シナリオ詳細
<泡渦カタラータ>八つ手触腕のイラクリオン
オープニング
●大渦調査
「海洋――ネオ・フロンティア海洋王国の近海に謎の大渦が発生しているのはご存じかしら?」
『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)の質問にイレギュラーズは曖昧に頷いた。
「たしか自然由来のものではなくて、何者かが発生させてるって話だろ?」
「ええ。
これまでの調査によってわかったのは、幻想楽団の大討伐から逃げ延びた魔種『チェネレントラ』と死体漁りを行っている『ヴィマル』。この二人の魔種が大渦発生の中心人物だと考えられているわ」
サーカスから逃げ延びた魔種が拠点を海洋に移し活動を行っているということか。どんな思惑で大渦を発生させているのかは知れないが、放っておいても碌な結果にはならないだろう。
「イレギュラーズの皆が調査・対応依頼を行った成果で、練達の研究者『佐伯・操』氏に渦への調査に乗り込むための装置――渦の中でも自由に息をする事が出来る『海中戦闘用スーツ・ナウス』の使用許可が下りたわ。
これまでのように渦周辺に現れる敵の対処ではなく、直接乗り込んで原因を叩くことが可能になったというわけね」
「と、いうことは今回は?」
「ええ、お察しの通り大渦へ乗り込んで、渦を発生させてる原因と内部の調査になるわ」
魔種が存在していることがわかっている以上、通常の依頼以上に危険な案件となるだろう。
準備不足や油断などせず、気を抜かずに挑む必要があるはずだ。
「渦の中には朽ちた巨大都市があるみたいね。
どういう由来の都市なのかは不明だけれど、調査の必要があるかもしれないわね。
――それに、周辺には『嫉妬』に由来した魔種もいるようなの。
これまでの口ぶりからチェネレントラは『色欲』に寄っているようなのだけれど……主導者、それに類するものは別にいるのかもしれないわね」
幾つかの勢力がある魔種。その二つが混在した戦場となれば、大きな戦いになる可能性はあるかもしれない。
どちらにしても、魔種へと挑む万全の準備を備えよう、とイレギュラーズは気合いをいれた。
「そうそう、私のギフトで見知った情報も記して置くわね。裏取りはできてないけれど、きっと役に立つはずよ。
それと……タコには気をつけてね」
「タコ?」
「そ、タコよ。
触腕うねうねで……うぅ、想像しただけでゾクゾクしちゃうわね」
身震いしながら依頼書を手渡したリリィはそれだけ言うと、忙しそうに別のテーブルへと向かうのだった。
タコはともかく、大渦の調査は確実に成功させたいものだ。
今一度気合いをいれたイレギュラーズは、席を立ち準備へと向かうのだった。
●八つ手触腕のイラクリオン
大渦、その中に存在する古代都市。
水没したその都市を悠々自適に歩く一人の海種がいた。
「んんぅ~殺風景なところね~ぇ。
海水に溶けた壁面の砂塵がまざって、お肌にも悪いじゃなぁ~い」
野太い声で言うその海種は身をくねらせる。その顔は見まごう事なきタコである。
「チェネレントラちゃんのお手伝いと思って来たけれど、あたしが来るまでもなかったかしらぁ~?
