PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<信なる凱旋>氷菓なひととき

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●まだまだ暑いので
「ジェラートフェスティバルに行かない?」
 今日も熱いねなんてアイスクリームを口にしながら、劉・雨泽(p3n000218)がそう告げた。今も食べているけど、それはそれ。暑いのだから、いくらでも食べたい。
「シレンツィオ・リゾートで開かれるんだって」
 リッツパークでは帳が降りており、中央島の人々は避難している。――だが、こんな時だからこそ人々は『日常』を紡ぎ続けねばならない。不安に飲まれてしまわないように、ずっと前から準備をしていた楽しいお祭りを予定通りに行い、暑さも不安も吹き飛ばそうとフェスティバル主催は広報に力を入れていた。
 ――ジェラートフェスティバル。
 その日、そこには世界各地のアイスクリームが集まる。まさにアイスクリームの祭典と言えよう!
 シレンツィオらしい果実たっぷりのジェラートも、幻想のミルクたっぷりのソフトクリームも、ラサの伸びてもちもちとした食べごたえのアイスクリームも、豊穣へ入ってきたちょっとミルク感が少ないアイスクリンも……兎にも角にも様々な氷菓が一同に介するのだ。
「氷菓ですか。ええですの」
「因みに洋酒入りのもあるらしいよ」
「ほう?」
 まったく涼しくならない気配にこう暑くてはと口を開いた物部 支佐手(p3p009422)に、雨泽が追い打ちをかける。
「豊穣の米酒から作ったのもあるみたいで、それぞれ専門店があるみたい」
 酒造メーカーも絡んでいるらしく、酒の銘柄ごとに作った味わいの異なるアイスクリームやソフトクリームを提供している。
「全部制覇したいなぁ」
「雨泽……」
「……食べ過ぎには気をつけます」
 眉を寄せたチック・シュテル(p3p000932)の表情は「羽目を外しすぎないように」と告げているようで、雨泽はすぐに言い直す。
 でも。だが。しかしながら!
「いっぱい食べたい……」
 いろんな種類のアイスクリーム屋さんが揃うのなら制覇を……と思いたくなるものだ。交換相手を募ろうかなぁと、雨泽は諦めていない様子だ。
「あ、そうそう。夜はランタン行列みたいなのがあるんだって」
 受付があるからそこで参加費を払って参加申請をし、全員お揃いの丸い小さなランタンを手にパレードをするのだそうだ。
「ジェラートもランタンも楽しみだね」
 雨泽は興味あるひとはいないかなとローレットを見渡して。
 そうして声を掛けて回ってからシレンツィオ・リゾートへと向かったのだった。

●あいたい/あいたくない
「はじめまして」
 黒髪の男が、そう言った。黒い髪に、水色の瞳。人の顔を覚えるのは得意なほうだが、見覚えのない男だった。頬には縦二連の黒子。角のような紫水晶の飾り――
(……?)
 違和感を覚えた。
 どくんと心臓が跳ねて、唐突に喉が乾いたような感覚を覚えた。
 眼前の彼が笑みの形を作っている唇を動かし言葉を紡ぎ、『呼ばれた名』に息を呑んだ。
 どうしてとなんでが溢れていって、溺れそうだった。
「こうして会うのは初めてですね」
 男が笑う。人たらしという言葉を形にしたような表情で。
 世界がぐるりと反転したような心地を覚えた。……ちゃんと立てているだろうか、わからない。誰か呼んでいるのだろうか、誰か近寄ってきているのだろうか。それすらもよくわからなかった。限界まで見開いた瞳には眼前の男しか映っていなくて、聴覚は懸命に男の声を拾わんとしていて、それ以外を拾う余裕が無かった。
(どうして)
 色が違うのか。
 答えなんて解りきっているのに、否定したくなる。
(なんで)
 生きているのか。
 昨年末、その存在を、その死を、知ったのに。

「俺はずっと、君に会いたいと思っていましたよ、翠雨」

 ――雲類鷲・氷聖(うるわし・ひさと)。
 彼は雨泽の親族で、命の恩人である人だ。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 暑いのでジェラートフェスティバルに行きましょう。

●目的
 ジェラートフェスティバルを楽しもう!

