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シナリオ詳細

<信なる凱旋>Revenge on Red

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●某所にて
 神託によって現れた四騎士、そして遂行者の旗色は決して良いものではなかった。彼らの苦戦はそれだけ神の国が遠ざかる事に直結し、許されざるものとなっている。
 イレギュラーズの活躍により騎士は次々と打ち破られ、信心深さに綻びが生じている。また、天義国内でも希望の光が差し込んだ事で反抗的な動きが強まりだした。
 しかしながらそれは強い衝突を生み、星灯聖典に属する者と天義の正しき信仰者の間に血が流れる事となる。
「神託を受け入れない愚か者どもが! 騎士様がお前達に天罰を下されるだろう!」
「何が神託だ! 騎士なんざローレットの相手じゃねえ。あいつらもただの人間、ぶった斬れば死ぬ程度のモンスターだったって事じゃねえか。みんな行くぞ! あの薄汚い聖骸布を引っ剥がしてやれ」
 白き騎士の勝利、赤き騎士の焔、黒き騎士の滅、そのどれもが成就できていない事実に星灯聖典の構成員も焦りを感じている。騎士の敗北は自身の信心深さや協力が足りなかった証明と悔い、その憤りをレジスタンスにぶつけるしかなかった。
 イレギュラーズの勝利に乗る天義の民は、遂行者や天使に手を出す熱狂さこそ持ち合わせていなかったが、星灯聖典とのパワーバランスは既に揺らぎつつある。

●黒を受け継ぎし者
「カザンが死んだ」
 少女が南の空を見上げ、一筋の涙を流した。
 黒騎士カザン、志を共にした騎士。海洋の地で戦っていた者。彼はこの国の邪悪を一層するべく、廃滅病という闇の力を身体に取り込もうとしていた。危険な任務を前にカザンは笑っていた。誰かがやらねばならない事を引き受けたのだ。
 少女にとってカザンは短い間だったが、父親代わりのようなものであった。カザンによって聖騎士グラキエスを知り、星灯聖典へ導かれた。行く宛のない孤児は黒騎士に教育を施されるとすぐに頭角を現す事となった。

「な、なあ! 市民なんかを相手にしている場合じゃないだろう! 私達は幻想にでも引っ越すからイレぎゅぶ」
 男の顔に聖剣が突き刺さる。邪魔はしないとでも言うつもりだったのか。信心深くない者はこれだから駄目だ、神の国を信じないどころか我らが天義から逃げようとは。これを物言わぬゼノグロシアンにした所でたかが知れている。
「また一つこの国は救われた。お前もこちら側ではないようだな……」
 事切れた男の妻が泣き崩れ、喚いている。少女には理解らない。神の国からの誘いを蹴ってこうなったのだから当たり前だ。あなたは悪魔ですかと聞いて肯定されればカザンだって、誰だって悪魔狩りを行うだろう。
 悪魔に寄り添うのだからこの女も同類だ。少女はつまらなそうに剣を突き刺した。
「おねーちゃん、どうして泣いてるの?」
 今起きている事を理解できていない子供が声をかける。悪魔に育てられた不憫な子だ。
 彼はまだこちら側に救う事ができるのだろうか。自分のように孤児になってしまった者、星灯聖典は信じる者を決して見捨てない。それが悪魔の子であろうと救済してみせる。
「リネット様、イレギュラーズがそこまで来ております。あまり時間をかけられては……」
「理解っている。キミ、名前は?」
 親の死体から目を離させるようにリネットが子供に問う。あのような汚物はこの子に見せてはいけない存在だ。
「セイル。おねーちゃんは天義の聖騎士様なの?」

