シナリオ詳細
<ラケシスの紡ぎ糸>幻の集落への旅路
オープニング
●幻の集落への旅路
「集落の痕跡を……発見したんですか!? ヘスペリデスの奥地に!?」
ユーフォニー(p3p010323)は驚きのあまりに目を見開き、そしてヘスペリデスという地について思い出す。
覇竜領域深部、ヘスペリデス。
そこは冠位魔種ベルゼー・グラトニオスが造り上げた最果ての地にして、竜種と人間の共存を目指した黄昏の領域である。
とはいえ、人間が立ち入ることなどまるでできないピシュニオンの森の更に先に存在するために、その場所に人間など存在しないと思われていたのである。
「ベルゼー様からも、そんな話は聞いていませんでした。知っていて黙っていたのか、それとも気付いていらっしゃらなかったのか……」
そう語るのは花園の管理人にして竜種、テロニュクス。
彼らは以前、星界獣の出現をうけてヘスペリデスへとおもむき、様々な種類の星界獣退治をイレギュラーズと共に行ったのだが……。
「その時進んだ場所より更に深部。影の領域に近しい場所に、その痕跡は発見されました。
痕跡はつい最近まで、あるいは現在も人間が生活しているという痕跡です。
我々竜種は人間の姿を真似て行動することはありますが、それとも決定的に異なる……人間の、それです」
「人間の……集落が……」
もしそうだとしたら人と竜の共存、ということになるのだろうか。いや、何かしらの力ある遺物によって隠れ住んでいるということであれば、単に棲み分けということになるのだろう。
いずれにせよ……。
「調べてみる必要が、ありそうですね」
●人型星界獣
テロニュクスが見つけたという集落へ向かうには、やはり相応の準備と道のりというものがある。
特に障害となるのが……。
「星界獣、ですね」
テロニュクスを同伴させることで一部の竜種や亜竜たちを顔パスさせることができるとはいえ、星界獣はそうはいかない。
「あれらは突如現れた謎の存在です。コミニュケーションの手段もわかりませんし、むやみに襲ってくるために警戒は怠れません。
またどこかの竜種の残留エネルギーを喰らって進化していないとも限りませんし、ね」
「それに例の『人型星界獣』がでてくるかも」
ユーフォニーのいう人型星界獣とは、以前ヘスペリデスへ潜った際に遭遇した、イレギュラーズたちの能力をコピーしたかのような星界獣、その完成形といったところだ。
こちらの特徴や技、魔法などをコピーして使うさまは、まるで偽物との対決を思わせた。
ユーフォニーの場合今井さんがコピーされていたことには少々驚いたが、ユーフォニーの『メイン武装』なので間違いではあるまい。……というのはさておき。
「はい、集落へたどり着くまえに全滅ということになっては目も当てられませんからね。充分に戦う準備をして潜ってください」
テロニュクスは深く頷いてユーフォニーに同意した。
話は『幻の集落』へど戻る。
「その集落の人たちは友好的……なんでしょうか」
ティーカップを手に、ふとした様子で呟くユーフォニー。
その言葉に、同じくティーカップを手にしていたテロニュクスがはてと首をかしげる。
「どうでしょう。少なくとも、こちらが敵対的にならない限りは大丈夫だと思いますよ」
「そうですよね。危険な場所で隠れて暮らしているわけですから、むやみに敵を作りたくはないですもんね」
なにせ場所はあのヘスペリデス深部。影の領域にすら近く、きっと終焉獣や星界獣の被害にも遭っている場所だ。
人の助けが来たとなれば、友好的になるのは自然なことだろう。
……と、そこまで考えてからユーフォニーはハッと気付いて顔をあげた。
「そうです! その人たちは星界獣たちの被害に特に強くあっている筈。助けないと!」
「あなたならそう言うと思っていました」
テロニュクスは苦笑交じりの笑顔でそう返すと、ティーカップを置く。
「まずは現地まで赴き、彼らとの交流を図りましょう。
それからのことは、その時に考えればよいことですから」
「はい!」
ユーフォニーもまたティーカップを置き、勢いよく立ち上がった。
幻の集落。一体どんなところだろう……。
どんな人たちがいて、どんな仕組みで今まで難を逃れていたんだろう。
「早速皆さんにも声をかけてきますね!」
ユーフォニーはローレットへの依頼書をさらっとかき上げると、それを手にローレットの酒場へと急いだのだった。
- <ラケシスの紡ぎ糸>幻の集落への旅路完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年11月10日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●道程は長く、しかして
ヘスペリデスの奥地に亜竜集落を発見したという。
調査に出たイレギュラーズであったが、その道中は決して短いものでも、まして安全なものでもなかった。
とはいえ、それが彼らを止める理由になどなりえない。
青き翼も鮮やかに、『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は亜竜型星界獣の放つブレス砲撃を軽やかに回避していた。
「ほうヘスペリデスの奥地に未開の集落と来た。
覇竜はただでさえ生息に適さない地域だ、何せ脅威が異様に多いからねぇ。
ヘスペリデスはまさしく竜種が闊歩するど真ん中。
いやあそれは興味持つなって方が可笑しいよね?
