シナリオ詳細
<蒼穹のハルモニア>三つの手
オープニング
●
人は、永遠ではない。
そんな事は分かり切っている事なのだけど。
それでも。
それでも――
●
「――よく来てくれたね」
幻想。美しき木々を超えた先にある、クォーツ修道院。
その地へとシキ・ナイトアッシュ(p3p000229)にサンディ・カルタ(p3p000438)は訪れていた。二人を出迎えたのは親しきリア・クォーツ(p3p004937)……
ではなく。
アザレア・クォーツ。クォーツ修道院を切り盛りしているシスターにして、修道院の皆にとって育ての『親』とも言うべき人だ。シキらは彼女に呼ばれて修道院へと『密かに』訪れていたのである――その理由は。
「なんでも倒れたとか……」
「あぁ――何のことはない、少しフラついてしまっただけなんだけどね」
「フンッ。なにがフラついた、だ。意識を失うまでの事になっておきながら」
「ラジエル。そっちも随分な歳だ、他人事ではないよ」
そう。先日、アザレアが倒れた事が起因となっている。
紡いだのは壁に寄りかかっていたラジエル・ヴァン・ストローンズ。幻想貴族にしてアザレアとも知古である一人だ――彼が語った通りアザレアは意識を失い修道院内で倒れ伏した。それは疲労だったのか、歳が故か、それとも病だったのか。
今はもう体調は戻っている。
比較的安定しており故に単純な疲労であった――と信ずる、が。
問題なのはアザレアの事ではなく。
「リアが、籠ってるって?」
サンディが告げる――そう、問題はリアの方なのだ。
……不幸な事にアザレアはリアの正に目の前で倒れた。
なんの予兆もなく。なんの気配もなく。
少し前までいつも通り語り合っていたのに、倒れたのだ。
――それはリアにとって世界が止まったかのような衝撃を与えた。
突如として失われた旋律。急転直下たる出来事が彼女の心を蝕んだのである。
今までリアは生きてきて心穏やかになる音色……心乱される音色……
数多なるモノを耳に捉えてきたが――
――一人にしないで。
――置いていかないで。
思わず、そう取り乱してしまう程の事態であった。
呆然数瞬。絶望数刻。哀哭間際――意識なきアザレアに縋りつく。
修道院の子らの姉として。『強い姉』として普段振舞うリアが、である。
最早取り繕う余裕もなかった。溢れる、大波のような感情に呑み込まれていた。
……それほどまでに彼女は恐れたのだ。そして今は自室に籠っている、と。
「子供達もリアのそんな姿を見て――不安がっていてね。
普段は、あぁ、分かるだろうけれど……リアはそんな姿を見せた事なんてなかったからね。
だからリアの事を頼みたいんだ。二人に」
「どうして私達に? いえ勿論お力にはなりますが――でも」
「家族が声を掛ける方がいいと思うだろう? けれどね……」
違うんだとアザレアはシキへ首を振ろうか。
繰り返しになるが、リアは『姉』であろうとするのだ。家族達の前では気丈な者として。
だから『家族』が声を掛ければ立ち直ろうとするだろう。
――ただしそれはきっと自らの心に蓋をして、だ。
家族に心配を掛けさせる訳にはいかないから。
しっかりしないといけないから――だから悲しみを押し殺して彼女は笑顔を作る。
それではダメだ。ダメなのだ。解決には至らない。
そんな心を締め付け偽りの仮面を被せる事なんて誰が望もうか。
今必要なのは。
「家族ではなく……『親友』の言葉なんだよ」
シキにサンディ。二人だけなのだ、と。
心に踏み込んでほしい。託せるのは二人だけだ。
ノノ、ソード、レミー、ファラ、ラシード、ミファー、ソラ――そしてドーレ。
誰でもダメだ。当然ラジエルやアザレア本人でも。
……子供達は少し離れた別室に寄せているから。
「頼まれてほしい」
「――えぇ、勿論」
彼女の、リアの所へ行っておくれ。
アザレアより託された依頼、いや願いはただ一つ。
リアに寄り添ってほしい。
その心に、二人の言葉を。貴方達の手を――届かせておくれ。
- <蒼穹のハルモニア>三つの手完了
- GM名茶零四
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2023年10月31日 23時35分
- 参加人数3/3人
- 相談7日
- 参加費---RC
参加者 : 3 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(3人)
リプレイ
●
いつだって。どんな時だって。
この手は繋がってるって――信じてる。
●
――一人にしないで、置いてかないで。
あんな事を口走ってしまった。『言わない』と心に決めていたのに。
気付いた時には咄嗟に、あの場を離れちゃったけど――
(あたしはどうすれば……)
頭の中に靄だけが残っている。
ソレは困惑? 焦燥? 或いはもっと別の何か――
明確にこれだ、と説明しがたい感情の渦が胸の内にあり続けているのだ。
皆を心配させない為に早く起き上がらないといけないのだけど。
でも――どうしても――
「……ん?」
と、その時だ。
穏やかな旋律を『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)は脳裏に感じようか。
これは知っている。あたしは、この音色を。まさか――
「やっほーリア。遊びに来たよ~……って言う事で、ね? 入っていい?」
「返事がないなら入っちまうぞー? リア、どうだ?」
「ちょ、ちょっと待って――二人共!」
やはりそうだ。『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)に『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)……リアの知古達。あぁ間違えようがない――って、あれ?
