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シナリオ詳細

<伝承の旅路>そうして僕らは西を目指した

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●僕らの旅路
 東に困る人が居れば、真っ先に飛んでいく、なんて事は無く。
 北に攻め入る蛮族がいれば、その調停をする、なんて事は無く。
 南の海を渡る為に新たなる冒険を始める、なんて事も無かった。
 それがこのプーレルジールに棲まうアイオンという青年だ。
 生まれも平凡、剣の腕もまだまだ未熟な冒険者見習いといった風情である。
 無辜なる混沌に置いては過去の英雄、建国の王としてその名を知られた男は平凡な儘で終っていくはずだったのだ。
 だが――
「これも何かの縁だってやっぱり思ったよ」
 彼を『勇者』と知るイレギュラーズと出会った事でその未来は変化した。
 青年は冒険者として旅に出た。旅路は最初から平穏無事に運ぶわけも無く、魔王軍の襲来にも見舞われた。
 それでも、だ。戦いが終ってみれば『良い経験だ』と笑える程度に彼は強かだった。
 ある意味で勇者となるべき器を有していると言うべきか。『無辜なる混沌』の彼とその辺りは違いないのだろう。
 プーレルジールで育った彼は悪ガキだ。穏やかで「僕はこう思った」と嫋やかに伝える事は無く、取りあえず一発殴って考えようという豪胆ささえ持っていた。
「『俺』は皆の知っている歴史? ……の勇者でもないし、凄腕の冒険者でもない。
 ただ、ちょっとばかし運が良いのは確かなんだ。ほら、冒険を始めて早々に四天王と出会える辺りとか」
 それが『幼馴染み』の体を借りていたのは何とも物語めいているのだが。
 アイオンはサーシャ・クラウディウスというクラウディウス氏族の娘との出会いを思い出してから、イレギュラーズに向き合った。
 正直、この世界が滅びること何て誰もが知っている。諦めの境地でもある。
 誰もが抗えない滅びに面した世界は暴動が起これば人を鎮めるためにゼロ・クールが投入されて戦争が起こることだって合った。
 人間同士がいがみ合うことが少なかったのは世界の情勢によるものだったのだろうか。
 産まれた頃から世界が滅ぶと言われ続けたアイオンにとって、それに抗うことは非日常で、平穏から遠い『馬鹿な行ない』にも近しかった。
 それでも、希望があると認識出来たのはイレギュラーズという存在を目の当たりにしたからだ。
「このまま、プーレルジールが滅びる前に、四天王とか、魔王が、君達の世界に移動してしまう可能性があるんだろ?
 それは絶対に防ぎたいことなんだと思う。あいつらは人じゃ無くて滅びそのものだった。だから、移動したら君達の世界が更に急激に滅びに近付く筈だし」
 アイオンはうんうんと頷きながら言う。
「それで、さ……まあ、君に提案なんだ。
 この世界を救う手立てってのが少しだけ可能性として見えたとして……『死せる星のエイドス』っていうアイテムを偶然にも渡してくれる不思議な女の子と出会ったとして」
 指折り数える、青年はあなたを見ていた。
「それが廃棄されなくちゃならないゼロ・クールを救ったり、この世界に溢れた滅びをちょっとばかしでも遠ざける可能性があるとして。
 それに俺が協力したくて、君も混沌世界って言う、君が本当に生きる場所――なのか、分からないけど、俺からするとそうだからさ――の滅びを遠ざける可能性があったなら、さ」
 アイオンは真っ直ぐにあなただけを見ていた。
 誰が、どうして、混沌世界とプーレルジールの繋がりを発見したのかも分からない。
 ゼロ・クールに寄生する『終焉獣』達だって、滅びの象徴そのものだ。それをギャルリ・ド・プリエで救うだけの簡単なことなら冒険に出る必要は無い。
 ただ、それは防戦一方。何も変わらない。
「勇者っていうのは冒険に出るらしいよ」
 アイオンはあっけらかんと笑ってから世界地図を取り出した。誰かが歩いて回った手書きの地図。ちぐはぐで、無辜なる混沌と照らし合わせてやっとのものだ。
「冒険の先は決まって魔王の場所だという。そういうものなんだって。
 イレギュラーズは、滅びを退けたい。それから、俺は君達と冒険の旅をしたい。なら答えは決まっているだろう?」
 目指すのは魔王の居所だ。
 伝承と大きく違って、その居所は浮遊する天空の島サハイェルではない。
 サハイェルは地に落ちて、ラサの砂漠地帯を更に広くしたという。迷宮森林や覇竜領域の岩山の規模も混沌世界とはやや違って見えるのだ。
 サハイェル砂漠と名付けられたその地は西へ、西へと向かう度に昏く変化していく。
 まるで闇が落ちるように、とっぷりと夜に変われば足元には水が満ちてくることだろう。
 それこそが、沈島地帯――元サハイェルが落ちたことにより出来た澱みの領域。滅びのアークが混ざり合い、水の如く変化した『影海』と呼ばれた死の領域。
 プーレルジールに生きる者が触れれば滅びに浸食されて変化することが多い。
 突飛なことにアイオンにはその耐性があって、それは魔法使いのマナセや大いなる翼ハイペリオンたちだってそうだろう。
 ならば、行ける。
 その地の奥に魔王城が見える。そこに宿命の敵が居る。
 だからこそ――