さて、何が出てくるやらだ」
亜竜集落とはフリアノンを例に取るまでもなく危険地帯に無理矢理作られた穴蔵が基本である。人が暮らすには過酷なこの世界で、そんな人々ですら立ち入ることのない前人未踏の筈の土地。そんな場所に、そんな危険すぎる場所にどうして。
ルーキスはケイオスタイドと歪曲銀鍵の術を発動させると、密集していた亜竜型星界獣へと叩きつける。
これ以上好き勝手にさせるものかと飛びかかってくる亜竜型星界獣。ならばと、ルーキスは高純度の魔力を凝縮。宝石を核とした仮初めの剣を凝華させる。
武器を持たぬ丸腰と侮ったか。あるいは想像力の欠如か。迂闊に飛び出した亜竜型星界獣に叩きつけた剣を暴走させ、爆発的に叩きつけられた魔力に亜竜型星界獣は吹き飛んでいく。
そこへ、ゴーレム型星界獣たちによる集中砲火。
大量の生体ミサイルがぎょろぎょろと眼球めいた器官を動かしながらホーミングし突っ込んでくる。幾重にも爆発が広がり、その中心にいたルーキスは……なんと、無傷。
というのも、すぐ後ろに控えていた『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)が治癒の魔法をカウンターで放ったためである。
「マ、この赤羽様がいりゃア、敵味方の生死など思いの儘サ。任せておきナ!」
「これまた随分な大口を叩いて。……まあ、俺も赤羽の言葉を嘘にする気は無いけど」
肩をすくめる大地。そうしながらも、この先の道程を想う。
(険しい地にある、知られざる集落か。非常に興味深いが……道程は遠い、か?)
情報源となったテロニュクスが同行していないからというのもあるにはあるが、星界獣だらけのヘスペリデスを進むのはなかなかに面倒だ。
だからというわけではないが、大地の治癒魔法の能率効果は89デフォルト。贅沢にばらまいたところで問題無い程度には治癒の魔法を行使できるのである。
実際長い道のりだ。『緋衣草』と『知恵の実』のAP回復も会わせれば、燃費の悪い仲間の補助も充分なのである。
更なる砲撃を放とうとしたゴーレム型星界獣に、ギラッとした妖力の塊が突き刺さっていく。
強烈な妖力に引き寄せられるように振り向くと、それは手鏡を構えた『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)だった。
纏った妖力が薄紫の霧となって現れて、ふわりと風に揺れている。
「幻の集落……どんなところでも人は生きられるといいますけど、まるで奇跡みたいな話ですね。どうやって過ごしていたんでしょう」
想像力のかき立てられる話である。この目で見ることが出来るというのなら、この面倒な道程も耐えられるというもの。
【怒り】の効果を受けて突っ込んでくるゴーレム型星界獣に対して鏡型の結界を展開。
ゴッと強烈なパンチが繰り出されるも、それは結界によって阻まれた。
反撃だ。鏡禍は手にした鏡に妖力を込めると、巨大な鏡を割ったかのような刀が出現。それを握り込むとゴーレム型星界獣めがけて斬りかかった。
強烈な斬撃――に続いて、『ケイオスタイド』と『アンジュ・デシュ』が連続して発動。ゴーレム型星界獣の足元から穢れた泥が湧き上がり、堕天の光が爆発する。
この魔法は――と振り返れば、『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)が両手でしっかりと杖を握って魔法の詠唱を行っているところだった。
(ヘスペリデスの奥にもひとがいる、のですか?
ニルはとってもとってもきになります。
どんなごはんを食べているのでしょう?
