シナリオ詳細
<神の門>破天曲折の道程:選別
オープニング
●「神」の地へ
『神の国』。
それはこの世界を『地の国』と呼び、イレギュラーズ達によって歪められた運命を『予言書』に示された『正しい歴史』へと導くため暗躍する『遂行者』達に課された大いなる目的の1つ。彼らがこの世界へ顕現させんと望む聖領域。
『聖遺物』。
それは神の国の礎。
遂行者たちによって世界各地へ密かに拡散され、彼らの主たる存在、『傲慢』を司る魔種『ルスト・シファー』の権能を呼び起こす触媒となる。
そして先日、地の国ともいえる一カ国聖教国ネメシス、通称天義の巨大都市『テセラ・バニス』は、唐突にその姿を『リンバス・シティ』へと変えた。
まるで白いキャンバスに黒いインクを垂らしたかのように。
黒き帳のような何かは、街を包み込むと一瞬で人々を染め上げた。
人々の思いを紡いできた人語は、祝福されし異言となって。
空から迫る闇の恐怖と終焉獣の雄叫びは、祝福の白きベールと福音の調べを思わせる。
そんな、言語も認識すらも様変わりしゆく街に不思議な声が響き渡った。
「我はサマエル。遂行者・サマエルなり。……」
「――天義。その白亜の都に巣くう偽善的な正義はすべて偽り……」
「偽りの正義に覆われたこの国を、本来のあるべき姿へと変える……」
「絶対正義と汚れなき『白』の都――『絶対正義圏(オリジナル・ジャスティス)』をここに顕現させるものなり!」
声は響き続ける。
予言、託宣、信託、福音。
テセラ・バニスの人間ならばそうは思わなかったであろう、聖なる言葉として。
リンバス・シティの人間ならばそうとしか思えない金言として。
●天の意志を為さんとする者達
変貌し、今やリンバス・シティと呼ばれる街。
遂行者サマエルによって整備されたその都市からは、神の国と呼ばれる場所への道が続いていた。
リンバス・シティと神の国を隔てるのは、1つの巨大な門。
『審判の門』と呼ばれるそれを通り抜ければ、『レテの回廊』と名付けられたこれまた大きな迷宮とも言える道が続いている。
その回廊の終着点、神の国の入口には二人の男の姿があった。
一方は鍛えられているのであろう筋肉質の腕を組み、毅然とした様子の仁王立ち。
もう一方は対象的に気怠そうな声を出しながら、手に持った花から花弁を1枚ずつ取り除いては投げ捨てている。
「来る~、来ない~……はぁ。で、いつ頃来るんスカね? お客さんとやらは?」
「ルルに招待された者以外は、まだ客と決まったわけではない」
「じゃあオレ達はなんでここで、何を待ってるんスカね?」
「お主のことは知らん。我はただ選別するだけだ」
「ヒドいなぁ~。選別スカ?」
「中にいる者達、イレギュラーズ。やつらは組織立って行動する場合が多い。ならばやつらの組織、ローレットから救援が派遣されるであろう。かの者達がこの神の国へ入り得る価値があるかどうか。それを見極める」
「聖痕が無けリャ、ここまで来る前に幻影竜の炎で灼かれて終わりッスよ」
「その程度ならばそれまで。我が遂行する使命にあらず」
「ふへへ。ああそういや~……なんデシたっけ? チェイスさんの~理念? でシタっけ?」
「……正しい歴史の遂行、その障害たる者を排除する。誤った正義を信じる者に試練を。試練に抗い、あがき尽くした先に待つ絶望こそ、悪の教えに準じていた事を痛感し改心する最大のきっかけとなる」
「ヒャー! ご立派ご立派ァー!」
驚嘆と嘲笑の混ざり合ったような奇声を挙げると、男は全ての花弁を失った花を投げ捨て、回廊に向かって歩き始めた。
「どこへ行く。ダラス」
「散歩っスヨ。散歩~」
「くだらん。くれぐれも我の邪魔にはなるな。よいか」
「へいへい~、分っカリやしたー」
●追いかける者、追われる者
暫くして。一人残されていたチェイスは、改めて審判の門付近の様子を確認する。
「そろそろ頃合いか。その力、見せてもらおう」
