シナリオ詳細
<神の門>穢れた誇りを道ずれに
オープニング
●
騎士として国に仕え、不正義を打倒する。
失った一族の誉れを取り戻し、信仰を取り戻して剣を取った。
あとは正義の剣と共に腐敗を斬り、世界に正しき信仰を布く。
そのために、生きてきた――はずだった。
「……くだらんな」
レテの回廊を行くナルシス・ベルジュラックは短くそう呟いた。
「実に、くだらん」
天義という国は、魔の影に覆いつくされていた。
冠位強欲という名のヴェールを手繰り、曝け出された悍ましき醜さ。
それは、男にとって思想の根幹を否定する醜悪なる『信仰と呼ばれた何か』の答えだった。
「俺は、そんなもののために剣を取ったわけではない。
そんなもののために、聖遺物を取り戻さんとしたわけではない」
漸く聖遺物を取り戻した頃、既にナルシスは我が子の手で追放されていた。
実際、追放されること自体はどうでもよかった。
残った同志たちが買い戻してくれた聖遺物も、最早どうでもよかった。
(貴様らには俺の失望は分かるまいな)
迫りくる特異点たちを思い起こしながら、ナルシスは思う。
冠位強欲のヴェールが剥がれ落ち、国が少しずつ立て直されようという陰でひっそりと伸ばされた手。
(この国は、あまりにも醜い)
必要以上の分別は強欲に等しく、必要以上の忠節は傲慢に等しい。
冠位七罪と呼ばれる者たちの手が、2つ――この国は穢れ過ぎていた。
(俺の信じていたものは、なんであったのか。この穢れた誇りで守るべきものを守ろうなど、烏滸がましい)
聖書曰く、人は皆、罪を犯すのだという。それでも神はそれを許してくれるらしい。
(……くだらん)
実に、くだらないと、ナルシスは思う。
「罪を犯しておいて、許しを乞うなど――裁いてきた者たち同様に、我らは裁かれるべきだ。
天義という我らが祖国も、同様に、裁かれるべきだ」
きっと、それが正しさというものだろう――から。
影が差して、そちらを見れば赤き竜が空を行く。
聖痕を持たざる者たちを焼き尽くす炎の化身。
招かれざるものを焼き払う神の門と回廊の門番たち。
あれらは本物の竜には劣れども確かな脅威となるだろう。
「既に穢れていた信仰なれば、穢れらしく剣を振るえばよい」
迷いなど、はじめから存在しなかった。
守るべき民を殺し、国に弓を引く。
この身が傲慢の痕(あかし)を刻まれたあの日から、ナルシスは迷いなど存在しないのだ。
●
荘厳なる門が見えてくる。
リンバスシティより至りし神の国。
その堂々たる門前には赤き竜が飛び交っている。
数多の赤き竜、その内の一体が風を切ってイレギュラーズの前に降り立った。
「来たようだな、随分と長い付き合いになったものだ」
その背後から飛び降りたのは、赤茶色の髪と髭を蓄えた壮年の男。
「ええ、本当に長い付き合いになりましたね、ナルシス卿。そろそろ、貴方の首を貰い受けたいのですが」
すずな(p3p005307)は静かなままに愛刀を手に構えた。
「まぁ、そう急くな。此度の目的は俺ではないのだろう」
男が短く笑う。
「わかっておられるのなら、通してほしいのですが」
愛剣を抜くシフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)に男はまたも薄く笑う。
「――これでも俺は遂行者よ。我らの庭を荒そうとするのだ、それに抵抗するのは当然だろう」
その剣に、魔導書に魔力が巡るのをリースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は感じ取る。
「我らの庭、ですか。たしかにそうかもしれませんね」
リースリットは緋炎に魔力を注ぎ込みながらまっすぐに男の向こう側を見据えた。
向かう先は遂行者たちの箱庭、冠位傲慢のお膝元。