どんな「おいしい」があるのでしょうか?
なかよくなれたら、嬉しいのです)
未だ見ぬ出会いに期待を膨らませ、未だ見ぬ『おいしい』に期待を膨らませる。
実にニルらしいといえばニルらしい期待のもちかたをしつつ、ニルは突出していたゴーレム型星界獣へと突進。
ありったけの魔力を杖に込めると、ゴーレム型星界獣を殴りつけた。
爆発が起こったかのような衝撃が走り、ゴーレム型星界獣が吹き飛んでいく。
そんなゴーレム型星界獣がなんとか反撃の生体ミサイルを放とう――とした瞬間。
ヒュルリラと奏でる奇妙な音楽があった。
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が細剣メロディア・コンダクターを抜刀し、斬り付けた音である。
解放されたはずの生体ミサイルたちが自壊し、どろどろと崩れ落ちていく。
そう、イズマの凶悪なまでの封殺戦術である。
高い命中能力からハードヒットをたたき出し、高確率の封殺を実現させる。
「しかしこんな奥地に人が……? 想像もつかないが、本当なら凄いな。
……滅びが進めば、そんな集落は人知れず消えてしまうのか。
それは悲しいな。そうなる前に会いに行こう」
今現在、終焉獣と星界獣が終焉よりあふれ出ているという状況だ。ただでさえ生きていくには厳しすぎるヘスペリデスの環境下でそんなストレスを浴び続ければ、確かに滅んでしまいかねないだろう。
ピッと剣でゴーレム型星界獣を切り裂き、トドメの一撃を与えるイズマ。
その一方で、『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は亜竜型星界獣と熾烈なぶつかり合いを続けていた。
「過酷な地である覇竜集落の奥地に、人間の集落があったとは……。
生活基盤等はどうやって構築して……じゃなかった。
まずは会ってみなければ始まらない、でありますね」
ヒュペリオンMkⅡを装着。ワイバーン型フライトユニットが翼を広げ、飛行する亜竜型星界獣と空中で幾度も激突する。
「フルブーストフォーム!」
大空に舞い上がり、両手を握り腰の辺りに構えて焔のエネルギーを全力解放。
「ブレイ・ブレイザー――!」
マフラー形態をとっていたブレイ・ブレイザーを引き抜き、剣に変えると大上段からの急降下突撃という形で亜竜型星界獣へと斬りかかる。
「ゼタシウムブレイザーV!」
斬撃。返す刀を捻りあげ、V字に切り裂く相手の身体。
破壊され墜落していく亜竜型星界獣を見下ろし、そして集落があるという方角へと振り返る。
これだけの敵が日常的に出没し続けるという環境は、かなり過酷な筈。何かしらからくりがあるのだろうが……それはそれこそ、会ってみなければ、そして友好的な関係を築かなければわからないことだろう。
激しくゴーレム型星界獣の砲撃が浴びせられる中を、『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)は走る。
「後ろへ」
そう短く述べた今井さんに守られる形で後ろへまわると、大量の契約書類を今井さんは展開。壁にすると砲撃を防御し始めた。
とはいえ文字通りの紙装甲。簡単に破られる壁である。
クッと呻く今井さんが砲撃を浴びる――その一方で。
「お待たせしました、そのまま!」
『貴方を護る紅薔薇』佐倉・望乃(p3p010720)が治癒の魔法を詠唱、砲撃に晒される今井さんをすぐさまに治療する。
「未だ見ぬ人々へ会いに行くのです。こんなところで止まれません」
「はい! どんなひとたちに出会えるか楽しみですねっ」
今井さんの後ろからひょこっと顔を出すユーフォニー。
そして、彼女の頭からひょこっと花がはえてムシャアと叫んだ。
「皆、一気に行きますよ!」
ビッと指を突きつけるユーフォニー。無数のドラネコが飛び出し、カパッと口を開いたかとおもうと一斉にブレス砲撃を開始した。
色とりどりのブレス砲撃が混ざり合い万華鏡のように幾何学的な模様を描き出す。
それはゴーレム型星界獣へと直撃し、そのボディを物の見事に粉砕した。
「すごい威力ですね!?」
話に聞いてはいたけれど、と眼をぱちくりさせる望乃。
(ヘスペリデスの奥地に集落が……初耳、です。