「行こう。西へ」

●影を踏むなかれ
「行くに当たって相談があるんだ」
 アイオンは自身の装備を見直しながらそう言った。
 その相談とは非常に端的だ。今の自分では魔王に勝てないだろう、と。
 簡単な道を選んで影海近くにまで至るならば点在するオアシスを渡り歩くのが良いのは彼だって分かって居る。
 それではイレギュラーズの足を引っ張るばかりの男になってしまうことが何とも遣る瀬ないとのことである。
「と、言うわけで、俺を鍛えて欲しい」
 アイオンは真っ直ぐにイレギュラーズへと向き合った。
 出立前のプーレルジールで何か教えてくれるのも嬉しいとは彼は行った。
 そもそも、小さな村で育ったのだ。彼自身は多くの人間のことも、無辜なる混沌のことだって余り知らない。
 イレギュラーズだって初めて出会ったばかりと言うべきだろう。
「俺は君達を知りたいと思うよ。君が気が向いたら、剣の稽古を付けてくれても良いし、実践形式だって構わない。
 まあ、戦うばかりじゃさ、君の戦闘方法しか分からないから……オアシスに立ち寄ったときにでも食事とかどうだろう」
 買い物を一緒にしても良いし、何か話あってもいいとアイオンは頬を掻いた。
「俺と、そういう風に過ごしてくれるならうれしいけどさ……まあ、良ければだよ。
 本を貰って読んだんだ。俺がもしも勇者で、その勇者が興した国で生れ育った人が此処に来てるなら嬉しい。
 勿論さ、そうやって俺が平穏を守ったんなら、その先がどうなってるのか教えて欲しいとも思う。現実(ここ)とは大きく違うだろうけどさ。
 誰かが笑える未来があるなら、それってメチャクチャ喜ばしいことじゃないか?」
 アイオンは嬉しそうに瞳を煌めかせてからそう言った。
 西に向かう前に鍛え、ついでに、困っている人が居るだろうからとモンスターを斃しながら旅を為ていこう。
 そうして、影海の中に存在するという『憩いの地』にまで至るのが目的だ。
「何があるかは分からないけどさ、頑張ろう。
 それじゃ、宜しく。イレギュラーズ。君と友人になりたい――いや、君と友人になれて光栄だ!」
 この押しが強いところも勇者らしいのかもしれない。

GMコメント

●成功条件
 『影海』の中継地点へと辿り着くこと

●フィールド情報
 プーレルジール高原よりも更に、西へ。混沌世界では『ラサ』~『影の領域』付近です。
 プーレルジールからのんびりとした旅路です。アイオンを修行しながら、影海と呼ばれた領域内部に存在して居る『憩いの地』を目指しましょう。
 どうやら元々は天空島サハイェルに存在した洞窟の一部なのですが、影海にぽかりと浮かび上がってその地は滅びに害されることの無い神聖な気配がするようです。
 誰かが中継地点として用意したのか、それとも精霊の力なのかは現状では不明です。
 ぱっと通り過ぎてしまい事も可能ですが、アイオンは未だ未だ発展途上、修行をして置く方が得策でしょう。

●エネミー
(砂漠周辺)
 ・終焉獣が寄生したモンスター 数は不明
 狼やワームなど、終焉獣が寄生したモンスターです。小~中程度の個体はアイオン一人でも倒せますが大ともなれば連携を大事に為た方が良さそうですね。
 普通ならば実践に怯えますがアイオンという青年は寧ろ楽しくて堪らないようです。よし、あいつを倒すぞ!

 ・星界獣
 PCやアイオンのエネルギーを喰らって模倣してくる甲殻類のような外見のモンスターです。
 此処にもしも魔法使いマナセが居たら「このザリガニやろう!」とか叫んでいたかもしれません。蠍を得て蠍の外見をした者が多いようです。

 ・廃棄済みのドール
 プーレルジールから離れるにつれて廃棄され、暴れ回っているゼロ・クールの姿が見受けられます。
 体はボロボロですし、もはや魔法(個を自律させるもの)も変容しているようです。しっかりと廃棄してやらなければ終焉獣が寄生するかも知れませんね。

(影海周辺)
 ・『英雄譚のしもべ』 数は不明
 イレギュラーズの皆さんが見たことのある英雄譚や『無辜なる混沌』の歴史を模したような存在です。
 それらが滅びのアークで形作られているのでしょう。消滅させなくてはなりません。
 ……無辜なる混沌の歴史においては皆さんは正しく英雄です。イレギュラーズの誰かに似た姿の滅びの化身が現れる可能性はあります。

 ・四天王のしもべ 数は不明
 死霊が多いように思われます。どうしてかは……屹度、魂の監視者セァハがアイオンの接近に気付いたのかも知れませんね。

●NPC
 ・『冒険者』アイオン
 混沌史では勇者である青年。プーレルジールでは只の冒険者です。
 それ程戦いには慣れていませんが、剣を手に皆さんの戦い方を模倣し、そしてアレンジしながら戦います。
 勇者になる過程でもある為、彼自身はぐんぐんとその力を付けることでしょう。ですが、現状では未だ未だ『成長途中』です。
 非常に明るく闊達。かなり距離感が近い青年ではあります。元気いっぱいです。迷うことなく戦う事が出来るのが利点です。
 ただ、『一人』だったため、連携などは下手です。また、彼は他の勇者王パーティーとの面識はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <伝承の旅路>そうして僕らは西を目指した完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月19日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC4人)参加者一覧(10人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ

リプレイ


 プーレルジールの野に彼が居た。鮮やかな紅色の髪に溌剌とした笑顔。
 アイオン。それが混沌世界で『魔王を打ち倒した勇者』として知られる名前だ。
「あ〜〜っアイオンさんだ……! やっと会えたあ!
 アトさんに似てる……かはまだちょっとわかんないな。まだまだ出会ったばっかりだからわかんないかも」
 ぽつりと呟く『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)にぱちくりと瞬いてからアイオンは「俺に似てる人が居るのか?」と不思議そうに問うた。
 プーレルジールのアイオンは混沌世界で語られる勇者とは大きく乖離した性質を有している。それも、フラーゴラの想い人に似ているかどうか判断を難しくするのかも知れない。
 この世界のアイオンは勇者などではない。冒険者としても未だ未だ半人前だ。嫋やかで、それでいて大のために小を切り捨てる非常な判断を行える勇者と比べれば人情味に溢れて楽しげな彼は好奇心の強い幼い子供の様でもあった。
「えーと、名前は?」
「あ、フラーゴラだよ」
「宜しく、フラーゴラ」
 にんまりと微笑む彼にフラーゴラはこくりと頷いた。そんな当たり前の様に友人を作る青年を『龍柱朋友』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は不思議そうに眺めてから「へえ……」と呟く。
「君がこの世界のアイオン? 随分思ったより普通な――聞き飽きてたりする? ふふ、ごめんね。
 私はシキ・ナイトアッシュだよ。私こそ、君と友人になれて光栄さ!」
 瞳を煌めかせて笑ったシキに「シキ、よろしく」とアイオンは同じように笑みを返した。
「シキの瞳は鮮やかでキラキラしているんだな。綺麗だ」
「あはは、有り難う。ところで、アイオンは何て呼ばれたい? アイくんとか?」
 じゃあ、それで。易く了承する青年にシキは頷く。斯うしてみれば普通の青年で、迚もじゃないが『勇者王』とは思えない。
 勇者王だと考えて接するからこそそのギャップに驚くのだ。ただの冒険者アイオンと認識すれば何てことは無いかと『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)はその肩を叩く。
「俺は放浪者のバクルドだ。
 なぁに例え勇者でなかろうが特異運命座標じゃなかろうが、旅の果てに目的も意味もなかったとしても、旅も冒険も放浪も俺にとっちゃ大好物だ。さあ行こうぜダチ公」
「放浪者? 凄いな、世界を見て回っているのか? 有り難う。旅慣れてるヤツが居るだけで助かるよ」
 アイオンは肩を叩いたバクルドににっかりと微笑んだ。こうして見ればかの『勇者王』にもこの様な一面があったのだろうかと『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は知られざる『幻想王国生誕秘話』を見ている気がして可笑しくもなる。
「なんだか、ご先祖様の秘密を垣間見たみたい」
「奇遇ですね。同じ事を考えました」
 くすりと笑った『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)にアルテミアは「でしょう?」と笑う。
「私は私でこちらでやることがありますし、少し忙しなくなってしまいますから此処で見送る役目を担わせて頂きますね」
 シフォリィはぽつりと呟いた。此方の世界でも見送る役割になるのだ。それも、プーレルジール――いいや、ヴィーグリーズで。
(……なんとも因果なものですね。いえ、私ではありませんけれど、それでも妙な心地ではある、か……)
 勇者アイオンは、西方で荒ぶる『冬』を鎮める為にこの地から旅に出ることとなった。
 その時、諍いの絶えなかった豪族の調停を行なう為に留まったのは賢者フィナリィであったという。

 ――ねえ、フィナリィ。あのね、わたしは封印術は苦手なの。

 ――大丈夫ですよ。マナセ。封印術をお教えしましょう。

 は、とシフォリィは顔を上げた。それは何時の記憶だったのだろうか。マナセと呼ばれた魔法使いもイレギュラーズと行動を共にして居るという。
 己とフィナリィは違う存在であるというのに、どこか心が近しいと感じて堪らないのだ。
「アルテミア、それから……?」
「シフォリィです。シフォリィ・シリア・アルテロンド」
 微笑むシフォリィは『いつかの日』に初めて出会ったときのように名乗り上げた。

 ――フィナリィです。フィナリィ・ロンドベル。

 彼女が『白銀花の巫女』と呼ばれる前の、ほんの一時の時間。あの時の彼は。
「シフォリィか。よろしく!」
 ああ、そうだ。あの時も斯うして笑ったのだ。アルテミアは「シフォリィさん?」と首を傾げる。
「いいえ……」
 古の時代を思い出してからシフォリィは「準備をお手伝いしますね」と声を掛けた。


