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シナリオ詳細

<神の門>審判の門の戦い

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 先日、預言者ツロによる直接オファーがイレギュラーズにあったことは記憶に新しかろう。
 ならばご存じか。
 彼の者の言葉に応じた『2人のイレギュラーズ』がローレットから離反し、あとに残った幾人かが『神の国』にて行われた茶会で、『身の安全』を保証されながらも、『聖女の薔薇庭園』にて囚われたままになっていることを。
 どうする?
 無論、仲間を助けに行く、とあなたは力強く答えてくれるに違いない。
 では、どうやって『神の国』へ?
 『バビロンの断罪者』の一員たるネロはこう言った。
 帰還したイレギュラーズらが持っている『招待状』を使えば、聖女の薔薇庭園の道を辿ることが出来る、と。
 『招待状』は、教皇たるシェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世にも届けられていた。これら数通の『招待状』を駆使すれば、『神の国』に至る神秘の路の解析精度がよりあがるであろう。
 道は間もなく開く。
 ――ただし。
 下手に人員を投入すれば、救出に向かった者、全ての魂が侵されかねない。それが問題だった。

「つまり、おまえら精鋭の力が必要というわけさ」
 『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)が誇らしげに言い放つ。
 もともと預言者ツロから招待されていたイレギュラーズであれば、招致の力が働けど道をなんとかこじ開け続けることが出来る可能性がある。
 なおかつ、滅びのアークにも害されにくい『可能性(パンドラ)』持ちであれば、簡単に魂を侵されることもないだろう、と。
「リンバスシティより神の国へと攻め入り、薔薇庭園に滞在するイレギュラーズの帰路を確保する。今回、これがローレットにとっての『優先事項』だ」
 だが、それだけではない。
 今回の作戦では、『神の国』へと至るすべての道をこじ開けることを狙う。
 イレギュラーズに同行する騎士、リンツァトルテ・コンフィズリーは告げる。
 相手は傲慢の魔種とその配下。こちらを侮っているうちに喉元まで攻め入り、急所を狙うべきだと。
「此度、神の国への道を確かなものとすれば必ずしやあの男が姿を現すはずだ」
 リンツァトルテ・コンフィズリーがいうあの男とは、『冠位魔種』ルスト・シファーのこと。かの魔種を表舞台に引き摺り出すためにも、この作戦は成功させなくてはならない。
 クルールは居並ぶイレギュラーズに檄を飛ばす。
「気張っていけ!」


 荘厳なる審判の門の門前。
 遂行者アルヴァエルの白い甲冑に身を包んだ肉体が『幻影竜』が吐き散らす炎に照らされて浮き出し、あたかも神の憤怒を纏っているかのごとく見える。
 手にする大剣も神聖さ……いや、イレギュラーズの立場に立ってみれば、禍々しさが増しているというべきか。
 アルヴァエルは顔の半分を覆い隠している兜のしたで、眉間に深々と皺を刻んでいた。
「美しき神の御国を土足で汚す知れ者どもめ。一度はツロめの招きを無視しておきながら、今さら武器を持ってやってくるとはな。ここより先は進ませぬぞ」
 足元で小さな野ウサギが震え、チリリと首にかけられたクリスタルのベルを鳴らす。
 野ウサギは数か月前、天義の聖都を攻めた時に拾ったものだ。正確には撤退時に、だが。
「おお、すまぬ。怖がらせてしまったか」
 アルヴァエルは大柄な体を柔らかく折り曲げ、野ウサギを片手で抱きあげた。栗色の短い毛が生えた頭から背にかけて、いつくしむように撫でる。
「よしよし。この怒りは罪のない無垢なおまえに向けたものではない、いまからここへやってくる賊にむけたもの――」
 翼をもつ影がすぎ、炎の噴きだす音がして、熱気が空から零れ落ちて来た。
 野ウサギが天を仰ぎ、神経質に鼻をひくつかせる。
「竜の炎が気になるか? 案ずるがよい、あの炎が焼くのは聖痕を持たぬものだけじゃ、おまえは焼かれぬよ」
 前に幾重にも壁を築いていた『影の天使』たちが割れ、偵察に放っていた『異言を話す者』が手足をばたつかせてやってきた。
「現れたか」
 言った途端、別方向で剣と剣が打ち合う音が響き、イレギュラーズが放ったのであろう雷音が轟く。
 アルヴァエルは野ウサギを腕に抱いたまま、『影の天使』たちに向かってきたイレギュラーズを攻撃するよう命じた。

