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シナリオ詳細

<伝承の旅路>砂上の楼閣

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●サハイェルへの足がかり
 プーレルジールの地、サハイェル砂漠にダークホールドという要塞があった。それほど大きな建造物ではないが、広大な砂漠を踏破し、魔王城へと足を運ぶ為には、ダークホールドは無視できない存在だ。
 イレギュラーズの活躍により、この砂地に佇む要塞を乗っ取る事に成功したが、課題も多い。
 まず第一に、損傷の激しさが目につくだろう。これらを管理していた軍隊は人間ではなく終焉獣である事から、まともなメンテナンスが行われていないと結論づける事ができた。この要塞が人間によって建てられたものかすら定かではなく、魔王軍の中にも建築に秀でた魔物が存在しないとも言い切れない。
 これが何方のモノであったかはともかく、現在の所有者はイレギュラーズとなっている。得体の知れない要塞であろうとも、長旅の中継地点に使うにはうってつけの場所である。

●ベースキャンプ
「やあ、待っていたよグリーフさん! それと、他にもお手伝いさんを連れてきてくれたんだね!」
 魔法使いと思われる男が手を振り、ダークホールドの門を武装した兵士に開けさせた。
 『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)の提案によって、この仕事はイレギュラーズのもとへと届けられた。魔法使いたちが管理しようとしているが、昨日の今日では人手が足りないというのが現状である。
「やはり、ここを万全の態勢にするにはしばらくかかりそうですね」
「そうなんだよ! きみたちの仲間がこの中継地点を奪ってくれた事には感謝するけどさ、人が寝泊まりできるような状況じゃないよ。そこら中に終焉獣とかいうの? あいつらの食い残しやゴミが散乱してるし、城壁も造りがめちゃくちゃだよ」
 終焉獣と寄生されたゼロ・クールに護られていた時は難攻不落の城に思えたダークホールドだが、こうして時間をかけて見回ると驚くほどに脆さが目立つ。特に、戦争や建築に学があるイレギュラーズから見れば急ごしらえもいいとこだろう。
「そのために私たちが来たのですから、まずはご休憩なさっては如何でしょうか。サハイェルは危険な暑さ、そして夜の寒さを内包しています。無理は禁物ですよ」
 気付けば案内人の魔法使いは額に汗を浮かべている。作業用のゼロ・クールたちが倒壊した柱などを片付けているが、どう見繕っても一日では終わらない作業量だ。
「いやね、本当に助かるよ。あいつらにとってはそう重要な施設ではないかもしれないが、取り返されると面倒極まりない。おっと、言ってなかったか。性懲りもなく魔王軍の奴らが訪ねてくる気配があるんだ。せっかく得た地の利を放棄したくはないからね、こうして汗水垂らして働いてるのさ」
 ダークホールドに駐屯していた終焉獣は皆、手負いであった為イレギュラーズの圧勝という結果に終わった。しかし、これらのコンディションが良好だった場合、今のような状況にはなっていなかったかもしれない。
「おお、アトリエのお手伝いさんたちだ。ミヒャル、俺たちにも紹介してくれよ」
「紹介つったってなあ……僕はグリーフさん達と一緒に戦ったわけでもその場にいた訳でもないんだぜ? 紹介できる事といったらグリーフさんの美しさ? 的な?」
 調子のいい御仁だ、とグリーフは微笑んだ。
「それで、何だよデイモス。まさか本当に紹介してもらう為だけにこんなクソ暑い正門まで歩いてきたわけじゃないだろう?」
 デイモスと呼ばれた男は日焼けした肌と、逞しいがっちりした体格の青年で、魔法使いのステレオタイプには当てはまらないものだった。剣を背負っているあたり、ダークホールドを防衛するべく集った戦闘要員といった所だろうか。
「あー……そうそう、ゼロ・クールの事なんだけど」
 突如、爆発音とも倒壊音とも判別が付かない爆音が響いた。
「察した」

