シナリオ詳細
<伝承の旅路>壊れたら作り直せばいいし、欠けたら補えば良いだけ
オープニング
●人形の死
「死? そんなものについて、考えたことはないわ」
Q-83テ号。通称テッラ。プーレルジールという世界で魔法使いに作られた人形のひとつ。
朴訥そうな眼鏡をかけた少女型人形だ。
彼女は暖めたティーカップをテーブルに置くと、そこへポットから茶を注いだ。
それを受け取って、ありがとうと返すカルネ。
「第一、私達はただの創造物。壊れたら作り直せばいいし、欠けたら補えば良いだけのものでしょう?」
「けれど……コアを破壊されればもうテッラは戻らないんじゃないのかな。
それを僕は『死』だと思う」
カルネの言葉に、テッラはポットを手にしたまま少し考える。
「……そうかもしれないわね。けれど、それが何だというのかしら。
壊れたら作り直せばいいし、欠けたら補えば良いだけ。
私という『人形』もまたそのパーツに過ぎないわ」
これは、カルネとテッラが出会ったばかりの頃の物語。
ブレンダンソマー遺跡への探検や、魔王軍との戦いを経て、いくつもの経験をしたテッラは、少しだけ考えかたを変えていた。
「影の領域までもうすぐだね」
「ええ……」
進むはサハイェル砂漠。イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)が長く長く続く足跡を振り返る。
同じように足跡を刻んでいたテッラは、休憩にしましょうかと呟いた。
地面に持参したシートをひいて、仲間たちと座り込む。
水のボトルを馬車から降ろしたテッラは、ぽつりとこんなことを言った。
「この経験も、消えてしまうのかしら」
「ん」
ふとした呟きに振り返るイーハトーヴ。
「どういうこと?」
「死について考えていたのよ。
私のコアがもし壊れても、『壊れたら作り直せばいいし、欠けたら補えば良いだけ』なのか……って。
私は、そうね……今は、イヤだわ」
テッラはボトルをイーハトーヴたちに手渡しながら続けた。
「星空が綺麗だって知らなかった。砂漠を歩くのが楽しいと知らなかった。
私は『知ってしまった』のよ。これが生きてるってことなんだとしたら、それが消えてしまうことが、自らの死なのかしら。それはとても……そうね、とても、イヤだわ。
知ってしまったことを、なかったことにしたくない。これが、大切なものになってしまったのね」
●魔王軍キャンプへの襲撃
目的地は魔王軍四天王ル=アディンの配下『ドボルド』の部隊が駐留しているキャンプだった。
魔王や四天王たちが終焉獣に寄生された存在であったことは、もうイレギュラーズたちには知れ渡っていた。
彼らの目的は混沌への侵攻。そのためにイレギュラーズたちを利用するということだった。
もしそんなことが叶えば混沌への魔王軍侵攻ならびに滅びのアークの大量流入という恐ろしい事態を招いてしまう。そんな事態を止めるべく、このプーレルジールという世界の平和を同時に護るべく、イレギュラーズたちは魔王城を目指し旅を続けているのだった。
「見て、あれがドボルドよ」
テッラが物陰から指さしたのは、首から上がライオンのようになった獣人型モンスターだった。
身体には頑強な鎧を纏い、両腕には剣。見るからに強そうな武人である。
その周囲には同じく獣人型のモンスターたちが各々休憩をとっているらしく、ばらばらに座ったり歩いたりしていた。
「一気に襲撃をかけるわ。この戦力なら対応できる筈――」
そこまで言ってから、テッラの様子が急変した。
表情を驚愕のものにかえ、びくびくと動く自らの腕を見る。
「まずいわ、離れて!」
イーハトーヴたちを突き飛ばし、物陰から飛び出すテッラ。
「テッラ!?」
「待って、寄生されてる!」
追いかけようとしたイーハトーヴの肩を、カルネは強く掴んだ。
「あ、あああああああああ!」
テッラはびくびくと痙攣すると、がくりと全身を脱力させた。まるで別の何かが操っているかのように……いや実際寄生した終焉獣こそが操っているのだ。彼女の両腕に大砲のような物を出現させると、カルネたちへと向けた。
「みんな伏せて!」
叫ぶカルネ。彼が前に飛び出し防御の姿勢をとる。砲撃に身をさらし攻撃に耐えると、その音を聞きつけたドボルドたちが駆けつけてきた。
「状況は最悪、だね。けど……」
「うん。できることはまだある」
以前、寄生型終焉獣によって寄生されたゼロ・クールと戦った報告があった。救出することはできず、コアを破壊し殺すしかなかったと。
だが今は違う。彼らの手元には『死せる星のエイドス』がある。この奇跡の力ならば、あるいはテッラを助けることができるかもしれない。
「ドボルドたちを倒しつつ――!」
「テッラを助けるんだ――!」
- <伝承の旅路>壊れたら作り直せばいいし、欠けたら補えば良いだけ完了
- 人形の死とは、なにか?
