＜クロトの災禍＞その災禍、通すまじ

オープニング

●ヴァンジャンス岩山にて
　ヘスペリデス。
　冠位魔種ベルゼー・グラトニオスが造り上げた最果ての地。竜種と人間の共存を目指した黄昏の領域だ。
　その花園は少しずつの復旧を見せており、ベルゼーの墓がある場所でもある。
　そして……そのヘスペリデスの北部、ヴァンジャンス岩山。
　ヴァンジャンス岩山は岩肌を曝け出した険しい山々が続き、ラサの砂漠地帯よりも荒廃している場所だ。
　そこに今、何かが訪れていた。
　終焉獣（ラグナヴァイス）。滅びのアークそのもので作られた獣達だ。
　真っ黒な象の如き姿をしているそれらは、まっすぐにヘスペリデスに向けて進撃している。
　ズシン、ズシン、と。地響きを響かせながら歩くその姿は、存在感たっぷりで。
　しかし、それすら霞むような何かがいる。
　竜種？　いや、違う。竜種と呼ぶには、あまりにも禍々しい。全身真っ黒のそれが元はワイバーンだったと聞いて信じるものはどれだけいるだろうか？
　そう、これこそは滅気竜。
　覇竜領域の亜竜が滅びのアークに触れて変化した存在だ。
　だが、これは……強い。間違いなく強い。恐らくは竜種には及ばずとも亜竜の域を遥かに超える力を持っているだろう。
　そんなものが、終焉獣たちに同行している。なんということか。なんという戦力か。
　こんなものが攻めてくるとなれば、普通は破滅を思う。しかし、それでも……屈するわけには、いかないのだ。

●終焉獣を食い止めろ
「すでに話は聞いていると思うです」
【旅するグルメ辞典】チーサ・ナコック (p3n000201）は集まった面々を前にそう声をあげた。
　冠位魔種のバランス変化により終焉（ラスト・ラスト）と呼ばれる『影の領域』の動きが活発になったと終焉の監視者『クォ・ヴァディス』より連絡があった。
　それらは隣接するラサ、深緑、覇竜へとその姿を見せ始めたのだそうだ。
　そしてそのうちの一部が今、覇竜のヘスペリデスへ向けて進撃してきているのだ。
　その内訳は終焉獣たちと、それに同行する竜種モドキが１体。
　滅気竜とでも呼ぶべきそれは明らかに滅びのアークの影響を受けている。
　その実力は……その姿に見合うだけの凄まじいものがあるだろう。
「とんでもないことになったね。一難去ってまた一難……とでも言うべきなのかな」
　『【星空の友達】／不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン（p3p000916）にチーサは静かに頷く。
「確かにその通りです。ですが、今回ばかりはその難事に希望もあるようです」
「希望？」
　ヨゾラに頷きながら、チーサは１つの姿絵を示す。それは、現場に向かって飛んでいったとされる竜種の姿だ。
　恐らくは星種『アリオス』と思われるその竜種は、黒い身体と青い角が印象的だ。
「『蒼光竜』ドランキュラス……大きさは家一軒程度。今回の事態に何か思うところがあるのだと思われるです」
　今となっては竜種は敵ではないが、味方とも言い難い。
　けれど、ドランキュラスが今回の事態に介入してくれるというのであればかなり心強いのは間違いない。
「上手く事態が推移すれば、戦いの難度も変化すると思うです。頑張ってくるですよ」

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●災禍がやってくる
「ヘスペリデスでの事件が一段落したら、今度はヘスペリデスが攻撃の対象になるなんてね……ラスト・ラストから終焉獣たちが来たのがなにかの企みか、それとも抑えきれずに広がってきたのか……理由によっては警戒の仕方も変えないといけないかもだね」
　『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル（p3p000649）の言葉通り、これが侵攻なのか偶然なのかは分からないところだ。
　しかし問題なのは分からずとも対処しなければならないということであり……それが相当に激しい戦いにならざるを得ないということだった。