遠い視線の先では、神の国内部へ招かれてしまった仲間達やリンバス・シティに囚われた人々を救出すべく、多くの騎士団員やイレギュラーズ達が到着。戦闘が開始されてある程度の時間が経過していた。
熊の獣種であるフィアベルもまた、集まった1人として刃を交えているが、相応に疲弊の色が見られた。
「ぐぅ……! 数が多すぎる、このままじゃ……! でも、約束したから……!」
しかし、聖痕を持たぬ彼らは神の国とって異物そのもの。
門や回廊周辺を警備する軍勢の必死の抵抗を前に、足止めを余儀なくされていた。
「(こうなったら、強行突破しかない!)」
一瞬の隙をつき、敵味方入り交じる戦場から飛び出すフィアベル。
ネックレスにあしらわれた鈴がチリンと音を立てる。
「待ってて、ルディ! 今度は僕が君を助けてみせる!」
そう叫ぶと彼はたった1人、審判の門の先へと駆け出していくのであった。
- <神の門>破天曲折の道程:選別完了
- GM名pnkjynp
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年10月26日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●類は友を呼ぶ
ローレットと天義の聖騎士団が起こした神の国侵攻作戦。
その始まりの一つは、審判の門における大激戦であったといえよう。
負けるわけにはいかない!
仲間達を取り戻す!
膠着した戦況。周囲を満たす剣戟音の合間には、集まったイレギュラーズや騎士達の気迫のこもった叫びも混じる。
必殺技を喰らえ!
待ってて、ルディ! 今度は僕が君を助けてみせる!
「はあっ!……って、今の何!?」
そんな中、研ぎ澄まされた聴覚で異質な声を耳にした『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)はその出所へ視線を向けた。
そこには門を通り抜け、神の国へ至る回廊を目指す獣種の青年の姿。
「神の国侵攻作戦中のこのタイミングで一体何を……! シフォリィ、あれを見て!」
アルテミアの声に、共に戦っていた『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)も状況を把握する。
「あれは……! このしんどい時になんなんですかもう!」
「どうする!?」
「仕方ないですね、私達のやるべきことは決まってます!」
「ふふっ、言うと思ったわ!」
二人は息を合わせ周囲の敵を大技でなぎ払い、混戦の渦から一気に抜け出した。
それとほぼ同じタイミングで、別な何人かも飛び出してくる。
「あっ、アルテミアさんにシフォリィさんにゃ!」
それはつい先日の依頼で二人が共に戦った『見習い情報屋』杜里 ちぐさ(p3p010035)と。
彼の後ろには『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)の姿であった。
「実はちぐさくんが何やら声を聞いたようでね。救助に向かおうと出張ってきたんだが――」
「そこの人達、ちょっと俺達を助けてくれないかな? 今門の向こうへ突入していった人影が見えて」
「ン。フリック達。長時間戦闘。消耗可能性大。ソノ状況下。一人駆ケ出シ孤立。危険。発見急務」
丁度自分と同じような事を言う『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)と『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が現れると、思わずモカから笑みが零れた。
「まったく、この状況でこうも人が集まるとは。人の事を言えた試しじゃないが人助けセンサーの宝庫だな。ここは」
「ねぇ、今誰か助けてって言わなかった?」
