PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<尺には尺を>茶会か諍いか

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 ――仔羊よ、偽の預言者よ。我らは真なる遂行者である。
 ――主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ。

 この神託により、天義で起きている混乱が続く。
 天義の騎士団が黒衣を纏い打ち払わんとするのは、神の国を現実に降ろさんとする遂行者達。
 様々な手を講じる彼らに対し、イレギュラーズはそれらにほぼほぼ対処することで深刻な事態を避けていた。
 しかし、シュアキム六世に謎の神託が下りる。
 それを受けてか、次は神の代弁者たる黒衣の騎士を解き放つ遂行者。
 騎士らもうまく対処していたイレギュラーズだったが、遂行者が売った更なる手によって事態が大きく動く。
 遂行者ヨロによる直接のオファー。
 それに応じたイレギュラーズの内、2人が離反。
 聖女の薔薇庭園に残った他メンバーは遂行者の開く茶会に参加し、そのまま保護という名目で捕らわれる形に。
 一方で、帰還したメンバーとシャアキム六世に届けられた招待状。
 ただ、神の国は異言や原罪の呼び声で満ち、騎士団などが魂を侵されてしまいかねない。
 それでも、庭園への道を切り開いて招かれたメンバーの退路を確保し、合わせて『冠位魔種』ルスト・シファーを表舞台に引きずり出すべく、神の国へ。
 至ったティリム大神殿を攻略し、庭園にいたイレギュラーズとの合流に至った。

 さて、聖域とされた聖女の薔薇庭園は得意な時間が流れているらしく、更なる深層に向かう必要があるとのこと。
「何重にも『施錠』された階層には様々な光景が広がっているそうです」
 『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)が集まったイレギュラーズへと状況説明する。
 黄金色の草原や晴れ渡った空、白亜の宮殿を中心に、遂行者らが思い描く様々な空間が広がっている。
「なんでも、それは理想郷とも謳う者もいるのだとか……」
 ――失われる命など何もなく、真なる主が選び掬った命は全てが全て永遠。
 ――この地にいる者に格差などなく、全て望むがままに平等。
 『選ばれし人』と『神の意志を遂行する遂行者』達による理想郷には一体何があるのか。
 そして、その奥へと進む為の鍵を手に入れる必要がある。
「何が起こっても対応できるよう、準備は怠りませんよう願います」
 神の国へと赴くイレギュラーズをアクアベルは精いっぱい激励し、送り出すのだった。