●ライビングウェポン
「申し訳ございません、ミヒャル様。私ことLB03号ドレッドノートは一般的な戦闘用ゼロ・クールよりも装甲のサイズが増大しており、建物内の空間認識に調整が必要です。結果として、移動時に通路と厨房、倉庫の壁を破壊してしまいました」
 砂煙の中から、冷蔵庫を二つ三つは並べたようなサイズのゼロ・クールが申し訳なさそうにこちらへ歩いてくる。
 これこそがダークホールドの守りの要であり、イレギュラーズの一人が死せる星に願いを託し、寄生コアを浄化した『こちら側』に戻ってきたゼロ・クールである。
「なあードレッドノートちゃん、きみの怪力と無尽蔵の体力はすっごい助かる、助かるんだけど。うん、ちょっとだけ休んどこ! いやー、この通路も狭いなって思ってたんだよ、な! デイモス!」
 デイモスはげっそりとしている。戦闘以外でも役に立とうと張り切るドレッドノートは建設作業員にとって歩く大災害なのだろう。
 ドレッドノートは凶悪な武装と装甲鎧に包まれているが、顔つきや身体に至っては幼い少女である。プログラムされた謝罪ボイスとはいえ、しょんぼりしている様を見るとミヒャルやデイモスのような対応にならざるを得ないのだ。
「さて、やるべき事は山積みだ。襲撃者に備えてしっかり頼むぜ……!」
「はい。ドレッドノートも瓦礫の撤去に向かいます」
「ステイ!!」

GMコメント

●目標
【必須】ダークホールド要塞の改修
【必須】襲撃してくる終焉獣の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション ダークホールド要塞
 現場に到着するタイミングは昼過ぎです。
 敵が襲撃してくる時刻は夜間。様々な準備を行う時間があるでしょう。

●敵
 終焉獣レイダービースト 30匹
 二足歩行、四足歩行と様々な種類で構成された獣人の群れです。
 一匹一匹は取るに足らない存在ですが、夜目が効きます。
 数的不利を下準備や地の利で覆しましょう。

●味方
 LB03号ドレッドノート
 歩く武器庫。えげつない重火器をいっぱい所持しているゼロ・クールです。
 改修のお手伝いもしたいようですが、だいたい馬鹿力で破壊してしょんぼりします。

 戦闘用ゼロ・クール 3体
 基本的なライフル装備のゼロ・クールです。まじめ。
 改修、戦闘ともに指示に従ってくれるでしょう。

●改修フェーズについて
 襲撃に関する備えの他、中継地点としての機能改善も求められます。
 作業員に自慢の料理を振る舞ったり、罠職人として尽力したり。得意分野を活かしてみてください。

  • <伝承の旅路>砂上の楼閣完了
  • GM名星乃らいと
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
山本 雄斗(p3p009723)
命を抱いて
玄野 壱和(p3p010806)
ねこ
多次元世界 観測端末(p3p010858)
観測中
マリオン・エイム(p3p010866)
晴夜の魔法(砲)戦士
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

