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シナリオ詳細

<伝承の旅路>安息の地

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ゼロ・グレイグヤード
 其処は何らかの理由でドールが廃棄される場所である。ギャルリ・ド・プリエの魔法使いはイレギュラーズ同様に多種多様な人物を有しており、善人から悪党の気質を持つものまで様々だ。だが、彼らの倫理観に関係なくゼロ・クールは造り出され、そして廃棄される。人の形をした奉仕者を廃棄する事に忌避感を覚えたイレギュラーズも少なくない。
 そして、寄生型終焉獣によるゼロ・クールの支配は破壊を前提とする厳しい戦いとなる。ローレットがプーレルジールに足を運んでから、短い間に多くの命が失われているようであった。ゼロ・クールを一つの命とカウントするのであれば、それは錯覚などではない。
 ゼロ・グレイグヤードの管理は杜撰なものだった。西洋墓地のような、気取ったものもあれば廃棄物処理場のようにそれが積み重なっている場所もある。一貫した管理体制は取られていないのだろう。
 魔法使いの中にはこの地へ運ばず、我が子同様に供養するものもいたが、ここで朽ち果てる事を待つ人形の数はそれが少数派である事を強く物語っている。
 最近になってギャルリ・ド・プリエのお手伝いことイレギュラーズが小さな奇跡を手に入れた。己が可能性を削って解き放つ光、それはゼロ・クールの救済である。高価な人形も存在するであろうが、基本的にゼロ・クールは消耗品だ。その尊き自己犠牲は一部の魔法使いにとっては理解し難いものである。自身のゼロ・クールに愛着を持っているものですら受け入れるには時間が必要なようであった。

●墓守の仕事
「やぁ、お手伝いさんたち。ここに残ってるという事は君たちはアトリエ周辺の警備任務を受けているのかな。サハイェル砂漠に遠征へ向かったと聞いていたよ。まあいいや、ゼロ・グレイグヤードはしっているかい?」
 アトリエの魔法使いがイレギュラーズに声をかける。魔法の探求に勤しみ、青春の殆どを研究室で過ごしてきたような男だった。歳の割に若く見え、そして距離感が近い。日頃から都合の良い奉仕者を扱っているとこうなるのだろうか、とイレギュラーズは感じた。
「君たちは結構な人数がいるそうじゃないか、少し引き受けてもらいたい仕事があるんだ。そう、何だったかな……そうだグレイグヤードだ。ゼロ・クールの墓場なんだけど、おっと待ってくれ。君たちにコアを破壊してもらう仕事ばかり押し付けてたのは悪いと思ってるが今回はそうじゃない、未然に防ごうって計画があるんだよ」
 あれこれと話が飛んだり戻ったりと忙しない。自分の中で全てが完結しているタイプの天才なのだろう。高度な魔術を扱う代償としてコミュニケーション能力が欠如しているようだった。
 根気強い情報屋の聞き取りもあって、ゼロ・グレイグヤード周辺にみられる終焉獣を処理してほしいという形で仕事を受け取った。
 イレギュラーズが起こせる奇跡にも限度があり、早々に起こせるものではないからこそ奇跡と呼ばれている。敵方に寄生され、暴走するゼロ・クール全てを救う事などは不可能だろう。それであれば、せめて利用させないよう災厄を遠ざける必要がある。
「今のところゼロ・グレイグヤードは問題ない。あの四天王とかいう奴らが狙っている事は間違いないだろうけど。あそこのゼロ・クールは廃棄されるだけの理由があるんだけど……あいつらに寄生されると何をするか想像もつかないよね。ひとまず今回はこのエリアに出向いてくれ」
 魔法使いの調べではグレイグヤードから少し離れた平地に終焉獣が出没するらしい。ここであればゼロ・クールをどうこうする心配はない、と語る。イレギュラーズは強靭な肉体と精神を持つプロフェッショナルだが、救えなかった者を見送り続ける戦いは熟練の戦士であろうと心労がかさむものである。イレギュラーズをゼロ・クールから一時的に遠ざけたその依頼は魔法使いなりの気遣いがあるようもあった。
「コレマデの、お仕事が負担になっていないか、定期的なメンタルチェックを推奨イたします。短期間に、複数ノ死を経験するケースでハ、強いストレスを感じる傾向がありマス」
 イレギュラーズにお茶を出そうとするゼロ・クールが告げる。ほぼ全てが戦闘用に造られているからか、ティーカップに上手く注ぐことができず、テーブルが水浸しになっている。
「おいこら、ぽんこつ。人のメンタルチェックよりお前のメンテナンスが必要だよ。まったくもう」
「大変もうしわけありませン。メンテナンス推奨日より20日が経過シテいます。ですガ、ぽんこつという定義は私には当てはまりません。私は最新バージョンのゼロ・クールです。ぽんこつとハ一般的に、時代遅れの機械や、システムに致命的な問題が発生している状態のコとを指します」
「はいはいはいはい、そうだお前はすごい。ハイテクスーパーすごいシステムスーパー。あっちいけ、しっしっ」