そこに雲雀の言葉を感知した更なる人助けセンサー『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)もやってくる。
「取りあえず細かい話は追々するとして、彼を救出に行きましょう、門の向こうへ!」
アルテミアの言葉に集まった仲間達が次々と続いていく。
そんな様子を見つめていたのは、ローレットからこの戦いの医療部隊として派遣され、丁度チャロロの治療に当たっていた『花に集う』シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)だ。
「よく分かんないけど、この戦いではぐれた人がいるみたいだし、オイラ達も助けにいこう!」
「……そうですね。不測の事態というのは往々にしてあるものでしょうし、困っていそうですしね……」
少々ネガティブな部分もあるエリスタリスであったが、チャロロのポジティブさに引っ張られる形で共に行く事となった。
こうして思わぬ形で急遽結成された救出部隊は、互いの情報や状況を交換しながら門の向こう、回廊への道を急ぐ。
●約束を探して
ある日、僕の両親は何とか教会の人に連れて行かれた。
すぐ帰るって言ったのに。いくら待っても帰ってこない。
一人っきりは寂しくて、家の前で待ってたら涙が止まらなくって。
「どうして泣いているの?」
そんな僕に君は声をかけてくれた。
赤と緑の鈴でおさげを作った、僕より身体の小さな女の子。
「あなたもパパとママ、いないの? わたしと同じだね」
同じなのに、君はずっと強くて。
「これあげる。赤はわたしで、緑はあなた。さみしくなったら鳴らしてね。音が聞こえたら、わたしも鳴らして、会いに来るからね」
それから二人はずっと一緒。
二人だけでずっと。
「イレギュラーズになったんですってね。おめでとう……かしら。怪我には気を付けて。何かあったらいつでも戻ってきて。私はここで待ってるから」
――チリン。
~~~
「これがレテの回廊……にゃ? 何だか迷子になっちゃいそうにゃ」
ちぐさが驚くのも無理はない。
開けた空間ではあるのだが、所々に白を基調とした建築物が建ち並び、その一つ一つが荘厳な遺跡を思わせるように配置されている。
そして何より不可思議なのは、この目の前に広がる光景すらも、この回廊のごく一部でしかないということであった。
「急いでこの中にいる彼とルディって人を見つけてあげないとだけど……建築物の中は見通せないな。誰か何か感じるかい?」
雲雀の問いかけに、モカが応える。
「近くに二箇所、妙に敵が集まっているような気配がする場所があるな。もしかしたら、誰か追われているのかもしれない」
「では二班に分けて捜索するのが良いでしょうか」
エリスタリスの提案に同意した一行は、各々の適性を鑑み、班分けをした。
ファミリアーを二匹ずつ連れていたシフォリィとエリスタリスは、双方の班に一匹ずつ配置することで、互いの連絡手段を確保する。
「ン。フリックノ中。安全。シルフォイデア。スターバード。守ル」
「宜しくお願いします」
「シフォリィさんのネズミはオイラが守るね!」
「ありがとうございますチャロロさん。では出発しましょう」
こうして二手に分かれた捜索が開始された。
~~~
先に動きがあったのは、シフォリィ、アルテミア、モカ、フリークライの班であった。
こちらは多少気取られることを覚悟の上で、全力で敵の集まる方角へと移動していた。
「どいてくれ! 僕は早く助けにいかなきゃいけないんだ!」
そこには、何とか敵の攻撃をいなしているものの、身体中を負傷した獣種の青年が見えた。
彼は抵抗を試みるも、周囲を取り囲む影の天使に為す術がないようだ。
「あれが噂の彼だな。確保には私が動こう」
「対象。出血ヲ確認。フリック。モカに同行。彼。癒ス」
「分かったわ。私とシフォリィで影の天使を引き離すわね」
「ええ、まとめて片付けさせてもらいます」
