PandoraPartyProject

シナリオ詳細

踊るアンデッド軍団。或いは、死者と踊ろう…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●アンデッド・フィーバー・ナイト
「先生、これはいったい?」
 エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)は困惑していた。
 ところはラサ。砂漠の片隅にある小さな建物。名を「野干診療院」という砂漠の小さな診療所である。
「いやぁ、知らんなぁ。なにこれ?」
 エントマに言葉を返すのは、黒い肌の女性であった。金の髪に金の瞳、薄い布のゆったりとした衣服を纏った薬草の匂いがする女だ。頭頂部からは、尖った耳が伸びている。
 彼女の名はヌビアスという。
 「野干診療所」ただ1人の住人にして医者である。
 診療所の前に立ち尽くし、エントマとヌビアスは目の前の現実……悪夢のようだが…… を凝視していた。

『皆ぁぁぁ! 生きてるかぁぁ!』

「いぇいー!」
「ふぅー!」
「生きてるー!」
 
「いやぁ、生きてはおらんよなぁ」
「生きてはいないねアンデッドだし」
 
 エントマとヌビアスの前にいるのは、20を超えるアンデッドの群れだった。アンデッドたちは輪を作って、腕を振り上げ叫んでいるのだ。
 イキイキとしている。
 身体はすっかり干からびているし、ところどころ骨も剥き出しになっているが、イキイキとしている。きっと砂漠のどこかで息絶えて、今まで放置されていた遺体たちなのだろう。
 そんな哀れなアンデッドたちだが、ともすると、生前よりも活き活きしている風である。
 アンデッドたちが現れたのは、今から1時間ほど前のこと。日が暮れて、辺りにすっかり闇の帳が落ちた頃、砂漠の果てより現れたのだ。

『盛り上げてこうぜーーーー!』

 アンデッドの群れを先導するのは、1体の身なりの良い遺体である。
 身に纏う豪華な衣装や装飾品の類から察するに、どこかの古い遺跡辺りに埋葬されていた貴人のアンデッドなのだろう。
「私のハンドマイク、持ってっちゃうし」
 貴人アンデッドの手には、エントマ愛用のハンドマイクが握られている。
 掠れた声をハンドマイクで拡大して、オーディエンス(アンデッド)を煽っているのだ。
 思えば、アンデッドたちは最初から活き活きしていた。エントマを全速力で追いかけて、その手からハンドマイクを奪い去った。
 それから、何を思ったのか歌って踊り始めたのである。
 腕を振り上げ、肩を組んで、足を上げて、ステップを踏んで。
なんとも楽しそうではないか。
 まるでクラブか何かで行われるダンスパーティだ。
「お前、変なものを診療所に連れて来るんじゃないよ。なぁ?」
「襲われてるんだと思ったから。逃げて来たんだよ」
「診療所に逃げ込んだって、あの数相手じゃ数分も持たんよ。幸いなことに、歌って踊っているだけだがなぁ」
 呆れたように溜め息を零して、ヌビアスは言った。
 遺体であるなら埋葬もしてやろう。砂漠を彷徨う哀れな死者を弔うことに何の躊躇いだってない。とはいえしかし、これはもう、あんまりじゃないだろうか。
 アンデッドたちは人を襲う風じゃない。
 だが、煩いのだ。
 そして、妙にダンスのキレがいいのだ。

『騒いでいこうぜぇぇ!』

「「「あんでーっど!」」」

 生前に友人や知人であったわけでも無いのに、どうしてこうも息が合っているのだろうか。
「とりあえずお前さん、どうしたいかなぁ?」
「とりあえずハンドマイクを返してほしいかな。あれ、けっこう高いんだよ」
 困ったように頭を掻いて、エントマは片手を開閉していた。
 いつもそこにあるハンドマイクを奪われて、どうにも落ち着かない気分なのである。