未知の集落への冒険にちょっとだけわくわくしてしまいますが。
油断は禁物、なのです)
そう、油断は禁物。今まさに厄介な敵立ちと出くわし、戦闘の真っ最中なのだ。油断して自分だけ帰還するなんてことにはなりたくない。ゴールするなら皆で一緒に、なのである。
「敵を纏めるのである!」
『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)はグオオと咆哮をあげることで周囲の亜竜型星界獣たちの注意を集め、そして密集してくる彼ら相手に更に吠える。
(ヘスペリデスの奥地に集落となればベルゼー殿が何かしらの理由で匿ったものと見るが妥当であるが、さてはて一体どの様な者たちが、どんな生活を送っているのか竜の里の奥地にある集落、実に興味深いであるな)
ニッと知的な笑みを浮かべる練倒。
「ガーハッハッハ、吾輩達の行く道を塞ぐと言うならインテリジェンスを持って押し通らせてもらうである」
放つ、ドラゴンブレス。扇状に放出されたブレスは炎のそれだ。突っ込んできた無数の亜竜型星界獣がブレスによって焼かれていく。
一体だけ炎を突き抜け練倒に爪による斬撃を浴びせてくるが、練倒はそれを巧みな防御テクニックで受け流した。両腕を手錠で拘束しているにもかかわらず優れた身のこなしである。
「ハアッ!」
両手を地面に付け、鉤爪のついた踵からの強烈なカポエラキックを浴びせる練倒。
顔面にそれをくらった亜竜型星界獣はギャアと声をあげて飛び退いた。
――瞬間、『ケイオスタイド』と『アンジュ・デシュ』の魔術が発動。密集していた亜竜型星界獣たちを包み込み、穢れた泥と堕天の光で挟み込む。
「ヘスペリデスの奥地に集落……?世の中には分からないことが沢山あるのですね〜。ベルゼー様はご存じだったのでしょうか?」
『未来を託す』ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)は両手にバッと扇を広げると、舞うように次から次へと術を発動させていく。
「住んでいるのが本当に「人」なのか怪しい気もしますが……百聞は一見にしかずと言いますし、行ってみるしかありませんねぇ」
確かに、こんな環境で生きているものなど人間離れしている。少なくとも自分は生きていきたくはない。
亜竜型星界獣の一体が自らを強化するシールドを展開――した途端、すかさずヴィルメイズは『アルトゲフェングニス』の術を叩き込んでやった。
ばりんとシールドが砕け散り、それどころか更なる術を禁ずる封印が施される。
「終わりです」
扇を畳み、背を向けて礼のポーズをとるヴィルメイズ。その後ろで上がった激しい光が亜竜型星界獣たちを包み込み、そしてすべてを沈黙させたのだった。
「ふう、なんとかなりましたね。一休みしましょう」
望乃は額の汗を拭うと、鞄からフルータス・サンドを取り出した。
夫の作ってくれたお弁当である。
「あ、皆さんもいかがですか?」
●知性化した星界獣
昨今確認された事例の中に、星界獣の知性化があげられる。
これは星界獣が人型を取り始めたことのみならず、イレギュラーズに『近づいた』ことを示していた。
彼らがイレギュラーズのエネルギーを好んで喰らう性質もまた、それに影響されているのだろうか。
「人型、か……」
ヘスペリデスを進む大地たちを前に、待ち構えていた『集団』を見て大地は呟いた。
エンゲージ直後、敵部隊は素早く散開。範囲攻撃を避ける構えを見せ始める。
「ヒーラーから落とす。まずは俺のコピーからだ」
大地がそう叫ぶに応じて、ルーキス、ニル、ヴィルヘルムはそれぞれ魔術を展開。完成。発動させる。
すべての攻撃が大地型星界獣へ集中――する寸前、巨大な鏡型の障壁を展開した星界獣が間に割り込んだ。
鏡禍型星界獣である。
「ヒーラーを、庇った……!?」
星界獣が確実に連携をし始めている。獣が人の知性に近づくなど。
対して、相手の世界中たちからの攻撃が大地に集中。
鏡禍はそれを守るべく大地を庇って攻撃を受けた。ご丁寧なことにすべて神秘系の攻撃だ。ルーンシールドが役に立たない。
「こういう場合はどうします!?」
「プランBだ!」
「それって……」
「決めてないってことだよ!」
そんな中で突出し始める練倒。
「アドリブならば、相手の手を縛るべきである!」