 何かキワモノが多い気もするが、やはり感情の宿っていない機械人形と称し、扱う気にはなれない。彼ら、彼女らの安息を守るべく墓守の仕事を引き受けよう。

GMコメント

●目標
【必須】終焉獣リザードマンの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 ゼロ・グレイグヤード近辺 プレーン平地
 現場に到着する時間帯は昼となります。
 守るべきゼロ・クールは存在せず、戦闘に集中できるでしょう。

●敵
 終焉獣リザードマン 10匹
 二足歩行のトカゲ人間です。
 寄生型終焉獣をゼロ・グレイグヤードに運ぶべく偵察に来ているようです。
 質は悪いですが鉄製の剣や矢で武装しています。

  • <伝承の旅路>安息の地完了
  • GM名星乃らいと
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
常田・円(p3p010798)
青薔薇救護隊

リプレイ

●マシンハート
「ゼロ・クールさん関係の依頼に参加するのは初めてだけど、うん、人の形をしているもの、ちょっと前までは依頼主さんのところで出会った『人』と同じように動いてお話しして、ひょっとしたら心もあった存在が捨てられてるというのはさすがに思うところはあるなぁ。僕のエゴと言われればそれまでだけど」
 『いざとなったら物理で』常田・円(p3p010798)は道中、プーレルジールの事情について話題をあげた。円の死生観はおそらく多数派であり、人が廃棄されるという光景は一般的に受け入れがたいものでもある。しかし、イレギュラーズともなれば其の裏に隠された事情を汲み取り、任務を遂行するべく尽力する事は必然である。
「おうおう、お前さんココの依頼を受けるのは初めてかい。気持ちはわからんでもないが、入れ込みすぎると後が辛いぜ? ゼロ・クールに対するあれやこれやの価値観は文化と個人の違いがあるもんだ。そうとやかく言うものでもねえな。ただ共通認識として、壊れていようがいまいがゼロ・クールを奪わせるわけにはいかんってとだけは合っている。それで十分だろ」
 『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)はリラックスした表情で自身の得物をメンテナンスしている。聞く所によるとつまらん相手を迎撃する形だが、バクルドの用意周到さは決して油断の二文字を許さないものだ。後手に回るよりも先手を打つ、やられる前にやっちまえという電撃戦は彼の真骨頂だ。
「あるのか無いのかも分からない無念を思って可哀そがるのは傲慢だな。自己投影に過ぎない。俺としては、果たした役割とその後に残った容器のどちらかを尊重すべきかと言えば前者であるべきだと思う」
 『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)はシビアな価値観を持っている。この小さな鬼に同情や涙を期待する事は間違っているが、彼は何だかんだで『踏み外さない』側の味方であり、心を苛むゼロ・クールまわりの依頼において心強い存在だ。
 イレギュラーズの中でも特に、このような混沌の外に存在する世界について無数の知識と経験を持つ者がいる。『狂言回し』回言 世界(p3p007315)は境界が関わる依頼において信頼できるイレギュラーズである。本人は頼られる事をどう思うかは、およそ想像通りの反応を返すだろう。プーレルジールに危機あらば世界は駆けつける。
「今回は純粋な戦闘だけになりそうだな。特に考える事が多くないから楽で助かるぜ。まあ、頭を使わなくて済む分だけ体を使う必要があるからこれはこれで疲れるんだが」
 疲れない依頼が果たしてあっただろうか。せめて両手で数えれるほどの休暇は欲しいものだ、といつもの諦め顔で任務に臨む。
「……やっぱり、こうやって直接会うのと伝聞とでは印象がまるで違う。勿論手を抜くつもりなんて無かったけど……うん、改めて頑張りたいよね」
