を外れぬよう示すのがわたしの役割ではありませんか?」
「そのために、サクに変な機能かなんか仕込んでない? 暴走とかネガティブ思考とか」
 警戒を解かないままアクセルが問うと、ロードは苦笑して答える。

 それこそは、彼が『心臓』とも『元になったサク』とも関係なく、『今のサク』として育んできた人間性だと。


 サクはいくらか混乱から立ち直っていたが、まだ調子は優れない様子だ。『トカニエ』という存在が、未だ『聖女の心臓』という事実を受け止めきれない彼に大きな負荷となっているようだった。
 そんな彼から『トカニエ』を隠すように腕を広げて歩み寄ったのが、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)だ。
「サク」
 彼が反応するより速く、その体を抱き締める――と見せかけ、一瞬でその手に短剣を持つ。既に至近距離まで近付いていたウェールはその短剣をサクに握らせると、その手ごと上から握って自分を刺したのだ。
 自分の胸、限りなく「心臓」に近い場所を。
「……なに、して」
「トカニエと、その心臓の痛みを感じようと思って刺されてみた。凄く……痛いよ」
 そのままでは致命傷になりかねなかった傷を、ウェールは即座に絶気昂を練ることで何とか持ち直している。
「無理矢理ならこの比じゃないだろうし、家族さえも聖女の命より神を、信仰を選んだなら心も痛い。何もできなかった心臓は、つらかったんだろうな……鼓動を止めない奇跡を成し遂げることで、トカニエに戻してもらえば蘇生できると……そう思ったんじゃないか?」
 それなら、今のトキを苦しむことなく死なせたい気持ちもわかると。憶測混じりながら続けるウェールに、サクは「わからねえ」と絞り出す。
「記憶が、ごちゃごちゃなんだよ……どれが本当に『心臓』の記憶か、わからねえ……」
「それでも、今のお前の一部ではあるだろう。だが、その思いでトキを死なせたら、お前は聖女の心臓を抉り出した大人たちと同じだ。痛みや苦しみが無くても、信仰の為だと自分達の為に聖女を殺した大人達がした事と、お前がやろうとしてる事は同じなんだ!」
 そこまで言うと、ウェールは短剣を捨ててサクの肩を強く持つ。
「今のお前には離されてもトキの傍へ行くための足が! 守る為に伸ばす手が! 聖女なんかじゃないただのトキと過ごした思い出があるだろう!!
 お前が汚染されている聖遺物だろうと、トキや俺達にとってはただのサクだ!」
「けど、トキは! オレじゃない『サク』を知ってるかもしれねえだろ!! オレは、いつから『オレ』かもわからねえのに……」
「例えそうだとしても、トキが一緒にいたいのは『今』のお前だ。お前達だけでそれが叶わないなら、オレ達に頼め! レンが人間に戻れたように、全力で助けてやる! 我が子に誓って!」
 安らかに死なせるなら、ひとつでも多くの楽しい思い出を作って、トキが天寿を全うしてからでも遅くない――そんな希望を語るウェールに、サクは俯いて首を横に振る。
「オレは待てても、神様は待たない。ならせめて、できる限り苦しまないようにするしかねえだろ」
「安らかに死ぬという事は思い残さず逝くという事。それはどう生きたかという事であり、本人の気持ちの在り方だ。生まれ方でも、生かされ方でもない」
 ましてや、他人に押し付けられる死に方などでは断じてない。
 そう口にしたのは、ビデオカメラを手にしていたアーマデルだった。