●シナリオについて
 お昼すぎからお祭りに行きます! 色んな種類のジェラートの屋台が出ています。『ジェラートフェスティバル』ではありますが、アイスクリームも普通にいっぱいあります。
 遂行者が少しだけ現れますが、気にせずジェラートを楽しんで大丈夫です! が、同じ時間帯を指定して関わってもいいです。お話回なので攻撃しなければ危険はありません。

●フィールド:シレンツィオ・リゾート
 海を臨める大きな公園がジェラートフェスティバルの会場です。
 色んなところに屋台の形で出店していますので、自由に回れます。
 パラソルが立てられたチェアや白い木製のガゼボ等ありますので、休憩しながら頂けます。

●時間帯
 昼・夕・夜から1~2つ行動時間を選べます。(サポート参加はひとつ)
 行動時間を少なくした方が描写が濃くなります。(対話を望むと返答等が含まれるため、その限りではありません)
 また複数の時間帯を選択肢た場合、時間帯ごとの『交流』を選べません。(昼マルチなら、夜もマルチ)

●雲類鷲・氷聖
 遂行者です。氷菓みたいな人。
 今日はお忍びなのでしょう。信者を連れていません。
 支佐手さんもチックさんも「伝えない」を選択したようなので、「伝えてくれないなら会いに行きます」を実行。雨泽に会いに来ました。来ちゃった♡
 OPにある場面は未来の断片なので、皆さんはその日に会いに来ることを知りません。姿を見て近寄っても大丈夫です。他の人が来たら帰りますが、対話を望まれるのなら少しお話もできます。真実が返るかは解りませんが。「失礼ですね、俺は正直者ですよ」
 雨泽に会うことが目的なので、(会えたので)陽が沈みきる前に帰ります。

●劉・雨泽(p3n000218)
 本名は捨てました。呼んでも反応しません。(皆さんにはふたりの会話は聞こえていないので、基本的には知らないはずです。)
 昼間、あいすおいしー、はっぴー! いっぱい食べよー! でも暑いから日陰から出ない! 可愛い帽子も買った! 猫みたいな麦わら帽子! グラサンも買っちゃった。はっぴー!
 夕方、ひとりでいるタイミングで氷聖が現れます。どれだけ雨泽の側に人が居ても、必ず『ひとりでいるタイミング』が作られる仕様です。
 夜、心此処に在らず。当てもなくウロウロしたい気分。酷くショックを受けているようです。聞かれて、答えられる事は答えられますが、相手を選ぶことも多いでしょう。近くにいる人数によっては何も話しませんし、「ごめん、一人になりたい」と言うかもしれません。

 氷聖には会ったことがありません。
 昨年末存在を知り、過去の資料をあさって「縦二連の黒子、紫水晶めいた角」を持っていた人物に救われたことを知りました。
 因みに遂行者関連の報告書では、「遂行者にヒサトなる人物名の者がいる」程度の認識です。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時に活用ください。
 可能な範囲でお応えします。

●サポート
 イベシナ感覚で参加できます。
 可能な行動は『ジェラートフェスティバルを楽しむ』になり、遂行者等何か重い雰囲気な人たちには触れられません。そんなことよりアイス食べよう!!!!
 同行者さんがいる場合は、お互いに【お相手の名前+ID】or【グループ名】を記載ください。一方通行の場合は描写されません。
 シナリオ趣旨・公序良俗等に違反する内容は描写されません。

●ご注意
 公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害行為、未成年の飲酒は厳禁です。年齢不明の方は自己申告でお願いします。

 以下、選択肢になります。


《S1:時間帯》
 select 1
 あなたはどの時間帯を楽しみますか?

【1】昼
 にぎやかなお祭りの雰囲気と、青い空。
 アイスが溶けないように気をつけないと!

【2】夕
 夕陽に染まる海と心地よい海風。
 屋台にはポツポツと明かりが付き始めることでしょう。

【3】夜
 ランタン行列をやっているようです。
 可愛いランタンを購入して行列に加わることも可能ですし、ジェラート制覇を頑張ることも出来ます。


《S2:交流》
 select 2
 誰かと・ひとりっきりの描写等も可能です。
 同行している弊NPCは話しかけると反応しますが、他の人の行動によっては添った行動を取ることが難しい場合もあります。(【4】が優先されます。)
 いかなる場合でもNPCが動くと文字数が吸われます。

【1】ソロ
 ひとりでゆっくりと楽しみたい。

【2】ペアorグループ
 ふたりっきりやお友達と。
 【名前+ID】or【グループ名】をプレイング頭に。
 一方通行の場合は適用されません。お忘れずに。

【3】マルチ
 特定の同行者(関係者含む)がおらず、全ての選択肢が一緒で絡めそうな場合、参加者さんと交流。ソロ仕様なひとり完結型プレイングは難しい場合が多いです。