 『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)もプーレルジールおよびギャルリ・ド・プリエの『お手伝いさん』としての活動は最近になって手を付けた仕事のようで、初対面での感想をもらした。今回はゼロ・クールそのものがオブジェクトとして依頼に絡まない形ではあるが、彼ら、彼女らが被る害悪を駆除する外回りの仕事は大切なものだと気を引き締めた。
「こっちで活動するなら一つ忠告しておくぜ。ポンコツみてえなゼロ・クールと共闘する時は気を付けとけよ……。あいつらマジで加減を知らねえから」
「キ、キドーさんは何があったんだ……?」
 キドーはふんと鼻を鳴らし、その後は何も語らなかった。円やカインのようなルーキーも味わうが良い、ポンコツのフレンドリーファイアを。いや、キドーが出会ったゼロ・クールがたまたまポンコツだったのかもしれず、全てがそうではないと信じたい所だが、キドーのゼロ・クールへの評価はなかなかに歪なものであった。
「此処がゼロ・クールの墓場、か。この亡骸の山。随分ぞんざいに扱われているようだな。ああ、思い出すよ。人間であれど……時にはこのように扱われることが、ある。実際に私も見てきた話さ。……その事実がゼロ・クールたちにとって何かの慰めになるとは限らないが。ただ、ちょうど記憶が蘇っただけさ……」
 イレギュラーズがゼロ・グレイグヤードに到着した時、『白のサクリファイス』ルブラット・メルクライン(p3p009557)は感傷的とも無関心とも言えない、極めて断定困難な口調で語った。仮面に隠された素顔は、このような地を見て何を思うのか。イレギュラーズはお互いに協力し合う関係であるが、それぞれ事情は複雑に入り組んでいる。人に知られる事を是としない背景もあるだろう。
 ルブラットからは、触れない方が良い背景を持つ者としての空気が漂う所で、バクルドや『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)のような鋭い感性はそれを察知する。
「ゼロ・クールを生み出した方たちが、必ずしも自身の生み出したものにたいして誠実で、責任を持ち、彼らを尊重してくれるわけではないでしょう。彼ら自身、必ずしもそれを望んではいないかもしれません。そもそも、そんな思考も持ち合わせていないかもしれません。けれど」
 グリーフが見つめるゼロ・クールだったものは著しく劣化している。この子にも僅かながらの人生があったのだろうか。人々のために生まれ、奉仕してきた存在の末路にしては物悲しいものだ。
「それを受けて、彼らの幸、不幸や、自由とはなにかを他者が決めることも。ましてや、彼らを操り利用することも。私は、彼らのためとは思えませんので。……それに。彼らが私たち秘宝種と同じなら。彼らはやっと、眠れるんです。隣人として、同胞として。その眠りを、守りたいと。そう思います」
 グリーフの思いは種族に根付くもので、隣人の心からの安息を願っていた。だが、グリーフは願い、祈るばかりの存在ではない。同胞を守る為であれば彼女は戦場に立ち、生きるべき全てを守る、命の防衛線となるだろう。
「寄生される前に対処できるなら、ゼロ・クールさん達も助かる……リザードマン達をしっかり倒しきらないとだね」
 『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は無作為に転がるゼロ・クールの亡骸を、せめて天を仰げるようにと位置を変えた。泥に頭から突っ伏している姿はあまりにも居た堪れない。余力があれば棺に入れ、花と共に葬ってあげたいと祝音は思ったが数が多すぎる。これは、全てを救う事ができないイレギュラーズとしての限界を暗示しているようでもあり、そのような弱気の虫を吹き飛ばすように祝音は頭を振った。
 それでも残された者たちを、死にゆく者たちを、この手で救って見せる。イレギュラーズは祝音だけではない、二つの手で救えない命は他のイレギュラーズが救えば良いのだ。

●ゼロに還ろうと
「まったくよぉ、イレギュラーズ様を相手に無策はいただけねぇ。数はあちらが有利だが、こっちにゃ経験もフレッシュなやる気も揃ってる
負ける気はしねェな。イレギュラーズだけでチャチャっと終わらせようぜェ! 変なゼロ・クールとかが援護に来る前によ」
「キドーさん、僕は前述の通りゼロ・クールさんと関わるのは初めてなんだけど……戦う前にアドバイスをくれないかな?」
「うるせ~~~! 其の目で学べって!」
 キドーは慣れた手付きでリザードマンの哨戒部隊へ奇襲をかける。人質だの護衛対象だのとイレギュラーズを悩ませる問題はこの平地にはない。イレギュラーズの圧倒、圧勝はどれほどストイックなものでも感じる所である。果たしてキドーの焦りはいったい何だと言うのか。
「この先にあるもんは何一つ誰一人、てめぇらに渡すことはできんな。かと言って逃がすわけもねぇんだが……後ろから蜂の巣にされるか、前向いて膾切りされるか。好きに選びゃいいさトカゲ野郎ども」
 バクルドが面倒臭そうにクラシックライフルの照星を、リザードマンの頭部へと合わせる。なかなかに素早い相手であったが、バクルドの繊細なフォーカスはそれに吸い付くように微調整される。息を止め、機械のような精密さを以て放たれた弾丸は正確に頭を撃ち抜く。確認するまでもなくヒットしている。
 これほどの距離であれば、本来はスポッターと呼ばれる観測手が必要な所であるが、一匹狼タイプのバクルドがそのような相方を求めるはずもなく、面倒な人付き合いを自身の技量によってパスしている。
「楽な仕事と思えるほどに麻痺してしまっては常識人枠が泣くな」
 バクルドの狙撃に対し、激昂したリザードマンは弓矢で応戦した。適正レンジも度外視された乱射は当たるはずもなかったが、予測困難な飛び方をしていた。たまたま世界の方に向かってきた、勢いの消えた矢は世界の足元から数歩ほど離れた所に突き刺さる。
 世界は挨拶を返すようにネイリング・ディザスターを撃ち返す。リザードマンは怒りに任せた反撃で、更に手痛い反撃を受ける事となった。キドー、バクルドによって痛めつけられた個体は毒と猛火、出血による三重苦によって息絶えた。
「私とて、ゼロ・クールを人間と完全に同列に見られる訳ではない。だけれど、墓荒らしは上品な趣味とは言えまいな?」
「こいつらに上品さを求める方が酷だよ」
 ルブラットから放たれるクリムゾン・インパクトとカインの殲光砲魔神が交差する。徹底的に地の利を活かしたイレギュラーズの猛攻は、足の踏み場もないと言う表現が正しく、逃げる事も向かう事もリザードマンたちにとっては困難な状況となっていた。本来、この程度の敵であれば戦闘用のゼロ・クールでも対処できるレベルだろう。それを行う事を渋らなければならない要因として、寄生型終焉獣の存在ある。
 寄生型終焉獣はゼロ・クールに取り付く事で魔王軍の手先として都合の良い駒となる。リザードマンたちはその寄生先を見定めに来た所、必要最低限の武装と人員であったため、このような爆撃に晒されている。
「伏兵も準備していないとは。ファミリアーの偵察を終えますね、私も参戦するとしましょう。私をゼロ・クールと勘違いして狙って頂ければ、一網打尽にするチャンスも生まれるでしょうし」
 グリーフはリザードマンの群れに対峙する。ルブラットやカインを狙うよりは楽に思えたが、グリーフを相手にする事は距離以上に難しい課題がリザードマンには残っている。即ち、グリーフの防壁を安価な武器で抜くことは至難の業である。どれほど力任せにロングソードを振ろうとも、秘宝種にしてゼロ・クールの守護者はそこに在る。