GMコメント

●ミッション
エントマのハンドマイクを取り返す

●アンデッドたち
・貴人のアンデッド
エントマのハンドマイクを奪った張本人。エントマの許可なく持って行ったので、エントマは大層困っている。
身なりがよく、高価な装飾品を身に着けている。おそらくどこかの遺跡に埋葬されていた貴人のアンデッドだと予想される。
現在は、アンデッドの群れを煽って騒いでいる。
音楽を流すための機材や楽器は存在しないため、ボイスパーカッションを織り交ぜている。

・アンデッドの群れ×約20
砂漠のあちこちから集まって来たアンデッドの群れ。
干からびていたり、一部が骨だったりする。
貴人アンデッドに先導されて、イキイキと歌い、踊っている。

●フィールド
ラサの砂漠。
野干診療院とその周辺。
診療所の裏手には墓地、横には井戸や果樹園などがある。
診療所正面は砂漠となっている。時刻は夜。
正面の砂漠では、約20体のアンデッドたちがダンスパーティを開催している。


動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】アンデッドの群れに追いかけられた
アンデッドの群れに追いかけられて野干診療院に辿り着きました。

【2】怪我or遭難していた
砂漠で怪我、もしくは遭難していました。野干診療院を見つけ立ち寄ったところ、アンデッドのパーティに遭遇しました。

【3】その他の個人的な目標のため
アンデッドの中に知り合いがいるようです。


ナイト・フィーバー
アンデッドたちはパーティを止めません。適当に合わせて、エントマのハンドマイクを回収しましょう。

【1】遠目に眺める
歌い、踊り、騒ぐ奇妙なアンデッドを遠目に見ています。近寄らんとこ……と思っています。

【2】一緒に騒ぐ
アンデッドと一緒に騒ぎます。彼らがとても楽しそうだったからです。

【3】酒を注ぐ
きっとアンデッドたちは夜明けまでに成仏することでしょう。手向けに酒の1杯ぐらいは注いでやってもいいかもしれません。

  • 踊るアンデッド軍団。或いは、死者と踊ろう…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年11月03日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
オセロット(p3p011327)
譲れぬ宝を胸に秘め

リプレイ

●アンデッド・フィーバー・ナイト
 猿も木から落ちる、ということわざがある。
 河童の川流れ、ということわざもある。
 どちらも豊穣の地で使われることわざであり、以下に得手でもふとした瞬間に失敗し、痛手を負うこともあるという意味である。
 さて、となれば砂漠の土地ではどうかと言えば、まさに今現在、『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)の置かれた状況がそれである。
「足を痛めたところで病院があるって知って来たんだが」
 生まれてこの方、長く砂漠の地を生きて来たラダにしては珍しく、流砂に足をとられて膝を怪我しているのだ。
 歩けないほどではない。
 走れないわけでもない。
 だが、確実に無茶をすれば怪我が悪化し、完治までの期間が長くなるであろうことは明白。そんな嫌な怪我の具合だ。
 それゆえラダは、率いていた小隊を先に帰らせ、自分は近くにあると耳にした『野干診療院』へと足を運んでいたのだ。
「何だこれ?」
 そんなラダが目にしたものは、ある種、異様な光景だった。