 夜、こちらの選択に雨泽は登場しません。

【4】NPCと交流
 おすすめはしませんが、同行NPCとすごく交流したい方向け。
 なるべくふたりきりの描写を心がけますが、他の方の選択によってはふたりきりが難しい場合もあります。

  • <信なる凱旋>氷菓なひととき完了
  • ジェラートフェスティバルで世界のアイスを堪能できます。
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC3人)参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
日向寺 三毒(p3p008777)
まなうらの黄
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで

サポートNPC一覧(2人)

プルー・ビビットカラー(p3n000004)
色彩の魔女
劉・雨泽(p3n000218)
浮草

リプレイ

●眩耀の氷菓
 広い公園に、沢山の屋台たち。
 暑さに負けない輝かしい声が楽しげに響き合うそこは正しくフェスティバル!
「……暑い」
 しかしその日は、もう初秋と呼んでもいいこの時期なのに、とても暑かった。公園内に幾つかあるガゼボのひとつに劉・雨泽は早々に引っ込んでしまった。
「手分けして氷菓を買うて交換するっちゅう話は、何処に行ったんですかの?」
 そんな雨泽の眼前に、アイスが差し出される。『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)だ。呆れたような物言いだが、せっせと親鳥のごとくアイスを運んでくれる彼はとても優しい。
「いやだって、こんなに暑いとは……」
 ブツブツと雨泽が呟くのは、自身の角のことだ。水晶に似たそれは熱伝導率が高い。笠を被っていたのは隠すためでもあったが、熱から守るためでもあったのだ、と。
「劉さん、麦わら帽子可愛いなぁ。はい、これも食べて」
「ありがとう、ヨゾラ。入り口近くの屋台で売ってたんだ」
 暑さ対策の麦わら帽子は、角が突き破らないように猫の顔。ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)からも三毛猫のような梨味にキャラメルとチョコが掛かったジェラートを受け取った雨泽は溶けないようにとせっせとアイスを食べる簡単なお仕事だ。
 ヨゾラが「さっき祝音君も見つけたんだ」と次のジェラート探しへと旅立って行くのを見送った。ガゼボの外は光に満ちていてとても暑そうだ。
「ほいで、おんしの評価は如何に?」
 せっせと運んでくれる支佐手と雨泽はアイスを分け合っている。様々な味を試すには分け合ったほうがいいし、アイス代は世話になる分雨泽持ちである。
「この餅みたいなの美味しいね」
「わしもこれが食感も楽しめて一等ええと思いました」
 夜は夜で限定の氷菓があるから、夜こそはちゃんと手分けをしよう。と、ふたりはアイスを消化していった。

 陽を遮るガゼボの中を、心地よく風が吹き抜けていく。
「冷たいものを特別おいしく味わえるのって、夏の楽しみのひとつよね」
「冬も練達の炬燵で食べるのも美味しいらしいわ? けれどこの穏やかな時間は夏特有ね。陽射しさえも心地良く思えたもの」
 手の内のアイスを小さなスプーンで掬っては口へと運ぶ合間にもジルーシャ・グレイ(p3p002246)とプルー・ビビットカラー(p3n000004)の口からはアイスへの賛美が零れ落ちた。
「はい、プルーちゃん。あーん♪」
「美味しいわね」
 口元へとお裾分けを運べば素直に受け入れられ、縮まった距離を感じた。
(後はお返しもしてくれたら嬉しいけど、そこまでは――)
「お返しをさせて頂いても?」
 ――え!?
「一口どうぞ?」
 差し出されるオレンジ・バーミリオンと笑みに、アイスよりも先にジルーシャの表情が蕩けてしまいそうだった。
(めぇ……回りきれるでしょう、か)
 アイスを手に会場内を歩くメイメイ・ルー(p3p004460)の視線はキョロキョロと忙しい。桃、苺、キウイにバナナ。シーソルトはさっぱりで……えっ、甘酒のアイスも!?
「めぇ、ひとつ下さい……!」
 くるくるロール型花束アイスにも惹かれつつ、メイメイはビスケットで挟んだアイスを購入した。アイスが溶けてビスケットが柔らかくなる前に、メイメイはサクッを堪能して羊耳をぴるぴる震わせた。アイスってなんでこんなに美味しいの?