 彼女が倒れる時はもっと大きな何かに関わる時だ。少なくとも、この程度の邪悪では彼女の光を覆うことはできない。
「この世界のリザードマン…純種なのか、モンスターなのか。さすがにこの世界における亜竜種さんじゃないとは思うけど……何にせよ、寄生型終焉獣を持ってくる気ならお断りだ!」
 祝音の読みは正しい。このトカゲ男は魔王軍の手先であり、終焉獣である。リザードマンという名も魔王軍が付けたのが先か、人類側が定義したのが先かは定かではないが、暫定的に付けた名前に過ぎないだろう。つまる所、亜竜種とは何も関係のない敵だ。
 祝音は神滅の魔剣を以てリザードマンの一匹を穿つ。ゼロ・クールの寄生、利用など許すことはできない。祝音は容赦なくこれらの悪を討つ。
「君達を残す訳にはいかない、1体たりとも逃がさない…!」
「これはもうほとんど勝敗が決した感じだね。僕もヒーラーとして動くつもりだったけど、必要はなさそうだ」
「何かあれば私が診てやろう。常田君、攻勢に出ると良い。この薬草を食すと元気が出るが、如何かな」
 ルブラットがおそらく医療で扱う、よくわからない草を円に勧める。絶対なにか副作用があったり、痛覚が鈍くなる作用があるぞ。
「け、結構です先生! それでは僕はこれで!」
 円がリザードマンに近接用魔術を叩き込む。最前線の場はヒーラーにとって危険なポジションにあるが、それを忌避してはいけない。危険を知り、脅威に対する正しい理解を重ねてこその戦闘治癒士なのである。
 大きな傷は祝音が癒やしてくれるだろう。凶悪な一撃はグリーフが受け止め、キドーがその隙を縫う。最悪、ルブラット先生に診てもらう事もできる。大丈夫ですよね先生、それ毒とか関わってないですよねルブラット先生。
「ふむ、この症状には――瀉血だな! 切除も必要だ!」
 円はまだ負傷していない事を大声で伝えたくなったが、ルブラットが診ていた患者はリザードマンだった。先入観からか、祝音と肩を並べるような位置取りを行うように思えたが、とんでもなく獰猛なインファイターだったようで、哀れな患者はバラバラにされている。
「良いねェその短刀捌き。仮面ごときで隠し通しちゃいねえと思うが、アンタ、俺と同じニオイがするなあ?」
「私は旅医者ですよキドー君。それに私は特注の入浴剤も使っているので、清潔さには気を使っているのだよ……」
「ウキァ!!!」
 キドーのククリナイフ、ルブラットのミゼリコルディアは刀身のリーチなど度外視するようにリザードマンの身体を斬り裂いて行く。人の理、その範疇に収まる者は武器の差で大勢が決する所だが、イレギュラーズという存在は想像を飛び越える。リザードマンがロングソードではなく、スピアを持っていたとしても、バクルドのような火器を持っていたとしても、この短い刃から逃れる事はできなかっただろう。
 それほどまでに、イレギュラーズとリザードマンとの力量差は果てしなく遠いものであった。
「このまま任せて帰りたい所なんだが、あんなゼロ・クールを見るとそうもいかないんだよな。寄生されそうなゼロ・クールの亡骸の対処、その辺の打ち合わせくらいには参加しないといけないな」
「鴨撃ちも楽しいのは最初だけなんだよな。弾が勿体ねえが、さっさと終わらせるぞ」
「それに限るな」