「まだ傷の癒えてねぇヘスペリデスを襲おうとはいい度胸してんな、返り討ちにするぞ」
　『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング（p3p001219）も此方に向かってくる終焉獣たちを見てそう吐き捨てる。
「コャー、滅気竜、ただの亜竜がとんでもない事になるあたり、滅びのアークって大概ねぇ……強さが竜種並という事は終焉獣も合わせて我々だけだと手に負えない感じだけれども、今回は力強い味方がいると聞いて」
　『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ（p3p008299）が見上げた先には、何やら丸っこい竜種が飛んでいる。
　『蒼光竜』ドランキュラスだ。可愛らしい姿だが、竜種らしい巨体だ。性格も決してかわいいものではないだろう。
　しかし、それでも見た目は可愛い。
「あれなるはドランキュラス。既にかわいさでは向こうに対して完勝と言っても良い気がするの。仲良くなれるようにがんばるのよ」
「ドランキュラスさん、猫みたいで可愛……すごいなぁ…！　僕等もラグナエレファントを全部倒せるよう頑張るよ！」
「勝手にすれば？」
　上空のドランキュラスからはそんな声が降ってくるが、そんなドランキュラスに胡桃と『【星空の友達】／不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン（p3p000916）は軽く手を振る。
　とはいえ、ドランキュラスとは仲が良いわけでもない。戦闘時に迂闊に近づけば攻撃に巻き込まれるのは確実だろう。
（全く。フレンドリーファイアを厭わない相手は友軍とは言わないんですよ。――なんて、竜域の娘たる同志ユーフォニーの前で口にしたら怒られそうですね）
　『本と珈琲』綾辻・愛奈（p3p010320）はそんなことを考えながら『相賀の弟子』ユーフォニー（p3p010323）に視線を向ける。
「どうしました？」
「いえ。今回も……楽な戦いではないですね」
「ええ、でも……何度だって護ればいいだけ。さあ、行きましょう！」
　そう言うユーフォニーはドラネコのリーちゃん召喚かつ、感覚世界使用で五感共有していた。
　ユーフォニーの認識可能範囲外へ巡回してもらい索敵しようというのだ。
　『ノットプリズン』炎 練倒（p3p010353）もドランキュラスに視線を向けながら呟く。
「竜種であるドランキュラス殿と同じ戦場で戦えるとは実に光栄であるな。滅びのアークに触れてワイバーンが竜種並みの存在になるとは実に興味深いであるな、出来ることなら鱗の一枚でも拾って調べたい所であるな」
「猫っぽいっといっても、こんなにでかい猫はいないっスからねぇ。取り合えず、うちにいるドラネコは連れてきたっス。流石に危ないから戦闘中はどこかに隠れさせておくっスけど」
　『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール（p3p010380）の言葉にドランキュラスが反応した気がしたが気のせい……だろうか？
　何はともあれ、こちらに向かってくる地響きは間違いなく終焉獣たちのもので。
　飛んでいくドランキュラスの一撃が、戦いの合図を告げた……！

●叩き潰せ、終焉
「たまにはドラゴニアっぽくブレスを吐いてみるっ……熱冷たいっス！！」
　ライオリットの逆理が放たれ、象型の終焉獣……ラグナエレファントへと命中する。
　最初に使っておいたSSSガジェット3.0bと彗昴による強化は出来るだけ切らさないように。
　そして集団を攻撃するからには、味方を巻き込まないように。
　敵の攻撃をしのぐためにドランキュラスを壁代わりに使うことも考えていた。
　勿論、あからさまにやると好感度が下がりそうなので最後の手段ではあるが。
「ドランキュラス殿が滅気竜と戦っている間に吾輩達で他の終焉獣を相手取って戦うである」
　そして練倒はタンクとしてラグナエレファントを引き付けるため、竜核活性・竜気の効果を活用しながら名乗り口上を響かせる。