練倒がそれを言うのは皮肉が効いている。
ゴオオッと咆哮をあげることでドラゴンロアを活性、相手に飛ばす『竜核活性・咆哮』という技である。
それをまず浴びせたのは敵のタンクかつ【怒り】付与が可能な自分のコピー。
【怒り】の付与は失敗――したものの、練倒型星界獣は猛烈な速度で練倒へと迫り、縛った両腕をぎちりと鳴らした。
飛び回し蹴りが炸裂し、それを練倒は張った鎖で受け止める。
「タンクを一人潰したである。もう一人は――」
「抵抗が高すぎます。だから――直接砕く!」
敵のヒーラーとタンクを無視して別の敵をたたくという手もなくはないが、泥沼化を避けるためにはやはりヒーラーは邪魔だ。鏡禍は妖力で刀を作り出すと鏡禍型星界獣めがけて思い切り斬りかかった。
相手の防御を無理矢理突破しにかかるが――その上から張られた物理無効障壁が邪魔だ。
「イズマさん、ヴィルメイズさん!」
「障壁を砕けばいいわけだ。任せてくれ」
イズマは『響奏撃・嵐』を発動。メロディア・コンダクターをそれこそ指揮棒のように一閃させると強烈な衝撃と冷気が鏡禍型星界獣へ浴びせられる。張っていたシールドが破壊され、鏡禍は刀を思い切り押し込んだ。
と、次の瞬間。
今井型星界獣が無数のドラネコ型星界獣を展開、ガパッと口を開かせる。
「まずい、散開――! それとカウンターヒールを!」
『彩波揺籃の万華鏡』と同じ超強力な範囲攻撃が叩き込まれる。
強烈な衝撃に耐える大地。即座に治癒の魔法を展開して自分にかける。
「そう何発も耐えられないぞ。ダメージのほうが大きすぎる」
「大丈夫です! 今だけ治癒を集中させながら耐えましょう!」
そう言いながら自分からも治癒の魔法を放つ望乃。
どうやら自分達のコピーといいつつも性能面では劣っているらしい。何人かの治癒スキルを重ねれば大地の体力をギリギリもたせることができる。
その間に鏡禍型、ユーフォニー型を落としがら空きになった大地型、望乃型を落としていくことになるのだが――。
「当然、邪魔をしに来るよね」
ルーキスは禍剣エダークスを発動。仮初めの剣を作り出すと、同じく仮初めの剣を作り出したルーキス型星界獣と向かい合う。
剣と剣がぶつかりあい、爆発したような衝撃が走る。
「そこを、どいてください!」
ニルもまた目一杯の魔力を込めた杖を握って走り、ニル型星界獣と杖をぶつけ合う。至近距離で爆発した魔力が互いへ衝撃を走らせ双方が吹き飛んでいく。
そこへ割り込んでくるのがイズマ型星界獣である。彼の封殺を受ければ一方的に殴られる。『殴り合い』ならばスペックで勝るこちらが優勢となるが、一方的となれば話は別だ。
「させるか!」
メロディア・コンダクターと相手の細剣によるつばぜり合いをおこし、攻撃を相殺しにかかるイズマ。
その横ではムサシがブレイ・ブレイザーを構え、対するムサシ型星界獣が炎の剣を振りかざす。
一撃、二撃、互いの剣がぶつかり合い火花を散らし、至近距離から放った頭部ビームが真正面からぶつかり合って爆発を起こした。
「混戦状態、でありますね……! ですが本家本元として、負けるわけには行かないでありますからね!」
「おや、私のコピーもいるのですか。
確かに見た目は似ておりますが……残念ながら覇竜の至宝たる私と比べたら見劣りしてしまいますねぇ? イミテーションよりも天然の宝石のほうが美しいのは仕方ありません」
そこへ加わるヴィルメイズ。相手方のヴィルメイズ型星界獣は両手をバッと扇型に開いて舞うように術式を展開。こちらも負けじと術式を展開し、双方激しく攻撃をぶつけ合った。
「しかし、俺達の技や特徴を真似る獣とは――」
大地が呟き、そして治癒の魔法を味方へと放つ。
戦いは序盤こそ混戦状態に至ったが、敵のタンクを潰しヒーラーを倒した段階で決着は確実なものとなった。
「だいすきなひとを手に掛けるみたいでとっても嫌な気持ち……」
胸に手を当て、ぎゅっと握るユーフォニー。
その横で今井さんがライフルを構え、敵今井型星界獣を撃破するところだった。
ユーフォニーは戦いに入る直前、彼らに尋ねていた。
何をしに覇竜へ来たのか。力になれることはあるのか、と。
しかし返答は、なかった。ただ無言に、ただ無感情に、こちらを喰らわんと攻撃を仕掛けてくるのみであったのだ。