リプレイ

●始業
「ココガ、ダークホールド要塞デスカ。ナルホド、古ビテハイマスガ十分ニ機能シソウデス」
 巨大な眼球が改修作業に追われる要塞を見つめる。それは『観測中』多次元世界 観測端末(p3p010858)の事が伝えられていなかった場合、敵襲と思われても仕方がないほどに異様な風貌を持っている。
 多次元世界の眼球にどれほどの知識が詰まっているかは理解らないが、人型に変身する程度の気配りは存在するようだった。
「当端末を終焉獣と勘違いして驚かれては危険ですからね。これで問題ないかと」
「俺たちは寄せ集めの何でも屋だからよ、でっけぇ目ン玉くらいで騒ぎにゃならねえと思うがね」
 『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)はそのゴブリンらしさを隠しもせずに門をくぐる。彼がこのような面倒極まりない作業に従事する事になったのは、その寄せ集めの何でも屋の仕事を適当に選んだ所、見事に引き当ててしまったらしい。このゴブリンは余程特殊な依頼でもなければ、嫌な顔ひとつしながら何だかんだで引き受けてくれるものである。
「ゴ、ゴブリンだ! ゴブリンが出たぞ!! あ、えっと貴方がタジゲンセカイさんですね。よろしくお願いします」
「発音が難しければ端末とでもお呼び頂ければ」
「おいコラ!!」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)と共に、周囲をぐるりと見て回り、拠点としての有効性や不備をチェックしている。
「想像より雑な砦だったが……この立地を奪えたなら有効活用したいよな」
「こんな状態の砦ならオレは何度でも突破できるぜ。まったく」
 牡丹やイズマのような、ハイレベルのイレギュラーズであれば突破される為にあるような要塞である。しかし、プーレルジールの人類側が手に入れた得難い拠点である。魔王軍に奪い返されるという事は、血が流れる事を意味する。可能な限り改修を行い、サハイェルの足がかりとせねばならないだろう。イズマは作業員に自己紹介を行った後、真剣な面立ちで外壁を見つめた。
「うおっ! やばいなこれは、ちょっと触っただけでボロボロだぞ!」
「ぼ、牡丹さん優しく! いや、優しく触らないといけない壁がまず間違っているのか……?」
 一方で、『ねこの料理人』玄野 壱和(p3p010806)は待望の料理人という事で取り囲まれている。少年か少女か、そこに関しては何やらの猫であり多次元の世界の観測端末に確認してもらわねばならないが、ともかく、子供に群がる大人たちは中々に奇妙な光景であった。
「これでサボテン飯以外が食えるぞ! みんな!! コックだ、コックが来てくれた!!」
「うおおおおおおおおおお!!」
「大ゲサすぎんだロ! サボテン飯って何だヨ……で、オレも暇じゃねえんだから厨房に案内しロ。サボテン飯より美味いもの作ってやル」
 壱和が自分の戦場へ向かおうとするが、作業員たちは途端に黙り込んでしまった。厨房と言う名の瓦礫の山に壱和が憤慨する十秒前の事である。
「まあまあ壱和さん。僕も修理とか嫌いじゃないし、張り切っていこー!」
 『命を抱いて』山本 雄斗(p3p009723)が爽やかな笑顔で崩れたブロックを片付けている。ヒーローとして慈善活動を行うのは当然のことだ。
「これは修理とカいう域を越えてるだロ! 一から作り直しダ!」
 ダークホールド要塞を攻略したイレギュラーズチームに問題があった訳ではない。むしろ、彼らは限りなくスマートに仕事を行った。それでいながらこの惨状に至る原因として、戦闘用の巨大なゼロ・クールが関わっている事は明白である。見れば壁の所々に人型にぶち抜かれた穴が空いており、わんぱくな巨人が壁を突き抜けたとしか言いようがないのだ。
「ドレッドノートさん、その後、調子はいかがですか? 寄生から回復したゼロ・クールの例はそう多くありません。後遺症等もないとは言い切れませんから。何か不調等が見られれば、『魔法使い』の方へと伝えられると良いでしょう」
 『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)がその諸悪の根源、わんぱく少女へと慈愛の微笑みで接している。作業員たちの身の安全はゼロ・クールによって保証されている事に加えて、それが戦闘用装甲を除けば壱和と同程度の体格の少女である事から、扱いの難しい存在であるようだ。
 グリーフが相手をする事に作業員たちは安堵した。ダークホールド要塞に出向いた作業員はほとんどが力仕事を生業としている男性で、ゼロ・クールといえど少女の扱いに困り果てていた所だった。
「ようこそグリーフさま。お久しぶり、という表現を使うには日数条件を満たしていないとドレッドノートは認識しています。私には前回のお礼をこめて、精一杯のおもてなしを行う必要があります。何なりとお申し付け下さい」
 ドレッドノートはぎこちなくグリーフにお辞儀をする。遠くから見れば、グリーフに向かって背中に取り付けられたレールガンの照準を合わせるべく、体勢を変えようとしている殺人マシンにしか見えない。
「マリオンさんはドレッドノートさんを見ててあげようかなって思ったけど、なかなか癖の強そうな子だね?」
 『双影の魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)がドレッドノートを見上げる。自分より一回り以上大きな少女に見下される事は不思議な光景だ。
「素直な良い子ですよ。一応、私が結界を張っておきますのであやしてあげてください」