――まぁいいわ、『ルクレツィア』様に良いとこ見せたいし、あたしはあたしで好きに遊ばせてもらいましょ~ぅ」
ズゾゾッ――タコの頭が揺れ、胴体に纏うケバケバしい服がユラユラと揺れる。腕、足の先から幾重に絡まる触腕が伸びて――。
周囲を泳ぐ小魚たちが、見る間に身体を痙攣させ横倒しに倒れた。
「うふふ……どんな可愛い子達がくるのか、楽しみね~ぇ」
タコ頭の魔種――八つ手触腕のイラクリオンは身体を背景に溶かし、ゆらりゆらりと触腕を揺らしながら大渦の中を闊歩するのだった。
- <泡渦カタラータ>八つ手触腕のイラクリオンLv:6以上完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2018年10月23日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●気配を探る
海洋――ネオ・フロンティア海洋王国近海に生まれた大渦の調査へと乗り出したイレギュラーズ。
大渦の中には魔種が潜んでいるという話だ。本依頼に参加したイレギュラーズも多分に漏れず、魔種への警戒を募らせていた。
「魔種でタコ……ですか。
想像するだに恐怖を感じますが、実物はおそらくもっと恐怖を感じるかもですね」
『海中戦闘用スーツ・ナウス』を着用し、(無理矢理)収まった翼の感覚に違和感を覚えながら、『白き渡鳥』Lumilia=Sherwood(p3p000381)がこの先に存在する古代都市に待ち受けるという魔種を想像して言葉を零した。
恐怖心を押し殺し、平静を保とうと、心に言い聞かせ繰り返す。
「タコであろうがイカであろうが、魔種を相手にするのでありますから、やることは変わらないのであります。
些細な違和感も見逃さず、見つけ次第、撃ち貫くのであります」
軍人であり魔法少女でもある十歳の少女『鉄帝軍人』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)。その脳内では様々な情報を並列に処理していた。周辺環境に起こるわずかな動き、変化、違和感を観察し情報として整理する。”次元多重思考”の持ち主の集中力は並々ならぬものがあった。
「毒を持つタコっていうしなぁ……墨も嫌だけど痛いのとかはもっと嫌だなあ」
スーツから翼を(やっぱり無理矢理)出している『大空緋翔』カイト・シャルラハ(p3p000684)がぼやきながら翼を器用に使い海中を泳ぐ。
水中での動作に優れる能力を持つからこそできる芸当だが、並に揺られる翼は実に優雅に見える。
「タコねぇ……種族的には相性が悪そうなのよね。
まあ、相手が魔種なら四の五の言ってられないよね」
アトラクトステウスの海種である『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は
その本来の姿を晒すこと無く、スーツを着て海中を索敵する。
エコーロケーションによる音の反響に注意しながら、周囲を探索する。得意フィールドということもあるので、頑張りたいところだ。
まだ見ぬ魔種の姿を想像する面々。魔種へと挑む緊張も感じられるが、一番緊張しているのは『ぽやぽや竜人』ボルカノ=マルゴット(p3p001688)だろう。
「魔種であるか。
……こわいであるけど、うん。がんばる!」
魔種との本格的な戦いはこれが始めてになるボルカノは、その恐がりな心根を抑え込みながら仲間達と共に海を泳ぐ。
他の仲間同様、海中の様子を注意深く観察し、違和感を探す。
(この大渦も、魔種の仕業なの……? 一体何を企んでこんな事……)
大渦のその中に入って、周囲を観察していた『兄の影を纏う者』メルナ(p3p002292)は魔種の企みに想いを巡らせ――頭を振る。
「……ううん、何だとしても。きっとまた、沢山人が苦しむ様な事に決まってる」
好きになんてさせられないと、兄ならばきっと止めていたはずだと――魔種を止めるのだと心に火を灯す。それは強き自己暗示となってメルナの精神状態を変質させていく。
「大渦の中、入ってみると結構落ち着いてる感じだぬ。
瑞穂ちゃん、そっちなんか見つかったんだぬ?」
「こっちにはおかしな物は見つからないのう。
しかし、誘われるままに付いて来てしもうたが、結構面白いもんじゃのう」
ニル=エルサリス(p3p002400)にふん縛って連れてこられたという『田の神』秋田 瑞穂(p3p005420)が渦の中で周囲を興味深そうに見る。
ニルの言うように渦の中は水流に勢いがある物の流されて行動できなくなるというようなことはない。むしろ底の方は落ち着いている印象だ。
砂塵がキラキラと舞い、まるで星空のようにも見えるその海中で、二人は協力して敵影を探した。
「おさかなさん。無理はしないでね。おねがいね」
小魚をファミリアーとして使役し、魔種を探すのは桜坂 結乃(p3p004256)だ。僅かな音も聞き逃さないその超聴力を用いて、二重の力で探査する。
もし魔種が潜んでいるのであれば、その毒によって使役した魚は死んでしまうだろう。可哀相ではあるが、それが魔種を見つける目印となる。
「この辺りにはいなさそうですね。
探索範囲を広げてみましょう」
天義貴族であり、神の信徒である『信仰者』コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)もこの依頼に参加している。