作戦がまとまると、シフォリィは嵐のような勢いで飛び出し、次々と石化呪いが込められた魔術で影の天使達の動きを止める。
「――!」
「あなたの相手はこっちよ!」
それに続いていたアルテミアも青年から近い天使から順に攻撃を加え、道を切り開く。
「やぁ青年。こんな所で合うとは奇遇だな」
「ぐっ……あなた達もイレギュラーズですか? 助けてくれたことには礼を言います。でも僕は行かないと……!」
動きだそうとした彼の前に、フリークライが立ち塞がる。
「フリック達。味方。治療スル。動カナイデ」
手当を受ける間、青年はネックレスについた鈴をずっと握り絞めていた。
(……かまをかけてみるか)
「私達は鈴の音を探してここまで来たんだ。キミの邪魔をする気はないし、何か有るなら力を貸そう。だから話してみてくれないか?」
少し戸惑う様子を見せた青年であったが、やがて彼はフィアベルと名乗り、赤い鈴のついたネックレスをした女性ルディを探していることを打ち明けた。
「そうか。話してくれてありがとう」
「フリック。主ノ命。今モ守ル。フィアベル。約束。同ジ」
フィアベルの治療に目処が付いた所で、天使達を片付けたシフォリィとアルテミアも戻り、情報が共有される。
「事情は分かりました。……けど、それなら尚更無茶はだめですよ。立場は変わっても貴方はルディさんにとってたった一人の大切な人なのでしょうから」
「そうね。助け出されてもフィアベルさんが居ない世界になってしまったら。……彼女には意味がないのだからね?」
「気にかけてくれてありがとうございます……。ですがあなた達は、どうしてここまでしてくれるんですか?」
「ああ、それは恐らく――」
モカが述べるより早く、彼女達がいる遺跡の屋根が壊れると、そこから強烈な炎が吹き込んできた。
「く、今日はずいぶん間に嫌われているな!」
「頭上。奇襲。警戒。ドラゴン?」
「僕、さっきもこいつに襲われて! どうしてこっちの居場所が分かるんだ?」
それは赤い体表を持つ回廊の番人、幻影竜であった。
「とにかく一旦退きましょう!」
シフォリィの先導で、一行は竜の攻撃から逃げるように撤退。
もう一班との合流を目指す。
●暗黒に光る音色
フィアベルが救出される少し前。
チャロロ、エリスタリス、ちぐさ、雲雀の班は、敵に存在を悟られぬよう慎重に、かつ迂回するような経路を選びながら救助を求める人物を探していた。
だがその迂回路を通ることで、知らず知らずのうちに回廊の奥深くへと入り込んでしまう。
「皆! あっちで何だか変な音がするから注意にゃ!」
ちぐさの聴覚を頼りに辿り付いた場所は、少し開けた空間であった。
ただそれまでと違い、ここは遺跡の隙間から差し込む光もなく、紫の炎を湛えた松明だけが光源であり。
「「「――、――――」」」
「あれは……ゼノグロシアン? しかも住民の方々か!」
雲雀の見据えた先、部屋の中心部では何百という人間が一律の異言を唱えている。
「なんだが……すごく嫌な場所ですね」
エリスタリスは狂気に満ちた異言の圧を受け、辛そうな表情を浮かべた。
「ここを離れた方が良いんじゃない?」
「待って下さいチャロロさん。今、フィアベルさんという方が見つかったようです」
エリスタリスは、そのままフリークライの中にいるスターバードで見聞きした情報を、全体に共有する。
「鈴……! あの変な言葉がうるさくて聞こえづらかったけど、あの中から聞こえた気がしたのにゃ!」
「分かった。なら俺が探しに――」
「僕も行くにゃ! 音は僕が一番聞き分けられると思うから、出来る事をちゃんと頑張るにゃ!」
「助かるよ。じゃあ急ごう」
雲雀達は異言の波が揺蕩う人混みを掻き分けていく。
(もしルディさんがあの時の騒ぎに巻き込まれていたなら、ゼノグロシアンになってしまっていることも頷けるか。それにしても、凄い異言だ)
(なんだか頭がギンギンするにゃ。でもルディの方がきっともっと辛いにゃ。こんなのに負けないのにゃ……!)
