シナリオ詳細
<神の門>ランゼルス・ソウルコレクター
オープニング
●二人の遂行者
季節外れに花が咲き誇る、無秩序な程に豪華絢爛な大神殿がある。テュリム大神殿とはそのような場所であり、天義の悩みの種である遂行者の本拠地としてこれほど似合う場もないだろう。綺羅びやかな神聖という化粧を施されているが、それを覗き込めば邪悪の根源にして忌むべき暗黒が広がっている。
イレギュラーズは審判の門よりレテの回廊に至り、テュリム大神殿に臨む事となる。此処まで足を運ぶとなれば、感じていた闇の瘴気は確かなものとなる。荘厳な場は原罪の呼び声に満ちていた。
立っているだけで気分が悪くなるほどである。しかし、この地に集うイレギュラーズはもはや万に一つも心が揺らぐ事はないだろう。神の国は偽善でしかない。これまで行われてきた遂行者の悪行の数々、そして利用される人々を見ればこの陣営に属する事がいかに夢物語にして短絡的か、少なくない犠牲によって立証されている。
「ランゼルス……様。イレギュラーズがもうすぐこの場へたどり着きます。マリグナント・フリートと幻影竜が応戦していますが、時間の問題です。審判の門は突破されたも同然、このままでは聖女の薔薇庭園でさえ踏み荒らされるかもしれません」
遂行者の一人が神殿の中の、もう一人の遂行者と思われる男に報告する。遂行者の中でも位の上下があるようで、テュリム大神殿に居住している遂行者は、外界で活動を行うそれよりも幾分か上位に属するようであった。
「悲観な報告に感謝するよルッツ君。ああ、煩わしい。私はただ静かに彼女らを愛でたいだけだと言うのに……」
ルッツと呼ばれた男は上位遂行者の背中を睨む。
サイコ野郎め。ランゼルスの部屋に使い走りで訪れた事は何度かあるが、その度に彼のコレクションが増えている。ゼノグロシアンは狂気にあてられた一般人であり、遂行者にとって都合の良い、使い捨ての歩兵である事は間違いない。だがそれを、少女たちを私的な目的の為に保持しているランゼルスという男には反吐が出る。
ゼノグロシアンは異言を話すもの、とも呼ばれる。遂行者の中には改心しかけているだの内なる悪と戦っている最中だのと綺麗事を並べるものもいるが、狂気で自我を失わせているだけに過ぎない。
どういう魔術を使ったか見当もつかないが、ランゼルスは狂気の量を調節できるようで、まともな人間の反応を残す程度に留めている。これが彼の言う、愛でる行為のスパイスになっている事は明らかだ。
もう限界だ。ルッツは静かに剣を抜く。イレギュラーズとの戦いが繰り広げられ、混迷としている状況で遂行者の一人が不審な死を遂げても構わないのではないか。ルッツの目指した神の国、それはこのようなものではない。
●報復
イレギュラーズがテュリム大神殿にたどり着き、慎重に進んでいると一人の男が壁にもたれかかっていた。ローレットのメンバーではない。この場に神の国を信じない不届き者がいるとも思えず、人質や罠と様々な可能性を考慮する。僅かな間と緊張の後、男の方から語りかけた。
「来たな……ふん、俺も妙なことをしたものだ。そうだ、俺は遂行者でお前達の敵だ。放っておいてくれ、この有様だ」
その男は出血がひどく、神殿のタイルを赤く染めている。どう足掻いても助からない重傷だ。
「少しだけ話をさせてくれ、俺はルッツ。アンタ達からは騙されてるだの何だのと説教されるんだろうが、俺は神の国を信じていた。親の顔も知らず、孤独に生きてきた。国のために戦った事もあったが……くそ、血が出すぎて頭が回らねえ。まあいい、同士討ちだ。結果は俺だけが討たれた形だがな」
何らかの理由で仲違いしたのだろう。ルッツは遂行者として決して許しがたい事もしてきたはずだ。そしてルッツもそれを自覚しているようで、僅かな可能性にかけた命乞いや治療を願い出る事もなかった。
「俺みたいな孤児を生み出したくなかった。神の国はそれを約束してくれたんだ……だが、ランゼルスの野郎はあろう事かそいつの前で孤児を辱めた。後は言わなくても理解るな。なあ、ローレットは悪党からの依頼も場合によっては受けるんだろう? 血迷言として聞き流してくれ。ランゼルスを……裁いてくれ」
後悔と憎しみ、様々な感情が混ざった表情を残し、一筋の涙と共にルッツは息絶えた。ルッツの血痕が行くべき道を示している。