『エビバーディーーー!!!』

 ハンドマイクを片手に叫ぶアンデッド。
 煽りに応え、空に拳を突き上げるのもアンデッド。
 20を超えるアンデッドの群れが、診療院の前で歌って、騒いでいるのだ。
 まさにパーティータイムである。
 ナイトフィーバーなのである。
「なんだろうね、これ」
「なんだろうなぁ、これは」
 エントマも、ヌビアスも、なぜアンデッドたちがこんなにイキイキとしているのかは知らないのだ。きっと騒いでいる張本人たちも知らないに違いないのだ。
「そうか。ソアがいるように見えるが?」
「いるねぇ。ソアさん。いつからいるんだろ?」
 ラダとエントマが見つめる先には、『無尽虎爪』ソア(p3p007025)がいた。まるで10年来からの友人であるかのようにアンデッドと肩を組み、酒の瓶を片手に拳を振り上げている。
「がおー! ノッてるかーい!」
 お手本のようなオーディエンスである。
「あの古めかしいアンデッドだが、エントマのハンドマイクを持っているように見えるが?」
「持ってるねぇ。ほんと、返してほしいんだけどね。何しろ相手はアンデッドだから、迂闊に機嫌を損ねるような真似をして、襲われちゃたまんないからね」
 幸いなことに、現状、アンデッドたちが人を襲う様子は無い。
 じゃあ何がしたいのかと言うと、まぁ、きっと歌って、踊ってのパーティがしたいのだろう。アンデッドのくせに陽気な連中なのである。
 ともするとソアは、そんな陽の気に惹かれて野干診療院に訪れたのかもしれない。
「放置しとくのもなぁ?」
「まずいよねぇ。連れて来ちゃったのは私だけど、だってこんなことになると思わんじゃん?」
 困ったように顔を見合わせ、エントマとヌビアスは眉をしかめた。
 と、その時だ。
 2人の背後で診療院の扉が開く。
「エントマ……僕に任せて……」
 現れたのは『玉響』レイン・レイン(p3p010586)だ。身に纏うのは白を基調としたワンピース。片手には診療院から持ち出したらしい白いシーツを持っている。
「レインさん……何か手があるのかな?」
「ん……折角だから……ファントムナイトの仮装をして行くよ」
 そう言うとレインは、シーツを頭から被る。
 丁度、目の位置に2つ穴が開けられていた。遠目に見れば、なるほど子供が読む絵本に出て来るゴースト(デフォルメされたもの)のようである。
 あっという間にゴーストに化けたレインは、クラゲらしくどこかふわふわとした足取りで、アンデッドの輪に近づいて行った。

「なんだなんだ、めちゃくちゃ元気な死人共だなおい」
「妙なアンデッドたちだとは思ったんだ……追いかけてみたら、エントマが巻き込まれてたけど」
 アンデッドの輪を遠目に見やり、『譲れぬ宝を胸に秘め』オセロット(p3p011327)と『決闘者』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は声を潜めて言葉を交わす。
 オセロットはアンデッドに追いかけられて。
 シューヴェルトはアンデッドを追いかけて。
 経緯は異なるものの、両者とも砂漠でアンデッドを見かけたことにより、野干診療院を訪れていた。
 訪れたは良いものの、その先、どういう行動を取るべきか悩んでいるのだ。
 人に仇なす存在であれば、問答無用で討伐しただろう。
 だが、アンデッドたちは歌って、騒いでいるだけだ。今のところ、被害と言えばエントマがハンドマイクを奪われたぐらいである。
「どうしたもんかね?」
「さて……どうにもこういう手合いは不慣れなものでな」
 少しの間、様子を見るか。
 会議の結果、2人はそうすることに決めた。

 砂漠という過酷な土地は修行するのにぴったりだ。
 そう考えて『特異運命座標』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)はラサの地を訪れていた。
 実際、砂漠での生活はきつかった。
 精神的にも、肉体的にも、幾分か鍛えられた気がする。
 おかげで道に迷ったが、今のプリンにとってはそれさえ“大きな糧”となっただろう。
「さて。変な悪さする訳じゃないなら話を聞いてやりたいな」
 結果として、アンデッドたちのパーティに居合わせたことも、まぁきっと巡り合わせというものだ。
 おまけにエントマが、ハンドマイクを奪われ困っているらしい。
 となれば、助けになるべきだろう。
 そう考えたマッチョ☆プリンは、意気揚々とアンデッドの輪に近づいていく。
「話してどうにかなる相手だと思うカ?」
「どうかな。死霊術師として彼らを饗すことは出来ると思うが」
 マッチョ☆プリンの背を見送って、『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)が言葉を紡ぐ。
 その場にいるのは大地1人だ。
 自分で自分と会話している風である。
 一見すると、どうにも奇妙な状況であるが……まぁ、騒ぐアンデッドを前にすれば、その程度のこと、別に普通の範疇であろう。