――チリン。
「あ、あそこにゃ!」
「よし!」
雲雀はちぐさが示したゼノグロシアンを抱きかかえると、追加ブースターを点火し一気に脱出。
ちぐさもそれに続く。
「はぁはぁ……この気分の悪さは、初めて流転した時を思い出すかな。ちぐささん、大丈夫かい?」
「だ……大丈夫にゃ。それよりルディは無事にゃ?」
「――! ――!」
「……もう大丈夫。俺たちはフィアベルさんと一緒に君を探しにきたんだよ」
優しく、瞳を覗き込むようにして語り掛ける。
「――……――……?」
彼の名前に反応したのだろうか。ルディと思われるゼノグロシアンの動きが穏やかになっていく。
「待っていて下さい。今わたしが治療を――」
「このような場所まで入り込むとは。感心したぞイレギュラーズ」
満身創痍な二人と不調のエリスタリス、そしてチャロロを突き刺すような、冷たい声が木霊した。
●無謀を希望へ変えるまで
「おじさん誰?」
チャロロは四人と声の主の間に立つとシフォリィのネズミを逃がしお守りに小さく念じると、隠密行動のために外していた武装をどこからともなく出現させ装着する。
「我の名はチェイス。正しき歴史に降りかかる障害を打ち砕き、守護する者である」
男は組んでいた腕をほどき白いコートを脱ぎ捨てる。
現れたのは筋骨隆々な肉体。堅く握られた拳。そして腕に嵌められた黄金に輝く手甲であった。
「そいつは丁度いいや! 実はオイラも炎の守護者って名乗っててさ。勝負してみない?」
「自ら向かってくるとは威勢の良いことよ。無謀とも言えるがな!」
チャロロは敢えてチェイスの正面に飛び込むとその拳を盾で受け止める。
(――重っ!)
圧倒的な体格差から生じる衝撃は並の人間ならとても耐えられないものであったろうが、チャロロの盾と身体がそれを可能にしていた。
しかし、それも回数が重なれば限界が近づく。
「うっっ! オイラだって、黙ってやられる訳にはいかないよ!」
チャロロの全力を込めた剣撃を、ダラスは手甲で受け止める。
その瞬間、手甲は僅かに赤みを帯びたが、すぐに元の金色へと戻った。
「良いぞ。貴様らが足掻けば足掻くほど、我らの歴史の正しさが証明されよう」
「ぐあっ?!」
「大丈夫ですか、チャロロさん」
弾き飛ばされた彼にエリスタリスは駆け寄ると、治療を行う。
「オイラ結構頑丈だからね。それより早く撤退を――」
「わたし、今日は人を癒すのが仕事なんです」
チェイスが一歩前に出る。
「それと、誰かのために道を開こうとする人を置いていくのは……苦手なんです」
大きな拳を振り上げてまた一歩。
「あと、単純に出来ないのです」
「ベリアルインパクト! にゃ!」
更に踏み出そうとした一歩が、土の壁によって阻まれる。
「誰も単独では逃げようとしないのですから」
「星、流れ転じて死兆来る……流星流転、死兆将来!!」
動きが止まった頭上から、黒紅色の魔術星が彼を飲み込んだ。
「待たせたね。あの空間の変な気に当てられたようだけど、エリスタリスさんと協力して直せたよ。さぁ、今のうちに逃げよう」
「ルディも僕達もチャロロも、皆一緒に帰るのにゃ!」
心強い仲間達の言葉に、チャロロは再び立ちあがる。
「そういえばオイラ達、一人も残して帰れない集まりだったよね!」
一方のチェイスはその身に課せられた不調に動きが弱まっていた。
「……良い、良いぞ! これぞ試練よ!」
彼がそう叫ぶと、黒く染まっていた手甲が眩い光を放ち再びその黄金色を取り戻す。
その光を纏ったチェイスは、一気に調子を戻すとエリスタリスを狙い距離を詰める。
(早い!?)