(そういえば今日はあまり『痛く』無い気が……)
いつもだったら生じる頭痛が、ない。
ふと額を抑える手――されどその指先に苦痛は感じぬのだ。
……いつもなら。下手をすれば頭が割れそうな調子の時もあるのだが。
まさか向き合えというのか?
(『アンタ』はあたしを放置して逃げていた癖に……!)
心中で『くそっ……!』と呟きたくなる想いも生まれかけるが。
リアは一度呼吸を挟もうか。心の臓の鼓動を落ち着けてから――
「……お待たせ二人共、どうぞ。放っておいたら扉、壊しそうだしね――特にシキ」
「し、しないよ! 全くもう、私を何だと思ってるのかな!?」
「冗談が言えるなら案外調子を取り戻してきたか――? さて、しかし、な」
二人を迎えようか。然らば、開口一番『本題』を切り出したのは。
「実際どうなんだ今? お前が家族に心配かけてんのは結構珍しいよな」
「……貴方はいつだって先陣を切っていくわよね、サンディ」
「ハハッ。丁寧語かつ、お上品な感じで話しかけてほしかったか?」
「やめてよ――夢に出てきそうだわ」
サンディだ。いつものように彼は先陣を切ろう。
……直接聞かないほうがいいのかな、とか。
まぁ誰にだって触られたくないこともあるか、とか。
色々思う所はある。誰かの心に踏み込んでいく事が必ずしも正しいとは限らないだろうし、なんなら多分世の中の九割方はそちらの方が無難ではなかろうかとも思考を巡らせるものだ。何も考え無しにサンディは此処に在る訳ではない――
ただ、その上で。
この三人だと『違う』のだ。
言っても言わなくても……いやむしろ逆に言わなかったほうが。
(変に部分的に伝わるんだよな)
それぐらいならいっそ単刀直入に斬り込んでみようか。
部分的に伝えるのではなく――自分の言葉で伝えた方がいいのかな、なんて。
「なんか話し辛いってんなら俺から行くか」
「サンディ……?」
「フェアじゃねぇもんな。リアにだけ話せってのも。
家族にも簡単には話せねぇ内容なんだろ? だったら……
多分二……いや正確には一年前だったかな。実は秘密にしてたんだがよ、俺」
魔種に捕まってた事があるんだよ――
サンディの口から語られるは彼の記憶に在りし一つの事件。一人の時に、ある魔種にその身を捕縛されてしまった事があるのだ。直接戦い合った結果という訳ではなく自室で寝てた筈が攫われてしまったが故だが。あの魔種の名は……
いやアレが誰だったかは些事か。とにかくあの時はヤバかった。
「わざわざ拘束用の……いや俺用の部屋みたいなの用意してたんだよ――執念、てか狂気ってこえぇなぁって思ったよ。俺だってまぁ一秒たりとも気を抜かず注意払ってたわけじゃねぇが、あんな奴に拉致されるとは一生の不覚だったぜ。仮に寝坊助のままだったり、逃げる際に一瞬でも油断してたら、どうなってたかマジで分からねぇ」
「ちょ、ちょっと、そんな事があったの? 魔種に標的にされてたなんてよく生きて帰って……というかサンディ、アンタ今まで過去の話なんて全然してこなかったのに。この事ってローレットには――」
「言ってねぇ。ああ、クソ、なんてかな……
どう言い訳しようが『一回捕まって、逃げ出した』ってのがどうにも格好悪くてな。
しかもローレットに言うなら詳細まで言わなきゃならねぇだろ多分」
「――そんな事件なのに、サンディ君が自分の話をするなんて珍しいね」
あの時の事を思い起こせばこそ複数の意味で背筋に悪寒が走るものだ。
這う這うの体で逃げ出したとしか言えない、あの出来事。
あれ以来ローレットの依頼ボードや情報網に奴の事が載らぬか確認こそしていたが――結局己から奴を追おうとする事はなかった。もしかしれば今回のリアの件が無ければ……未だに自らの心の内に仕舞っていたかもしれない。
……サンディはあまり過去の事を語らぬ。
どこでどう過ごしてきたか。どう生きてきたか。
だけど、そう。
「さっきも言ったけど。他人の秘密話させようって事だからな」
事ここに至って――そして二人を前にして――
不義理は出来ないのだ。