●砂漠の死者たち
『エ“ッビッバッリィ”~♪ パーティナ“イッ!』

「アンデッナイッ!」
「アンデッナイ!」
「スリラーナ“イ”ッ!」
「baby, ooh!」
 
 アンデッドたちは息切れしない。
 心臓が息の根を止めているからだ。
 煽り散らかす貴人のアンデッドは、いよいよもってテンションが最高潮に上がったなのだろう。どこかから持って来た木箱の上に立ち、ボイスパーカッションでリズムを刻む。
 4つ打ちのメロディが鳴っていれば、人と言うのは存外にノれるものなのだ。人ではなくアンデッドだが……。
「見ろよ大地クン。愉快な死霊の盆踊りだゼ?」
「愉快な死霊とは一体。……いや……俺も一度首切られて死んだけどさ……」
 大地は死霊術師である。
 死者の相手も手慣れたものだ。怨念渦巻く墓地で亡者の言葉を聞いて、海を彷徨う船乗りを地上へ導いた。死人とは言え、対話さえ成立すれば存外にどうにかなるものだ。
 少なくとも大地にとって“言葉の通じる死者”の相手は、“言葉の通じない人間”の相手をするより遥かに容易なことだ。
 まぁ、今回は“会話が成立しそうにない死者”という、大地にとっても対応に難儀する連中が相手となるわけだが……。
「僕に……任せて……」
 そんな大地の横に立つのは、白いシーツのゴーストであった。
 こんな“あからさま”にゴーストらしいゴーストに逢ったことは無いし、そもそもゴーストの気配はしない。少し地に足が付いていない……強いて言うなら、海を揺蕩うクラゲのような雰囲気はあるが、きっと生者であろう。
「あー……レインか? 何する気だ?」
「そう。沢山の色とかマークが付いたメガホン……あげる……」
 そう言ってレインは、シーツの下から手を出した。
 その手にはステッカーや手描きの模様で彩られたメガホンが握られている。
「お手並み拝見と行こうカ」
 レインには何かアンデッドたちをどうにかする手立てがあるようだ。大地は腕を組み、レインが何をするつもりかを見守ることにした。
 後方死霊術師面である。

「ね……ね……」
 干からびた砂漠のガンマンらしきアンデッドの背を、レインが指先で突く。
「ぱーりな……ん? うぉっ! びっくりした! ゴーストなんて初めて見たぜ!」
 仰け反って驚くガンマンアンデッド。どうやら死んで日が浅いらしく、自分が既にゴーストと大差ない存在と化していることを自覚していないらしい。
 レインは構わず、ゆらゆら身体を左右に揺らして問いかける。
「もっと楽しめる事……しない……?」
「あん? もっと楽しめることってなぁ、何だ?」
 このガンマンアンデッド、どうやら割とノリが良い。
 ノリがよく無ければ、砂漠の真ん中でパーティなんてやっていないだろうが。
「金のメガホン争奪……カラオケ大会……しよ?」
「ふぅむ……?」
 ガンマンは懐から煙草を取り出し口に咥える。
 火を着け、紫煙を吸い込めば、喉に空いた穴から煙が漏れていた。どうやら死因はそれらしい。獣か、蛇か、何かしら砂漠の生き物にやられたようだ。
「金のメガホンか。アイツの持ってるハンドマイク、羨ましかったんだよな」
 チラ、と貴人のアンデッドを見やりガンマンアンデッドは笑う。
 どうらやレインの提案に乗ってくれるようだった。