「ふん、あの馬鹿め。私のコレクションを使いたかったのか知らんが、外回りの遂行者ごときが勝てるとでも思っていたのか。なあ、君もそう思うだろうジェシカ。おっと、サニアは怖かったのかな? ふふ、床を汚しているじゃあないか」
「も、もうヤだァ……おガあサん……」
ランゼルスはこの空間、誰にも邪魔される事のない自分と少女だけの世界を愛していた。自分の力で思うがままに動く人形、生殺与奪を握る、人を支配する感覚。この世界を汚す者は何人たりとも許すことはできない。
「今日はミリーと遊ぼうと思っていたが、どうにも客人が多いな。お前たちは私を許さないといった顔をしているね、私も同じ気持ちだよ」
- <神の門>ランゼルス・ソウルコレクターLv:50以上完了
- GM名星乃らいと
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年10月25日 21時30分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●デッド・オーダー
依頼人は既にこの世に存在しない。彼が逝く先は穏やかなものではないだろう。『愛を知らぬ者』恋屍・愛無(p3p007296)にとってそれは些末な死でしかなかったが、その些末を認知する事こそが人喰いの化け物にとって、自らと人を繋ぎ止める楔であった。
「命の重みが金の重みだ。払ってもらうぞ。必ずな」
命を投げ売った芝居、罠の可能性もあっただろう。だが、依頼という形ならば受けようではないか。この化け物はある意味で、人間以上に人間らしいが、彼は何処までもそれを是とはしない。天義と神国の争いに加担しているだけであり、罠であろうと最期には食べ尽くす。暴食の徒だ。
「気に喰わんな。ドブ臭い醜悪さを感じる」
『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)がドブ臭い醜悪さを感じる本人を前にして言い放つ。ランゼルスのにやけ顔を吹き飛ばして忘れ去る。気分を晴らすにはそれしかないと、イレギュラーズの誰もが感じている。交渉、逃走、敗北、その全てにNOを突き付けてやろう。昴は指の骨を鳴らし、静かな闘志、確固たる殺意を潜めていた。
「その通りじゃ…悪党の依頼を受ける事はある。ただし結果はどうなるかは保障はしない……それでもワシらに任せておくがいい」
『幻想の勇者』オウェード=ランドマスター(p3p009184)の言葉がルッツに届いたかは定かでない。若かりし頃であれば、もう少しばかりは直情的に快諾しただろう。そうなる前にヒーラーを呼びに四方八方へと走り回っていただろうか。随分と歳をとったものだ、とオウェードは自嘲した。だが、反故にするつもりはない。この薔薇に誓おう。
『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)はこの醜悪な場から目を背けている。それは怯えでも嫌悪でもない。これ以上、直視してしまうとアルヴァの中で何かが爆ぜるのだ。圧倒的な憎悪の嵐に身を任せれば、アルヴァとランゼルス何方かの死体が転がるまでそれは続く。気がおかしくなりそうだ。遂行者は怒りだけで勝てる相手ではなく、自身を律したイレギュラー『ズ』としての戦いが求められる。アルヴァにとって考えるまでもない仕事の鉄則だが、今は嵐が訪れようとしている。
「遂行者にロクな人間は居なかったが、異常者め……てめぇだけは赦さねぇ。これが神託なら、神なんざクソ喰らえだ!」
「HAHAHA! 少しはクールダウンしな。そんなにヒートアップしてたら今からテレフォンパンチを予告しているようなものだぜ。意外とクズは嫌いじゃないんだぜ、ミーは? なんたって、どれだけボコボコに殴っても感謝しかされねえ! 人道? 道徳? 知るかバカヤロー、下衆に権利は残ってねえのさ」
『竜拳』郷田 貴道(p3p000401)(よみ:ごうだ たかみち)はウォーミングアップがてらに柱を殴りつけ、高速で打ち抜いた。高速という言葉が不適切な程の非常識な拳の弾丸は、柱にヒビが入る事すら許さない。柱の中央には丁度、貴道の拳のサイズと一致する穴だけが空いていた。