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年10月30日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●獣人部隊とドボルド
獣人部隊の指揮官ドボルドは状況把握に優れていた。
テッラが寄生型終焉獣によって寄生され自我を失いつつあることも、イレギュラーズに対して襲いかかっていることも把握した上で……。
「連中を人形から引き剥がせ。余計なマネをさせるな!」
獣人部隊に対して命令を下したのだった。
襲いかかってくるコボルト型モンスターの剣を飛び退いて回避し、カルネは反撃の銃撃を浴びせる。
「奇襲は失敗。テッラは寄生されて、こっちは取り囲まれてる。けど……」
「テッラの……大切な友達の願い、絶対に奪わせないよ!」
『覚悟の行方』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は『木漏れ日の指輪』に力を込めた。ふわりと輝く魔法の光が糸を無数に放ち、獣人部隊へと絡みつけていく。
「くっ、動きが……!」
牛頭の獣人モンスターが重機関銃をかまえイーハトーヴを狙うも、それをカルネが割り込むことで防御。
「大丈夫? イーハトーヴ!」
「うん、けどカルネは――」
「心配しないさ。今治療する」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が治癒魔法を展開。カルネの傷付いた部位をすぐさま治療し始める。
「さて、まずは彼女を助けるとしようか。
なに、奇跡を起こす事なら得意分野だとも」
視線を向けたさきは、テッラ。
テッラは両手の大砲をこちらに向け、砲撃を仕掛けてくる。
こんどは避けられない――かに見えたが、割り込んだ『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が砲撃を自らのボディで受け止める。
「テッラ。君 カツテ死ヲ考エタコト無カッタ。
今 君 自ラノ死 想ッテル。
ソレガ生キテイルトイウコト。
命無キ者 自ラノ死 想ワナイ。
君ハ死ヲ見ツケタ。生ヲ見ツケタ。命ヲ得タ。
ソシテイツカ。誰カノ死 想ウヨウニナル。
君ノ抱イテイル イヤだ 誰カニ想ウヨウニナル。
ウウン。モウ想ッテル。
ダッテ 君 イーハトーヴ 傷ツケナイヨウ 突キ飛バシタモノ」
呼びかける言葉は届いているのだろうか。テッラの表情は消え、寄生した終焉獣によって操られているままだ。
そしてなにより、獣人部隊が間に割り込み接触を断とうとしてくる。
(ゼロ・クールを物としてみるなら『壊れたら作り直せばいいし、欠けたら補えばいいだけ』というのは極めて真っ当な意見だろう。
壊れることで失われる経験という情報も、何らかの手段でバックアップを取れる技術さえ確率されれば解決してしまう些末に過ぎない。
しかしまあ、残念なことにそう簡単に割り切ることができないのが人間らしい。
そしてここはそういう連中の集まりな訳だ。敵を倒してテッラを救う、そんな奇跡を起こす奴等のな。
……少々場違いではあるが俺もそこに手を貸そう。テッラがどうこうというより)
『狂言回し』回言 世界(p3p007315)は獣人部隊めがけて『ネイリング・ディザスター』を発動。
「単純に戦力を向こうにむざむざと奪われるのが気に入らねえ」
幻影の武器が無数に生成され、それらが獣人部隊へと飛んで行く。
たかが幻影と侮るなかれ。喰らった獣人は時に血を吐き時に燃え上がり、がくりと膝をついて武器を取り落とす者まで出始める。
「テッラ様……!?
ひどい、こんな、どうして……。
許せないのです。
テッラ様にひどいことして……!」
『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)は『ミラベル・ワンド』を握りしめ、『アンジュ・デシュ』の魔法を発動させる。
堕天の輝きが杖から漏れ出し、ドウッという衝撃の音と共に獣人部隊へと打ち込まれた。
弾着と同時に爆発が起き、獣人部隊を光が包み込む。
「俺が全てを助け出す、なんて傲慢な事は言えんよ。
それでもやれる限りをやる。それしかあるまい。
援護してやる」
そんな中で、誰より早く動いていたのは『死神の足音』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)だった。
暴風の如くはしると『アイコノクラズム』を発動。衝撃波が獣人部隊を吹き飛ばしていく。
(『壊れたら作り直せばいいし、欠けたら補えば良いだけ』……です?