魔種という神に仇なす者を生かしておく道理などないと、その信仰を一層高く燃え上げた。
以上のように、本依頼に集まった面々の魔種への警戒度の高さたるや、不意に見つけた黒い例の害虫へのものと相違なく、それはもう渦の調査という探索そっちのけで血眼になって魔種の気配を探っていたこととなる。
本来であればそれだけの警戒心を見せれば、相手側もそれに気づき警戒心を強めるという物だが、幸いだったのはこの付近にいた魔種が、自信家であり相手の機微に無頓着だったということだろう。
故に、その接敵も実に緊張感のないものだった。
海底の古代都市へと辿り着き、周囲の警戒を厳としていたイレギュラーズが、異様に気づく。
「魚さんが逃げてきている……?」
メルナの言葉に視線を向ければ、小魚たちが一斉に逃げ惑うように向かってくる。
「見て、お魚さん達が――」
結乃が指させば次々と死んでいく小魚たち。だとすればその先には――
「――! そこです!」
蠢く砂塵に当たりを付けて、コーデリアが弾丸を放つ。螺旋を描く弾丸と水流が、何も無い空間へと吸い込まれ、何かにぶつかった。
「……あら、やだわぁ。あたしの居場所がわかるなんて、ずいぶんと注意深いのね~ぇ。
うふふ、気に入っちゃったわ~ん」
海中が歪み、その姿が露わとなる。ケバケバしい服に身を包んだ筋肉質の身体。その頭には毒々しい斑点をもつ、見紛う事なきタコの頭。くねくねと身体をくねらせる様は実にオネエである。
「オカマだぬ! オカマダコだぬ!」
「あらやだ、失礼ね。
どこからみても、可憐な乙女でしょ~う」
「ふざけた魔種であります」
「可憐さなんてどこにもないじゃない!」
ハイデマリーとイリスの言葉にも差して傷付いた様子も見せず、魔種であるタコは薄気味悪く笑う。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……十人。まずまずの数ね。
魔種がいるのがわかっていたのでしょ~ぅ? ならあたしと遊びましょうよ。優しくするわよ~ん」
ズゾゾ……。身体が膨れあがるように蠢いて、その手足が触腕へと変化する。
「背筋がゾッとしますね……」
白金に輝く繊細で優美な直剣を構えるLumiliaがその気味の悪い姿に飾らない感想を呟いた。
「巫山戯た奴だけど……やばいなかなり強いぞ」
「相手もやる気満々であるな!」
カイトとボルカノの言葉通り、魔種がその殺意と狂気を滾らせていく。
「うふふ、可愛い坊やにお嬢ちゃん達ねぇ……興奮しちゃうわ~ぁ」
その肌の斑点を七色に変化させながら、一歩魔種が歩みを進める。
「『色欲』ルクレツィア様麾下。
八つ手触腕のイラクリオン――さぁ行くわよ~ん」
野太い名乗りと同時、周囲は獄毒の世界と変貌した――
●八つ手触腕のイラクリオン
イラクリオンはヒョウモンダコの海種が反転した魔種である。
体内にフグと同じ毒を持ち、噛み付きによって相手に送り込むことで有名だが、魔種として変貌したイラクリオンの毒は進化し、もはや別種の毒へと変化していた。さらにその毒は自然と身体からにじみ出る。故に、その周囲は毒の地獄――獄毒の世界と成り果てる。
狂気と毒に塗り染められたそのイラクリオンの空間は、弱者の生存を許さない。知識として得ていた情報と、実際に対面して得られた経験が、その厄介さを改めて思い知らせた。
イレギュラーズは毒の効果範囲から離れながら陣形を組むが、イラクリオンの前進を止めるために敢えてその獄毒内で戦う盾役を用意した。交代役を含めた四人、カイトとメルナ、そしてイリスとニルだ。
身体を汚染する狂気と毒に抗いながら、全力を持ってイラクリオンを止める。
そんなイレギュラーズの高い練度の動きにイラクリオンが嬉しそうに身体をくねらせる。
「うふふ、必死に対策してて可愛いじゃな~ぃ。
どこまで耐えられるか見物だわ~ぁ」
「その自信、いつまでも持つと思わないことだよ――!」
自由なる攻勢ままに手にした魔剣を振るうメルナ。鈍重ながらその滑り気ある肌を切り裂く渾身の一撃が放たれる。
「煩わしい毒じゃが、その組成、理を知れば対処のしようはあるのじゃ!」
瑞穂が距離を詰め大号令を放てば、体内を巡る毒が中和されていく。身体が軽くなり、力を漲らせることが可能となった。
「結乃ちゃん、回復は任せたんだお!」
「任されたよ! 誰も倒れさせはしないよ」
ニルが見舞った光柱がイラクリオンを飲み込むと同時、結乃が治癒魔術で傷付いた仲間を回復させる。
「攻勢である! 狂気に飲まれる前に畳みかけるのであるよ!」
ニルの光柱が消え去る前に、ボルカノが更なる光柱を放ちイラクリオンを押し込む。逃れるように身体を横に滑らせたイラクリオンをカイトが抑えつけた。
「さあこっちだタコ”野郎”! 俺が華麗に捌き切ってやる!」
「いやね~ぇ、乙女に野郎だなんて。
あら? でもいい男じゃない? ちょっと遊んであげようかしら」
叩きつけられる触腕の無双をその身を盾に受け止めるカイト。強力な一撃に歯噛みしながらも僅かに体勢を崩すに留まる。
「この距離……貰いました――!」
コーデリアの強き意思が聖なる弾丸へと姿を変えて、手にした魔銃より放たれる。研ぎ澄まされた狙撃者たるコーデリアの一撃が、イラクリオンの身体を穿つ。
「乙女を名乗るくせにケバいファッションね!