 青騎士の役割は天戯に巣食う悪魔へ死を齎す事だった。当初リネットは大役に震えたが星灯聖典に貢献できると思うと勇気が湧いた。何よりカザンが微笑んでくれた事が嬉しかった。
「黒騎士様は……悪辣な神滅ぼしの魔剣によって討たれたと報告があります。強大な敵です、応援を呼ばれますか」
 レッド・ミハリル・アストルフォーン。赤毛の悪魔。こいつだけは許してはいけない。天義の浄化が終わったら地の果てまで追い詰めてやる。泣いて許しを請う口を斬り裂き、抑える手を斬り飛ばし、痛みに悶える顔を削ぎ落としてやる。憎い。絶対に殺してやる。
「応援は必要ない。お前たちは引き続き協力者を探せ。イレギュラーズはここで私が迎え撃つ」
「そんな! 私達も戦います! 奴らに太刀打ちできるとは驕りませんが……リネット様の盾ぐらいにはなれるはずです!」
 リネットの眼に再び涙がにじむ。私の為に彼らを死なせる訳にはいかない。カザンを失い、彼ら星灯聖典の仲間までも失ったら自分はまた一人ぼっちになる。独りで天義の裏路地を彷徨っていた時からだいぶ涙もろくなった。泣き虫になったものだ。
 これではいけない。青騎士とは彼らを導くもの、そして死の象徴なのだ。リネットは気を引き締めた。
「駄目だ、これは神の国が与えた試練なのだ。お前たちも同様に本来の役目を果たせ」
「くっ……! リネット様、ご無事で」
 副官の男が簡略化した祈りを捧げ、走り去って行く。
「誰にものを言っているのか、フォルミオーンの奴め」
「あの男の人はおねーちゃんの事が好きなんだね!」
 リネットは少年を小突き、優しく微笑んだ。

 師をも屠った悪魔に勝てるだろうか。いや、勝たねばならない。

GMコメント

●目標
 青騎士リネットの討伐
 セイル少年の救出
 天義市民の救出

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●ロケーション
 天義住宅区
 現場に到着する頃は昼です。
 多数の市民が取り残されています

●敵
 青騎士リネット
 突如現れた遂行者達を導く存在、青騎士の一人です。
 人々の選定や根絶やしを使命とする騎士です。尋常じゃない強さを誇ります。
 オーソドックスな戦法ですが、根絶やしの剣がきれいに刺さると一撃で持っていかれます。
 また、師から受け継いだ搦手も有するようで盤石の構えでも注意が必要です。

 リネットから致命的な被害を受けた場合、後述の『歴史修復への誘い』が判定されます。

●救出対象
 セイル
 選定中の少年です。親の死は星灯聖典によって隠蔽されました。
 一人で悪に立ち向かうリネットを英雄視しつつあります。
 時間がありません。

 天義市民 多数
 選定が行われていた住宅区に未だ取り残されている人々です。総数不明。
 星灯聖典の構成員やリネットに見張られ、身動きが取れない状態となっています。
 選定結果は不適合。何をされるかわかりません。

 ●『歴史修復への誘い』
 当シナリオでは遂行者による聖痕が刻まれる可能性があります。
 聖痕が刻まれた場合には命の保証は致しかねますので予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <信なる凱旋>Revenge on RedLv:40以上完了
  • 贖罪の時は来たれり
  • GM名星乃らいと
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年09月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
レッド(p3p000395)
赤々靴
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
赤羽 旭日(p3p008879)
朝日が昇る
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ファニー(p3p010255)
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