GMコメント

●成功条件
・遂行者アルヴァエルの撃破、もしくは『審判の門』からの撤退。
前者はかなりの困難をともないます。
後者は腕に抱いた野ウサギを傷つけるか、遂行者アルヴァエル自身に深手を負わせることで叶います。

●場所
四騎士が守る神の国の入り口、『審判の門』の前です。
『審判の門』の奥には『レテの回廊』が続いており、ここを抜けた先に『テュリム大神殿』があります。

●敵、遂行者アルヴァエル
2メートル近い大女。白い鎧を身に着け、赤刃の大剣を武器に持っています。
体術に優れているほか、影の天使を召還する術や、影による転移術を行うことが確認されています。
その他、詳細不明。
影の天使たちの後方に控えています。

●敵、『幻影竜』……複数
赤き竜です。回廊周辺を飛び交っており、聖痕を有さない者を焼き払います。
炎によるバッドステータス付与。
地上に降りてきて、イレギュラーズを直接攻撃することはありません。

●敵、『影の天使』……複数
 剣と盾で武装し、飛行能力を有しています。ほかに特別な能力はありません。
 数の多さでイレギュラーズを押してきます。
 いわゆる雑魚。

●アルヴァエルのペット。
以前、イレギュラーズに使役されたことがある野ウサギです。
アルヴァエルによって聖痕が刻まれています。
首には某盗賊が狙っていたお宝、クリスタルのベルをさげています。
その音は高く済んでおり、遠くまで届くとか。
持つ者に幸運を授けると言われていますが、真偽のほどは定かではありません。

  • <神の門>審判の門の戦い完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月26日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス

リプレイ


 風がアルヴァエルの声をイレギュラーズの元まで運んでくる。
 『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)はその声に、「招きを無視しただの何だのと言われてもね…」と、優雅に得物を構える。
「そもそも、お前たちが呼び込んだ彼らを外に出さなければ、こんなことにはならなかったんじゃないのかい?」 
 皮肉を添えて返す雲雀の後ろでは『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)が、自身の体に施された超高位極光守護魔法の出力を確認していた。
(「よし、ルーナ様に調整してもらったおかげでAURORAは問題なく稼働する……!」)
 トール は深くため息をつき、AURORA(オーロラ)が共鳴する心地よい感覚に身を委ねた。これで自信を持って戦いに挑める、と静かに微笑んだ。
 『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)は黒い天使たちの向うに立つ遂行者を睨み、「アルヴァエル、君とは何度も会うものだな」と、独りごちる。
 前回、彼女とその軍勢に対峙したとき、また1つ小さな因縁が生まれたのだ。 アルヴァエルが腕に抱く小さな生き物、その首元にきらりと光るものを確認する。
(「あれか、テンショウが盗み損ねたお宝は」)
 再び風がアルヴァエルの声をイレギュラーズの元まで運んできた。
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が日ごろ鍛えた美声を張り上げる。その声は影の天使たちの頭上を飛び越え、まっすぐ門前に届いた。
「土足で汚すって、先に俺達の生活を荒らしに来たのはそっちじゃないか。お互い様だよ」
 すかさず『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)も声をあげる。
「ツロめの招き? 誰だ、そいつ。オレはそもそも呼ばれた覚えがねぇぜ!」
 これにはアルヴァエルも失笑せずにいられなかったようだ。
 いや、顔のほとんどを覆い隠す兜のせいでハッキリと言えないが、なんだか本気で面白がっているような……
「そうか、預言者ツロを知らぬか。よい、我もあやつは好かぬ」
  沙耶がイズマと一悟に身を寄せて囁く。
「あっちも一枚岩じゃないんだな。ところで、あいつが抱いているウサギ、狙わないでくれないか。ウサギが首に巻いているやつにちょっとな……」
「いいよ、ここから見る限りただのウサギのようだしね。助けてあげよう」
 『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)がしみじみという。
「しかし、まさかあの時のウサギが気に入られるとは……」
 『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)が、あらあらといいながら会話に加わる。
「どの様な因縁かは存じませんが……皆さんあのウサギは狙わないのですね」
「あ、ライさんは知らないっすよね。あのウサギ、天儀で遂行者たちと戦ったとき、俺が使役したウサギなんっすよ。だから俺もあのウサギは傷つけないでもらいたいっす」
 ライがぱっと笑顔を輝かせる。
「ええ、あんなか弱く愛らしいウサギを傷つけるなんてとてもとても……ええ本当に」
 そのとき、後ろに控えていた『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)が自慢の筋肉に血筋を浮かび上がらせながら前へ進み出て来た。
 同時に、アルヴァエルの命令で陰間天使たちが動き始める。
「ツロに「招待」されたという仲間たちが戻るまでに、審判の門を制圧し確保し続ける必要がある、か。言うは易いが……」
 影の天使たちが重なりあい、ほとんど黒い壁のようなものになってイレギュラーズに迫ってきた。彼らの存在は闇そのものであり、ほんのりと光を吸収するようなもので、足跡はほとんど感知できない。
 ただ、耳を聾する羽音だけが圧を増してきていた。