●落陽の誘い
 暑い日差しの中、アイスが溶け切る前に忙しく食べていれば、あっという間に日は傾いていく。結構食べたねなんて満足そうに話し、帰っていく人だって多いわけだが――目指すは全種制覇! そう目標を掲げたのならば、時間は全然足りないくらいだ。
「えーい、隙あり!」
「わっ」
「びっくりしたぁ」
 次は何処へ行こうかとパンフレットのマップを覗き込んできた『恋揺れる天華』零・K・メルヴィル(p3p000277)と『漂流者』アルム・カンフローレル(p3p007874)の手元から、蝶のようにひらりと動いて蜂のように刺す動きでスプーンを動かした『心よ、友に届いているか』水天宮 妙見子(p3p010644)がジェラートを一口ずつ浚っていった。
「んん、零様のは変わったお味ですね」
「あっ、それ何味? 俺にも一口ちょうだい~!」
「ん? これはハッピーハワイアンホップ味、なんか炭酸風味のあるメロンソーダ―的な味だな」
「妙見子のも一口どうぞ♡」
 隙あり! なんて言って貰った妙見子だけれど、お遊びだ。色んな味を楽しむつもりで来ている三人は、違う味を購入してはこうして分け合っている。違う味を楽しめて飽きも来ないし、何よりこうしてワイワイと過ごす時間はとても有意義だ。
 けれどもいくら美味しくったって食べ続ければ腹が冷えてしまう。合間合間に休憩を取るのもアイスをめいっぱい楽しむためには必要だ。
「ふふ。じんわりと指先が温まって心地良いですね」
「そうだね。楽しさと美味しさで忘れがちだけど結構冷えていたねぇ」
「あ、ガゼボが空いてる。妙見子、座ったらどうだ?」
 妻帯している零はレディーファースト。ゆっくりとお茶とおしゃべりが出来る場所を見つけると真っ先に妙見子に薦め、妙見子もありがとうございますと微笑んでから「さあお二人も」と自身の両隣をテンテンと叩いて座らせた。
「恋バナとか……聞きたいんだけどなぁ~?」
 あったかいねとお茶をすすってひと心地。すると次にアルムから出たのがそんな言葉。甘いものを食べたのだから、甘いお話だって聞きたいよねぇ?
「恋バナ……」
「いいですね、恋バナ! 妙見子も好きですよ」
「そういえば零君って結婚してるんだっけ」
「あ、俺? そうそう結婚してんのさ、へへ、ほら」
 零の左手薬指で、夕陽がキラリと反射した。
「いいですねぇ、とってもお似合いですよ零様」
「奥さんのこと教えてよぉ! どんな人なの?」
「うちの嫁さんはもうまず……可愛い、なんだろう、見た目も言わずもがな一挙手一投足全部可愛い……多分どうあっても最終的に惚れると想うぐらいに可愛い。まぁ一緒にいるだけで落ち着くってのもあるし意外と攻める時は攻めに来るしもうなんだろう……月並みな言葉だが全部好きで……気づいたら惚れてたんだよな」
 すごい勢いで話してしまった事に気づき、零はお茶を飲んだ。
「妙見子君はいつも皆のこと支えたり護ったり……って立場だけどさ、いい人はいないのぉ?」
「妙見子は妙見子でなんか居そうだよな、アイツとは結局どうなんだ?」
「アイツ? え、ないない。ないです。普通に友人ですって」
「この前ダンスしてたけど、いい雰囲気だったよねぇ」
 覇竜の祝勝会でダンスをしていたのを見たとアルムが口にすれば、ええ……と妙見子は嫌そうな顔をした。
「友人同士でダンスってしないんですか? しますよね。普通ですよね? まあなんだかんだ気を許してはいますし、それにちょっと弱ってるところ見せれるのは彼だけなのは自覚しておりますが……うっ、言葉にすると恥ずかしいですね」
「そうかぁ。仲良しに見えたけどなぁ?」
「まあ男女の友情は成立するもんだし良いんじゃないか?」
 パタパタと手で風を顔へと送り、妙見子はぐいっとお茶を飲み干した。
「妙見子の話はおしまいです! 次はアルム様の番ですよ!」
「俺ぇ? 俺自身に浮いた話は全然無いんだけどぉ……」
 何せ召喚される前のことも覚えていないし、きっとこの世界の事もその内忘れてしまうだろうから。
「アルムには浮いた話がねぇのか、そいつは残念……」
「アルム様は……」
 何かを察して妙見子が口を開きかけたが、すぐに閉ざしてにっこりと笑う。これはアルムが自ら気付いた方が良いものだから、妙見子が口を挟むなんてナンセンスだ。
「前も言ってた『体質』を気にしているのか?」
「うん……」
「体質改善手伝うって言ったろ?」
 大切の人との親しい時間を失うのは、嫌だ。
 零が細君に対してそう思うように、妙見子が愛しい人に対してそう思うように、アルムだって――。
(ふたりのこと、忘れないで居たいなぁ)
 ちょっぴりしんみりしてしまったらまたアイスが食べたくなって、三人はまた明るく笑い合ってガゼボを抜け出した。
「ジェラート、ソフトクリーム、アイスクリーム、アイスクリン……シャーベットやアイスキャンデー」
「全部氷菓なのに名前が違って不思議だね」
「はい。ニルもどうしてって思いました」
 屋台に並ぶ名前を読み上げた『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)の声に雨泽が口を開けば、こくんと真面目な顔が頷いた。
「ニルはこれにしようと思います」
「じゃあ僕は空色のにしようかな」
 わけて食べれば、甘いアイスはあっという間に消えていく。
「よう、雨泽」
「やあ、三毒」
 楽しんでる? と『瞑目の墓守』日向寺 三毒(p3p008777)へと問う雨泽は、三毒の目からすると随分と浮かれ格好をしているように見える。両手にジェラート頭に猫麦わら帽子、そして夕陽でキラキラ輝くグラサンだ。
「随分と……なんだ、此処に馴染んでるな」
「僕、熱や光に弱くって」
 瞳の色素が薄いと眼に入る光の量が多く、眩しいのだ。なるほどとは思うものの、派手なものを選ぶのは雨泽の趣味だろう。
「しかしまァ、これだけあると迷うな」
「そうだねぇ、豊穣だと氷菓も甘味も高いから一堂に会することは滅多にないし」
 緩和されつつあるとは言え砂糖自体が高級なため、他の国のような甘さに触れる機会も少なめだ。
「少し一緒に回ろうか」
 雨泽は三毒が気に入りそうなジェラート探しの旅へと誘ったのだった。

 ――――
 ――

 眼前の男が微笑み、言葉を発した。
 何でも無いことのように感じられるのに、どうしてだろう。この誘いにのることは『いけないこと』だと感ぜられた。
 すぐに答えない俺に対し、男が言葉を重ねている。
 びゅうと海から吹いた強い風が帽子を浚っていっても、驚きから立ち直れていない俺の唇は震えるばかりで――

(あれ、は)
 ヨゾラと邂逅する度にジェラート情報交換をしながら会場を巡っていた『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は、見覚えのある姿を見つけて足を止めた。
 遂行者・氷聖だ。また何かしでかしているのだろうかと眉を顰め――人々の移動で彼がひとりではない事に気がついた瞬間、祝音は駆け出した。
(――いけない!)
 拍子に手にしていたジェラートが落ちてしまったけど、仕方がない。今は一刻を争う事態だと、自身の中で警鐘が鳴っている。
「劉さん……劉さん!? どうしたの、何があったの……!」
 駆けつけ、雨泽と氷聖の間に滑り込む。雨泽は幽霊でも見たように驚いていて、ぼんやりと「あれ、祝音?」とだけ返した。
「氷聖様……? どうしてこんなところに?」
「此処で何してる。まさか甘いモン食べに来たとは言わねェよな?」
 氷聖を見かけて駆けつけたニルと三毒も、言葉を鋭くする。
「……あれ、皆。……知り、合い……?」
 ぼんやりとした声を発する雨泽だけが置いてけぼりだ。何で皆、この人のことを知っているのだろう。
「また帳だなんだと悪さしようってんなら、このまま行かせる訳にはいかねェぞ。一人でふらふらと出歩くもんなのか? 遂行者ってのは」
「すいこうしゃ」
「雨泽様、大丈夫ですか? 氷聖様に何か言われましたか?」
 ニルはぼんやりと言葉を零した雨泽へ振り返り、彼の顔を見上げた。笑みで隠す余裕もないのか、その表情にはただ困惑だけがあった。
「おや。ふふ。俺も君も、随分と慕われていますね」
 アイスクリームを楽しみに来たと氷聖が言ったって、イレギュラーズたちは信じないだろう。だから氷聖は素直に「会いに行くと伝えたので、彼に会いに来ただけですよ」と微笑んだ。
「劉さんと……知り合い?」
「ええ。親戚の子なんです」
「じゃあ前のプールの時……劉さんが……」
「ハーミルから連絡を受けています。『ちゃんと飲んだ』と」
「貴様のせいか……!」
「……ハーミル様は何が起きるか知っていたのですか?」
「いいえ。『きっとあの子が気にいるだろうから』と勧めさせました」
 悪意の蜘蛛糸が張り巡らされているようだ、とニルと祝音は身を震わせた。ニルは利用されているハーミルへの思いと底しれぬ恐ろしさ、祝音は怒りで。
(コイツ……なんとも思っていないのか……?)
 氷聖の感情を探っても、三毒には何も知ることは叶わなかった。
「全てはこの世界のため。神の真意です」
 慈愛のみを表すその表情に敵意も害意もなく、彼が真実そう思っているのだと感じられた。
「翠雨。俺が『また』救ってあげますね」
 海へと沈まんとする夕陽を最後に瞳へ映し、氷聖は帰っていった。

●星芒の囁き
 氷聖が立ち去ると、雨泽の体がふらりと揺れた。
「劉さん……!」
「雨泽様! 具合がわるいのですか?」
「……大丈夫。悪くは……いや、悪いのかな」
 祝音の瞳から見ても雨泽の顔色の悪さは明確で、彼の心が酷く傷ついている事がわかった。氷聖は親戚だと言っていたから、親戚が遂行者だと知ってショックなのだろう。
(氷聖……貴様か……貴様が劉さんを……ふざけるな! 劉さんの楽しみを傷つけるな! 劉さんの心を傷つけるな!)
 ジェラートフェスティバルを楽しみにしていた姿を知っていた。それにあの日のプールで覚えた恐怖は未だに心から消えてはくれていなくて、祝音の心にふつふつと怒りが湧いた。汚い言葉を口に出さないようにぐっと奥歯を噛み締め、拳も握りしめた。眼前の彼に聞かせる言葉ではないから。
「雨泽様、ベンチに座りましょう」
「あっ、そうだね。劉さん、あそこのベンチに座ろう」
 雨泽の言葉を待たずにニルと祝音は彼の両手を引いて、雨泽も力無く彼らに従いベンチへ腰掛けた。
「氷聖様に何か言われましたか?」
 ニルはもう一度聞いてみる。
 雨泽は何も答えず――少し間を開けてからふたりに尋ねた。
「……彼は本当に遂行者?」
 少し震えた声が、信じたくないと告げている。
「……はい」
「うん……そう、だよ」
「そう、なんだ……」
「雨泽様……」
「……ごめんね。僕、ちょっと……よく、解らなくて」
「はい、雨泽様。だいじょうぶですよ」
 少しの間一人になりたいのだろうと察してニルは頷く。
「ニルは雨泽様の『おいしい』と思いそうなアイス、さがしていますね」
「僕もそうするね。猫さんのとか、見かけたし」
 雨泽が「また後で」と告げたから、ふたりはそっと離れていった。

「もし、雨泽殿」
「あ。支佐手……ごめん」
 夜限定の氷菓を巡ろうと待ち合わせの約束をしたのに、雨泽の頭からすっかりと抜け落ちてしまっていた。来ないから探しに来てくれたのだろうことを察して、視線が泳いだ雨泽に「ええんです」と支佐手は近寄った。
「何か……一族の人に会っちゃって」
 その一言だけで、支佐手には氷聖が来たのだと知るには充分だった。けれど雨泽が生まれの事を秘している以上、不躾に踏み入って良い領域とは思えない。
「雨泽殿」
「むぐ」
 買ってきていた酒精の入った氷菓を口へと無遠慮に突っ込めば、『そういう気分ではない』という視線を向けられる。
「ええから食べんさい」
 だが、知ったものか。泣きそうな顔をしているくせに。笑顔の仮面だって被れていないくせに。
「話すだけでも楽になると聞きます。話したくない事は、話さんでも構いません。無論、他言はしません」
「支佐手」
「……これでも一応、友達のつもりですからの」
 梅雨時に、雨泽が主へと告げた言葉を覚えている。
 雨泽は何度か口を開こうとして――言葉が纏まらないのか溜め息を零した。
「……もう少し、時間を貰ってもいい?」
 案じてくれている人たちが多くいることを知っているから、皆にも話すよ。
 話せるようになったら昼間のガゼボへ行くと雨泽は支佐手に約した。