「中々の巨体と数であるが吾輩のこのインテリジェンスに裏打ちされた肉体で見事押しとどめてくれようである」
　そして更にドランキュラスの攻撃に巻き込まれない様に、かつ間に終焉獣が入るように位置を調整するのも忘れはしない。
　そう、ドランキュラスの攻撃は広範囲を無差別に巻き込むようなものではないが、少なくとも攻撃方向にあるものは容赦なく吹っ飛ばすものであるように見える。となれば、立ち位置の調整は細心の注意さえはらえば難しいものではないように思える。
「ハッハッハ！　弱い、弱いぞお前！　やっぱり所詮は偽物だな！」
「ギアアアアアアア！」
　そのドランキュラスは、滅気竜相手に青い光線を放っている。恐らくは「収束砲撃」とでも呼ぶべきものなのだろう。
　比較的若い明星種『アリオス』のはずだが、やはり竜種ということだろう。その実力は凄まじいものがある。
「あれならお任せしても大丈夫そうですね……！」
　ユーフォニーもそう言いながら彩波揺籃の万華鏡を発動させていく。
「大好きな地を害するひとに容赦はしません……！」
　終焉獣相手に油断などあるはずもない。迎え撃つ準備を万全にするため、ユーフォニーはドランキュラスの邪魔にならない範囲で迎撃地点最前線に立ち、敵が射程に入る前にソリッド・シナジーと勇気を灯す色を使用してもいた。
　移動時に必要な時、低空飛行をするのもその一環だ……時折ドランキュラスさんの攻撃予備動作を確認もしていたが、それが分かれば出来ることもあるだろうとユーフォニーは考えていた。
（それが分かればドランキュラスさんの攻撃に巻き込まれない効率的な位置取りをして勝手に連携とかできるかもです）
　実際、ドランキュラスの攻撃は特徴的だ。実際にチャンスさえあればそれも出来るだろうとユーフォニーは思う。
　そう、万一ドランキュラスがピンチの時は庇うこともユーフォニーは考えていた。勿論共闘を簡単に出来るような相手ではないし、かばえるのかどうかも不明だが……そんなものは関係ない。
（何と思われていようとも、大好きな覇竜の地の住人で、いま一緒に覇竜を護る仲間だから）
　竜種と争う理由はない。そんなユーフォニーの考えを、愛奈も尊重する。
（ラグナエレファントを蹴散らすまでは同志ユーフォニーの直掩です。戦況も上々、これなら……！）
　発動し維持するのはルーンシールドとマギ・ペンタグラム。これは最優先だ。
　そして愛奈の役目は範囲攻撃をバラまくユーフォニーに殺到するであろう敵へ抑えを行うことだ。
　桜花破天を牽制としてバラまき、こちらに来るとめんどくさいと認識させようというのだ。
　勿論、相手は終焉獣。めんどくさい程度では来るのは当然。だからこそ、それに対する備えだって用意している。
大丈夫、貴女は絶対に傷つけさせません。やっておしまいなさい同志……！」
「はい！」
　そんな中、胡桃もできるだけ数を減らすのを優先する感じで立ち回っていた。
　方針としては、ドランキュラスが滅気竜との戦いに集中できるように、邪魔にならないように注意しながら周りの終焉獣を片付けていく感じである。
「終焉獣も数が多い上に強そうなの、油断しないようにするの」
　そう仲間に呼びかけながら、らいとにんぐすた〜りんぐを胡桃は放つ。
　ラグナエレファント。その巨体はそれに見合う攻撃力があり、一切の油断はできない。
　SSSガジェット3.0bにあふた〜ば〜な〜も忘れてはいない……出し惜しみ出来る相手でないことは、これ以上ないくらいによく理解できるからだ。
「全くここに来ると黒いモンスターばかり湧いてくるな、風情もへったくれもありゃしねえ」
　だからバクルドも一切油断しない。ドランキュラスと滅気竜との戦闘範囲とラグナエレファントの分布を広域俯瞰で確認し、ラグナエレファントの殲滅に集中できるような位置取りをしていた。
　そんなバクルドが放つのはマグネブラストからのラフィングピリオドだ。
　とにかくダメージを稼いでいくつもりだが……あの巨体は中々に脅威だ。
「象は足の裏がかなり繊細だと聞くがこいつらにそれは期待できんか」