あたし、それはなんかちょっとイヤです。
体のパーツを取り換えるとかならいいですけど、そのひとの存在まるごと取り換えたって、それはそのひとじゃないですもん。
じゃあパーツを全部取り換えたらもうそのひとはそのひとじゃないのかって話になったら分かりませんけど。
でも、星空を見て綺麗だと思ったのも、砂漠を歩くのが楽しいと思ったのも、その『感情』はテッラさんだけのものです。それは何かと取り換えられるものじゃないと思うのです。
……うう、難しいお話なのです)
『お菓子の魔法使い』アリカ(p3p011038)は思い悩みながらも獣人部隊へと突撃。
「でもあたし、テッラさんにはテッラさんのままで生きていて欲しいのですっ」
パンチの動作から繰り出した魔術が爆発を起こし、大型の狼モンスターを吹き飛ばす。
「テッラさんを助けるのを邪魔しないでほしいのです!」
そんな中で、ドボルドへと一直線に向かったのは『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)だった。
(自我を得た方。世界を知り、自身を知り。他者の意思ではなく、自身の価値観で彩られていく。そんなこれからを歩もうとしている隣人が手に入れた尊厳が、目の前で汚されている。
私のこの感情は、『怒り』なのでしょう)
両手の剣を構え、グリーフに相対するドボルド。
「貴方がそちらの指揮官さんでしょうか?
グリーフ・ロスといいます。
ゼロ・クールと類似していますが、混沌から参りました。
いかがでしょうか?
これでもあちらの世界では、幾度となく竜種とも相対し、生還した護りとなります。
貴方に、打ち破れますでしょうか?」
「ほう……堂々とした名乗り、気に入った。相手をしてやろう!」
ドボルドの猛烈な剣による攻撃がグリーフのはったシールドによって弾かれ、二手目で即座にブレイク攻撃が飛んでくる。
だが、それでいい。相手がリソースを削れば削るほどグリーフに『手を焼く』ことになるのだから。
テッラによる砲撃にあわせ、獣人部隊が重機関銃による砲撃を浴びせてくる。
それをゼフィラとフリークライは治癒の魔法によってカウンターした。
「そろそろ、攻撃に手を回すかな」
ゼフィラは両腕の義手に力を流すと、それまで治癒の魔力を循環させていたものを反転。破壊の魔力へと変換させていく。
「ムウッ!」
牛の獣人が警戒し次なる砲撃を行おう――とした瞬間、飛び込んだゼフィラは紅く発光する腕を相手に叩きつける。と同時に魔法が発動。炎が波のように広がり後方へと膨らんでいく。当然牛獣人は炎に飲まれることになる。
「ン」
フリークライは対応が十分と踏んだのか、今度はドボルドに対応しているグリーフたちの元へと駆けつけた。
治癒の魔法を展開し、先ほどからシールドを破られ続けているグリーフへと治癒の力を送り込む。
「一瞬だ。よく見ておくことだな」
そうしている間にもブランシュが獣人部隊へと突っ込み、ワンナイトスタンドからのアイコノクラズムをぶちかます。
「見えたか? 己の死が」
凄まじい威力で放たれた衝撃波によって獣人部隊が消し飛んでいくのが見える。
とはいえ相手も充分に散開しこちらを囲みに来ている。一度で全部というわけにはいかないようだ。
となれば……。
「敵を集める、か」
世界が『皮肉と嘲笑』を発動。世界の囁きが、表情が、獣人部隊へ怒りの感情を沸き立たせる。
つい我を失った獣人部隊が世界へと密集し殴りかかれば、これ幸いとばかりにニルが『アンジュ・デシュ』の魔法を再び発動。
連続でどかどと撃ち込まれる光の魔力がそれこそ連続した爆発を引き起こし、獣人部隊の密集地点を暴力的に埋めていく。
その中心で世界は白衣のポケットに手を突っ込んでいるだけだ。
「そこだ!」
更にイーハトーヴが魔法の糸を飛ばして獣人部隊に絡みつかせていく。
「いい調子だよ。そのまま敵を抑えて!」
カルネの銃撃が獣人部隊へ広範囲に浴びせられ、獣人部隊は次々に倒れていく。
となれば残るはドボルドだ。
グリーフといつまでも終わらない打ち合いを続けていたドボルドは、獣人部隊が倒されたことに気付きハッとする。
「クッ! 我としたことが気を取られすぎたか!」
「えいやーー!」
そこへ襲いかかるアリカ。
よく狙いを付けた魔力砲撃がドボルドへと撃ち込まれた。
「ぬうううっ!」
剣をクロスさせ砲撃を防御するドボルドだが、それで攻撃は終わりではない。