奴を引きずり出すためにも、ここで足止めなどされている暇はないのだから。
- <神の門>穢れた誇りを道ずれに完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年10月28日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
竜の咆哮が戦場に轟き紅蓮の炎が降り注ぐ。
戦闘は既に始まっていた。
「『鷹将』ナルシス……見るからに強敵だな」
その姿を認めた『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)はあふれる闘志を滾らせる。
元より、守りは苦手だった。
あの男の下へ攻めたてるまでに立っていられるかはわからない。
「出し惜しみは無しだ、最初から飛ばしていく!」
強烈な踏み込みに大地が僅かに罅を入れる。
黒き騎士の懐、槍の内側へと飛び込むままに放つ渾身の拳。
破砕の闘氣は燃えあがるような熱を帯びて強烈な一撃を以って騎士を抉り取る。
黒い靄が破裂するように後ろに向けて飛び散った。
「天義には……あなたみたいな人が多すぎる、ね……強欲で、傲慢で……人を人とも見ようとしない。
人の心は……きっと、枯れ落ちてしまったのかも、しれないけど……」
ナルシスを見やり、『星を掴むもの』シュテルン(p3p006791)は静かに言葉を紡ぐ。
微かに燻る怒りにも似た感情が、気付かぬうちに声に乗っていた。
(あなたみたいな人、近くで……十何年も、一緒だった事がある。お父様……私は、私は……)
少し先に立つその男がブロンドの髪を揺らして見えた。
それはただの幻覚で、シュテルンの知るあの男が重なって見えただけだった。
(強欲の次は傲慢……求める事はなんでも罪になる、のかな)
ちゃんと、傲慢の魔種を、その男を見据えてシュテルンは小さく胸の内に酷く悲しい思いを抱いた。
空を見上げれば、そこには幻影竜が未だに飛び交っている。
展開した術式が幻影竜を絡め取り、大技を奪われた竜が唸り声をあげていた。
「貴方の言う通り……随分と長い付き合いになりましたね。ですがもうすぐそれも終わりでしょう。
ここでつけるとは言い切れませんが、また私達が勝たせていただきます!」
空より眼下を降ろすように『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は宣誓と共に細剣を振るう。
黒の剣閃は空に幾重もの堕落の渦を巻いてめぐる。
「ふ、随分なことだな。やって見せよ、シフォリィ・シリア・アルテロンド!」
シフォリィは多くの遂行者たちへとある種の同情のようなものを抱いていた。
それは彼らが自分たちと相対するために生まされた存在。
いわば自分自身が辿っていたかもしれない歴史の成れの果てだと気づいたからこそである。
こちらを見上げた騎士も、その1人だろう。強かに、その剣はナルシスらを絡めとっていく。
「直接の対峙は……此度で四度目、ですか。此処まで長く続くとは。
剣を志す身としては愉しき時間でしたが……それも、いい加減終わらせる頃合いでしょう」
その合間を斬り裂くように『簪の君』すずな(p3p005307)の太刀筋が走り出す。
「そうだな。俺は貴様ほどは剣のみに志すわけではないが――終わりは近いようだ」
激しく打ち合う剣がお互いを斬り裂いてかすり傷が増えていく。
「勝手知ったる、とまでは言いませぬが……四度も見れば太刀筋もおおよそ見えてくるというもの」
「ふ、それは奥の手を誘っているのか?」
薄く笑った男の一挙手一投足をすずなは捉え続けている。
(あの不自然な軌道の太刀筋以外にも、隠しているものはあるでしょう!)