●勤務
「キドーさんはあのゼロ・クールを少し知っているみたいだったね。どんな人なのかな?」
 雄斗は正門の修理に取り掛かり、付近でトラップの設置位置を選定しているキドーに何気なく質問した。
「変態が造ったポンコツとしか言えねェ。あいつらに連携とかそういうのは期待するんじゃねえぞ」
「ちょ、ちょっと分かりやすく教えてくれないかな!」
 キドーはその後、口を閉ざし語る事はなかった。一体、このゴブリンに何があったと言うのだろうか。
「それについては、私ごと撃つようお願いをしているので、大丈夫です。のびのびと働ける環境と言えるでしょう」
「俺は人様の戦闘スタイルについて口出しはしねェが、絶対近寄らねえからな」
 グリーフはファミリアーを従わせ、周辺の警戒を行っている。改修作業を行っている時に敵襲でもあろうものなら、現場の混乱は計り知れないだろう。嫌な顔ひとつせずフレンドリーファイアを受け入れ、照りつける日差しの中で警戒任務に就くこの女の強靭な精神は何処から来るのか。キドーは呆れ返り、雄斗はそこにヒーローとしての信念を感じたようだ。
「俺もそれほど専門ではないんだが、もう少しこれはどうにか出来そうだよなあ」
 イズマが作業員を効率的に振り分けた後、ドレッドノートの武装に目をつける。ドレッドノートは敵へ恐怖感を抱かせるよう、少々誇張されたパーツ配置となっているようだ。もう少しだけコンパクトに収納させる事ができるな、とイズマは左上腕に備え付けられたバトルライフルに手を触れた。
「きゃーっ! と、女性らしい叫び声をあげるよう更新パッチがありましたが、条件付けに問題が発生しており、正しく実行できませんでした。イズマ様から接触があった場合、この更新内容を適用するべきか、設定を行う必要があります」
「し、しなくていいぞ! くそ、ルグィンさんに手玉に取られてる気分だ」
「その回転ノコギリっぽいのが一番かさばってるよね。同性……じゃないや、今は異性だけど、ひとまずマリオンさんが外してあげようかな?」
 LBシリーズの製作者であるルグィンは茶目っ気の多い男だった。人間らしいゼロ・クールを目指してあれこれと妙なものをプログラムしているのだ。イズマは頭を切り替えて、この巨大な鉄の塊をレディとして扱わねばと肝に免じた。
「銃眼を設置しては如何でしょうか」
 多次元世界が作業員に精密に描かれた見取り図を使って説明を行う。理知的に動く彼女(なぞのぶったい)は安心感の具現化である。聞き慣れない言葉であったため、銃ガンという銃器に銃器を取り付けた頭の悪い兵器を思い浮かべる作業員もいたが、多次元世界は彼らのレベルに合わせて理解りやすく説明している。
 ついでに、多次元世界はこの要塞においてアイドル的な地位を確立しつつある。せかちゃんや端末たんなど狂気の沙汰である呼称が飛び交い、親身になって様々な物事に解答を出してくれる彼女は推しの子となっている。でっけぇ目玉のバケモンだという事を知らない奴は幸せな事だ、とキドーは鼻で笑った。
「キドーサンも、変化系の魔術を身に着けてはどうでしょう?」
「時と場を弁えて、服装に加えて姿まで変えろってか? 面倒くせぇ提案だなオイ」
「希望ヶ浜の研究所にスペアのヒーロースーツがあったはずだけど、僕から頼んでみようか?」
「口より手を動かせってんだ! オラ、雄斗。あそこに落とし穴を設置するから行け行け。散れ!」
 ゴブリンにこき使われるヒーローも奇妙極まりないが、雄斗も暑苦しく全力で仕事に取り組む。
 落とし穴はヒーローらしからぬ策略である事は置いておこう。
「おら! あんたらさっさと脱げ!」
 牡丹の突然の脱衣指示に顔を赤らめる作業員。なんと大胆な姉御なのだろう。
「勘違いしてんじゃねえよ! そんなボロボロの服で働いてるとあぶねえんだよ! オレが縫っておくからここに置いとけってんだよ!」
 静かに物事を勧める多次元世界に対し、牡丹は動的であり騒がしく、鉄火場のような雰囲気が漂っている。頼れるアイドルに対してこちらは頼れる姉御そのものだ。恥じらう乙女のように作業着を差し出す男の尻を蹴り飛ばし、修理から裁縫、ゴミ出しまで忙しなく行っている。
「牡丹君、お疲れ。お茶にする? ドレッドノートちゃんが頑張って淹れたのよ」
「待て待て待て待て! まだこっちは通路の拡張が終わってねえからな!」
「マリオンさんが手を引いてるから大丈夫だよ。それに、イズマ君がドレッドノートちゃんをいじくり回したから少しコンパクトになったんだよね」
「人聞きの悪い事を言うんじゃない。まあ、休憩するには良い時間か?」
 厨房跡地と言うべき不毛の瓦礫の中で壱和は何とか自分のワーキングスペースを確保した。もう野営した方がマシにも思えたが、そこは厨房を戦場とする料理人の意地だ。ろくな食材もないが、サボテン飯という料理を冒涜しているかのようなゲテモノよりは美味いものを作ってやろう。いや、微妙にいけるカ……? と味見をした数分前の自分をぶん殴ってやりたい。
「良い香りがしますね。当端末が観測していない料理が予想されます」
「それは茶屋の企業秘密ダ」