「……行きましょう。西へ。その前に、少しだけ勉強をしますか?」
「あ、ああ……あれ?」
 まじまじと『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)を見詰めたアイオンは「髪が伸びた?」と問うた。
「あっ、少し姿が変わりましたが、メイメイです、よ。ふふー……わたしも、成長しているのです」
「見違えたよ。子供扱いしてしまって申し訳なかった。メイメイも立派なレディだな」
「ひえ……」
 ぱちくりと瞬いたアイオンにこほんと咳払いをしたのは『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)であった。 
 こういう所が『アイオン』なのだ。良く分かる。誰とだって友人になろうとする勇者。異世界でアロウとも彼が勇者である事に違いは無く、そしてその性質も似たり寄ったり――つまりは、人たらしなのだ。
「ふふ、何だか来やすい人なのね。アイオンとの旅を楽しみにしてきたのよ。よろしくね、アイオン。楽しい旅路にしましょう」
 穏やかに微笑んだ『ヴァイス☆ドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)が手を差し伸べればガッチリと握ったアイオンが「こちらこそ」と頷く。
 くるりと振り返ってからレイリーは「いつもこう?」と問うた。
「そうなのだわ。なんだか『勢いが良い』から……」
「押しが強いって事ね……」
 兎にも角にも人間関係に対して『強い』タイプなのだろう。誰と出会ってもにこやかで、懐に入り込んでくる青年は「馬車に荷物を積むんだよな?」と軽やかに笑う。
「ええ、けれど、アイオンさんは旅慣れていないのだもの。少し勉強をしてみても良いのかもしれないのだわよ。
 旅は楽しいものだけれど、旅の目的を達成するためには焦っちゃダメ。
 焦らず長く旅をするには、もっとずっと旅をしていたいと…そう思うくらい楽しくないとね」
 その心得を旅の前に学んでおきましょうと『先生』のように告げた華蓮にアイオンは「勿論だとも」と微笑んだ。
 意気揚々と学ぶ姿勢を見せたアイオンを見てから『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はうんうんと大きく頷いた。
「未だ勇者にあらず。そうなら、勇者になってもらえばいい。……この世界のために。
 わたしにも師匠がいます。彼女から教わったことは数知れず。
 人から教わり学びとって人は強くなるのでしょう。アイオンさんもどんどん強くなってくれると嬉しいです」
「俺も強くなるよ。ココロのことも守ってあげるからね」
「ふふ、有り難いです」
 頷くココロにアイオンは自信満々に胸を張った。『魔法騎士』セララ(p3p000273)は「あっちでマルクが準備してくれるらしいんだ。その間にアイオンも用意する?」と問う。
「武器と、それから傷薬くらいは必要かな」
「そうだね! 後はおやつとかどうかな。おやつがあると楽しくなるよ」
「良いな。俺、友達とキャンプするのが夢だったんだよ。母さんのことがあってあんまり外に行く機会はなかったから」
 友達、と呟いたセララの頬が赤くなる。友達だと思っていたけれど、そう思って居てくれたことは何よりも嬉しくて。
 行軍距離や食料の計算を行なっていた『ウィザード』マルク・シリング(p3p001309)や地図の確認をしていた『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は微笑ましそうにその様子を眺める。
「あ、アイオンさん……初めまして。祝音っていいます。みゃー。僕も、アイオンさんとお友達……になれたら嬉しい、です」
 恐る恐ると声を掛けた『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)に「よろしく、祝音」と微笑む。ちなみに、猫が好きかと問うた時に「食べたことはないなあ」と答えた彼に祝音は仰天して身を竦めたのは別の話である。
「あ、嘘だよ。動物は好き。結構村でも飼ってたんだ。さ、何の準備をしようかな?」
「戦いの心得、とか……そう聞いているよ。アイオンさん、また会えてうれしいな」
 縁が繋がった事が何よりも嬉しいのだと『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)はにんまりと微笑む。
 勇者アイオン、ではなく『冒険者アイオン』の冒険譚を共に彩れることはヨゾラにとっても感無量の出来事だ。
 出立の前に彼は冒険者としての心得を教えて欲しいと言った。シフォリィが伝えるのは本オツに基礎の基礎だ。
「冒険の際に気を付ける事、幻想ではない土地での砂漠や森の中でどう凌ぐか等を伝えておきたいのですが……。貴方はそういうのすらも楽しんでしまう方ではありますが」
「ああ、確か――に……?」
 アイオンはどうして分かったのだとシフォリィを見詰めた。アルテミアを一瞥して「もしかして君の親友はエスパーか?」と問う。
「あら」
「……本当に、貴方は突拍子も無い事を言うのですから」
 だから『私』は貴方から目を離せなかったのだけれど。確かに、猪突猛進型のような気配がある。フラーゴラはぱちくりと瞬いた。
「ワタシの戦いのレクチャーはそうだな……『戦いの前によく考える』かな」
「俺は苦手だ」
「かも。でもね、考えるのって凄く大事なんだよ。依頼のロケーション、敵の情報、味方のこと……とかね。
 例えば何もない草原や荒野なら身を隠すのが難しくて奇襲は無理かもとか、森や町なら障害物があって邪魔と考えるか、身を隠せてラッキーと考えるか
敵のスキルにどう対抗するかとか。味方のことを把握しておくのもいいよ!」
 フラーゴラは「ワタシだったら『アナタはこういうことが出来るんだね』って話しかけて信頼を得るよ。想定の解像度が高いほど対処が上手くいくよ!」と胸を張った。
 そうしてから――ふと、アイオンは「フラーゴラはそうやって誰かの良いところを見付けるのが得意なんだな」と微笑む。
「例えば、ヨゾラや祝音は魔法が得意だろう? 俺はあまり得意では無いからそれを参考にさせて貰おうと思うんだ。
 ……とか、フラーゴラの真似をしてみたけれど、どうかな。上手く把握できたか不安だけれど」
 アイオンに頷いたヨゾラは「じゃあ、レクチャーだね」と頷く。
「あ、そうだ…以前に見せられなかったとっておきの魔術があるんだ」
 木で衝立を作ったアイオンは「アレを殴ってくれ。俺も訓練の時にそうするんだ」と指差した。ヨゾラは頷いて『星の破撃(スターブラスター)』を叩き付ける。
 神秘的な破壊力を集約する魔術を見てアイオンは「俺はあまり魔法に優れていないんだけれど、すごいな」と頷いた。
 ヨゾラの魔法も、そして祝音の持ち得る医療技術も知識として持っていた方が役に立つ。
「回復の魔法は、使えるかな? みゃー」
「うーん、どうだろうな。からっきしかもしれない」
 真似るアイオンに「どう?」とシキは声を掛ける。
「戦い方は参考になったかな? 剣の稽古をつけてほしいと聞いたけど、イレギュラーズにもいろんな戦い方をする子がいるからね。
 皆と関わって、よく学ぶといいさ、一緒に行こう。西へ!」
 指差す西側に向かって顔を上げたアイオンは「ああ、行こう!」と鮮やかな笑みを浮かべて。
 広がる未来に希望を込めた青年の旅路は正しく『勇者』の物語の始まりだ。
 シフォリィはただ、その背中を見送った。
「……どうか、ご武運を」
 ――屹度『私』なら、そういう筈だから。