リプレイ

●邪眼
 不気味な静寂に一石を投じるように馬車が走る。
 『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が御者を務めるそれは天義の民にとって待ちわびた救いの手だった。すぐにでも飛びつきたい所だが、一人の少女によって阻まれている。人々を守りながらの混戦が予想されたが、蛇に睨まれた蛙のように不安げに、窓からこちらを見ているばかりであった。
「話が通じるのも多少はいたが星灯聖典を恐れて出てこようとしないな」
「うん、みたかんじ、てきも何人かはこの辺にいるから……しょうがないかも」
 『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)が周辺の建物を凝視しながら答える。巧妙に潜む敵の影を恐れ、先に飛び出した者から殺されるのではないかという想像に囚われているようだ。それもそのはず、人の気配が消えつつある路地でイレギュラーズに頼る事はあまりにも目立つ。何でもない距離でありながら窓の中と外、家と馬車の間は途方もない距離に隔てられているようであった。
「市街地戦はこれだから……! 戦いに専門職以外巻き込むなっての!」
「巻き込まれてる側は大人しい方だけどね。パニック状態よりはやりやすい」
 『朝日が昇る』赤羽 旭日(p3p008879)が愚痴を漏らす。損壊させてはいけない建物、人質、戦闘に向かない地形と考慮すべき点が多い。市街地戦などはそもそも起きない方が良い、そして起きてしまった事は『赤羽隊』でも対処せねばならない。対照的に、『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)に関しては現実的な目線で状況を分析していた。下手に暴れ、抗う姿勢を人質が見せた場合コントロール下に置く事が困難となる。だが、だからといって星灯聖典がそれを手にかけないとも言い切れない。裏の世界に生きる者として危険な空気、追い詰められている焦燥感をぴりぴりと感じていた。
「今まで戦って来た騎士たちは会話が出来ないとか会話が成立しないとかそういう連中ばかりだったんだが」
「ひどい印象ですね。私も思うところはありますが、あの人もある意味でそれなので。耳を傾けないと言う点では会話が成立しない騎士としましょう」
 青騎士リネットを前にしてファニーとシフォリィが呟く。戦うにはまだ早い距離と動向であったが、一歩一歩と近づくに連れて重苦しい空気が漂ってくる。空気が固体になりかけているような、そんな錯覚すら感じた。年下と思われる少女から発せられる強い殺意は遂行者ならではの、どんよりとした黒いものだ。何を目的として、何を信じていようとも剣で語るより他にはないだろう。
 一際その殺意を身に浴びた者がいる。『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)は海洋王国での任務を終えたばかりだが、そのまま天義へと駆り出される事となった。イレギュラーズが四騎士と各地で戦いを繰り広げている中、脅威を排除できた実績のある者は片っ端から投入しようという激務が見て取れる。
「黒騎士の次は青っすか……何かボクの方めっちゃ睨んでるんすけど。絶対なにか恨みを買ってるっすね?」
「レッドさんだけ狙ってるのならもう少し状況もシンプルなのだけどな」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が細剣の整備、最終確認を行いつつレッドの方を見る事もなく答えた。レッドはふくれっ面をしたり喚いたり忙しいが、レッド自身もそれは理解している事だろう。イレギュラーズ対エネミーの構図は勝率がぐっと上がる。少なくとも、戦闘そのもので犠牲者が発生する事は避けられるのだ。
「それじゃあ、そろそろ始めるか」
「ま、まだきょりがよくない、よ……?」
 リュコスがイズマに何か言おうとした時に爆音が鳴り響いた。
「聞け、星灯聖典! 今から俺達とリネットが戦って正義を決める! 勝者が神の認める正義だ。故に妨げるな、見届けろ! 死を齎す者と生を救う者、どちらが正義か今ここに示してやる!」
 リュコスはあまりの声量にひっくり返った。

●根絶
「そこの青いの! 無闇な殺傷はやめるっす!」
 レッドが青騎士リネットを指差す。青騎士も既にこちら側を敵として認知していただろうが、ついにファーストコンタクトを行ってしまった。ここから先はどうあっても戦いは避けられないだろう。
「来たな……悪魔どもめ。無闇だと? 神の国を脅かす悪、その芽を刈り取る崇高な使命を無闇な殺傷だと?」
 リネットの持つロングソードが青白い光を帯びる。神聖な気配を宿しているが何処かが違う不気味さ、人ならざる冷たさをシフォリィは感じ取っている。あれを受ければ一般人、傍らの少年はもとよりイレギュラーズですら危ない。そうなる前に、畳みかける。
 イレギュラーズは比較的離れた布陣を取る。8対1の構図であればそちらの方が何かと都合が良く、イレギュラーズの大半が市民の救助を念頭に置いているため自然とこのような立ち位置となっていた。
「馬車を粉砕する余裕はないと思いたい」
「その時はオレが何とかする。避難誘導しておいて一網打尽にされたら話にならねぇよな」
 ウェールとファニーが駆ける。雲雀やリュコスが念入りに偵察を行った結果、考慮すべきはリネットだけだ。イズマの啖呵に気圧されている星灯聖典の信者などは物の数ではないだろう。一人、二人と避難させれば途端にこの状況は打ち破られる。むしろこの後が問題であり、押し寄せる民へリネットの注意が向かないよう赤羽は祈った。