 テュリム大神殿に存在する創造の座。
 イレギュラーズはそこから、アクアベルの説明にあった深層を目指す。
 先へと進むメンバー達は、あちらこちらで幸せそうに過ごす人々の姿が目に入る。
 ふふふ……。
 ああ、楽しいなあ……。
 満足そうに微笑み、穏やかな時を過ごす者達。
 ある者は家族と過ごし、別の者は愛犬や愛猫に囲まれて過ごす。
 スイーツを食べまくる者がいれば、全力で物事に打ち込む者達も。
 幸せというのは人それぞれということだろうか。
 ただ、この幸せそうな空間において、イレギュラーズは歪な『原罪の呼び声』が聞こえ、気味の悪さを感じてしまうのが気になるところ。
 そこで、イレギュラーズの中にふと思い浮かぶフレーズ。
 ――汝のくだす裁きで汝も裁かれ、汝の量る尺で汝もまた量られるだろう。
 とある世界で、聖書におけるその1節に問題提起をしていたのはシェイクスピアだったか。
「今は、関係ありませんわ」
 『『蒼熾の魔導書』後継者』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)がそっけなく告げたのは、彼女がとある人影を見つけたからだろう。
 公園のようになった一区画。
 その空間には多数の子供達がはしゃぐように遊び回っていた。
 中には、先日討伐したはずの致死者ジョエルらしき子の姿も……。
 公園の中央にはいくつかの人影がイレギュラーズの来訪を待ち構える。
「来ましたわね」
 不敵に微笑むのは修道服姿をしたリドニアの姉、ルニア。
 遂行者の纏う白衣に身を包むナーワル。
 その2人を、リドニアは睨みつける。
「さて、お気に召しましたかしら。遂行者が作り出した理想郷は」
 この場はナーワルが創った空間という事か。
「…………」
 それにしては、遂行者ナーワルは笑顔こそみせるが、陰鬱とした態度を見せている。
 おそらくは、自身……碧熾の魔導書を完成させるモノに乏しいと感じていたからだろう。
「……折角ですから、お好きなお茶でもてなしくらいは致しましょうか」
 近場で遊んでいた子供達のうち数名がこちらへと近づいてくる。
 手早くテーブルを組み立て、設置された椅子にナーワルもルニアも腰かけ、イレギュラーズにも座るよう促すが……。
「こんな茶番につき合えと?」
 リドニアは反発するが、会話するまたとない機会ともとれる。
 あまり期待はできないが、何か情報が得られるかもしれない。
 ただ、ナーワル、ルニアは周囲の子供達に加え、後方には黒騎士と炎の獣が確認できる。
 さらに、ジョエルらしき姿と合わせ、アドラステイアの騎士を思わせる姿をした子供達も、戦いになれば加わってくることだろう。
 先に進むことを考えれば、この場を突破したい所だが……。
「言っておきますが、神に選ばれた私達を倒すことなどかないませんわ」
 自信たっぷりなルニアの態度が気になるところ。
 少しでも情報を得るべく戦うのも選択肢としてはありだろう。
「さあ、いかがしますか」
 楽しそうに笑うルニアに対し、少し陰鬱とするナーワル。
 彼女らの誘いに乗るべきかどうか、イレギュラーズはしばし思案するのである。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 <尺には尺を>のシナリオをお届けします。
 リドニア・アルフェーネ(p3p010574)さんの関係者シナリオです。
 
●概要
 公園に子供達が遊ぶ光景の中、遂行者ナーワル、魔種ルニアと対します。
 希望があれば茶会の誘いに応じられますし、2人と交戦も可能です。
 なぜか彼女達は自分達を倒せはしないと自信ありげですが……。

●敵
 戦いとなる場合、ナーワルの引き連れた預言の騎士に加え、ルニアと対することになります。
 なお、ナーワルは戦いにあまり乗り気ではないようです。
 理由は不明ですが、この空間内では2人を倒すことはできません。

〇遂行者:ナーワル
 20歳、リドニア・アルフェーネ(p3p010574)さんの関係者です。
 「碧熾の魔導書(ブレイジング・ブルー)」と呼ばれる魔導術式が人形となった存在で、炎の使い手です。
 また、様々な勢力の手勢を呼び寄せ、手駒としています。

〇ルニア・アルフェーネ
 リドニア・アルフェーネ(p3p010574)さんの姉。
 魔種となっており、強大な力を有しています。
 『星灯聖典』に身を置き、様々な働きをしているようです。
 身体から発する蒼い靄を使って攻撃してきます。

・『選ばれし人』×7体
 この地に招かれた子供達。致死者ジョエルを思わせる姿も。
 アドラステイアの騎士を思わせる姿をしております。
 片手剣や片手槍など、小回りの利く武器と合わせ、盾を使って殴り掛かってくることも。

・黒騎士×2体
 病原菌をばら撒く恐るべき騎士。
 加えて、闇の力を纏ったポールアックスを振るって様々な状態異常へと陥らせてきます。
 闇の力はボール状にして投擲も可能なようで、距離をとっても油断なりません。

・炎の獣×2体
 赤騎士が作り出した存在。
 今回は燃え上がる仔馬のような姿をしております。
 炎を操るのと合わせ、突進、嘶きといった手段での攻撃も行います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

 それでは、よろしくお願いします。

  • <尺には尺を>茶会か諍いか完了
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年11月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
たったひとつの純愛