「さて、それじゃあ、西を目指そうか。それに当たって色々と考えておくことはある。
 とはいえ、経験豊富な人たちが多いし、物資の量や運番手段も十分にある。不測の事態にさえ備えておけば、無事に砂漠を超えられそうだね」
 マルクは馬車に詰まれた荷を確認してから小鳥たちを偵察隊として派遣する。アイオンは「何してるんだ?」と身を乗り出した。
「ああ、こうしてね行軍困難な地形の確認や安全確保を行なうんだ。戦うことも必要だけれど、回避することも旅では必須事項だ」
 馬車にずっと載っているのは飽きるだろうからとアルテミアは道中の魔物を知識を生かして食事の代わりに出来るかも知れないと提案した。
 レイリーの用意した馬車に乗り込んでからアイオンは「荷台に居るのは詰らないかも知れないなあ」と呟く。
 水や食糧を運ばねばならないとバクルドは顔を出したが――
「いや、お前さんが押すのか」
 レイリーが勢い良く馬車に向き合ったことに気付きぱちくりと瞬いた。
「ふふ。荷台も良いものよ? じゃあ、私が馬車を動かすわ。さぁ出発ー!」
 御者を担うレイリーは警備を行なう知識に加え耳を生かして進む。マルクの意見を聞きながら道を定めるのだ。
 華蓮はと言えば家事全般は自身に任せて欲しいと笑う。確りと戦うためにはしっかりとした生活――詰まりは食事と健康の維持が必要だと積荷の内容を考え続ける。
「それにしたって結構な距離なのだわね?」
「はい……オアシスが点在しているようでしたが……」
 華蓮に頷いたメイメイはクレカと共に一足先に確認したその景色を思い浮かべ――「どうして知ってるんだ?」と問われたことに肩を跳ねさせた。
「ナイショ、です」
「む……ま、良いよ。うん、新しいところに行くのって楽しみだしね。
 それにしたってさ、サハイェル砂漠の方面は君達の方が詳しいんだろう? 俺が『勇者になった』世界だとどうなってるんだ?」
 ウキウキとした様子のアイオンにマルクは「すっかりと受け入れたね」と揶揄うように笑った。
 プーレルジールのアイオンは『勇者だった自分』という別の世界線の存在を受け入れ、信じている。己もそうなれれば良いという目標の一つにでも定めたのだろうか。
 リースリットは手書きで用意した混沌地図を馬車の荷台で広げて見せた。
「改めて……私達の時代では、この砂漠地帯はラサと呼ばれています。
 ネフェルストという砂漠の都が栄えていて、人口は結構なものですよ。商業と……傭兵業が盛んですね。
 砂漠には古代都市や遺跡が無数に埋もれているのですが……サハイェルが砂漠に堕ちた、という話は聞いた事がありません。
 やはり、天空島に何かあったのかもしれませんね」
「そもそも、島が浮かんでいることが不思議だよな。落ちることも時々あるのかも知れない。
 何せさ、落ちたって記録が残されなかったら誰も知らないんだしリースリットの世界でもあるんじゃないかな? 落ちた島とか」
 にんまりと笑うアイオンに「それは否定できませんね」とリースリットはこくりと頷く。
 明るく、突拍子も無い事を言う彼は発想力も豊かだ。マルクは「混沌にも浮遊島はあったよ」と告げる。
 独立島アーカーシュとは正しく『浮遊島』であり、サハイェルを拠点とした魔王達の退避場所として魔王城が用意されていたほどなのだ。
「マルクはそういう場所には慣れてるのか? どうやって行く?」
「ワイバーンの背に乗ることもあったかな」
「ふうん、いいな。俺も時々竜を見るよ。桃色の体をしている、綺麗な竜だ」
 桃色の竜と呟いたマルクは伝承の中にそうしたものがあっただろうかとふと考える。R.O.Oでイレギュラーズ達と出会った『オルドネウム』が伝承の中では勇者と旅した存在だと言われていただろうか。
「良いな。俺もいろんな場所に冒険に行きたい。もしさ、俺がプーレルジールじゃなくて、えーと、混沌に行けたら旅してくれる?」
「えっ、アイオンが混沌に? 勿論! 沢山一緒に戦う事も出来そうだよね」
 きらりと瞳を煌めかせるセララにアイオンは「でもさ、セララ達の世界って結構戦いが多いんだろう?」と聞き出す体で問い掛けた。その瞳は好奇心が滲んでいる。本当に楽しそうな気配が宿されているのだ。
「そうだよ。あ、ボク達のこれまでの冒険の話聞く? ボク達の事をもっと知って貰えると思うんだ!」
「勿論。前にマルクやメイメイからも聞いたけれど、もの凄い戦いが多いんだよな」
 がたごとと馬車に揺られながら話すアイオンの声にレイリーは耳を傾ける。本当に楽しそうに話す青年だ。

 ――絶望の青っていう海域でリヴァイアサンと戦い、勝利して海域の先で新たな国を見つけた事。
 空飛ぶ島々、アーカーシュの冒険と戦い。竜域踏破と、その先で出会った人々や竜と友達になった事。

 セララの楽しげな声に耳を傾けて「凄いなあ!」と屈託亡く笑うその声は心地良い。
(この人が勇者――)
 屹度、勇者アイオンは伝承でも斯うして楽しく冒険をしたのだ。
 誰にでも歩み寄り、誰にでも笑いかけ、時に『非情な選択』を下せる青年の旅路は明るく、困難も払い除けるものなのだろう。


 一日目は交流に費やし休息地に選んだのはオアシス近くの茂みであった。モンスターがいないことをファミリアーを用いて確認を行なったメイメイは「ここで、よいでしょうか?」と問う。
「ああ、良いペースだね。オアシスなら水分も補給できるし、今日はここで交流でもしながらのんびりと過ごそう」
 それに、とマルクはアイオンの肩を叩いた。
「アイオンは訓練もお望みのようだからね。皆で教えるならこうした休憩時間を利用する方が良い」
「マルクから教わる事は多そうだな。例えば、旅支度とか」
 苦手そうだとマルクは揶揄うように笑う。野営の火の番は皆で交代順番に行ないながら彼との交流を優先して行けば良い。
「砂漠は昼間も危ないが夜はもっと危険だ。特に冷えるから砂に肌が触れると一気に体力を持ってかれるぞ」
 旅には知識が必要なのだとバクルドは声を掛ける。元々はラスト・ラストの存在する西を目指す予定ではあった。良い旅の道連れであるアイオンだが旅慣れていないというならば『夜の砂漠での過ごし方』は教えておくべきだろう。
「気をつけるよ。有り難う」
 アイオンは馬車に積まれていた毛布に身をくるんでから「それでも夜は長いよな」とイレギュラーズ達を見遣る。
 アルテミアは「アイオンさんには色々と教えたいことがあるのよ。幻想王国――プーレルジールがあった場所の話、とか」と提案する。
「聞きたい。幻想王国という国を作った王様の話を聞いたよ。それが俺と同じ名前で、勇者だって言うんだ。
 ひょっとして混沌世界の俺って凄い人だったんじゃないかな? って、まあ、この世界の俺じゃ大きく違うから自惚れることも出来ないけれど」
 どうおもう、と問うたアイオンにマルクは「混沌世界の『アイオン』は凄い人なんだよ」と頷く。
 アルテミアは幻想王国の澱みの事は触れず、輝きを感じるあの王都のことを教えてあげたかったのだ。
「ええ、ではアイオンさんが知りたいというのでしたら、お教えします。
『レガド・イルシオン』……幻想、と呼ばれる王国。貴方がクラウディウスを始めとする各氏族を束ね、建国した国について」
「不思議な感じだなあ」
 アイオンは居住いを正した。メイメイが「どうぞ」と差し出す茶を受け取ってからうきうきと身を揺らす。
「アイくん、ウキウキしてるね」
「勿論。だって、別の世界線の俺だぜ。もしかすると俺だって――なんて思いたくなるだろう?」
「確かに」
 シキとアイオンは顔を見合わせて可笑しそうに笑って見せた。アイくんと呼べば彼はにんまりと微笑む。目を見て、真っ直ぐに答えてくれる。
(本当にこの人は、真っ直ぐなんだなあ)
 リースリットとアルテミアは幻想王国の何から話そうかと顔をつきあわせる。リースリットは「幻想王国は」と口火を切った。
「私の生まれた国でもあります。始祖アイオンから続く王家の血統も、国と民の歴史も絶えず続いています。
 王家直系の特徴たる赤髪に赤茶の瞳……貴方を見ると、国王陛下との確かな血の繋がりを実感しますね」
「俺の血の繋がり……あ、そうだよなあ。俺にも子供が出来て、その子が次代の王様になって行くんだ」
 何だか気恥ずかしいと肩を竦めたアイオンを見てからココロはくすりと笑った。
「なんだかそうやって口にされると、未来の自分を見ている感じがして不思議なのかもしれませんね。
 私達からすると貴方は『過去』の人間だけれど、全く別の世界線でも交わる部分があるのかもしれませんし」
「そうだよ。俺はどんな人と結婚したんだろうとか思ってしまうだろう?」
 アイオンは年頃の青年らしく「どんな人だろうなあ」と頬を緩めた。「初代の王妃様ねえ」とアルテミアは悩ましげに呟く。
「『勇者王の物語』で名前は出ていたかしら?」
「……記憶にありませんね。そういえば『勇者王の物語』は貴族平民問わず今も国で最も好まれている物語でして、私も、好きです。
 ですから――貴方にお逢いできた事、こうして、友人と呼んでくださったこと、心から嬉しく思います」
 改めてリースリットは告げた。幻想貴族であれば『初代国王』との出会いに感銘を受ける者も居る。同時に、彼の旅路に物思う者も居るだろう。
「楽しいか?」
「勿論。色んな話が聞けるんだな」
 アイオンが楽しそうに笑う笑顔を見てバクルドは「それはよかった」と頷く。
「旅仲間がいるときは会話を楽しむと集中が長持ちする。一人のときは半分起きながら寝りゃ良い」
「はは。確かに話していると何時までも元気で居られる気がするよ。バクルドは旅慣れているんだな」
 放浪者だからなとバクルドは頷く。アイオンはと言えば「いいな、放浪。俺もしようかな」とリースリットの書いた地図をまじまじと見詰めていた。
「向こうで雪山登ってたんだがなクレバスっつー氷の裂け目に落ちちまったことがあってな。
 装備も何も落としたが、雲を抜けたあの景色は最高だったな」
「雪山……俺は、山頂から見る朝日を眺めたいな。困難を経て見るあの鮮やかさはきっと、格別だ」
 アイオンはくあと小さく欠伸を噛み殺した。「今日は寝ましょう」と華蓮は微笑む。
「まだまだ沢山時間はあるのだわ。私とココロさんの『唄』も聞いて貰わなくってはならないのだもの」
「楽しみにしてる」
 おやすみなさいと微笑んだ華蓮にレイリーはこっそりと酒を一口含んだ。
「あ」
「いいじゃん、見張りの間はお酒飲んでないわよ!」
 お酒は必要なのだ。なんたって夜はまだまだ長いのだから。
 ――冷え込む朝を迎えてからアイオンは「おはよう」と涼やかな笑みを浮かべた。レイリーは「おはよう」と笑みを返す。
「まだもうひと頑張り必要そうね」
「ああ。その前にさ、鍛錬に付き合って貰えないかな。朝は体を動かす事にしてるんだ」
 アイオンはセララにも約束を取り付けたのだとうずううずと身を揺れ動かす。
「鍛錬かい? セララやレイリーもやる気だし、アイくんを鍛えるってのも今回の重要な目的だよね。
 アイくんと剣の扱いを一緒に鍛錬する。刀は私もまだまだだしね、打ち合いとかどう?」
「勿論! 宜しく、シキ」
 アイオンはぱあと明るい笑みを浮かべた。
「アイオンの目的の『殴りたい』を達成するためには必要なモノがあるよ。それは威力、パワー、必殺技!相手の防御を突破しないとねっ」
 拳を突き出しながらセララは重ねる。シャドーボクシングを行ないながらの必殺技の有効性をアピールする彼女にアイオンは「必殺技、必要だな」と納得したように何度も頷く。
「だからギガセララブレイクを覚えてみようよ。名前は好きに変えて貰って大丈夫だよ。
 必殺技に重要なのは威力を『溜める』事と、それを一気に『爆発』させることなんだ」
「ギガアイオンブレイクって事か……?」
 はっとした様子でそう言ったアイオンにセララは「おそろいだね?」と首を傾げる。思わず素直に命名したアイオンにレイリーは吹き出した。
「じゃあ、そのギガアイオンブレイクを受け止めても構わないかしら」
「ああ、頼む。レイリーが一番に『殴っても安心できる相手』だって聞いて居るよ」
 それはそれでどうなのかとレイリーは笑った。
 攻撃も大事。それでも防御を備えることが大切だと彼に走っていて欲しい。仲間と協力することをいの一番に彼には覚えて欲しいのだ。
「最後まで諦めずないこと、生きぬく事は大事よ。そうすることで窮地を脱出できるかも知れないしね?」
 レイリーにアイオンは「教えてくれ!」と頷いた。剣に魔力を奔らせる。眩い光と共に叩き付けたそれをレイリーの盾が受け止める。
 粘り強く相手をし、攻撃を受け続けることで仲間が打ち倒してくれる可能性を何度も説いた。
 シキはと言えば剣を振り下ろし、アイオンと同じく剣戟を重ねていく。
「もう一本! いい?」
 アイオンが剣を握り汗を拭う。肌寒さを忘れた様子で彼は唇を吊り上げた。
「強くなるなら、一緒に強くなるよ。君ばっかり強くなって、隣に立てませんでしたなんて御免だからね!」
「はは、俺なんかよりシキの方がもっと強いよ。でも、宜しく頼む」
 そんな様子を微笑ましそうに眺めて居た華蓮は料理を用意しながらもファミリアーのヒメに周辺を確認して貰っていた。
「必殺技? 『アイオンストラッシュ』とか格好よさげですね。どうでしょう」
「採用かも」
 アイオンはそれでもよさそうだと大きく頷いた。次の行軍に備えるマルク達を見詰めてからココロはにまりと笑う。
「勇者の『勇』は何の為にあって何に用いるべきか。考える材料の一つを与えられたらうれしいかな。
 あなたの良き戦友、このココロがアイオンさんを勇者にしてみせます!」
 勇者たるもの学ぶことは必要だ。例えば、セララの必殺技に、シキやレイリーの戦い方。それから、マルクのような魔術師も居る。
 バクルドのように旅慣れたならばリソースの配分だって得意だろう。
「不思議なものですが、想いをこめると一撃は強力になります。
 シキさんはその技術の達人。感情をうまく制御し、剣に載せる。できそうですか?」
「感情の制御、か……」
 アイオンは剣をまじまじと見た。剣に多少の魔力を纏わせる事は出来たけれど、それ以上となるとやや難しいのだろうか。
「でも感情だけでも不足、強さは理論と実践がないと。
 間合いの取り方、攻撃の流し方。どんな状況でも盾として耐えてきたレイリーさんの脚運びをよく見て下さい」
「魔法が絡むと中々難しそうだ。でも、護る事は……できるかもしれない」
 それでも攻撃特化には変わりないというアイオンにマルクは頷いた。確かに勇者パーティーは効率重視で分れているようにも思えた。
「ファルカウにマナセさんという魔法使いが居てね。アイオンさんとパーティを組んだら、面白そうだ」
「へえ。マルクは知り合いなのか? その子とも逢ってみたいな」
 ――屹度、その時にアルティオ=エルムにいるマナセは「はっくしょーーん! ぶえっ、あ、美少女らしくない」などとジョークを言っている事だろう。
 魔術師との連携を教えながらもマルクは彼の戦い方自体が非常に独特だと感じていた。剣にも癖が強いのだろうか。
 実践的に連携の苦手を攻略するべく前線で共にフォローし訓練と、そして実践戦闘を繰り出しながら少しずつも進む旅の最中。
 敵を打ち倒してからアルテミアはアイオンを呼んだ。
「仲間が居るという事は、選択肢が増えるという事よ。なんでも一人で片付けようとはせず、仲間を頼る事も大事だからね!」
「ああどんな戦いにするにせよ足腰が強いといざって時に踏ん張りが利く。基礎にも応用にも通用する上に攻撃時のダメ押しもし易いぞ」
 成程、とアイオンは頷く。バクルドは彼の戦い方を見て確認したのだ。こうしてイレギュラーズ達型買うには何か理由があるのだろうか。
 アイオンは「どうして戦うのか」と問うた。ぱちくりと瞬いてからアルテミアは肩を竦める。
「……二度と大切なものを失わない為、かしら。
 大切だった双子の妹を救えなかった私だけれど、親友や心から愛する人といった絶対に失いたくない存在はまだあるから。
 そんな人達を守りたいという想いをこの炎に誓って、戦っている……っていうのはどうかしら?」
「アルテミアはだからそんなに優しくて強いんだな」
 アルテミアは「それなら、いいのだけれど」とぎこちない笑みを浮かべた。
「戦う理由ですか……アイオンさんにもあるでしょう?
 アイオンさんには、強くなってもらわなければなりませんから――次に遭遇した時に、サーシャさんにその手が届く位に」
「……ああ、きっとサーシャは俺のせいだ」
「勿論、私もご協力します。必ず彼女に届かせましょう。そして……何としても救い出しましょう」
 勿論だとアイオンは頷いた。
 彼が勇者になるならば。これから、沢山の出来事があったとしても。
 もしも『彼が史実の通り』の存在になるならば――
「そのもしにだ、お前さんが可能性に手をかけることがあったなら」
 バクルドはゆっくりと腰を上げてからアイオンへと手渡した。喩え、意味が無くとも。もし、彼に『奇跡』が訪れなくとも。
 ――それが可能性となるならば、願わずには居られないのだ。
「死せる星のエイドスだ」
「……奇跡は、願わなくっちゃ意味が無いないしな」
 笑うアイオンにバクルドは大きく頷いた。
「さ、朝ご飯に、しましょう。美味しいごはんは、心の栄養でもあります、から。
 アイオンさまは、好きな食べ物や、苦手な食べ物はあります、か? 今回の旅は大所帯ですから……手伝っていただいても?」
「勿論」
 アイオンは苦手なものはなにもないとメイメイへと微笑んだ。準備を行なうメイメイを一瞥してから「こういうのって楽しいな」と彼は朗らかに微笑んで。