 ――どこだろう?
 ふたり分のランタンを手にし、『雨を識る』チック・シュテル(p3p000932)は雨泽を探していた。雨泽が暑さを苦手としていることは知っているから、一緒に夜のランタンパレードを楽しもうと思っていたのだ。
(雨泽、居た)
 電飾を反射している赤い角を見つけ、駆け寄ろうとして――あれ、と足を緩める。
(なにか、あった?)
 どうしたのなんて聞かなくても解る。すぐに駆け寄りたい気持ちを抑え、驚かせないようにゆっくりと近付いて、近すぎない距離から「雨泽」と彼の名を呼んだ。
「チック」
 視線がランタンへと向かい、ごめんと首を振られる。
「今ちょっと……一人になりたくて」
 けれどチックは首を横に振る。
 一人になりたいという願いに添うべきなのだろう、とも思う。
 けれど辛そうにしている雨泽を一人にしておくことなんて出来なかった。
「雨泽、言った……よね」
 烙印の時のこと。あの時の雨泽の気持ちが、今、チックには痛いくらいに解った。支えさせてほしい。甘えてほしい。頼ってほしい。全ての思いを込めて「一緒に居させて」と告げれば、否定の言葉は返らなかった。
 チックは雨泽を散歩に誘った。人通りの少ない道を選んで雨泽の手を引いて、小さく歌声を灯すと彼はトボトボついてくる。
「チック」
「うん」
「あの角の人、遂行者だった」
 チックはもうそれを知っていて――けれどそれを雨泽に伝えない選択をしたから、少し間を開けてから「うん」と返した。誘われたのだろうことも察した。氷聖は雨泽のことを『俺のもの』と言っていたから。
「……翠雨は、雨泽は……どうしたいと思う?」
「俺は……」
 言葉が続かない。
 会いたくなかった。死んでいてほしかった。なんて、自分勝手な気持ちだろう。
「……あの人の元へ、行くの?」
「翠雨としての俺なら」
「おれは……」
 行かせない。そんな気持ちがチックの胸に湧き上がる。
 けれど雨泽は「でも」と続けた。
「僕は行かない。僕は雨泽だ。行かない」
「雨泽……」
 今雨泽の側に居る人たちは、雨泽が築いた縁だ。
「チックや皆の居る場所が僕の居るべき場所、でしょ」
 そうだねと返し、チックは雨泽の手をぎゅうと握りしめた。
 ――この手だけは絶対に離しはしない。

 時を経て、雨泽がチックとともにガゼボへ戻ってきた。
 三毒、祝音、ニル、支佐手、それからチックの顔を見て「そんなに心配しないで」と困ったように笑い、けれど案じてくれたことへ感謝の言葉を紡いだ。
 深呼吸を、数回。
「あの人、ね」
 紡ぐ声は小さくて、今尚どう言えばいいのだろうと言葉を探していた。
「僕の命の恩人……らしいんだよね」
 昔、幼い雨泽が悪意ある大人に捕まったこと。それが『九皐会』であること、そして一族の者がひとり犠牲になったおかげで雨泽の今があることを昨年末知ったこと。書類と、その角で。
(ああ、だから)
 支佐手は氷聖の言葉を思い出す。『俺のもの』という言葉は『俺が救った命だから』ということだろう。
「おいでって言われたけど」
 答えを返す前に祝音たちが駆けつけた。
 皆の言葉も合わせて今の状況を整理したくて、雨泽は一人になりたがった。
「僕は『誘い』には乗らないよ」
 真っ直ぐに全員の目を見てそう告げた。
 迷いはそこになく、言葉と瞳には一本芯が通って。
 けれどもそれはすぐ、へらりと崩れる。
「いっぱい考えたらまたアイスを食べたくなっちゃった」
「……全くおんしは。夜限定のを食べに行きますかの」
「さんせー! あ、皆が一番美味しいと思ったのも食べたいな」
 そこにあるのはもう、『いつも通り』の雨泽だった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

はっぴーあいす! 美味しいですね、アイス!
種類別アイスクリームなアイスが壱花は好きです。舌どけなめらかクリーミーで満足感を得られます。

氷聖に関する情報は<美しき珠の枝>シリーズと『百折不撓を成すは』に出ております。

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