嫌に余裕な振る舞いは『傲慢』というだけではあるまい。
「復興も進んで立ち直って来てる天義をまた滅茶苦茶にするような冠位魔種を倒すためにも、ボク達はここで足を止めているわけにはいかないんだ、通らせてもらうよ!」
槍を構える『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)の言葉に激情を見せるのはナルシス――ではない。
「先程から、あのお方を倒すなどと、妄言も大概にしな!」
青白いオーラを纏う騎士の斬撃が迫る。
焔はそれを難なく躱すと、返すままに槍を撃つ。
烈火の炎が伸びて青き騎士の肉体をうがち、黒い靄があふれ出す。
「すずな君もはりきってるようだし私も気合を入れるか!」
その様子に『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は燃えるような緋色の雷光を纏う。
神雷の向かう先は青き騎士。
「私を捉えきれるかな!」
バチリと音を立てたマリアはそのまま爆ぜるように飛び出した。
騎士の懐へと潜り込むままに放つ拳は神速の炎雷。
燃え上がる紅の拳打に続くままに燃え上がるような緋色の雷霆は留まることなく駆け巡る。
「忌々しい――!」
舌を打ち、青騎士が槍を掲げた。
「『神の国』とはね。学者の端くれとしてはこの場所を心ゆくまで調査したい所だけど……まずは眼の前の敵をどうにかしようか」
聳える荘厳ある門を見据え『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)はそう呟いた。
「我らが神のお膝元で随分な無礼な物言いだな、特異点」
青騎士は槍を振るう。敵意に満ちた薙ぎ払いには籠められた執念を表すような一閃を描く。
「いくらでもするといい。私の手で全て打ち消してみせよう」
引き金を弾いて放たれた魔弾は柔らかく戦場を包み込む。
(信仰を失った者と理想に敗れた者の採る行動はとても似ています。
現実という地に足の着かない思考は、今を否定する為に破壊的な指向性へと先鋭化する……まるで革命家の顛末そのもの)
イレギュラーズの攻勢を受ける男を見て、『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は静かに思う。
「貴方はいつぞやの……シルヴェストル卿に代わり、死後を穢された貴方の無念を此処に晴らします」
「……この身体の無念か。いいだろう。受けて立とう」
静かに応じたアベラールの剣がリースリットのそれと激しくぶつかり合う。
「私は不器用なのでな――相手に合わせて手を変えることはしない。
だが――それで十分だ」
昴は青騎士の下へと飛び込んだ。
全霊の力で叩き込む拳は栄光のための一打。
苛烈極まる拳はそれでもあくまで牽制の一打にすぎぬ。
本命たる踏み込みと共に撃ちだした打撃が空気を震わせた。
元より、破壊しか手はない。
元より、それ以外する気もない。
対城絶技たる青騎士へとまっすぐに突き刺さる。
●
「腐敗した果実が多すぎる、と以前仰いましたね、ナルシス卿。
私の答えはこうです――当然でしょう、それが何だというのです」
竜の咆哮が轟く中、リースリットはナルシスに視線を向けた。
「まさか、穢れ無き正義でなければ認められないと?」
「当然だ。そうでなければ、俺達の振るった剣の意味さえも軽くなる」
「――理想として掲げる分にはそれで良いでしょう。
しかし、理想主義が過ぎればその信仰が毒になる。
信仰の為に民が居るのではない。民の為に信仰があるのです」
「今にして思えば、そうだろうな」
斬撃の余波の向こう側、自嘲するようにナルシスが笑う。
(特異運命座標として、特異運命座標として……役に、立たないと……)
激闘の中、シュテルンは魔導書をめくり歌を歌う。
「私には回復もある……やれる事は、ある、ある……!」
力を振り絞るように、迫りくる敵の攻勢を覆さんとシュテルンは術式を展開する。
優しい声が術式を通して癒しの力を戦場へと浸透させていく。
背後から仲間たちが動く気配を感じ取り、すずなは構えをなおす。
「既に見せた太刀筋故、種は割れていますが」
目前に立つ男の表情に険しさが乗る。その口が何かを紡ぐ。
剣氣開放、摺り足が半歩を刻む刹那、すずなの身体はブレるように速度を跳ね上げる。
「――だからといって容易に凌げる一刀ではないでしょう!?」
全ての景色を置き去りに、目の前の男の動きはない。
圧倒的な速度で放たれた斬撃はまっすぐにナルシスへと伸びていく。
寸分の狂いもなく、その刺突はナルシスの首を貫く――
「お前の言う通りだ、剣客――だが」
その表情が短く笑みを刻んだのに気付いた時にはナルシスの首筋に刺突が入る。
直後、激痛がすずなの腹部を貫いた。
ナルシスの腕が動き、すずなの腹部に白刃が伸びている。
カウンターの白刃がすずなの身体を貫いたのであろう。
「――ッ! やはり、まだ鬼札を残していましたか……!」
「貴様ならばきっと、首を狙ってくると思っていた。
捉えきれずとも……狙ってくる場所がわかっているのなら、やりようというものはあろう」
「やってくれましたね……!」
追撃に刻まれる剣を振り払い、腹部を抑えたすずなは何とか後退する。
「すずなちゃん! 下がって!」
そこへ焔は滑り込むようにして割り込んだ。
燃え上がるように刺突は炎の尾を引いてナルシスへと叩きつけられる。
「次は貴様か、炎の娘」
刺突を受け止め切ったナルシスの猛禽を思わす眼光が焔を見た。
獲物を狙う猛禽のように、その瞳は焔から離れない。
「あなたがどうして遂行者になんてなったのか、ボクはわからない。
あなたにとってはそうすることが正しいことなのかもしれない……」
真っすぐに視線を交え、焔は槍を握りしめる。
「……理解など、されたいとは思わん。今更、正しさがどうの、俺の口がほざくものでもあるまい。
元より、俺達は平行線だ。先に進みたくば切り伏せればいい」
静かに答える男の瞳はどこまでも暗い。
「言われずとも!」
改めて槍を握りなおして、焔は槍を打ち出した。
燃えるような刺突は烈火の如き侵略の連鎖。
高鳴る鼓動と重ねたそれは男の意識を焔に向けるに十分だった。
「すずな君! 下がっていたまえ――」
マリアは雷光を輝かせてナルシスへ走る。
「雷速必中の蹴り! 君に躱せるかい!?」
「元より、躱すつもりはないな」
爆ぜるような炸裂音と共に飛び込んだマリアは緋色の雷霆を走らせる。
「私の友人に一撃を食らわせたのだから、覚悟はいいね!」
緋色の雷光が戦場に激しく瞬いた。
「さて、ナルシスと言ったかな。
私としては何時ぞやの海洋以来だが、ご活躍はローレットの報告書で聞いているよ。
神の国を守ろうというのは結構だが、私の意志は以前と変わらないよ。
我らの歩みを否定させることだけはしない」
ゼフィラは引き金を弾いて、熾天の宝冠をすずなへ降ろしながら、視線をナルシスへ向けた。
「そうか――ならば、もう一度言っておこう。
俺は貴様らの歩みとやらを否定する気も肯定する気もない。
――それとも、もっと直接的な言葉が良いか? 貴様らの歩みなぞどうでもいいと」
冷ややかな言葉と共に向けられた視線にはその言葉同様の冷たさを帯びていた。
リースリットは静かに剣を取り、まっすぐにナルシスへと斬撃を撃つ。
「過ちは――罪は、認め、糧とするもの。そうして未来を築いて行くのが人の社会というものでしょう」
精霊光が眩く輝き、壮絶に騎士の身体を撃った。
「……その過ちを、罪を、俺達は認めることなどできなかった。
糧にすることすらなく、ただ殺してきた。過ちを断ち、斬ることでしか歩み続けることの出来なかった。
魔種という悪性腫瘍を内に潜めていながら、平気な顔で民を殺してきた我々は! 責を負わねばならん!
汚らわしい……狂った正義とやらの責は――どう取るというのだ! 取らねば……取らせねばならんだろうが!」
「細かいことは知らん。このまま押し通らせてもらうぞ!」
昴はそこへと飛び込んでいく。
撃ちだすは炎熱の拳、破砕の闘氣が激しく猛り、熱と共に空気を打つ。
放たれた一撃がうねりをうみ、ナルシスの身体に致命的な天運と共に吸い込まれる。
爆ぜるような一撃にナルシスが僅かばかり体勢を崩した刹那、対城絶技たる一撃の追撃が突き刺さる。
「穢れた誇りとか言いますが、今天義に生きる人は立ち直ろうとしています。
結局汚れた信仰に歪んだ形でしがみついているのは貴方ではないですか!」
刺突を繰り出すシフォリィの剣先から炎片が乱れ撃つ。
美しき炎舞が行先でナルシスは釘付けにされたようにその場で立っている。
「天義の民が立ちなろうとしていることも、この汚れた信仰に俺がしがみついているのも、その通りだろうよ」
弾幕を斬り払い、ナルシスの視線がシフォリィを射抜くように見た。
「だが――だからなんだ。知ったことではない。
民が立ちなろうとしているなど、関係ないわ!
今更その汚れた信仰さえも縋らないのなら、俺の生涯に何の意味がある!
『その上、誰にも裁かれずのうのうと生き続ける浅ましさになど、耐えられるものか!』」
激情が斬撃となってシフォリィに傷を入れた。
マリアは背後の気配を感じとるや電磁加速を弾きあげた。
「大技がいつまで続くかな!」
圧倒的なまでの手数と天性の直感力はナルシスの剣技とは相性がいい。
斬り裂かれる肉体の傷など大したものではなく、与える攻撃は峻烈。
燃えるような緋色の雷撃にナルシスの表情が確かに歪んでいく。
「――さぁ、もうそろそろだね。いいかい、すずな君!」
その言葉と同時、ナルシスが目を瞠り――ようやく気付いたように顔を上げた。
「シルヴェストル卿の居ない場で斬り捨ててしまうのもとは思っておりましたが。
やられた以上は、一太刀いただきましょう」
すずなは爆ぜるように飛び出した。
鋭く、爆発的な加速から繰り出した斬撃が美しき太刀筋を描いてナルシスの白衣をどす黒く塗りつぶす。
「……さきのカウンター、どうやら準備が必要なようですね」
壮絶たる追撃、連鎖する斬撃の終わり、真っすぐに視線を交えれば、ナルシスが顔をゆがめた。
「ボクも忘れちゃ駄目だよ!」
追撃となるは焔の炎槍。
重ねた傷の分も熱に乗せて、けれどその痛みは比較的軽い。
カグツチの閃光は華やかな軌跡を描いて天に伸びる炎の柱を作り出した。
激闘の終わりを告げるような一撃の代わりに撃たれた斬撃は、それほどの痛みではない。
●
「ナルシス卿……貴方は潔癖に過ぎる。私にすら断言できる、貴方は為政者として失格です。
貴方の失望に、絶望に、他を巻き込むな!」
激情を露わにナルシスの撃ち込んだ斬撃を静かに受け止め、リースリットはまっすぐに返す。
返すように振り払った一閃が強かにナルシスを撃った。
「ふ、ふふふ、はははは、巻き込むな、か……あぁ、全く。ファーレルの娘。
貴様の言葉はどれもこれもまっすぐに俺に突き刺さる。だが――だとしてもだ、俺はもう止まるわけにはいかん」
静かにナルシスは笑ってそう言った。
「……そうだ、そこの歌姫よ」
不意に声をかけられシュテルンは思わずびくりと身体を震わせた。
「貴様の言う通りだな。この国には俺のような人間は実に多いのだろう。
そこには否定の一つもする気はないが……少なくとも、剣を取った理由は民のためであった――はずだ」
まるで懐古でもするように目を伏せて言ったナルシスは一歩後ずさる。
(人は何かに縋っていないと何も出来ないのだろうか。
歩み寄る……なんて、ううんそんなの、ね)
信仰に縋り生きた者のなれの果て、その姿はシュテルンにはあまりにも物悲しく見えた。
「貴方は幻想を魔種の温床と言いました。
貴方は一体何を知っているのか教えてもらいます、ナルシス・ベルジュラック!」
肩で息をしながら、シフォリィは剣を構え直す。静かに、まっすぐに。
「はっ、それはどんな冗談だ? 異国の俺よりも、幻想という国の澱みは貴様の方が分かっているはずだ」
挑むように打ち出した刺突を受け止め、押さえ込まれながらなお、ナルシスは笑った。
「だが、推測ならば容易い。すでに貴様らの奮戦により、各国に迫った冠位は倒れている。
幻想、幻想だけだ。未だに冠位の本格的な魔の手が完全な形で現出していないのはな」
「……あくまで、貴方の予想でしかないというわけですか?」
怪しむようにシフォリィは視線をナルシスへ向けた。返答はない。
答えるまでもないと言わんばかりだった。
「おや、それならば練達だって同じはずだよ」
そう答えたのはゼフィラである。
「――はっ。笑わせる。練達は旅人の国。預言者の言葉を借りるなら『身勝手な神様の悪あがき』そのものだ。
本来、この世界と関係のない国で冠位が動かぬのは推察できるというものよ」
(ROOのことを知らないのか、それとも冠位の仕業とは異なると気づいているのか……どちらにせよ)
その答えを聞きながら、ゼフィラは思案する。
それはあくまでナルシスという男なりの解釈であり、現在までの情報から可能な推察の域は出ない。
「……時間をかけすぎたな。退かせてもらおう」
ナルシスはそう言うと、聖書の写本の光を輝かせてどこかへと消えた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お待たせしてしまい大変申し訳ありません。
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
●オーダー
【1】『鷹将』ナルシス・ベルジュラックの撃破または撃退
●フィールドデータ
聖痕を持つ者しか通ることを許さないとされる審判の門付近。
リンバスシティから神の国へと至るために最初に踏み入れる場所です。
幻影竜と呼ばれる赤い竜が飛び交っています。
『原罪の呼び声』の気配はあまりありませんが、『異言』に満ち溢れています。
●エネミーデータ
・『鷹将』ナルシス・ベルジュラック
遂行者の一角。傲慢の名にふさわしい野心的な性格をしています。
元天義の聖騎士であり、ベルジュラック家と呼ばれた軍人貴族の元当主。
高い水準での剣技と魔術を駆使する物神両面型。
ある意味で騎士らしく攻守ともにバランスが良いタイプと思われます。
現時点では【反】や一部の【必中】、【邪道】などの攻撃を持っていると判明しています。
・幻影竜×4
赤い竜のような姿をした存在です。
本物の竜種に比べれば格段に格落ちしますが、それでも脅威足りえます。
炎を吹き、尻尾で薙ぎ、足で踏みつけるなどの攻撃が予測されます。
・『致命者』アベラール
長剣を佩いた人間種の男、見る限り40代半ば頃のようです。
冠位強欲戦で戦死したナルシスの部下。
ナルシスの子、シルヴェストルの兄弟子で先輩だった人物。
近接戦闘を主体とし、非常に身軽、手数で押し立ててくるタイプ。
近単攻撃の他、近列、近貫、近範などの範囲攻撃も可能性があります。
・預言の黒騎士
槍を掲げる黒き騎士。
廃滅病をその体の中に取り込んで天義にばら撒くために産み出された騎士でした。
持ってこれなかったのでただのデバフアタッカーでしかありません。
・預言の青騎士
青白いオーラを纏う青き騎士です。
刻印のない存在を機械的に殺害する存在です。
強力なアタッカータイプ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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