●夜勤
 レイダービーストは数任せの尖兵、取り敢えず送り込むといった運用しか出来ない部類の獣人部隊であった。響き渡る遠吠えこそ作業員を怖がらせはしたが、牡丹やイズマが監修した内装に守られている限りは安全だろう。見た目に拘る時間こそなかったが、ダークホールドは随分と拡張され、例のアレを含む移動が容易になった。これでもう小さな料理人がぷんぷんする事はない。
「ほら見ろよ。見え見えの罠を小馬鹿にして本命の穴に転落してやがる。滑稽だぜ」
「や、やっぱり落とし穴はヒーローらしくないと思うんだけどね……!」
「じゃあホラ行ってこいよ。穴に落ちた間抜けにトドメさしてこい」
「言い方! フォームチェンジ、烈風!」
 雄斗のヒーロースーツを見て、あんなものを着せようとしていたのかとキドーは頭を抱えた。絶対着ねえぞ。 ヒーロースーツ・烈風に問題がある訳ではないが、あれをキドーのサイズで着て雄斗と並んだら絶対お供のサポートに思われるじゃん。『今だ雄斗!』とか決め台詞になるやつじゃん。絶対着ねえぞ。
「砦は譲らない、情報も持ち帰らせない。全て倒すぞ!」
 イズマがダークホールド屋上に設置した照明を稼働させ、自身も発光する事で闇夜に紛れるレイダービーストを照らし出す。襲撃者が一番スキップしたい箇所が昼間のように明るくなる事で、隠密行動は不可能となる。
「こんな獣が情報を持ち帰ろうとしてるとは思わねえが、全部ぶっ飛ばせば問題ねえな!」
 上空からレイダービーストを牽制する牡丹が、僅かに地上へ影を落としたがそのようなものが死角になるはずもなく、次々と翻弄される。強行突破を計ればイズマの停滞フィールドに捕まり、機動力を削がれてしまう。
「こんな獣だからこそ、だよ。全部が全部、捨て駒じゃあないだろう」
「リーダーみたいなのがいるって訳ね。マリオンさんが判別不可能な程に吹き飛ばしても悪くいわないでね?」
 照明とは違う、破壊の光が襲いかかる獣を4匹ほど消し飛ばした。進む事は難しいが、出方を伺っていてもマリオンの破式魔砲の標的となる。
「はっ 生け捕りにした所でせっかく綺麗にした部屋が汚れちまうからな!」
「ダークホールドには僅かばかりの牢獄スペースがある事を観測しましたが、そちらを使うのはどうでしょうか」
「この調子じゃ使うまでもないだロ」
 壱和がねこの不可思議な力をドレッドノートに行使する。効果の程は定かではないが、ドレッドノートはその行動に感謝を返した。
 イレギュラーズは臨機応変に動く事ができるが、今の所は北と南の方角を分担する事ができている。北をイズマの停滞フィールドが抑え込み、そこを中心として迎撃が集中する。実に効率的な戦いであった。
 南の方角はと言うと、グリーフが宣言通りに敵へと突撃し、無数のレイダービーストを相手に大乱戦となっている。
「それでは、ドレッドノートさん。よろしくお願いします」
 グリーフが背面へ魔法陣と神秘の盾を展開する。レイダービーストは背中を守って何になるのか、血迷ったかと荒い吐息と共に嗤った。
「はい。指示通り、私はグリーフ様の位置を考慮せずサラマンドラ・バトルライフル(爆殺火竜砲)を使用いたします。但し、これは特例であり、通常ゼロ・クールはマスター達に危害を加える行為は望ましくない事を理解してください」
 ドレッドノートは腰に備え付けられた重火器を手に取ると、グリーフを粉微塵にするほどの勢いで銃弾を指定エリアに撃ち込む。どす黒い煙が排気マフラーから噴出され、上空で様子を見ていた牡丹を慌てさせた。