「導く?救う?ふざけないでくださいよ! 従わなければ死、共に行けば滅び。結局行きつく先は終わりでしかない!」
 シフォリィの放つ炎片がリネットを凄まじい速さで襲う。相手の出方を窺っている場合ではない。何が何でもここで食い止めておかねばならないのだ。だが一人でイレギュラーズに立ち向かってくるだけの事はあり、執拗に向かってくる炎の対処に追われながらも涼しい顔は張り付いている。
「滅ぶものかっ! 神は我々を見捨てはしない! 不条理な運命に翻弄された罪なき人々が、愛する者を失った者たちが救われる時がすぐ其処まで来ていると言うのに貴様たちはーっ!」
 動きを封じる幾重もの魔術、その一つ一つが綻びのないハイレベルなものであったがリネットの気迫はいつかそれを凌駕するだろう。優位に立っているはずのシフォリィは冷や汗をかいた。一歩も動かさないつもりがこちらも動けなくなっている。この猛攻を止めた瞬間には均衡が崩れる、そんな予感がする。
「どうしたっすか! かかってこいっす!」
 最前線でレッドが攻め立てる。地獄の爪がリネットを斬り刻み、次々と鎧に傷をつけていく。
「お前が、お前がカザンを殺した!」
「黒騎士カザン? あの卑劣な黒い悪魔がどうしたっすか? あなたもボクも同類っすよこの青い悪魔ぁ!」
 彼女と黒騎士の関係は分からない。だが黒騎士は間違いなく悪魔だ、どのような事情があろうとも廃滅病を再び世に解き放つ事など許される事ではない。彼を手にかけた事は認めるが、そこに落ち度があると認めてはいけない。
「お姉ちゃんをいじめるなーっ!!」
「しまっ……!」
 一瞬の出来事だった。リネットを守るように少年が立ちはだかり、攻撃の手が止まった。その隙を見逃す事なくリネットは猛毒の塗られたナイフを投げ、シフォリィの肩へ突き刺す事で速度を削いだ。傷は浅いが攻に転じるに十分すぎるほどの一手である。
「あれは不味いね、イズマさん。あの子を説得できなかったら俺がやるよ」
「あぁ。雲雀さんの出番がないに越したことはないが、やりすぎない程度に頼むぞ」
 悪者をやっつけたと喜ぶセイルをリネットは再び後ろへと位置させた。リネットに阻まれる形ではあるがこれを説得しなければ先ほどのような事態が何度も起こりかねない。
「セイル、もし不適合だったら君は納得するか? 選定は君の意志を無視する。実際にリネット達の選定で君は二度と親に会えなくなった。そんなの聖騎士じゃないだろう? 正義の聖騎士は悪魔などと言って人を見捨てたりしない! 手を差し伸べる俺達と救われる人々を見てほしい。悪魔狩りこそが悪魔の行為だと、君の目で確かめてくれ」
「嘘だ! お父さんたちは先に神の国でテツヅキとかいうのをやってるんだ! それまでお姉ちゃんが遊んでくれるはずだったのにお前たちは何なんだよ!」
 実に都合の良い作り話だ。神の国が降りた時にセイルが両親と再会できるとは到底思えないが、その再会の約束を公然と破った所でセイルには何もできないのだ。それどころか、イレギュラーズですらこの得体のしれない計画が成就された時に太刀打ちできるか不安なものがある。
「これはまた随分と嫌われてるな。どうする? 俺が搔っ攫っておくか?」
 赤羽が敵対してきた信者を撃ち抜きながら様子を見る。
「いや、あれは青騎士君の切り札だからね。赤羽君の速度でも早々誘拐はさせてくれないと思うよ」
 雲雀の誘拐という表現に何か反論しそうになったがやる事は確かにそうだ。そして、レッドとシフォリィが耐えている致死性の前線に飛び込む事はリスクが高すぎるように思えた。
「正義の味方が8対1で戦っているようには見えないか。これも英雄を描いた物語小説の弊害だな、仕方ない。強引な手で行こう」
「憎まれ恨まれ誤解されながら戦う、これじゃオレたちダークヒーローって感じだな?」
 ファニーが即座にセイルへと流星、不可視の魔力を叩きこもうとする。当然ながらリネットにブロックされるが、これを続けていくしかない。非致死性の攻撃とはいえこちら側が攻める事を決意した場合、リネットもいくらか守備に意識を割かなければならない。再び攻防のバランスが揺らぎつつある。
「リネットも、なにかかわいそうな気がする。けど、とりのこされた人たちはどうするつもり……?」
「知った風な口を利くな……!」
 リュコスが更に結界を張り、リネットの動きを封じようとする。リネットが受けているダメージは定かでないが、破邪結界アルトゲフェングニスの齎す本来の目的はもう果たすことができないようであった。シフォリィにしろ、リュコスにしろこの戦闘用魔術を使いこなしていない訳ではない。リネットの持つロングソード、根絶やしの剣がそれを物理的に切断しているようにも見えた。
「足止め仕切れる相手とは思っていなかったが、それでもやれる事はやらねえとな」
 ウェールが狼札より実体化した銃から高速の一撃を放つ。弓への対処であればリネットも容易に払いのけたが、奇妙な札から奇妙な形状の武器が現れ、それが思いもしない速度で弾丸を放ってきた事で反応が遅れた。
「雲雀さん! 今っす!」
「汚れ役の出番が回ってきた訳だね」
 難しい表情をするレッドに雲雀は軽く微笑み、閃光のもとにセイルを打ちのめす。この眩い光で命を落とす事はないが倒れた後の打ちどころまでは保証できない。ここぞとばかりに赤羽がセイルをすくいあげた。
「これでフェアな戦いになったとは言えねえが、あんたの切り札は一つ封じたぜ。ところでなあ、あんたは何回ごまかしてきた? 人の死を、あんたの都合で。それは喪失で、悼むべきことだってのに!」
 リネットは何も答えない。セイルを奪われたからか、赤羽が核心を突いたからか、これまでの鬼気迫る怒声が嘘のように静まり返った。これで素直に諦め、改心してくれるような相手ではない、遂行者とはそういうものだ。
「ど、どうしたっすか青騎士? ぷんぷん怒るのはやめたっ……皆避けるっす!!」
 レッドが静寂を打ち破ろうとした瞬間にそれは起きた。リネットの持つ剣が強く光ったと思うとイレギュラーズそれぞれの眼前に壁が現れた。レッドは状況を整理する、この壁は何だろうか。光って壁を出して身体を痛ませるなんて随分と奇妙な技を使ったものだ。しかし前が見えない、これは意外と厄介なものだ。
「おい! み、みんな起きろっ! ごほっ……」
 血を吐いているような音と共にウェールの声がする。段々と感覚が戻ってきた。これは壁ではなく地面だ。あの剣が光った瞬間に思い切り地面に叩きつけられたのだ。
 不可解な壁の謎が解けたあとは早かった。転がろうが何をしようが立て直さねば首筋に刃が突き刺さりかねない。何秒倒れていたかも分からないが、とにかく今は起き上がらねばならない。
「くそ……聞いてねえよあんなの」
 赤羽にリュコス、雲雀といった面々も同様にぼろぼろになりながら立ち上がる。この場を包む凶悪な閃光、避ける間もなかった。イズマにウェールが何とか踏みとどまり、リネットの動向を注意深く監視していたためトドメは刺されなかったが、半壊したといって良い危機的状況にあった。