飛び込んだアリカのフルメタルボムが、とてつもない衝撃となって爆発する。
大きく体勢を崩すドボルド。
そこへ、ブランシュの衝撃が、ニルの杖による打撃魔法が、世界の放つ幻影のナイフが、イーハトーヴの放つ光の弾丸が、ゼフィラの放つ魔法の炎が、カルネの放つ銃弾がそれぞれ浴びせられ、フリークライとグリーフの固めた防御の前に、ドボルドはついに崩れ落ちたのだった。
「無念……! しかし、貴様等の仲間は既に我が同胞。暴れるが良い、人形よ!」
●テッラ
両腕を大砲に変え、砲撃を放つテッラ。
それをフリークライは両腕を交差させることで防御した。
「我 フリック。我 フリークライ。我 墓守。
君自身ノ死 取リ戻スモノ。
君ノ縁 取リ戻スモノ。
君ノ心 取リ戻スモノ」
伝えたいことがあるんだと、フリークライは叫ぶように音声を発した。
ゼフィラが飛びかかり、テッラを押さえ込みにかかる。
「直接の面識があったわけでもないけれど、見捨てる理由もない。
壊れたら作り直せば良い……ふふっ、その点は同意するとも。
私も壊れて使い物にならなくなった手足を機械に取り替えているからね」
暴れるテッラに至近距離から砲撃を叩き込まれ、しかし耐えつつ続けた。
「だがまあ、困った事に心だの魂だのは換えが効かないらしい。
世界の広さを知り、自らが知らなぬものを知ろうとする君、これから未知を知る旅を始める後輩に、手を貸すのは先達の役目さ。
私にも、そうやって手を引いてくれた人たちがいるからね。
さあ、今助け出すよ!」
「いいだろう」
世界が幻影のナイフを大量に作り出し、テッラへと放った。
飛んでくる幻影のナイフを次々に砲撃で撃ち落としていくが、迎撃しきれずに突き刺さったそれが炎をあげる。
更に追撃が始まる。
「自分と、自分を築き上げたものを。
隣人を。
友人(ラトラナジュ)が守ったものを守るためなら。
私は盾から矢へとなりましょう」
グリーフが素早くテッラに取り憑き、腕の砲台へ攻撃を仕掛ける。
ばきんとヒビいった砲台。グリーフはここぞとばかりに相手を羽交い締めにして押さえつける。
「どうかもとのテッラ様に戻ってください!
ニルは、この世界に来て、たくさんのゼロ・クールの人に会って……まもれなかったひとも、いました。
倒さなきゃいけなかった、ゼロ・クールのみなさま……。
かなしくて、くるしくて、だから……!
今度こそなくしなくないのです!
もう、かなしいのはいやなのです!」
そこへ追撃を仕掛けたのはニルだった。
至近距離まで迫り。振り上げた杖に魔力を込めて叩きつける。
テッラを覆っていた終焉獣の一部が破壊され、剥がれ落ちる。
「お願いですお星さま! テッラさんをテッラさんのまま返してください!」
エイドスに願いをこめながら、飛びかかるアリカ。
堅く握った拳を叩きつけると、激しい爆発がテッラを包み込む。
対するテッラは地面に向けて連続砲撃。爆発が、衝撃が走りアリカたちは纏めて吹き飛ばされる。
まだだ、とばかりに立ち上がるニルやアリカたち。
カルネもこれ以上はやらせないと彼らの間に立ち塞がり防御の姿勢をとった。
その横をブランシュが駆け抜ける。
「テッラよ。俺たちに纏わる問題を出そう。
作り変えにおいて、お前を構成するパーツが全て置き換えられたとき、過去のお前と現在のお前は「同じテッラ」だと言えるのか否か。
俺は、同じようで違うものだと答えるね。
意思を持つ俺達が、存在を定義するのに決定的に必要なパーツがある。
それが魂だ。俺たちのコアだ」
衝撃、爆発。
「コアの破損は『死』を意味する。例え体を全て作り変えたとしても、コアの意思さえあれば自分を自分だと定義できる。
お前を取り戻せ。俺は例え死んでもお前を取り戻してやる。
ゼロクールも、俺達も、人であるのだから」
「テッラ、君が、君だけの経験を失いたくないと感じていることが、俺は嬉しかったんだ」
イーハトーヴが指輪に魔力を込めながら叫ぶ。
「はじめましての握手や他愛のないお喋り。
不慣れな世界で君の案内を心強く感じたこと。
ここまでの旅路だってそう。
まだ出会って間もないけど、君と過ごした時間を、俺はとても大切に感じていて。
だから君の願いは、俺にとってもあたたかいものだった」
願いが、星へと集まっていく。
「君の経験、記憶、想い、感情……全部、今俺の目の前にいる君のもの、ここまで一緒に歩いてきた『テッラ』だけのものだ!