「……あ。これは膝枕のあたりの録画だ。送り先がわかれば送るぞ」
「嫌がらせかよ、消せよ。あとロードには絶対話すな。どうせあの状況作ったのあいつだろ」
 そうか……と少し残念そうにした後。再び死に方の話に戻るアーマデル。
「例えば、大切なものを守って死んだとして。『あいつの為に死ねた』と満足すれば安らかな死。『あいつのせいで死ななきゃいけなかった』と未練を抱けば安らかならざる死だ。
 サク殿、あんたはどうなんだ? あんたに殺されるトキ殿は、未練を残すことにならないか?」
「ワールドイーターは感情を食える。食っちまえば未練は残らない。……オレが、直接殺せれば」
 その口ぶりは、もうトキを殺しに「行けない」ようにも感じられて。他でもないこの少年自身に、誰よりも未練が残ってしまいそうでもあった。
「ね……サクは……ロードのこと……どう思ってるの……?」
 『トカニエ』にも同様の問いをしたレインが率直に問う。
「遂行者じゃなかったらぶっ殺してるぞあんな奴。神様を教えてくれたことは感謝してるし、嘘がない所は信用してるけど」
「神様を教えた……遂行者に誘ったことは、怒ってはいないんだね……。それでも、トキを遂行者にはしたくなかっ」
「当たり前だ。トキにはできねえ」
 食い気味になるほどの即答だった。彼女は優しいから、自衛以外で誰かと戦うことも、子供達に手を下すこともできないだろうと。
 だから、自分が遂行者になった。――結果としては、聖遺物である彼は望まずとも既に遂行者となっていたのだが。
「サクは……自分が犠牲になることで……トキを含めて、自分の理想も……子供達皆も……守ろうとしてるんじゃないかな……って……僕には見えるよ……。だから……自分のことを壊そうとしてるんじゃない……?」
「……今はまだだ。オレが死ぬのは遂行の最後って決めてる。オレが早々に死んで、残ったガキどもが世界の終わりに痛い目見るのは嫌だろ。レンみたいなこともあるし、気にはなる……けど」
 そこまで言って、彼はまた言葉を濁した。
 レインは、戦う度に形や口を失っていったワールドイーター達を思う。彼の感情を反映してきたその形は、そのまま彼の悩みの形なのではないか。
「サクにはもう……たくさん『気持ち』……『こころ』があるんだよ……。心があるのは……生き物の証……。心があるから……『自分のこころ』を元に行動出来るんだと思う……それは……間違いじゃない……」
「この世界は試験みたいに一つの採点基準でできてない。そして満点でなくても良い。君にとって、例え君自身が間違いでも、別の誰かにとっては正しかったりするんだ」
 レインとは異なる視点ながら、イズマはこれまでにも何度も繰り返してきた。間違いも正しさも唯一には定まらず、サクが拘る『消えるべき間違い』も彼の主観でしかないと。
「サクさんが間違いを嫌うのはきっと、崇高だからなのだろう。だが崇高で優しいからこそ、狭い間違いに囚われてほしくないと俺は思う」
「……そんなんじゃねえよ。オレにとって正しい神様は一人だけだ。その神様が間違ってるって言うなら、『間違いを直す』だけ。オレの意思は関係ない」
 それが、サクにとっての信仰。何と言われても譲れない、思考の柱だ。
「でも」
 ぼそりと、付け足すように呟かれたのは――信仰とは少し違うもの。名付けるなら、『願望』だった。
「ただ普通に、飯が食えて、寒くない場所で寝てくれたらって。それくらいは、オレだって思ってる」