知性化しても尚……ということなのだろう。
その一方で、競り合っていたルーキスがついにルーキス型星界獣を撃滅。
得意の『禍剣エダークス』を連発させたことでかなりAPを消費していたが、充填能力驚異の400点という燃費の良さでがっつりと乗り切ったらしい。
「消耗なんてあってないようなものだからね、露払いは得意分野だとも」
ニルも戦いを終えたらしく、撃ちまくったフルルーンブラスターで手が痺れていた。
「ありったけをこめ続けたので……手が痛いです」
えへへと笑うニル。
見ればイズマとムサシ、そしてヴィルメイズも勝利していたらしく星界獣が塵になって消えていくのを眺めていた。
「そちらは無事でありますか?」
「大丈夫。残り滓を模倣しただけの存在には負けないよ」
コピーといえど、やはりスペックには差があった。正面からぶつかれば勝つのはこちらだ。
少々計算外なことがあったとすれば、『相手が馬鹿では無かった』ということだろうか。より厳密に言うなら、こちらが考えるようなことを、相手も考えていたということ。知性化した敵を相手取るというのは、なかなかに面倒なことであるらしい。
「しかし、美しさまでは真似ることはできなかったようですね。そもそも、それが目的ではないのでしょうが……」
ヴィルメイズが少し残念そうに扇を畳む。
「皆さん! お怪我はありませんか!?」
たかたかと駆け寄ってくる望乃。一番手ひどくやられたらしい練倒がその回復を受けていた。
が、そこは練倒。
「ガーハッハッハ、余裕なのである!」
しっかし余裕を見せて胸を張ってみせるのであった。
●辺境亜竜集落アスタ
人は生きようとすればどんな場所でも生きていけるという。
その場所は、全力で生きようとしていた。
人が人であることを、なによりも守ろうとしているようだった。
滅びてなどやるものかと、集落全体で叫ぶように。
「待て! そこで止まれ!」
ヘスペリデスを歩いていたルーキスたちは、そんな声に足を止めた。
というより、高所より弓を構える一団を見て止めたというほうが正しいだろうか。
人の形をしているが、どうやら人型星界獣ではないらしい。
人間……のようだ。
彼らはこちらを見て動揺しているらしく、ざわつき始める。
「おい、なんだあいつらは」
「人間なのか?」
「例の人型じゃないのか?」
「それにしてはどうにも……」
迷っているのだろう。ならば、決断の機会を与えるとしよう。
「ガーハッハッハ、吾輩は覇竜一の知識人にしてスゥーパァーインテリジェンスドラゴォニア、炎練倒である。この度は初めましてである」
練倒が堂々と前に出て自己紹介を始める。練倒の堂々とした態度とその人なつっこさに毒気を抜かれたのか、何人かが思わず弓を下ろしていた。
今が好機。ルーキスもあえて一歩踏み出すと、両手を高く翳してみせる。
「やあこんにちは、まさか本当に集落があるとは。ある竜種から話を聞いてきたんだ」
「竜種!?」
「竜種から話を?」
「貴様は竜種に飼われているのか!? それとも交渉できるのか!?」
更に呼びかけてくる声。ルーキスはどうしたものかとユーフォニーへと視線を向ける。
こくりと頷くユーフォニー。
「交渉……というか……仲良くさせてもらっています」
「仲良くだって!?」
「どういうことなんだ」
困惑は広がる一方のようだ。このまま放っておいても良いことはないだろう。
ルーキスは早速本題を切り出すことにした。
「困ってることがあるなら手伝うよ、その代わり此処のことを教えて欲しいな」
再びのざわめき。そして、弓引く者たちの後ろから一人の女性が姿を見せた。
「話を伺いましょう。どうやら、本当にこのヘスペリデスを抜けてきた人間達がいるのだとしたら、大変な事実ですから」
アドプレッサと名乗る女性に招かれ、ムサシたちはついに未知なる集落へと足を踏み入れることとなった。
「ここは亜竜種の集落、私達は『アスタ』と呼んでいます」
岩陰にできた穴から入り込んだムサシたちは、その広大な地下空間に目を見張る。
なにより驚いたのは、淡く発光する巨大な柱の存在であった。
集落の中心に存在するそれをじっとムサシが見つめていると、アドプレッサは早速そのことについて触れてくれた。察してくれる人間がいるというのは、なによりありがたいことである。