君が見た星空も、君が踏み締めた砂漠の感触も、君がこれから経験する沢山のことも、壊させないで! 欠けさせないで!
それが俺が願う奇跡! 望む未来!
テッラ、なくしたくない大切なもの、これからもいっぱい作ろうよ!」
放たれた魔力はテッラへ直撃し――そして、終焉獣だけを引き剥がし破壊した。
それは正しく、奇跡の光そのものであった。
●それから
「う……うう、ん……」
地面に仰向けに倒れていたテッラは、自分に何がおきたのかを理解して跳ね起きた。
「私は、一体」
朴訥そうな眼鏡をかけた少女風のゼロ・クール。
Q-83テ号。通称テッラ。プーレルジールという世界で魔法使いに作られた人形のひとつ。
確かに自分は終焉獣に寄生され、その意識すらも奪われていた……はずだ。
「なぜ、意識が……まさか!」
ハッとして振り返ると、イーハトーヴがニコニコと笑っている。
「おはようテッラ。おかえり……かな」
ゆっくりとフリークライが歩いてくる。馬車に積まれていた上着を、テッラにかけてやる。
「イツカ君ハ死ヌ。
イツカ死ヲ見送ルコトニモナル。
ダケド。
死 君ガ最後ニ得ルモノ。
誰カガ最後ニ遺スモノ。
死モマタ命。
イヤナダケデモ 怖イダケデモ 寂シイダケデモ無イコト イツカ知ル」
突然の言葉に返答を失っていると、グリーフがゆっくりと肩をおとした。安堵ゆえだろう。
「なんとか、なったようですね」
「援護した甲斐もあった、ということか……」
腕組みをして、背を向けるブランシュ。
アリカがテッラに駆け寄り、手を取ってぶんぶんと上下に振った。
同じくニルも駆け寄り。別の手をとってぶんぶんと振る。
「ま、まって。まだ理解が追いついていないの。そんなに振り回さないで」
「あっ、ごめんなさい!」
「けど、本当に良かった。帰ってきてくれて……」
そんな光景を眺めながら、世界はポケットから取り出した菓子をひとつ口に運んだ。
「奇跡は起きた……か。『死せる星のエイドス』、とんでもないアイテムだな」
「確かに、ね。これまでとは比べものにならないくらいの頻度とリスクで奇跡が起きている。あのステラという子には感謝だね」
ゼフィラも腕組みをして世界の言葉に続けた。
「テッラ」
カルネの呼びかけに、テッラは頷いてゆっくりと立ち上がる。
「私、まだ旅ができるのね」
「そうだよ、テッラ。僕たちと一緒に、ね」
振り返り、テッラは恥ずかしそうに眼鏡を直し、小声で言った。
「みんな……ありがとう」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――テッラを寄生型終焉獣から救出することに成功しました!
GMコメント
●エネミー
・獅子団長ドボルド
両手に剣を装備した武人風のモンスターです。
格闘戦闘に優れており、BS等への抵抗力も高いといわれています。
そのかわり堂々と挑んでくる相手には堂々と立ち向かう性格だとも言われており、彼を抑えておきたいならそういった戦い方が望ましいでしょう。
・獣人部隊×複数
ドボルド小隊のモンスターたちです。
獣人系モンスターもいれば、大型のオオカミめいたモンスターも存在します。
色々な獣系モンスターの混合といった様子です。彼らを対処しなければドボルドを抑えるのもテッラを助けるのも難しいので、まずは彼らへの対応が優先されるでしょう。
・テッラ寄生体
寄生型終焉獣によって寄生されてしまったゼロ・クールです。
両腕が大砲のようになっており、高い攻撃力を発揮します。
コアはまだ無事なようですが、テッラ自身は意識を失っているようです。
彼女を殺さずに救う(寄生型終焉獣だけを引き剥がす)にはある程度までダメージを与えつつ『死せる星のエイドス』を用いた奇跡が必要になるでしょう。
●カルネ
この戦闘に同行しているイレギュラーズです。
今回は防御にそこそこ優れており、肉盾になって攻撃を防いだり銃撃でサポートしたりしてくれます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
Tweet