 徹頭徹尾、ロードの掌で踊らされているようで全く不愉快ではあったが。
(樹なら……叩き折るのがやりやすいか? それとも燃やす方が効くか?)
 ここまで待機していた昴は、皆の話にこの世界の『鍵』についての手掛かりがないか耳を澄ましつつ、世界樹のように堂々と枝を伸ばす白い聖樹を観察していた。
 根は随分と太く広範囲に張っていて、根こそぎ砕くのは難しそうだ。その太い根で座ったり、遊んだりしている子供達も、場合によっては『砕く』ことになる。相手が作り物とわかりきっている以上その行為自体に躊躇いはないが、『それをさせようとする』意図には虫酸が走る。こちらが良心と戦う様子を楽しもうと言うのか。
「この樹を破壊して済むなら、それが一番いいが……」
「何なら、ロード本人の代わりに殴っておきたい気持ちもあるよね……本人にダメージは通らないだろうし、通過儀礼的なものだってわかってるけど!」
「物理的な破壊は最終手段としたいが……ロードに関しては同じく」
 昴の呟きに、アクセルとアーマデルが同調する。そこへ、同じく聖樹を調べていた弾正が首を捻った。
「どうにも……厚みがないと言うか」
 弾正は既にこの世界のあらゆる音のエネルギーを調べた後だったが、どれも中身がなく『薄っぺらい』のだ。この聖樹さえ例に漏れない。
「何をしているかと思えば」
 イレギュラーズの関心が聖樹に集まっているのを見て、ロードも同じ樹を見上げる。そこへ、イズマが訊ねる。
「ロードさん、ここはどんな理想郷なんだ? 貴方の望む理想を聞きたい」
「俺は少しわかるぞ。聖女トカニエが子供たちと楽しく生きている。大人の姿は無く、お前は罪と向き合い続けられる……どうだ」
 マッダラーが確認すれば、ロードは「半分ほどは」と部分的に肯定する。
「わたしという樹は元々、小さなものを支配する世界樹の姿を望んでいたようで。聖堂となり、トカニエの死を経て、『復讐』を行った焼け野原に新たな命が芽吹いた後の世界……そんなところでしょうか」
「樹木とは差し伸べる手を持たず見守るもの、だ。我が神がかつてそうであったように。
 この世界のお前は見守るどころか、人へ『復讐』したのか?」
 ロードとアーマデルのやり取りに、イズマが思い至る。
「……集落を聖堂ごと焼いたのは、貴方か」
「はい、この姿を得てすぐ」
 その『復讐』を語る時でさえ、ロードは貼り付けた笑みを崩さなかった。
「……この世界のトカニエさんの痣も、サクさんの聖痕も鳥の羽根だな。あれは『同じ鳥』なのか?」
「それについては、わたしにも確かなことは」
 ただ、『不死なるもの』という一点に於いて共通点はある、と。イズマの問いへロードが推測を返すと、レインが切実に問うた。
「ロードは……『祈りと願いを糧とする』って言ってた……此処では……誰の願いが養分になっているの……?」
「ここはわたしの理想郷ですから、わたしの願いかと」
「じゃあ、ロードが願えば……ここでなら、サクは自由になる? トキを守りたい……ロードの事も裏切れない……僕達との関係性も出来始めてる……サクは雁字搦めだ……自由にしてあげたいな……」
「……ある意味、あなた方が来るまでは叶っていましたよ。トカニエの膝から目覚めなければ」
 そんな苦しみもまた、彼の選択だと。ロードは金の眼を閉じる。
「遂行者の先には……何があるの……? サクは、戻ってこれるの……?」
「我らの先は、我らの神のみが知るところですが。遂行者は――」
 パキ、と。耳元で薄氷を踏み抜いたような音がして景色が剥がれ落ちていく。『鍵』が壊されたようだ。
 破壊された『鍵』は、世界を支えていた聖樹。城をも破壊する昴の鋼覇斬城閃が打ち砕いたのだ。
「おや、気付きましたか」
「自分で集落を焼いただけのことはあるな。火炎に耐性を持つ樹とは。だが」
 とどめとばかりにもう一撃。残っていた残骸を踏み抜けば、景色の崩壊はさらに進んでいく。
 この樹が駄目ならこの理想郷の子供全てを殺し尽くす修羅となる心積もりまでしていた昴だが、そうまでせずに済んだのはこの理想郷で唯一の幸運だった。
「上位者を気取っていられたのも今回だけだ……次は覚悟しておけよ」
 ありったけの殺意を込めて睨み付けた後、昴の姿が理想郷から離脱する。ロード曰く、この崩壊は理想郷が壊れているのではなく、イレギュラーズが理想郷から隔離され離脱していく際にそう映るらしい。他のイレギュラーズも離脱していくなか、最後にマッダラーが言葉を残していった。
「ロード。聖女トカニエはもういない。トキは彼女とは違うし、サクはもうちゃんと一人の存在として生きている。
 お前の理想のために、若者二人の生き方を年寄りが邪魔立てするなんて、許されると思うなよ」
「生きることは夢見ること。殊更阻みはしませんとも。ただ」

 ――夢とは、現実の前に砕け散るものですので。

成否

成功

MVP

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼

状態異常

なし

あとがき

お待たせいたしました。
たくさんの思いをありがとうございます。
鍵は「こんだけ堂々とあからさまでありきたりな設定なら逆に狙わんやろ」してた聖樹でした。
次! 次で殴れますので!
称号は、興味を抱くに至った貴方へ。

思いは届いたのかどうか。
少年の物語は、『最後』へ。

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