咄嗟に間に割って入るチャロロ。
「改心せよ!」
そのブロックによって軌道が僅かにそれたが、光を纏った正拳突きは彼を壁に強くめり込ませた。
「……」
「チャロロ!?」
そう呼びかけたちぐさはチャロロを守るようにチェイスに向かい、エリスタリスはすかさず治療へ。雲雀もルディを抱きかかえて距離を取る。
「……どうだ。これがあがき尽くした先の絶望である」
「どんなに絶望的でも、諦めるつもりはないわ!」
雷光一閃。
勝利を確信したチェイスに、突き立てられたのはアルテミアの剣であった。
だが惜しくもその攻撃も手甲に弾かれ届かない。
それでもなお、と彼女は持てる剣技の限りを持って斬りかかる。
「大丈夫ですか!?」
それに少し遅れて、シフォリィ達三人もやってきた。
エリスタリスの回復に、フリークライも加わる。
「波動感知。迅速合流」
「へへ……お守り効いて、良かった」
「チャロロさん、無事ですか?」
エリスタリスの回復に力がこもる。
「何とかパンドラの力で助かったみたい……」
「怪我人・保護対象有リ。遂行者。難敵。ドラゴン接近」
「私達の目的はフィアベルとルディの確保だ。ここは退こう。雲雀さんはルディを。私はフィアベルを護衛する」
「任せて」
「来た道は覚えてるから、僕が先導するにゃ!」
「では私は先陣に立ち敵を殲滅します!」
全員の撤退を確認し、アルテミアもまた自身の為せる最大の早さで撤退した。
「……ふむ。あと一歩の所を」
アルテミアの剣撃を受け続けた手甲は酷く黒ずんでいたが、彼女らが撤退してほどなく、再び黄金色を取り戻すとチェイスの身体に光を授けるのであった。
●次なる嵐に向かう前
こうして、イレギュラーズ達は互いに協力し合うことで何とかレテの回廊を脱出した。
一行は天義の宿舎を借り戦いの傷を最低限癒すと、チャロロとフィアベル、ルディを寝かせている部屋を訪れた。
「皆さん。ルディを助けてくれて本当にありがとうございました。それとチャロロさん、怪我をさせてしまってすみません」
謝るフィアベルに、チャロロはそんなに落ち込まないでと励ます。
「今回は正直オイラも無茶しすぎたよ。でもこれだけは覚えておいて。オイラも皆も、助け合える仲間がいるから、こうして生きて帰れたんだ。だからさ! フィアベルも、これからは困った事があったらローレットの皆に相談してくれると嬉しいかな」
「そうだね。何としてでも助けだそうとするフィアベルさんの気持ちは、俺も痛い程わかるよ。ここに来るまでに同じような事をしてきたからね。でもチャロロさんが言うように、仲間がいるって、本当に心強いことなんだ。だから信じてみてほしい。俺達が力を合わせれば、きっとどんな困難な道でも切り拓いていける。ってね」
「どんな困難も切り拓く……」
フィアベルは隣のベットで苦しそうに咳き込むルディを見つめる。
あの空間に長く居たせいか、彼女のゼノグロシアン化は審判の門周辺で救助された住民よりも深刻で、未だ改善の兆しを見せずにいた。
「狂気と戦っているのね。でもまだ彼女は堕ちてはない。貴方の声があればきっと取り戻せるわ。……だから絶対諦めないで」
紡がれる願いの言葉。その最後の瞬間、アルテミアの左目が僅かに色を深めたように見えた。
「ン。コレ。フリックカラ。オ見舞イ。果物。食ベル。糖分。ビタミン。元気デル。元気デタラ。ルディヲ。守レル」
そういって、フリークライは自分の背中に生えた果物を刈り取ると二つテーブルへ並べた。
丁度その時、審判の門周辺で生じた大きな爆発音がこの宿舎にまで響く。
それは再びイレギュラーズの力を必要とするような、大きな戦いの狼煙なのであろう。
「この神の国の問題はどうにかしなければならないですが……わたしはもう少しチャロロさんの治療をしてから参ります」