「はぁ、はぁ……騎士と聞いていましたが爆弾魔でしたか? もう一度撃てば危なかったと思いますが……何度も撃てない大技ですよね。あの子がいたから使えなかったのでしょう?」
 シフォリィが痛む身体を押さえながら虹色の星を放ちリネットに抗う。驚くほどにきれいに命中し、青騎士も同様に倒れたがまるでばねのように機敏に立ち上がった。起き上がり方が重力や人体構造を無視したかのような動きでファニーはぎょっとした。
「ありゃ魔力で操られたスケルトンみてえな動きだ。あの剣が引っ張り起こしてるんじゃねえのか?」
 手元に意識を向ければファニーの推測は真実味を帯びる。最悪のロングソード、根絶やしの剣を振るうリネットは剣に付属しているだけの肉体という表現をするよりなかった。
「のっとられ、ちゃった?」
「暴走というべきか。気をつけろ、満身創痍とは思えない」
 リネットは体を屈めたかと思うとイズマを真っ二つにするべく飛び上がった。あまりにも隙が大きい攻撃だが、メロディア・コンダクターで胸を刺し貫こうともこの攻撃が止む保証はない。目に見える好機を逃す事に歯がゆい思いをしながら器用に受け止めた。イズマの消耗も激しいがパンドラの力で踏み止まれる者も限られている。自身を臨時の防壁として機能させるしかないだろう。
「良いのかよそんな荒っぽい戦い方で!」
 赤羽がその隙を回収するべく虚無の弾丸を何発か撃ち込む。ただでさえ表情の読めない女が意識まで飛ばしている、これほどまでに優れたポーカーフェイスもないだろう。魂を貫く霊撃が身体を突き抜けようともうめき声ひとつあげなかった。
「あーあ、完全にいっちゃったっす。本当にどっちが悪魔なんだか。その辺の建物も大変な事になってるじゃないっすか」
「ぼ、ぼくとウェールで建物かくにん……した。二人くらい、だめだったかも……」
 リュコスがよろめきながらリネットを睨みつける。身体がバラバラになりそうなくらい痛い、それでもこの人は許してはいけないのだと強く決意した。
「くだらない破滅願望の自殺に他人を巻き込んでおいて何が正義ですかっ! 貴女方のそれの正体は大義も何もない、逆恨みっていうんです! 貴女方のその正義は、からっぽで独りよがりです!」
 シフォリィが斬り込む。リネットの何処にそんな力が残されているのか理解できないが一撃、一撃と打ち込む毎に跳ね返す力が強くなる。このまま回復されるとまたアレを喰らいかねない。そうなる前に決着をつけねばいけないだろう。
「本当に爆発するのが好きな騎士っすね!」
 レッドは以前このような爆発を目の当たりにしていた。一般人を巻き込もうとした毒使い、黒騎士と関わりがある故にこのような手を使ってくる事は想像していた。していたが止める事も反応する事もできなかった。そして犠牲者を出してしまった事への悔しさと怒りが神滅の魔剣を強大なものとしていく。
「復讐は楽しいっすか! もちろん楽しいっすよね!!」
「パパを殺した剣だ」
 あどけない少女の声がした。誰もがまだ意識が残っていたのかと驚けばレッドは下腹部に鋭い痛みが走った。