「あれは『星の祠』。我々を危険から守ってくれていたものです」
「それは一体どういう?」
ムサシの質問に、しかしアドプレッサは小さく手を上げる。
「まずはお互いについて少しずつ話しましょう。私達にとっても、あなた方は驚き以外の何物でも無いのですから」
「かなり怪我人がいるな……どれ、みてやろう」
大地が最初に足を向けたのは集落の医療現場である。
そこには大勢の怪我人がおり、今の治療の真っ最中であるらしいことがわかる。
医療現場を預かる亜竜種女性。紅い角をしたラクテウスと名乗る彼女は、大地の治療の手際を見ながらなるほどと頷く。
「かなり高度な医療の心得があるようですね。こんな場所ですから、ありがたいことです」
「他の集落との交流はないのか?」
「いいえ……こんな場所ですから」
「しかし、ずっとこんな調子ではもたないだろう」
見渡せば怪我人だらけ。戦える人員がかなり削られているのは目に見えて明らかだ。
「普段はこんなことはなかったのです。最近になって急に見たことのない化物が現れるようになりまして……」
「終焉獣と星界獣のことか」
「そう、呼んでいるのですか?」
「逆に言えば、それまでは安全に暮らせていたということなんだな……」
その後、大地もとい赤羽は死者の埋葬されているという場所を訪れ慰霊を行うことにした。
「少々残酷な話だガ、此処に営む人間が居る以上、必ず死というものも訪れル」
「ええ、その通りです。ここはとても死に近い場所ですから。我々もそれを覚悟して暮らしているのです」
ラクテウスに案内されたのは墓標だけがある区画だった。どうやらこの集落では『竜葬』が一般的であるらしく、鳥葬のように地上に遺体を残すことで亜竜たちに食べさせ自然の営みへと還すのだという。
「そうなると、ここに霊はいない、カ」
「何かお聞きになりたいことが?」
「いや……無理にとまではないナ」
気にしないでくれと手を振って、大地はその場を後にするのだった。
「竜種や亜竜種には襲われないのですか?」
「ああ、星の祠があるからな。あれのおかげで集落には近づかないのさ」
そう応えたのは弓を背負ったダンメリという男性亜竜種である。
鏡禍はダンメリと共にナリコ罠の設置を手伝うことで話を聞いていた。
「けれど最近、見たことのないバケモノが出るようになってね。集落が襲われるようになったのさ。だから、こうして罠を張って警戒しているってわけさ」
「バケモノというのは……」
と、そこで『例の人型』という言葉を思い出す。
「星界獣たちのことですね。亜竜たちには通用していたものが、星界獣には通用しなかったと……」
「ま、そういうことになるね」
一方でニルは、持ち込んだご飯を子供たちと一緒に食べることで打ち解けようとしていた。
「言葉は普通に通じてよかったです。『おいしい』を一緒にできたら、もっと仲良くなれます」
「そうなの? ちょっとよくわからないけど……美味しいのはわかるよ。これ、なんて食べ物?」
子供はアトロプルプレウスと名乗り、ニルの話に特に耳を傾けてくれていた。
「三色そぼろ御膳ですよ」
「さん、しょく……?」
「ここではどんなふうにご飯を食べているんですか?」
「基本的には狩りでとってきたものを食べるんだよ。皆で分け合って、星の祠に感謝しながらね」
「狩り……ですか?」
ヘスペリデスという危険な領域での狩りは、それはそれは人を消耗させることだろう。
ということは、この集落の人間は一般的な亜竜集落の人間よりもタフなのかもしれない。
一方で、ヴィルメイズはその美しい容姿でコーラルと名乗る女性亜竜種と仲良くなっていた。
「なにこのイケメン。外の集落にはこんなのがゴロゴロいるの? ヤバイエグい」
「そうでしょう。ですがゴロゴロはいません」
私が美しいだけなのです、と堂々と言ってみせるヴィルメイズ。
「ここでは女性も男性も同じくらいにいるようですし、なにより子供も多いようですね」
見回してみて、物珍しげにこちらを遠巻きに眺める子供たちに目をとめる。
ヴィルメイズの見たところ、年老いた亜竜種というのをあまり見ていない。
「そうかな? フツーじゃない? ていうか人間生きてたらすぐ死ぬし、そんだけ生まないとね」