「エリスタリス、ありがとにゃ! フィアベルもここで休んでるにゃ。この街の、ルディの故郷の平和は、きっと僕達で取り戻してみせるにゃ!」
「行きましょう皆さん。私達全員で、一人でも多くの人を救うんです!」
ちぐさ、シフォリィの後に続き、イレギュラーズ達は戦地へと向かう。
最後にモカだけがそこに留まった。
「まだキミの質問に答えていなかったのを思い出してね」
彼女は小さく笑って。
「私達がどうしてここまでするか。それはきっと、キミと同じだからだ。助けたい人の為なら無謀を承知で駆け出してしまう。もっとも一人ではなく、信頼できる仲間達と共に。だろうがな」
そしてStella Biancaの名詞を残し去っていった。
神の国侵攻作戦は、激しさを増していく。
その後の戦いにおいて、彼らが得たレテの回廊の地理情報は作戦の成功に少なからぬ影響を与えたのであった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
冒険お疲れ様でした!
天義編も冠位魔種との対決に向かっていよいよの盛り上がりを見せていく中、
その前哨戦のような戦いのお話でした。
皆様の互いを信頼し、共に生きて未来を掴もうとする心が、若きイレギュラーズの命を救うと共に考え方を改めさせたようです。
またゼノグロシアン化によって狂気に苦しむ少女も犠牲となる前に助け出すことができました。
少々症状が残っている点が気になりますが、現状では上々の成果だったと言えるでしょう。
また非常に厳しい戦いではありましたが、最後まで立ち塞がったからこそ、チェイスの強さのからくりはある程度露呈しました。
恐らく皆様の殴ってやりたい男リストに加えられたかと思いますが、
その機会が訪れるのは、また別のお話。
※両方にご参加下さった方もいらっしゃいますので一応記載しますが、
時系列的には遊戯→選別となっております。ただ、この先後はほぼ関係ないのでご安心下さい。
それでは、またどこかでお会いできることを願いまして。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
●概要
天義を舞台とした大型イベントに繋がる物語です。
神の国内部にいるイレギュラーズ達の救助や、ルスト・シファーの動向を探るためにも、外界に残っているイレギュラーズの皆様は様々な形で神の国への侵入を試みる事となります。
勿論、世界の行く末に関わる大事な戦いですので、皆様は強敵と戦うために集っていたりもすると思うのですが、どうやらここには別の目的を持って集まったイレギュラーズもいたようです。
満身創痍の中飛び出していった彼を、良かったら助けてあげて下さい。
●目標
NPC「フィアベル」の生存
NPC「ルディ」の発見と生存
●NPC詳細
・フィアベルは獣種のイレギュラーズです。
どうやら彼は何かしらの事情があるようで、回廊の中を駆け回ります。
戦闘に関わるステータスは、基本的に参加して下さったPCの平均値をやや下回る程度。
装備品は基本的な防具と短剣で、敏捷性に頼った近接攻撃がメインです。
目的を達成するまでは不退転の覚悟です。
彼に追いつき落ち着いて話ができれば目的を知れるでしょうし、目的が推測が出来ていれば手早く達成に向けて行動できるでしょう。
・ルディは人間種の女の子です。
テセラ・バニスに住んでいたそうです。
・チェイスは「遂行者」と呼ばれる存在です。
自身の力に対して絶対の自信を持っており、今回は戦いが始まってある程度時間が経過しても戦い続ける者を「我が排すべき障害たる者」と認め、襲いかかってきます。
シナリオ開始時はレテの回廊を抜けた先から、審判の門を目指して移動し始めた段階です。シナリオ内の時間が経過すればするほど、接敵確率が上がります。
●エリア詳細