「おい! 絶対これ環境に悪い煙だろ!?」
「申し訳ございません。環境に悪い事は事実です。しかし、敵性存在の数を考慮すると最も効率的な火砲である事も事実です。この情報はテクノロジーの発展と共に変動する可能性があります」
 牡丹がたまらず地上に降り、環境破壊少女に文句を言う頃にグリーフに放たれていた銃弾は落ち着いた。
「何とか、防ぐ事ができましたね。息苦しさもありましたが、この装弾数であればルーンシールドも持ち堪える事ができるようです」
「はい、グリーフ様。サラマンドラ・バトルライフルはマガジンを一つ使い切りました。必要であれば弾倉の拡張を検討して下さい」
 ドレッドノート用に準備された足場はたいへん良く機能したようで、グリーフを除いた一帯は血肉飛び散る地獄絵図となっていた。
「すごいね……僕も負けてられないよ!」
 雄斗が残党に斬りかかる。勝敗は決したが、イズマの言う偵察を目的とした獣がいないとは限らない。一匹残らず倒すべきだろう。ナノメタルソードが反撃に出るレイダービーストの前足を斬り落とし、勢いを残したまま回転斬りにて首を落とす。ヒーローとはピンチにこそ燃え上がるものだが、優勢であろうと何かを守る為なら正義の炎を燃やすのだ。
「僕たちが力を合わせれば魔王だって必ず倒せるはずだ! ドレッ」
「あいつはお留守番だ。ほら見ろ、もう次のタマ装填してやがる。早く避難した方がいいぜ」
 キドーがレイダービーストに小妖精をけしかけ、ひょいと防壁を飛び越える。
「え? 待って、うわあああああ!!」
 ヒーローへのピンチは突如降りかかるものである。
「観測しました。雄斗さん付近の敵へ20秒近い弾幕が張られています」
 上空より場を俯瞰する多次元世界がとんでもない状況を観測している。イレギュラーズごと巻き込む攻撃はグリーフにだけ許可されている事をしっかり伝えなければならない。ならないが、今は雄斗を治癒する事が優先だろう。
 まさか雄斗も味方からの援護射撃でヒーロー魂が燃え上がるとは思わなかっただろう。
「ぴ、ピンチになるほどヒーローは燃え上がるんだよ!」
「制裁執行!! 獣らしく背中から貫かれて死にナァ! アハハハハハ!!!」
 多次元世界が治癒に回ってくれるお陰で、壱和はほうらいの薬を使う事なく虐殺(エンジョイ)している。味方ごと巻き込む銃弾の嵐や高笑いが鳴り響くダークホールドは悪の要塞のようだ。ゴブリンもいるし。

 戦いは難なく終わった。更なる改修が進めば、少々の事では動じない要所となるだろう。
 イレギュラーズのアイデアがぎっしり詰まったこの要塞は、魔王軍にとって容易に攻略できない悩みの種だ。
「と、ところで観測たん。キドーさんから聞いたんだけど、本当の姿ってのをチョットだけ見せてくれないかな。へへ、本当の君も見てみたくてさ」
「構いませんが……おおよその結果は想像できますよ?」
 ダークホールドに悲鳴が響き渡った。

成否

成功

MVP

多次元世界 観測端末(p3p010858)
観測中

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました!
銃ガン!精密模写の使い方が上手だった観測端末さんにMVPを!

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