リプレイ


 テュリム大神殿創造の座から奥。
 その深層は一見すれば穏やかな場所だった。
 青空の下、広がる黄金色の草原には笑顔で寝そべる人影がある。
 また、ある場所には公園があり、子供達が楽しそうに走り回っていた。
「あらあら……この場所はなかなか面白い状態になっているみたいねぇ……」
 『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)はこの光景に少なからず驚く。
「ほんと、とても複雑」
 『ヴァイス☆ドラッヘ!』レイリー=シュタイン(p3p007270)も戸惑いを隠さない。
 確かに、こういう世界も良しと彼女は考える。
 だって、皆で心穏やかに争いもなく暮らしているのだから。
「それはとても平和な世界じゃない?」
「理想郷っスか、願った世界が叶うと言えば聞こえはいいんスけど、これじゃまるで……」
 ただ、『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)の含みある言葉に、レイリーも頷いて。
「だからこそ、それは違和感に思えるよね……」
 楽しそうな笑い声が聞こえてくる中、『無職』佐藤 美咲(p3p009818)は考察する。
「とにかく、ここはアウェーグランドってのは忘れちゃならんな」
「ここにいる人たちが完全に無害とも言い切れないし、そもそも状況もあまりよくはないし」
 周囲に原罪の呼び声が響くのに気づく葵に同意見のヴァイス。
 女性2人の後ろに控える騎士や獣は現状動く様子はない。
 相手に戦うつもりがないのなら、こちらを解放してほしいものだと考えるが、果たして。
 『『蒼熾の魔導書』後継者』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)は『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)らと共に逃走用の経路や出口をチェックしていたが、そこで、露骨なまでに前方にいた者達へと嫌悪感を示す。
「お気に召しましたかしら」
 不敵に微笑むルニア・アルフェーネと不満げに俯く遂行者ナーワル。
 それらが茶会へと誘うこの状況はリドニアにとって茶番でしかない。
「そもそも貴方たちとゆっくりお茶会して、我々になんの得がありまして?」
「まー、理想の国というのは精神攻撃としてはそれなりに効果が高い『はず』なんでしょうけどね」
 個人的な関係性というのはそれを凌駕するのでは ないか。
 美咲が天儀事件に踏み込もうと思ったのは、今となっては個人的なあれそれが理由だったのだとか。
「考えるまでもなく何か裏があるっスねコレ……」
 過去に何回か騒ぎを起こしておいて、今になって平和にお茶会の招待。
 葵は仲間と共に、疑いの目を相手に向ける。
「言っておきますが、神に選ばれた私達を倒すことなどかないませんわ」
 自分達を倒せはしないと、自信満々なルニア。
 それがハッタリではなさそうだと『ポロキメン』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)も察する。
「神に選ばれたから倒す事など……ねぇ。とんだ傲慢な自称神だよ」
 現地点で推察したのは、『何でも叶える訳ではないし全部の願いが叶ってる訳でもない』ということ。
 他の遂行者は分からないが、ナーワルが不満そうなのがその証左だとヨゾラが指摘する。
「まあ、ムカつく事に姉様の言葉を信じるなら、此処で殴り合っても我々に勝ち目がないと」
 一つ溜息をついたリドニアは真っ先に卓へとつく。
「良いでしょう。付き合いましょうかその茶番」
 ただ、紅茶飲んで上っ面の笑みで寒い茶会なんぞ付き合えないと、リドニアは持ってきた瓶をドンとテーブルに置いて。
「酒でも飲んで、本音だけで語りましょうよ。姉様。ナーワル」
 そんな妹の態度に若干眉を吊り上げるルニアに対し、ナーワルは初めて小さく微笑んだのだった。


 メンバー達も顔を見合わせて、どうするかと目配せする。
(なにか仕掛けがある。でも今はわかるだけの情報が足りない)
 そんなココロの意見にヴァイスも同意する。
(何も考えなくてもいいなら気軽にお茶会の席についてもいいのだけれど、そうも言ってられないのよね)
 とりあえずはここについて少し探ってみようとヴァイスが促すと、ココロも椅子をゆっくりと引いて座る。
「お招きいただきありがとうございます。初めまして、ココロです」
「私はレイリー=シュタイン。今日はお誘いありがとう。楽しみましょうね」
 同じく、敵との交流が大好きだというレイリーもまた前向きに参加する様子。
 さて、先ほどリドニアが大きな音を立てておいたのは、アルフェーネワインだ。
「飲めないとは言わせませんよ? 毒なんぞ入っててもあなた達に効きやしませんでしょう」
「ええ、いただくわ」
「……フン、いいですわよ」
 少しは楽しめそうだというナーワルも注いだワインで口を潤す。
 ルニアはリドニアの態度は気にくわぬようだったが、妹が提供したワインはしっかりと飲んでいた。
 手土産は、『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)やレイリーも所持していた。
「茶会に参加するには、手土産は必須じゃからな!」
 ニャンタルが持ち寄ったのはあんころ餅。
 茶にも合うと考えての品を、ナーワル、ルニア両名に2本ずつ用意していた。
「ここは素直に感謝しておくわ」
 気を取り直し、ルニアがニャンタルにそう告げる。
「美味しいお菓子よ、君達も食べる?」
 レイリーは所持したクッキーをナーワルへと差し出し、周囲で遊ぶ子供達にも与える。
 倒したはずの致死者ジョエルを思わせる少年と合わせ、子供達は楽し気にそれらを分け与えていた。
「勝ちを引き出すのは武器によるだけではありませんよね」
 警戒していない、くつろいでいる。
 そう思わせてこそ、引き出せる話もあるとココロは主張し、相手の用意していた茶菓子もいただく。
 なお、相手は紅茶と合わせ、焼き菓子を提供する。
 その味は上品なもの。
 少なくとも、女性2人はイレギュラーズを客人としてもてなそうとはしているらしい。
 だが、イレギュラーズとて、敵が主催する茶会を全肯定する者ばかりではない。
 例えば、ヨゾラなどは敵が提供する飲食物を手に取ろうとはしない。
「こういう経験ねぇんだよな、何か作法とかあんのかな」
 参加自体は素直にしていた葵も同様に、ルニアが差し出す茶菓子は口にしようとはしない。
 葵はさらに、他の仲間と同様に理想郷なるこの場所の環境について確認する。
 入口や出口、そして座席の位置、空間における茶会の場所と敵の位置……。
(素早く逃げることは感がなければいけないっスね……)
 その判断はギリギリまで引っ張ろうと彼は決めていた。
 ともあれ、この場は美咲に促される形でレイリーが口を開く。
「この理想郷について教えてよ、みんな幸せに暮らしてるようだし興味あるの」
「ここは選ばれた者に神の恩寵が与えられるのですわ」
 この公園は子供達の憩いの場となるよう、遂行者ナーワルがつくった場所だとルニアは笑いながら語る。
「ここにいるだけで、皆幸せになれるのですのよ」
 選ばれし者であるルニアもまたこの場所でこれ以上ない幸福感を抱くことができているという。
(うわー、驕り昂るってこういう感じかぁ……)
 ヨゾラは冠位傲慢の威を借っている印象をルニアに抱く。
「……自分達自身の力じゃないのによく驕れるね?」
 だが、神に選ばれたという高揚感からか、メンバーの手土産を食べるルニアにはどこ吹く風といった感である。
 それだけに、彼女から有用な情報は得られないだろうとヨゾラは判断し、質問する対象にも入れてはいない。
「幸せ……ね」
 レイリーは思う。
 果たして、この世界へと招かれたあの子供達や、他の場所にいる人々に意思や夢はあるのか、と。
(もしも、それすら与えられるだけならそれは違うと思う)
 ――夢は見るまでもなく叶えるものというのがレイリーの持論であり、だからこそ皆の夢を護りたいと彼女は考えている。
「んー、なかなか美味いのう♪」
 ニャンタルは用意された焼き菓子を美味しそうに頬張りつつ、会話に耳を傾ける。
(ふむ……)
 それだけでなく、ニャンタルは女性2人の所作をぼんやり眺めたり、言葉の強弱をチェックしていた。
 言葉の強弱は、其の者の頭ん中を知る為の1つ。
 ニャンタルはそう疑わず、相手の興味の有無まで聞き分けていた。

 鼻を高くしていたルニアはさておき、一行の質問はメンバーの土産を口にしていたナーワルへと集まる。
「ナーワルさん、理想郷の”理想”とは何だとおもってますか?」
 ココロは一つ質問を投げかけ、皆に周囲を見るよう促す。
 呼び声はさておき、光景だけなら平和そのもの。
 子供達が楽しそうに遊ぶ様子など実に微笑ましい。
「なんか此処ってすごく平和な感じしますが、神の国ってこのような感じなのですか?」
「それは神に選ばれてこそ、知りえることです」
 さらりとはぐらかすナーワルはイレギュラーズから視線を反らしたまま。
 ココロは今まで見てきた遂行者達の発言を思い返し、何か裏があると怪しむ。
(何か、恐ろしいデメリットが……)
 ナーワルも属していたアドラステイアの一件はちょっと前の事なのに、随分と昔の事のように思える。
 あの子供達はその大多数が命を落としてしまっているが、もしかすると……。
「死は救済とは思えませんが、神の国に死はあるのですか?」
「どうでしょうね」
 なお、この理想郷は自身が創ったとナーワルが断言する。
「少なくとも、神に選ばれれば死ぬことはありません」
 仲間達が気を引いている間に、個々にやってきた経路をチェックし直していた美咲。
 この空間の侵入口に残した二十二式自動偵察機の状況も美咲は監視しており、脱出に支障が発生していないかを確認を怠らない。
 関係者とあって最も危険と判断したリドニアの傍へと、美咲は待機する。
 会話は皆に任せていた美咲だったが、ここぞと問いかける。
「ぶっちゃけ倒しても復活するんでしょ?」
 根拠はない。美咲にとってもカマかけだったが、ナーワルは大きく頷く。
「ええ、この理想郷内部なら、私達があなた様方に倒されることは万に一つもありません」
 そこについては、ナーワルははっきりと断言する。
 リドニアが冷ややかな視線を向けていたが、ナーワルはそんな彼女に小さく笑みを浮かべる。
「やはりのう」
 自ら持ってきたあんころ餅ももぐもぐと食べながら、ニャンタルは元々聞いていた噂が正しかったことを確かめて。
「なら、お主等は最初から死んどるんか?」
 直球な質問をぶつけると、ナーワルは涼しい顔をしていたが、ルニアは苛立ちげに叫ぶ。
「冗談じゃありませんわ!」
 だが、ニャンタルは事もなげに続ける。
「其れ共、理想郷自体が傲慢の塊みたいなもんじゃから、あちこちにある理想郷全てが冠位傲慢の腹ん中とかか?」
 はたまた、「『理想を映す』事自体」が冠位傲慢の力其の物か。
 ニャンタルは自身の推論が正しいかどうか、ルニアでなくナーワルへと確かめようとする。
「ただ平和的に話して仲良くしようってクチじゃないっスよね、何が目的だ」
 彼女達にとって、有利に事を運びたい事があるはずと葵が指摘した。
 2人の問いに、ナーワルはにやりと微笑んだ。


「貴方達は、お話してくれるかしら?」
 ヴァイスもそんな仲間達の話の合間に、ギフト『薔薇道化の存在証明』を使ってこの空間自体に問いかける。
(この空間はどういったものなの?)
 ここは理想郷……。
 皆が至福を享受できる場所……。
 すると、周囲から聞こえてきたのは、この場はナーワルが創りだしたものという答え。
 ヴァイスもまた感覚を働かせ、退路のロケーションに意識を向けていた。
「少し話してみない?」
 レイリーも話の合間に子供達と交流していた。
 彼らは異言と語るが、ナーワルのチューニングのせいか、普通の言葉として聞き取ることができた。
 ここはいっつもお腹いっぱい食べられる。
 皆と争うことなく遊んで暮らせるんだ。
 ニャンタルもそこで、ジョエルらしき少年に飴を与えて頭を撫でていた。
「ねぇ、大人になったら君達は何になりたい?」
 そんな レイリーの問いに、子供達は今が楽しければという言葉もちらほら。
 多福感に包まれた彼らは将来の事など考えられず、今の時を楽しみたいという気持ちに溢れていた。
(『理想郷』……誰か1人でも当てられたなら)
 冠位魔種の権能にか関することであるならと、レイリーも周囲の言葉から察してはいたが、ちょうど、ニャンタルや葵がナーワルへと直接切り込んでいた。
(どう出るかしら)
 レイリーが気にかかっていたのは、遂行者らの言う『正しい世界』。
 なにせ、混沌を正しい歴史にするために犠牲を厭わない者達なのだ。
 争いのない平和な世界、自分達の理想。
 それがどう傲慢と繋がるのか。
「理想郷、外面はいいっスけどね。でもこれを受け入れるのは、逃げてるように感じるんだよな」
 現実を直視したくない。
 だから手っ取り早く願った現実を見たい。
 そんなところだろうかと葵は推論を語る。
「ナーワル……この空間の構築、明らかに君の趣味じゃなさそうだけど?」
 ヨゾラもまた、公園で駆け回る子供達の光景を創ったのがナーワルと聞いても、納得していない。
 先の事件で、赤子の命名式に襲撃をかけたこともあったのだ。
 苦痛などを求める行動とは一致しない。
「違っとったらスマンが、お主が退屈そうなのは、理想より現実のもんに興味があるからじゃろう?」
「鋭いですわね」
 ナーワルはニャンタルの指摘ににやりと笑うが、どの辺りがとまでは答えなかった。
「もしかしてさ……傲慢側が求める形式の世界以外は作れなかったりする?」
 ヨゾラの指摘に、ナーワルは苦笑する。
 確かに、ナーワルはこうした理想郷を思い描いた。
 だが、この空間内では、永遠に自身は……碧熾の魔導書は永遠に完成しない。
(ここはアイツが望んだとは考えにくいよな)
 葵もそれは考えていたし、濁した地点で裏がありそうだと気づく。
「……君、奴等に与してて死なない以外で良い事あるの?」
 そのヨゾラの問いは、リドニアが小声で答える。
 ナーワルはその方が手っ取り早く負の感情を集められると考えたからだ。
 なるほどと頷くヨゾラは質問を変える。
「冠位傲慢の目的って何? 混沌全土を理想郷とやらで上書きする事?」
「私に神様の御心など、分かるはずもありませんよ」
 理想郷の構築は冠位傲慢の思惑だとヨゾラは考えていた。
 にもかかわらず、外様のナーワルが遂行者に組した理由がヨゾラには気になって。
「滅亡から選ばれた自分達だけ逃れられると?」
「私は自身が完成すれば、その後のことは関係ありませんので」
 あくまでナーワルの本質は魔導書。
 その後の世界のことまで、感知する気などないのだろう。
 この辺り、彼女も傲慢さなのかもしれないとヨゾラは推し量る。
「貴方、遂行者やめません?」
 そこで、リドニアが唐突に提案する。
 彼女が完成する環境さえ整えば、遂行者である意味はないとリドニアは踏んだのだ。
「ありったけの『他者の痛み』『恐怖』『憎しみ』が集まる場所がありますわよ。……ローレットの依頼です」
 あそこほど、負の感情が集まる戦場はなく、貴方が所属すれば何の問題もないとリドニアは雄弁に話す。