 影の天使たちが動き出すと、それに気づいた幻影竜たちも集まってきた。聖痕を持たぬものを選び出し、遥か高みから猛々しく炎を吹きおろす。
 雲雀の反応は早かった。素早くタイニーワイバーンに跨ると、迫りくる竜の炎を交わして空へ駆け上がる。
 反撃をかわすために急旋回に入る幻影竜に対し、雲雀はタイニーワイバーンを上昇させて回頭、敵の背の上を取った。
 広く戦場を俯瞰しながら滔々と詠唱する。
「深淵に蠢く紅蓮の炎よ、闇の罪に光を当てよ。我が声を大地に響かせ、禁術・大紅蓮蟻地獄を発動せん。 氷の冷気よ、許すことなく犯した者を凍てつかせ、罪の深淵へと引き込め」
 突撃と共に発せられた冷気は、ちょうど狙った幻影竜の真下にまで達していた影の天使の第一陣も巻き込んだ。
 雲雀によって敵の第一陣の大半が崩れたところへ、イレギュラーズたちは果敢に切り込んでいく。
 空から幻影竜が絶えず炎を浴びせかけてくる中、剣と盾で武装する影の天使たちを次々に撃破していった。
 初手に能力を底上げしたトールは、後方からアルヴァエルに向かう仲間たちを支援する。
「沙耶さん、先へ行ってください。影の天使たちは俺が足止めします」
「ありがとう。私は先に行くが、無理はするな」
「はい」
 沙耶を見送ったトールは両手を前に伸ばし、指先で微細なエネルギーの螺旋を作りだした。
「闇と光。敵の足を縛りし音楽の力よ。俺の指先に力を与えよ」
 詠唱と共に螺旋が音符のように美しく舞いだす。光の軌跡が敵の周りに音からなる環を形成した。
 トールが指揮者のような動きをすると、環を作っていた光が急速に縮小して敵の足を束縛する。
 そこへ聖躰降臨で光の棘を纏う慧が、業炎に包まれた右腕を高く上げ跳び込む。
「ここに我が挑む。怒りの炎、業炎、焼き尽くす炎をいま喚び起こさん――っす!」
  敵に襲われるトールを庇うように立ち、右腕を振るって巨大な業火の渦を作り出した。
 一瞬で2人を囲んでいた影の天使たちを業火の渦に包み込み、焼き尽くす。
「敵の攻撃は俺が引き受けるっす。このまま門の前に進むっすよ!」
 慧は地上を舐めるように吐き出される幻影竜の炎を、光の棘が巻かれる腕で払いのけつつ進む。
 立ちはだかる影の天使は容赦なく熱した拳でぶっ叩き、数にものを言わせて覆いかぶさってくるなら頭に幾つも生える呪われた鬼角でつき刺し、引き裂いた。
 イレギュラーズは影の天使たちの壁を槍のように突き切りながら進むが、まだまだアルヴァエルの前にはたどり着けない。
 雲雀が上空から敵が薄くなっている部分を指示する。
「トールさんは調子が戻ってきてるみたいでよかったけど……無理は禁物だよ」
「お気遣いありがとうございます。大丈夫、やれます」
 見あげた先を銀の弾光が横切っていった。
 パン、と乾いた音が聞こえ、顔を振り向ける。
 胸に穴をあけた影の天使たちが、四方に亀裂を走らせ、灰が崩れるように穴の辺りから散っていく。
 ロザリオと名付けられたライの銃から3つの薬莢がはじき出され、聖なる残光の筋を空に引きつつ地面に落ちた。
「危ないところでした。みなさん、油断大敵ですよ」
 そういって微笑んだライのシスター服は、幻影竜が吐いた火炎をうけていたるところが燻っている。
「あ、わたくしのことはお気になさらず。受けた分だけきっちりと、なんなら利子をつけてお返ししますから」
 うふふ、と口では笑ったが、目は少しも笑っていない。
「怒っていませんよ……ええ、ぜんぜん……あ、でも、だからと言ってわたくしだけを狙って襲わないでくださいね」
 慧の頭上を飛び越えた影の天使が、ライに襲い掛かろうとして嘘つきシスターの冷たい笑みに拒まれ、空中でピタリと動きを止める。
「倍返しさせていただきますよ?」
 実際に放たれた魔力の銃弾は4発。倍返しどころか倍々返しになっていた。