 レインを中心に、6体のアンデッドとソアがカラオケ大会を開催していた。
 即席の楽器で音楽を奏で、声を張り上げ歌っているのだ。
「なぁ、アレは成功してんのか?」
 歌うアンデッドを指さしてオセロットが問うた。
 ちなみに、今、歌っているのはソアである。
「どうだろうな。騒がしいのが2カ所に増えたが」
 酒のボトルを片手に持ってシューヴェルトが首を傾げた。
「だからと言って、問答無用で斬って捨てるのは違うだろう?」
「じゃ、どうするのが正解だ?」
「僕は……アンデッドたちの願いを聞き入れて、可能であれば叶えてやりたい。オセロットは?」
 地面に大きな布を広げて、酒のボトルと、幾つかの木のグラスを置いた。
 それからシューヴェルトは、そこらの地面に「休憩所」と書かれた看板を突き刺す。
 酒のボトルと看板とを交互に見やって、オセロットは頷いた。
「……ま、とんでもねー悪さをしてるわけでもなさそうだし? 俺ァ今のところ死人から金品剥ぐほど困窮してるわけでもねえ」
 そう言って酒のボトルに手を伸ばす。
 ちょうど、近くを通りかかったアンデッドを手招きすると、グラスに注いだ酒を渡した。アンデッドは、アンデッドらしく、少しよろよろとしている。
「まぁ、飲めよ」
「おぉ、助かる。いや、いい汗掻いたな。五臓六腑に酒が染みるよ」
 朗らかな笑顔……アンデッドにしては、だが……で酒を受け取り、布の上に腰を降ろしたアンデッド。その額からは、何か濁った液体が滴っている。
「脳漿だ、それは」
 ついでに言うなら、腹には大きな穴が開いているので、たぶん五臓も六腑も無かろう。ひと息に飲み干した酒は、幸いなことに乾いた肌に染み込んで、腹から零れることは無かった。
 もしかすると、アンデッド一流のジョークなのかも知れない。
「1つ訪ねたいんだが」
 空いたグラスに酒を注ぎつつシューヴェルトが問う。
「君に何か願いはあるか? いつまでも現世に留まり続けるわけにもいかないだろう?」
「あー……そうさなぁ」
 顎に手を当て、アンデッドは少し悩んだ。
「水か酒か、しこたま飲めればそれでいいんだ。俺ぁ、脱水で死んだからさ」
 2杯目の酒も飲み干して、アンデッドは微笑んだ。
 乾いて割れ欠けていた眼球に、少し潤いが戻ったようだ。酒に潤んだ白濁した目は、まるで泣いているように見える。
 泣いている、のかもしれない。
 体中の水分がすっかり失われた彼は、きっと死の間際にさえ涙を流せなかったはずだから。それを察したのか、或いは別の理由によるものか。
 オセロットは無言で裂けのボトルを取って、アンデッドへと差し向ける。

 アンデッドにも色々事情があるようだ。
「なぁ、人は死んだらどうなるんだろうな?」
 サボテンから作った酒精の強い酒をちびりと飲りながら、アンデッドはそう呟いた。
 光の失われた虚ろな眼窩に、満点の星が映り込んでいる。
 達観したような、嘆くような、そんな眼差しだ。マッチョ☆プリンは、少しの間、考えて言葉を発した。
 さっきまで陽気に歌い踊っていたアンデッドとは思えないほどに、悲し気な様子を見て、適当な応えを口にするべきではないと思ったからだ。
「死んでも、その体が土に還っても、誰かが覚えていてくれるのなら貴方の人生には意味があったんじゃないかな」
 人は死ぬのだ。
 それが遅いか早いかの違いがあるだけで、命ある者はやがて土に還るのだ。
 誰だって……目の前にいるアンデッドだって、マッチョ☆プリンだって、閃光のように息抜き死んだ誰かだって、いつかは後続にその人生の意味と、これから起きることの全てを託さなければいけない日が来る。
「名前は」
「俺か。俺は、ペヨーテと言う旅の芸人だ。まぁ、名前はちっとも売れてねぇんだが」
「そうか。ペヨーテ。よければ話してくれないか? 君の人生を、見て、聞いて、体験した全てを」
 マッチョ☆プリンの言葉を聞いて、ペヨーテは目を見開いた。
 ペヨーテ自身の話を聞こうと言ってくれるものなんて、その生涯に1人たりともいなかったからだ。
「いいのか?」
「うん。オレは寝なくて良いから、一緒に長い夜を」
 マッチョ☆プリンの、いつもより少しだけ長い夜が始まった。