派手にすればいいってものじゃないのよ、ファッションって」
カイト、メルナペアと入れ替わるように前にでたイリスが挑発的に言葉をぶつけて敵視を稼ぐ。
「言うじゃな~い。よっぽど自分に自信があるのかしら?」
「当然! チェネレントラより私の方が美少女!」
胸を張って言い切るイリスは怖い物知らずだ。
「あはは、うふふ。チェネレントラちゃんが聞いたらなんていうカシラ。
決めたわ、貴方だけは捕まえてチェネレントラちゃんの前に連れ出して評定しましょ~う」
嗜虐的な笑みを浮かべ(頭部はタコである)イラクリオンが笑う。
「先のことを考えている余裕なんて、与えませんよ」
魔力伴う演奏や祝福の囁きで仲間を支援することに徹していたLumiliaが、イラクリオンの隙を突いて距離を詰めると、氷の鎖を伸ばしその触腕を捕縛する。氷結するその束縛がイラクリオンの動きを鈍らせると、その隙を虎視眈々と狙っていたハイデマリーの銃口が火を噴いた。
「続けていくであります」
連続で放たれた弾丸は致命を齎す死の凶弾。イラクリオンの腹部を貫く鋭き一撃が墨のような血を噴き上がらせた。
イレギュラーズの作戦、そして魔種を必ず打ち倒すのだという強い意志から生まれた攻勢は、自信に満ちあふれ余裕の態度を見せていたイラクリオンを確実に追い詰めていた。
当然ながらイレギュラーズも――特に前衛を務める四人の被害も大きいものだったが、燃えさかる心の火がイラクリオンの力を圧倒し、攻勢を継続させていた。
この状況を、イラクリオンは冷静に見極めていた。
自らの力を疑わず、巫山戯た態度を取るイラクリオンだったが、その本質は臆病である。圧倒的な空間支配能力を持って敵を寄りつかせず機先を制して勝利を掴む戦闘スタイルはその臆病さにより生まれた力といって良いだろう。
故に、押し込まれている現状を認めたイラクリオンが自らが誇る力――その真の力を発揮するまでにそう時間はかからなかった。
「うふふ、本気を出すなんて何年ぶりかしらね~ぇ」
「様子が変わりました! 何か仕掛けてきます――!」
イラクリオンの動きの変化を見逃さなかったのは、常に気をはり注意をし続けたコーデリアだ。
膨れあがるイラクリオンの身体、そして視認できるほどの毒々しい墨が辺り一面を覆う。
「さぁ、毒に染まる世界でゆっくりおやすみなさぁ~い」
履行される切り札に、為す術無く飲まれた――
●死力を尽くす
最初は闇。そして身体中を蝕む強烈な毒と痺れの感覚が広がる。やがて闇は薄闇となり、すぐに霧が晴れるように消えて無くなった。
「消えた――」
イラクリオンの姿が消失した。しかしイレギュラーズ全員の身体を蝕む毒は間違いなくイラクリオンの物だ。周囲にいるはずだと警戒を及ぼしたそのとき、うねる海流がイレギュラーズを襲う。
轟流。叩きつけられる殺意を伴う流れ。そして同時にその場にいる全員を襲う衝撃。苛烈な暴力の奔流は、まさしくイラクリオンの触腕によるものに他ならない。
そうして暴嵐が収まったとき、イレギュラーズは為す術なく意識を落としたニルを除き、全員がパンドラの輝きを纏い、満身創痍のままに意識を繋ぎ止めていた。
「あらぁ~、これでも立っているなんて……やるじゃないの」
海中に響く姿無き悪魔の声。その声色に先ほどまでの余裕はない。
完璧な擬態を用いて獲物をなぶり殺す体勢をとったイラクリオンは次なる手を考えこの海中のどこかに存在しているはずだった。
「絶対どこかにいるはずだよ。見つけないと――」
「体勢はわしら二人で立て直す! その間に探すのじゃ!」
結乃と瑞穂が治療魔術で仲間達を支えながら声をあげる。
イレギュラーズは防備を固めながら、辺りへと気配を辿らせる。海底の砂、海流の動き、僅かな違和感でも逃さぬように。