嗚呼、なんという死生観。
「集落の中は安全だけど、外に出たら死じゃん? だから産んで増やしていっぱいになってをくり返してるワケ。それでバランスとれてんじゃない?」
「なるほど……」
ふと見ると、望乃が楽器を奏でて歌を歌い始めた。
望乃の声はなんとも美しく、子供たちはそれに聴き惚れ沢山集まっては交流を深めていた。
「みんな、ここで育ったのですか?」
「うん! 大人になるまで、集落から外に出たらいけないんだ。たまに許される子もいるけど、普通はだめなんだよ。だって外は危ないからね」
子供たちのなかでも年長の子供が自慢げに言う。
「けど集落の中は安全なんだよ。だって星の祠があるから。あれが皆を守ってくれてるんだ」
「『星の祠』……それは力を放つ柱とでもいいましょうか。この柱から放たれる力は亜竜を寄せ付けないのです。竜種も、時折顔を見せることはありましたが集落に近づくことをためらう様子を見せていました。私達はこの祠に守られて、集落で生きていくことができたのです」
「それはなんとも、だな……」
イズマは壮絶な様子に眼を瞬かせた。
話を聞くに、このアドプレッサという女性は星の祠への祈りを捧げ続ける里の代表者、星の巫女であるという。
試しにフリアノンやペイトの名前を出してみたが、彼女はよく知らないと応えた。
「私達の祖先がどのようにこの場所に流れ着いたのかは伝わっていません。私も産まれたときから星の祠があり、この集落がありましたから……」
「ベルゼーさんについては?」
「ベルゼー……知ってはいますが、関わったことはございません。おそらく、この場所を黙認なされていたのかと。あるいは、気付いていなかったか」
「ということは、この集落がいつからできたかは知らないのですね」
ユーフォニーの問いかけに、アドプレッサはこくりと頷いた。
対して、ユーフォニーは手土産にしていた酒をそっと差し出して告げた。
「私、終焉に行きたいんです。
ベルゼーさんが救いたいと言った全ての根源たる『唯一』。
そのひとに会いたくて。
終焉のこと……何かご存知なら、教えて頂けないでしょうか」
終焉。
その言葉を出した途端、アドプレッサの表情は硬くなった。
「終焉ですか……あそこには、私達は近づかないようにしているのです。あの地域から溢れる滅びの気配を感じれば、おわかりになるでしょう。それに今は……」
「終焉獣と星界獣に襲われている」
「その通りです」
終焉へ挑むには、まずは星界獣たちを倒さねばならない。
その厳然たる事実を前に、ユーフォニーたちは次なる戦いの目的を見たのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
『辺境亜竜集落アスタ』を発見しました。
・アスタには『星の祠』があり、ここから溢れる力によって亜竜たちの被害から免れていました。
・祠の力は星界獣と終焉獣には通用せず、集落が襲われる状況にあるようです。
・アスタとの交流が始まりました。
GMコメント
ヘスペリデスの奥地、影の領域にすら近い場所に隠れ集落を発見しました!
出現する星界獣を倒しつつ現地へと訪ね、集落の人々と交流を図ってみましょう。
●出現予想エネミー
・星界獣
ヘスペリデスで進化した星界獣たちです。ゴーレム型や亜竜型が主となるでしょう。
・人型星界獣
イレギュラーズの残留エネルギーを喰らい知性化した星界獣です。
※ここでは参加PCの技や特徴をコピーした星界獣が出現します。『偽物が本物に勝てるわけねえんだよ』の勢いで撃破しましょう。
●テロニュクス
今回はヘスペリデスに居残りとなっております。
●幻の里
名称不明、住民不明、どうやってこれまで生き延びてきたのかも不明な謎の集落です。
ヘスペリデス奥地にあるというだけでもどうかしているので、調べる価値は充分有るでしょう。
住民と交流を図り、集落の様子を確かめましょう。
それに、星界獣被害に特に困っていそうな立地なので、助けて上げるととても喜ばれるはずです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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