 一悟は、2体の幻影竜が吹きおろした炎の幕をつき破って敵の前に飛び出した。
「オラッ! 道をあけやがれ」
 炎に耐性があるとはいえ確実にダメージをうけていたが、それはそれ、逆に敵の攻撃をも利用せんとばかりにトンファーに炎を纏わせて振るう。
 一悟の全身から闘気が膨れ上がって爆発し、炎の渦となって囲みに来た黒い天使たちをまとめて焼き払った。
 灰が舞い散る中に得られた一瞬の時で、一悟は自身の傷を癒し、ひと息つく。アルヴァエルまであと少し……。
 トンファーを握る手に力を込めた刹那、アルヴァエルと目があった。
「よう、オレのこと覚えてる?」
「……ふっ。今日は歌わぬのか?」
 まさか覚えられていたとは思わず、返答が遅れた。
 その隙に影の天使たちが翼を広げて飛びあがり、アルヴァエルの姿を隠す。耳を聾する羽音をたてながら、先行した4人の頭上に影のドームを作り上げ、降ろした。
「なにこれ、真っ暗で何も見えない――って、痛っ!!」
「どうした、沙耶?!」
「腕を前に出したら切られた!」
 沙耶と一悟の声だけが鮮明に聞こえる。
 昴の息づかいすら聞こえるに至って、イズマは闇の中で眉をひそめた。
(「おかしい。超聴力をもってしても外の音が聞こえないなんて」)
 どうやら、破竹の勢いで進撃するイレギュラーズに恐れをなした影の天使たちが、4人を閉じ込めておくために幾重にも重なりあっているらしい。視界のみならず、音も断たれてしまったか。
「問題ない」
 昴の確信に満ちた声が闇の中で聞こえた。
「どんなに分厚かろうと、私が一撃でぶち抜く」
「待ってくれ昴さん。少しだけ俺に時間をくれ。エコロケーションで調べる」
「一番薄いところを探すつもりなら無用だ、私を――」
「逆だよ。一番分厚い所を探してぶち抜いてもらう。同士討ちを避け、一撃で多くのお邪魔虫を排除できるのは昴さんだけだからね。壁が崩れたら一気にアルヴァエルに迫ろう。昴さん、俺の傍にきてくれ」
 イズマは一番壁が厚いところを探り当てると、手探りで昴の腕を取り、攻撃する方角を教えた。
「わかった。私に任せてくれ」
 昴の全身に破砕の闘氣が満ち、膨れ上がる。
 咆哮がドーム内に響く。威力ある声が天使の影の壁を震わせた。昴は一歩踏み出し、絶対的な力を以て拳を次々と壁に叩きつける。
 影の天使たちが反撃で振るう剣はことごとく叩き折られ、影の天使自身は紙であるかのように容易く破られた。
 昴の前に立ちはだかっていた壁が、無慈悲に蹴散らされていく。
 破れたドームに差し込んだ光がイズマの背を照らした。
 タクトを握る手が優雅に動いて音楽が宇宙のリズムと調和し、力強い音楽が大地に響き渡って海神の霊力が呼び覚まされる。
「タイダルウェイヴ、海神の号令よ!  波と音楽が響き渡るこの瞬間、 水の力を解き放ち、敵を押し流せ!」
 どこからともなく大量の水が呼び寄せられ、巨大な波が空に向かって膨れ上がった。イズマの音楽が波のリズムと共鳴し、巨大津波へと成長していく。
 影の天使の声なき悲鳴と波の轟音が一体となって、ドームは跡形もなく消え去った。
 押し流されてきた影の天使たちに、駆けつけてきた慧とトールがとどめをさす。
「トール!」
「沙耶さん、ご無事でしたか。……よかった」
 幻影竜たちの攻撃をかわしつつ、上空から雲雀が仲間たちに指示を飛ばした。
「無事を喜びあうのはまだ早いんじゃないかい。遂行者の前に影の天使たちが集まりつつある。はやくお行き」
 アルヴァエルに向かって突撃する昴を、一悟が後方から光柱を敵に放ち、ライがロザリオの乱れ打ちで支援する。
 イズマは口笛を吹いて、ワイバーンのリヨンを呼び寄せた。
 タイニーワイバーンに騎乗した沙耶とともに空へ駆け上がり、群がってくる幻影竜の相手を飛翔した一悟と雲雀に任せてアルヴァエルの元へ急ぐ。


 影の天使たちを蹴散らして進む昴の上を飛び越え、2人は一足先にウサギを腕に抱くアルヴァエルの前に降り立った。
 沙耶はボイスチェンジャーで年相応の愛らしい少女の声に地声を変換すると、腰に手をあてて名乗りを上げた。
「怪盗リンネ、溢れる星々が祝福する夜の魔法使い! クリスタルベルよ、真の輝きを取り戻し、その煌めきを私の手に! テンショウが盗り逃しただろうお宝、頂戴しに来たよ!」
 びっ、と人差し指を斜め上にあるアルヴァエルの顔へ突きつける。
「ふっ、貴様らも来ておったのか」
「久しぶりだなアルヴァエル! 随分騒がしい歓迎じゃないか!? 貴女達に会いに来たというのに……ピアニストは別行動なのか?」
「彼ならテュリム大神殿にいる。我の楽団には戦勝祝賀会で演奏してもらわねばならんのでな」
 昴と慧に殴り飛ばされた影の天使たちが、空中で四散しながら飛んできた。
 アルヴァエルが優雅なしぐさで避ける。
「祝賀会、それは私たちのか?」、と言ったのは昴だ。
「面白いことを言う。ここを通り抜けるつもりか?」
 白く長い足が唸りをあげて昴に襲い掛かる。
 慧がカバーに入り、左腕で蹴りを受ける体勢を取った。
 ヒットの瞬間、ボコッという激しい音とともに慧の左腕に激痛が走り、顔が微かに歪む。
「――ッ! 昴さんも俺たちも、みんな大真面目っす。この門を抜けて仲間を助け出したら、みんなで宴会するっす!」
「なかなか固いではないか。ふむ、ならばこれはどうかの?」
 アルヴァエルは、禍々しい気を発する赤身の大剣を一振りした。
 その刃は空を音もなく切り裂き、空間に微細な火花を散らす。
 刃が慧の喉を切り裂こうとしたその時、ライがアルヴァエルの腕を撃って剣の軌跡を変えた。
「間一髪、首と体がさよならすることろでしたね」
 だが。
 まるで魔法の呪文が刻まれた宝石のように輝く火花は精霊に変じて自在に空を飛び回り、剣が振るわれたあと近くにいたイレギュラーズを魅了、恍惚状態にした。
 危険を察したトールが沙耶に駆け寄る。
「ごめんなさい」
 呆けていた沙耶の頬を平手で張り倒し、気づかせた。
 すぐさま身を返し、「アルヴァエル! ここは押し通らせていただきます!」と寂静の剣を振るう。
 アルヴァエルは後ろへ跳んでリーガルブレイドのダメージを減らした。
 敵の体勢が揺らいでいるうちに、上空から雲雀が追撃する。
「桜花よ、咲き誇れ。風に舞い、彼の者のみ切り裂け!」
 アルヴァエルは地上から雲雀の接近を感知し、大剣を持ち上げて腕に抱くウサギを庇った。
 桜花のような無数の炎片が執行者が纏う白い鎧を貫通し、体を焼き切る。
「うぬっ」
「その野ウサギ、随分と可愛がっているようね。安全なとこに逃したら?」
 慧が天使の歌を戦場に響かせた。
「俺からもおねがいするっす。出来れば傷つけたくないっすし、そのウサギはここから離れて欲しいんすけど……無理っすかねぇ」
「……たしかに。貴様らを侮っていた。片手で相手ができる者たちではなかったな」
 影の天使を呼び出したアルヴァエルが、ウサギを部下に預けようとする。
 一悟が影の天使を華麗に焼いて吹き飛ばしながら、歌うように声をあげた。
「逃がす前にウサギの名前を聞かせてくれよ。その子に名前があるならさ」