真綿で首を絞めるかのような、殺意を伴う毒と狂気に耐えながら、必死に視線を泳がせて――
(オホホ、完璧な擬態よぉ~見つかるわけが――)
「――! 上!?」
それは直感と言って良かった。ほんの僅かな光の揺らぎがイレギュラーズの頭上に身を潜めるイラクリオンを映し、メルナの視界に入り込んだのだ。
メルナの声に反応して、コーデリアが素早く挑発めいた狙撃を行う。海中を進む弾丸がまるで何かに吸い込まれるかのように消えると、海中が揺らぎ、その毒々しい斑点が浮かび上がった。
それは巨大なヒョウモンダコだ。本来小柄なヒョウモンダコが異常に成長した姿。太い触腕が蠢きイレギュラーズを取り囲もうとしていた。
「うごごご……なんでわかったのかしらぁ~」
予想だにしないダメージを受けイラクリオンがその大きな目を瞬かせる。
一瞬イラクリオンの動きが止まったのをイレギュラーズは逃しはしなかった。傷付いた身体に火を灯し、再度、攻勢へと転じる。
メルナとカイトのコンビが一足飛びにその巨体となったイラクリオンへと肉薄し、武器を振るう。墨のような血を吹き上げるイラクリオンが、反撃にその巨大な触腕を振るう。
「まだまだ、俺にはやりたいことがあるんだよ! 水底に沈んでたまるか……ッ!」
熾烈な叩きつけを受け止めるカイトが吼える。仲間を守り抜く意思、そして生への執着がイラクリオンの強烈な攻撃を受け止め、耐えさせる。
イレギュラーズの攻勢に臆病さが擡げたイラクリオンが最後の擬態を試みる。その消えゆく触腕を結乃が抱きつきしがみつく。
「つかまえた! ここに。ボクの目の前にいる。倒して!」
「逃げようとしてるのである!
魔種だって、不死身じゃないのである……もう一押し!」
ニルの変わりに前にでたボルカノ。そしてイリスが渾身の一撃を叩きつける。すぐさま擬態が解除され、警戒色に変わったイラクリオンの姿を浮かび上がらせる。
「もう一押しじゃ、一気に攻めるのじゃ!」
「もう一度戦う力を……みんな、お願い――!」
瑞穂が残る力を振り絞り、仲間の傷を癒やし、Lumiliaが活力を呼び起こす祝福を囁いた。
「調子に乗るんじゃないわよ!」
野太い怒りに満ちた声が海中に響く。振り込まれる豪触腕。そして身体を侵し続ける毒と狂気にイレギュラーズは幾度となく膝を折りそうになる。だが相手も限界は近いのだと、そう感じ取ったイレギュラーズは傷付く身体に鞭を入れ、手を休めずに武器を振るい続けた。
そして――
「逃げることなど出来はしません。
神の鉄槌をその身に受けなさい――!」
コーデリアの放つ聖なる弾丸が、イラクリオンの巨体を穿ち貫いた。
「おぉ……嘘よぉ……こんなことが~ぁ」
致命傷を負ったイラクリオンが、その巨体を引き釣り逃げようとし始める。その挙動をハイデマリーは待っていた。
「終わりであります――魔種」
海流を穿ち一直線に突き進む弾丸がイラクリオンの肥大化した頭を撃ち貫く。
「あぁ~、ルクレツィア様! もう一度そのお姿を……!」
それは確かな致命の一撃となって、イラクリオンの意識を――命を刈り取った。
「うぅ……しっかりと、止めを、確実に仕留めるんだお」
意識を取り戻したニルが指さす。そう相手はタコで魔種だ。一度の死を覆してきてもおかしくない。
「これで、終わりだよ――!」
叩きつけるように振るわれたメルナの斬撃が、間違いの無い止めとなって、イラクリオンの息の根を完全止めた。
「はぁ……しぶといカマでタコだった」
大きく息を吐き出したイレギュラーズは、そうして大渦に潜んでいた魔種イラクリオンを倒し、傷付く身体を引き摺りながら海面へと戻るのだった――