　元々滅びのアークそのもので作られた獣達だ……普通の生物の法則が通じるともバクルドには思えなかった。
　だが、それはそれだ。バクルドにとっては多少の違いでしかない。
「どこにいようが見逃さねぇよ、一匹残らず鏖殺だ」
「その通りだね。呑み込め、泥よ……漆黒の象を全部飲み干せ！」
　ヨゾラもラグナエレファントを狙い星空の泥を発動させていく。戦うだけではなく手が足りなければ回復に回るつもりでもあり、その辺りの状況把握はしっかりやっていくつもりだが……今のところはこちらが優勢。予想外の出来事が起こらなければ問題は無さそうにヨゾラには思えていた。
　そしてそれはそれとしてヨゾラはドランキュラスに対しても興味津々だ。
（ドランキュラスさん、猫みたいで可愛いなぁ。大きさは……一軒家以上かぁ。ラグナエレファントより大きい……大きい猫……いや竜種！）
　勿論戦闘に集中しながらではあるが、興味はつきない。前回の騒動のときには見かけなかった竜種だから……というのもあるだろうし、猫っぽいのもあるからだろうか。
（青い光球からレーザー撃ってる、すごいなぁ。僕もあんな風にレーザーどーんって撃ちたい。ねこビーーーーム！　的に。……だめ？　どうかなあ？）
　とにかく、第一目標はラグナエレファントとの戦闘と撃破。滅気竜と戦うドランキュラスの支援を第二目標に定めている。
　アクセルも広域俯瞰で敵味方の位置関係を把握して、特にドランキュラスの攻撃範囲に味方が入らないように注意していた。
（巻き込まれたらひとたまりもなさそうだし、敵の敵ってだけで完全な味方じゃないからこっちに矛先が向くようなこともしたくないしね）
　好感度はまだそんなに高いわけではない。だからこそアクセルは神気閃光を放ちながらも、そこに注意していた。
　そんなアクセル自身は後衛の距離で攻撃や回復を混ぜて味方がやられないように臨機応変に動いていく。
　とにかく安全なラインをしっかり設定した上での戦闘は危なげなく進み……そして最後のラグナエレファントが倒れたとき、滅気竜もドランキュラスによって倒されていたところだった。
「わあ、流石だね……」
「うん、すごいね！　怪我もないみたいだし……！」
　アクセルにヨゾラもそう同意するが、かなり一方的な戦いだったのは見ても分かるほどだった。
「わたしもドラネコの味方なの」
「一緒に戦ってくれてありがとうございます！　……伝わるかな？」
「ドラネコの魅力が分かる奴はいい奴だよ。まあ、さっきの戦いも多少は見るところはあったかな」
　アピールする胡桃とユーフォニーにドランキュラスも頷くが……なるほど、ドラネコが好きなのは間違いないようだ。
　だからライオリットもドラネコをコミュニケーションツールに会話を試みていた。
「香箱座りって前足が変阿呆に曲がるっスけど、あれって疲れないんスかね」
「アレは利があってそうしてるんだ。そういうもんなんだよ」
「そうなんスね」
　非常に気の抜けた会話だが、それでいいとライオリットは思う。
（こんな、とりとめのない感じの話をするだけでも十分っス。今後、協力できるきっかけさえつかめれば、それでOKっスからね。今回はそのための第一歩っス！）
　そう、今はこのくらいでいい。そんな会話を少しした後、ドランキュラスはふわりと高度をあげる。
「今回は共闘したけど、別にボクはお前らが困ってようと何してようとどうでもいいからな。そこは勘違いするなよ」
　そんなことを言いながら何処かへ飛んでいくドランキュラスを見送ると、ヨゾラはほうと息を吐く。
「アルテイアも興味深いけどドランキュラスさんも可愛……もとい興味深い。また会えると良いなぁ」
「しかしまあ。あちらこちらでこんなのが湧いてきて、今は手が足りてるがずっと続くとなるとまずい事になりそうだな」
「コャー。どこもかしこも手が足りないの」
　バクルドと胡桃もそう言い合うが……まさにその通りではある。あるが……今は、こうして平和を取り戻せたことを、喜ぶべきなのだろう。
　そう、この手には確かな勝利があるのだから。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました！