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シナリオ詳細

<クロトの災禍>其は毀れず、命を刈り取る者なり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●終焉の気配、毀れずの軍勢
 魔種と呼ばれる世界滅亡の使徒、その頂点に存在する七罪。
 滅びのアークと呼ばれる滅亡の因子そのものである『人魔』ならざる者――『冠位魔種』。
 イレギュラーズはそれらを多く退けてきた。
 それらを打ち倒す事こそが、世界滅亡の回避の絶対条件であると信じて。
 激戦の果てに討ち果たし続けた七罪は既に残り2柱。
 その後ろには『原初の魔種』も待ち受けていようが――それはひとまずさておこう。
 終焉――それは世界の果て、西方に広がる影の領域。
 超終局的確定未来通称<D>とも呼ばれる世界消滅のために動く者の領域。
 地図にすれば世界の端にインクの壺を落としてしまったが如く広がる領域だ。
 終焉の監視者『クォ・ヴァディス』から入ったのはその領域の動きが大きくなりつつあるという情報だった。

 そこから文字通りの終焉の獣達、滅びをその身に宿す獣が姿を現した。
 『終焉獣』たちはラサ、深緑――そして覇竜へと動き出した。
 それらが冠位の撃破に伴う『バランスの変化』の結果によるものと考えるのは、状況を考えれば当然であるといえよう。

 だが――状況は『それだけ』ではない。
 砂漠に影が蠢いている。それは行進であった。
 圧倒的な速度で迫る軍勢は終焉の獣――ではなかった。
 濃い闇のような色を纏い、人型の怪物たちは『軍勢』となって迫る。
「――全剣王の名の下に、全てを切り伏せよ。我らは『最強』である。
 砂漠の郎党なんて、所詮は烏合の衆よ」
 軍勢の最前衛、大将に相当するであろう獣人の男はそう言って嗤っていた。
「進め!」
 獣たちは咆哮を上げ、砂漠を走り出す。


「はぁ……こうも忙しないといよいよ終焉が近いんだって分かるね」
 特殊な穂先の槍を担ぐようにしてイルザ(p3n000287)が1つ溜息を吐いた。
 少しばかりの疲労を隠さず、そっと額の汗を拭って、ぐっと身体を起こす。
「これもローレットの方々が着実に冠位を討ち果たしている証明ですよ」
 棒状の武器を片手に握る青年がくいっと眼鏡をあげて答えれば、イルザは頼もしいとばかりに笑った。
「そうだね……冠位がいなくなって近郊みたいなのが崩れたのかな?
 はたまた、形振り構わなくなってきたのか……どっちだろうね」
 そう首をかしげながら、たった今叩き潰した影を横目に見て。
「……そういえば、他にも注意した方が良い連中がいるらしいですよ」
「へぇ~」
「なんでも……『不毀の軍勢』だとか」
「不毀の軍勢……大きく出たね。自分達で不敗を宣言するんだ?」
「えぇ、事実、それらは自らを『最強』と名乗っているそうです」
「ふぅん?」
「何でも、『全剣王に従っている』とかいう話ですよ」
「へぇ……ん? 団長、今、なんて?」
 ぼそりと告げられた単語に耳馴染みを感じて、イルザは団長と呼んだ青年に振り返る。
「全剣王に従っている、ですか?」
「――全剣王? その話、間違いないんだよね?」
「私が嘘を言って何になるんですか?」
 眼鏡越しに睨まれてイルザは肩を竦めて。
「でも団長、さっきの話、教えてくれてありがとう。
 先に帰ってくれてて大丈夫だよ」
「貴女はどうするのです?」
「ん~。ちょっとね。ローレットに行ってみようと思う」
 じとりと向けられた視線を振り払って、イルザは走り出した。


「やぁ、皆、紅血晶事件ではお疲れ様。
 ほんとはお礼にオアシスで一杯――とでも言いたかったんだけど。
 どうにもそうはいかないらしくてね」
 挨拶をしてきたのは黒髪の女性だった。
「君達は『不毀の軍勢』って知ってる? なんでも、『全剣王』とか言う存在の部下――らしいよ。
 その上、自分達の事を『最強』だってさ。随分調子づいてるよね」
 イルザ(p3n000287)と名乗った女性はからりと朗らかに笑ってみせる。
「この全剣王って名前――これはさ、『ラサで聞くような名前』じゃないんだよね」
 そう言ってイルザは首を傾げた。
「僕と同じように鉄帝に生まれた人なら聞いたことがある人だっているんじゃない?
 全剣王は『ゼシュテル鉄帝国史上最強の皇帝』の異名なんだ」
 その発言に驚くものもあろうか。
 鉄帝国はこれまでそれぞれに『当代最強』が帝位に即く習わしである。
 それが理由で冠位魔種が帝位につくなどというとんでも事件まで発生したほどの『最強至上主義』だ。
 そんな国における伝説上の存在、『史上最強の皇帝』の異名。
「どうしてか、鉄帝の伝説上の存在の名を名乗る奴らがラサに現れるのか。
 わざわざその名乗りをあげて、自分達を『最強』だなんて吼える奴が、どれぐらいの実力なのか――気になるよね」
 ふふふ、と挑戦的に笑う彼女の姿を見れば、今回の依頼の内容も察しはつくものだ。
「世界滅亡に抗うのもそうだけど――せっかくだ、ちょっとさ、ぶん殴りに行ってみようよ」
 腕に覚えのあるラサの傭兵らしい、あるいは強者への挑戦心溢れる鉄帝人らしい挑戦的な笑みで笑った。


 ラサの砂漠を蹂躙する人型の怪物たち。
「――我らは『不毀の軍勢』なり。大いなる『全剣王』様の麾下にして不滅の軍勢なり!」
 そう高らかに告げたのは蒼白い炎を纏う獣人だった。
 同じく蒼白い片刃の曲刀を手に携え、そう語る男こそが子の軍勢の大将首だろう。
 見るからに軽装兵と分かるその姿は機動戦に特化しているように見えるか。
「道を開けろ、我らは最強なり」
「ふぅん? ホントにそう名乗ってるんだね」
 かと思えば、不意にイルザがからりと笑い始めた。
「史上最強の皇帝の、配下だって。しかも自分達が最強――だってさ、聞いたよね?」
 にやり、とイルザは笑ってみせる。
「――じゃあ、さぞ強いんだろうね。
 当世の英雄とどっちが強いのか、ぜひ手合わせしてみたいと思わない?
 あぁ、でも――雑魚過ぎたらどうしようか?」
 ラサの傭兵だからこそか、或いは鉄帝の血が騒ぐのか、ぱちりとウインクまでして、愉しそうに笑ってみせる。
 それでいて彼女の言葉には、こちらへの信頼がありありと映っていた。
「お前たちのようなノロマどもにこのナージ様が止めれるか!」
 そう、高らかに男が笑った。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 早速始めましょう。

●オーダー
【1】『不毀の軍勢』の撃破

●フィールドデータ
 南部砂漠コンシレラの一角。
 覇竜領域への交易路に存在する小さなオアシスです。
『不毀の軍勢』来襲の話が既に行き届いているのか、周囲に一般人は居ません。

 市街地戦となります。
 建造物の高低差や隘路、奇襲なども可能ですし、纏めてぶん殴れるような広場もあります。


●エネミーデータ
・『碧刃』ナージ
 黒いジャッカルの獣種を思わせる存在です……が、どこか滅びの気配のようなものを感じさせます。
 片刃の曲刀を握り、両手足と瞳、口元に青白い炎を纏っています。

 全剣王とやらに従う『不毀の軍勢』の隊長クラスです。
 当シナリオのエネミーではもっと手ごわいネームドではあります。

 非常に高い反応が特徴的な特化型物攻アタッカーです。
 しかしながらEXAがさほど高くはないため、意外と周りは悪いモノと思われます。
 また特化型ではありますが、同様に反応特化のイレギュラーズであれば先んじて動くことも出来なくはないでしょう。

【火炎】系列、【毒】系列、【痺れ】系列、【不吉】系列のBSを用います。

 近接単体攻撃の他、近列や近範などの範囲攻撃を用います。
 また、中距離へと青白い炎の砲撃を行うことも可能です。

・『不毀の軍勢』碧刃ジャッカル〔剣〕×10
 青白い炎を身に纏うジャッカルのような存在です。
 滅びの気配を纏い、剣を手にする前衛、ナージのノーネームド版。
 ナージ同様に高い反応速度で突撃を仕掛けて暴れまわります。

・『不毀の軍勢』碧刃ジャッカル〔拳〕×5
 青白い炎を身に纏うジャッカルのような存在です。
 滅びの気配を纏い、両手足に青白い炎を纏います。

 ナージに比べると幾分かEXAにも振った連中です。
 反面、単体攻撃のみを可能とします。

【火炎】系列、【不吉】系列のBSを用います。

・『不毀の軍勢』碧刃ジャッカル〔獣〕×5
 青白い炎を身に纏うジャッカルのような存在です。
 滅びの気配を纏い、目と口元に青白い炎を纏います。

 他の個体同様に獣種を思わせる姿こそしていますが、戦闘を開始すると四足で歩行します。
 神秘攻撃を主体とし、青白い炎を吐き出して攻撃します。

【毒】系列、【痺れ】系列のBSを用います。


●友軍データ
・『壊穿の黒鎗』イルザ
 鉄帝生まれ鉄帝育ちのラサの傭兵です。青みがかった黒髪をした人間種の女性。
 イレギュラーズとは数度に渡り共闘しており、皆さんの事はとても深く信頼しています。

 ラサで聞くとは思ってなかった祖国における伝説の『史上最強の皇帝』が軍勢。
『そんな相手、戦わないでいられないのが武人だよね』と皆さんを誘って交戦することにしました。

 穂先を魔力で延長させる特殊な槍を振るう距離を問わぬ神秘パワーアタッカーです。
 イレギュラーズと同程度の実力を持ちます。上手く使いましょう。

〔傭兵団『夜の導き』共通項〕
 イルザの属する傭兵団の傭兵達です。全員が人間種で構成されます。
 イルザに誘われて着いてきた傭兵達です。

・魔導師×5
【痺れ】系列、【乱れ】系列を使って補助してくれます。

・剣士型×3
 近接アタッカーとして前衛で戦ってくれます。
 【出血】系列を与える可能性があります。

・銃兵型×2
 遠距離アタッカーです。
 【足止め】系列のBSを与える可能性があります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <クロトの災禍>其は毀れず、命を刈り取る者なり完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月10日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)
花に集う
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
フローラ・フローライト(p3p009875)
輝いてくださいませ、私のお嬢様

サポートNPC一覧(1人)

イルザ(p3n000287)
壊穿の黒鎗

リプレイ


「気になる事は確かにありますが、今は被害を食い止める事が先決ですね」
 敵のことを考えながらも『花に集う』シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)はファミリアーを偵察に向かわせていた。
 指先に止まった小さな鳥との視線から迫りくる敵に対する最適を見定めておく。
「全剣王って奴に従ってる事が最強っつーのは少し疑問ではあるよな。
 意気込みとしては悪くねぇっスけど、あんま調子に乗らねぇこった」
 ボールを遊ばせながら、『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は小さく笑っている。
 俯瞰的に見た戦場の様子は脳裏に収められている。
「最強って言い切るあたりは結構な傲慢だね」
 そう言った『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)はちらりと戦場に宇s型を見せた友軍に目をやった。
「イルザさんや傭兵団『夜の導き』の人達とまた一緒に戦えるのが嬉しいな」
「あはは、それはこちらの台詞かもしれないね」
 そう言って朗らかにイルザが笑って槍を振るう。
「最強の軍勢だってね!」
 そういう『黒撃』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)にイルザも応じて笑ってみせる。
「ゼシュテル人を差し置いて最強を名乗るって事はケンカを売られるって事だって教えてやろうよ!」
「連中が本当にそうなのか、人んちの話を好き勝手に利用してるのかは知らないけど……まったくもって、その通りだね!」
 ゼシュテルの気風を覗かせ、2人はにこりと笑いあう。
「全剣王の軍勢か」
 寄せられる情報に聞き耳を立てながら『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は少しばかり考えるような様子を見せて。
「……数が多いし手数も豊富そうだ」
 聞くには敵の数は20を超えているようだ。
「これだけの数だ。率いている者には知性もあるはず……少しでも情報を手に入れて次に繋げたいね」
 ただで終わらせないと語るヴェルグリーズの視線は近づく敵の様子が綴られる地図に視線を落とす。
「史上最強の皇帝の、配下……そんなひとが、どうしてここに?」
 そう小さな声を漏らすのは『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)である。
「どんなに強いひとでも、どんなにすごいひとでも、誰かを傷つけていいはずはないのです。
 どうしてこんなかなしいことをするの?」
「そうだね、せっかくだから聞いてみたいところだね」
 ニルの話にイルザが頷いた。
「イルザ様たちがいるの、心強いのです」
「あはは、それこそ、こちらの話だよ。イレギュラーズがいてくれて心強いからね。
 ところで、君は今何をしてるんだい?」
 そう言ってイルザが首を傾げる。
「街は……誰かの帰る場所は、ちゃんとまもります。帰れなくなるのは、かなしいことだから」
「なるほど、そう言うことか……ありがとう。僕はその手の魔術が苦手でね……任せていいかな?」
 少しだけ申し訳なさそうに言うイルザに頷けば、彼女は「あとはよろしくね」と言ってその場を後にする。
 ニルはそれを見送り、ギュっと杖を握って更に結界を張り巡らせていく。
「終焉と、過去の伝説に纏わる存在……伝説の存在も、ずっと過去に終焉に囚われた、のでしょうか……」
 そう声を漏らしたのは『華奢なる原石』フローラ・フローライト(p3p009875)である。
「どうだろうね、後から呑み込まれちゃったのか、強さを追い求めるあまりに自分で足を突っ込んだのか。
 あるいは、生まれ落ちた時点から終焉(あっち)側の存在だったのかも」
 くすりと笑ったイルザはフローラへとそう答えれば。
「君のことは姉さん――ユリアーナ姉さんが鉄帝でお世話になったって聞いたよ。改めて、よろしくね」
 それだけ言って微笑むと、ふとどこかを見やる。それはきっと、迫りくる敵のいる方角だ。
「……頑張ります、ね」
「ふふ、僕も足手まといにならないように頑張らないとね!」
 少しだけ目を瞠ったフローラが小さく言葉を続ければ、もう一度イルザが楽しそうに笑った。
「……さて、そろそろお出ましだ」
 迫りくる砂塵を見据え、イルザがそう呟いた。


 蒼白い炎を纏う獣人が高らかに告げる。
 すでに町には多重に結界が張り巡らされ、生半可な余波程度では破壊などされることはない。
「不滅だろうが最強だろうが、名乗るだけの者に道を譲るかよ。ていうか滅亡の使徒なのに不滅を名乗るなんて随分変な話だな?」
 応じた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は剣を振るう。
「本当に最強ならば戦って示せば良い。
 伝説の威を借る獣がどれほどの実力か、確かめさせてもらうよ。さぁ、戦おうか!」
「ふん! 怖気づかぬことばかりは認めてやろう!」
 嘲るようにナージと名乗った男が笑う。
 奴が動き出すよりも遥か速く、イズマの斬撃は既に軌跡を描いていた。
「ナージの前に取り巻きから減らす。イルザさん、夜の導きの皆さん、よろしく頼む!」
 紡がれるカンタービレ、祝福のハーモニーが仲間たちに逆境を覆す力を降ろしていく。
「おっけー! せっかくの戦いだ、全力で遊ばないとね!」
 それに応じたイルザたちが楽しそうに笑う声がした。
「全剣王が果たして本人なのか、不毀の軍勢が果たして何者なのか……ここからは実際に戦って確かめてみましょう」
 エリスタリスの瞳にはひたと敵陣が映り込む。
 美しい紅の瞳に映る敵の景色は人型の獣、獣種――と呼ぶには少々、禍々しさが過ぎる。
「どれほどのものでしょうか――」
 伸ばした手が魔弾を作り上げ、ナージへ向けて迸る。
「!?」
 刹那、ナージの表情が変わる。正しくの瞠目がそこにあった。
 ありえないと、驚愕したばかりか、次いで浮かぶのは、怒り、か。
(いくら最速といえど、私より遅いということでしょうか)
「ふざけた連中だ、イレギュラーめ!」
 舌を撃ったナージが、すぐさま飛び込んだ。
 青白い尾を引いて走りこんできた獣種を思わす黒きジャッカルが斬撃を払う。
 しかしナージの斬撃はエリスタリスの守りを潜り抜けるには少々、軽すぎた。
「どうして、こんなかなしいことするの」
 ニルは杖を握りしめて、敵陣へと問うのだ。
 滅びの気配を纏う不毀の軍勢からの返答はない。
「ここで暮らすひとたちが、安心して戻れるように……負けないのです」
 優しく輝くアメトリンの光が戦場を包み込む。
 柔らかな光は滅びの気配を浄化するように敵軍を焼き付ける。
 眩むような光は滅びの運命を弄繰り回す。
「鉄帝最強の皇帝は確かに強敵かもしれないけれど、その尖兵となると……話は変わってくると思うけどね」
 そう告げるのはヴェルグリーズである。
「貴様、侮辱ということでいいな!」
 ぎらりとナージがにらむ。
「こちらもそう易々とやれるとは思わないでほしいな」
「ふん、今にすりつぶしてくれる!」
 激昂を聞きながら、ヴェルグリーズは剣を振るう。
(……とはいえ、勇将の下に弱卒なしともいうからね。油断はしない)
 振るう剣閃が描く斬撃は鮮やかに敵陣を抉り取っていく。
「イチバン強そうなキミ! オレとイッショにとことん殴り合おうよ!」
 そこへとイグナートが飛び込んで見せた。
 打ち込む栄光の一打はナージの剣によって阻まれるが、それで十分。
 熱を帯びる闘志がナージの注意を引き付けるには十分な時間だった。
「お前、良い目をしているな、このナージ様を最強と見てとはな!
 その見上げた愚かさに免じてお前も相手をしてやる!」
 青白い炎を纏い、ナージが応じるように剣を振り上げた。
 降りる剣を跳ね上げ、イグナートは敵の腕に楽しそうに笑ってみせた。
(『不毀の軍勢』……ナージは僕よりは速いみたいだけど……)
 動き出した用兵たちを見ながら、ヨゾラは魔力を高めていく。
「君も不吉系列使えるっぽいけど、耐える方は……どうかな?」
 ヨゾラは魔導書を輝かせながら不毀の軍勢へと術式を励起させる。
「――飲み込め、泥よ。混沌揺蕩う星空の海よ」
 翳された場所へと立ち込めるは星の海、瞬く光は星海に生まれ消えていく小さな生涯を思い起こすだろう。
 その生涯が終わりを告げることを呪うように、星空のような泥は敵軍の宿命を塗りつぶしていく。
(……実際に相対してみると、良くない雰囲気を感じます)
 フローラは敵の軍勢を見やり、思う。
「私が、支えますから。力の出し惜しみは不要、ですっ!
 皆さんも、慌てず、落ち着いて対処しましょう!」
 そう言って『夜の導き』の面々へと声をかければ、イルザが頼もしそうに微笑んだ。
「フローラさん、ありがとう! それじゃあ、早速行こうか!」
 それだけ言って、イルザが槍を一閃し、傭兵たちが動き出す。
 フローラはそれを見送った後、術式を展開する。
 美しき聖域が戦場の中ほどを塗り替えて、循環していく。
「口先だけの言葉に意味は無い。戦った結果が全てだ。……勝たせてもらうぞ!」
 イズマは愛剣を握りしめ、思いっきり一閃する。
 夜空を抱く鋼の細剣はその斬撃という名の音楽を奏でるものである。
 めぐる旋律は堕天の輪を描き、ジャッカルたちを取り囲む。
 線を引くように、演奏の終わりを告げるように横に振るった刹那、輪が縮まり、ジャッカルを切り裂いた。

 市街地の一角。
 ある建造物の屋根の上に立ち、葵は眼下を見下ろす。
「――この辺からなら狙えそうだ……んじゃ、その最強とやらの鼻っ柱をへし折ってやるっスか」
 少しばかり下がって、そのまま一気にボールを打ち出した。
 きついカーブを描きながら飛ぶボールはまさに弾丸と何ら変わりない。
 ありえない角度、ありえない位置から飛んだ弾丸が敵陣を一掃するように跳ねて踊る。
 暴れまわる愛球の跳ねり踊る様はさながら恐怖の劇団の様だろう。


 青白い炎を引き、敵軍が飛び込んでくるのとフローラは向き合っていた。
(……大丈夫)
 少しばかり深呼吸をして気持ちを入れる。
 飛び込む獣人のような謎の存在、それらへと一斉に砲撃が撃ち込まれてくる。
 吹き飛ぶ砂塵が髪にかかる。
 ふるふると頭を振って、顔を上げる。
「ごめんなさい、砂かかっちゃった?」
 傭兵の1人がそう声をかけてきた。
「大丈夫です……それよりも、ありがとうございます」
「後でシャワーを浴びないとね」
 フローラが聖域を展開させながらお礼を言うと、その傭兵は少し笑みを作ってから銃口を敵に向けた。
「……私の知っているとても強い人は、何よりも自分に負けない人でした。
 だから、怖れず、落ち着いて。私は自分の為すべきを為します」
 高めた魔力を光に変えて、仲間を癒すために注ぎ込んだ。
「炎が熱そうだったんでな、キンッキンに冷やしてやるっスよ」
 静かに告げるは葵である。
 遠く、ナージの姿はその場所からは明確に見えていた。
 ラサの砂漠に、夜が来る。
 そうと錯覚するが如く空気が冷たさを帯びていく。
 それは槍のように伸びる氷の杭が、いつの間にか作り上げられていた。
 放たれるフロストバンカー、白い冷気と塵が尾を引いてラサの陽射しに煌いた。
「全剣王とて伝説でしかないなら、その強さはハリボテだ。
 お前達は空っぽの名を借りてるのか? それとも全剣王が今に実在するのか?」
「ふ、愚かなことだ。知らぬとは愚かなことよな! 全剣王の実在を疑うとはな!」
 愛剣へと魔神の力を降ろすイズマの問いかけに、ナージが嘲るように笑った。
「それはいいことを聞いた」
 刹那、イズマの放った一閃が戦場を迸る。
 打ち出される斬撃は魔砲の如く戦場を統べ、絶対の凍気に呑み込んでいく。
「問題はありません。一気に鎮めましょう」
 エリスタリスは高い戦略眼を以って静かに戦場を見ると、そう静かに告げた。
 最早、戦場の不確定要素は存在しない。
 あとは、粛々とナージを追い詰めるだけに過ぎない。
 戦場を満たす風光の息吹が数的不利を物ともせず、仲間たちを癒していく。
「どうしてこんなことをするのですか?」
 ニルはナージへと肉薄し、改めてそう問いかけた。
「何の話だ?」
「どうしてこんなかなしいことをするの?」
「――弱き者は滅び、強き者は生き残る。自然の理よ」
 その言葉にニルは思わずぎゅっと杖を握りしめるものだ。
「それなら……ニルは、ニルはナージ様達を止めるのです!」
 ありったけの魔力を籠めた杖に輝くアメトリンの光。
 幾重にも重なる魔力の輪が集束を繰り返し、壮絶たる光を纏う。
 振りぬかれた一打がナージの身体を強烈に叩く。
「それで、全剣王とやらは今どこにいるか、何が目的かをキミは知っているかな?」
 ヴェルグリーズは剣を手に踏み込んでいく。
「ふん、知りたくば俺を倒してからにするんだな!」
「そうか――お望みどおりに」
 せせら笑うように答えたナージへと飛び込んだヴェルグリーズの手数は、ナージなどでは到底、及びもつかぬ。
 連撃に幾つかこそ対応できていたナージの手が動ききれず、伸びていくヴェルグリーズの剣が静かに暴かれた隙を撃った。
「オッケー、どんどんいこう!」
 応じるイグナートの溢れる闘志は周囲へとあふれ出し、仲間たちの士気を高め、集中力を高めていく。
 仮初なれど作り出された殲滅の兵団。
「腕は悪くないみたいだけど、最強にはまだトオいね!」
 挑発的に笑って見せてから、イグナートは拳を作る。
 高められた集中力と共に撃ち出した掌底は栄光の一打。
 鋭い一撃はナージの身体へと致命傷たる一撃を食い込ませる。
 それを割りこむようにしてヨゾラがその手に星の光を纏う。
「俊足な獣でもノロマな亀を甘く見れば負けるんだよ?」
 それは星空の極撃、魔術紋は鮮烈なる輝きを放ち、それはその手に抱く星明かりにリンクするように光を強めていく。
「吹き飛べ――夜の星の破撃(ナハトスターブラスター)!!」
 尾を引いて放つ夜空の光が強烈に輝きナージを呑み込んだ。
「後ろががら空きッスよ」
 葵はその刹那を見抜いていた。
 蹴り出した弾丸の如きボールが背後からナージめがけて駆け抜ける。
 鋭く伸びる魔球は回避など出来ようはずもなく、ナージの腹部を穿った。
 瘴気のようなものが、戦場へ吹き荒れる。


「キミの知っていることは全部、話していってもらうよ」
 ヴェルグリーズは剣をナージへと突きつけ、静かに問うた。
「鉄帝人としては、伝説の皇帝の話、気になるね! 本当に生涯無敗だったりするのかな」
 イグナートが続けてそう問えば、ナージが高らかに笑いだす。
「――知っていたところで、貴様らにいうわけないだろ! 俺を捕縛した程度でいい気になるなよ!」
 ナージは目を見開き、血走ったようにそう言葉を重ねた。
「全剣王とやらは、奴よりずっと強いんだろうね。警戒しないと」
 そう呟いたヨゾラの声が聞こえたのだろう、ナージがまたも高らかに笑った。
「ふふ、お前らがあの方の前で地に伏すのを見れぬのは残念だ――ァ!」
 中身のないままにそうナージは重ね――さらさらとほどけていく。
 瘴気に代わって、ナージは終わっていく。まるで、これ以上の『おしゃべり』はさせぬとでもいうかのように。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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