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
澤見夜行です。
ハードな依頼でしたが作戦が良く練られていて十分なものだった上、プレイングの殺意が濃密で、磐石の勝利といって良いと思います。
余裕があれば渦の調査をして欲しかったのがおしいところでした。ちょっと魔種に注目しすぎでしたね。
MVPは本当に非常に悩みましたが相談もがんばり索敵から切り札対策までしっかりとイラクリオンを見張ったコーデリアさんに差し上げます。
おまけで美少女で在る事を自慢するのが面白かったのでイリスさんには称号を贈ります。
依頼お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
大渦の原因調査が開始されました。
渦の中に潜む魔種との戦いが予想されます。
●依頼達成条件
魔種・八つ手触腕のイラクリオンの撃破。
●情報確度
情報確度はBです。
想定外の事態が起こる可能性があります。
●注意事項
この依頼に参加する純種は『原罪の呼び声』の影響を受け、反転する危険性があります。
また、この依頼ではパンドラの残量に拠らない死亡判定があり得ます。予めご了承の上、ご参加ください。
●八つ手触腕のイラクリオンについて
ヒョウモンダコの海種にして反転した魔種。『色欲』の『ルクレツィア』に惚れている。
タコの頭部そのままながら、ヒョウモンダコの特徴である小さな身体はそこになく、極端に大柄に成長した異常者。
回りの背景に合わせて体色を変化させ、攻撃時には毒々しい青色の斑点を浮かべる。
魔種へと反転したことにより、体内毒を自由に排出できるようになり、凶悪性が増した。
オネエ口調のヤバイ奴。
情報屋リリィのギフト及び遭遇することで把握できた情報は以下の通り。
・獄毒散布(神特レ特・特殊毒・麻痺)
特殊レンジ:中距離以下にいるもの全てに効果が適用される。
・触腕無双(物近範・崩れ)
・狂気拡散(物特レラ・狂気)
特殊レンジ:遠距離以下は全て射程となる。
イラクリオンの放つ獄毒散布は使用直後より、そのレンジ内全域にいるもの全てに『特殊毒』と『麻痺』の効果をもたらす。
この特殊毒は、至近距離にいるものに『致死毒』を付与し、近距離にいる者には『猛毒』、中距離にいる者に『毒』を付与する。
この特殊毒は、毒無効などのスキルによって無効化することはできないが、無効化スキルを持つ者に対しては効果が半減し、耐性に対しては効果が少量減少する。
麻痺は、無効化スキルや耐性で効果を打ち消すことが可能である。
これらの効果は、通常通りBS自然回復判定で消滅する。
この獄毒は再使用するのに一分の時間がかかるようだ。
ブロックやマークは有効だが、その軟体性の身体故に、イラクリオンに全力移動をされると抜けられてしまうので注意が必要だろう。
魔種であるイラクリオンは隠し持った力を持っているだろう。追い詰めたとしても気を抜くわけにはいかないはずだ。
●海中戦闘用スーツ・ナウスについて
この装置のお蔭で、特にスキルやアイテムの用意をすることなく、水中での戦闘行動が可能となります。
海種の方は着る必要はありませんが、着てもいいです。
●想定戦闘地域
大渦内古代都市の中での戦闘になります。
ある程度の広さがあり戦闘は問題なく行えます。崩れかけた家々や、壁などがあります。その他目に付く障害物はなく戦闘に支障はでないでしょう。
そのほか、有用そうなスキル(特に水中用)には色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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