「ヒートアップしてるのはそっちじゃねえか」
アルヴァはくすりと笑い、幾分が落ち着いた。
「まあここまでクソ野郎ならぶち殺すのに全くの躊躇はいらんな。その点は助かるぜ。跡形もなく消し去ってやるよ、このクソゴミ野郎」
『揺蕩う黒の禍つ鳥』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)も貴道に同意する。神の国に集う者は、何かしらの悲願を抱えている者が多い。神の奇跡に縋ろうとする者に、真実を突きつける事は辛いものだ。ランゼルスにも何かがあったのかもしれないが、この男は度を超えている。
エレンシアはこの男が、縋るものを利用する立場の人間であると断定した。世界が自分を中心に回っていると思い込んでいる悪党たちの、どす黒さを感じるのだ。
「戦いを楽しめないヒトは戦場に居るべきじゃないよ。だから、この子たちを解放してもらおうか!」
「はあ……君たちはいったい何なのかね? 私の部屋にずかずかと入り込んできたと思えば勝手に憤慨しておられる。良いか、君たちは神の国に選ばれた者じゃあないだろう! それだけで罪深いというのに、まだも罪を重ねると言うのか。いや、そのような邪悪な心を持っているからこそか」
「ツミツミうるさいヤツだね。オレの国じゃ手数より口数が多い方が罪深いよ」
『黒撃』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が気を練ると、ランゼルスの間を冷たい闘志が走った。イグナートはどのような場であってもスマートな物言いが多いが、エレンシアの『おくちのわるさ』に内包される殺意と拮抗する。
「うむ、うむ。童女たちを己の操り人形として使うタイプのアレじゃな。そういうの……本当によくないから……全国人権擁護委員連合会に怒られちゃうから……。よくないからーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「イヤーーーーーーーーーーーーッ!!!」
『殿』一条 夢心地(p3p008344)が今まで黙っていたかと思うと爆発した。イレギュラーズに最も近い位置で構えていた少女に、抱擁とも体当たりとも異なる、何をするつもりなのか理解らないポーズで猛突進し、あまりの光景に少女たちは悲鳴をあげた。
「見たところ完全に洗脳されている風でも無さそうじゃ」
夢心地はシリアスづらで昴の方を向き、何か重要な情報を掴んだと言わんばかりのアイコンタクト、ウインクを右2回左3回ほど行った。
「洗脳されてた方がマシだったかもな」
●ランゼルス
昴が夢心地・ウインクの受信を切り上げてゼノグロシアンの少女たちの対応に走る。インチキレリック一つでイレギュラーズに対抗しうる戦力になる訳がなく、全力でぶつかれば打破は容易であろう。だが、イレギュラーズに容易な仕事が迷い込んでくる事はない。常人では不可能な困難、それを遂行してこそのイレギュラーズである。
「加減はするけどよっ!」
昴は周囲の少女に乱撃を繰り出す。中途半端に意識が残っている為か、ランゼルスがそうさせているのか、昴の耳に嫌な悲鳴がこびり付く。痛覚も残しているのだろう、この男は本当にたちが悪い。
体を捻り、背後の敵へ正拳を繰り出す所で昴の動きが止まる。生き死にが関わっている場面なれど、少女の顔面に痕を残すわけにはいかない。そんな考えが一瞬頭によぎり、その隙をランゼルスは逃さなかった。
気付けば昴の脇腹に少女のナイフが深々と突き刺さっている。
「くっ……!」
「ごめんなさイ……! ごめんなさイ……!!」
眼前の少女は許しを請いながら、もう片方の手で刃を内臓にまで届かせようとする。
「あれは麿の光心地オーラでもすぐには照らせぬぞ。いとくるし」
「光心地オーラは僕には眩しすぎるようだが、半端に覚醒している者が相手では一瞬の気遣いが命取りとなるだろう。やれやれ、人助けなど向いてないのだが。全く厄介な依頼人だ。」
色々と正反対な二人が今の攻防を冷静に分析した後に、何やら奇妙な念波を発した。
(君達は助ける。帰るべき家に帰す。辛いだろうが今は耐えてくれ)
(い、痛いのはもう嫌……! たすけて……!!)
貴道は頭を掻いた。自分は悪人ではないが、過剰な加減などは苦手な部類であるし、このような繊細な場に合わせていては動きが鈍ってしまう。己が一撃はランゼルスを討つ事のみに最適化されている。
「考えてる事はだいたい察するよタカミチ。エンリョせず行ってくると良い。オレがここは引き受けるからね」
「貸しを作れたと思わないでくれよ、ユー」
「異界のチャンピオンには損得勘定ナシで挑みたいものだね」
イグナートは少女たちに飛び込んだかと思うと実に機敏な動きで刀剣や鈍器を掻い潜る。決して全力を出す事はできない相手ではあったが、このような者を守る為ならば、全力を出さない行為に対して全力を出すだろう。
「キミたちは変態ヤロウから解放されたら何をしたい?楽しいこと考えて抗ってみよう!ちょっとでも早くイイ夢を見れる様にね!」
「よう、遂行者とか言うクソ野郎。初めてだぜ、他人をここまで不快に思ったのは。女を無理矢理従わせて満足か?満足なら死ね。満足してなくとも死ね!」
エレンシアは少女から投げつけられたナイフを大太刀で弾くと、貴道と同様にランゼルスへと狙いを定めた。ゼノグロシアンが庇おうが、盾にされようが、人質にされようが知ったことではない。容赦なく自分を恨み、憎むが良い。その怒りと無念は必ずや、クソ野郎にぶつけてやる。クソ野郎を燃やし、凍らせ、地獄の底まで叩き落してやる。
エレンシアの読み通り、ランゼルスは二人の進行ルートへゼノグロシアンを配置した。貴道はその力不足な挑戦者の刃の一振りを、走る勢いを維持したままのダッキング動作で躱し、無視を決め込んだ。
「物騒な事を考えてるんじゃねえよ、エレンシア。俺は全員助けてみせる。邪魔はしねえから俺の邪魔もするんじゃねえぞ」
アルヴァが途轍もない速度で割り込み、エレンシアの殲光砲魔神の射線から少女を引き剥がした。
「物好きなやつだな。あたしもそれで終われるならそれで良い。せいぜいちょこまかと動きな、ヒーロー」
「任された。……なあ、愛無から聞いただろ? 俺の声も聞こえてるかわかんねーけど、もう少しだけ待っててくれよな」
人懐っこい笑顔を少女に返し、僅かながらの申し訳ない気持ちと共に蹴り飛ばす。
エレンシアの心境も正しい。なれば、双方が満足できる結果を出すのみ。アルヴァにとってそれは極めて単純にして、選ぶべき道である。
「クッ! 面と向かって助けを乞う相手と戦うのは想像以上に厳しいワイ……!」
「やるしかねえんだよ、オウェード。こうなりたくないだろ?」
昴が刺さったナイフを力任せに抜く。このような刺突で顔色を悪くする昴ではないが、やりにくい相手である事に間違いはない。
「あ、後で診てもらうことを勧めるぞい……。のう、お前さん方! 主人を守りたいなら先にワシを倒した方が得策じゃと思うが」
オウェードが少女たちを引き付ける。41歳のヒゲ男に少女たちが群がる構図はなかなかに異様な光景であるが、これで良い。彼女たちの望まぬ殺意を全て、我が身で受け止めてみせよう。コレクションは没収、お楽しみは終わりだ。
昴がほぼ渾身の力とも言える勢いのパンチで少女を殴り倒した。ショッキングなシーンをオウェードは目の当たりにする事になるのだが、これしきの事で決心が揺らぐ事はない。
「そなたらはこのままで良いのか! これは麿とランゼルスで行われている将棋じゃぞ! 麿こそが王将である!」
夢心地がくねくね動き、とても手番に一つだけ動ける駒とは思えぬ奇妙さでゼノグロシアンの猛攻を凌ぐ。盤面の外にも出れる桂馬と言うべきか、夢心地・スウェーと光心地オーラがこの場を支配している。
心なしか、少女たちも夢中になって夢心地を襲っている。レクリエーションのようだ。