 この展開に、序盤のやりとり以後、蚊帳の外になっていたルニアが割り込む。
「ちょっと、私にはないんですの?」
「ああ、姉様はダメです」
 だが、リドニアはばっさりと否定する。
 なぜなら、魔種と化している上、そもそも邪魔だとルニアを斬り捨てた。
「特異運命座標にならなかったら今頃クソつまんねえ生活でしたわねえ。ようやく言えますわ」
「なっ……」
 リドニア曰く、ルニアが彼女を殺したいほど憎んでいるのは、結局のところ逆恨みもいいところ。
 血が滲むほど努力したからこそ、リドニアは蒼熾の魔導書を継承出来たのだ。
「貴方はただ引き籠って、ただただ既存の魔導書を研究し続けるだけ」
 死にかけたこともないようなぼんくらのエリート様には当然の結末とリドニアが呆れれば、ルニアは顔を真っ赤にして。
「神に選ばれもしなかった奴が偉そうに……」
 そのルニアの態度がヨゾラに改めて嫌悪感を抱かせる。
(その神から見放されたり、選ばれた部分の接続が断たれたりしたらどうするんだろうね)
 もっとも、ルニアは魔種になったことで、青い靄を操れるようになっており、問題ないのかもしれないが……。
「……調子に乗ってるとえらい目に遭うと思うよ」
 その忠告すら、傲慢になっているルニアは聞き入れようとしない。
(リドニア氏、今なら)
 美咲の合図を、葵も確認する。
 ココロやレイリーが立ち上がる中、そろそろ潮時と判断したリドニアは中指を立ててみせた。
「後悔しますわよ……!」
 全身から靄を現したルニアに嘆息したナーワルが炎を燃え上がらせ、メンバーも後ずさる。
「お茶会は終わり? それならみんなで帰らせてもらうわよ」
 ここぞとレイリーが敵の前に立ちはだかると、手早く茶会用のテーブルを片付けた子供達と騎士、獣が並び立つ。
「ヴァイス☆ドラッヘ! 仲間を護るため只今参上!」
 敵意を集めるレイリーの隣で、葵もまた身構えて。
「オレは大丈夫っス、アンタ一人に無茶はさせられねぇっつの」
 葵もまた至高の軍勢と共に、ひとまずの抵抗を始める。
 刃を抜く子供達。黒騎士が病原菌をばら撒き、炎の獣が炎を放つ。
 ナーワルは戦況を窺っているが、いきり立つルニアは靄を複数の槍の如く具現化させて突き出してくる。
 盾役がそれらを受け止める間に、素早く突撃戦術をとる美咲に合わせたメンバーが攻撃しつつ後退する。
 それに合わせ、リドニアが引き撃ちし、ヨゾラも星空の泥を放ってそのまま後退する。
 ヴァイスも刃は抜くが、勝ち目はないと判断して暴風を生み出す。
 敵を後方へと吹き飛ばせば、そのまま逃げやすくなる。
「あ、この世界から出るのに扉はあるかの?」
 我らを追い返すならwin-winだと、ニャンタルは微笑み、前方へと黒い顎をけしかけた。
 ココロは回復も考えるが、できるだけルニアの靄を消すように魔砲を発する。
 多少靄が消えているのを視認し、自己強化している部分があるとココロは視認していた。
「次に会う時はぶちのめすから」
「次は殺します。二人共確実に」
 ヨゾラ、リドニアが撤退したのにヴァイスも続く。
「またな」
 ジョエルらしき相手に呼びかけ、ニャンタルも身を退く。
 皆が撤退したのを確認し、敵の猛攻にパンドラを砕きつつ耐えていた葵も全力でダッシュした後、レイリーは愛馬に跨り、途中で葵を乗せて退却する。
「全く、逃げ足だけは早いですわ……!」
「…………」
 苛立つルニアの横、ナーワルは何かを思い悩んでいたようだった。

成否

成功

MVP

ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!

状態異常

なし

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPは鋭い指摘をした貴方へとお送りします。
 今回はご参加、ありがとうございました。

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