 世界とバクルドの重い腰があがる。接近戦を挑み、至近距離からの渾身の一撃は次々とリザードマンに致命傷を与えていく。
「慣れてるイレギュラーズはすごいね、僕の豆鉄砲とは大違いだよ」
「鉄砲ってのはそれぞれに使い道があンだよ。お前さんも手に馴染むヤツを見つけな。豆鉄砲も挑発にはうってつけだ、悪くねぇがな」
 円の近術に気を取られたリザードマンは接近する二人に気付く事が遅れ、非常にクリーンな形でバクルドの斬撃に晒され、地に伏した。
「そろそろ分が悪いと気付いた頃でしょうか」
 グリーフに剣を向けるリザードマンは、僅かに後退し、一目散に逃げる準備をしているようだった。このままでは何匹かはやられるだろう。だが、全滅よりはマシだとリザードマンたちは意見が合致したようで、それぞれが別方向へと走り、射線を分散させる算段であった。
「本来であれば、戦意を失った者への攻撃は推奨される事ではありません。ですが、貴方たちの行いは許してはいけないものです。慈悲には期待しないでください。私の慈悲は、必要としている方にこそ届けなければならないものなのですから」
 リザードマンの足ががくんと力を失う。グリーフを中心として強大な重力場が発生し、走る事はおろか、後退りさえ苦痛なものとなっている。
「逃がすわけにはいかないよね、グリーフさん! 助かるよ!」
 カインが三匹のリザードマンを直線に捉える。カインと向き合ったリザードマンは何が起きるか本能で察した。残る二匹は、重力場から逃れようと藻掻き、何が起きたかもわからないまま灰燼へと帰されるだろう。
 グリーフのステイシスで機動力を削がれたリザードマンは、カインの放つ殲光砲魔神の光に飲まれた。徹底的な逃走阻止と追撃を兼ねたイレギュラーズの作戦はリザードマンたちに何の選択肢も与えぬまま圧倒する事となった。
「これで全部かな? 一応、僕は残党がいないか捜索しておこうと思うんだけど」
「私のファミリアーが周辺は見て回ってますが、自分たちの目で確認する事は大切だと思います」
「残業か……日本の悪しき文化をプーレルジールでも経験するとは思わなかった」
 世界は心底嫌そうな顔をしていた。カイン、グリーフの動力源はいったい何なのか。
「まぁ、利用されそうな亡骸を埋めるくらいはしよう。そっちの方が後味が良い。弔いになるかは微妙な所だけどな」
「弔いってのは残った連中の為にあるんだそうだ
そうだとすると、この場所の有り様は……それぞれの創造主にとって、ゼロ・クールだけでなく自己との向き合い方の違いの現れってことでもあるんだろう。ヒトに近い見た目のモノをつくるとこの辺厄介だよなあ」
 キドーは何気なくリザードマンの死体を蹴り飛ばし、プーレルジールの空を見上げた。
「ここは広い……でも、僕たちはゼロ・グレイグヤードを守り切って見せなきゃいけないと思う」
 帰り道、祝音はがらくたの山にのぼり、辺りを見渡した。鉄くずの山ひとつひとつにゼロ・クールの人生があったのだろうか。それは途方もない数となって祝音の心を曇らせたが、その中核は決して揺らぐことはない。そして、ゼロ・クールのコアも、心も侵されざる聖域として護ってみせよう。それこそがイレギュラーズが、祝音がこの地に訪れる理由なのだから。

成否

成功

MVP

グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました!

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