「ふふ。そうだね、そう決断して、自分から話せるから……君はかっこいいんだ」
「止せって、そうカッコいい話じゃねぇんだから――ああ、まぁそう言う訳でだなぁ!」
俺の方はともかく、そっちの方はどうなんだ? と。
サンディはリアに視線を向けようか。
こっちが話したからそっちも話せよ? なんて無理強いするつもりはない。
後が続かなかったらそれもまた運命だろう――ただ。
もしも話す事で楽になれるような事があるのなら。
俺達が力になれる事があったら話してほしい。
その心中には今一体何があるのかと……
「――――」
であればリアは一度、吐息を零すものだ。
ため息ではない。それは再び精神を落ち着ける為のモノ。
二人を迎え入れんとする際にも一度呼吸を挟んだが――やはり、微かに心を定める一時が欲しいものであった。二人に何か話すのがイヤな訳ではないけれど、それでも。
「……実は、ね。クオリアがずっと『故障』しているの」
「故障――って、どんな風に……?」
「そうね。なんというか……綺麗で大好きな皆の音色が、あたしを焼くの」
まるで煉獄のように、と。或いは脳髄で蛇がのた打ち回るが如くとも称そうか。
ずっとずっと心の奥底に閉じ込めていた己の変調。
……綺麗で大好きな皆の音色が、鉄の板を引っ掻く雑音に聞こえる事もあろうか。
「それで……時々疲れてるような顔をしてる事もあったのか」
「そんな風に見えた? 気を付けてたつもりだったんだけどね……」
「リア、それっていつから」
「大体二年位前、からかな。正直に言うと、ね。原因も大体分かってる」
――深緑の戦いで母さんを失ったの。
大精霊ベアトリクス。アザレアが育ての母とするのなら、彼女は真の意味での母だ。
魂に亀裂が走るかのようであった。そして――その後、鉄帝も今までも。
「寄り添いたかった人を沢山失った」
助けようとして。一杯手を伸ばして。
でもあたしでは届かない――辛うじて届いたと思っても零れていく。
指先から、命の水が。掴みたかったものは掴めず。抱き止めたいものは失われて。
「だから、想うの」
「――何を」
「この痛みが『故障』ではなく」
本当に拒絶だったら?
私は今、夢から覚めようとしているのでは――
あたしの見ていた世界は全て夢で。
「覚めたら全部消えてしまうんじゃないかって」
「――――」
「だったらずっと、夢を見ていたかった……夢の中なら皆が、いてくれるから」
辛くて苦しくて悲しくて、魂を……胸の奥を常に掻き毟られるのが現実なら。
暖かくて穏やかで安らぐ泡沫の夢の中の方がいい。
――そんなのただの願望、いや逃避だって分かってる。分かってる、けれど。
「ごめ、んなさい」
何も言えなかった。失うのが怖かったから。
また誰かが離れていくのが――怖かったから。
自分の中にだけ仕舞っておけばいいと思っていた。
肩を、震わす。
止めどなく溢れてくるのは涙、ではなく。恐怖――
「リア」
刹那。そんな彼女を抱きしめたのは、シキだ。
温もりが感じられる。シキの体温が、彼女の生きている証が其処にあって。
「リア、大丈夫。大丈夫だよ。何かを変えることが苦手な君が話してくれて嬉しい。
……ねぇリア。覚えてる? 私たちが出会った五年前のあの日」
「……五年、前。そう、もう……そんなに経つのね」
「うん――あの日ね。何かが変わったから今三人でここにいるんだと思う」
昔の昔から面識があった訳ではない。全ての始まりは五年前……
あの日がなければ此処にこうして三人で集まってはいなかったかもしれない。
リア。もしかしたら君は不安に駆られて夢だと思うかもしれないけれど。
――けれど。
「少なくとも私は、君と出会ってかけがえのないものを見つけたよ。間違いでも夢でもないんだ」
拒絶なんてするはずない。
リアとサンディ君は、私が混沌で出会えた運命そのものなんだから。
こんなに広い世界で、こんなに沢山の人が住まう世界で出会えた奇跡。
だから――私も、話そう。
「私ね、ずっと死にたかったの」
「――――えっ?」
「これ、見て」
言の葉を告げシキは服をはだけさせようか。
ソレが一番『分かりやすい』から。