「実戦に勝る訓練は無いからね。試せる機会は拾っていこう……と、言いながらも影海の周辺は危険ばかりで選んでは居られないかもしれないけれどね」
 マルクは真っ向から攻め来る存在を見詰めた。これまでの道中では敵影を選び、アイオンの訓練内容を鑑みて敵を選んでいたが此処から先は難しそうではある。
「『英雄譚のしもべ』は、あらゆる英雄……物語に歌われるような傑物から、噂だけが聞こえて回る謎の人物、果ては僕たちが知る同時代の人まで出現する可能性がある。
 強さも能力傾向も不明な以上、こちらの最善で備えるしかない。まさかとは思うけど、『冠位』を模した存在なんて出てこない、よね?」
「冠位?」
 アイオンはぱちくりと瞬いてからマルクを見た。冠位魔種――そうした存在の話はこれからも伝える事は出来る。
 それが厭な予感である事を願いながらマルクは敵影を眺めた。
「アイオンさま、準備は宜しいです、か?前方から、来ます……!」
 メイメイへとアイオンは大きく頷く。戦闘訓練では彼と共に連携を行なった。彼を補佐する役割も担ってきた――が、ここらは実践だ。
「任せて!」
 前線へと走るレイリーを支援するココロは彼女の支援を先ずは行なった。その姿を見てアイオンには一人きりでは学ぶことの出来ない『連携』を知って欲しかったのだ。
「行くよアイオン! 合体攻撃だ!」
 ギガ●●ブレイクを両者で繰り出すことでこの窮地を脱してみせるのだ。
 憩いの地を探しながらもメイメイは眉を顰める。廃棄されたドール達が向かってくるのだ。
「……おやすみ、なさい」
 どうか、終わりだけは幸せであるように――そう願うように最大の一撃を放つ。
 メイメイの魔術を一瞥し、華蓮が撃ち込んだのは神罰の一矢。その鋭い鏃が突き刺さり、たじろぐドールを見据えてからマルクは「あっちだ!」と叫んだ。
「任せてくれ」
 四天王のしもべを警戒するマルクに従いながらアイオンは戦っている。その様子を誰かが見ているのだろうか。
「廃棄ドールか、望まない破壊に踊らされるよりかは今ここで終わらせたほうが互いに報われるだろ」
 バクルドは地を踏み締めた。睨め付けたその後方には英雄譚のしもべ達が――滅びが作り出した影がアル。
「どれだけ見たことがあったとしても西から知り合いが来ることはねえ」
 腸が煮えくり返るだけだ。マルクが「この先は注意するべきだ」と告げた通り、有象無象は溢れ出す。
 バクルドの握るレバーアクションライフルががしゃりと音を立てた。長射程を維持する代わりに反動は強烈だ。だが、それをも駆使してこそである。
「アイくん! いまだ!」
 攻撃を引付けるシキの声にアイオンは頷いた。レイリーが前線を支えてくれている。ロールを意識して戦うことも大事だ。
 その連携こそが彼がこの旅で得たものだ。魔術師であるマルクも、互いに前線でも立場の違う戦いを見せるレイリーも、回復手のココロや華蓮、メイメイも。そして、同じ敵を狙うセララやバクルド、シキだってアイオンにとっては参考になるものだ。
 それにしたって――
 マルクは戦いを経てから顔を上げた。憩いの地らしき場所は見付けたが視線をずっと感じ続けている。
 まるでアイオンが成長する様子を眺めて居るかのようだ。だが、邪魔をしないという事は――
(勇者になる事を、待っている……?)
 それは運命を辿るように。物語をなぞるようで。マルクは嫌な気配ばかりを感じていた。
「到着! でも暫くはここで野営かな。中継地点だけれど、皆と合流しなくちゃならないかな」
「ここで野営なのだわ?」
 首を傾げる華蓮に「危なくはないでしょうか」とココロは道中を思い出す。ある程度の食料を補給する拠点は確認で来ている――が。
「ここで、騒いだらイルドゼギアが出てくるかも知れないし」
「……そ、それは……」
「ここで謳えってこと……?」
 二人が顔を見合わせた。アイオンは満面の笑みである正しく『アイオン』だとマルクトリースリットは顔を見合わせた。
 華蓮とココロは事前の野営でアイオンに伝えていた。『華心ぷろじぇくと』の特別公演を見せたいと考えて居たのだ。
 アイオンが焦らすものだからいつ公演を――と思って居たのだが、真逆の影海ど真ん中である。
「私自身、歌も持っているのだわよ! 何処からともなくBGMが聞こえてくる気さえする位に頑張るのだわ!」
「俺の冒険の主題歌ってことかな」
「はっ……」
 華蓮は慌てた様にココロを一瞥する。思わず吹き出しそうになったココロは「いいんですか?」と囁いた。
 これまでも華蓮が盛り上げるためにリズミカルに攻撃を繰り出しBGMを奏でてくれていたが、真逆の冒険の主題歌に登用なのだ。
「それでは、聞いて下さい」
 ココロは改めて説明する。『華心ぷろじぇくと』というユニットで暇な夜も楽しく過ごせば旅も苦にはならない。
 星の囁きとパートナーと共に。頬が触れるほどの距離で踊って、ぎゅっと抱き着くようにリズムに乗って。微笑みながら歌う。
 心を通わせ、気持ちを通じ合わせる事の出来る相手と一緒にある事がどれ程に幸せなのかを歌うのだ。
 ――ついでに百合の素晴らしさを知って貰えたらなんて、揶揄うように言った華蓮にアイオンはぱちくりと瞬いたのだった。
 珈琲を手渡すアルテミアは「お疲れ様、有意義だった?」と問う。
「勿論、有意義だった。アルテミアのことも知れたしね」
 アルテミアはぱちくりと瞬いてから小さく笑う。プロメテウスの恋焔を掌に灯して見せたとき彼は「これが双子の妹?」と問うたのだ。
 エルメリアに挨拶をする彼は悪い人間ではないと、そう実感することが出来た。
「この不思議な感じは……何なのか、はっきりさせたいのですが……何でしょうか」
 首を捻ったリースリットにアイオンは「不思議な気配だな。何かが守ってるのかもしれない」と顔を上げた。
「例えば、此方を警戒する竜とかどうだろう」
「……オルドネウムの居所だというならば有り得なくはありません」
 勇者王の物語ではオルドネウムと名乗る竜はアイオンを乗せ『魔王城』までその身を運んだと言われている。それが此方の世界ではそうした変化を為た可能性もある。
 これだけ変化しているのだ。オルドネウム自身も竜では亡いのかも知れないけれど――
「ねぇアイくん。君は確かに勇者王とそっくりかもしれないけど、私は”アイくん”の仲間になりたい。君と旅がしたい」
 彼の真っ直ぐな瞳を見詰めてからシキはにっと微笑んだ。
「君が1人じゃ挫けそうな時は、隣にいてあげる。君が背中を押して欲しい時は、背中をぶっ叩いてあげる。
 君が何かに立ち向かうなら、地獄の果てまで一緒に行ってあげるよ」
 それがシキが混沌で知った『仲間』だった。この世界のアイオンにはそうした『仲間』が足りていないのだ。
「……魔王を倒しに行く旅の中でアレです、が……わたしは、アイオンさまとの冒険、とっても楽しい、です。
 混沌世界の『勇者』は物語でしか知りません。けれど、貴方は、貴方、です。
 ……アイオンさまらしい『勇者』のカタチが、あります、から。
 まっすぐに突き進もうとする中でも、振り返って、周りを見てあげて下さい、ね。貴方は『一人』ではありません」
「……ああ、それなら嬉しいな。でもさ、思ったことがあるんだよ」
 メイメイの頭をくしゃりと撫でてからアイオンは「もうこれって、俺と皆は仲間だよな」と笑った。
 シキとメイメイは顔を見合わせて頷く。こうして仲間を増やして、進むべき場所を定めていくのだろう。
「これからよろしく。じゃ、とりあえず歌を聴いて珈琲を飲もうか」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。誰とでも仲良くなってしまう方の勇者の旅ももうすぐ終りそうですね!
 次は、マナセ達との合流だ。

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