今回使用するエリアは、審判の門~レテの回廊~神の国入口の間の空間になります。
時間帯は昼間、闇に覆われたリンバス・シティとは異なり、門や回廊は光輝く美しさすら感じられる空間になっています。
レテの回廊は迷いそうになるほど様々な道がありますが、迷わず進めば最終的には神の国入口に繋がる構造です。
・審判の門
門の周辺で、敵となる「影の天使、ゼノグロシアン」とイレギュラーズ達がごった煮状態で戦っています。
直接狙われる機会は少ないと思いますが、全く対策しなかったり不運が重なったりすると、流れ弾的攻撃が当たるかもしれません。
・レテの回廊
門を超えた先に広がる回廊です。神の国の入口に向かって伸びる入り組んだ迷路、といった形でご認識下さい。
回廊内には審判の門周辺から紛れ込んだ敵や元々配置されている敵、幻影竜と呼ばれる敵が攻撃してきます。
回廊内には敵が多いエリアや逆に手薄なエリアなどがあります。
運に左右される場所もあるかと思いますが、敵が多いところはそれだけ危険の香りがプンプンしていそうです。
●特殊判定
今回キャラクターの皆様は、審判の門にてある程度戦いをしてからのスタートなるため、「HPとAPを半分消費した状態」からシナリオが開始されます。
皆様の実力であれば、単純な戦闘で負ける可能性は低いと思いますが、ステータスを除いても長時間戦闘による疲労も蓄積している状態となるので、対策をするか疲労を前提とした行動方針を立てるのが良いでしょう。
●敵詳細
・影の天使
かつてベアトリーチェが使用していた兵士にそっくりな存在で、ディテールが上がり影で出来た天使のような姿をしています。
基本的に手に持った鎌のようなもので斬りつけてくる攻撃が主体です。
俊敏な方ではないですが、図らずとも囲まれると連携攻撃のような形で襲われます。
ステータスは低めなので、多vs単となるように意識して戦ったり、1体1体を集中して狙えば苦戦はしないでしょう。
・ゼノグロシアン(異言を話すもの)
基本的には、住民が狂気に陥り異言を話すようになってしまった状態です。
ですが、一部チェイスによって配置された個体も混じっているようです。
チェイスが生み出したものは魔力体のようなもので、倒せば消滅します。
住民だった場合は、やりすぎないように倒したり、何か琴線に触れるような感覚があれば正気に戻る瞬間があるかもしれません。
元が住民かどうかは、見た目で判断出来ます。
・幻影竜
回廊に入ると出くわす可能性がある赤い竜です。
竜種よりは弱いですが、遠距離から焼き払おうと火炎で攻撃したり、上空から急降下して鉤爪で引き裂こうとしてきて些か面倒な相手です。
ステータスは高めで動きも素早く、火炎は直撃具合によって火炎系列のバットステータスが。
鉤爪攻撃はクリティカルで毒系列のバットステータスが付与されてしまいます。
攻撃は比較的単調ですが、撃退するとなると中々に手強い相手です。
・遂行者チェイス
遂行者と呼ばれる存在の1人です。
筋骨隆々な体格と輝くスキンヘッドがトレードマークで、レテの回廊を進めば進むほど、レテの回廊内での時間経過が経てば経つほど、出くわす確率が上がります。
自慢の筋肉を活かした肉弾戦が中心ですが、ステータスは全快の皆様が全員で集中して戦っても苦戦を強いられる程度には強いです。
組んだ腕の中には何かを隠し持っているようで、底が見えない相手です。
※遂行者ダラスは本シナリオのリザルトでは登場しません。
●その他
・情報確度B
ここに明記されている情報は間違い無く正しいですが、明記されていない情報を推測したり対策を講じることが推奨されます。
目標達成の難易度はN相当ですが、行動次第では重傷に陥る危険があります。
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