上半身。腹部の所だけが露出されるように……然らばそこにあるのは。
「貴石病。簡単に言うとね、私の呪い……いや祝福と言うべきかな。
もうほとんどがアクアマリンに覆われてるよね――
私達の一族は宝石に愛されているんだ。私も、弟のザクロも……
遅かれ早かれ宝石に愛されて、宝石そのものになる。短命種ってやつなのさ」
「――マジ、かよ」
絶句。正にそう述べるしかない表情と感情がリアとサンディを染めていた。
発症は21歳の時だったか。それから徐々に……徐々に広がって今は此れほどにも。
つまるところシキには明確に『終わり』が迫っているのだ。
それがいつかは分からない。もしかしたらもう少し余裕があるかもしれないし。
――尋常ならざる事態が生じて、明日にはダメになるかもしれない。
ゆっくりと喉にまで届いて喋れなくなる日が来るかもしれないし。
ゆっくりと脚が染まって歩けなくなる日が来るかもしれない。
生きながらにして逃れられぬ宿命が日々に迫ってきている。
大丈夫。まだ大丈夫。今日は生きれる。明日もきっと大丈夫。
そんな。なんの保証もない暗示を毎日毎日毎日自分に掛けなければ。
いつものシキ・ナイトアッシュであり続けられなければ――
自傷していたかもしれない。
「……これが私の秘密。ずっと言えなかった。私もね、誰にも。
だって、打ち明けて悲しませるよりも……笑ってさよならを言いたかったから」
「シキ。それは、嘘だろ?」
「――――そうだよ」
刹那。微笑みを見せていたシキが――一瞬だけ。
口端を震わせる。瞳が微かに潤いを増し、目尻に堪りしは感情の発露。
――『死にたくない』なんて弱音を君達に吐くのが嫌だった。
そして自分自身、きっと向き合うのも怖かったんだ。
だって認めたら逃げれない。自分が死ぬんだ、なんて。何のための自己暗示。
何のための『いつものシキ・ナイトアッシュ』なんだ。
涙が零れそうだ。だけど、懸命に堪えよう。笑え。笑うんだ、自分。
私はザクロを助けて、それで、それで……
「……生きたい。なんて、変かなぁ……」
明日、眠って起きる事が出来なかったらどうしよう。
本当に明日起きれるんだろうか。そう考えたら胸の奥が不安と焦燥で渦巻く。
駄目なんだろうか。
明日また皆に逢うのが楽しみだって――穏やかに過ごすことぐらいも――
「――変な訳ないでしょ」
「すまねぇ、辛い事言わせちまったな」
その時。シキの手を掴む――リアも、サンディもだ。
シキは此処にいる。彼女は此処に生きていてくれているんだから。
「ごめん。ごめんね、シキ。話してくれて、有難う」
「あぁ……ぶっちゃけ俺の想像を超えた話だったけど、スッと腑に落ちる話でもあった。シキはそういうのをずっと抱えてたんだな――」
「……ううん、違うんだ。私もね、そんな事ばっかりじゃないんだ。だって」
シキは告げる。いっそ楽な内に死んでしまおうかなんて考えた事もあったけれど。
でもね。
君たちと食べるご飯の美味しさや、背中を預けられる頼もしさ――
「なによりも、世界の美しさと空の青さを」
君達が教えてくれた。
……だから、だからね。
口にするのも怖かった。勇気が必要で、震えないようにするのに必死だった。
けど。言って、いいよね?
言っても、いいんだよね?
私は。
「一緒に、生きていたい。皆と一緒に、明日を迎えたいんだ」
「ああ――当然だろ。『生きたい』っていうなら……その願いがあるのなら」
どこまでも願いを叶えていこうとサンディは言の葉を紡ごう。
死にたい奴を救う事は難しい。だけど生きたいのなら手を引っ張ってでも連れて行く。
冥府の使者程度に――シキを渡してたまるかよ。
「――そういうのは大怪盗の俺の専門分野だぜ! 任せてくれよな!」
「ふふ……サンディ君こういう時本当に……頼もしいよね」
「兄貴分さん、だものね」
「おいおい突然兄貴分として扱うようになるじゃん?
――まぁリアも同じだぜ? リアはさ、特に元々大人び過ぎてんだよな。
修道院の年長者としての心構え的なのだろうけど……背負いすぎるなよ!」
全部任せとけ!