「何このおっさん! マジでうざい!!!」
「そなた、今絶対に素が出たじゃろ!」
「アアア! コロス……!」
この場は、違う。戯れ事に興じれる場ではない。そのような悲しき場はバカ殿には似合わぬのだ。決して殺さぬ、見捨てぬ。痛い目を見るのは麿でなければならない。麿と言う道化がいながら人々が曇るのであれば、それは全て麿に非があるのだ。夢心地は決して顔に出す事はないが、この冗談としか思えない動き、言動すべてが真剣なのだ。
「今日の獲物はテメェだぜ、小賢しい草食動物さんよ?」
「おお、おぞましい。貴様のような巨漢にプロポーズされるとは寒気が走る。馬鹿の一つ覚えで拳闘に励んできたのか? 何の役にもたたぬ殴り合いで人生を無駄にし、その筋肉で人々を威圧でもしたのか、チンピラ風情が。その無駄な筋肉、炭鉱夫として日の当たらぬ場所で使ってやっても良いぞ」
「ほざけ」
貴道がランゼルスを殴り飛ばす。この過程が成立すればランゼルスという存在は跡形もなく消え去る。だが、貴道の拳は本能的に察知している。何らかの小賢しい、草食動物の知恵で威力を減衰されている事に。
「殴られた瞬間に吹き飛んで勢いでも殺したか。次はサービスしねえからよ、チャンピオンの疾さを思い知れ」
「次があると思っているのか!」
ランゼルスは聖骸布を身体に巻き付け、身体強化を図る。布切れだのペンダントだの、レリック一つ二つごときで自分の拳を躱せるとでも思っているのか、と貴道は自分が侮辱されたような気分さえ覚えた。ランゼルスの求めていた心境は恐怖である。だが、貴道という男は静かにキレている。呆れ返っているようにすら見えた。
「楽しそうだな。少女たちのメンタルケアに徹するのは僕の専門ではないので、動かせてもらおうか」
愛無はハイテレパスによる交信を終え、動き出す。様々な感情に触れる事になった化け物は、その一つ一つを献身的に対応していた。
泣き喚こうとするもの、諦め絶望するもの、生きたいと思うもの。そのどれもが愛無は鬱陶しい感情であっただろうか。能力を獲得し、捕食する事に集約するその行為は、愛無がどう思っていようと、少女たちの希望であった。
「貴様の存在そのものが神の国は正しいという事を立証しているな! 見よ、この混沌が生んだ化け物を! 邪悪なるローレットが使役する悪魔を! 私のコレクションに勝手に話しかけないでもらおうか!」
「話を続けたいわけでもなかったが、遮られるのも気分は良くない。途中でジャミングをかけたのは君のようだな」
ランゼルスは貴道のデスブローから距離を取るように愛無を狙いに定める。人間にしては確かに速い、面妖な生き物だと愛無は感じた。
「ツケが溜まっていくなあ、ランゼルス君」
愛無はランゼルスの斬撃の乱舞に手も足も出ないようであったが、粘液の滴る顔面は、笑っているように見えた。
「さっさと逝けクソ野郎。先に死んでたお仲間が向こうで待ってるぜ」
エレンシアがお構いなしに獄門から喚ばれし朱雀を放つ。無秩序にして直情的な殺意であるが、それはイレギュラーズの任務を支える重要な感情の一つでもある。皆が皆、良い子の騎士でいられるわけがない。このようなクソ野郎に天罰を下し、肉片すら焼き焦がす必要に迫られた時にエレンシアは最適な人材なのだ。
「あの思い切りの良さ、ワシも見習うべきか」
「アンタはそれで良いんだよ! アルヴァと同じように、助けれる命だかの為に藻掻いてな! クソ野郎を燃やすのはあたしの仕事だ!」
ランゼルスの身体が発火する。邪悪なレリックの光によって傷が塞がろうとするが、エレンシアの炎はそれを許さない。どれだけ皮膚が再生しようと、憤怒の炎はそれを残らず焦土とするだろう。