 聖痕。

 何が起ころうとしているかを瞬時に理解する。悲鳴をあげる暇など存在しない。
 根絶やしの剣がびきびきと音をたて、異形のものとなりレッドを侵食しようとしている。こんなものに負けてたまるか、レッドはレイ=レメナーを振り下ろそうとするが力が入らない。このままでは不味い。
「同情はする。だがこの辺にしときな」
 ファニーと赤羽が無防備となったリネットを仕留めるべく弾丸を放ち続ける。鎧が吹き飛び、身体に穴が空く。
「ぐっ……ま、まぁ最期に一矢報いてよかったっすね……次はもっと良い人生を歩むっすよ」
「貴女たちの願う正しい世界は私たちにとっては正しくない世界……共存する事は不可能です。非がないとは言いませんが、貴女たちを誑かした邪悪は責任をもって討ちます」
 リネットとレッドに影がかかる。リュコスが準備を終えた第二の神殺し。神滅のレイ=レメナーは二本存在していた。
「きみのこと、よくりかいできなかったけどごめん、ね。でも、よげんや遂行者は、まちがってるんだ」
 二人を繋ぐ異形の剣、そして青騎士が焼き斬られる。決意が生んだ幻の二撃は決着を生む。
 信仰より生まれし邪悪なレリック、根絶やしの剣はびちびちと音を立てて汚濁した泥水へと変容する。

「このこも、きっと利用されてたんだ。ぼくは黒まくを、ゆるさない」
 一人の少女、一つの脅威が天義から消えた。
 リュコスはしばらくの間それをじっと見ていた。

成否

成功

MVP

リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し

状態異常

レッド(p3p000395)[重傷]
赤々靴
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)[重傷]
神殺し
赤羽 旭日(p3p008879)[重傷]
朝日が昇る

あとがき

ご参加ありがとうございました!

全員一丸となってリネットを止め続けるのであれば一般人の虐殺に狙いを変える所でしたが、手厚い救助活動でカバーされました。
また、セイルの説得に失敗した際のパワープレイも抜け目のない対策だったと思います。

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