――サンディの陽気にして心に沁み込む声が響こうか。
誰も彼もあまり過去を語らぬ。無為に詮索しようとも思わなかった、が。それは。
「結局、私達は――皆それぞれが怖かったのよね」
リアはふと、零そうか。
そうだ。きっと……怖かったのだ。
だってこの関係性は暖かいから。隣に誰かいてくれるのが安堵出来るから。
――だから。関係性を壊したくない想いが無意識に口を閉じさせていた。
触れなかった。
サンディの知られざる過去も、シキの短命たる宿命も、リアに纏う呪いの如き拒絶も。
だけど。
「あたし達がこの世界で出会った事にはきっと意味があるのよね」
「うん――絶対にそうだよ。偶然なんかじゃない」
「じゃあ。一緒に、生きていきましょう」
一緒に、歩んでいこう。
どんなに遠く離れても、どんなに時が流れても。
あたし達はきっと、同じ蒼穹の下で繋がっている。
「混沌世界は可能性の世界。不可能だなんて言葉は、鼻で笑い飛ばしましょう。
そして、あたしは――あたしは願いの大精霊ベアトリクスの娘よ。
シキの共に生きたいと言う願い、あたし達が必ず叶えてみせるわ」
シキが短命だって知った瞬間、怖かった。
アザレアが倒れた時のような――暗闇が包むかの様な感覚が一瞬あっただろうか。
だけど。彼女が話してくれた事によってか……あの時程、慌てふためかなかった。
いやむしろ冷静に呑み込むことが出来たと言える。
――彼女を救いたいと、心から構えられたから。
「だから、そうね。もう一つだけ話しておくことがあるわ。
……あたしにはね当然、父親もいる。
その人がクオリアを狂わせた元凶であり……魔種よ」
「なんだって? いやそりゃ親父もいるだろうが……親父が、そうなのか? 目星は付いてるのか?」
「ええ。まだ調査段階なんだけど――約束する」
絶対に一人で無理はしない、と。
もしも何かするのなら、必ず皆と一緒だ。
「だから待っていて。その時は話すから」
「……分かったよ。しかしリアが親を追うってんなら――俺もいよいよ覚悟決めねぇとなぁ」
目を逸らしていた、サンディを攫った魔種……
あの女を。近々きちんと探し出して、ちゃんと終わらせる。
リアの瞳にも強い意志が宿っているのだ。
なら『兄貴分』として己も確かなる姿を見せなければならないだろう。
「うん――私だって一緒だよ。君たちが立ち向かう時は、例えその先が地獄の底でも一緒にいく。大丈夫。深淵、地獄の底でも見上げれば空はそこにある……彼方にまで続く果てなき蒼穹が私たちに力をくれるから」
「あぁ行こうぜ」
――無限に広がる蒼穹の向こうへ。
ずっと三人、手を繋いでいよう。
この三人ならきっと、天にだって飛び立てる――そんな気が、するから。
……修道院の外を見る。されば其処には大空が広がっていた。
どこまでもどこまでも広がるかのような、綺麗な蒼穹。
天を眺める者がいて。三つの手もまた其処に在る。
閉ざされた秘密を共有した三つの手は、より強い信頼の力によって結ばれている。
あぁきっと。これから如何なる辛苦が待ち受けようと。
彼らならば歩めるだろう。
いつだって。どんな時だって。
この手は繋がってるって――信じてる。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
蒼穹に願いを込めて。
――ありがとうございました。
GMコメント
リクエストありがとうございます。以下、詳細です。
●目的
――対話を行う事。
●シチュエーション
場所はクォーツ修道院。
事の始まりはOPに記した通りですが、先日アザレアが倒れてしまった事を起因としています。失われてしまうかもしれない絶大な衝撃がリアさんに襲い掛かったようです―― その果てに、リアさんは自室に籠っているようです。
アザレアや子供達は少し離れた部屋にいます。
必要なのは家族ではなく親友の言葉。
――お二人の力が必要なのです。
●NPC
●アザレア・クォーツ
クォーツ修道院のシスター。彼女が倒れてしまった事が、今回の始まりでした。
リアさんの事を案じていますが、此処で必要なのは己の言葉ではなく。
きっと『友』なる者達の声だろうと――託しています。
●ラジエル・ヴァン・ストローンズ
幻想貴族。色々な所に伝手があり、アザレアとも知古の一人で見舞いに来ただけとの事で、あまり積極的に干渉する気はないようです。が、アザレアの体調不良もあって子供達を見ています。
●修道院の子供達
ノノ、ソード、レミー、ファラ、ラシード、ミファー、ソラ――そしてドーレ。
皆、リアの事を心配しています。
ドーレは、己が『家族』である事をやや歯がゆく思っている様です。
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