「アモル・カリート、神に愛されし者だ」
 アルヴァエルの意識が一瞬、ウサギから逸れる。
「いまだ!」
 そのチャンスを逃す怪盗リンネではなかった。すかさず手を伸ばし、ウサギごとクリスタルベルを盗もうとする。
 が、怪盗リンネこと沙耶の動きに若干遅れて反応した影の天使が、ウサギに伸ばされた腕を切り落とさんと剣を下から振るいあげる。
 ピンチを救ったのは、あいの為の祈りをささげるライの狙いすました一撃だった。
「悪い事をする子には愛をもってお仕置きしませんと」
 影の天使は胸を撃ちぬかれて倒れたが、剣の先がウサギの首につけられたクリスタルベルの革紐をかすって切った。
 ウサギか、クリスタルベルか――。
「どっちもに決まってる!」
 キャッチしようとした瞬間、「キュッキューッ」とウサギがないて後ろ脚で沙耶の顔面を蹴った。
「沙耶さん!」
 トールが悲鳴をあげる。
 アルヴァエルが足を高くあげて、くれてやるぐらいなら壊してしまえ、とばかりにクリスタルベルを蹴り壊した。
 澄んだ音色をたてて粉々に砕けたクリスタルが、キラキラと光りながら散り落ちる。
「「こ、子どもかーっ!!」」
 鼻を手おさえた沙耶と、一悟が同時に怒鳴る。
 アルヴァエルと着地したウサギは、ふんす、と揃って鼻から息を吐いた。
 イレギュラーズにとって幸運だったのは、クリスタルベルが粉砕されたときの音でかかっていたさまざまな厄災が払われたことだ。
 ウサギが門の方へ逃げたのを確認して、イレギュラーズはアルヴァエルに猛攻を仕掛ける。
 対するアルヴァエルも負けじと反撃してきた。
「殴り合い上等! 勝つのは我々だ!」
 昴が拳を、慧に庇われつつトールが無我の剣を同時に振るう。
 雲雀と一悟が幻想竜を、ライが影の天使の残党を払い退ける。
 沙耶が黒顎魔王をぶちかました。
「私の身内である黒髪で可愛い怪盗テンショウが世話になったようだな。彼女も中々に強いぞ、聖痕を刻んだり招待しようとは思わなかったのか?」
「テンショウ……ああ、あのコソ泥か。興味がないな。我が聖痕を刻むのは、神の御目がねに適う芸術家のみ」
「なら、俺はどうだい?」
 魔神の一部をその身に降ろしたイズマの一撃が堪えられなかったか、アルヴァエルは天に穿った漆黒の影の穴に逃れる。
「ここは負けを認めよう」
「まて、アルヴァエル。あのウサギはなぜ拾ったんだ。動物が好きなのか ?」
「モフモフが嫌いな女の子がいるか?」
 穏やかな笑い声を残して、アルヴァエルを飲み込んだ黒い影の穴が閉じた。

成否

成功

MVP

刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

状態異常

三鬼 昴(p3p010722)[重傷]
修羅の如く

あとがき

ウサギは一足先に審判の門を抜けて、無傷で逃げ去ったようです。
残念ながらクリスタルベルを奪うことはできませんでした。
アルヴァエルとはいずれ決着をつける時が来るでしょう。
MVPはほぼ一人で幻想竜を相手にし、上空から的確に仲間をアルヴァエルの元へ導いた彼女に。

ご参加ありがとうございました。

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