「藻掻き終わったら俺もその仕事に加担して良いだろ? 頭にキてるのはエレンシアだけじゃねえんだぜ?」
アルヴァが朱雀の炎に合わせ、神聖なるエクス・カリバーを放つ。付け焼き刃の聖遺物ではイレギュラーズの全力に追いつく事などできない。追いつこうと、それを悠々と引き離してみせようか。
「勝手にしな。流れ弾で死なすんじゃねえぞ」
「ま、そこはオレとオウェードで何とかするよ。最後までキを抜かないのが遠足だからね」
イグナートの鉄壁の防御は、如何なる不慮の事態も通さない。
「ここからは夢心地Revengeタイムじゃ! 見逃すでないぞ、チャンネルも変えるでない!!」
夢心地が尻で少女に体当たりしたかと思うと何か良い感じにポーズを決めた。強烈な痛みを伴う不殺の一撃とは別に、違った角度で少女たちは悲鳴をあげていたが、これこそが夢心地の光心地なのだろうきっと。
長介なる太刀を握り、白塗りの柔和な表情は冷酷さを帯びる。
「殿がこの程度で影響を受ける人間だとは思っていないが、僕にやらせてくれ。君はこの場において少女たちの希望、道化でなければならない」
「なんじゃと! 麿の出番を奪うつもりじゃな! 皆のもの、愛無を止めるのじゃ! 話が終わってしまうぞ!」
「皆があいつをボコりてえと思ってるんだが、まあしょうがねえよな」
アルヴァがやれやれと少女たちの介抱に向かう。オウェードも後に続き、倒れていた少女を抱える。
「これは別チャンネルでホラーが始まるようじゃ。良い子の皆は夢心地タイムに固定するのじゃぞ」
「嗚呼、下らない戦いで腹が減った」
愛無はランゼルスへとゆっくり歩き出す。貴道の拳、エレンシアの炎、アルヴァの聖剣と一つ一つの致命傷を受けて尚、立っているのは聖遺物の抵抗か。だがそれも無駄だ、全ては無となる。
「ユー、ゲテモノもいけるクチか? 正直ボディメイクに適してるとは思えないぜ」
「炭水化物程度にはなるだろう。気遣うのならば美味い飯屋でも紹介してくれ」
「ハッ! 夢心地チェーン店……スシ! テイクアウトスシ!」
この馬鹿たちは何を言っているのだ。私を食うだと? ふざけるな、陳腐な脅しだ。イレギュラーズに捕まろうとも四騎士が救出してくれるだろう、一時の辛抱だ。コレクションもまた集め直しだがそれは良い。
「ランゼルス君。きみは何か勘違いをしているようだが、依頼人は君の生死など条件に入れてないのだよ。むしろ、死を願っていたようなので失礼させてもらおうか。後のことは任せて、数百カロリーに成ってくれ」
いただきまあす。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました!
はんばーぐ、美味しいですよね!
不殺対応+ハイテレパスによるメンタルケアの合わせ技がグッドでした!
GMコメント
●目標
【必須】遂行者ランゼルスの討伐
【努力】異言を話すもの(ゼノグロシアン)の救助
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
テュリム大神殿 ランゼルスの間
原罪の呼び声に満ちている空間です。様々な不調に陥る可能性があります。
●敵
遂行者ランゼルス
少女を従わせ、武器としても盾としても扱う最悪の魔法使いです。
遂行者として高い地位にあるようで、実力は本物です。
異言を話すもの(ゼノグロシアン) 数名
ランゼルスを守る歩兵です。全てが少女で構成され、魔力で強化されています。
何があろうとランゼルスを守り抜き、命を投げ出す事に躊躇がないため対処は困難を極めるでしょう。
中途半端に意識が残されています。
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