「で、なぁんかいい感じに落ち着きつつあるけどさ」
 膝を抱えて地面に座ったエントマが、恨みがましい視線をアンデッドの群れへと向ける。
「私のハンドマイクは?」
 夜もすっかり深まった。
 明日の支度があるからと、ヌビアスは既に寝室に戻って眠っている。
「いやエントマ達には災難だったな……気晴らしに一杯飲むか?」
 問題はないと思われるが、一応、相手はアンデッド。万が一に備えて護衛を買って出たラダは、エントマに付き合って起きている。
 そっとエントマの方へ、琥珀色のボトルを差し出した。
「んぁー。そうだね。飲まなきゃやってらんないね」
 エントマは少し拗ねていた。
 落ち着かない様子で、手の平を開閉させている。ハンドマイクを失ってから数時間。これほどの間、ハンドマイクを手放していたことは無い。
 受け取ったボトルに直接、口を付けて、中身を喉へ流し込む。
「甘い。花の蜜から作ったお酒かな」
「あぁ、仕入れた今年の酒。アタリだといいな」
 エントマの手からボトルを受け取り、ラダも酒精を口にする。舌に落ちた甘い酒精が、身体を芯から温めた。
 砂漠の夜は冷えるのだ。
 そうして夜は、ゆっくり静かに更けていく。

●さよなら現世
 飲んで、騒いで、歌って、踊って。
 アンデッドたちの体力には、まるで底が無いようだ。
 或いは、体力の限界を超えてまで歌って、踊ることを止められない理由があったのかもしれない。例えばそれは、現世への未練だとか、生への執着だとか、そんな風に呼ばれるものでは無いだろうか。
「よぉ、盛り上がってるか!」
 10年来の親友みたいにソアの肩へ手を回し、アンデッドが酒のボトルを振り上げる。
「飲んでるよ! 歌ってるし、踊ってる!」
 不思議な夜だ。
 けれど、楽しい夜だった。
 であれば、飲んで、歌って、踊らなければ嘘である。
「そうか! そうか! なぁ、この盃を受けてくれ! 酒をなみなみ注がせてくれ!」
 アンデッドからグラスを受け取り、中身を一気に飲み干した。
 それを見て、アンデッドが笑う。
 手を叩いて、満面の笑みを浮かべて笑う。
「よかった! ありがとう! ありがとう! あぁ、これでいい! さようなら! さようなら! さよならだけが人生だ!」
 笑いながら、アンデッドは倒れ込む。
 朝が来たのだ。
 死者たちの時間が終わる。現世に遺した恨みも辛みも、全てをすっかり昇華させ、その魂がこの世を去った。
「……そっか。さよなら」
 動かなくなった遺体に向かって、ソアは微笑みかけたのだった。

『アイ・リメンバー!!』
 ビリビリと空気が震える大音声。
 肩を組んだアンデッドたちが、1人、2人と地面に倒れ込む。
『ドゥーイング……タイムワープ!!』
 貴人のアンデッドが最後の声を張り上げた時、アンデッドなんて1人も立っていなかった。
 否、正しくは1人だけ。
 貴人のアンデッドだけが、そこに立って遺体の転がる砂漠の朝焼けを眺めていた。
 木箱から降りたアンデッドが、エントマの方へと近づいて来る。
「ん? あぁ……やっと終わったんっすか?」
「まぁね。皆、還って行ったよ。私はまた、還り損ねた」
 そう言いながら、アンデッドはハンドマイクを返却する。
「それ、ありがとう。でも、困ったな……来年はどうするか」
 少し困ったように微笑む貴人アンデッドの傍に、そっとレインが近づいた。
「……これ」
 貴人アンデッドの手に、メガホンを渡す。カラオケ大会の優勝賞品だが、優勝者は既にこの世にいない。最初から故人だが、もはやその魂さえどこかに還って行ったのだ。
 あるべき場所へ、還って行った。
 それでいいのだ。
「あぁ、助かる」
「ん……ねぇ……名前」
 レインの問いに、貴人のアンデッドは困ったような顔をした。
「名前は、忘れてしまったんだ」
 少し寂しそうに告げて、貴人アンデッドは砂漠に向かって立ち去って行った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
こうして、アンデッドたちの最後の夜は終わりました。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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